ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
最終決戦第二ラウンド!! バロール対決です!!
あ、遅れてすいません。このあとちょっと苦戦ムードになることもある上に、数日年賀状でつぶれまして……
一方そのころ、ギャスパーもまた苦戦を強いられていた。
もとより相性は絶大に悪い。
面での制圧力でしのぐギャスパーの力も、点での密度でしのぐヒルトにはかなわない。
さらに魔剣とイグドラスコルの能力が掛け合わされ、ギャスパーは劣勢を強いられていた。
「この程度? この程度で、私達ノイエラグナロクの復讐を邪魔できるとでも思ってるのかしら!」
連続で振るわれる魔剣の攻撃に、ギャスパーの闇は削られ続けている。
時折反撃を出すことはできているが、闇の密度の差がもろに出て、ダメージを与えることはできなかった。
その闇の獣の巨体を生かして突破されることだけは防いでいるが、このままでは削り倒されて負けるのが確定的に明らか。
これこそが、イグドラフォースの1人。
これこそが、ノイエラグナロクの精鋭。
これこそが、リムヴァンが直属としたヴィクターのエース。
ヒルト・ヘジンは圧倒的な実力差と相性差で、ギャスパーを追い込んでいた。
『……それだけの強さがあって、なんでヴィクターに?』
「愚問ね。アースガルズと戦争をするには、これぐらいは必要だったからよ」
フェイントで放たれる闇の刃を、それ以上の密度の刃であっさりとはじき返しながら、ヒルトは告げる。
そこには明確な敵意があり、そして、そのアースガルズと和平を結んだ悪魔にすら敵意を向けていた。
「アースガルズが
そう。かつてアースガルズは幾度となく非道を行った。
神とは傲慢な側面を持っている。ゼウスの不倫癖が有名ではあるが、アースガルズもまた、それなりにいろいろとやっているのだ。
ラグナロクを突破するためのエインヘリヤルを集めるため、アースガルズは幾度となく戦争を引き起こした。その過程や結末までプロットを用意し、神々自ら手を加えて戦死者を選定したことも数多い。
そして、そのアースガルズの暴虐の中でも、特に理不尽なのがヒルトとヘジンの逸話だ。
フレイヤが首飾り欲しさに不貞を働いたことを怒ったオーディンは、フレイヤに「二十の将を持つ王二人を永遠に戦わせよ」という要求を行った。
その結果、ターゲットとされたのはその不貞と何ら関係ない二人の王、ヘジンとホグニ。
優秀な戦士たちをさらに強くする側面もあったこの関係により、彼らは死んでも蘇り殺し合いを続けることとなった。
彼らは聖書の教えの神の子の加護を受けた戦士、イーヴァルに討たれるまで、長い間殺し合いを続ける羽目になった。
「私は、ヘジン王の末裔。先祖を弄んだアースガルズに、それに見合った血の報いを与えるために剣を取ったのよ?」
そしてその瞬間、斬撃の密度はさらに濃くなった。
膨れ上がった怒りと殺意に応えるように、刃の雨は刃の猛雨となって、ギャスパーの闇の衣を切り刻む。
「アースガルズの味方をするなら、あなたも死になさい!!」
『く……っ!!』
その斬撃は一気にギャスパーの闇の衣を削り取る。
そして、その速度のままにギャスパーの体すら薄く切り裂き、そしてそれを防御しようと集中しすぎた隙を突き、ケリが叩き込まれる。
「あんたはあとよ!!」
そのまま蹴り飛ばすと、遠慮なくヒルトは全速力でかける。
ヒルトの目的はあくまでアースガルズに対して、先祖の無念を晴らすことだ。ギャスパーを相手にするのはついででしかない。
トライヘキサの防止阻止についてもだ。それを止めるのに倒すべきなのは、聖杯を持つヴァレリーと術式を持つだろうロスヴァイセのみ。ギャスパーはその護衛であって優先対象ではない。
なにより、憎むべきオーディンのお付きだった女が近くにいるのだ。オーディンを殺す前に切り裂いてもいいだろう。
「さあ、覚悟しなさい!!」
「くっ!!」
ロスヴァイセが遠慮なく魔法のフルバーストを叩き込むが、然しヒルトは闇の衣で防ぎ切る。
同時に展開される防壁も、二振りの魔剣で両断した。
ロスヴァイセは間違いなく優秀だ。その能力は上級悪魔を超え、最上級クラスにも対抗できるだろう。
