ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
さて、どうなるかなぁ?
サーゼクスホテルに着いたはいいが、既に同じように集まっている生徒達が恐慌状態になっていた。
「どうなってんだよコレ! クーデター? テロか?」
「これ、大丈夫なの? 私達、大丈夫なの?」
「死にたくない、死にたくねえよぉ!!」
「ママ―!! いやー!!」
パニックを起こしている生徒や、泣いている生徒はまだましな方だ。
既に茫然自失になっていて、へたり込んでいる生徒だっている。
怪我人が出てねえのが奇跡だが、これってまずくねえか!?
「兵藤!!」
「匙か!」
匙が俺達に気づいて駆け寄ってくる。
見れば、少し額を切っていた。
「大丈夫か!?」
「こんなもんへでもねえよ。アーシアさんも、悪目立ちするから治さなくていいぜ」
「は、はい……」
匙は回復しようとするアーシアを止めると、煙が上っている京都市中心部を見据えた。
既に悲鳴はもちろん爆発音迄響き渡っていて、さらには一部で血の跡まで見た。
マジで戦争じゃねえか。こんなレベルの被害、まだ見たことがねえ。
今まで、曲がりなりにも表の世界に存在が漏洩しないように気を付けてきたってのがよくわかる。
そういうのを気にしねえと、ここまで被害が派手になるのかよ!
「どうするんだ、先生。すぐにでも生徒を連れて避難しなければ被害が増えるぞ!」
「わかってるが落ち着け! 相手方の配置がわからなけりゃ、下手すらそれ以上に被害が増えるぞ」
焦るゼノヴィアを押しとどめながら、アザゼル先生は眉間にしわを寄せる。
護衛の悪魔祓いたちも警戒を強めているが、それにしたって限度はあるな。
……しかし、生徒達が全員いるわけじゃないな。護衛もいるし、そう簡単に死んだりしないとは思うんだが……。
より戦闘の規模が激しくなれば、このホテルが倒壊する可能性だってある。避難するならできるだけ早くする必要があるんだが……どうする?
「お前ら! 最悪の場合は正体を明かして強行突破もありうる。覚悟だけはしておけ」
アザゼル先生がそこまで言うほどかよ。
「そうですね。転移で逃げたいところですが、どうやら転移封じを広範囲にわたって展開されているようです。これは、絶霧の禁手の結界装置でしょうか……」
ロスヴァイセさんがこっそり魔方陣を展開しながら、こっちも苦苦しげな表情を浮かべる。
くそ、学園生活の終焉も近いってのか? 流石にマジでヤベえぞ。
既に生徒会のメンバー達は、異形関係者の生徒達にも声をかけている。
結構な人数が集まってるな。二年、それも生徒会とオカ研抜いても結構いるじゃねえか。
「どうするッスか? やるなら早く狙撃ポイントに移動したいっす。後流石に護衛をつけてほしいっす」
「ちょっと待ってください。今探知結界を張って周囲の状況を確認―」
そう、ロスヴァイセさんが言ったその瞬間―
「ここにいましたか、九重どの」
その言葉に、俺達は一斉に振り返った。
そこにいたのは、明らかに妖怪だと分かる風貌の連中。
ドーインジャーはいないな。ヴィクターなら頭数はきちんと提供すると思ったんだが、もしかして独断か?
「貴様ら! 母上を誘拐した者達と手を組むとは、どういう了見じゃ!!」
「ちょ、九重ちゃん落ち着いて!! 危ないから下がって!!」
食って掛かろうとする九重を、桐生が慌てて取り押さえる。
その隙に、ネロが割って入ってその妖怪達を睨み付ける。
「……お前ら。ここに手を出すって事は、バチカンに喧嘩売るって分かってるのか!!」
「当然。南蛮のキリシタンどもは目障りなのでな。あのラファエルのエースを殺せば、聖書の教えも日本から手をひくだろう」
チッ! こちらの戦力もある程度分かってるってか!
