ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ   作:グレン×グレン

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そう言えばありそうでなかった展開になります。


第六章 51

 

 そして数日後。俺は一人で隣町にまで出かけていた。

 

 ……ちなみにもう帰りだ。っていうか帰ったら姐さんと訓練という名のど突き合いをぶちかます。

 

 ことの発端は数日前。姐さんが女子生徒の悩みを聞いたことが始まりだ。

 

 なんでも、東京に遊びに行った姉妹の様子がおかしい。

 

 詳しく調べてみると、逆ナンの勢いで変な男に引っかかったらしい。

 

 ……で、〆ることになったとか。

 

 姐さんの野郎、その連中に引っかかった女の治療に俺を使おうとしやがった。

 

 簡潔にまとめると「変な男に引っかかる奴はそいつぐらいしか寝技の得意な奴を知らないから、まともな奴と経験詰ませるのが手っ取り早い」だとよ。

 

 経験に基づくご意見なのはわかっちゃいるんですがね、姐さんそれを高校生にさせるか?

 

 いや、俺としても闇を照らす輝き(英雄)として、闇に沈んでいる女性を照らすのはやぶさかじゃねえんだが……。何かがおかしい。

 

「ったく。姐さんも人使いが悪ぃな。っていうか俺の女性経験を隙あらば積み上げようとしてねえか?」

 

 女性経験はもういいから、恋愛経験が欲しい。

 

 いや、マジで欲しい。もう軽い恋愛でいいから、とにかく恋愛がしたい。

 

 もうさ、深い付き合いとかじゃなくていい。そんな我儘は言わねえ。

 

 なんていうか「お試し感覚で付き合ってください!!」とか、「なんとなくかっこいいからとりあえず付き合おう?」とかでいい。軽い恋愛でいいから恋愛がしたい。

 

 なんで俺は彼女ができねえ。肉体経験ばかり集まって、恋愛経験が欠片も集まらねえ。松田や元浜と同じだ。

 

 英雄なんて浮名を流してあれだろう!? あれか、どういうことだ!!

 

「何で姐さんは付き合ってくれないんだ……」

 

 はぁ。なんていうかこぅ……。

 

「出会いが欲しい」

 

「ああ、何か分かるかも……」

 

 聞こえていたのか、隣で同意の声が響く。

 

 ああ、この感じだと女の子か。お互い恋愛経験がないとあれだな、おい。

 

「普通の恋愛って何なんだろうなぁって思うなぁ」

 

「だよなぁ。俺も、エロい経験ばかりで恋愛経験が全くねえってのが残念で残念で」

 

 顔も合わせずに、俺達は意気投合し始める。

 

「うんうん。私も処女じゃないけどまともな恋愛なんてしてないから、ちょっとそういうのに憧れることはあるかも」

 

「あ、お宅も? 俺も知り合いにそんなのがいて―」

 

 そんな感じで視線を合わせ―

 

「「あ」」

 

 プリス・イドアルだった。

 

「………」

 

「………」

 

 沈黙が、痛い。

 

「……待って、ちょっと待って」

 

「いや、降参してくれるなら待つが」

 

 ぶっちゃけ、こんなところで俺らが本気で戦ったら周辺被害がとんでもないことになるんだが。

 

 方や最強の神滅具を保有し、電磁投射砲を通常攻撃でぶっ放す英雄。

 

 方や熱量を操作し、核シェルターすらぶった切る丸鋸使いの若手悪魔。

 

 マジで戦ったら尋常じゃない被害が出る。

 

「お願い待って。私もリムヴァンさんから指示が来たからこの辺りをうろつくように言われてるだけで、任務の内容とか詳しく知らないの」

 

「誰が信じるそんなこと」

 

「だよね……」

 

 敵の言うことを素直に信じる馬鹿がいるか。

 

 しかもプリスの奴は割と因縁がある部類だ。リムヴァンが何のつもりで送り込んだかは分からねえ。プリスの奴自身は腹芸が苦手だろう。

 

 だが、ここにコイツがいるってことは―

 

「ニエの奴の近くにいるってことだろう? 神滅具使いを警戒するのは当然じゃねえか?」

 

 あの対軍特化の軍勢型神滅具使いに暴れられたら、こっちは流石にカバーしきれねえんだよ……っ。

 

「僕はここだよ」

 

 その声に、俺は飛び跳ねながら聖槍を展開した。

 

 マジでニエがいやがった。しかも後ろに回り込まれてた?

 

 クソ! 挟み撃ちだと流石にきついんじゃ―

 

「待ってくれ」

 

 と、ニエが先に手を伸ばした。

 

 そして、ため息をつくと空いている方の手で近くのコンビニを指し示す。

 

 ちなみに、イートインがあった。

 

「奢るから話を聞いてくれ。民間人に不用意な犠牲を生むのは、ヴィクターの方針にも反するからね」

 

 ……それは、こっちもそうなんだが―

 

 タイミングが悪いことに、俺は腹が減っていた。

 

 そしてタイミングがいいことに、腹の虫がなっちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず一番高い飲み物と一番高いサンドイッチを買って席についた。

 

 せこいって? うるせえ、自分でも分かってるよ。

 

「もっと買ってもよかったんだけど? 何ならお土産でも買って行ったらどうだい?」

 

「それくらい自腹で買う。俺にも安いがプライドはあるんだ」

 

 ニエの皮肉だか本音だか分からねえ言葉に、俺はそう言い返すのが精いっぱいだった。

 

