ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
一方そのころ、ほかの戦場でも激戦は続いていた。
その戦況は五分と五分。ほぼ互角と言ってもいいだろう。
トライヘキサという切り札を封じられたヴィクター経済連合は、初戦に比べれば間違いなく士気が落ちている。トライヘキサを切り札としていたのだから、それが封じられれば当然心理的に負担がかかるのは当然だ。
しかし、連合軍もまた恐れおののいている。
この封印がいつまで続くかわからない。そして、その圧倒的な力を敵に回したことの恐怖は確かに刻まれている。
兵藤一誠たちのように、恐怖を押し殺せる強い心を持っているものは数少ない。彼らは希少な人材であり、普通はあれだけの力を前に心を折られるものも多いのだ。
トライヘキサの封印が成功したとはいえ、その恐怖は隙を生み、ヴィクターの反撃を許してしまう。
イグドラフォースと英雄派に戦死者が出ているが、しかし連合軍もそれは同じ。
この戦いで五代宗家や妖怪たちの腕利きにも死者が出ている。冥界側からの戦力でも、かつての戦乱を生き延びた古参のものにすら死者や戦線離脱者が出て来ているのだ。
ハルマゲドンとも形容できる、世界の命運をかけたこの戦いは、まだ続く。
そして、ヴィクター経済連合の精鋭は未だに数多いのだ。
キュラスル・スリレングはその怪力で敵をつぶし続けている。
筋力強化の神器に、筋線維増大の禁手。さらに肉体を改造できる神滅具に、圧倒的な力を発揮する強化装備。それらすべてがキュラスルの戦闘スタイルと見事に合致している。
その戦闘スタイルは近接戦闘だ。ゆえに撃破されている敵の数こそ少ないが、しかし確実に敵を撃破していることに変わりはない。
あのサイラオーグ・バアルと真正面から渡り合える近接格闘の猛者。その拳は、最上級悪魔の防御結界すらたやすく打ち砕く。
全装備を含めたその力は魔王クラスにすら匹敵する。それを止めることなど、並大抵のものでは不可能だった。
「はっはぁ!! いいなぁこういうの!!」
そして、キュラスルは圧倒的な力で暴れまわることを楽しんでいた。
もとより彼は、大義などない野蛮な暴れ者だ。
より強大な力を使って暴れたいがゆえにヴィクターについているが、大義も野望も特にない。
それゆえに、最も強大な力を与えてくれたリムヴァンの言うことをきちんと聞くが、しかしそれだけだ。
だからこそ、彼は目的に関係なく敵を殺し続ける。
それが彼がしたいことだからだ。他者の命を奪うという、もっと野蛮で残虐な楽しみを、彼は良心の呵責を一切感じず行っていた。
そしてその拳は、遠慮なく上級悪魔を三連続で文字通り粉々にする。
鎧袖一触とはこのことだろう。圧倒的な筋力から生まれるその暴虐は、上級程度では太刀打ちできない。
そして、その目がおびえ切った上級悪魔の眷属たちにむけられる。
「んじゃぁ、ちょっと弱い者いじめでもするとすっか! 無双ゲームってのも面白いしなぁ!!」
「ひ……っ!」
その加虐的な視線に、眷属悪魔たちは恐れおののく。
レーティングゲームとは違う、死と隣り合わせの戦場。トライヘキサという圧倒的すぎる悪夢の近くでの戦争。そして、最強戦力である主がたやすく殺されるような戦闘。
それらすべてにおびえ切り、彼らは逃げることすらできなかった。
もはや碌な抵抗もできないだろう。彼らには、戦うという選択肢は愚か逃走という選択肢すら存在しなかった。
そして、キュラスルはそういった者たちを殺すことすら楽しめる。
強敵との凌ぎ合いはもちろん滾る。だが、吹けば飛ぶような雑魚をまとめて殺す殺戮もまた、彼を興奮させるのだ。
「んじゃ、ちょっとわんこそば感覚で食い散らかすか!!」
そして、その拳は勢いよく振るわれ―
「―おいおい。人様の海を血で汚してんじゃねえよ」
―その拳を、片手で受け止める者がいた。
およそ拳によるものとは思えない轟音を響かせながら、しかしその拳は何も壊せず殺せない。
なぜなら、それを受け止められるものが、ついに戦場に出てきたからだ。
