ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
リセスが英雄になることを決意した展開が語られます。
リセス・イドアルという少女は、基本的に強がりで、弱いことにコンプレックスがある人物です。
孤児院出身というコンプレックスがありまして、過去編でですわ口調なのは元ネタのキャラもありますが、お嬢様というのは勝ち組の強い立場だから、口調だけでもそうしたいと思っての行動です。
そして、そのコンプレックスと、致命的なもう一つの失態がリセスをさらに拗らせました。
ニエは、糞スポンサーもプリスも憎んでいますが、リセスほどではありません。
糞スポンサーに関しては本編を読めばすぐにわかりますがざまぁな展開で溜飲を下げてますし、プリスに関してはあとがきで補足しますが、ある意味罰を受けているからです。
ですが、リセスはニエにとって逃亡者でしかありません。それも、神経を逆なでし続けながらそれを贖罪とほざいている類の裏切り者です。
突如として宙に生み出される魔方陣。
その光景に、たった一人を除いて全員が唖然とする。
まるでジャパニーズアニメのような展開に、ほとんどの者たちが目を丸くしてぽかんとなった。
「ま、まずい。……ばれたのか!?」
狼狽する屑の目の前で、魔方陣から数人の人間らしき者たちが出現する。
その姿を見て、屑は明らかに及び腰になった。
「な、な、何の御用でしょうか!?」
「きゃっ!?」
腰の上で踊らせていたプリスを放り出し、男は慌てて身なりを正す。
この、その気になれば経済界で大きな顔すらすることができる男が明らかに狼狽する相手。
そんなことをなしとげた男たちは、冷徹な視線をたたきつけた。
「とぼけるな。貴様、教会にフェニックスの涙を横流ししていたな? 貴様に譲った時の倍の金で売ったそうではないか」
「な、何のことですか!? あれはちゃんと
そう言いかけた男に、その乱入者は手を突き付けた。
「問答無用だ。下等種風情が我ら上級悪魔をたばかった罪、命で償え」
「ま、待―」
反論は最後まで言い切ることができなかった。
それより早く、男の腕が引きちぎらえる。
「ぎ、ぎゃあああああああ!?」
「ふん。三流の悲鳴だな」
悲鳴を上げてもだえる男に、乱入者は炎を放つ。
それは決して介錯の一撃ではない。そして処刑の一撃でもない。
ただその炎は傷口を焼き、出血を抑え込むだけだった。
「この程度で済むと思うなよ? 貴様はゆっくりと殺してやろう」
「ひ、ひ、ひぃいいいい……」
情けなく小水を漏らす男を蔑む視線で見据え、怒りを見せる乱入者は腕を掲げた。
そして、惨劇が始まった。
気づけば、雨が降っている裏路地で転がっていた。
「は……は……はぁ……はぁ……はぁ……」
息を整えながら、リセスは飛んでいる記憶をかき集める。
あの惨劇が発生したその時、リセスは恐怖によって、条件反射とも言えるレベルで部屋から走り出していた。
同じように逃げ出す女たちもいたが、しかしなぜか誰一人として部屋から出ることはできなかった。
何が起きた? あれは何だ? いったいなんだ?
訳が分からないまま、リセスは呆然とあたりを見渡す。
みればここはスラム街だ。どうやら死に物狂いで走り続けていて、こんなところまで逃げ込んだらしい。
それほどまでの恐怖が、いまだに体に染みついている。
訳が分からない。意味が分からない。何もわからない。
だが、それでもこれだけはわかる。
あれは、ただ人が迂闊に関わってはいけないものだ。それだけは間違いない。
そして、あの男はもう生きてないだろう。それも分かっている。
………その事実に、リセスは絶望を感じた。
弱い。そんな言葉が思い浮かぶ。
体が弱い。力があれば、自分が強引に奴を殺せたし、そもそも奴の求めを振り払うこともできたはずだ。
心が弱い。心が強ければ、最後の利性を保つこともできたし、芸能人の夢に縋りついて誰にも助けを求めないだなんてことはなかった。そもそもあの場で逃げることもなかっただろう。
魂が弱い。雌犬であることを受け入れるどころか、雌に堕ちていることすら気づいていないなど、魂が腐っているといっても過言ではない。
リセスはもう、何もかもがどうでもよくなっていた。
このままスラムをうろついてたら、間違いなくゴロツキ共に襲われるだろう。
だがそれがどうしたというのだ。
一時の名誉と肉欲につかれて、自分は裏切ってはいけない者たちを裏切り続けてきた。
ニエを、孤児院のみんなを、ファンを。すべてを裏切った。
なら、このままなぶられて殺されてもいいような気がして―
