ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
俺は、ヴァーリの血を飲み込む。
野郎の血を飲むとかあれだが、今は必要だから仕方がねえ。
和平を謳う三大勢力に雇われてる身として、和平をした北欧の人達に迷惑をかけるわけにはいかねえ。
そして同時に、俺はちょっとやるせない。
怨霊と化した子供達の霊を憑依させた人型ドラゴン。
兵器として生み出され、死体になってもなお兵器として運用されている量産型ミドガルズオルム。
それだけでもちょっと同情する。そして、それ以上に気になっちまう奴らがいる。
それが、人型ドラゴンに憑依している子供達の霊だ。
……よく、フィクション作品では「殺された人が望むのは、残していった者達の幸せだけだ」ということがある。
だけど、現実は違った。
殺された子供達が残された捧腹に遺したのは、怨念と恨みだった。
北欧神話に対する憤怒と憎悪があの子達の根幹。純真であるからこそ、酷い目に遭った事が許せない。
俺は姐さんとニエを思い出す。
姐さんは、ニエをしに追い込んだ罪滅ぼしとして英雄になってたくさんの人を救う事を選んだ。自分の弱さからの逃避もあったけど、それでも立派な事をして罪滅ぼししようとした。
それを、ニエは認めなかった。顔も知らない誰かを救う為の生贄にして罪滅ぼしだなんてありえないと言った。
ようは、立派な奴と普通な奴の違いだって事だ。
普通の奴は、無辜の民の為に生贄になれって言われてもそう簡単にはできねえ。
当たり前のことを当たり前にやるってのは、意外と大変なんだ。
立派なことをする奴が褒めたたえられるのは、それが普通の奴にとっては大変なことだからだ。
ニエもこの子達も普通の奴だ。
だから奪った奴らを憎む。和平なんて認めない。
何故なら、奪われた憎しみを飲み込んで平和を作るなんてのは、立派な奴のする事だから。それは普通の奴には出来ない事だから。
『―邪魔するな』
『―お前もあいつらなの?』
『―なら、ぶってやる』
その普通の怨嗟に、俺はまっすぐに向き合う。
「―悪いな、それでもここは譲れねえ」
確かに、悲劇があった。
恨みもあるさ。怒りもあるさ。俺だって、何かやらかした奴には落とし前をつけさせるべきだって思う。
だが、それでも―
「―あんた等はタガが外れてる。その恨みつらみは、それ以上の苦しみを生んじまう」
ああ、そうなんだよ。
恨みつらみの清算は、すっげえ難易度が高い事なんだ。
無駄に犠牲を増やしたら、その恨みつらみで今度はまた同じ事が起こっちまう。
そして、人を導くに値する立派な人達がそれを飲み干して前に出ようとしている。より良い未来を創ろうとしている。
……俺は、そいつらに雇われてる。
「世の中はいつもこんな事だらけだ。綺麗事を通すのにも力が必要で、そういう事が出来る奴らに限って、やりたい事ばかりやりやがる」
ホントに世の中は理不尽だ。そんなもんは、俺だって痛いほど分かってる。
何にも悪い事してねえ奴が、炉端に転がって野垂れ死ぬ事だって珍しくもなんともねえ。
生まれついた時点で人生ハードモード。誰かが手を差し伸べてくれなきゃどうしようもない。そしてそういうところに住んでる連中に限って、大半が自分のことばかり考えるしかねえ環境だ。
そして、そんな彼女を迎え入れてくれた場所の連中は、立派に頑張って世の中をよくしようとしている。
それを、邪魔されるわけにはいかねえ。
「……悪く思えよ。俺達は、もっと世界を良くする為に、あんた等を踏みにじる」
俺は覚悟を決める。
何かを救うということは、何かを救わないということ。
誰かを守るということは、誰かと敵対するということ。
誰かを選ぶということは、誰かを選ばないということ。
そう、俺はこの子達を選ばない。
俺はもう選んだんだ。なによりも、リセス・イドアルの英雄でいることを。
三大勢力の和平という道を選んだんだ。
「一生恨め。俺がお前らにできるのは、それ位しかねえからよ」
その言葉と共に、俺は龍殺しの魔剣を生み出した。
神器は想いに応える。所有者の心を力にする。
