ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
グレモリー眷属が集まっている一室に戻ると、まず木場と顔を合わせた。
「……悪いね。君達に色々と任せてしまって」
「いいから休んでなさい。貴方にとっても、イッセーは救世主みたいなものでしょう?」
苦笑を浮かべる木場に、姐さんが真っ先に声をかける。
ああ、その辺については俺も分かる。っていうか、俺だって知ってる。
木場からしてみりゃ、イッセーは、救世主みたいなもんだ。
聖剣計画。その犠牲者の一人でたった一人の生き残りのこいつにとって、エクスカリバーとの因縁は酷いもんだった。
それをどうにかできたのは、イッセーが頑張ったからでもある。
それだけじゃねえ。
朱乃さんも、小猫ちゃんも、ゼノヴィアも。よく知らねえけどアーシアも。そして詳しく知らねえけどお嬢も。ついでに今いないけどギャスパーも。イッセーが救ったようなもんだ。
グレモリー眷属にとって、兵藤一誠は英雄だ。そこに関しちゃ異論はねえ。間違いなく俺より英雄だって断言できらぁ。
思えば、こいつらがイッセーの鈍感の原因に気づかねえのも無理はねえ。
そんな、人救いまくりの奴がまず救われるべきトラウマ持ってるなんて、普通は考えねえ。救世主は自分達を救う存在で、救わなけりゃならねえなんて普通は思わないからな。それが定番ってやつだ。
そんな、一生もんのトラウマ背負いながら、人を救い続けてきたのがイッセーだ。それほどまでの献身性をアイツは持ってる。
まるで、お伽噺の英雄だ。俺が目指す現実的な英雄とは違うが、英雄なのに異論はねえ。
そんなイッセーが、死んだ。
木場が何とか無理しながらでもいつも通りの態度をとっていることが奇跡なんだ。
「イッセーさん……。イッセーさんのところに行きたいですけど、そんなことをしたらイッセーさんは悲しんでしまいます……」
アーシアは遠い目をしてる。
「……うぅ……っ。せっかく告白したのに、こんなのって……」
小猫ちゃんも、普段のクールな表情を維持できてねえ。
「イッセー様……イッセー様……っ!!」
当然、レイヴェルも同じようなもんだ。見るからにお嬢様な普段の態度が見る影もねえ。
あの馬鹿。自分が死んだらこうなるって、分かってなかったんだな。
でなけりゃ、ヴィクターの内輪もめなんかのために命かけたりなんてするわけがねえ。
……いや、あいつならやるかもな。なにせ、おっぱいドラゴンだもんな。
ああ、今更になって気が付いた。
兵藤一誠がやっている英雄と、俺が目指す英雄は、別だ。
たぶん、イッセーがなっちまう英雄はストラーダ猊下が仰った英雄と近いんだろう。ストラーダ猊下がイッセーと会ったら、覗きの常習犯なところはともかく、それ以外の人間性は絶賛するはずだ。俺に見習えといってくるかもしれねえ。
……だけど、それは俺の目指す英雄じゃねえ。
俺は、輝きという名の英雄になりたい。
人の心を照らす輝きに、意図的になりたい。
英雄になろうとする事は、英雄が必要な時に限っていえば間違いなんかじゃない。
あの時の姐さんのような、人の心を照らせるにふさわしい輝く存在になることは間違ってない。人の心の闇を照らして、前に進めるようにすることが、間違っているわけがない。
そうだ。歴史に名を残すかどうかは、俺にとって英雄の基準じゃない。
重要なのは、あの時の姐さんのように輝いているかどうかだ。
そして、今俺はまさに姐さんの心を照らすぐらいに輝いている。シシーリアが前を向けたのも、俺が少しは照らせたからだと信じている。俺は、一瞬とはいえ輝きになる事ができている。
だから、俺はこのままでいい。
まずリセス・イドアルの
だから、俺じゃダメなんだよ。
冥界の
「あの……バカ野郎……っ」
そしてシャワーを浴び終えると、俺はため息をついた。
俺は、冥界の英雄にはなれねえ。
俺は、何よりもリセス・イドアルという敬愛する姐さんの英雄だからだ。それが最優先だと、もう決めた。
だから、冥界を最優先にはできねえ。何かあった時、俺はまず姐さんの心を照らせるかどうかを最優先にするって決めてんだ。
だってのに、なんであの冥界の英雄はこんなところで死んでやがんだ。
……もしこれが、大王派に知られたら間違いなくやり玉にあげられる。テレビ番組で大王派の批評家が勢いよくバッシングする。
今の世界に、三代勢力に混乱を生んでいる元凶。そして、もはやその領域を超えてアースガルズやオリュンポスにとっても仇敵といえる一大勢力。それが、ヴィクター経済連合。
