ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
まあ、これはリセスがいるとできない視点なもので。
ってなことになっても、俺たちはどうすることもできないまま数日が過ぎた。
ギャスパーはよくヴァレリーと話してるし、俺たちもお茶会に誘われることもある。
どうもヴァレリーはかなり自由にしてるらしい。それも、ほぼ毎日だ。
普通お飾りのトップだってもう少し公務があると思う。俺たちの国の天皇陛下も、そういう仕事はいっぱいあるって聞いたことがある。
ってことは、ヴァレリーは本当に聖杯以外あいつらに利用価値を見出されてないってことなのか。
……しかも、マリウスが不穏なことを言っていた。
ギャスパーがヴァレリーを開放してほしいといった時に、あっさりと「開放する」と言ってのけたのだ。
ギャスパーは素直に喜んでたけどおかしすぎる。
今のツェペシェにとって聖杯は貴重すぎるはずだ。ヴィクターとの同盟を結ぶにしても、それ位の何かが無ければ地位は確保できないと思う。それどころか、聖杯がなくなればカーミラもすぐに仕掛けてくるだろうし、追い出された王様たちも反撃するはずだ。俺たちだって、聖杯の力がないとわかればさっさと侵攻部隊が仕掛けてくるだろう。
そんな命綱を手放すわけがない。マリウスは何かを考えてる。
俺は、レイナーレとの戦いを思い出す。
レイナーレに神器を奪われたアーシアは一度死んだ。神器の引き出しはそれだけでほぼ確実に死に至るからだ。今でも神滅具クラスは絶対無理のはずだ。リムヴァンならできるらしいけど、どうも来てる感じじゃない。
まさか、マリウスの奴は……っ!
それにギャスパーのこともある。
ギャスパーの親父さんから聞いた話は、結構衝撃的だった。
ギャスパーのお母さんは発狂して死んだ。生まれたギャスパーを見たショックで気をやられたらしい。
そこにいたのは、人の形すらしてない闇の塊だったそうだ。
しかも、産婆たちは短い時間で呪いで死んだらしい。ギャスパーのお父さんはギャスパーが原因だと思っているらしい。
……ギャスパーのお父さんは、ギャスパーのことを終始「あれ」といっていた。
自分達と同じ吸血鬼どころか、生き物としても扱いたくないのが見えていた。
ここに、ギャスパーの居場所はない。
だけどまあ、そっちは何とかなる。
生まれが何であれ、ギャスパーは俺と同じリアスの眷属悪魔だ。吸血鬼でも人間でもなくても、あいつは転生悪魔だ。その辺はみんな一緒の考えだ。
ギャスパーのお父さんも、ギャスパーにとってそれは恵まれたことだと言ったぐらいだ。あんな態度の人にまで言われるぐらいなんだから、自信満々で今のギャスパーは恵まれてるって断言できる。
よし! だったらちょっと気合入れるか!!
今は時間つぶしにツェペシェの領内を散策してるけど、戻ったらアザゼル先生に相談だ!
俺はそう気合を入れて前を向くと―
「あ、赤龍帝」
「……うわぁ」
「ニエ、プリス、どうした?」
そこに、ニエとプリスとリリスがいた。
……敵の腕利きじゃねえかぁああああ!!!
おいちょっと待とうよ! なんでこんなところにいるの!?
ここ一応、まだヴィクターについたって声明は出してないよね!? っていうかお飾りにしても代表が町中うろつくなよ!! ニエもあんだけ堂々と冥界のテレビ中継の前で暴れておいて、なに変装もしないで出てきてんの!?
いろいろ頭の中でツッコミを入れていると、一緒についてきたゼノヴィアとイリナが獲物を構えようとする。
まあ当然だろう。リセスさんにも非があるとはいえ、徹底的にリセスさんをいたぶったやつだ。俺たちからしてみるといい感情はない。
だけど、それより先にニエは両手を上げると降参のポーズをとる。
な、なんだ?
