ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ   作:グレン×グレン

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ルーマニアに行く前の日常回。

さあ、本作主人公も原作主人公も真の主人公も日常を送ってるぜ!!


第六章 17

 もう冬も間近の頃だ。室内でぬくぬく過ごしたいというのは誰もが思う感情だろう。

 

 因みに日本より北にあるイギリスはもっと寒い。こういう時はシチューを食べながらまったりとしたい。

 

 で、俺は今何をしてるかというと―

 

「シシーリア。こんなんでいいのか?」

 

「はい。とってもいい気持ちです」

 

 ―ベッドの中で、シシーリアを抱きしめてました。

 

 ちなみに裸だ。一戦交えた後って言えば分かる奴には分かるか。

 

 まあ付き合ってるわけじゃないが、シシーリアは俺にとっても大事な女だ。

 

 輝きそのものである姐さんに次ぐ、俺を輝きにしてくれた女。それは同じ輝きである姐さんを仰ぐペトと同格と言ってもいい。

 

 そしてシシーリアにとって俺は輝き。それに関しては妄想じゃねえって断言できる。

 

 普通なら付き合ってもおかしくねえと思うだろ? 違うんだよなぁ。

 

 ……泣きたい。

 

 だがまあ。それでもなんというかお互いに大事な者同士なのは当たり前だ。

 

 そんなわけで、何かして欲しい事はないかと思い至った。

 

 なにせ俺は金だけはある。ちょっとしたメジャーリーガークラスの年俸を貰っている。

 

 そしてシシーリアは結構金が必要だ。自分と同様だったディオドラの眷属だった女たちの再起のために動いているから、あまり遊ぶ金もねえだろう。将来上級悪魔になって彼女たちの居場所になるなら、金は必要だから無駄遣いできないしな。

 

 だからまあ、何か欲しいものがあったら少しぐらい優遇するべきだと思ったんだが……。

 

「はい。これがいいんです」

 

 シシーリアが俺に望んだのは、俺にぎゅーっとしてほしいということ。

 

 なので、ベッドの中で俺がぎゅーっとしている。

 

 ぶっちゃけそれだけ? もうちょっと何かわがまま言ってもいいんだぞ? っていうか言ってください。

 

 そんな感じの俺の内心。しっかしシシーリアは満足そうだ。

 

「ヒロイさんにギューッと抱きしめられるのは、この駄娘にとっては美酒にも勝る幸せです」

 

 すごくうれしそうで幸せそうだ。

 

 まさに恋する女の子。その念願がかなった感じで、見ていて俺も少しほっこりしている。

 

 女の子のこういう表情はいいもんだ。見るだけで俺も幸せな気分になる。

 

「なあ、いっそのこと付き合っても―」

 

「それはいいです」

 

 現実は残酷だ。

 

 俺はシシーリアのおかげで輝き(英雄)になれたもんだし、シシーリアも俺のことを好いている。

 

 だったら付き合ってもいいだろうと思う。だけどシシーリアはそれを望まない。

 

 俺が長生きしすぎて陰ることを望んでないのがその理由だ。シシーリアは俺を男として以上に英雄として見てるからこそだろう。

 

 だが、それがちょっと残念。

 

 まあ、俺の一番は姐さんなんだが、姐さんも俺を彼氏にしようとか考えない。

 

 ペトも俺は信頼してるんだが、同じくそういう考えを持ってくれない。

 

 そしてイッセーを思い出す。

 

 あいつは童貞だ。まごうことなく童貞だ。未だに童貞でい続けている。

 

 だが、やろうと思えば童貞を卒業できるだろう。だって彼女できたし。

 

 リアス・グレモリーのお嬢という彼女ができた。アーシアたちにも好意を持たれている。歴代最優の赤龍帝にして冥界のヒーローおっぱいドラゴンだから、更にたくさん寄ってくるだろう。

 

 お嬢は独占欲も強いがハーレムを否定しない。冥界も実力者がハーレムを作る事を認めている。そしてイッセー自身ハーレム王になろうとしてる。

 

 なんだろう。俺、もうそろそろ両手の指じゃ足りないぐらい女を味わってるのに、男として根本的なところで負けてる自信があるぞ?

