ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ   作:グレン×グレン

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第五章 17

 

 襲い掛かる猛攻をしのぎながら、ペトは意地と死力を結集して迎撃を行っていた。

 

 発生するドーインジャーは圧倒的な数の暴力。マシンガンを思わせるほどの発生速度で生み出されるドーインジャーは、津波を思わせる規模で襲い掛かる。

 

 それを、ペトは一人でしのいでいると言ってもいい。

 

 もちろん、リアス達も迎撃は行っている。そこに加減はないし、当人達は全力を尽くしているつもりだ。

 

 だが、その本領は欠片も発揮できていない。

 

 おそらく上位型のドーインジャーなら単独で互角以上に渡り合えるほどの能力しか発揮できていない。並の中級悪魔でも、力押しで太刀打ちする事ができる程度の力しか出せていなかった。

 

 それほどまでに、兵藤一誠が死んだ衝撃は大きい。

 

 今ペトが庇っている全員が、兵藤一誠に救われたようなものだ。

 

 自覚の有無はともかく、彼女達は兵藤一誠を心の支えとして、それが強さを引き出す切っ掛けとなっていた。根幹だった。

 

 ゆえに、兵藤一誠が死んだ今では見る影もない。

 

 全力を出そうとしている。手なんて抜いてはいない。今苦戦しているペト達を助けようと、必死ですらあった。

 

 それでも、リアス達は力を出せない。

 

 リアス・グレモリー眷属は、リアス・グレモリーを頂点としている。

 

 リアス・グレモリーは非凡な才能の持ち味だ。こと、人との巡り合わせにおいては真似できるものがいないレベルに達している。

 

 リアス・グレモリーの眷属はリアスに拾われなければ、人生が終わっていたかもしれないほどの過程を辿っている者が多い。その要素が段違いに薄いゼノヴィアとロスヴァイセすら、勝ち組と言っても過言ではない境遇から、どん底に落とされたと言っても過言ではなかった。他のメンバーに至っては、リアスに拾われなければ死んでいたものが全員だと言ってもいい。

 

 その来歴と慈愛にあふれる性格ゆえに、リアス・グレモリーは眷属悪魔達に絶大な信頼を得ている。

 

 だが、それに勝るほどに重要なのが兵藤一誠だ。

 

 リアス・グレモリーの眷属で、兵藤一誠に救われたことがないのはロスヴァイセだけだ。

 

 それ以外の全員が、心の闇を、どこか抱えていた傷を、兵藤一誠によって救われている。

 

 もちろん、お世辞にも立ち回りが上手とは言えない彼は、上手く解決した事はないだろう。

 

 だが、常に仲間達に寄り添い、問題に真正面からぶつかるのが兵藤一誠だ。その在り方が問題解決の一助となり、それが打開の切っ掛けになったのは言うまでもない。彼がいなければ、一生この問題を抱えていた者だっているだろう。

 

 ゆえに、兵藤一誠はリアス・グレモリー眷属の柱なのだ。

 

 ペト・レスィーヴはそれが分かっている。

 

 自分だって似たようなところはある。近い経験をしている。

 

 リセス・イドアルがいなければ、自分は今でも塞ぎ込んでいただろう。疼く体に折り合いをつける事ができず、悶々としていただろう。下手をすれば、人生の道筋を踏み外していた可能性がある。

 

 そして、ヒロイ・カッシウスがいなければソウメンスクナとの戦いで動けなかったかもしれない。そうなれば、リセスを失い、ペトは再び闇の中で塞ぎ込んでいただろう。

 

 自分にとっての2人が、グレモリー眷属にとってのリアスとイッセーだ。そう考えれば、この状況も納得できる。

 

 再起不能すらあり得る精神的致命傷。そんなものを負っている状態で、いくら窮地といえどそう簡単に動けるものか。

 

 それができるほど、彼女達は悲劇に慣れていない。最愛の者との死別は、それほどまでに激痛なのだ。

 

「ああもう! なんでこのタイミングで来るっすか!!」

 

 ペトがそう吐き捨てるのも当然だ。

 

 せめて意識を切り替える為の切っ掛けになればいい。そう考えてアジュカ・ベルゼブブのもとに訪れれば、まさにそのタイミングでヴィクターが襲撃をかけてきていた。

 

 それも、最強の魔剣を持つジークと、神滅具を保有するニエのセット。プリス・イドアルもヒロイ相手に足止めに成功しており、決して弱くない。とどめにリムヴァンはアジュカを眷属ごと足止めしている。

 

 明らかに絶対的窮地。泣きっ面に蜂とはこのことだ。

 

 ゆえに、立ち向かう事ができるペトとヒロイとリセスで状況を打破するしかないのだ。祐斗が動けるのが幸運だと言ってもいい。

 

 そして、現状は明らかに不利だ。

 

 ジークのターゲットにされている為、広域殲滅ができるリセスはドーインジャーを潰せない。しかも、ニエと戦っている状況である為、精神的にこちらも割と不調だ。

 

 同格であるヒロイが一発逆転の為にニエを狙ったが、プリスによって足止めを喰らっている。このままではこちらが押し切られる。

 

 祐斗の援護は想定外の好機だが、しかしジークの技量はそれを凌ぐ。

 

 そして、ペトは狙撃手であることが本領なのだ。

 

