ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
俺は、彼女の輝きに焦がれているだけなのだから。
まあ、そりゃそうだよな。
三大勢力は何処も痛い目を見たが、だからといって全員がもう戦争嫌って思うわけじゃない。
コカビエルがいい例だ。あいつはあくまで堕天使の中で戦争再開を目論んでた一人。
教会のお偉いさんや悪魔祓いだって、結構な割合で悪魔と堕天使を滅ぼす為の牙を研いでいる感覚の奴らは多かった。
悪魔だって、旧魔王派程血気盛んじゃねえけど戦争再開を目論んでるやつもいるだろう。
その悪魔が、魔王ルシファーが和平を結ぶつもりだなんて知ったらどうなるかわかったもんじゃない。
其の為の護衛って仕事で成果を上げて、其れで俺の助命をよりしやすくするって腹か。
いや、良い人で良かった良かった。悪魔にも良い奴はゴロゴロいるんだな。実感したぜ。
俺の助命の為の理由作りまでしてくれたんだ。精々頑張るとするか!
「それはともかく今はこの桃源郷を目に焼き付けねば!!」
「焼き付けんな!!」
後頭部に衝撃が走る!
「イッセー! てめえ、籠手まで出して殴るか普通!!」
「俺の部長に色目使ってるからだろうが!!」
「あんなナイスバディに色目使わねえ方が問題あるわ!!」
俺とイッセーは胸倉掴みたいけど掴めねえ。
なぜって?
それはね、俺達が水着だからだよ。
俺たちは今、プールにいる。
駒王学園のプールだ。
なぜかって? リアス・グレモリーこと俺の暫定的な監督役になったお嬢が生徒会に依頼されたからだ。
代金はプールの使用権。つまりプールをオカルト研究部で独占するというこった。
で、俺もご相伴に飽津駆らせてもらってるってわけだ。
わけなんだが―
「私のイッセーに色目を使わないでくれる!?」
「いいじゃない! 別に告白してるわけでもないんでしょう!!」
今、壮絶な戦いが切って落とされていた。
お嬢と朱乃の姉さんが壮絶な戦いを繰り広げてる。
いや、あんた等普通に上級悪魔クラスだから、ヒートアップするとプールが吹っ飛ぶんすけど。
アーシアと小猫は泳げるようになる為の特訓で疲れて眠ってるし、これ、俺が止めんといかんの?
でも、これ止めたら矛先が俺に向けられそうだしなぁ。仮にも監督役とその側近に手を出したら、一気に悪魔側の上が俺の助命に文句付けそうだしなぁ。
「よし、逃げよう」
俺はそう結論付けると、退出を開始した。
こっそりと忍び足でプールから離れると、そのまま更衣室に向かい―
「―イッセー、私と子供を作らないか?」
―その言葉を聞いた。
「ちぃょっとむぅわったぁ!!」
強引に女子更衣室の扉をけ破り、俺は突入する。
そこには、上半身裸のゼノヴィアに迫られるイッセーの姿が。
「ひ、ヒロイ!? ちょ、ちょっと待ってくれ。俺も状況が全く分かんねえんだ!!」
「鼻血流してる当たり肝心なところはわかってそうだがな」
流石ゼノヴィアだ。スタイル良いぜ。
っていうかいきなり何言ってんだこの阿呆は。
お嬢がイッセーに懸想してるのは、短い付き合いですでに分かってんだけど。っていうかイッセーは何で気づいてないんだ?
主が狙ってる男寝取ったなんて知られれば、ただじゃ済まねえぞアホ。
「……ふむ、そういえば君でもいいかもしれないな。ヒロイ、私と子供を作らないか?」
「「えぇえええええ!!!」」
俺たちは渾身のツッコミを入れた。
え? なに? 3ピー!?
うっそぉ!! まじで!! そんなアブノーマル!!
などとパニックになりながら、俺はしかし気を付けないといけない。
仮にも信心深かったゼノヴィアが、なんでいきなりそんなことを?
「お、おいゼノヴィア! どういうことか説明しろ!! 何がどうして血迷った!」
「……ふむ、確かに説明は必要か」
ゼノヴィアはそういうと、遠い目をした。
「ヒロイの叱咤もあって、私は主の死を知ったうえでなお信仰に生きようと思った。それは確かだ」
あ、ああ。それがなんでいきなり淫行を?
