ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ   作:グレン×グレン

127 / 324
兵藤一誠は、人々を導ける英雄である

ヒロイ・カッシウスは、人々を照らす英雄を目指す。










そして、リセス・イドアルは―


第四章 14 新たな原点

 

 俺達は、それを見た。

 

 倒れ伏すイッセーを庇おうと戦闘を続けるお嬢の胸が、光り輝くのを。

 

 ああ、これはいつもの展開だ。

 

 正規の禁手に至った格上の存在を圧倒した。

 

 禁手に至るという奇跡をなしとげた。

 

 覇龍という暴走すら鎮めて見せた。

 

 異世界の神が力を貸しに来た。

 

 そして、禁手を新たな領域へと目覚めさせるという前代未聞の偉業をなしとげた。

 

 そんな奇跡が、また起ころうとしている。

 

 いや、もう起きた。

 

 気が付けば、俺達の目の前でイッセーが立ち上がっていた。

 

 その姿は、今までの赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)じゃない。

 

 それはもう、赤じゃなく紅だった。

 

 よりかっこよくなったその鎧を身に纏い、イッセーはしっかりと立ち上がる。

 

『相棒、何があった?』

 

 ドライグが、どこかぽかんとした口調でそう呼びかける。

 

『歴代赤龍帝の怨念が消失している。先ほどまで俺ですらどうしようもなかったものがだ』

 

 マジか。まさか、また覇龍とかなるんじゃねえだろうなって気がしてちょっと怖くなったぜ。

 

「白龍皇の人が力を貸してくれたおかげだ。いや―」

 

 イッセーはそういうと、観客席の方を向いた。

 

「ありがとよ、リレンクス! 君の声、しっかり聞こえてたぜ!!」

 

 大声で張り上げ、そして観客席で一人の男の子が驚いた表情を浮かべる。

 

 あれ? あの子どっかで見たような気が―

 

「おやおや、これはまずいねぇ!!」

 

 そんなことを気にさせないといわんばかりに、リムヴァンは剣を片手に持って切りかかる。

 

 おい待て。あれ、聖魔剣じゃねえか!?

 

 お嬢も急激な展開について行けず、そのまま聖魔剣は振り下ろされ―

 

「―おい、リムヴァン」

 

 そしてイッセーの鎧の前に弾かれた。

 

 その事実に目を見開いたリムヴァンの顔面に、拳が叩き込まれる。

 

「お前、邪魔だ!!」

 

 そして吹っ飛ばされるリムヴァンを無視して、イッセーは姐さんに声を張り上げる。

 

「リセスさん!! 泣くのはもうやめるんだ!!」

 

 声を張り上げ、そしてそれは姐さんに届く。

 

 絶望の表情を浮かべたまま、それでも姐さんは顔を上げた。

 

「イッセー……。でも、私は―」

 

「リセスさんが頑張ってきた事を、俺達は知ってる!!」

 

 渾身の言葉が、姐さんの反論を黙らせる。

 

「リセスさんは強い! だからペトを救えた。よく分らないけどヒロイも救った! そうだろ、二人とも!!」

 

 ああ、そうだなイッセー。

 

 何よりも、誰よりも。

 

 姐さんに救われた俺達が言ってやらなきゃな!!

 

「姐さん! 俺は姐さんが……大好きだ!!」

 

 俺は、心からの想いを伝える。

 

 そうだ。何があろうと、どんなことがあろうと。

 

 あの時の姉さんは輝いていたんだ!!

 

「あの時の姐さんに憧れた。ああなりたいと心から願った。それは、あの時の姐さんが強かったからだ!!」

 

「そうっス!!」

 

 ペトもまた、狙撃でドーインジャーを減らしながら叫ぶ。

 

「お姉様は強いっす! ずっとずっと辛かったのに、それなのにペトやヒロイを助けて、そしてペトを見捨てず導いてくれたッス!!」

 

 そうだ。姐さんは弱いかもしれない。

 

 だけど、強い人でもあるんだ。

 

 姐さんがしでかしたことは許されない事だろう。一生償っていかなけりゃならないだろう。

 

 それでも、それでも。

 

「姐さんは!」

 

「お姉様は!!」

 

 これだけは、断言できる。

 

「俺達の」

 

「自分達の」

 

 そう。

 

「「英雄……だぁあああああ!!!」」

 

 その渾身の叫びとともに、聖槍が光り輝いた。

 

「なんだ!? 何が起こっているんだ!?」

 

 ニエが訳が分からないと手で光を庇う中、俺は心に湧き上がってくる声を放つ。

 

「槍よ! 神を射貫く真なる聖槍よ!!」

 

 ああ、お前も応援してくれるのか?

