ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ   作:グレン×グレン

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第六章 20

 

 ニエの態度に、俺たちは何も言えなかった。

 

 ニエは認めたんだ。リセスさんが立派だと。俺たちも立派だと。

 

 そして、自分は俺たちとは違うって認めた。俺たちよりも下だって、そう認めた。

 

 プルプルと握り締めたこぶしを震わせながら、ニエは絞り出すように恨み節を放つ。

 

「この気持ちを抱えたまま生きろ? 飲み込んで許すことがいい? ああ、立派なことだと今なら思うさ」

 

 そして、闇のこもった据わった眼で、俺たちを見る。

 

「だけど、そんな立派をするのが普通なことなら、ヴィクター経済連合なんて生まれてない」

 

 確かに、そうだよな。

 

 ぶっちゃけヴィクター経済連合のトップ陣営はカ、欲にかられた連中だってのが上の考えだ。

 

 特に実働部隊の禍の団側の最初期のトップ格が、あのシャルバ率いる旧魔王派だしな。立派どころかどうしようもない奴だった。

 

 中にはテロリストや犯罪者まがいの連中だってあるし、参加した国家の中には民衆を弾圧している奴や、治安の悪い国が多かった。

 

 そういう、悪い意味で俗物な奴らが多く集まってる組織がヴィクターだ。

 

「リゼヴィムさんはそういうのが得意なんだ。人の中の不満を、立派で正しい行動に抑えられてる人の背中を押すのが上手だ。僕もその口なのはわかってるよ」

 

 今、ニエははっきりとこういってる。

 

 ……立派なのは、三大勢力だと。

 

「だから相いれない。そんな立派についていけない僕たちは、ヴィクター経済連合は君たちの高潔さにはついていけないよ」

 

 そういうと、ニエはメニュー表を手に取ると、さらに注文をした。

 

「エール一つ」

 

 お酒たのんだよ。

 

「一応言っとくけど、僕の金で奢ってるんだから僕が好きなものを頼む分にはどうでもいいよね。第一イギリス出身だからお酒なんてエレメンタリースクールの時からたしなんでるし」

 

「年齢的にどうなんでしょうか……」

 

 ロスヴァイセさんが力なくそういうけど、あなたも十代ですよね?

 

 言っとくけど、日本じゃ二十歳(これ書いてる西暦の時点)じゃなきゃお酒飲んだらいけないんですよ?

 

「……プリス。食べ終わったんならリリスを連れて先に返ってくれないかい?」

 

「え? でも……」

 

 俺たちのところに置いていくのが心配なのか、プリスは言われたことに素直に従えなかった。

 

 ニエは、プリスじゃなくてリリスの方を見ていった。

 

「ここから先は、リリスには聞かせられないような話だから……さ?」

 

「う、うん。わかった。……いこっか、リリス」

 

「? ……うん」

 

 そう言いながら、プリスとリリスはレストランを出ていく。

 

 それを流し目で見ながら、ニエはエールを一口飲んだ。

 

「……リリス一人でも充分だろうに。まさか、神滅具一つで私たち全員を倒せるとでも?」

 

 ゼノヴィアが舐められていると思ったのか、苛立たしげな表情を浮かべる。

 

 確かに。いくらニエが神滅具を禁手にしてるっつっても、俺だってそうだ。

 

 それにゼノヴィアのエクス・デュランダルは下手な神滅具より強力だし、アーシアの回復は俺たちの生命線だ。ロスヴァイセさんやイリナだって、上級クラスの戦闘能力はある。

 

 まともに戦えば、さすがに一人ぐらいなら押し切れるぞ?

 

 その視線に、ニエは片手をひらひらと振る。

 

「だから一般人は巻き込まないって言ってるだろ? それに、リリスを一人にしたくないんだよ」

 

「なんで?」

 

 イリナが首をかしげると、ニエは少し不快げな表情を浮かべた。

 

 そんでもって、なんか言いにくそうに首をひねる。

 

 一分ぐらい考えてた。

 

「……オブラートに包んで言うけど、リゼヴィムさんって子供の情操教育には……アレだから」

 

「なるほど!」

 

 思わず納得して声が出たよ。

 

 だよね! 明らかにアレな奴だもんね!!

 

 ヴァーリを見てればよくわかる。特に最初のころのヴァーリとか、明らかに迷惑極まりないもん。俺の両親殺すとか言いやがったしな!

 

 あんなのに育てられてるってことを考えりゃ、むしろあれでもまともな気がしてくるから不思議だ。

 

「だから誰かに見ててほしいんだよ。吸血鬼の貴族たちも、一般人だったぼくの目から見るとこう……あれだし」

 

 同感です。

 

 で、ならなんで一緒に帰らなかったんだ?

 

 俺たちが疑問に思っていると、ニエは残ってたエールを一気に飲み干した。

 

 そしてもう一回エールを注文。そして、俺たちをまっすぐ見る。

 

「……はっきり言うよ。リセスが今まで何をしてきたのか。それを聞きたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……リセスの奴、絶対に性根が変態だよ」

 

 俺たちが知ってることを一通り聞いたニエの反応はこれだった。

 

 もう酒はやけ酒と化してる。そして頭を抱えている。

 

 ついでにいると飲むペースを間違えて一回トイレに行った。そこからは普通にジンジャーエールに戻った。どんだけ飲んだんだ。

 

「そう言えば、こっそり拾ったエロ本を孤児院に持ち込んだことがあったなぁ」

 

 え、そんなことしたことあるの!?

