ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ   作:グレン×グレン

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そして中国での戦いが勃発。

そしてハヤルト達は何をしているかというと……


第二部二章 5

 

 新秦との小競り合いが勃発。この事実はすぐにVIPルームにまで届いた。

 

 ざわつく半分ほどのVIPをしり目に、もう半分は即座に秘書や護衛を呼んで、状況の把握に努めている。

 

 なんだかんだで半年以上の第三次世界大戦にもまれている以上、相応の胆力を持つ者も多いのだ。小競り合いの一つや二つで慌てふためく者ばかりなわけがない。

 

 何より、帝釈天が余計な事を考えている可能性を考えている者は多い。その懸念材料を把握している者も数多い。分かったうえで参加している者も結構な割合で存在しているのだ。

 

 大尽統もその一人である。

 

「いよっし野郎ども! 護衛任務は継続してもらうぜ! ……やけ酒持ってきてくれや」

 

 と、大尽は近くで動揺しているウェイターにそう告げる。

 

「総理! お願いですから避難を考慮してください!! 敵襲ですよ!?」

 

 護衛の一人がそう言うが、大尽はその口にタンドリーチキンを突っ込んで黙らせる。

 

 そして反射的に食べる護衛に、大尽は首を振って見せた。

 

「いや、下手に避難するよりここの方が安全だろうよ。つーか、その為のスペースだろうしな」

 

 意味のない事はしない。これはそういう事なのだ。

 

 帝釈天も、流石にVIPに犠牲者が出ればややこしい事になることぐらいは分かっている。あれは問題児ではあるが愚者ではない。

 

 なら、このVIPルームは非常に堅牢な防衛陣地になっているだろう。実際核攻撃にも耐えられる防御態勢だ。

 

 帝釈天の目的は、VIP達撒き餌におびき寄せられたテロリストたちと自陣営の新米をぶつけ合わせ、有数の実力者になりえる者達を選別したり鍛え上げさせる事だ。

 

 なら、餌となるVIPの場所はすぐに分かるようにしたいはず。そして、安全を絶対に確保するだろう。

 

 下手に勝手に動いてこの堅牢なシェルターから離れるより、ここにいた方が遥かに安全だった。

 

「……第一異人部隊とグレモリー眷属は?」

 

「それについてはご安心を」

 

 その言葉に、桃色の髪をした女性が答える。

 

 ただし、そんな髪をした女性は先ほどまでVIPルームにはいなかった。

 

 彼女に気づいた各VIPの護衛達が色めき立って戦闘態勢を取ったり護衛対象を庇ったりするが、大尽は手を上げてそれを制する。

 

「ああ、こいつは自衛隊(うち)の奴だ。心配するな」

 

 その言葉に、周囲の人々から感嘆の声が漏れた。

 

「ニンジャは現存していたのか!」

 

「おお、ジャパニーズシノビ!!」

 

 違うのだが、あえてそれは言わない。

 

 そういう方向にしておいた方が揉めなさそうだ。勝手に勘違いしてもらっておこう。

 

「ミラリルだったな。それで、どんな感じだ?」

 

「現段階では散らばっていますが、幸い全員の場所は把握できています。警戒態勢で待機しています」

 

 そう言いながら、ミラリルはタブレットを取り出して大尽に見せる。

 

 それを見た大尽は、一つの懸念材料に対応をする事にした。

 

「……サラトとペトの嬢ちゃんがいるこの地区に、もう何人か向かわせろ」

 

「了解しました。……一応理由を伺っても?」

 

 素早く連絡をしながら、ミラリルは理由を聞いてくる。

 

 とはいえ、理由はそこまで深いものではない。

 

 しいて言うなら、余計な面倒ごとをさっさと終わらせたいというだけの事だ。

 

「過激派クジラ保護団体が絶対に出てくるだろうからな。戦力を集中して叩き潰す。うちの国民に余計な被害者を生むわけにもいかねえだろ」

 

「了解です。ちょうど赤龍帝がアーシア・アルジェントと共に近くにいるので、彼らに向かってもらうように要請します」

 

 そう言うなり、ミラリルの姿は掻き消える。

 