 

 聖書の神が、堕天使に堕ちた者と悪魔の声に耳を傾けるなんて、驚きだな。

 

「我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ!!」

 

 だけど、綺麗だもんな。頑張ってるもんな。

 

 だったら、力を貸してくれ!!

 

「汝よ、遺志を語りて、輝きと化せぇえええええ!!!」

 

「さっせるかぁああああ!!!」

 

 とっさにリムヴァンが封印の神器を発動させる中、それは、起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば、勢力は二つに分かれていた。

 

 リムヴァン率いるヴィクター経済連合。

 

 イッセー達、若手悪魔達。

 

 綺麗にドーインジャー迄含めてくっきり仕分けされたのは、まさに神の御業。

 

 覇輝(トゥルース・イデア)

 

 黄昏の聖槍だけが持つ、覇に似て異なる力。

 

 槍に宿る聖書の神の意志が、担い手や周囲の意思をくみ上げてなす、奇跡。

 

 それはリムヴァンの干渉で真なる意味で奇跡と言う程にはならなかったが、然し状況を仕切り直してくれた。

 

 乱戦状態から、完全な二分へ。これだけでも状況を仕切り直すのには十分である。

 

 そして、そのイッセーたちの中で、リセスはぽつりとつぶやいた。

 

「ペト。ヒロイ」

 

「なにっすか?」

 

「なんだよ?」

 

 優し気に微笑む二人を見ると、リセスは涙を流したくなる。

 

 こんな自分を、二人は今でも尊敬してくれている。

 

 それが堪らなく申し訳なく、そして堪らなく嬉しい。

 

「私、弱いわよ?」

 

「そんなことないっす」

 

 ペトは、リセスの言葉を否定した。

 

「弱い人は、自分の恥部を人に語ったりしないっす。ペトの為に最大の黒歴史をペトに話したお姉さまは、きっと強いっすよ」

 

 そういってほほ笑むペトが、堪らなく愛おしい。

 

「そうだぜ、姐さん」

 

 ヒロイもまた、そう言って肩に手を置く。

 

「姐さんはずっと頑張ってきたじゃねえか。頑張るのって、大変なんだぜ?」

 

 そう言うと、ヒロイは顔を赤くしながらもリセスにほほ笑んだ。

 

「姐さんは弱いところもあるけど、姐さんが思うよりずっと強いよ。だからここまでこれたんじゃないか」

 

 その言葉が、とても気恥ずかしい。

 

「ああ、その通りだ」

 

 サイラオーグ・バアルがそう言って前に出る。

 

「貴女は弱さに溺れず強くなる事を選び、力を得た。そこまで否定してはいけないだろう」

 

「まったくだな」

 

 ヴァーリがそれに続き、同じく一歩前に出る。

 

「ペト・レスィーヴとヒロイ・カッシウスをここまで成長させたのは君だろう。その切っ掛けになった事ぐらい、誇ったらどうだ?」

 

 この圧倒的な強者二人に言われると、何やら本当に自分が強くなった気分になる。

 

「そうですよ、リセスさん」

 

 イッセーもまた、紅の輝きを放ちながら、優しさにあふれる言葉を投げかける。

 

「レイナーレのこと引きずってた俺も、前に進む覚悟ができました。それは、アーシア達が支えてくれるからです」

 

 その言葉に、イッセーがトラウマを持っている事を思い出す。

 

 彼は、それを乗り越えようと向き合おうとしているのだ。

 

「リセスさんには俺達が、何よりヒロイとペトがいます。だから、きっと乗り越えられます」

 