「……どういうつもりですか?」
ロスヴァイセさんがそう聞くと、ニエは苦笑いを浮かべた。
「仕方ないじゃないか。避難も住んでない街中で僕らが戦ったら、ここの人にたくさん被害が出るじゃないか」
そ、それもそうだ。
見れば剣呑な雰囲気に、街の人たちが集まっている。
こんなところで俺たちクラスが暴れたら、すごいことになるよな。
「そ、そうだよ! 先に仕掛けた三大勢力の方がたたかれて、マリウスが喜んでヴィクターとの同盟を宣言するからね!? やめた方がいいよ?」
と、ピンときたのかプリスがそう言って俺たちを説得する。
そ、そうだよな。
もうツェペシュは九割ぐらいヴィクターだし、仕掛けるための準備もきちんとしてる三大勢力だけど、それでもまだ仕掛けていない。
明確にヴィクターについたって声明をツェペシェ現政権が出してないからだ。証拠があればまた別の話だけど、証言だけで物的証拠がない。
そんな中で俺たちがいきなり暴れだしたら、それこそヴィクターにとって都合がいいはずだ。
町中でいきなり暴れだすような危険人物が、三大勢力では英雄扱いされている!!
なんてことになったら大変だ!!
で、でもここでただ見逃せるほどこの三人はどうでもいい奴じゃないしなぁ。
神滅具移植者のニエ。神滅具使いとまともに戦えるプリス。そしてヴィクター側のオーフィスであるリリス。
これ、どうしたもんだよ。
俺たちは、なんというか何もできずに戸惑っている。
だけど視線はどんどん集まるわけで……。
これ、どうしよ?
「……はぁ。わかった、こうしよう」
そうため息をついたニエに、俺たちは再び視線を集める。
ニエはそのままくたびれた感じの表情をすると、すぐ近くの料理店を指さした。
「……ちょうどお昼ご飯だしね。ここは奢るから、とりあえず戦闘態勢をやめてくれ」
で、俺たちは料理店に入った。
俺たちはどうしたもんかとニエたちをにらむ一歩手前の視線で見ていると、ニエはあっさりメニュー表を取り出すと、店員を呼び出した。
「すいません。僕はフィッシュ&チップスとジンジャーエール。……プリスは?」
「え? 私は水で―」
びくつきながらそういうプリスに、ニエはため息をついて軽くにらむ。
「倒れられたらかえって困る。何か頼んでくれ」
「……じゃあ、同じのを」
「わかったよ。……君たちはどうするんだい、早く決めないと店員さんが困るだろ?」
そう言われて、俺たちも適当にパスタとかを頼む。
ちなみにリリスはこの手の店のことがそもそもよくわかってなかったみたいなので、ニエがケーキをいくつか頼んだ。
で、注文が来るまで俺たちは無言。
注文が来てからもなかなか食べられないし、やっぱり無言。
だってそうだろ? 相手は敵だぜ?
それも、俺たちグレモリー眷属的にはリセスさんがらみで結構な因縁がある敵だ。なんていうか、すっごい居心地が悪い。
それを、みて、ニエは苦笑を浮かべた。
「美味しく食べれないから何か喋ってくれないかな? 例えば、お前はリセスを許す気はないのか……とかね」
ぶ、ブラックジョークかよ。
俺はちょっと引くけど、だけどまあ、冷めたらまずくなるしな。
もぐもぐと食べながら、俺たちはとりあえず会話をする。
「じゃあ、それをそのまま聞くけどどうなんだよ」
「今のところその気はないね。彼女もプリスも僕たち三人の夢を裏切ったんだ。あの絶望、君たちはわかるかい?」
まっすぐな目で見つめられて、俺たちは少しだけ返答に困る。
……だけど。
「俺は、少しはわかるかもしれない」
俺は、本当にそう思ったからそう答えた。
何がわかるとか言われるかもしれないと思ったけど、ニエは意外にも優しい表情を浮かべて、フライドポテトを一本食べる。
「……続けて」
「俺が悪魔になったのは、堕天使に殺されたからだ」
そう前置きして、俺は自分が悪魔になった事情を語る。
神の子を見張るものが俺を危険だと判断して、アザゼル先生が許可を出した上で暗殺計画が行われたこと。
それが管理職を経由して、担当がレイナーレになったこと。
で、レイナーレが天野夕麻ちゃんとして、俺に告白する形で近づいてきたことだ。
「ぶっちゃけうれしかったよ。女の子に嫌われまくりでハーレムなんて夢のまた夢だと思ってたから、彼女ができたって事実に舞い上がった」
「……いや、覗きをやめようよ」
くそ! 正論やめろ!
ってかなんで知ってんだ! ヴィクターの諜報能力はもっと別なところで活かすべきだと思う!!