『現在、現場のビルは騒然となっており―』
その声に、リセスはふと耳を傾けた。
みれば、そこは小さな雑貨店。そこにあるテレビでは、まさに自分がいたビルが映し出されている。
―謎の怪死事件連発。現代の悪魔か
などというタイトルで報道されている内容を、リセスはなんとなく見る。
発端はニエの自殺。まずこれで大きな騒ぎになった。
当然だ、人が大量に行きかっているところで、いきなり墜落死が発生したのだ。高さから言って体が試算して飛び散っていてもおかしくない。まず間違いなく、阿鼻叫喚の騒ぎになったのだろう。
それで警察が即座にビルをテナントとしている会社などに話を聞こうとすれば、上層階で騒ぎが発生していた。
それはそこの芸能事務所の所長が惨殺されていたという事実。そして、十数人のアイドルが心神喪失状態で倒れていたということ。
アイドル達は数年分の記憶があいまいで、しかも服装が乱れていた。
もとより、あの男の評判には黒いうわさがあり、警察もマークをしようか悩んでいたという。
現在の発表では、男が薬物を利用して乱痴気騒ぎを開始。そのままトリップした者たちによって、サバトじみた殺人が行われたのではないかということだ。
中には行方不明になっている者たちが何人ほどいるということが発覚しており、警察も捜査を進めているとのことだ。
その行方不明のメンバーの中に、自分やプリスの姿もあった。
……あの人の皮をかぶった化物に殺されたのか。リセスはそんなことを思ってしまう。
プリスが死んだかもしれない。その事実にリセスは悲しみ、しかし苦笑する。
自分と同じ雌犬に成り下がり、ニエを裏切って絶望させた彼女のことを、そこまで気にしてやる必要があるのだろうか? 自分と同じ屑が一人死んだだけで、何を気にすることがあるのだろうか?
でも悲しい。それほどまでに、プリスはリセスにとって大きな存在だった。
その事実に力なく笑ったその時、リセスの目には鏡が移っていた。
そこに映るリセスの表情は、丸でぼろ雑巾のようだった。
……その瞬間、リセスは恐怖を感じる。
このまま、終わるのか?
弱い立場がいやだった。
だからアイドルという強さを欲しかった。
だけど何もかも弱いままで、だから雌犬に成り下がった。
そして、ここでこのままぼろ雑巾のように終わるのか。
……ニエを殺した、ぼろ雑巾のままで?
そう思い至った瞬間、リセスは恐怖した。
恐怖心が胸を締め付け、リセスは逃げるように駆けだす。
だが恐怖心は非常に強く、リセスはついに我慢できず、路地裏の一角で盛大に吐いた。
「うぇ……うぷ……うぼぇっ!?」
昼に食べたフィッシュアンドチップスを盛大に吐き出しながら、リセスは恐怖にかられる。
このまま、自分は弱いままなのか?
ニエを殺した自分のまま、死んでいくのか?
いやだ。いやだ。それは嫌だ。
リセスの脳裏に、ニエとプリスとの思い出が浮かび上がる。
それは、リセスにとってかけがえのない物で。そして自分が自ら踏みにじった物だった。
それだけのことをした結果が、このままぼろ雑巾のように終わること?
ニエを殺してしまった自分が、そのまま死んでいいはずがない。
そうだ、そんなことはニエにも悪い。
ニエだって夢があった。まっすぐで、立派で、優しくて、自分の心の支えになるだけの人だった。
大好きだった。愛していた。
そんな人を踏みにじっておいて、このまま終わる?
あり得ない。
あっていいはずがない。
そうだ。忘れるな、リセス・イドアル。
今の自分はただの畜生だ。家畜にも劣る。
ニエ・シャガイヒが、そんなゴミ屑のために命を落とした。そんなことを認めるな。
「……なりたい」
その時、リセスの脳裏に、子供の頃に読んだお伽噺が浮かび上がる。
それは、悪い龍にとらわれたお姫様を救う勇者の話。どこにでもあるお伽噺。ただの小さな英雄譚。
だが、今のリセスにとって譲れないものだった。
「
この弱い自分を覆したい。
魂を強くしたい。心を強くしたい。体を強くしたい。
どれもが無理なら、せめて力がほしい。
力があれば、それをよりどころにできる。
そして力があれば、誰かを救うことができる。
力を手にすれば、ニエが死んだことをきっかけにして力を手にすることができれば、そしてその力を使って誰かを救い続ければ、ニエの死にも「英雄を生み出すきっかけになった」という意味が生まれ―
「―ニエ、許して、くれる?」
あり得ない前提だ。
今から戦闘能力を手にしようとしても、できることなどたかが知れている。その前に野垂れ死ぬのが関の山だ。
ああ、どこかに自分を生体兵器に改造して、しかも放し飼いにしてくれる都合のいい実験施設はないのだろうか?