 そう言って親指を立てるイッセーに寄り添いながら、リアスもリセスにほほ笑んだ。

 

「貴女は、優しい人よ。少なくとも、自分みたいな人が出ない事を心から願えるぐらいには、優しい人」

 

 リアスは信じている。

 

 リセス・イドアルは自分のフォローをしてくれた。それはきっと、この過去が原因だろう。

 

 大事な人を好きだと言えないままに失った経験をしてほしくないと思ったのだ。

 

 その優しさはきっと強さだ、誇っていい。

 

 そう、リアスは言ったのだ。

 

「さあ、姐さん」

 

「ねえ、お姉様」

 

 ヒロイとペトは、リセスの一歩前に出る。

 

 そして、ニエ・シャガイヒは苛立たしげな表情を浮かべた。

 

「うっとおしい連中だね。邪魔しないなら手は出さないけど、邪魔するなら本当に殺すよ?」

 

「OK。宣戦布告と受け取った」

 

「ならここからは戦争っすね」

 

 二人は同時に得物を構える。

 

 そこに、遠慮は微塵もなかった。

 

「アンタの恨みは正しいんだろう。怒っていい案件だと思うともさ」

 

「でも、自分達はそんな罪を乗り越えようとしたお姉さまに救われたッス」

 

 そう。二人はリセス・イドアルが救った者だ。

 

 弱い自分を否定しようと。ニエの死を無駄にはしたくないと、そのために一生懸命頑張った。

 

 現実問題自分が弱いと知っていたから、もはやこの体に染みついた快楽への欲求は抑えられないから。

 

 だから、手にした力を山籠もりしながら少しずつ調べて、それをどうすれば有効活用できるか考えた。

 

 だから、より男を誘う手練手管を独学で学び、楽しみながら生活の糧を得る方法へと昇華させた。

 

 がむしゃらに振り払おうとするのではなく、考えて有効活用してここまで来た。

 

 だから考えろ。今ここで、リセス・イドアルがするべき事を。

 

 ……そんなもの、決まっている。

 

「悪いけど、あなた達には他に仕事があるわ」

 

 決心を胸に、リセスは前に出る。

 

「ペト、貴女はリアスと一緒にドーインジャーの相手を頼むわ。どちらにしても、神滅具級の防御力に対抗するには今の貴女じゃ難しいわ」

 

「うぅぅ! お姉さまの言う通りっすけどショックっす!」

 

「ヒロイ達神滅具組は、イグドラシステム保有者をお願い。……私も援護するわ」

 

「OKだ姐さん。……で、姐さんは?」

 

「そうだったッス! お姉さまはどうするっすか!?」

 

 まさか、このままニエに殺される事を受け入れるのか?

 

 そんな不安交じりの声に、リセスは微笑を浮かべた。

 

()()死なないわよ。だって、私はなりたいものが出来たもの」

 

 その言葉に、ニエは歯を食いしばって睨み付ける。

 

「……何になりたいんだい」

 

「自慢よ」

 

 即答で、リセスははっきりと答えた。

 

「私はペトとヒロイの自慢の姉貴分になりたい。二人が私を誇ってくれている事が正しい事だと、胸を張って言える人になりたい」

 

 だから、ここでは死ねない。

 

 ここで死ぬのはただの逃避だ。罪を償えないという恐怖からの逃亡でしかない。

 

 それでは二人が自分を大切に思っている事に対する裏切りだ。

 

 ニエ・シャガイヒに償う為に、新たなニエ・シャガイヒを作るなど、愚行でしかない

 

 

 大事なものを裏切ったリセスが、二度目をする事を求める訳がない。

 

「……なりたいのよ、私は」

 

 リセスは、ぽつりと呟いた。

 

 それは、かつて絶望から逃れるように願ったものと言葉は同じ。

 

 だが、そこに込められている意味は全く違う。

 

「私は、自慢(英雄)になりたい」

 

 口にするのは、くどくなるほど心の中で繰り返したその言葉。しかし、その意味は以前とはまったく異なる。

 

「ただの強者なんかじゃなく」

 

 過去の逃避ではない。

 

「世界を救う救世主でもなく」

 

