ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
それは、正しい意味でのニエとリセスの第一ラウンド
リセス・イドアルは真正面からニエ・シャガイヒを睨み付けた。
「ニエ。私を恨むのは当たり前だわ」
「そうだね。そこを否定したら、僕は本当に怒り狂ってるよ」
静かに相対する二人の間には、プリスを含めた三人にしか分らないモノがある。
だから、この戦いは譲れない。
プリスとニエとの決着は、リセス・イドアルのやるべき事だ。
特にニエは絶対だ。
何故なら、ニエがこんなことになったのは自分の所為なのだ。
自分が弱くなければ、抵抗する事を覚えていれば、ニエは死を選ぶ事はなかった。
いっそのこと喪に服し、シスターにでもなって一生を弔いに捧げていれば、こうして牙を剥いてくる事はなかったのかもしれない。
だけど、それではヒロイとペトは救えなかった。
二人だけじゃない。自分が助けた者達は何人もいる。何十人もいる。何百人もいる。
助けたという事実ばかりに気を取られて、いちいち顔を覚えていないものが殆どだ。
それでも、それでも、それでも。
一生懸命頑張った結果、誰かを助けたということは事実なのだ。
それが、今でも胸を締め付けるこの思いから心を潰されないようにしてくれる。
このままニエに殺される事を受け入れれば、それを裏切る事になる。
……ペトとヒロイの顔を思い出す。
自分のことを心から慕ってくれた。真実を知っても、それでも自分のことを姉として思ってくれている。
そんな二人に胸を張れない真似だけは、断固としてできない。
「……あなたに殺される時は、二人に胸を張ってそれを断言できる時よ。それは断じて後悔に震える今じゃない」
「そうかい。だけど僕は今すぐ殺したいよ、リセスぅ!!」
その言葉とともに、魔獣達が大量に召喚される。
それを竜巻を生み出して吹き飛ばしながら、リセスは見た。
ニエの体が一回り膨れ上がり、そして一体の化け物と化していくところを。
「魔獣創造の亜種禁手、
その言葉とともに、魔獣達の援護射撃を受けながらニエは突撃する。
それを始原の人間を最大出力にして受け止めながら、リセスは周囲に視線を巡らせる。
龍天の賢者の力で属性付与を行った事もあり、全員がまともに戦えている。
ある意味、この戦いを支えているのは自分だ。ここで負けると全員が死んでしまうだろう。
更にニエに殺されてやれない理由ができた。
いつか、自分から心から動揺なく自然な気持ちで首を差し出す事が出来るまで。
二人に胸を張れるぐらい、ニエに詫びを入れれるようになるまで。
ここで、ニエに殺されてやるわけにはいかない。
それがどれだけ自分本位で、わがままで、偽善の極みだとしても。
それでもリセス・イドアルは、ペトとヒロイの
「うぁああああ!!」
「今死ぬわけにはいかないのよ、私は!!」
ニエの肩が開き、莫大なオーラが向けられる。
それは神滅具の禁手なだけあって桁違い。まともに放たれることがあれば、会場が三割ぐらい吹き飛ぶだろう。
それは、絶対に認められない。
ゆえに、ここで力を開帳する。
「行くわよ、
今なら出来る。今だから出来る。
心の鎖を引きはがし、まっすぐに英雄を目指す事が出来る今だからこそ出来る。
「
静かに唱えると同時に、リセスは掌をニエに向ける。
そして、放たれた砲撃を完全に受け止めた。
そしてその隙をついて、リムヴァンが飛び掛かった。
「援護するよん♪」
ニエに全て任せる気は最初からないということか。
リムヴァンは、ヴァーリすら軽々と殴り飛ばして見せた拳を叩き込む。
そしてリセスは、その拳に視線を合わせてオーラを展開する。
無意味な事だと、リムヴァンは思う。
あのヴァーリの鎧ですらあっさり弾き飛ばされたのだ。いくら煌天雷獄の禁手とはいえ、そんな片手間に防げるようなものではない。
だから、防ぎ切られたその時点でリムヴァンは警戒度をはね上げた。
「……なんだ、これは?」
黒と白のマーブル模様のオーラに受け止められ、リムヴァンの拳は受け止められた。
そして、僅かな思考でその正体に行きつき、そしてこれがどういった禁手かを理解する。
……リムヴァンの表情が、明白に引きつった。
「聖と魔のオーラの融合……っ! それが、君に禁手の能力だとでもいうのかい!?」
「これが、私の禁手。
リセス・イドアルという自身を受け入れたからこその、亜種禁手。
醜悪な自分と輝ける自分。
ニエ・シャガイヒをどん底に突き落とした自分と、ヒロイとペトを救い上げた自分。
その相反する自分を受け止めようとする心の動きが、この禁手を可能とした。
原理そのもので言えば聖魔剣とほぼ同じだ。
だが、聖剣創造も魔剣創造も神滅具に比べれば明確に下位に位置する神器である。複合させた聖魔剣ですら、出力勝負で煌天雷獄を超えることはないだろう。