だが、同じく最上級に届く実力を持ち、神すら殺しうる神滅具を持ち、さらにイグドラフォースとしての力まで持つヒルトは、神にすら匹敵する。
その差が、ここにきて致命傷にすらなり―
「……そうはいかないっすよ?」
だがしかし、彼女は一人ではない。
放たれる光の弾丸が、ヒルトの斬撃をわずかにそらす。
そして、それがロスヴァイセを紙一重で救い上げた。
「……ペト・レスィーヴ!!」
厄介な敵が来たと、ヒルトは舌打ちする。
ペト・レスィーヴの狙撃能力は規格外。ヴィクター経済連合では、一定以上の防御力がないものの間では神滅具使い以上の脅威として認定されていた。
イグドラスコルの力を持つ自分ならどうにかできると思っていたが、よりにもよって振るっている剣をそらされるとは思わなかった。
だが、いるとわかっているのなら何の問題もない。来る方向がわかっているのなら、そこに注意を払っていればいいだけのこと。それで反応できるだけの能力を自分は持っている。
ゆえにまずは重要な相手を倒すべきだと判断し―
「隙を、見せましたね?」
その瞬間、強固な魔法の鎖がヒルトを縛る。
何とか振りほどこうと力を籠めるが、その鎖は強固で中々振り払えない。
「これは……!」
「封印術式の応用で作った捕縛術式です。そう簡単にはほどけませんよ!」
ロスヴァイセは才女である。
兵藤一誠達とさほど変わらない年齢で、オーディンのお付きをすることがどれだけ偉大か。いかにオーディンが問題のある行動を頻発するとはいえ。そのせいでどんどん配属者が我慢の限界に達していくとは言え。それでも、主神の隣につくということは偉業なのだ。
それをなすロスヴァイセは、間違いなく同年代ではトップクラス。いかにヒルトが神滅具を移植したイグドラフォースであったとしても、油断をしていいわけがない。
一瞬でもペトに意識を向けすぎたことが、ここにきて大きな隙をさらす。
「だけど、あんたたちが束になっても私は倒せないでしょう?」
しかし、その隙をつかれてもなおヒルトには余裕があった。
イグドラスコルはもちろんのこと、移植している神滅具もまた規格外の切り札だ。
闇を操り万物を停止させる、
加えて、両手両足をふさがれようと、自由に操れる闇がある限り攻撃は可能だ。
即座に近距離にいるロスヴァイセを殺し、体の自由を取り戻すのは十分可能。ロスヴァイセが距離を取る時間も必要なく―
『いや、お前はここで終わらせる』
―しかし、それをなすには最大の障害があることに、その声で気が付いた。
「……邪魔よ、デイライトウォーカー!!」
即座に迎撃として闇を飛ばし、さらに防御力を高める。
そして、同時にギャスパーもまた攻撃をヒルトに叩き込んだ。
お互いに闇が侵食しあい、しかしその攻勢は確実にヒルトに傾く。
当然といえば当然だ。同じ神器の禁手同士なら、個と質と深度を重視した禁手の方が、一対一なら有利になる。
都市一つ包み込み、圧倒的な数の暴力を発揮できるギャスパーは、ゆえにこそ個人装備としての能力を重視したヒルトに追いつけない。
ゆえに、この戦いはヒルトが優勢になるのが当たり前なのだ。
『敗けるか、負けるか。此処で倒れたら、ヴァレリーは、世界は……っ!』
「いくら神器が想いに応えようと、土壇場に気合だけで勝てるほど世界は甘くない!!」
全力で食い下がるギャスパーを、ヒルトは全力で叩き潰そうとする。
ヒルトの言うことは当然の真理である。
精神的な勢いが勝敗を分けることもある。だが、それは積み重ねてきたものがあるからこそ意味があるのだ。
いかに神器が精神力に左右されようと、長い年月鍛錬を続け、そして同レベルの精神力を持つものを相手にしては、それは決め手にならない。
何年間もの間己の力を恐れ、引きこもり続けてきたことが、ここにきて仇になる。
そして、闇の浸食が捕縛結界を破り始める。
敗れたときが決着の時だ。ぎりぎりの拮抗は時空を支配する邪眼王同士の戦いだからこそ成り立っているのであり、そこに魔剣とイグドラシリーズの力が加われば、勝敗は確実にヒルトに届く。
それがわかっているからこそ、ギャスパーは悔しさに歯噛みし―
「あらあら、ギャスパーはまだまだ泣き虫なんだから」
