ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ 作:グレン×グレン
流石に少しは掘り下げませんと。ある意味章ヒロインですから。
シシーリア・ディアラクは元聖女である。
もともと信仰心の強い家系に生まれたが、しかし事故で両親を失い、教会の神父を務める親戚が運営する孤児院に送られる。
そして、彼は神器に対する造詣が深い神父であり、自分には神器があった。
触れた者に神の祝福を高密度で与えるそれは、病や怪我の後遺症に苦しむ信徒を癒すのに、それなりに効果的だった。また、武器に祝福をかけることで疑似的に聖剣に匹敵する効果を得ることができる。
それゆえに、地方のマイナーな聖女として祭り上げられることになったのは、光栄だと思っていた。
そして、そのままより大きな教会に移送されるとき、彼に出会った。
「シシーリア様。彼が同じ車両での直衛につきます、ヒロイ・カッシウスです」
「初めましてシシーリア様。将来英雄になる男、ヒロイ・カッシウスと申します」
さらりとすごい発言を聞いた。
そして直後、ゲンコツが彼に叩き込まれた。
「申し訳ありません。何分まだ若いもので、あほなことを言ってしまいました」
「いや、本気なんですけど……」
「……いい夢だと思いますよ?」
自分を見て、自らも敬虔な信者足らんとする者たちは数多い。
そんなシシーリアにしてみれば、ヒロイの英雄になるという自負も、決して悪いものとは思えなかった。
とはいえ、護衛がぺらぺらと彼女としゃべるわけにもいかない。車両の中は割と沈黙が続いていた。
静かなのは嫌いではないが、しかしこの沈黙は居心地が悪い。
そう思って、ヒロイにつと視線を向けると―
「………」
無言でパントマイムをしていた。
「ブフッ!」
思わず吹いた。
運転手を気遣わせてはならないと、何とかおなかを押さえてこれ以上笑い声をださないようにこらえる。
それを見て、ヒロイもパントマイムを終了した。
ぶっちゃけ下手だ。これをストリートでやっていたら、警察が来る前にブーイングが来るだろう。
だが、こんなところでやっているということに隙を突かれて、久しぶりに吹き出してしまった。
ああいけない、私は聖女なんだから、こんなところを見せてはダメだろう。
「あの、そういうのはできれば…‥っ」
笑いを何とか抑えながら、しかし一応たしなめようとして―
「うん、よかったよかった」
そう、ヒロイは安堵していた。
「え?」
なんで彼は安堵しているのだろう。
なにか、心配にさせるようなことをしてしまっていただろうか。
それはいけない。自分は人々を安心させる聖女なのに、人々をおびえさせてはダメだろう。
そう思ったその時、不意打ち気味に言葉が飛んできた。
「シシーリア様の心が曇ってるようでしたから」
「―っ」
図星だった。
「……私は、聖女と呼ばれるような立派な人物ではありませんから」
すこし、肩を落としてシシーリアは本音を漏らす。
信仰心の強い親に育てられたからか、自分は節制を心掛けていた。
神父の親戚に引き取られ、神器を保有していたことで彼からは神の祝福を受けた者として心から褒められた。
だけど、シシーリアも15歳の子供なのだ。
遊びたい。おいしいものを食べたい。面倒くさいことをしたくない。そう言った感情はちゃんとある。
だけど、聖女に祭り上げられてそんなことを言うわけにはいかない。
そして、それを素直に全部言うわけにはいかないことも理解している。
自分にかけられている期待は莫大だ。そして、この神器で救える者たちも数多い。
そんな自分が聖女として生きていかなければ、きっといろいろな人が不幸になってしまうのではないか。
そう思うと、彼女の心はキリキリと痛み―
「俺は、
その手を、ヒロイが優しく包んだ。
驚いて顔を上げれば、ヒロイはニコニコ笑顔を浮かべながらシシーリアをやさしく見つめていた。
「英雄ってのは、暗いところにいる人の心を照らす輝きだ」
そうはっきりと確信をもって告げると、ヒロイはシシーリアに微笑んで、そして一枚のメモ用紙を渡す。
そこには、電話番号が書かれていた。
「だから、つらくて心が沈んだ時はここに電話してくれ。愚痴ぐらいは聞いてやる!」
そうはっきり言うその姿。
……その姿に、シシーリアはどこか救われた気がした。
もちろん、そんなものは幻だ。
大きな教会に移ったことで、彼女の心労と周囲の期待は大きくなり、いつの間にかそのことも忘れてしまった。
そして、信徒に紛れて潜入した悪魔に誘惑され、それに逃げた自分は悪魔となった。
人を祝福する神器の力は、敵を滅ぼす悪意の力として使われるようになる。
そして彼の本性に勘付いてしまった彼女は、いつの間にか自分のことをさらに卑下して、そのまま暗くて冷たいところで人生を終えるしかないとあきらめていた。
