ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ   作:グレン×グレン

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ついに本格登場、イリナバージョンの赤龍帝の信頼の譲渡!

今回丸ごとイリナ回です!!


第六章 58 龍光の天使

 

 

 

 

 

 そして時間は大きくさかのぼる。

 

「我が英雄とは、我と共にある比翼なり」

 

 紫藤イリナは祝詞を唱える。

 

「相反し、相克し、然し共存を選びし和議の栄光を作りし者」

 

 赤龍帝の信頼の譲渡。その特性の一つを、イリナは発動させることに成功していた。

 

 本来敵対する立場だった、悪魔祓いと転生悪魔。その境すら超えて愛すら交わした紫藤イリナだからこそ、それができなかった八重垣正臣と相対するに値する。

 

「我、赤き龍と共にあり、天界と天龍の加護与えし天使とならん!」

 

 そして、それは翼として具現化した。

 

 赤く染まり、ところどころ龍の鱗が見える天使の翼。

 

 イリナの背中から生えるその翼こそが、紫藤イリナの騎士の力。

 

龍光の天使(ドラゴンライト・エンゼル)! さあ、これであなたを止めてあげるんだから!」

 

「いいね! どこまでも皮肉が効いてて、思いついた奴を殺してやりたいよ!!」

 

 そして、天龍の加護を受けた天使と、邪龍の呪いを使う復讐者は激突する。

 

 八重垣は躊躇することなく八岐大蛇を具現化させ、その牙をイリナに突き立てようとし―

 

「アーメン!!」

 

 その全てよりも早く、イリナは間合いに踏み込んだ。

 

 赤い翼からは莫大なオーラが光力と混ざり合って放出され、その莫大な加速を具現化させた。

 

 それこそが、龍光の天使の能力。

 

 騎士の属性を持つこの具現化は、ヒロイと同様に推進力を強化する。

 

 とは言え違いもある。

 

 ヒロイのそれは全身にスラスター付きの軽装鎧を展開することだ。これにより、全身の能力を強化しながら自由に全方位に推進力を展開できる。

 

 反面イリナは翼に収束して展開されている。いわばフレキシブルバーニアを一対装備したようなものだ。

 

 そのため、一点に収束した場合の推進力では当然上回り―

 

「ってあれぇ!?」

 

 そして、それを使いこなすのはある意味でもっと難しい。

 

 勢い余って剣を振るうよりも早く激突してしまい、イリナは素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

 そしてその交通事故で吹き飛ばされながら、八重垣は舌打ちした。

 

「……映像で見た龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)より早い! だけど―」

 

 虚を突かれた。イリナが慣れていなければ、ただそれだけで全てが終わっていただろう。

 

 龍槍の勇者や真女王より早い。スラスターが良くも悪くも一点に収束している為、一撃離脱に限定すれば両者を凌ぐということだ。元々騎士向きの素質を持っているということでもあるのだろう。

 

 だが、今の一合で速度は見切った。

 

 そして、女王の力を使う兵藤一誠本人と、全身にスラスターを配置したヒロイ・カッシウスよりも最高速度で速いということは―

 

「面で制圧すればどうなるかな!」

 

 八重垣は遠慮なく、八岐大蛇にブレスを放たせる。

 

 それに対し、イリナは速攻で距離を取った。

 

 良くも悪くも翼の駆動で推進方向を決める龍光の天使は、その特性上翼しか強化されていないようなものだ。

 

 全身にまんべんなくスラスターを配置したヒロイや、鎧の頑丈差で強引にGを耐えることのできるイッセーほど、運動性能は高くない。それをしようとしてもGに翻弄され、またそれをカバーできるほどスラスターの数も少ない。

 

 ゆえに回避の軌道は大雑把になり、八重垣はそれを詰将棋のように操って攻撃を誘導する。

 

 しょせんイリナは十代の少女だ。反面八重垣は享年ですらもう少し上を行く。

 

 その経験の差が、勝負を分ける。

 

 気づいた時には、イリナの背後に八重垣が回り込んでいた。

 

「いつの間に!?」

 

「それはまあ、僕も実戦経験は豊富だからね。子供をあしらうぐらいはできるさ」

 

 イリナは振り返ろうとするが、然しどうしてもそれには時間が掛かる。

 

 一方八重垣は既に天叢雲剣を構えている。後は振るうだけだ。

 

 既に勝負は決したと思われる状況。それに対して、八重垣はしかしすぐに手を出さない。

 

「……紫藤局長を殺すことを受け入れるなら、僕は君を見逃しても構わないよ?」

 

「……冗談。パパは殺させないわ」

 

 本心からの言葉だったのだが、然しあっさりと切り捨てられた。

 

 まあ、そう答えるとは思っていた。

 