 

 ……あいつ、なんで未だに童貞なんだ? いつでも卒業できるだろう?

 

 その疑問の答えがまさに今示されてる事に気づかず、俺はしかしある意味幸せな時間を満喫していた。

 

 シシーリア、柔らかいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろう。今俺、ヒロイを無性にぶん殴りたい。

 

 そんなことを思いながら、俺は救世主に縋りついて涙こぼした。

 

「ペト。ありがとう……っ」

 

 本当にありがとう、ペト! おかげで色々な意味で助かったよぉおおおお!!!

 

 泣いている俺の頭をなでながら、ペトはジト目をアーシア達教会三人娘に向けていた。

 

「まったく、だからそういうのやめろって言ってるじゃないっすか」

 

 ため息をつくと、そのまま俺をしっかりと撫でる。

 

「よしよし。イッセーはすれてないからそういうのは恥ずかしいっすよね~。一人でこっそりやりたいっすよね~」

 

 もちろんです! エロゲは一人でこっそりやりたいです!!

 

 なんで女の子とやらねばならないんだ! それも、桐生やペトのような匠というかノリ的なものが合うやつらじゃなくて、アーシア達とだなんて!!

 

 恥ずかしい! 恥ずかしくて死にそう! っていうかリアス達と一緒にする羽目になった時とかマジで大ダメージだよ。

 

 あれに比べればサマエルなんて雑魚だね! 心のダメージならあれの方がもっとでかいもんね!

 

「そんな! イッセーさんを一人になんてしません!」

 

「いやしろッス」

 

 涙を浮かべたアーシアに、ペトは鋭いツッコミを叩き込んだ。

 

 そしてハリセンを取り出すと、容赦なく一撃!

 

「あいたっ!」

 

「護衛艦でやめろって言ったっすよね? なんでするッスか? あ?」

 

 ペトさん? なんか、キャラが変わってないですか?

 

 それに対して反感の表情を浮かべるゼノヴィアと、ペトの視線がぶつかり合った。

 

 クロスレンジの鬼神とアウトレンジの死神が睨み合う! でもこの戦い、部屋の中でやってるからペトが不利だよな?

 

「ペト! リアス部長がいないこの時こそ、攻勢を仕掛けるチャンスなんだぞ!?」

 

「いや、イッセーをドンビキさせるだけっス。意味ないっす」

 

 そうだよ! エロゲをやろうぜとか言ってくる女子とか、俺ちょっとあれだよ。

 

 ペトは確かに良い奴だし友達としては好きだしエロい事できるならしたいけど、別に恋人にしたい感じじゃないんだ。

 

 なんというかさばさばした関係がしたい。いわゆるヤ○友? 的な感じ。

 

 断じて彼女にしたいタイプじゃないんだ。俺は恋人とエロゲを一緒にやるなんて、特殊なプレイは求めてない! そういうのは普通な人と一緒にいたい!!

 

「そこ、余計な事考えてるっすね?」

 

 ごめんなさいペト様! 小猫様に匹敵するようになってきてませんか!?

 

 っていうか、ツッコミどころが一番あるのは―

 

「これもミカエル様の為なのよ! 止めないでペトさん!」

 

「なるかッス! っていうか転生天使としてそれでいいっすか?」

 

 うん。ホントにペト正論。

 

 なんでイリナまで参加してるんだよ。お前、一応天使だろうがぁああああ!!