 

 それは男子生徒のジョブだろ!! なんで女の子がやってるんだよ!!

 

 リセスさん!? あなたそれでも元アイドルですか!?

 

「はぁ。そう言うのに興味を持つのは珍しくもないのは知ってるけど、それはそれとして変態すぎるよ」

 

「まあ、我々の中で一番いやらしいものが誰かといえば、リセスさんとペトさんがツートップですね」

 

 ロスヴァイセさんがニエに同意してため息を吐いた。

 

 ちょっと待ってください。俺はどうなるんですか!?

 

 リアスの乳首をつついて禁手に至りましたよ!? 魔力の才能が欠片しかないのに、神器と併用すれば神滅具の禁手すら砕いて裸にする技に目覚めましたよ!? スケベ根性なら駒王学園一の自信がありますよ!?

 

 その俺を含めての3トップって考えるのは普通じゃないですか!!

 

 因みにヒロイも大概だけど、あれでリセスさんとペトについていけてないときがあるからさすがにあいつに勝ってるのは自信満々だ。

 

「イッセー君はあの二人に比べると、格が明らかに下ですから」

 

「そうだな。イッセーの性欲の強さもまっすぐで狂人だが、単純な出力でも経験でもあの二人の方が圧倒的だ」

 

 そこまで言いますかロスヴァイセさん!? そして納得するなゼノヴィア!!

 

 くそ、これが経験の差ってやつか。元から変態の素質があって、挙句の果てにセンスも抜群だから、追いつける気が微塵もない。

 

 これが、童貞の限界だっていうのか……っ。

 

 俺は思わずテーブルに突っ伏した。

 

 だってショックだもん! スケベ根性ならだれにも負けない自信があったのに、さらにその上を行く人たちが二人も出てくるなんて。マジでショックだ。

 

「……君、変わってるってよく言われるよね?」

 

 ニエは半目を向けると、ものすごくため息をついてきやがった。

 

 この野郎。俺はショックを受けてるのに、さらに傷口に塩を擦り込むのか。なんて奴だ。

 

「というより、その調子だとクオーガクエン? ……とかいうところでもいろいろやってそうだね」

 

 ニエが、汗を一滴たらしながらそんなことを言ってきた。

 

「男女問わず性的によく食べてるわね」

 

「……天使が言うのかい、そういうこと」

 

 うん。よりにもよってイリナが肯定するのはどうかと思う。

 

 天使がエロ関係の会話に積極的にかかわるのはどうかと思う。家ではすっかりエロ天使なのは事実だけどな。

 

 そして、イリナはさらに指を一本たてた。

 

「……でも、すっごくいい人よ」

 

 その言葉に、ニエは何も言わなかった。

 

 そんでもって、イリナもそれをわかった上で続けた。

 

「英雄を目指していただけあって立派であろうと頑張ってるわ。用務員の仕事もきちんとこなしてるし、エッチなことをしてくれることを除いても、人気あると思うわよ?」

 

 うん。そうだ。

 

 リセスさんは学園でも人気者だ。

 

 エッチすぎるところが玉に瑕だけど、それでもあの人はいい人だし、魅力的な人だ。

 

 だから、学園でも人気がある人なんだ。

 

「………そうかい。見る目がない人たちだ」

 

 ニエはそう絞り出すように言うと、領収書を取って立ち上がった。

 

「これ以上はいいよ。僕はもう帰る」

 

 そうか。もう帰るのか。

 

 っていうかマジで奢ってくれるのか。お金大丈夫か?

 

 アーシアも気になったんか、立ち去ろうとするニエを呼び止める。

 

「あの、こんなに払って大丈夫なのでしょうか?」

 

「ああ。それならこれを見るといいよ」

 

 そういって出してきたのは、一枚の紙切れだった。

 

 あ、給与明細って書いてある。

 

 そこに書かれてる数字を見て、俺は目を見開いた。

 

 ……高い! 日本円にすると……かなり高い!!

 

 っていうか、神滅具手当って書かれてる金額がすごい。普通の基本給の倍ぐらい言ってる。

 

「これでもヴィクターでも戦力とみなされてるんだ。ポテンシャル分のお金はもらってるんだよ」

 

 そう苦笑しながら言うと、ニエはそのまま代金を祓いにカウンターに向かっていった。

 

 それを見つめて、俺たちはやるせない気持ちになる。

 

―君にとっての平和が、苦痛に感じる者もいる。

 

 以前、ヴァーリにそんなことを言われた。その時は、正直言ってよくわからなかった。

 

 でも、ニエと話して少しだけ分かった気がする。

 

 俺たちにしてみれば当たり前のことが、とても大変な人がいる。俺たちを立派といって、すごいと思っている人がいる。

 

 そういう人たちにとって、俺たちの当たり前はつらくて大変なことだっていうことなんだろう。ついていけないんだろう。

 

 ……だから、三大勢力の和平に反対する人がいる。つまり、そういうことなんだな。

 

「……最近、教会でも不満を口にしている者が多いの」

 

 イリナが、そう寂しげに言った。

 

「吸血鬼とまで和平する必要があるのかとか言っているわ。特に、家族や友達を殺された経験のある悪魔祓いに多いわ」

 

 ……そっか。

 

 俺たちにとって当たり前に仲良くできる相手でも、その人たちにとっては難しくて嫌なことなんだ。

 

 ……平和って、難しいんだなぁ。

 

 そんな悲しいことを、俺は思ってしまった。

 

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