その一応の代表であるオーフィスを、よりにもよって英雄派や旧魔王派との内輪もめから助ける為に死んだなんて知られりゃ、確実に叩かれる。
敵の首魁を敵の手から助ける為に死んだ馬鹿者。冥界の未来よりも、敵の首魁を優先した愚か者。そんな風に叩かれる事が分かり切ってやがる。
「……ほんと、あいつなんだかんだで馬鹿だったんだな、オイ」
あいつの親父さんやお袋さんになんて言やいいんだよ。
あいつ、まだ両親に自分が悪魔だって事すら言ってねえんだぞ。どうしたって説明なんてできねえだろ。
「何考えてんだ、あの馬鹿は」
「そう言う男だからこそ、あの男は冥界の英雄なのだろう」
その言葉に、俺は振り返った。
そこにいるのは、サイラオーグさんだ。
「えっと、挨拶するのは初めてでしたかね。ヒロイ・カッシウスでさぁ」
「ああ。レーティングゲームの襲撃では世話になったな。サイラオーグ・バアルだ」
そう答えるサイラオーグさんには、決意はあれど気負いはねえ。
イッセーのことを買っていると思ったんだが、思った以上にショックがねえみたいだな。
ま、俺らよりは付き合いも浅いし、怒るほどの事でもねえか。
「で、何しに来たんですかい?」
「ソーナから相談を受けてな。リアスに活を入れに来たのだ」
なるほど、会長も匙を投げたということか。
ま、お嬢がイッセーにべたぼれなのは間違いねえしな。しかもつい最近想いが通じたばかりとくりゃ、ショックもでかいだろう。ショック死してねえだけマシって感じだな。
しかも、放っておきたくてもそうもいかねえ緊急事態。そりゃ何とかするべきだと思うんだろうけどよ……。
「……今は、そっとしておいちゃくれませんかい?」
俺は、ちょっとお嬢を強引に連れていく気にはなれなかった。
こういう経験は初めてなんだ。こういう時こそ、慎重に治していかなきゃならねえだろう。
初めて失った戦友が、よりにもよって最愛の恋人なんだぞ? そのショックがでかい事は分かり来てる。立ち直るのにはいろんなもんが必要だ。
今無理やり建て直したら、お嬢は間違いなく歪むぞ。
「……俺だって気持ちはわかる。姐さんに死なれたら、俺だって立ち直れなくなりそうだ」
言外に「今のお嬢をそっとしておいてやれ」と込めて、俺は聖槍すら出して牽制する。
その俺の態度を見て、サイラオーグさんはため息をついた。
「言いたい事は分かった。だが、お前は二つほど勘違いをしている」
あんだよ? 聞くだけ聞くが、内容次第じゃ槍王の型をここで出すぜ?
殺気が微妙ににじみ出る中、サイラオーグさんはまっすぐに俺を見た。
「一つは、リアスも俺も72柱の次期当主だということだ。その責任はとても重い。それこそ、愛する者を失ったとて動かねばならない程にな」
「なら辞退すりゃいいだろうが。今のお嬢ならそれも選択肢に入るぜ?」
俺は速攻で反論した。
ライザーとの婚約ん時とはわけが違う。下手すりゃ、一生このまま塞ぎ込んでもおかしくねえほどショックを受けてんのが今のお嬢だ。
あの時はいろんな事情が絡んでたが、今はシンプルに「愛する人を失ったショックで引き籠ってる」だけだ。なにより最優先してんのが、イッセーだって証明だ。
それにお嬢には甥っ子がいる。そのミリキャスって坊ちゃんに分投げるっていう選択肢だって、褒められたもんじゃねえがあるはずだ。
っていうか、今のお嬢が戦力になるとでも思ってんのか?
「今のお嬢を戦場の送ったって死ぬだけだぜ? それぐらい、イッセーの奴が死んだことがショックなんだよ、グレモリー眷属にとっちゃな」
あんな状態のお嬢たちを、獣鬼たちとの戦いに送り込んだって意味がねえだろ。死にに行くだけだ。
下手すりゃ、トチ狂ってほんとに死ぬ為に突っ込みかねねえ。そしてマジで死んで、グレモリー次期当主すら歯が立たずに戦死とかいうニュースで冥界が更に暗くなるだけだろ。
それぐらい、イッセーの存在はでかいんだよ。それぐらい、あの告白を聞いたあんたなら想像できるだろうが。
俺の睨みがより鋭くなるのを見て、サイラオーグさんは肩をすくめた。
「……弱者の気持ちがわからねえかい? だったらあんたもあんたを欠陥品扱いした連中と変わらねえな」
「……完全な否定はできん。実力ある者がどんな身分でも実力に見合った地位につけるという俺の理想は、翻せばどんな立場であろうと実力のない者には住みづらい社会だからな」
そうかい。なら、ここで喧嘩の一つでもしようか?
