ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
夜、俺は眠れなくて戦闘訓練をしていた。
日夜トレーニングを繰り返して積み重ねることこそが戦いの基本。基礎トレこそ重要だ。
一の実戦は百の訓練に勝るが、百の訓練あってこそ一の実戦を生き残ることができる。それだけの積み重ねがあるからこそ、壁を超えることができるからな。基礎重要。超重要。
特に、こうしてイラついている時こそ基本に立ち返るのが重要って話だ。
静かに型通りに槍を振るう。
そして、イメージした相手の動きに合わせ、型を微妙にずらして振るう。
教科書通りに体を動かせるようにするのが基本。そこから、状況に合わせた対応ができるようにするのが応用。それらを組み合わせて適切に動きを取ることができて一流だ。
だが、その程度で乗り越えられるほどこの戦いは楽じゃない。
立ちはだかるは、ヴァチカンのイーヴィルキラーこと、ヴァスコ・ストラーダ。
俺の英雄をある意味で否定し、まったく別の英雄であるあの男。
……ガキっぽいのは分かっちゃいるが、どうしてもこればかりはイラついてしょうがない。
百人英雄がいれば、百通りの英雄がいて当たり前。それは分かってるんだ。
だが、あの俺の英雄を心から目指すあの時に、あの言葉はどうしても棘になった。
どうしてもイラつくんだ。あの超一流の、トップクラスの英雄が。夜空に強く輝き瞬き煌く、一等星の英雄が。
譲れない。負けられない。どうしても一撃入れて一瞬でもいいから越えてみたい。
ああ、俺は二流どころか三流の英雄だ。認めてくれるものは少なめで、英雄になることに固執している。
英雄というものを結果論で語るあの男に、俺みたいな英雄という称号と栄光を求めるものは滑稽に映るんだろう。英雄ごっこにしか見えず、子供っぽいとも思うんだろう。
だがそれでも、
だってそうだろ。英雄を目指したからこそ、姐さんは俺達の英雄になれたんだ。
なら、俺だってなれる。
ああなりたい。輝きたい。逃避であろうと、迷走であろうと、英雄であろうと目指して輝こうとする道は誰かを救って輝けるんだから。
だから―
「―フッ!!」
俺は槍王の型の構えを取ってから、息を整える。
流石に反動がでかい槍王の型は、練習で出せるような代物じゃねえ。構えだけだ。
ま、少しはスッキリしたな。
明日の夜から演習は始まる。師団規模の人間がぶつかり合う、大規模な演習だ。
陸上自衛隊の普通科を中心とした、ウツセミ部隊。ヴァチカンが誇り、今なお聖書の教えを信仰する、悪魔祓い達。その二つの人間の戦闘要員のぶつかり合い。
そして、自衛隊員達はあくまで数をフォローするのが目的だ。本命はあくまで俺達なんだからな。
この連続かつ急激な和平で一気に溜まった、悪魔祓い達を中心とする信徒達の鬱憤。それを全力で発散させるのが、このイベントの真の目的だ。
そして、それに対して出てくる最強二大巨頭。
助祭枢機卿、エヴァルド・クリスタリディ猊下。エクスカリバーの使い手としては歴代でも有数で、全てのエクスカリバーを使えるとまで言われた逸材。
そして司祭枢機卿、ヴァスコ・ストラーダ。デュランダルの使い手としては、伝説に残るローランすら超えると言われる逸材。ヴァチカンのイーヴィルキラーやら真の悪魔やら言われる今だ衰えぬ老兵。
……ある意味で教会が誇る二人の英雄だ。英雄としては、どこまで届くか試してみたいところだな、うん。
そうだ。俺は英雄を目指し、英雄になった。
だからだろう。負けられないと思ってしまう。
自分で言うのもなんだが、心の底からガキだって思う、心底くだらない理屈だ。
否定した奴に肯定させてやりたい。
ヴァスコ・ストラーダという英雄に、ヒロイ・カッシウスという英雄を見せつけたい。
どうだこの野郎。俺は確かに
ああ。我ながらガキだ。ガキ以外の何物でもねえ。
なんか冷静になるとこっぱずかしいな。誰もいねえのに顔が赤くなっちまう。
……でも、それでも譲れねえ一線があるしな。
どうしても納得いかねえところを受け容れる為の一線だ。こっちだって、溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたって罰は当たらねえだろ。
精々、お互いにストレス発散するとしようや。
ああ、それ位はさせてもらう。
「あらあら。ヒロイは結構頑張ってるわね」
と、その声に振り返れば姐さんがいた。
「姐さん!!」
「興奮して寝付けないってところかしら? ……ちょうどいいし、一緒に手合わせでもしない?」
既にトレーニングウェアに着替えて準備万端の姐さんが、拳を構える。
いいな。これすごくいい。マジでいい。
俺の英雄とウォーミングアップしたうえで、教会の英雄に俺が至った英雄の姿を見せつける。……ちょっとテンション上がってくるな、オイ。
ヤベ、これ朝まで寝付けねえかもしれねえ。
俺がそう思った時、姐さんはそのままクスリと笑うと更に続けた。
「因みに、これが終わったら―」
俺は姐さんの言葉に、更にテンションが上がった。
いよっしゃぁ! 何かテンション上がりきったぜ!!