……だけど、彼は微笑んでくれた。
……彼は、自分のことを覚えていてくれていた。
……彼は、自分のことを元気づけようとしてくれていた。
……彼は、自分に助けを乞えるようにしてくれた。
そして彼は……。
「お前は、照らされているか?」
まだ、自分の願いをしっかりと持っている。
シシーリアは、自分が何になりたかったのかをいまだによくわかっていない。
いや、そもそもそんなレベルの話ではない。まず前提条件として何かなりたいものがあると考えるのが間違いだ。そんなビジョンを自分は持ってない。
だが、もし一つだけ強いてあげるのだとすれば―
「……あの笑顔は、裏切りたくないです」
それを自分が曇らせてしまった。
その事実に歯向かいたいと、心から思った。
なにより―
「……イッセーさん………っ」
泣いている彼女を、自分と同じ目に合わせることは彼に顔向けできない。
だから、彼女は精一杯の勇気を振り絞った。
「……アーシアさん」
その言葉に、アーシアは顔を上げる。
自分がここに誘拐されて、まだ一日もたってない。
だが気づけば、この拘束具に体を拘束されて、そのまま数時間も無理のある体勢を維持されていた。
それで疲れて気絶してしまったらしいが、その肩に置かれる手がある。
それに気づいて顔を上げると、そこには白い髪を伸ばした少女がいた。
「あ、あなたは……」
「シシーリア・ディアラクです。とりあえず、これを飲んでください」
そういって水差しで水を飲ませてくれた。
相当高級な天然水なようで、乾いたのどにとても心地よい。
そして喉がうるおされて気持ちに余裕ができたのか、周りの状況にようやく気付けた。
部屋が、振動で揺れている。いや、そんなレベルの話ではない。
これはつい数週間前に経験した音と振動だ。
すなわち、大規模な戦闘の音と振動である。
「いったい、何があったんですか?」
「いま、あなたを助ける人が来てくれたんです」
即答で、すごいことを言われた。
真っ先にアーシアはイッセーとリアスを連想するが、しかしおかしな話だ。
ここの居場所をイッセーたちがすぐに気づくとは思えない。三回ぐらい転移を経由していたし、どうも神滅具まで使ったようだ。
いくらアザゼルがついているとはいえ、そんな簡単に足取りがつかめるのだろうか?
そんな疑問を浮かべたアーシアに、シシーリアは答えを教えてくれた。
「私が密告しました。ここの警備の状況も、ディオドラが貴族の方々を誘って亡命をたくらんでいることも、亡命先が旧魔王派なことも」
その言葉に、アーシアは驚いた。
素直なアーシアでも、絶霧とディオドラが手を組んでいる以上、ディオドラが禍の団と内通していることはなんとなくわかっていた。
だが、ディオドラの眷属である彼女がそれを密告する理由がわからない。
「それで、貴女はなんでこちらに?」
「もちろん、あなたを守るためです」
シシーリアはそういうと、持っていたハルバードを拘束具にたたきつける。
しかし、拘束具はびくともしなかった。
「やはり私みたいな塵屑の一撃では壊れませんね。……まあ、壊しても部屋からは出ませんが」
そう言いながら、シシーリアはアーシアに微笑んだ。
「大丈夫です。この部屋までの行き方はメールに添付しました。きっと救助はきますよ。……たぶん、ヒロイさんが」
前にディオドラが来た時に話していたからうすうす勘付いていたが、どうやら彼女はヒロイの知り合いらしい。
あの時はこんな決意のあるような表情を見せていなかったが、あの会話で彼女の何かが変わったのだろう。
「でも、よろしいのですか? 貴女はディオドラさんの眷属悪魔なんでしょう?」
こんなことに気づかれれば、まず間違いなく重罰を受けることになる。それ位はアーシアにも予想できた。
それも、護衛としてわざわざ侍らせるような待遇だ。その期待を裏切ったことで、彼女は殺されるかもしれない。
だが、シシーリアはそれに対して表情を変えた。
それは後悔からくる悲嘆ではない。
嫌悪感からくる怒りだった。
「……彼は、私のことも貴女のことも愛してなんていません」
「え?」
求婚されたという事実から、アーシアはディオドラが自分を愛しているというのだけは想定していた。
レーティングゲームの景品扱いされたことはあれだが、然しそれも彼なりの歪んだ愛情表現だと解釈していた。
そもそも、アーシア・アルジェントは人を嫌ったり憎むことができない性分である。
アザゼルの示した神器発展が、遠距離射撃の応用なのがその証拠だ。彼女は広範囲にフィールドを張って回復を展開すれば、敵味方を識別せず無差別に治してしまう。それを治すのは困難だと、アザゼルが確信していた通りの性分なのだ。