 狙撃以外はどうしようもないと言ってもいい。それをカタログスペックで強引に押し切るのにも限度がある。オーフィスの助力によって性能が最上級になろうとも、ペトの技量は一段下の相手にも食い殺されかねない程に低い。

 

 性能向上に伴いある程度の弾幕も晴れるが、それにも限度がある。ペトの戦闘スタイルは、遠距離からの支援射撃が基本なのだ。

 

 味方と組んで初めて真価を発揮するタイプ。ゆえに単独で食い下がれている事がまず幸運だった。

 

 そして、その戦線のバランスは明らかに苦戦を強いられている。

 

 食いつかれている。削られている。追い込まれている。

 

 このままでは持ち堪える事はできず、そしてまさに今―

 

「―こんなものか」

 

「クソッタレッス―」

 

 ニエの生産速度とペトの殲滅速度の天秤が、遂に限界を超える。

 

 一部のドーインジャーが弾幕の壁を越え、剣を生み出しながら切りかかる。

 

 メインターゲットはグレモリー眷属の象徴である、リアス・グレモリー。

 

 ペトは弾幕を止める事ができない。そうなれば、他のメンバーも全滅させられる。

 

 そして、どちらにしても終わりだ。兵藤一誠という精神的主柱を失ったうえで、リアス・グレモリーという精神的象徴をなくせば、もうグレモリー眷属は終わる。

 

 そしてこの場にいる誰もが手いっぱいで、誰一人として助けに行くことができない。

 

 ゆえに、この状況下ではペト達は詰んでおり―

 

「―駄馬が失礼します!!」

 

 ―それを打開するのは、新たな登場人物に他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―なんだ?」

 

 ニエ・シャガイヒは新たな参入者に目を細める。

 

 リセス以外を殺すのには抵抗があったが、状況はそれを許さない。

 

 自分からドーインジャーの展開を約束したし、どうせ彼女達はリセスを殺すことを妨害する。

 

 どちらにしても、リアス・グレモリー達は殺すしかないのだ。

 

 それに胸を痛めながらも、しかしニエは行動に移れた。

 

 自立駆動を行うドーインジャーであるから、妙なタイミングでの失敗は起きなかった。その幸運を最大限に発揮して。ニエは、サポートを適格に運用した。

 

 そして、その牙は届いたはずだった。

 

「―微力どころか無能な働き者一歩手前ですが、助太刀します!!」

 

 ものすごく後ろ向きな事を言う少女が、リアス・グレモリーを狙うドーインジャーを切り捨てた。

 

 薙ぎ払うのはハルバード。装飾が施されたそれは、儀礼用にも思えるが、その性能は桁違いだった。

 

 一瞬での薙ぎ払いで、ドーインジャー数体が両断される。

 

 中級悪魔クラスなら互角に渡り合う事ができる、2型のドーインジャー。

 

 それが、一瞬で両断された。

 

 ……その光景に、アジュカ達以外の全員が大なり小なり驚きの感情を浮かべた。

 

 シシーリア・ディアラクは強い転生悪魔ではない。

 

 神器は確かに対悪魔戦で効果がある為、レーティングゲームでの価値は割と高いだろう。単独で上級悪魔を倒しうる可能性もある。

 

 だがそれだけだ。ペトと同様に、技量が低い。

 

 悪魔でないドーインジャー相手ではその能力を最大限発揮する事もできない。真正面から戦えば、間違いなく単独でも押し切れるはずだ。

 

 それが、あっさりと2型のドーインジャーを仕留めた。

 

 それに対してニエは敵が増えた程度の認識しかしていない。自立戦闘兵器であるドーインジャーは意にも介さない。

 

 ゆえにむしろ突破してくるドーインジャーは多くなり―

 

「私は雑魚ですが―」

 

 それが本格的になる前にシシーリアは突貫し―

 

「―武器の性能が違います!!」

 

 ―そのまま一気に薙ぎ払った。

 

 ハルバードはポールウェポンに属する武装だ。

 

 薙ぎ払いによる広範囲攻撃は効果的である。更に聖なるオーラによる出力がより大きな範囲攻撃を可能とした。

 

 そして、一気に状況が元通りになる。

 

 それどころか、趨勢は若干だが逆に傾いた。

 

 真正面から、シシーリアという存在が状況を覆す一歩手前にまで追い込んだ。

 

 そして、その種に勘付いた者はただ一人だった。

 

 既に知っているシシーリアとアジュカ達ではない。その種を不意打ちで知りながら把握したのは、リムヴァン・フェニックス只一人だった。

 

「……なるほど。直接使ったらドーピングになるけど、装備として運用するなら取り外しが効くってわけか。しかも外付けにすることでデメリットも緩和できる、と」

 

 苦笑とともに、リムヴァンはアジュカに視線を向ける。

 

 そこにあるのは、複雑な感情だった。

 

「苦肉の策ってやつだね。僕達はそこまでするしかない相手ってわけだ」

 

「……リムヴァン・フェニックスに対して、酷い事をしている自覚はあるさ」

 

 それに、アジュカ・ベルゼブブもまた苦笑で答える。

 

 二人の間でしか分からないものに、その場にいた者達が怪訝な表情を僅かに浮かべた。

 

 そして、それはすぐに消えさる。

 

「まあ、自業自得だから僕は何も言わないよ。ちょっと恨めしいけどね」

 

「それもそうだな。俺としても、偽っている君に負い目を感じる必要はないか」

 

 その言葉と共に、超越者同士の戦いは再開された。

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