まあ、実際のところは詳しい調査のためにそうされたってだけだ。そして危険な神器だと判断されて、殺された。
挙句の果てにアーシアを助けに来た時、あいつは俺のことを徹底的にこき下ろした。
ありきたりのつまらないデートだった。腐った悪魔のクソガキって。
「……あの時は腹が立っただけだったけど、冷静に思うとショックもでかかったんだと思う。だから、リアスたちの好意を素直に受け取れなかった」
「実に許せん堕天使だ。デュランダルの錆にしてやりたい」
「うぅ……。幼馴染なのに気づかなかった自分が情けない……」
ゼノヴィアとイリナが怒ったりへこんだりしてるけど、まあそういうことだ。
「俺は有頂天になって、可愛くて告白してくれたってだけで好きになった。そんな俺でもそんだけショックだったんだ」
それが、何年も何年も一緒だった女の子に裏切られたら。
きっと、俺なんかより何倍も何倍もショックなんだろう。
「だから、ちょっとぐらいは気持ちはわかると思う」
「……そうか。そうかもね」
ニエは、静かにそう頷いた。
そしてまっすぐ前を見た。
「だったらわかるだろう? 君は、そんなレイナーレを簡単に許せるのかい?」
………。
そう、なんだよな。
俺はレイナーレを許せない。
あいつは死んで当然のことをしたし、あの場で殺さないなんて選択肢はまあないだろ。
アーシアに神器を返さなきゃならなかったし、あの時の情勢なら末端の中級堕天使なんて殺すのが基本だ。リアスも俺にひどいことをしたレイナーレに怒っていたし、敵の堕天使は基本殺すのが普通の時だ。
だから、それは別にいい。
だけど―
「―リセスさんは、ずっと後悔してたんだぜ?」
俺は、それは言わずにはいられなかった。
リセスさんはずっと後悔してる。今でも、ある程度整理したけど、ずっと背負うべき罪だって思ってるはずだ。
少なくても、あの時まではそうだった。だから、リムヴァンの
そのリセスさんの贖罪は、ニエにとっては傷口に塩を刷り込まれたようなものなのかもしれない。
むしろさらに踏みつけられたような気分だったのかもしれない。
ニエみたいなやつからすれば、失ってしまった人の分まで幸せにするなんて、自分に対する贖罪じゃないって思ってるのかもしれない。
だけど……。
「それでも、リセスさんはずっと悲しんでたんだぜ?」
それだけは、誰にも否定させない。
リセスさんはそれをずっと悔やんでた。その原因だと思っている、自分の弱さを嫌っていた。
だから強さを追い求めてたし、弱さのあまりに暴走しそうな人が出たときには強く諌めた。
「そして、優しい人なんだぜ?」
それにリセスさんは優しい人だ。
英雄であらんとしているところもあるんだろうけど、それを除いたってリセスさんはいい人だ。
だって、俺がリレンクスに対してした行動を真剣に叱ってくれた。
今でも俺は悪いことはしたけど間違ったことはしてないと思ってる。でも、うまいやり方を考えないといけないと思って反省はしてる。
それはリセスさんが「芸能人」の目線と「そのファンの」の視点から説教してくれたからだ。あれがわかりやすいから、俺も他の方法を考えようって思ってる。
本当なら、あれはすっごいきついはずなんだ。
だって自分のトラウマだった過去をいやでも思い出す。自分が嫌いで嫌いでたまらない時のことを、自分から言うだなんてそう簡単にはできない。
ホントにすごい人だよ、リセスさんは。レイナーレの時のことを思い出すだけで嫌な気分になるからよくわかる。
そして、リセスさんは何度も芸能人としての視点を語っていた。
俺に対するアドバイスだったり、スイッチ姫ことリアスに対するアドバイスだったり。とにかく、芸能人の視点で語る必要があると思ったら、リセスさんは、それをきちんと言っていた。
それが、内心で結構苦痛なのはすぐにわかる。
それでも、リセスさんは―
「自分がつらくても、相手のためになることを言える、立派でいい人なんだぜ?」
そんな人を、本当に殺す気なのかよ。
俺は、まっすぐにニエに視線を向けた。
プリスが戦闘でもするのかと思ったのか立ち上がりかけるけど、ニエはそれを片手で制する。
「……確かに立派だよ。リセスも、君たちも」
そう静かに言って、だけどニエは目をフィッシュアンドチップスの皿に向ける。
いや、それはうつむいているんだ。
「だけど……」
歯を食いしばって、声を絞り出す。
「それに付き合わされる
その言葉に、俺たちは何も言えなかった。
ニエに対する掘り下げは必須だと判断したので、こういう機会を作りました。
そんでもって、ニエは基本的に普通の範疇内の人物です。
歴史に残れるほど立派じゃないから、許せることにも限度がある。だからリセスが許せないし、リセスみたいな立派な決断なんてとてもできないのです。