 魔力を利用した転移現象だが、あまりにも一瞬で瞬間移動したようにしか見えなかった。

 

 どうやら彼女は、魔力量だけではなく運用能力も並の上級悪魔を凌いでいるらしい。

 

「ニンジャだ! ニンジャすごいな!」

 

「ゲイーシャ! フジヤーマ!!」

 

 勘違いは其のままにしておいた方が、誰もが幸せな気がしてきた。

 

 だがしかし、大尽達はここでミスを犯していた。

 

 兵藤一誠、そしてアーシア・アルジェントの使い魔であるファーブニル。

 

 この二大巨頭を目の敵にするであろうテロ組織が潜入している可能性を、うっかり忘れていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、リアスは動き始めた状況の中、少し残念がっていた。

 

 今回は依頼の都合上、ある程度メンバーが分散している必要がある。

 

 なにせ地方都市のカバーを行う必要があるのだ。数十人程度の人数では、密集していてはカバーしきれない。

 

 当然、オカルト研究部は2、3人程度の人数で行動する必要に迫られていた。

 

 そしてキャットファイトでは埒が明かなかった為、厳正たる抽選でイッセーの相方が決定する事となった。

 

 結果はアーシアの勝利。今頃彼女はイッセーとデートをしているわけである。

 

 基本的には日本か冥界で活動するグレモリー眷属。必然的に、それ以外の地方に出てくる事は少ない。海外でデートなど初の試みだろう。

 

 それが自分でないのが実に残念だ。いや、妹同然のアーシアならある程度は許容できるし、ヴィクターとの決着がつけばいくらでも行く余裕はあるのだが。

 

 まあ、イッセーに最初の恋心を抱いたアーシアは、面子の中でも別格である。ある程度は許容してしかるべきだ。

 

 何より、この程度の事でいちいち目くじらを立てていては、兵藤一誠の妻は務まらない。

 

 なので、こちらはこちらで上流階級同士の付き合いぐらいするとしよう。グレモリー次期当主には次期当主なりのやり方がある。向こうから呼んできたのなら尚更だ。

 

 尚更なのだが―

 

「ハヤルト。私達、ゆっくり食べていて大丈夫なの?」

 

 ―若干気になるのは仕方がない。

 

 今、リアス達はVIP席に近い場所にある一室で、優雅に食事をしていた。

 

 予約制の特別席で、転移術式などの応用で短時間で出店している店舗から食事を持ってきてもらう事ができる、特別コーナーだ。

 

 そこでハヤルトが食事をしないかと誘ってきたので、こうして優雅な食事会をしているわけだ。

 

 だがしかし、現在付近では新秦と帝釈天の尖兵が争っている最中。既に戦端は開かれているともいえる。それが火種になって他の勢力が動き出すか分かったものではない。

 

 そんな中、ハヤルトは悠然と鯨ステーキを切り分けて、口に運んでいた。

 

「何を言う、世界各国の珍味を食する機会など、年に何度もあるものではなかろう」

 

「いえ、日本にいるのなら鯨は食べられると思うわよ?」

 

 リアスは一応ツッコミを入れた。

 

 出会った当初は敬語で接していたが、何時の間にやら友達のように会話を楽しめる仲だ。

 

 ハヤルト自身、成果を上げていない状況下で魔王血族を鼻にかける気はかけらもない。それを抜きにしてもフランクである。ましてやリアスも、魔王血族という意味では同じである。こちらも権威を鼻にかけるタイプではない。

 

 結果としてすぐに打ち解けた。敬語抜きで会話する分には何の問題もない。

 

 とは言え、それでも流石に気になってしまう。

 

 犬料理(韓国料理)蛙料理(フランス料理)、更にはアマゾンからピラルクまで、世界各国の様々な珍味が、本場の料理人の手で作られて食している。

 

 まあ、大半の料理は日本に居ながら食す事もできるのが恐ろしいのだが。ピラルクですらその気になれば日本で食事することができるのが凄まじい。食の大国日本の脅威である。

 

 なお、変化球でイナゴの佃煮などの虫料理まであった。アフリカでは幼虫を使った料理があるらしい。食文化は恐ろしい。

 

