ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
俺ことヒロイ・カッシウスは、今グレモリーの図書室で勉強中だ。
今回、俺に課せられたトレーニングは魔剣創造の鍛錬だ。
アザゼルの指摘は正しい。俺は、魔剣創造を聖槍の前座にしか使ってこなかった。
なにせ手持ち武器だ。槍は基本両手で使う武器だから、魔剣と聖槍の同時運用なんて、基本的には考えてこなかった。中には同時運用するやつもいるけど、かなり難しいらしかったからな。
だが、確かに曹操と戦うのなら聖槍だけでは無理だろう。
なにせ俺は後天的に移植されたタイプで、曹操は元から持っていたタイプだ。
曹操の方が聖槍の適性は高いはずだ。真っ向から聖槍で勝負しても勝ち目は薄い。
なら紫電の双手を使うってのもありだが、それだけじゃ足りねえだろうしな。
だって曹操も神器移植してっからな。その分も考えりゃあ、魔剣も使うのが正しいだろ。
そんでもって、魔剣創造はイメージが重要だ。
自分が思った通りの魔剣を作るってことは、具体的なイメージがあってこそだろうしな。
さらに剣の形もちゃんと考えないと、肝心の剣として落第な代物を作っちまうかもしれねえ。
だから、冥界の資料で剣の勉強だ。
アザゼルの指摘した体につける形で運用するってなら、防具としての機能も考慮しねえといけねえしな。
……まあ、悪魔の文字を覚えるという第一関門を乗り越える羽目になったんだが。
ま、俺は勉強嫌いじゃねえしそれは良いんだけどな。これからお嬢達と関わってくなら、当然覚えておかねえといけねえしな。
さぁて、イッセーはイッセーで未だに山から逃げ帰ってこねえし。俺も気合入れて頑張らねえとな。
と、考えていたらなんか騒がしくなってきた。
どうもメイドさんや使用人が慌ただしく動いてる。
なんだ? まさかヴィクター経済連合の襲撃か?
「どうしたんですかい?」
俺は、そのうち一人をとっ捕まえて聞いてみる。
敵襲なら俺が出張るべきだろう。なんたって神滅具持ちだかんな。
「それが、小猫さまがトレーニングルームで失神なされまして……」
にゃ、にゃんだとぅ!?
俺は、急ぎ足で部屋に行くとドアをノックする。
そして数秒後、朱乃さんが顔を出した。
「あ、ヒロイも聞いたのね」
お嬢の表情は暗い。
まあ、自分の眷属が倒れたとなりゃぁ当然だがな。
俺も短い付き合いだが、ちょっと気になっちまうぜ。
「お嬢。小猫ちゃんは?」
「ただの過労らしいわ。今は眠ってるけど、時間が経てば目を覚ますはずよ」
そうか。なら大丈夫だと思うんだけどな。
「……オーバーワークは基本的に毒なんだがな」
「ええ。でも、アザゼルの言うとおりにするのが怖かったんでしょうね」
お嬢の返答に、俺はちょっと疑問に思った。
小猫ちゃんが受けたアドバイスは、自分の力を受け入れろ……だったっけか?
朱乃さんや姐さんにしたのと大きく変わらねえアドバイスだが、一体なんでそんなに嫌なんだ?
いや、朱乃さんが嫌がってるのもそうなんだが……。
「ヒロイには、話しておくべきかしらね」
「いいんですかい?」
結構深入りする話な気がすんだが、本人が寝てんのにいいのか?