「ようやく京の都で大手を振って歩くことができる。そう言う意味では、お前たちの失墜は助かったぞ」
「痛快だったしな。それを八坂のアバズレは、和議などとふざけた事を言いやがって」
そう言って下品な表情を浮かべる妖怪共は、それぞれ武器を構えた。
既に護衛の悪魔祓いと、生徒会を含めた俺達はいつでも戦闘できるように構えている。
まったく。どこにだって和平反対派はいると思ってたが、九尾の狐が反対派とは大事だな、オイ。
上等だ。こうなったら本格的に暴れてクラスメイトを逃がす時間稼ぎを―
「あー。ちょっといいですかねぇ」
と、間延びした声が聞こえた。
見れば、妖怪達の間に一人の見慣れたオッサンが立っていた。
「京都サーゼクスホテルってところ探してるんですけど、ここで合ってますかい?」
「ぁあん!? うるせえぞオッサン! 状況分かってんのか!?」
当然、妖怪達は怒鳴る。
あったりまえだ。状況分かってないと思えるアホな質問が、このタイミングで出てくればツッコミの一つも入れたくなるだろう。
もう殺してしまおうかという勢いで、妖怪達の殺気がそのオッサンに集まる。
「ついでだ! あそこの餓鬼どもと一緒にこいつもぶち殺すぞ!!」
「おうオッサン。こんなところにのこのこ来た、自分のあほさ加減を恨むんだなぁ?」
妖怪達はそのまま武器の切っ先を向けるが、それはまずい。
いや、そのオッサンがまずいんじゃない。むしろやばいのは妖怪達の方だ。
「……そうか。うちの国民、それもガキどもに手を出そうってか……」
その瞬間、オッサンの顔を妖怪達は確認した。
そして、すぐに反応して目を見開いた。
「ぁあ! こいつ、総理大臣―」
「うおらぁ!!」
その瞬間、上段回し蹴りがその鬼の顎骨をたやすく砕いた。
そしてその鬼が外にぶっ飛ばされる間に、狐と河童、そして化け猫が一瞬で拳の嵐によって叩きのめされる。
この間わずか二秒。文字通りの早業だ。
「……この国を預かる者として、この国の未来を担う若者達に危害は加えさせねえぜ、古狸共」
総理大臣、大尽統!!
この人超強いんだよな。相手がパニクってんなら神クラスすらぶん殴れる猛者だ。
すっげえ心強いけど、立場考えて!!
「こ、このじじぃ!! 百年も生きれねえ下等種がなにを―」
そうきれた天狗が刀を構えるが、横から錫杖を叩き付けられて悶絶した。
「……私達の前で総理に危害を加えようとは、ふざけてるわね」
そういって天狗を踏みつけた鈴女さんが、符をばらまいた。
自由自在に宙を舞う符が、倒れた妖怪達に張り付いて動きを封じていく。
それを確認して、鈴女さんは困った顔を総理に向ける。
「総理。お願いですからもう少しご自愛ください。 フットワーク軽すぎです」
「いいじゃねえか。どっちにしたってここがこの辺じゃ一番安全だしよぉ」
そういって軽く流した総理は、状況が呑み込めてない生徒たちに手を振ると、不敵な笑みを浮かべた。
「大丈夫か餓鬼ども!! 悪いが俺達も入れてくれや。ちょっと腹減ってよぉ」
と、まるでおなかがすいたから飯屋で相席するようなノリで、総理はずかずかと俺達に近づく。
そして、へたり込んでいた生徒の一人に手を貸すと、その頭をポンポンなでた。
「護衛の自衛隊も連れてきた。是で少しは安心していいぜ?」
「………ぐすっ」
その言葉に気が緩んで涙を流す生徒をもう一名だして、総理は後ろを向くと大声を上げる!!