自分を殺すために迎え入れ、実際一度殺したレイナーレのことを様付けしてしまうところからも、それは表れている。
ゆえに、この手の悪意を前提とするだましには鈍感なのだ。
そして、シシーリアはそれをわかったうえで逃げ出すことも死を選ぶこともできなかった臆病者だが、しかしそれを悟る程度には、人を嫌うことも憎むこともできる性分だった。
「……彼は、私達のことをコレクション程度にしか思ってません。だから彼に同情してはいけないんです―」
「わかっているじゃないか」
その言葉に、シシーリアは飛び跳ねるように振り返った。
扉が爆発して吹き飛び、そしてそこからディオドラがずかずかと侵入する。
その表情は、明らかに侮蔑と蔑みの入った嘲笑だった。
「ディオドラ……っ」
「ご苦労様、シシーリア。君のおかげで計画の確実性は増したよ。成果は小さくなっただろうけどね」
歯を食いしばってハルバードを向けるシシーリアを無警戒で睥睨し、ディオドラはそう告げた。
その言葉に、シシーリアはすぐに勘付いてしまった。
「私みたいな愚図が出し抜けたのは不思議でしたけれど、わざと泳がせていたんですか!?」
もとから嫌な予感はしていたのだ。
携帯のメールだなんて簡単な方法しか思いつかなかったので、すぐに勘付かれて殺されるものだとばかり思っていた。
しかし、ここに至るまで全く指摘されなかった。
それをおかしいとは思っていた、しかし、策謀に長けているわけではないシシーリアでは、そこから先は思い至らない。
ゆえに、彼女がディオドラ達を出し抜くことは困難だった。
「ありがとう、シシーリア。君は僕の予想外の動きをしたけど、僕の期待通りの働きをしてくれたよ」
心からの嘲りを込めて、ディオドラはそう言い放つ。
それに、シシーリアは心から歯噛みした。
アーシアを助け、そしてヒロイに恥じない自分に戻る。
その決意を込めた行動は、結局ディオドラの対処の範囲内だった。
その事実が、たまらなく悔しい。
「……それでも、彼女は守って見せます!!」
ハルバードを振るい、シシーリアはディオドラに迫る。
聖女の洗礼によって祝福されたこの武器は、生半可な聖剣を超える性能を発揮する。無論、悪魔にとっては天敵だ。
ならば、直撃を当てることさえできれば勝ち目はあると判断し―
「甘いよ、シシーリア」
その攻撃は、無防備に挙げられたディオドラの腕に止められた。
聖なる装備に弱い悪魔という種族でありながら、ディオドラは祝福を受けたハルバードの攻撃を平然と受け止めた。
もはや、圧倒的なまでの戦闘能力の開きがある。そしてそれは、相性で突破できるようなものではない。
その事実に愕然とするより早く、ディオドラの平手がシシーリアを打ちのめす。
平手でありながらその威力は激しく、シシーリアは一気にアーシアの元まで弾き飛ばされた。
「シシーリアさん! ディオドラさん、やめてください!!」
アーシアは動けないながらもなんとかせんと叫ぶが、それをディオドラはスルーする。
そして、それを最初からわかっていたシシーリアは、意地で立ち上がるとハルバードを構えた。
「無駄です。この男に、そんな感情はありません!」
「わかってるじゃないか。なら、無意味な抵抗はしなくていいよ」
ディオドラはそういい、顔を気色にゆがめる。
シシーリアを痛めつけるのが楽しくてたまらない。だからできれば抵抗してほしい。
その感情がありありと伝わり、二人はどうしても浮かび上がる恐怖に震えを生む。
それを見てさらに喜びながら、ディオドラはアーシアにほほ笑んだ。
その笑みはまるで聖人のようだった。
しかし、彼は聖人ではない。むしろその性根は、悪魔という言葉がぴったり合うほどに腐り果てている。
そんな彼が、そんな無垢な笑顔を浮かべられることに、シシーリアは歯噛みする。
自分が無理をして何とか形にしていた笑みを、こんな平然と彼のような悪党が浮かべられることが、悔しくてたまらない。
「それにアーシアは殺しはしないよ。彼女はこの作戦の要だからね」
その言葉の意味は分からない。
だが、それを告げた意味だけは分かる。
おまえは、ここで無意味に死ね。
ディオドラはそう告げたのだ。
「……それじゃあ、さようなら、シシーリア。君はなかなか好みだったけれど、再起した君にはがっかりだよ」
その言葉とともに、ディオドラの右手から魔力があふれ―
「「「させると思うか!!」」」
その直後、壁が破壊されて聖なる輝きが飛び込んできた。
その光景を、おそらくシシーリアは一生忘れない。
そして、アーシアも決して忘れないだろう。
それは、まさしく悪の魔王にとらわれた姫君を救う勇者の姿。
それをまとって、お互いが心の支えとしていたものが現れたのだから。
Side Out
よっしゃ間に合ったぁ!!