俺も、流石に結構精神的にきついんだぜ? たまったもん、吐き出してやろうか……?
俺が腰を落として本気の戦闘上になった瞬間―
「―だが、そもそもなんで兵藤一誠が死んだというのが前提なのだ? それが二つ目の勘違いだ」
―その言葉に、俺は目の前の男がショックで狂ったのかとすら思った。
「―状況、聞いてねえのか?」
「ソーナから個人的に聞いている。アザゼル総督の独断でオーフィスと会い、そこを突いてオーフィスの力を奪いに来た英雄派と交戦して敗北。その後冥府の死神たちと交戦して、最後はオーフィスを確保したシャルバ・ベルゼブブと戦ったのだろう? 安心しろ。まだ大王派の上役たちには言ってない」
そうかい。まあ、このタイミングでぐだぐだな政争とか勘弁だからよかったけどな。
流石に魔獣を無視して本腰入れて追及とかはしねえだろうが、下手に突っついて魔王側の過激派が爆発したらややこしくなるしよ。俺は馬鹿だから、そういう事態になったら何もできねえ。
「そして、これまで例外なく転生悪魔の死亡を意味するイーヴィルピースのみの転送。更に
ああ、だから全員参ってるんだよ。俺達三人だって結構ダメージ入ってるんだよ。
それが分かっていて、なんでこの野郎は―
「―それがどうした?」
その言葉に、俺は槍を取り落としかけた。
何言ってんだ、この筋肉ダルマ。
今、あんたが言った事が全てだろうが。あらゆる情報が、イッセーの死亡を伝えてんだよ。
まさかと思うが、こいつ貴族として教育すらまともに受けてないんじゃねえか?
「……一つ聞くが、兵藤一誠はリアス達を抱いたのか?」
「童貞のままだよ。正直そっちも哀れだね」
ああ、あいつマジ可哀想だ。
ハーレム王を目指してあと一歩まで行った。そして俺の含めた悪友たちには、どいつもこいつも童貞卒業で追い抜かれてやがる。
……別の意味で泣けてきた。アイツ、ホントに可哀想じゃねえか?
俺はホントに涙を浮かべながらそう吐き捨てたが、その言葉を聞いてサイラオーグは笑い始めた。
「フハハハハハハハ! そうか、だったらまだ大丈夫ということか!!」
………あの、あんたが大丈夫かどうか心配になってんですけど。
俺が怒りも忘れて呆れた目を向けると、サイラオーグさんは目に浮かんだ涙をぬぐいながら、自信満々な表情を浮かべた。
「お前はそれでなんであいつが死んだと思っているのだ。あのおっぱいドラゴンが、愛する女も抱かずに死ぬわけがないだろう」
「いや、そういう理屈になってねえ理屈はどうよ?」
もうちょっと理論的な会話してくれねえか?
根性論だけでやっていけるほど、世の中甘くねえぞ?
俺の視線の意味を悟ったのか。サイラオーグはふぅと息を吐いた。
「そんな事では、おっぱいドラゴンのような英雄にはなれんな」
……自覚があるけどこんなタイミングで言うか、オイ。
あと俺は、そういう方向の英雄は目指してないから安心してくれ。
「あの男は、リアスの乳で前代未聞なことを何度も起こしてきたのだろう? そんな男に常識が通じると、なんでお前達は思っているのだ?」
………確かに、あいつに常識は通じねえけどよぉ。
俺が困り顔になると、サイラオーグさんは俺の肩に手を置いた。
「大丈夫だ。あの男はこれまで前例のない事を何度もしでかしたのだ。最強の龍殺しや前例のない死亡確定の事態など、平然と乗り越えて復活するに決まっている」
そんな、常識的にあり得ねえ事を、この男ははっきりと言い切った。
正直、頭がどうかしてんじゃねえかと思う。
だが、同時にアイツが確かに常識の通じねえ奴だって事を俺達は嫌というほどよく知っている。
あの野郎、乳が絡むとホントに物理法則とか無視するからなぁ……。
………お嬢達の乳を祭壇に捧げれば、確かに復活しそうで怖い。
俺は、そう思い直すと乾いた笑いが止まらなかった。
……あの野郎、張り倒してやろうか。
イッセーに常識は通用しない。それを納得させてしまうのが、イッセーがイッセーであるゆえんなのかもしれませんね。