 実際本音だ。だけど敵の金に遠慮して安いもの買うのも癪だったんで、高いもの買っちまった。ホントに安いプライドだ。

 

 この辺俺は英雄として三流だか二流だか。我ながら一流の英雄には程遠いな。万人が認める物語の英雄にはなれそうにねえ。

 

 ……だけどまあ、それでも照らせる奴はいる。

 

 二流だろうが三流だろうが、俺が英雄として輝いていることに違いはねえ。なら、それでいいだろ。

 

「それでニエ君。これ、いいのかな?」

 

 逆に一番安い飲み物とパンを買ったプリスが、そう言ってくる。

 

 ああ、それはそうなんだが……。

 

「……一切れやるよ」

 

「え、いいの?」

 

 いや、ここで女に一番安いもの買わせてるのがあれだ。流石に英雄目指す身としてこれはねえ。

 

「……まあいいや。それより、聞きたいことがあるんだけど」

 

 と、ニエはニエでパックのコーヒーを飲みながらそう切り出す。

 

 そういや、以前吸血鬼の根城じゃイッセー達とも接触してたな。

 

 ツーことは……。

 

「君が特にリセスと親しいのは知っている。できれば、君の視点からのリセスを知りたい」

 

 ……そう来たか。

 

 まあいい。それくらいなら別にいいんだが―

 

「逆上して暴れだすなよ?」

 

「失礼だね。逆切れだけはないよ。正当にキレる」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

 ああ、殺気が漏れたな。

 

 プリスがあわあわしてるんで気づいたけど、ここは堅気が営業してる店だった。あぶねえあぶねえ。

 

「お、お客様!? 急に倒れてどうしましたか!?」

 

 ……後でこっそり住所調べて、詫びに何か差し入れしよう。被害者出てるわ。

 

「……後で何かお詫びの品を送っておかないと……」

 

 ああ、そうだな。あんた良い奴だよ、ニエ。

 

 で、とりあえず俺の視点からの姐さんについて語ると、ニエは崩れ落ちた。

 

 プリスも背中がすすけている。

 

 いやまあ。驚くには値しない。ツーか理由はよく分かる。

 

「まあ、信じていた親友がビッチ街道まっしぐらとか、あれだよなぁ」

 

「ああ、そうだね……。赤龍帝から聞いてたけど、もっと間近の視点だともっと酷い……」

 

「リセスちゃん、はっちゃけすぎ……」

 

 だよなぁ。エロすぎだよな。

 

「っていうかまあ、正義のエロいお姉さんやってるからな姐さんは」

 

「正義が余計だよ」

 

 余計なのはエロじゃねえの?

 

「開き直って悪性に傾いていれば良かったんだ。見る影もなく醜くなっているなら、僕だってここまで拗らせたりしなかった」

 

 静かに、ニエはそう言い捨てる。

 

 そこに、苛立ちと怒りと悲しさがにじんでいるのは、俺でも分かった。

 

 飲み干しているから良かったものの、我慢できずに紙パックを握り潰しているしな。

 

「跡形もないなら、こっちも気にならないんだ。立派なことをしてるのが気に入らない……っ」

 

 まあ、確かになぁ。

 

 自分を裏切ったような奴が、その後一生懸命善行してましたって、思うところがあるんじゃねえだろうか。

 

 ご立派な聖人君子だったらどうにでもなるのかもしれねえが、残念なことにニエは普通の範疇だ。神経が逆なでされるんだろう。

 

 ……それに―

 

「まあ、姐さんもそろそろ決着(ケリ)をつける覚悟ができ始めてるから、仕掛けるならそろそろだな」

 

 ―姐さんもその気なんだろうな。

 

「……どういうつもりだい?」

 

 お前が何でそれを言うのかって視線だな。

 

 だろうな。俺は姐さんを英雄として心底認めている。

 

 ヒロイ・カッシウスにとっての英雄(輝き)とはリセス・イドアルだ。これは大前提中の大前提。

 

 その大英雄の裏の罪を清算するのが、ニエの目的。基本的にはぶち殺すってノリだろうな。

 

 そりゃ普通なら止めに入るんだろうが―

 

「あいにく、俺は普通じゃなくてな。……いや、目の前でやるってなら加勢はするぜ?」

 

「だったら、なんで……?」

 

 プリスが信じられないものを見るかのような目で、俺を見る。

 

 ま、傍から見たらキチガイの所業なんだろうな。

 

 ただ、俺ってのは馬鹿だから―

 

「姐さんが死ぬのと同じぐらい、姐さんの人生が翳るのも嫌なのさ」

 

 そう言うと、俺は立ち上がる。

 

 もう言うことは終わった。奢ってもらった分の借りは返す。それだけだ。

 

 だから何も言わずに立ち去ろうとし―

 

「……リゼヴィムさんが紫藤イリナの父親に恨みを持つ人を蘇らせた」

 

 そう、ニエが呟いた。

 

 いや、呟いたにしちゃ声がでかいな。

 

 ……おつりはきっちりとっておけってか? 律儀なこって。

 

「……来るなら来な。どうせなら、タイミングよく同時決着と行こうじゃねえか」

 

 俺はそう言うと、素早く走り出した。

 




ニエとプリスの任務は、いわば撒き餌です。

適当に影響力がありそうな人物をばらまいてスタッフをおびき寄せ、本命である八重垣のトウジへの接触を図るというのが目的です。

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