そんなこんなで朝学校で、俺は普段通りに休み時間で復習と予習を行う。
何もそんなに難しいことはねえ。ノートに書いた事をさらりと見返して、教科書に書いてある事をさらりと見返す。これだけでも、ちょっとは変わるもんだ。
まあそんなこんなで予習復習をしっかり行いながら、俺は夜のことを考える。
……今日は部活動は休んで、仮眠でもした方がいいな。明日は休みとは言え、確実に長丁場になるだろうしよ。っていうか朝までに終わんのか?
「あんた大丈夫、ヒロイ」
と、そこに桐生が声をかけてくる。
ん? なんだなんだ?
「俺今予習中なんだが」
「そんなことしてる暇があるのかって言ってるのよ」
と、桐生は言ってくる。
……ゼノヴィアの奴、まさか言ったのか?
俺は嫌な予感がして、小声で桐生に話しかける事にする。
「……どこまで知ってる?」
「なんかあるって気がしただけよ」
そうだった。こいつは勘が鋭いというか洞察力があるというか……。
まあいい。詳しい事を知らないってんなら、俺から詳しく話す道理はねえ。
「ちょっと色々あってな。深夜から朝まで忙しくなるってだけだ」
流石に「夜から教会の悪魔祓いと喧嘩します」とは言いづらい。
「ふ~ん。ま、いいけど」
意外と軽いな、オイ。
俺がそんな感想を抱いていると、桐生は眼鏡の向こうで半目になる。
「今更私が何か言ってもどうにもなんないでしょ。ま、同じ学生としちゃ忙しくて大変ねぇって感じだけど」
……同じ学生としちゃ……か。
そうだな。俺、学生だよな。
元悪魔祓いで、今は三大勢力トップ直属のエージェントやってるようなもんだが、それでも駒王学園の学生だ。
そっか。学生か。
「……ガキの頃は想像つかなかったぜ」
「学生やるって事が?」
いや、もっと根本的なところ。
「学生って概念すら分かんなかったんだよ」
俺がそう言うと、桐生が珍しく汗を流した。
まあ、俺みたいな来歴だなんて日本じゃレアなんてもんじゃねえしな。多くてもアレだけどな。
ああ、そういう意味じゃあ、俺の人生一気に恵まれたもんだ。心底レベルアップしてるって断言できる程度にゃ、恵まれている。
金に困らず勉強に励むことができる。心底恵まれているな。
「日本の平均水準は世界的に見ても高いんもんだ」
「なんか、勉強頑張らない取って気になるわね」
ああ、頑張っとけ頑張っとけ。
色々恵まれてるんだから、それを台無しにしない程度に頑張れるならそれに越したことはねえよ。そっちの方が恵んでる側も喜ぶってもんだろうしな。
それでもどうしようもねえことってもんがあったりするわけだが―
「荒事関係は俺に相談しな。相手に非があるなら、俺が殴り込みしてやるよ」
「頼もしいんだか恐ろしいんだか」
桐生が微妙に頬を引きつらせて、そしてすぐにほほ笑んだ。
「ま、頼りにするから無事に帰ってきてよね」
おうよ。任せとけ。
ストリートチルドレンだった身としては、自分が恵まれエル側だという自覚があるヒロイ。ちょっとこの辺でいろいろと考えることもあるのです。