そんなことを何ともなしに思い、そして―
―チート能力、手にしませんか?
―それを、見つけた。
一方そのころ、冥界のグラシャラボラス家分家では、宴会が行われていた。
「はっはっは。そうですか、あの男は糞迄漏らしていましたか」
「ああ、実に無様な死にざまだった。猿にしては愉快だったよ」
そう血族の者たちと酒を酌み交わすのは、リセスを取り逃がしていたなど気づいてもいない、先ほどの乱入者だった。
幸か不幸か扉を出てすぐに曲がってしまったため、リセスがいたことに気が付かなかった。さらに人間界のテレビなどには興味もないため、リセスの存在をかけらも知っていないのも、彼女にとって幸運だっただろう。
今回の行動は、契約を違反した者に対する粛清だったが、実はそれだけではない。
かなり手広く悪行をやっていたあの男に対する報復を依頼する契約者が数多く、あまりに数が多いため、男の契約者である彼に相談があったのだ。
そこで調べてみれば、彼が契約を不履行していることが発覚。これ幸いと粛清をくわえることにしたのだ。
すでに国家の暗部にも話は通してある。裏社会にドロップアウトした女優たちを送り込んでいたなどで危険視されており、汚れ仕事をしなくて済むと向こうも快く受け入れてくれた。
手違いでニュースになっているが、数日もしないうちに親族を守りたいが、そのために金が要る男が代理で捕まるはずだ。警察官僚にも話は通してあるので、後は適当に進むだろう。
いかに平和主義の魔王だろうと、国家の了承までした汚れ仕事の代行も兼ねたこの制裁にとやかく言うことはできない。若者のくせに大きな顔ができる現四大魔王が苦い顔をすることを考えると、少しスカッとする。
「まあ、それなりにいい土産もできたし問題なかろう」
「はっはっは。あの国も気前がいいですな。二、三人持ち帰ってもいいとは」
「所詮、高貴たる我らと違う俗物ですからな。金を積んだし問題ないでしょう」
はっはっはと語り合いながら視線を向ける先には、プリス・イドアルを含めた数人の少女の姿があった。
思わぬ副産物が手に入り、彼らは満足している。
「そうだ、ゼファードルは素行が悪いが腕は立つ。我が家系に素質を与えてくれた礼に、あの娘の内一人をやるとするか」
「それは良いですな。……おお、一人
そう会話が弾んでいる中、やり玉に挙げられたプリス・イドアルはそれを無表情に受け入れていた。
なんでもいい。どうでもいい。
ニエが死んだ。リセスも行方知れず。
そして、今回の件ですべてが知れ渡るのも時間の問題。イドアル孤児院にはもう戻れないだろう。
なら、どうなってもいい。
少なくとも愛妾として相応の豪勢な生活は保障してくれた。なら、悪いことにはならないだろう。
多少乱暴に扱われたところで、それをはるかに上回るメリットがあるのなら気にするほどのことではない。
プリスは壊れた笑いを浮かべると、虚空を見つめてつぶやいた。
「ニエ君、リセスちゃん、……さようなら」
Side Out
補足が大量に必要だと判断したため、今回のあとがきもかなり長いです。
不倫された人は大きく分けて二つのパターンに分かれるといわれます。
自分の連れ合いをかどわかした、連れ合いが関係を持った相手に怒りを覚えるパターン。
自分がいるのに不倫した、連れ合いにこそ怒りを覚えるパターン。
ニエは後者の性質を持っています。ゆえに糞スポンサーと同じようにリセスとプリスを恨んでいます。そんなクソ野郎なんかになびいて、自分やイドアル孤児院の人たちを裏切った二人に対して、殺意すら抱きました。むしろスポンサーが糞過ぎたからこそ、同レベルに糞スポンサーを恨んでいるといってもいいです。
糞スポンサーがむごたらしい死に方をしたのも要因の一つですね。このクソ野郎、ポテンシャルが高い上に頭が回るため、悪魔の力なども借りて欲望を満たしていました。悪魔側は実力者が配偶者を何人も持てるので、質の悪い連中なら特にそういうことを気にしないですしね。そして堕とした女をあてがったりして、蜜月の関係を気づいたり裏で権力を強大にしていました。
が、調子に乗りすぎました。女を堕としまくったことでその関係者の恨みをかい、他の悪魔に復讐を依頼するものが出てきました。その悪魔が糞の契約相手と相談して調べると、自分たちをだましていたことも発覚。さらに糞の国の政府も、この糞がやりすぎていることに気が付いて、暗殺した方がいいんじゃないかと思いました。とどめにその政府関係者も悪魔と契約していて、その糞の契約者とつながりがあった。