そんな矛盾融合による出力向上を、神滅具が行えばどうなるか。
それを、リセスは一撃で示して見せた。
「砕け散りなさい!!」
「がっ!?」
拳が、一撃でニエの表皮と骨を砕き、肉をつぶす。
如何にリセス・イドアルが煌天雷獄を接近戦闘で使っているとはいえ、あり得ないレベルの攻撃力だった。
もはや、その火力は覇にすら匹敵する領域。紅に輝く赤龍帝や、黄金に輝く獅子王に匹敵する戦闘能力向上
これが、神滅具準最強たる煌天雷獄。
これが、英雄という強者の幻想にすがるしかなかった弱き存在であるリセス・イドアル。
矛盾とともに歩む事を決め、それに応えた神器と担い手による、奇跡の力だった。
「な……めるなぁあああああ!!!」
その事実に対してニエは吠え、そして両腕を変質化させる。
巨大な鉄塊を思わせるその両腕。そして更に融合した、更に巨大になる。
一瞬にして十メートルを超える武骨な塊となった両腕とともに、ニエの背中に翼が生えた。
いな、それは翼というよりかはスラスターだ。
一気に数十トンという重さになったニエを、そのスラスターは飛翔させる。
それに対してリセスは即座に聖魔のオーラを使って防御しようとし―
「―無理ね」
一瞬の拮抗の隙に横に飛び、そしてその瞬間に障壁は砕かれた。
ニエの両腕も傷つくが、しかし一瞬で修復される。
流石は神滅具の禁手。それも、数による蹂躙を基本とする魔獣創造を一人に収束させたものだ。
しかもそれが空を飛び、そして結界すら突き破る。
音速超過で迫る数十トン……否、すでに百トンに届かんといわんばかりの巨大な塊は、そのまま空高く飛びあがり、一気に地面に向けて加速を開始する。
巨大隕石を思わせるそれは、白熱化すらしながらリセスに迫る。
否、もしこれが直撃すれば、スタジアムが衝撃波で吹き飛ばされてもおかしくない。アグレアスそのものに大きな被害が生まれるだろう。
そして、其れを前にしてリセスは余裕だった。
「……甘いわよ、ニエ」
静かにそう告げ、リセスは飛び上がる。
その両手には冷気と灼熱。
それを見たその瞬間、リムヴァンは自分が誤解していた事を悟る。
聖と魔の融合による、相乗効果による超高出力化。あれはそんなちゃちなものではない。
「ニエ君! それヤバイから逃げて―」
「もう遅いわ」
そうはっきり言いきり、リセスは両手を組む。
その瞬間、圧倒的な破壊の力が具現化した。
「……熱衝撃って、知ってるかしら?」
熱衝撃。急激な熱変化によって、物体を脆くする現象のことを言う。
氷を熱湯の中に落とすとパキリとひびが入る現象といえば、分かる者も多いだろう。
そして、
その本質は、矛盾の許容。
本来交じり合わない存在の両立を可能とする能力。それこそが、
ゆえに、単純な物理破壊力でなら高熱と冷気の矛盾許容の方が効果的。
それを即座に使わなかったのは、相性の問題だ
熱衝撃が効果的なのは物理的な強度のみ。
一瞬で再生し、結界を張ることもできるリムヴァンには効果が薄い。
だが、魔獣という物体で迫りくるニエに限定すれば―
「砕け散りなさい……っ」
そして、ニエを倒す事に、リセスは躊躇を覚えなかった。
優しいニエ。
自分とプリスの心を掴んだそのニエは、ほかならぬ自分たちの手で殺された。
あそこにいるのは憎悪の塊。目的の為に、罪のない民間人を、邪魔する人達なら遠慮なく殺そうとしている、暴走したもの。
ならば、終わらせるしかないだろう。
「リセスぅうううううううう!!」
憎悪に満ちた声を聞きながら、リセスは覚悟を決めた。
自分は、ここで、ニエを、殺す。
「ディストピア、アンド……ユートピア!!」
その矛盾許容の熱衝撃……否、熱相転移の領域へと到達した一撃が、数十メートルの鉄槌を原子レベルで吹き飛ばした。
ニエの禁手、魔獣変成は魔獣創造の禁手としてのポテンシャルをすべて地震に注ぎ込んだ、個人強化型です。
上位神滅具の禁手を個人に集中しているので、その戦闘能力は桁違いです。さらに魔獣創造と同じようにイメージした魔獣に編成するため、使いこなせば全身鎧型の禁手よりも優位に立ち回ることができます。
欠点はニエの戦闘経験の低さゆえに、文字通り魔獣としての戦闘しかできないこと。今回もそれが敗因の一つです。
リセスの禁手、煌天下の矛盾は、聖魔剣と同じ原理です。
神滅具の出力で聖魔剣を生成しているようなものなので、その攻撃力はシャレになりません。
しかも属性支配の神滅具なので、聖と魔のオーラ以外でも矛盾許容融合をおこなえるのが最大の強み。ディストピアアンドユートピアは、単純物理防御相手ならロンギヌス・スマッシャーすら超えるでしょう。
ただし熱相転移クラスの熱衝撃による物理的破壊なので、魔力などで結界を張った場合は楽にはいきません