「野郎ども! 何の為に今まで学校ですら金貰ってきたか思い出せ!! 仕事の時間だぞこの野郎!!」
『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』
その言葉とともに、完全装備の自衛隊員がホテルにばらけ、即座に防衛体制を整える。
「結界構成用の符、即座に展開します!!」
「狙撃班と機関銃班は屋上に移動! 不用意に接近する連中は即座に撃ち落とせ!!」
「装甲車はホテル周辺をカバー! ここを避難地点にするぞ!!」
少々手間取りながらも、手早く動く自衛隊員。
実戦経験こそないとはいえ、そこは世界各国でも割と優秀な訓練を積んでいると言われているだけあるな。こりゃ優秀だ。
しかも異能も高水準で使えやがる。これならドーインジャー程度なら返り討ちにできるんじゃねえか、オイ。
そして、あっという間に京都サーゼクスホテルは一種の要塞と化した。
その間わずか十分。俺達が唖然としている間だ。
恐るべし呪術大国ニッポン。軍事大国を名乗る日も遠くねえな。
「総理、一尉! 迎撃態勢完了しました!!」
「了解しました。其れでは第一種警戒態勢のまま待機。周囲の警官や機動隊に連絡を行い、ここを市内の避難拠点の一つとします。……総理、最優先に避難を」
「かまうな」
と、鈴女さんの言葉を総理は切って捨てる。
「まずは中部方面隊と連絡を取って、京都市内の敵の配置を確認だ。その後、難易度と重要度を比較して、五段階で避難体制をとり、その段階ごとに全員避難させろ。俺はこの学生達とひとまとめで避難だ」
「お、お言葉ですが総理! 現状のこの国は、総理無しでやっていけるとは思えません!」
「ご自愛ください! 国会がロキの襲撃の影響でガタガタになっている今、総理に何かあればこの国は崩れます!!」
慌てて自衛官が苦言を言うが、総理は首を横に振った。
「いや、俺達は国民を守る者だ。その国民を見捨てて真っ先に逃げ出せば、それこそ国を引っ張れなくなる。世論が俺達を認めねえよ」
「慧眼ですね、総理。……ですが、この国を背負って立つお方がむやみやたらにその身を危険にさらされても困ります。この場の救出優先度は、一段階上げさせてもらいますので、ご了承ください」
鈴女さんがそう厳しめにいう。
なんだが……これ、棒読みっぽくね?
総理もあっさりと受け入れたのか、小さく頷いた。
「その辺が落としどころか。……ただし、こいつらもまとめて避難させろよ? 出なけりゃマスコミが何か言ってくるだろうし、寝ざめが悪すぎて職務に支障が出るからな」
「了解しました。……総員! 直ぐに最寄りの駐屯地と通信を繋げろ!!」
「はっ!!」
即座に敬礼をして、自衛官達は周囲の警戒に映る。
……こりゃ、万が一のことを考えて、緊急避難用プランをあらかじめ用意してたな。用意周到なこって。
そして、総理と一緒に避難できるとわかって、全員少しだけだが冷静さを取り戻した。
「おっしゃ! 避難の段取り就けるから、ちょっと待ってな! 野郎ども、誰一人にも傷をつけさせるんじゃねえぞ!!」
『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』』
よし、これならだいぶ展開は安心できそうだ。
……問題は、この後どうするか……だな。
そして、ホテルの小ホールで俺達は会議をする事になった。
メンバーは自衛隊の分隊長以上と、アザゼル先生及びロスヴァイセさん。そして俺達オカルト研究部と生徒会。更に護衛団からリーダー格とネロ。
デュリオはどうやら、ホテルに辿り着けなかった学生達の保護に回っているとのこと。合流は遅れるらしい。
「俺、部屋を取った意味ないじゃん」
イッセーが少し落ち込んでるが、まあ気持ちは分かる。
なにせ、一人だけぼろ部屋に入れられたのに、そもそもの目的である会議が別の部屋で行われる羽目になってるもんな。そりゃ落ち込む。
ま、この人数なら仕方がねえ。本来なら少人数で会議する予定だったしな。これは流石に想定外の緊急事態だろう。
「とりあえず状況を説明するぜ。……無茶苦茶纏めると、裏京都の一部がヴィクター経済連合に寝返ってクーデターを起した」
総理が、一番重要な部分をまとめて説明してくれる。
そして、その隣に立っていた自衛官が一歩前に出た。
「クーデターの首謀者は、裏京都の副官ともいえる、九尾の狐の七夜と判明。どうやら八坂殿の誘拐も彼が手引きしたと思われます」
「七夜殿。なぜだ……」