「君のお父さんは、和平を結んで悪魔と結ばれた君の父親でありながら、同じように結ばれようとしていた僕達を殺した者達の一人だ。ある意味、君は僕の気持ちを痛いほど理解できるんじゃないかい?」

 

 そう。ある意味でイリナは真逆の立場であり、だからこそある意味で八重垣の気持ちが理解できる立場のはずだ。

 

 自分達状況が数年ずれていたら、それだけで自分達は逆の立場になっていたかもしれない。それぐらいの皮肉な時間のずれがあっただけかもしれないのだ。

 

「……そうね」

 

 そして、イリナもそれを認めた。

 

「きっと和平が結ばれずにイッセー君と再会してそのまま立っていたら、私もイッセー君と殺し合っていたかもしれないわ。……それも、パパとは違って後悔せずに生きていたかもしれない」

 

 その言葉に、八重垣は虚を突かれた。

 

 そして、イリナもまたそれをつかない。

 

 だが、翼越しに真摯な目を八重垣に向ける。

 

「……パパは後悔したわよ。教えの為なら他を省みないところのある私と違って、パパはずっと後悔し続けてきた」

 

 その強い視線に、八重垣は呑まれかける。

 

「だからパパは殺させない。ずっとずっと悔やんできたパパが、貴方に殺されることが最後だなんて認めないから」

 

 そして、イリナはしっかりと聖剣オートクレールを構える。

 

 この圧倒的不利な状況で、しかしイリナは戦意を絶やさなかった。

 

「そうかい。なら、僕は嫉妬で君を殺すよ!!」

 

 そして、その言葉と共にお互いが剣を振り払い―

 

「いいえ。そんなことはさせないわ!!」

 

 その瞬間、龍の翼がオーラを放出した。

 

 そのオーラの奔流が、八重垣の筋力を上回る。

 

 そして、そのまま強引に天叢雲剣を弾き飛ばした。

 

 ……これこそ、龍光の天使の固有特性。

 

 翼に一点集中した推進力展開は、龍槍の勇者ほどの運動性能や身体能力強化を与えない代わりに、攻防一体の可能性をイリナに与えた。

 

 推進力として運用するオーラによる、奔流と圧力による防壁。その応用性は、龍槍の勇者にはないイリナだけの強み。

 

 そしてその推進力が丸ごと防壁として展開された不意打ちに、八重垣は一瞬だが明確な隙をさらし―

 

「……貴方の憎悪を禊してあげるわ、アーメン!」

 

 その一瞬のスキをついて、イリナはオートクレールを振り抜いた。

 

 切った相手の心すら浄化すると言われる、聖剣オートクレール。

 

 その浄化の力は、確かに八重垣に届く。

 

 もちろん、それでも八重垣はトウジに怒りを燃やしている。理不尽に奪われた自分達の愛に、正当な報復を求めている気持ちは本物だ。それは邪念ではなく正統な怒りなのだから。

 

 だが、切られるその瞬間、八重垣は一つだけ忘れていたことを思い出した。

 

 ―こんな風に暴走する自分を見て、クレーリアは果たして喜ぶのか。

 

 ニエ・シャガイヒは気にしないだろう。彼は普通だからこそ憎悪が強く、だからこそ、身内が止めてもそれを止めずに進むだろう。

 

 それほどまでに彼の憎悪は強い。それを止めれるとするのならば、きっと何かとてつもない見落としがあるのだろう。

 

 だが、八重垣正臣という男は確かに信徒であり―

 

「……なるほど、これは勝てない」

 

 ―だからこそ、そこで一瞬でもとどまってしまった自分に苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イリナは八重垣を切った事に苦い思いを抱きながら、然し急いで走り出していた。

 

 わざわざこっそり譲渡を行ってまで、八重垣の行動を読んで自分を最終防衛ラインに置いたリセス。

 

 そのリセスはあっさりと姿を消していたが、今ならなんとなく分かる。

 

 きっと、リセスは分かっていたのだ。

 

 八重垣と二エは意気投合する。そして、リムヴァンはそれを良しとしてタッグを組ませる。

 

 つまり、八重垣はニエの護衛を受けているはずだ。それなのに八重垣の近くにニエはいなかった。

 

 答えは一つだ。既にニエとリセスの戦いは始まっている。

 

「ああもう! リセスさんは責任感が強すぎるわ!!」

 

 そこまで読み切ったうえで、リセスはリセスでニエとの最終決戦を行おうとしているのだろう。

 

 どうもリセスは、戦ったうえでの敗北ならニエに殺されてもいいと思っている節がある。

 

 だがそれをこっちが飲み込めるかどうかは話が別だ。

 

 恩を仇で返す形になるが、最悪恨まれてでも自分は介入する。

 

 それがオカルト研究部だ。兵藤一誠を主柱として生み出された、仲間達の在り方だ。

 

 なので残った力を総動員して、イリナはオカルト研究部の一員として文字通り飛んでいき―

 

「……っ!?」

 

 そして、血だらけで倒れているリセスを見つけて、顔を青ざめさせた。

 

 一瞬だが、悪い想像をしてしまう。

 

 リセスが既に死んでいたとしよう。

 

 その時、自分達はニエを許すことができるのか?