 がむしゃらに求めた称号でもない。

 

 そう、それは―

 

「私は掛け替えのない、私が助けて私を救った、二人の為の英雄になるわ!!」

 

 今までずっと迷走していた。

 

 ただの逃避と言っても良かった。

 

 だが、それでも自分は誰かを救った。

 

 そして、その事を切っ掛けに自分を愛おしく思っている二人がいる。

 

 この二人の信頼を裏切る事だけは、何が遭っても出来はしない。

 

「ここでニエ(あなた)に殺される事を選べば、それは恐怖と絶望に負けたただの逃避。それじゃあ二人に誇れない」

 

 決意が彼女を新生させる。

 

「ニエ・シャガイヒに討たれる時は、胸を張って前を向いて殺される覚悟を前向きに決めた時。今それができてない私は、二人が自慢できるような私じゃないから!!」

 

 憑き物を振り払い、しかし過去の傷をしっかりと抱え、リセス・イドアルは宣言する。

 

 弱さを嫌う弱い自分を認め、そのうえで、リセスはその自分だからこそ救えた命がいることを認めた。

 

 その象徴である二人に恥じない事。リセス・イドアルの最優先事項を、リセスは今ここで宣言する。

 

「悪いけど、今この場では踏み倒させてもらうわ」

 

 開き直りと言ってもいい言葉。

 

 ニエも相当神経を逆なでされたらしい。額に青筋が浮かんでいる。

 

 だが、もうそれも覚悟の上だ。

 

 世界は自分を英雄とは認めない。バッシングも受けるだろう。

 

 でも、それでも、そうであっても―

 

「こんな弱くて醜い一人の女を、掛け替えのないモノとしてくれる二人に誇る為に戦うわ。こんな私を光と呼んでくれた、大事な仲間達の為に!!」

 

 そう。だから―

 

「私は、この子達の為の輝き(英雄)になる!!」

 

 胸の中の扉が開かれる。

 

 今この場において、リセス・イドアルはついに扉を開け放った。

 

「……開き直りと言えば、開き直りなのだろうがな」

 

 サイラオーグ・バアルは苦笑し、しかし眩しいものを見た。

 

「そうだな。問題はあるが、それはニエ・シャガイヒもお互い様だ」

 

 ヴァーリは興味なさげに、然し少しだけリセスの評価を改めた。

 

「大丈夫です。リセスさんの頑張りは、主もきっと認めてくださいます」

 

 アーシアは目に涙を浮かべながら、仲間の再起を喜んだ。

 

「いいじゃない。どんな形であれ、リセスは罪を償ってきたと思うわ」

 

 リアスは慈愛に満ちた瞳で、優しくリセスを包み込む。

 

「ああ。第一リセスさんだって被害者じゃねえか。一方的に殺されていいわけがねえ!!」

 

 イッセーは、ニエに対して少しだけ怒りを覚えていた。

 

 今までずっと苦しんできたリセスに、こんな追い討ちをさせるリムヴァンとニエに少し怒りを感じてしまう。

 

 そして、ペトとヒロイは静かにほほ笑む。

 

 そして―

 

「「頑張れ、リセス・イドアル!!」」

 

 心からの応援の言葉を放った。

 

「ええ、任せなさい!! 私はあなた達の英雄よ!!」

 

 その言葉とともに、戦闘が再開された。

 




―リセス・イドアルはヒロイとペトに照らされるにたる英雄でい続ける。








開き直り、と取られてもおかしくありませんし、実際そういうところもあります。

ですが、ようやくリセスは自分の弱さに立ち向かうことを選びました。

弱い自分からの逃避で、強さを欲し続けていた少女は、もういません。

今ここにいるのは、弱い自分と寄り添ってくれる、大切で大好きな二人に誇るため、弱い自分を乗り越えようとする一人の女性です。









今までずっと、弱さから逃げるという後ろ向きで英雄を目指していたリセスはもういません。

ここにいるのは、ヒロイとペトにとっての英雄を目指し、弱さを乗り越えようとするリセス・イドアルです。

そして、其れに応えてくれる力は、七年前からリセスに宿っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。