九重が悲しそうな表情をするが、アザゼル先生はむしろ納得だった。
「まあ、各勢力の和議に反発する連中は多い。聖書の教えをがたがたにして、堂々と世界に名乗りをあげる機会を作ったヴィクターに、感謝の念を持つやからも多い。……あっちにつきたがる連中がいるのも想定の範囲内だ」
「元々こちらも容疑者の一人として怪しんでいました。そこで総理を一端避難させるつもりだったのですが、まさにそのタイミングでこのクーデターが起きまして……」
と、鈴女さんが頭を抱える。
「まず総理を避難させてから連絡するつもりだったのですが、敵の動きが思った以上に早く、京都市周辺は完全に包囲されています」
振動が爆音が響く中、鈴女さんはそう言って京都市の地図を出す。
全体的にマーブル模様の中、外周部と二条城の辺りだけは見事に真っ赤だった。
つーことは、赤いのがヴィクター経済連合か。
そして、アザゼル先生が説明を引き継いだ。
「現在、俺達で動かせる戦力全てを動員して、京都の奪還作戦を遂行中だ。クーデターを逃れた妖怪達も協力しているし、対異能者装備を整えた特殊作戦群と第一空挺団。そして異能自衛官を動かせるだけ総動員してもらってる」
「俺の救出っていう大義名分があるからな! 感謝しろよ、お前ら」
総理がちょっと偉そうでイラっと来るが、実際そうでなければこの迅速な総動員は無理だろうし納得するしかねえ。
自衛隊が戦力として換算できるのは、ロキとの一戦で分かってる。
ロキと捧腹が送り込んだ、数多くの混成部隊。それを半ば不意打ちに近いとはいえ、翻弄した自衛隊の戦力は本物だ。
ウツセミってのは色々と曰く付きらしいが、戦力になるなら頼りにするしかねえな。
さて、俺たちはこれからどう動くか……だな。
「とりあえず、俺達がどう動くかだ。……まずシトリー眷属はバチカンの警護団及び、自衛隊員と協力してホテルの防衛。救出部隊が来るまで、このホテルを死守しろ」
「「「「「はい!」」」」」
思わぬ大展開に少し緊張しながらも、シトリー眷属は元気よく頷いた。
そんな気張っている生徒会たちに、自衛官たちが朗らかに笑う。
「気張るなよ。我々も全力を尽くす」
「っていうか、俺らだけで全部返り討ちにしねえとなぁ」
「だな。学生に獲物取られたら、給料泥棒ッてどころじゃねえなぁ」
その半分ジョークじみた会話に、場の空気が適度に弛緩する。
流石は総理の護衛。なんというか豪気だな。
そして、少し空気が弛緩してから、アザゼル先生が話を進めた。
「オカルト研究部とリセスはオフェンスだ。お前らは敵の囲いを突破して、八坂姫を救い出せ。こっちにもウツセミを投入するように自衛隊には伝えてある」
「既にヘリボーンと空挺効果の準備は万全だ。ウツセミなら敵の対空砲火の射程外から降下できるからラッキーだぜ」
頼りになる上役二名の頼もしすぎる発言だ。
俺らだけでやるわけじゃねえってのがいい。マジで助かるぜ。
「それとセラフォルーも眷属を動員してそっちに向かう。……更に須弥山からも助っ人が来るとよ」
助っ人? いったい誰だ?
確かに須弥山と妖怪が会談する予定だったんだから、須弥山から増援が来るのは理に叶ってるが……。
「先生。誰なんですか?」
「須弥山を代表する精鋭部隊とだけ言っとくぜ。……あいつらがチームで出るって時点で、かなりやばいってことの裏返しだけどな」
なんかすごい連中が出てきそうだ。聞いたイッセーも少し息をのんでる。
こりゃ、相当の精鋭部隊が来そうだな。神クラスも視野に入れるべきか?
そして、総理が俺達の前に出ると小瓶を出した。
これは、フェニックスの涙!?
「一応渡しとくぜ。万が一のために冥界から取り寄せてたもんだが、今はお前らに渡しとくべきだろ」
ありがてえ! 大盤振る舞いだな、総理大臣!!
こんな状況だから、フェニックスの涙を取り寄せる余裕もなかったんだよ。大助かりだぜ!!
「あと、匙もオフェンスだ。龍王の力ならグレモリー眷属とも肩を並べられるだろ」
「は、はい!!」
……天龍と龍王のコンビか。これでもなお不安になるってのが悲しいところだねぇ。
そして、俺達を見渡してアザゼル先生が告げる。
「家に帰るまでは修学旅行だ。……死ぬなよ!!」
「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」
よっしゃ! これで気合も入った。
それじゃあ、英雄らしく人助けをするとしますか!!
頼りになる総理大臣、大尽統。