―この戦いの大前提を間違えていたことに、その言葉で気が付いた。
気づけば、後ろからヴァレリーがギャスパーをなでている。
闇の化け物と化したギャスパーを、しかしヴァレリーは意にも介さない。
「大丈夫。私がついてるから……ね」
『ヴァレリー……っ』
その言葉を受けて、ギャスパーは気合を入れなおす。
そうだ。この戦いは自分だけで戦っているのではない。
この勝負に持ち込むために、ロスヴァイセとペトがつないでくれた。そして、ヴァレリーもここにいる。
ならば、やるべきことは一つだ。
『ヴァレリー! 力を貸して!!』
「もちろんよ」
そして、一瞬で勝負を決める。
もとより、一瞬しか借りれない力だ。ならばもはや、一点突破で食らいつくのみ。
「ぁあああああああああ!!!」
その瞬間、ギャスパーは防御を完全に投げ捨てた。
闇の衣を攻撃にのみ回し、全ての出力を攻撃に回す。
その、防御を投げ捨てた攻撃全振りに、ヒルトの闇の衣が抉れ、イグドラスコルの装甲に食い込む。
しかし、当然のごとくそうなればギャスパーは攻撃をもろに受けることになり―
「大丈夫よ、ギャスパー。私がついているから」
その不詳が全て、ヴァレリーが持つ聖杯によって治療される。
これは非常に賭けとしか言えないものだ。
ヴァレリーの聖杯は使用者の負担が大きい。聖遺物によって負担を抑制しているとはいえ、多用はできない。
文字通り、一瞬で決着をつけることを考えたからこその一撃。この一撃で勝負を決めるという覚悟があるからこそできる、全力中の全力。
その全力が、イグドラスコルの装甲を食い破ろうとし―
「な、めるなぁああああああ!!!」
―その一瞬前に、ヒルトの両腕が自由になった。
拘束術式の鎖を強引に引きちぎり、ヒルトの魔剣が振り下ろされる。
その一撃で首を刈り取れば、いかに聖杯の加護があるとはいえ即死は免れない。
その二撃は確かに致命。あたれば死は免れず、そしてギャスパーにかわす余裕はない。
ゆえに、その攻撃が当たれば逆転は確実であり―
「させるかッス!」
「させません!!」
―そんなものを見逃すほど、彼らは決して甘くはない。
狙撃ではこの渾身の一撃はそらせない。魔法を展開する余裕もない。
ゆえに、ペトとロスヴァイセは文字通り組み付いて動きを阻害する。
「なっ!?」
その対処が想定外であったがゆえに、ヒルトは一瞬だが確実に攻撃が遅らせてしまい―
「……終わりです!!」
―その一瞬で、ヒルトの脇腹は食い破られた。
一瞬だった。一瞬で、勝負はついた。
脇腹をごっそりと闇の獣に抉られた。最早これでは助からない。
そして、闇の獣はさらに止めの連撃をはなつ。
これで終わりだ。ヒルトにこの攻撃をかわす余裕はない。
ゆえに、ヒルトは敗北を認め―
「……転移起動」
最後の最後で、術式を発動させる。
それはイグドラフォースに用意された奥の手中の奥の手。イグドライバーとジェルカートリッジの転移装置。
そして最後の最後の渾身で、ディルヴィングとダインスレイブ、そしてイグドライバーを転移に巻き込ませ―
「あとは、任せたわよ」
―ヒルトの全身は、闇に貪り食われていった。
「……いろいろあったのはわかります。僕たちも、いろいろありましたから」
ヒルトに止めを刺したギャスパーは、そう漏らす。
吸血鬼もいろいろあった。三大勢力もいろいろあった。人間世界の国家も、過去を振り返れば埃が出ない方がおかしいだろう。
だが、それでも―
「僕たちの平和を乱す形で動くのなら、僕たちは立ち向かいます」
―それで、罪のない人々まで巻き込まれていい理屈にはならない。
和平が進めば、それらの罪に対する賠償も進むだろう。それが待てないものもいるだろう。
ならば戦うしかない。彼らの望む未来と、自分たちが望む平和は相いれないのだから。
「行きましょう、皆さん」
闇の獣を再展開しながら、ギャスパーは動く。
そして、戦闘はまだ続いていく。
ギャスパー、執念で勝利。とはいえ一人では勝てるかわかりませんでしたが。
個に特化しているがゆえに、数で仕掛けられて苦戦したのがヒルトの敗因です。護衛をつけていれば話は変わっていましたが、この乱戦では無理がありましたね。
それでは皆さん、今年もよろしくお願いします!!