「ったく。引継ぎが完了したからちょっと士気高揚のために出てくりゃぁ、なに下衆なことしてやがんだ、ああん?」
「ああ? てめえこそ、なんでこんなとこに出てきてんだ?」
その拳を止められたことに、キュラスルは斟酌しない。
彼は強敵との凌ぎあいでも楽しめる手合いだ。だからそこは問題ない。
止める敵が出てきたことに、キュラスルは疑問を覚えたりしない。
この戦場には最上級悪魔クラスもゴロゴロいる。肉弾戦特化型なら、一発や二発ぐらい止めれるものもいるだろう。それ位にはキュラスルも想像力はある。
問題は、それがここに出てくるような手合いではないということだ。
「総理ぃ!? いきなりイグドラフォースを相手にしないでください!! ご自愛、ご自愛!!」
涙目の鈴女が声を張り上げるように、それは総理大臣だったから、キュラスルも首をかしげたのだ。
総理大臣は日本国のトップだ。非常時においては自衛隊の指揮権を握ることもあるが、人間世界の国家の軍のトップは、普通後方で指揮を執る。
間違っても、前線で敵の精鋭の拳を受け止めたりしない。
「そうりだいじんってのは、こんなとこに出てくるもんじゃねえだろ?」
「馬鹿野郎。文明国のトップってのは、非常時に備えて死んだときの代理が用意されてんだよ」
なんてことの内容に、大尽はキュラスルにそう答える。
そして首をコキコキ鳴らすと、龍の装甲服越しにキュラスルに特大の殺気を放った。
「戦力出し惜しみする余裕もねえだろ? 戦える奴は出せるだけ出すんだよ。戦力の小出しは愚策だっつの」
そう。確かに総理大臣は普通は前線に出ない。
だが、自衛隊の最強戦力を出さないでいるほど、状況は静観できるものではないのだ。
何より、トライヘキサ停止という好機を前に、自衛隊もまた増援として動いていた。
この機を逃す愚行は犯せない。故に全力で戦うのみ。
そして、古来より指揮官が前線に出てくるのは戦意高揚の手段として使われる手の一つだ。
ましてや大尽は最強戦力。あの悪神ロキを殴り飛ばした猛者中の猛者、人間世界の国家首脳でなら、まず間違いなく最強である。
史上最強の総理大臣。大尽統は自分の戦闘能力をよく理解していた。
ゆえに、この好機に出てこないなどという温存策はとらない。
もとより文明国の国家元首は、何かあったときに備えて代理などの準備がとられているものだ。大尽内閣でもそれはきちんとされているし、引継ぎもちゃんとしておいた。
ゆえに、ここが動きどころ。大臣はそう判断したのだ。
「……この国の領海で好き勝手やりやがって。宣戦布告してるんだから、いかに専守防衛日本国自衛隊でも、攻撃できるんだぜ、筋肉野郎!」
その怒気と殺気を真正面から浴びながら、キュラスルは嗤う。
彼にとって殺し合いは趣味といってもいい。一方的に弱者をなぶるのも楽しいが、強敵と絶妙なバランスで殴り合うのも最高だ。
「いいぜ? 本気だ、本気で殺すぜ」
最高の歓喜とスリルを味わいながら、キュラスルは拳を握り締める。
「お前は強いってわかりきってるからなぁぁあああああああ!!!」
そして全力で殴り掛かり―
「上等だおらぁあああああ!!!」
大尽との、殴り合いが勃発した。
ここに、日本国歴代総理大臣史上最大の、総理大臣による直接戦闘が勃発した。
一方そのころ、英雄派幹部の一人であるゲオルクもまた、戦闘を開始していた。
そして、その相手は苦戦を強いられていた。
「これは面倒ですね。どこにいるのか全く分かりません」
「黒歌、転移だけは何としても防いでくれよぉ! 出ねえとどこに連れていかれるかわからねえからよ!」
「わかってるわよ!! だからとにかく攻撃を防いでなさい!!」
ヴァーリチームを相手に、ゲオルクは圧倒的優勢に立ち回っていた。
勿論、さすがの上位神滅具使いであっても限度はある。ヴァーリチームの中でも規格外の三人を相手にして、単独で圧倒するのは困難だ。
最強の聖剣、聖王剣コールブランドの使い手、アーサー・ペンドラゴン。
伝説のはぐれ悪魔。妖猫の雌である仙術使い、黒歌。
西遊記の後継者、孫悟空の末裔、美候。
その三人を相手に、ゲオルクは速攻で切り札を切った。