これが全部組み合わさった結果、政府は「あんた等にとってもむかつく、あの糞ぶっ殺してくれません? 目撃者は自由にしていいから」「おk。殺すとうざい上層部がうっさいから記憶消す程度だけど、何人か奴隷にもらってくわ」「どーぞどーぞ。雌豚の一人や二人、国の恥だから持って行ってください」と取引成立。糞はあわれ図に乗った因果応報としてぶち殺されたわけです。
本来なら政府と悪魔の連携でもみ消されるはずでしたが、ニエの自殺というアクシデントでいろいろとスキャンダルになったわけですね。そのせいで沈静化が大変で、結果的にリセスは口封じされずに済みました。逃げ方にセンスがあったせいで、リセスがそこにいたことすら気づいてません。
サーゼクスたちもこの流れは耳に入っていましたが、政府との取引で成立しているので苦い顔はしても手を出せなかったわけです。ここで手を出せるぐらいの力があるなら、そもそも原作でも老害たちをとっくの昔に排除できています。
ニエはリムヴァンがリセスに傷心の追撃者を使ったことでそれらを説明し、跡で記録映像も入手して見せたので、糞に関してはだいぶすっきりしています。そのせいでリセスに対するヘイトに傾くところまでリムヴァンは計算してましたが。
ニエがリセスに対して怒り狂っているのは、「自分たちを裏切って自分を絶望させた罪を償うとか言っているくせに、あったこともない他人を救って楽しい毎日を送っているとかふざけるな」とか言った感じですね。
Aという人物を怨恨から惨殺したBおよびCという人物がいるとします。Aの遺族はAを目を覆うほどむごたらしい肉の塊に変えたBとCに死刑になってほしいと願います。
ですが、Bはそのままつっ立って警察に捕まり、情状酌量の余地があるとして懲役刑にとどまりました。Cはそのまま逃亡して警察に捕まらず、罪滅ぼしといって名前も知らないうえに犯罪者引き渡し条約を結んでない国に行き、そこで人を助ける仕事をしてたくさんお金を稼ぎ、そのうちの何割かを寄付しながら、酒池肉林とはたから見える生活を送っています。
この場合、遺族はBが死刑にならなかったことを不満に思いますが、一応裁きは下されたと思うでしょう。しかし、Cは自分たちを苦しめた癖に、悠々自適の生活をしながら人々から褒めたたえられる勝ち組になったとさらに憎しみを募らせるのではないでしょうか。どっちに対して強い怒りを抱くでしょうか? 少なくとも自分はCです。
ニエの主観では、プリスはBでリセスはCです。プリスは待遇はともかく、眷属悪魔という名の奴隷として事実上の懲役刑を受けているとニエは受け取りました。プリスも罪の意識から、奴隷として生きていくつもりでした。実際ゼファードルの元で、プリスはパシリ同然の扱いを受けています。金はかけられてるし食事はおいしいけど、事実上人権は相手の掌の上です。知ってますか? どっかの国の刑務所では、個室で食べたいものをある程度選べるどころかゲームで遊べる国があるんですぜ? それに比べればよっぽど囚人っぽいでしょう?
其のため、ニエは一応報いは受けていると思っているので、プリスに対しては比較的寛容です。まだ憎んでいますが、積極的に殺す気はないです。場合によってはゼファードルより扱いはいいかもしれません。
ですが、リセスは神の子を見張るものの精鋭としてそれなりの待遇を持ち、仕事で莫大な金を稼ぎ、ペトという同性の愛人みたいなものを侍らせて、さらに糞の畜生の時のように、色事にふけり、なのにたくさんの人たちに好感を持たれています。
………そんな奴が「これが私があなたにしている贖罪です」とか言って来たら、被害者からしてみれば逆鱗でタップダンス踊っているようなものでしょう。リセスにはニエの視点で自分を見ることが足りなかったです。
これでもし、リセスが糞を殺していたならニエも溜飲を下げていたしそもそもこんなことにはなりませんでした。リセスが腹切りなり飛び降りなどして罪の意識から自分の命を絶てば、許していたでしょう。シスターなり尼になりなって、一生を弔いにささげていれば、好印象すら持っていたかもしれません。
が、結果は「ニエを死なせた自分が屑のまま死んだら、ニエの死んだことが無意味になってしまうから、自分が英雄になることで英雄をうむきっかけにする」という行動。一般人の反中であるニエからすれば、「お前が立派になろうが何だろうが、すりつぶされた側からすればどうでもいい。それどころかお前が立派になるために殺されたなんてむしろむかつく」になるわけです。
こんな最悪の噛み合い方をした理由は、前書きで書いたリセスのコンプレックスが最悪の形で噛み合ったからで、さらにプリスもですがある大事なことをしていないからです。これ以上は長くなりすぎるので、次の話の前書きで補足します。