 

「っていうかなんで全裸っすか。阿保っすか?」

 

 心底呆れた表情で、ペトはアーシア達の格好についてもツッコミを入れる。

 

 まあ、勘付いたペトが飛び込んだ時には既に脱いでいたもんな。その理由も聞いてねえもんな。

 

 でも、理由聞いたら頭抱えそうなんだけど……。

 

「いや、桐生から、エロゲをする時は全裸が正装だと教わったんだ」

 

 ゼノヴィアの答えを聞いて、ペトはスマホを取り出すと速攻で電話を掛けた。

 

「……桐生? 後であほな事吹き込んだお仕置きっす。処女膜を破るのは醤油瓶がいいか酒瓶がいいか、考えておくといいっす」

 

 ペトさまマジギレだぁああああ!!

 

 スマホの向こうで、桐生が珍しく大慌てしてるのが分かるけど、ペトは無視してさっさと切った。

 

「ったく。とにかくそこの三人娘。今から基本的な男のエロゲに対する価値観を教えてやるっすから、ちょっと正座する前に服を着るッス」

 

 ……それは良いんだけど、それ、俺も聞くの?

 

 あれ? これはこれで恥辱プレイじゃねえか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リセスさん! 助けてくれぇええええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今何か聞こえたような。ペトとヒロイ、何してるのかしら?」

 

 などと言いながら、リセスはリセスで相談事を受けていた。

 

 今リセスは、ハンバーガーショップでコーヒーを飲んでいる。

 

 そしてそれを奢る代わりに相談に乗ってほしいと言ってきたのは―

 

「……リセスさん。どう思いますか?」

 

 匙元士郎だった。

 

 ちなみに内容は単純明快。

 

 ソーナに自分の気持ちが全然伝わらないのだが、どうすればいいのか。

 

「相談相手を間違えてるわよ、それ」

 

 自分で言うのもあれだが、どう考えても向いていない。

 

 ぶっちゃけ、恋愛経験そのものが非常に少ない。初恋が悲恋という名の自業自得なので、その辺りがトラウマ以外の何物でもないのだ。

 

 エロい事の経験は豊富だが、先ずその段階ではない。ペトとはある意味相思相愛だが、どちらかというと姉妹関係が近い。ヒロイに慕われているし自分も慕っているが、恋愛関係に進める気はない。

 

 はっきり言おう。それならイッセーの方がいいと思う。もしくは木場だ。

 

「あの二人は役に立たない。もうこうなったら、リセスさんだけが頼りなんです!!」

 

「落ち着きなさい。S○Xから始まる恋もあるけど、それはレアケースよ」

 

 だから自分を参考にするのはやめるべきだ。そうリセスは諭そうとする。

 

 だが、聞いてくれそうにない。それ位に追いつめられている節がある。

 

 さて、どうするか。

 

 五秒ほど考えて、ツッコミを入れられること確実の方法を思いついた。

 

「じゃあまとめて私に食べられなさい。下僕という名の恋人関係にしてあげるわ」

 

 むろん冗談である。ツッコミを求めての発言である。

 

 だが、匙は無言だった。

 

「匙?」

 

 嫌な予感を覚えた。具体的にはマジモードで返答されそうな感じだった。

 

 さっさと冗談だと言おうとしたその時。匙はぼそりと呟いた。

 

「……最終手段はそれしかないのか……っ」

 

「しっかりしなさい!!」

 

 思わず手刀を後頭部に叩き込む。

 

 割と加減を忘れた為、匙は顔面をテーブルに叩き付ける羽目になる。勢い余ってトレイにひびも入った。

 

 それで正気に戻ったのか、匙は顔についたシェイクをふき取りながら、しかしため息をついた。

 

「でも、それぐらいしないと会長は振り向いてくれそうにないし……」

 

「いっそのこと、玉砕覚悟で告白するっていうのはどう?」

 

 これは真剣な提案だ。

 

 当たって砕けろというのは残酷かもしれないが、それ位する必要があるのは事実だ。

 

 どうも匙が向けるソーナへの行為は無自覚スルーされている節がある。イッセーの話では、そもそも恋愛対象として見ていない節があった。

 

 あくまで眷属。あくまで弟のようなもの。眷属が恋焦がれている男をそんな風に見るわけにもいかないだろう。そんな感じだ。

 