「だが、バチカンはデュランダルを切り捨ててでも主の死を知った私を追放した。その後は君たちも知っての通り、やけっぱちになってリアス部長の眷属となった」
確かにひどい話だ。主の死を知っても信仰捨てねえ信心の徒を切り捨てんだからよ。
しかもデュランダルの使い手とデュランダルのセット。将来的に最上級悪魔だって倒せそうな戦力を、上はあっさり切り捨てた。
それほどまでに厄ネタってわけか。主の死って知った時点で教会にデメリットでもあんのかねぇ。
「なんというか、私は途方に暮れていた。そこで、リアス部長にどう生きればいいのか聞いてみたんだ」
そしてお嬢はこう答えたらしい。
悪魔は欲に生きるもの。好きに生きなさい。
「そこで、私は信徒として生きていた時に投げ捨てていた女の喜びを追求しようと思ったんだ。そう、子作りだ」
な、なるほど。言いたいことはわかった。
確かに子を産むってのは女だからこそできる喜びかな?
「そしてどうせなら強い子がほしい。そういう意味では二天龍であるイッセーや、神器をいくつも宿しているヒロイは血統的にすごそうだ」
け、血統ですか! 確かに俺やイッセーは神器関係ですごい引きがいいし、血統としては良いのかな?
「ああ、子供ができた後のことは気にしなくていい。基本的には私が育てる。ただ、父親からの愛を望んだら、その時は遊んでやってくれ」
すでに人生設計までし始めてやがる!?
い、いやいやいやいや。
「ちょっと落ち着け、お馬鹿!!」
俺は勢いよくゼノヴィアの肩をつかんだ。
「お前は今高校生になったばかりだろ!! この国保守的だから、フィクションはともかく現実で高校生ママは難しいんじゃねえの!?」
「いや、しかしこういうのは早い方がいいと―」
「勇敢と無謀は違うっつの!! いいか、落ち着け!!」
俺は渾身の想いを込める。
「エロいことするのはいい。俺もお前みたいなスタイル良い美人とエロいことできるのは最高だ!」
「あ、ああ! 最高だよな! 超最高だよな!!」
イッセー黙ってろ!!
「ってか童貞卒業がお前みたいな美人とか最高だよ! 人生の自慢になるね!!」
「……ヒロイ、さんざん風俗に行きたいとか言っておきながら童貞だったのか?」
そこはどうでもいいですよゼノヴィアさん!!
だが、しかし!!
「ゼノヴィア! 学生生活ができるだなんてすっごいいいことなんだぞ!」
おれは、そこが黙ってみていられない。
「勉強がしたくてもできない奴なんていくらでもいる! そもそも勉強ってものがあることすら知らねえ奴ら何て腐るほどいる!!」
ああ、俺がそうだ。
勉強ができるってのは、実はすごい恵まれてるんだ。
この広い世界、ヨーロッパですら、勉強をすることができない人は数多い。
俺は教会の孤児院に送られてから、悪魔祓いとしていろいろなことを学んだけど、それができることがどれだけ幸せかわかってないぞこいつは。
「せっかくできたそのチャンスを捨てるような真似はすんな!! できない奴に失礼だ……なんていうつもりはねえけど、しそこねて後悔するのはお前だぞ!!」
せっかく学校に通うことができるのに、それを台無しにしかねないのは黙ってられねえ。
「いや、しかし悪魔は子供が作りにくいらしいし、十年ぐらいは大丈夫だと―」
「一発ぐらいは大丈夫ってよくある話だっつの!! 悪魔祓いの中にもこっそりやらかして追放された奴いただろ!!」
一回劣情に駆られてそれが致命傷になったやつとか何人かいたはずだぞ!! 忘れてんのかたまたま聞いてねえのか、どっちだ!!
俺の渾身の説得に、ゼノヴィアは考え込んで、うなづいた。
「……そうか。わかった」
わかってくれたか。
「今は練習で我慢しよう。そうだな、子作りは子供を作らない子作りも楽しいというし、悪魔らしく退廃的な生活を送るのもいいかもしれないな!!」
そう来たか!!