 

 ……難しい話だ。そして実際難しいだろう。

 

 リセスと自分達には強い絆がある。助け合ってここまで辿り着いた事実は、しっかりと築き上げられた何かとなっている。

 

 それが怒りに反転して、自分達はニエを許すことができるのか。

 

 それを脳裏で考えながら、イリナは急いでリセスの隣に舞い降りて―

 

「あ、大丈夫っすよ」

 

 そのペトの声に、慌てて振り向いた。

 

 そこには傷一つないペトが、同じく傷一つなく崩れ落ちたプリスと共にしゃがみこんでいた。

 

 のんきなその様子に、イリナはどういうことか混乱する。

 

「あの、ニエ・シャガイヒは!?」

 

 この様子から見て、リセスが辛勝したということだろうか。

 

 リセスは完全に意識を失っていて、もしニエが生きていたのなら確実に殺している状態だ。

 

 しかし、ニエの姿はどこにもない。気絶とかをしているわけではなさそうだ。

 

 なら、リセスはニエをチリ一つ残さず吹き飛ばしたということになるのだが―

 

「ああ、勝敗はニエの勝ちっすね。いい線行ったっすけど、神滅具の数で押し切られたッス」

 

 ―それも違うようだ。

 

「え? で、でもでも、ニエ・シャガイヒはリセスさんのことを本心から恨んで殺す気満々で……」

 

「……許されたわけじゃ、ないけどね」

 

 混乱するイリナに、泣き笑いの表情を浮かべながらプリスが力なく呟いた。

 

 その目からは涙が時折こぼれ、しかしどこか歓喜の感情すら浮かんでいる。

 

「……何されたの?」

 

 よく分からずにペトに聞くと、ペトも苦笑を浮かべた。

 

「ニエに頼まれただけっスよ。「本心から思っていることを言ってほしい」だとか」

 

 ペトはそう言いながら、リセスの隣にしゃがみ込み直すと、リセスの髪を優しくなでる。

 

 そして、満面の笑みを浮かべた。

 

「お姉様。お姉様の男を見る目は、なんだかんだで昔っからしっかりしてたっすよ」

 

 よく分からない事を言いながらニコニコしているペトに首を傾げ、イリナはプリスの隣に立つ。

 

 とりあえず敵なのだが、プリスは完全に戦意喪失している。剣を向けるのもためらわれる。

 

 とりあえず、気になった事を聞いてみよう。

 

「えっと……。それで、なんて答えたのかしら?」

 

「決まってるよ。……言っちゃいけない、だから言わなかった、それでも言いたかった言葉」

 

 そう漏らすプリスは、後悔の感情を浮かべながら、しかし笑みを浮かべてそれを再現した。

 

「……本当に、ごめんなさい……って」

 

 その言葉を聞いて、イリナはペトの言いたかった事を理解した。

 

 分かってみれば実に馬鹿らしい。そういえば、子供の頃から言われていたはずだ。

 

 悪い事をしたと思ったら謝る。そんな、子供が教わる基本的な事を、リセスもプリスもしていなかったのだ。

 

 そして、聖書の教えもまた、そう言う赦しの感情を良しとするものだ。少なくとも、真摯に罪を悔いる者に酌量を行う事を悪とは言うまい。

 

 当たり前の、大変な事。それをなしとげたニエはきっと、普通だけどいい人なのだろう。今なら自然とそう思える。

 

 その当たり前の感情を、天界で取り戻したことは喜ばしい。

 

 イリナは思わず手を組んで、今は亡き主にその喜びの感情を伝えた。

 

「アーメン! ああ主よ、もし魂が残っているのなら、この奇跡をお喜びください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い!?」

 

「イリナ。プリスは転生悪魔っスから、祈るとあれっすよ?」

 

「あ、ごめんなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実に微妙でグダグダな展開になったが、これはイリナがイリナたる所以である。

 

 

 

 

 




ヒロイがスラスターをまんべんなく装備したタイプなら、イリナは一点特化でフレキシブルバーニアを搭載したものとお考えください。一点に集中している分最高速度と加速性能では上ですが、操縦性と運動性では劣る感じです。








そして、ニエの恨みは殺すほどのものではなくなった。

リセス・イドアルとニエ・シャガイヒの決着はついた。もうこの殺し合いが生まれることはない。

では、ニエ・シャガイヒはどうするのか……
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