 確かに、花戎や仁村に好意を寄せられているのはイッセーから聞いている。割とストレートに好意を向けられているところもある。

 

 ……意図的に見ないようにしているソーナより、無自覚にスルーしている匙の方が罪が重い気がしてきた。

 

 まあ、ソーナに夢中な匙に、周りの好意に気づけというのも酷な話だ。むしろ、自分に夢中なのにシシーリアに好意を向けられている可能性を察したヒロイを褒めるべきだろう。

 

 アーシアやリアスのようなあからさまな好意を示されているわけでもないのだから、そこも考慮するべきか。イッセーとは色々違う。

 

 色々違うが、しかしそれにしても大雑把に見るとなんで匙は下位互換なのか。

 

「……まあ、気持ちはちょっとは分かるけどね」

 

 本来なら「もっと長いスパンで見ろ」とでもアドバイスするべきだろう。

 

 悪魔の寿命は一万年を超える。人間の平均寿命は未だ百年にも届いていない事を考えれば、百倍以上の長さだろう。

 

 そんな長い人生なのだから、アプローチはもちろん、関係構築も百倍以上のスパンで考慮しても問題ない。そう言うアドバイスはできる。

 

 だがしかし、焦る気持ちも分かる。

 

 なにせ、リセスも手痛すぎる失恋をした経験がある。それも、自分が裏切る形でだ。

 

 そういう邪悪な男の手練手管にソーナが捕われる可能性がないとは言い切れない。

 

 目の前にそういう相談を速攻で出来る自分がいるし、そもそも自分の過去を知っているんだからその辺りの反面教師も知っている。ついでにいえばソーナは当時の自分とは違って思慮深いのだから、迎撃態勢は抜群だろう。というより下手に手を出すとセラフォルーが動かせる全戦力を投入して叩き潰しに行くはずだ。たぶん相手も仕掛けないだろう。

 

 だが、それはそれとして不安にもなるだろう。

 

 悪い男に誑かされた自分という存在が身近なら、そういう悪い想像が脳裏をよぎってもおかしくない。

 

 そして、匙はそれ以外にも焦るところがあった。

 

「……俺、結局禁手(バランス・ブレイカー)に至らなかったんです」

 

 先日の合同演習の事だろう。

 

 天界の切り札であるデュリオ・ジュズアルド。堕天使側に与する幾瀬鳶雄。この二人もまた、神滅具の保有者だ。

 

 しかも、二人ともそれだけではない。デュリオは転生天使のジョーカーのスートを与えられている、転生天使最強と言っても過言ではない猛者だ。鳶雄は五代宗家の姫島の血を引き、更に生まれながらに禁手に目覚めるという、本来すぐに死んでいるイレギュラーを、様々な幸運に助けられたとはいえ乗り越えた特異な存在でもある。

 

 そして、後天的移植の上で禁手にまで到達させた、自分。ヒロイに至っては他の神器も禁手に至らせている。

 

 最後に、歴代とはまったく異なるアプローチで進化を続けている赤龍帝のイッセー。

 

 彼らにもまれれば、匙も禁手に至るかもしれない。ソーナはそこ迄期待してなかっただろうが、とっかかり程度にはなると思っていた。

 

 実際のところ、匙は大半において苦戦することはあれど至ることはなかった。

 

 別にそれは問題ない。というより、そう簡単に禁手に至るわけがない。

 

 禁手というのは、本来一定以上まで高めた神器が、所有者の精神が大きな変革を遂げた時に至るものだ。長年のトラウマに縛られていた状況から、どのような形であれ一つの克服を見せた自分や祐斗がいい例だろう。

 

 ヒロイもまた、今までとは一線を画すレベルでの輝き(英雄)であろうとする渇望で禁手に至った。聖槍の時も、曹操の猛威に屈しかけた心を奮い立たせたからこそのあの禁手だ。

 