「だがそれならオールオッケーだ!!」
「今の流れでそれはねえだろぉ!?」
イッセー、渾身のツッコミ。
ちなみに、避妊用の道具がないので結局お開きになりました。
あと、お嬢に「イッセーの貞操を捨てる方向に誘導されるとはどういうことかしら?」と説教されたが、それはまた別の話だ。
「くそぅ!! 俺の初体験が!!」
「ヒロイ、血涙流すなよ」
俺はイッセーに慰められながら校門へと向かって歩いていた。
はあ、この歳だと風俗店行けないらしいし、こんなことなら俺の年齢は十八だって嘘つけばよかった。
「くっそぉ! どうしたら俺はエロいことができるんだ! 英雄色を好むというのに、俺は色事を楽しむことができねえ!!」
「俺は英雄ってよくわからないけどさ、お前は形から入りすぎだと思う」
馬鹿野郎。見てくれってのは大事だろ。
「しっかし赤龍帝の血かぁ。俺のハーレムって、そういう方向で行ってもいいのかな?」
「別にいいんじゃねえの? ほら、野生の世界って強い雄が一夫多妻って珍しくねえし?」
『まあ、ドラゴンはドラゴンでハーレムを作るなど珍しくもないしな。相棒には前にも言ったが、歴代の赤龍帝は異性に囲まれてない方が珍しかったぞ』
ドライグがそんなこと言うが、そうなのかよ!
マジか。聖槍の使い手もモテたんだろうか?
『聖遺物の持ち主がそれはどうかと思うぞ?』
「うっせえよ!!」
そんな馬鹿話をしながら歩いていたら、視界の先に男が映る。
俺と同じで明らかに外人だとわかる男。
年齢も俺達と同じぐらいか? しっかしイケメンだな。くそむかつくぅ。
絶対女に不自由しねえだろ。そしてこういうやつに限って女がらみで遊んだりしねえんだ。くそ、恵まれてることを理解してねえ。
そんな愚痴を心の中でこぼしていると、その男がこっちに気づいて顔を向けた。
「やあ。良い学校だね」
「え? あ、どうも」
イッセーがそうなんとなく返すが、俺はその瞬間に気が付いた。
……こいつ、超できる。
とっさにイッセーをかばうように前に出ると、俺は静かに戦闘態勢を取る。
「……サーゼクスさんの部下か何かか?」
「え? ヒロイ、どういうことだ」
いや、悪魔の縄張りに実力者が来るなら、悪魔の関係者の可能性はあんだろ。
むしろそうじゃなかったら問題じゃねえか。
だからそうだと言ってほしいんだが……。
「ああ、俺は今代の白龍皇のヴァーリだ」
……最悪だぁ。
総督のアザゼルにしろ、白龍皇にしろ、堕天使は何考えてんだ!
「何しに来やがった。今三大勢力はピリピリしてんの忘れたか?」
「ああ、警戒しなくていい。ここに来たのはただの興味本位だ。俺の宿命のライバルがどんな男か見てみたかったんだ」
確か白龍皇はイッセー相手に強くなれとか言ってたんだよな。
既に禁手に至ってんだから、ライバルがど素人に毛が生えた程度ってのは気になんのか?
つまりそそる戦いがしたいタイプってことか。戦闘狂とかコカビエルと気が合いそうなんだが、何考えてんだろうな。
だが、ヴァーリはにやりと笑うと一歩前を踏み出した。
「だが、つい気が変わって赤龍帝に魔術の一つでも掛けたら―」
その瞬間、切っ先が三つほど突き付けられた。
一つは俺。神滅具が相手なら遠慮の必要はないんで、当然聖槍を突き付けた。
一人は木場。今回は別件で参加してなかったはずだが、いつの間にやら聖魔剣を構えていた。
一人はゼノヴィア。速攻でデュランダル引き抜く辺り、こいつは本当に判断速いな。
しかし、向けられるヴァーリは余裕の表情だった。
「やめておけ。震えているじゃないか」
……そりゃそうだ。
目の前にいるのは神滅具を禁手へと至らせたもの。さらにこっちがボコボコにしていたとはいえ、コカビエルの意識を一瞬で刈り取ったやつだ。
恐怖を感じない程、俺達はいかれていない。
「いや、恥じることはない。相手が格上だとわかるのは強くなれる。そして、コカビエル如きに手こずった君達じゃ俺には勝てない。だからやめておくといい」
余裕の表情でこっちを褒める余裕すら持っている。
なるほど、間違いなくハイスペックだ。コカビエルを取り押さえる為に派遣されてきただけのことはある。
だが―
「舐めるなよ、ヴァーリとやら」
俺は、その切っ先を一ミリほど近づけた。