そう思ったが、お嬢は苦笑を浮かべると頷いた。
「ええ。どうせいつまでも隠せておけないでしょうし」
そう前置きしてお嬢が言った話は、無茶苦茶ヘビーだった。
小猫ちゃんは、元々白音という名前で姉の黒歌と一緒に暮らしていたらしい。
両親を早くに亡くした小猫ちゃんは、姉が72柱の系譜に眷属悪魔としてスカウトされて、そのままその家にお世話になってたらしい。
その黒歌って姉は、すげえ才能の持ち主だったらしい。
僧侶の駒を二駒も使う必要になるほどの才能。複数の駒価値がある兵士以外の駒で、いくつも使うのは割と珍しいし、こりゃすげえ。
なんでも妖術や魔法をいくつも習得し、さらには一部の妖怪しか使えねえ仙術まで習得したとか。
が、それがいけなかったらしい。
仙術は、気を取り込んで生命に干渉する術。使い方を誤ると精神に悪影響があるってデメリットがあるそうだ。
その結果、暴走した黒歌は主を殺して逃亡した。
さらに追手もことごとく返り討ちにしてそのまま行方不明。今ではSSランク級のはぐれ悪魔という、
あげく、その上役関係でなんかあったらしく、それもあって上役は不安になっちまったというコンボ。
で、そんな化け物と才能だけなら同格と思われた小猫ちゃんこと白音を、上役は処分しようとした。
それを「妹には罪はない」と言って上役を説得し、何とか助命することに成功したのがサーゼクス様だ。
そして、既に眷属が埋まっていたサーゼクス様は、駒の余っているうえに歳の近いお嬢の眷属にさせるという手段を取った。
そんな来歴だからこそ、小猫ちゃんは自分の力を使いたがらない。
なぜなら、小猫ちゃんが自分を受け入れるということは、その妖怪の力をフルに発揮しろということだからだ。
その果てに悪鬼と化した姉のことを知ってるんだから、当然躊躇するだろう。
俺が思うに、だからこそ小猫ちゃんは戦車の転生悪魔になったんじゃねえだろうか?
そんな才能なら、普通は僧侶の駒がいいだろう。普通に考えればウィザードタイプが適任。まかり間違ってもフィジカル優先の戦車の駒は相性が悪い方のはずだ。
だけど、小猫ちゃんは化け猫としての特性を使いたくない。だったら真逆のアプローチ……ってのは納得だ。
「……そういうことですので、小猫ちゃんにとってしてみれば、アザゼルの指導内容は受け入れられるものではないのでしょう」
と、途中から用事で抜けることになったお嬢に変わって朱乃さんがそう言った。
……そりゃトラウマを自分から掘り起こす奴は普通いねえしなぁ。
「正直な話、私も似たようなものですわ」
そういうと、朱乃さんは翼を広げた。
それは悪魔の翼じゃない。堕天使のそれだ。
「……ヴァーリがバラキエルうんぬん言ってたのはそういうことですかい」
バラキエル。悪魔祓いなら覚えてねえと落第点クラスの大物堕天使だ。
単純戦闘能力なら、堕天使の中でもトップクラスの実力者。
雷と光の混ざり合った、雷光を放つ使い手。まともにやり合ったら俺なんて返り討ちになるぐらいの壮絶な使い手だったはずだ。
確か諜報部隊から聞いた話によると、少し前に日本の五大宗家と揉めたって聞い……た……ぁ!?
「……朱乃さんの姫島って、五代宗家の姫島ですかい!?」
「ええ。五代宗家の一つ。朱雀を司る姫島ですわ」
マジか。超大物じゃねえか。
日本の異能者の中では最高峰の五大宗家。
そんなところの出身が、まさか悪魔の眷属になってたなんてな。五代宗家って排他的じゃなかったっけか?
って待てよ? それがバラキエルって……ぇえ!?
「あ、朱乃さんってまさか、五代宗家とバラキエルの娘ぇ!?」
「はい。姫島朱離とバラキエルの血を継いだ娘が私です」
そう、すっげえ複雑な表情で朱乃さんは言った。
まじか。ある意味ヴァーリにも負けねえサラブレッドじゃねえか。
「……私はそのことを恥じて、この翼を消す為に悪魔になることを選びました。まあ、結局消せなかったのですけれど」
そう自虐的な笑顔を浮かべる朱乃さんだけど、すぐに真剣な表情を浮かべる。
「ですが、私もまた
……なんか、訳ありっぽいな。
堕天使の幹部の娘が、当時敵対していた悪魔の、其れも魔王の妹の眷属とか、どう考えてもおかしいだろ。
これうかつに聞けねえよ。聞けるわけがねえよ。
「……あ~。俺はこんな時なんていやぁいいのかわかんねえんですがね?」
何ていうか、どういえばいいのか……。
「イッセーは、たぶんあまり気にしねえと思いますぜ?」
「ええ。笑顔で受け入れてくれましたわ」
ああ、だからゾッコンなのか。
気に入ってる男が、自分のトラウマを気にしないとか言ってくれりゃぁ、そりゃ惚れるわな。
しっかし、グレモリー眷属は色々抱えてんなぁ。
聖剣計画の被害者の木場。才能が呪いにしかならなかったギャスパーとアーシア。そして小猫ちゃんと朱乃さん。
こりゃ、イッセーも実は一般人の出なだけでハードな来歴を持ってたとしてもおかしかねえぞ。聞けるわけねえけど。
………この特訓。平穏無事には終わりそうにねえなぁ。