 まあ、それに比べればイッセーは明らかにあれだが、しかしそれでも衝撃的な事だったのには違いない。過剰供給から絶無に叩き込まれるなど、おっぱいが色々とアップダウンが激しかったので、それも一押しになったと好意的に見よう。

 

 だから、ただ強敵に模擬戦でもまれる程度でそう簡単に至ることはないだろう。ソーナにしても、とっかかりの一つになってくれればいいという程度だろう。

 

 だが、匙は思った以上に気にしていた。

 

「……リセスさん。ソーナ会長の夢、知ってますか?」

 

「ええ。誰でも通えるレーティングゲームの学校設立……だったかしら」

 

 それ自体は良い夢だと思う。

 

 そもそも、レーティングゲームは誰もが自由に参加できるとうたわれておきながら、今のところは貴族か貴族の眷属になったものしか参加できないのが現状だ。

 

 冥界での数少ない娯楽であるにもかかわらず選手人口もそこまで多いとは言えないし、その辺りの改善は別にいいのではないかと思う。

 

 その好意的な視線をよく思いながら、匙は自慢げに胸を張る。

 

「その会長の夢が、実現しそうなんです」

 

「って事は、できるの?」

 

 旧家に嘲笑されたと聞いているが、それにしては早い設立だ。

 

 まだ発案者のソーナも学生である。悪魔というのは本当に実力主義なのだろうか。

 

「前にヴァーリを俺達がぶっ倒した事があるじゃないですか。対ヴィクターの戦力育成が主眼ですけど、会長のいう理論を実践するっていうのもありだとする旧家の連中も出てきて、それに乗っかる形でレーティングゲームの学部も併発になったんですけどね」

 

 そういうことかと、リセスは納得する。

 

 確かに、あれはオーディンから特別に認められるほどのものだった。

 

 現政権の旧家には、魔王血族を疎んでいるものも多い。そしてそれを別として、ルシファーと白龍皇を併せ持つヴァーリを脅威と見ているものはかなりの割合でいる。

 

 そんな中、誰一人として禁手に至る事なく、大半が下級悪魔の一上級悪魔とその眷属が、ヴァーリ・ルシファーを何もさせずに倒した。

 

 ヴィクターとの戦いに備えて戦力を確保したい(まつりごと)を司る悪魔からすれば、上手く利用して有効活用したいのだろう。

 

 だから、レーティングゲームの学部も含めたうえで誰もが通える学校を設立する。レーティングゲームの部分は本命ではないが、しかし優れた戦力を集められるのならある程度はお目こぼしをしてもいいだろうといった形なのだろう。

 

「いい感じに大王派に利用されてる気もするけど、それでも誰でもレーティングゲームが学べるのは良い事でさ。それ以外にも、今まで学校に入りたくても入れなかったりした悪魔の受け皿にもする予定なんだ」

 

 そう嬉々として語る匙だったが、しかしすぐに俯いた。

 

 そこには、明らかな不安の色がある。

 

「でも、俺は教師になれるんだろうか……」

 

「まだ気が早くないかしら? 貴方高校生よ?」

 

「でも、俺まだ下級悪魔です。冥界で教師になるには、最低でも中級悪魔にならないといけないみたいで」

 

 なるほど。その辺りもあるという事か。

 

 愛するソーナの夢の力になれるかどうかが分からない。しかもそれが自分の夢でもあるから尚更。それらもあって、迷走しているということか。

 

 だがまあ、それに関しては心配する事はないと思う。

 

 あのヴァーリ・ルシファーを撃退し、魔獣騒動では絶霧の使い手であるゲオルクの結界を強引に破って一矢報いた男だ。

 

 ソーナの眷属では一番強いと認識されているだろうし、何より復活した龍王ヴリトラの宿主をむげには扱えまい。

 

「あなたなら、十年もしないうちに上級悪魔も狙えるわよ。龍王が気にしすぎじゃない?」

 

「そうかもしれませんけど。……そもそも何を教えればいいのかも分からないんです」

 