滑り込みセーフで俺はシシーリアとディオドラの間に割って入り、聖槍で魔力砲撃をかき消す。
即座に放たれた迎撃の魔力砲撃を、ゼノヴィアが遠慮なくデュランダルでぶった切る。
そして、そんなディオドラに対してイッセーが聖剣のオーラを込めた渾身の拳を叩き込んだ。
「ちぃ!!」
ディオドラは何とかガードするが、しかし勢いを殺せず十メートルは吹っ飛ぶ。
そして、そんな隙を見逃すほど、ゼノヴィアは甘くない。
「私の友達を、よくも捕らえてくれたな!!」
遠慮なくゼノヴィアはデュランダルを構えると、そのオーラを限界まで高める。
ゼノヴィアは、攻撃に威力を求める性分だ。どうしても本能的なセンスとして、それが引き出される。
どうにもデュランダルはそのあたりの性質に素直に反応する性分らしい。まあ、見た感じバスターソードだし威力重視なんだろ。
聖剣適性を得た木場も使ってみたが、切れすぎるとこぼしていた。
で、ゼノヴィアはついに威力を制御することを放り投げた。
もうデュランダルの威力を引き出すことに意識を集中させる。万が一威力を制御するときは、アスカロンを借りると割り切ったのだ。
その結果生まれるのは、イッセーですら楽には放てないほどの圧倒的な攻撃力。
ましてやデュランダルは最高峰の聖剣で、威力重視。悪魔との戦闘においては赤龍帝以上の効果を発揮するだろう。
それが、何の遠慮もなくぶっ放された。
「消え去れ、この外道がぁあああ!!!」
一瞬で、城の区画の三割が消し飛んだ。
もう1kmぐらい切れ込みが走り、豪快に破壊の跡が産まれる。
なにこれ。すでに最上級クラスの一撃に匹敵するんじゃねえか?
「……ふぅぅ。すこしすっきりしたな」
「いや、味方巻き込んでねえか不安なんだけどよ」
俺は心底そう思った。
これ、乱戦じゃ使えねえぞ。やっぱり威力制御する方向も視野に入れてくれませんかい、ゼノヴィアさん。
ちなみにイッセーはいやらしい顔をしていた。
ここに来るまでにディオドラの眷属を相手にした時、遠慮なく
なんでも読心術の対策を取っていたらしいのだが、全部筒抜けだったらしい。
おいおい、乳語翻訳チートすぎね?
「イッセーさん! ゼノヴィアさん!」
「「待たせたな、アーシア!!」」
感極まったアーシアに、二人は真剣な表情で答える。
そして、俺は俺が照らすべき存在に向き直った。
「よ、シシーリア」
「ヒロイ……さん」
シシーリアは、なんだか暗い表情をしていた。
そういや昔からこうだったな。
シシーリアは、いつもなんというか暗かった。たぶん性根がネガティブなんだろうな。マイナス方向に考えがちで、そういう性分だから直せない。
「ごめんなさい、私は……結局―」
「ほい!」
俺は遠慮なくシシーリアにチョップを叩き込んで黙らせた。
ったく。何があったかは知らねえが、そういうのは聴く気はねえぜ。
「はう!? な、なにを!?」
「お前が言うことはそっちじゃない。そして、俺が言うことは決まってんだ」
ああ、俺が言うことは、もう最初っから決まっているといってもいい。
俺は英雄だ。そして、英雄とは人の心を照らす輝きだ。
だから、俺が言うことは決まりきっている。
努めて笑顔で、俺ははっきり言いきった。
「お前の心は照らされてるか?
その言葉に、シシーリアは少しだけ黙っていた。
だけど、やがてその口元が弧を描いた。
「……まだなので、できれば照らしてください」
「ああ、任せろ!!」
これで負けられない理由が増えたな、オイ。
さあ、腐れ外道ことディオドラ・アスタロト。
……英雄に倒される魔王の役目、ちゃんと果たしてもらおうか!!
そういうわけでシシーリアが内通者でした。とはいえディオドラ達は即座にプランを修正したので出し抜けませんでしたが。
シシーリアの来歴はこんな感じで。もとからネガティヴだったので、ストレスゆえにかどわかされた感じです。
だけど、心の奥底に残っていた思い出が最後の一戦をギリギリのところでふみとどまらせました。
そして、其れでもなお暗く染まりかけたシシーリアを照らす輝き到着。
こっから、本格的なバトルタイムです!!