すなわち、
ゲオルクの禁手は願った結界装置を作り出す
そして、それが業魔人で強化されたことによってその力はより強大化した。
もはや、霧そのものが結界装置として機能し、あらゆる感知を阻害したのである。
あらゆる探知魔法や魔術を無効化する結界装置と化した霧は、仙術使いである美候はもちろん、ほかの魔術や呪術にすら優れている黒歌ですら居場所を特定することができない。
さらに、ゲオルク自身は転移能力を利用して、遠隔地から多角的な砲撃を叩き込んでいる。
すでに同じ戦域にいた者たちは全員倒されている。伝説クラスの妖怪や、歴戦の悪魔祓い、そして最上級悪魔すら倒された。
そんな中、最後まで生き残っていることが、ヴァーリチームが桁違いの化け物であることの証明だが、このままではじり貧である。
なにせ位置がわからない。結界を破るほどの火力を出すことは不可能ではないが、然し無駄打ちしてはすぐにガス欠になる。
転移を防ぐためにかなりの力を使っていることもあり、無駄打ちする余裕はさすがのヴァーリチームにもなかった。
「我が結界空間の前には、誰一人として逃げることはできん。……新たに入ってきた者たちも、すぐに消し去ってやろう」
「んの野郎。ヴァーリと互角にやり合ったことがあるだけあるじゃねぇかい」
「これだけの猛者がいた勢力にいたことは自慢になりそうですが、然しいいようにされるのはいただけませんね……」
放たれる攻撃を殺気で察知してはじく美候とアーサーだが、しかしいい加減体力を消耗しているため、負担も大きい。
このままでは押し切られる。そんな嫌な予感を察してしまった、その時だった。
「……あ! やっと味方がいた!!」
そんな半泣きの言葉に、美候たちは振り返った。
この処刑空間に取り込まれて、まだ生き残っている者がいた。
その事実に軽く驚くが、然しその姿を見れば納得する。
「あら、リセスの幼馴染じゃない。たしかプリスだったかにゃん?」
リセスと腐れ縁となりつつある黒歌が、すぐに気が付いて声をかける。
そこにいたのはプリス・イドアル。リセス・イドアルと同じ施設の出身であり、紆余曲折あり三大勢力に投降した転生悪魔だった。
「……なんでヴィクターだったあんたがここにいるんだぜぃ?」
「鏡、みよう?」
美候の完全なブーメラン発言に、プリスは真顔でツッコミを入れた。
アーサーも黒歌も反論しない。今のは完全に美候が悪い。
一応言っておくが、プリスは投降して収監されている。来歴的にも不幸で、主にも微妙に恵まれず、本人の意思とはあまり関係ないところで振り回された不幸な被害者である。
ちなみにヴァーリチームは、監視役ありだが特に刑を受けていない。自発的に参加しまくった、暇人の集団とも揶揄されている。
……何かが間違っていると思ったあなたは、その感性を大事にした方がいい。
「いっそアンタ、生き残ったらうちのチームに入るか? ヴァーリが主神の養子になったから恩赦出るぜ?」
「ですね。聞けば周りに振り回されただけとのこと。私たちと同じ待遇でも問題ないのでは?」
「ついでに一緒に赤龍帝ちんのとこに住む? 今ならリセスもついてくるニャン」
などと軽口をたたくが、然し三人の表情は硬い。
位置さえ分かれば反撃はできる。しかし、その位置を把握することができない。
様々な魔法に長け、結界の極みといえる神滅部を持つ男。英雄派きっての魔法使い、ゲオルク。
黒魔術・白魔術・ルーン魔術・セイズ魔術・仙術妖術錬金術etc……。
あらゆる異能対策を万全にした霧型結界の前に、そもそも位置をつかむことが不可能という窮地であり―
「―じゃあ、先ずあの人倒してからで」
―それを、どうということはないとでも言わんばかりのあっさりさでプリスは切って捨てた。
闘う総理大臣、大尽統参戦!!
日本の危機にいてもたってもいられず、あとのことを任せれる状況を作って、遅れながらも参戦しました。壮絶な殴り合い、勃発です。
そして業魔人もしっかりしよう。英雄派も激戦です。
完全に追い込まれているヴァーリチームを救う窮地の光、プリス・イドアルのあっさり言い放った逆転の勝機とは!?