 匙はそう呟くと、自分の掌を見る。

 

「サイラオーグの旦那は、格闘技を教えたいみたいです。でも、俺は何を教えられるのか分かりません」

 

 心底不安に揺れる匙に、リセスは―

 

「―馬鹿でしょ、貴方」

 

 ―はっきり切って捨てた。

 

「あ、酷い!?」

 

「酷いも何も、高校生が何を言ってるんだか。そんなことを気にする前に大学部に進学することを考えなさい」

 

 と、リセスはさらりと答える。

 

 その表情はあくまで笑顔だ。

 

「人にものを教えれるようにする授業を大学ではしているのでしょう? 教育学部っていうんだったかしら」

 

 そう、幸いにもこの日本は学業においてはそこそこ恵まれている。

 

 義務教育を受ける事が出来るし、それなりの高等専門学園もある。大学などは進路に合わせた学部までもある。

 

 その中には、教職を目指す者の為の学部もある。駒王学園の大学部も、確か併発していたはずだ。

 

「そこで「人にものを教える能力」を鍛えながら、そのうえで「何を教えるのが向いているか」考えればいいのよ。色々あるでしょ、教えられる事なんて」

 

「そ、そうっすか」

 

 ちょっと疑問の感情を顔に浮かべる匙に、リセスはもちろんと言いたげに胸を張った。

 

 厳密には自分が胸を張ることではないが、しかしここは張っておいた方が説得力があるだろう。

 

「人間世界出身なら、人間世界のことを教えればいい。悪魔は言葉は分かるけど文字は分からないんだから、英語なり日本語なりを教えて読めるようにするだけでもだいぶ変わるでしょ。日本文化についてある程度の理解を教えられるだけでも、日本に派遣された悪魔は契約がスムーズにいくでしょうね」

 

「……そ、それもそうですね」

 

 少しだが納得した匙に、リセスはぽんと肩に手を多く。

 

「勉強ができない人ってのは、私達が義務教育で真っ先に学ぶ事だって分からない事が多いらしいわ。ヒロイがそう言ってたから、それを教えるだけでもだいぶ変わる。……案外、真面目に人に教えることを勉強すれば、教育が未発達の冥界ならいろいろ教えられるでしょう。そこから上は、教えながら勉強していけばいいわよ」

 

 そうだ。教師になったら学ぶ事が終わるわけではない。

 

 想定外の質問が子供から飛び出る事もあるだろう。それを経験したら、今度はフォローできるように勉強する。そして同じ事にならないように他のパターンも考慮して学ぶ。

 

 そういう、教師になってからの勉強だってもちろんある。

 

「私達は一通りの戦闘訓練も経験もしてるけど、それでも修行してるでしょ? 教師も多分そんなものよ」

 

「リセスさん……」

 

 よく分からないなりに考えて励ましたが、どうやら匙には効果があったようだ。

 

 匙はなにかに頷くと、そのまま勢いよく拳を握り締める。

 

「分かりました! まずは日本のひらがなを教える事からでもいいんですね! それ位なら、頑張れば行けるかもしれないです!!」

 

「……一応言っとくけど、アイドル関係でやけを起こして高校まで辞めた女の意見だからね? 専門家の意見をきちんと聞いてね?」

 

 ちょっと励ましすぎたようだ。変な方向に暴走しなければいいのだが……。

 

 そんな不安を覚えたその時、スマートフォンに着信があった。

 

 取り出そうとしていると、匙もまた同じようにスマートフォンを取り出している。

 

 ……胸騒ぎがして、すぐにメールを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ツェペシェ領でクーデター勃発。緊急会議を開くので、グレモリー・シトリー両眷属は兵藤邸地下に集合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、既に大騒ぎの種はばらまかれているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 





日常回を一話でまとめようとしたら、かなり長くなってしまって申し訳ありません。










そして、そんな日常をぶち壊しかねない悪夢の宣言はあと少しで……
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