ゆえに覚悟を決め直した俺に神器が答えてくれるのは当たり前だ。
ドラゴンの血を飲ませるのは手っ取り早い神器の制御方法。魔王血族の血は、神器のドーピング剤の原料。
だったら、この結果は必然だった。
……戦いは、一瞬で決した。
Other Side
ヴァーリ・ルシファーは祝詞を紡ぎ、極覇龍を展開する。
戦いは一瞬で決まる。いや、決めなければならない。
極覇龍を維持できるのはごく僅かだ。それも、目の前の敵を倒すには最大出力を叩き込む他ない。その消耗は絶大で、一発でガス欠を起こすだろう。
一撃で倒すか、失敗して負けるか。この二つしか結果はない。
そして、負けるという選択肢だけは存在しない。
この男を通してしまえば、どの程度かは分からないが母親に害が及ぶ。その子供達にも害が及ぶ。その夫にも害が及ぶだろう。
その可能性がある。それだけで、ヴァーリが捧腹を倒すには十分すぎた。
「覚悟を決めてもらう。……お前は、ここで死ぬ」
「言ってくれるな蜥蜴と蝙蝠のキメラ風情が。……邪魔をするなら貴様から殺してくれる」
双方ともに覇の領域。そして、その力は天にすら届く。
ゆえに、決着は一瞬でつく。
………その一瞬が集中力で桁違いに長く続く中、ヴァーリは決意する。
自分は数多くの無辜の民を救うような人物じゃない。柄じゃない。器でもない。
そういうのは相対する兵藤一誠の在り方だ。自分には性に合わない。
だが、そんな自分でも守りたいものができた。守り合う仲間達ではなく、守りたい大切なものができた。
あの大切な
魔王の末裔である自分と、ただの人間である彼女達との間には寿命の差はあまりにも大きい。振り返れば瞬きほどの時間だろう。
だが、その瞬きはいつまでも連続する。
自分の弟妹も結婚して子供を作るだろう。そしてその子供達も結婚して子供を作るだろう。生きとし生きる者達は、そうして繁栄していくのだから、当たり前のことだ。
その瞬きほどの時間の連続を、自分は生涯守り続ける。
ああ、今なら分かる。
兵藤一誠がここまで強くなれたのは、守りたいものがあるからだ。
それは足を引っ張る。枷にもなる。欠点にもなる。
だが、時として叩き込む拳を重くする武器にもなる。強風から身を守る重しにもなる。
……悪くない。
ゆえに―
「……俺の、勝ちだ」
「これが、天龍……」
放たれた十束剣を避け、捧腹に致命の一撃を叩き込めたのは当然なのだろう。
確実に致命傷を与えた。すぐにでも捧腹は死ぬだろう。
別段気にするような相手ではない。事情に関しては少々は同情するが、何かを語るような相手ではない。
だが、自然とヴァーリの口は動いていた。
「悪いな。俺にだって絶対に侵されたくない聖域がある。龍の逆鱗を知らずに触れた、自分の不幸を嘆くといい」
「なるほど、因果は……巡るものか」
その言葉に捧腹は苦笑し、しかし強い視線をヴァーリに叩き付ける。
「ならば、その聖域が滅びれば、貴様は私になり果て、るの……だろう、な……」
そのまま死んでいく捧腹を、ヴァーリは沈黙と共に見送った。
その言葉を否定はできない。いや、おそらくなるだろう。
なにせ虐待された恨みをしっかりと殺して報復するつもりなのだ。当然の如くそう言う事になるのだろう。
だが、それでもヴァーリは言い切る。
例え届いていなかろうと、それでも自身に対する宣誓もかねて、ヴァーリ・ルシファーは言い切った。
「ならないさ。なぜなら、俺は白龍神皇になる男だ。俺が守り切れないものなど、この世に存在しなくなるのだからな」
もしそれができるとするならば、それはきっと二人だけだろう。
相対するべき存在、赤龍神帝グレートレッド。
そして、自身の宿命のライバルである現赤龍帝兵藤一誠。
そして、その二人が彼女達に手を出す可能性は塵に等しい。
ゆえに、ヴァーリ・ルシファーが捧腹と同じ存在になる事は決してないだろう。
そう、ヴァーリは確信できている自分に苦笑した。
まあ、一瞬の勝負でしたが。
一歩間違えれば本当に魔王として世界を蹂躙しているかもしれないヴァーリ。
ですが、彼がそうなることはそうはないでしょう。
なにせ、彼は史上最強の白龍皇にして、白龍神皇になる男なのですから……