 だがしかし、敵襲が推測されている中でこの余裕はどうなのだろうかとは思う。

 

 ことリアスとしては、すぐにでも食事を切り上げて、戦闘態勢を取り始めている眷属たちの支援に行きたいものではあった。

 

「落ち着くのだ、リアス嬢」

 

 だが、ハヤルトは苦笑するとそれを押しとどめる。

 

「余らは王だ。時には眷属を送り込むだけで、後方に待機する必要にも迫られるだろう。前線に出るばかりが仕事ではないぞ」

 

「それはそうだけど、そろそろ戦闘が始まる可能性もあるんじゃないかしら?」

 

 リアスは反論するが、ハヤルトは苦笑すると首を横に振る。

 

「時として、悠然と構える事も必要だという事だ。前線で指揮を執る事だけが眷属の長のする事ではなかろう?」

 

 アザゼルにも言われた事はある。

 

 王とは最後まで生き残る事が仕事とも言われた。若手悪魔のレーティングゲームでも、王が前線で動きすぎなのを指摘された事もある。

 

 だが、イッセーとアーシア、そしてペトが、テロリストの一部がターゲットにしているであろう鯨料理店に向かっているとなれば気にもなる。

 

 やはり動き出したくなるリアスだが、それをハヤルトは手で制する。

 

「あまり大量に動かせば、警備網に穴も生まれよう。それに、なにも眷属に任せて食事にふけろうなどというわけではない」

 

「……なら、食べ終わったら行動を開始すると?」

 

 そのリアスの言葉に、ハヤルトは首を横に振った。

 

 そして、苦笑を浮かべながら後ろに振り返る。

 

「既に敵はそこにいる。なあ、そうだろう?」

 

 その言葉に、後ろで料理の配膳を行っていたウェイターの一人が、一気に動いた。

 

 手首を一瞬だけ振ると、そこからナイフが飛び出る。

 

 そして隣にいた同僚達が驚いている一瞬の隙をもってハヤルトに迫り―

 

「……なるほど、囮のつもりだったのね」

 

 ―感心したリアスが放った魔力で、あっさりとナイフは消滅した。

 

 その事態に隙を見せた男の腹に、ハヤルトの拳が叩き込まれる。

 

 そして悶絶するウェイターは、追撃の蹴りで失神。ハヤルトは素早く魔力で拘束すると、肩をすくめた。

 

「うむ。既にスパイの洗い出しも行われている最中でな、席を融通してもらう代わりに、注意を引き付けれるように鯨を食してくれと頼まれていたのだ」

 

 そう答えるハヤルトは、再び席に戻ると、残っていたクジラ肉を食べきる。

 

 リアスは食い意地が張っているのか料理人に敬意を払っているのか判断し損ねながら、しかしすぐに意図を把握した。

 

 ようは、ハヤルトは自身を撒き餌にしているのだ。

 

 堂々と鯨肉を食べている者がいるとなれば、そちらにクジラ保護団体が集まってくる可能性はある。そうすれば、大尽総理に迫る凶手の数は相対的に減るだろう。

 

 中々豪胆な作戦である。

 

「でも、そんな賭けみたいな事をよくしたわね」

 

 とは言え当たる可能性はそこまで大きくなかっただろう。

 

 賭けみたいなことを最初にするタイプとも思っていなかったので、リアスは少し首を傾げた。

 

 それに対して、ハヤルトは苦笑しながら肩をすくめる。

 

「なに、須弥山から派遣された術者の卜占(ぼくせん)がどうとやらでな。意外に馬鹿にできぬと思ったし、表向きは休暇出来ておるのだから、これぐらいは楽しまねば損であろう?」

 

「卜占? 確か、古い時代に人間の呪いの一つだったかしら」

 

 リアスがハヤルトの言葉に、記憶を掘り返していたその時、足音が響いた。

 

「はい。我々のメンバーの中には、そういったものを得意とする者もいましたので」

 

 その言葉とともに現れるのは、中国の民族衣装を着こんだ一人の女性。

 

 ほんの僅かな動きを見るだけで分かる。

 

 間違いなく、武術を収めている。それも、サイラオーグと武で渡り合える可能性すらありうるほどに、高い水準で習得している者のそれだ。

 