震えはある。恐怖もある。それは当たり前の戦力差だ。理解している。
だが、
「怖かろうが相手が強かろうが、だからといってむやみやたらに縮こまってるほど、俺は卑怯者じゃねえ」
しっかりと、まっすぐと、奴の目を見返して俺は言う。
「お前が俺の護衛対象の1人に手を出すっていうなら、俺は死んでも腕の一本ぐらいは持っていくぞ? はっきり言ってやる、悪ふざけは状況考えろ」
「……面白いな、君は」
ヴァーリは、心底面白そうにそう言った。
「いっそのこと、君が赤龍帝の籠手を宿していた方が良かったよ。名前を聞いてもいいかな?」
「ヒロイ・カッシウス。いつか英雄として名を遺す男の名前だ。覚えとけ」
圧倒的強者の脅威に震えながらも、俺ははっきりとそう言った。
「ああ、覚えておくよ。いつか君が至って、俺と戦う時を心待ちに―」
そこまで言いかけた時だった。
暴風が吹き荒れ、俺達を押し飛ばす。
そして、その間にいくつもの氷の槍が浮かんでヴァーリを取り囲んだ。
「そこまでにしてくれない? 悪ふざけが過ぎるわよ、ヴァーリ」
その声に、俺達は一斉振り返った。
「……この色々刺激を加えたらいけない時期に、アザゼルにしてもあなたにしてもなんで悪戯に刺激するのかしら? 暴発させるぐらいなら、私は貴方を殺すわよ?」
ライダースーツを身に纏い、そしてヘルメットを脇に抱えた女性。
緩やかにウェーブした金色の髪は適度に伸びて風に揺れる。
そしてまるで貴族のお嬢様とでも形容するべき優雅な身のこなしは、同時にいくつもの戦場を潜り抜けてきた力強さを持ち、姫騎士とでも形容するべき独特の美しさを持っていた。
何より、その瞳は決意にあふれ、自信に満ちた気配を身に纏っている。
……ああ、俺は本当に馬鹿だ。
顔を隠していたとはいえ、彼女のことを見間違えるだなんて。
「何の用だリセス。別に俺は何もしてないぞ?」
「ふざけないで。独断で白龍皇が赤龍帝に接触とか、
氷の槍をいつでも放てるようにしながら、彼女はあの時そのままの笑みで俺達を安心させる。
「ごめんなさい。馬鹿が迷惑をかけたわ。……でも私が来たから安心しなさい」
………きっと、あなたは俺のことなんて覚えてないだろう。
きっとあなたはいつものことといわんばかりに俺達を助けてくれていたはずだ。
それでいい。だからいい。
貴女こそ、俺の英雄なんだから。
「……あの、名前を聞いてもいいか?」
俺は、ついそんなことを言ってしまった。
いや、アホか俺は。このタイミングでそんなこと言うか、普通。
だけど、彼女はちょっときょとんとしただけで、まるで野に咲く花のような美しさで口から歌のように言葉を紡ぐ。
「ああ、あなた聖槍使いね? ……リセス・イドアル、今は堕天使に面倒を見てもらっている、ただのしがない賞金稼ぎよ」
そうか、そんな名前だったのか。
……俺は、絶対一生忘れないことを心に誓った。
「……お姉さまの手をてこずらせんなこの白蛇がぁああああ!!!」
と、そんな風に気取られている間にヴァーリの後頭部にケリが直撃した。
バゴン! とかものすごい音が響き渡る。どう考えても、人間サイズの人型種族の後頭部を蹴る時のような音ではない。
蹴りを放ったのは桃色の髪の少女。歳の頃は俺と同じぐらいか?
で、その轟音とともにヴァーリは当然バランスを崩し―
―ブスリ
「あ」
聖槍が眉間に刺さった。
「ぐぉおおおおお!? こ、これは想定外だ! 流石に聖遺物はキツイ!!」
「え? なに? お前実は妖怪か何か!?」
うっわぁ! これは想定外だぞ!!
な、なんかごめん!!
「ふん! お姉さまに苦労かけた報いッス! 反省するといいスよ、ヴァーリ!!」
「ペト。これは反省する前に激怒すんじゃないかしら?」
「へ? 自分、なにか問題でも起こしたッスか?」
う、うわぁ、ぐだぐだ!!
悲惨なことにリセスはヒロイのことを覚えていません。
残酷なことを言うようですが、ヒロイは彼女が助けた多くに人々の一人でしかないのです。
まあ、上級吸血鬼による町の一角を巻き込んだ大騒ぎですので、詳しく話せば「ああ、あの時の!」ってことになるはずですが、ヒロイ自身もそこまでして思い出してもらうつもりはないわけなのですよ。