 おそらく彼女が須弥山から派遣された者なのだろう。佇まいからもそれがうかがえる。

 

 そして彼女は一礼をすると、拳と手の平を組み合わせる中国の礼儀作法を示して見せた。

 

「お初にお目にかかります。帝釈天様の下でエージェントをしている、(りょ)良鈴(リャンリン)と申します」

 

「ごきげんよう。でも、呂というと―」

 

 その名字で中国人となると、真っ先に思い出す名前がある。

 

 だがしかし、それは名誉であると同時に不名誉でもあるので、突っつくのはややこしいことにならないだろうか。

 

 一瞬不安になるリアスだったが、良鈴は苦笑を浮かべると頷いた。

 

「はい、三国志の英傑、呂布は私の先祖です」

 

 呂布。中国における伝説の武将の1人。

 

 三国志において最強の武将であり、中国史における最強の戦士は誰かとなれば、間違いなく候補に躍り出る豪傑。

 

 しかし同時に裏切りの代名詞とも言え、凄腕ではあるが問題児というほかない。

 

 良鈴もそれを気にしているのか、苦笑いを浮かべていた。

 

「ご安心ください。反面教師にしていますので、義の無い裏切りをするつもりはありません」

 

「そう、貴女も大変ね」

 

 そう言う他ないリアスだが、しかし若干の警戒はする。

 

 なにせ帝釈天は不穏分子候補といえる立場だ。その子飼いの戦士ともなれば、敵対する可能性もあるだろう。

 

 あまり気を許しすぎてはならないとも思う。少なくとも、初対面で無警戒になるのは問題だった。

 

 だが、良鈴は笑みを浮かべながら静かに首を横に振る。

 

「ご安心ください。帝釈天様の将来の目標はあくまでシヴァ神の打倒。曹操で懲りておりますので、不用意にヴィクターと連携をとる事はありません」

 

「そこは不用意にではなく、絶対にと言ってほしかったがの」

 

 そう上げ足を取るハヤルトだが、しかしすぐに指を鳴らす。

 

 リアスもそれに倣い、とりあえず近くにあったベルを鳴らしてみる。

 

「なんだ、戻った事に気づいていたのか」

 

「あらあら、食事はもうよろしいのですか、リアス?」

 

 そこに現れるのはミラリルと朱乃。

 

 仮にも女王(クイーン)の立場の為、こうして待機するのは当然だった。

 

 そして、側近を傍に置いたうえで、リアスとハヤルトは悠然と座る。

 

「では、良鈴さんには帝釈天の今後の行動について聞くついでに、食事会に付き合ってもらいましょうか」

 

「うむ。テロリストが来るまでに時間はある以上、もう少し腹ごしらえをしながらゆるりと会話を楽しもうではないか」

 

「壱与の占いどうり、豪胆な方のようで安心しました」

 

 そう答えながら、良鈴もまた席に座る。

 

 それを見てから、ハヤルトは椅子の一つを引っ張ると、ミラリルを手で招く。

 

「ミラリルも腹ごしらえぐらいはするとよい。これからここには何度もテロリストが来るのだから、少しぐらいは食べておかぬと身が持たぬぞ?」

 

「なら朱乃も席に座りなさい。幸い、それを咎める様な者はここにはいないみたいだわ」

 

「なるほど、ではご相伴にあずからせてもらうとしよう」

 

「うふふ。中々緊迫感のある食事会になりそうね、リアス」

 

 そして皆が席に座り、ハヤルトは鈴を鳴らしてウェイターを呼ぶ。

 

「では鯨料理をもう一セット用意してくれ。……なに、ここに余達がいる限り、汝たちはむしろ安全な場所にいると考えよ!」

 

 そして、食事会を続ける事になる五人は、その後数多くの敵を半殺しにする事になる。

 

 それほどまでの事が出来てこそ、冥界の未来を担う新たな世代とその側近。そして、帝釈天の尖兵。

 

 圧倒的な才能を努力で磨き上げた猛者達が、圧倒的な力を見せつける試金石。テロリストは体のいい咬ませ犬となることを義務付けられていた。

 

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