ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ   作:グレン×グレン

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第三章 5

 

「ほっほっほ。ま、ちょっと日本に来日したぞい」

 

 と、兵藤邸のVIPルームで、オーディン神はそう告げた。

 

 もちろんその場でデートは中止だ。ま、あんな流れじゃデートなんて続けられねえがな。

 

 そのせいか、それともバラキエルさんに出会ったことがきっかけなのか、朱乃さんはものすごく不機嫌だ。

 

 いつも作ってるニコニコ笑顔すら見せてねえ。終始、自分はむかついてますって顔だよ。

 

 うっわぁ。あれはマジギレって感じだな。

 

「おい爺さん。来日はもっと後って話じゃなかったのかよ。俺も聞いてねえぞ」

 

「それはスマン。来日を早めるのはグリゴリに伝わっていたのだが、最近のごたごたで行き違いがあったらしい」

 

 と、文句を垂れるアザゼルにバラキエルさんが謝った。

 

 ああ、ヴィクター経済連合との小競り合いは頻発してるからな。

 

 お互いに亡命をサポートしたり阻止したりで、忙しかったからなぁ。そりゃミスの一つもするか。

 

「北欧神話と日本神話。そして日本政府との会談が行われる予定でして、それでこちらに来日したのです」

 

 そう告げるのは、褒章式でオーディン神にハリセンを叩き込んだヴァルキリーの姉ちゃん。

 

 そう告げてから、その人は一礼した。

 

「お初にお目にかかります。私はオーディン様のお付きをしているヴァルキリー、ロスヴァイセです」

 

「顔を合わせるのはほとんどの者が初めてだな。私はグリゴリの幹部をしているバラキエルだ。よろしく頼む」

 

 と、バラキエルさんも挨拶をする。

 

 そして、二人の視線が女の子の方に向かった。

 

「……お前もオーディン神の護衛だろう。一応挨拶をした方がいい」

 

「そうですよ小犬さん。こういう礼儀作法は大事です」

 

 そういわれて、その女の子はハッとなった。

 

「あ、そうだね! ごめんごめん」

 

 そういって二人に謝ると、ぺこんと俺たちに一礼する。

 

「京都からお爺ちゃんの護衛を頼まれました、神代小犬(かみしろ こいぬ)です。よろしくおねがいします」

 

 そう、子供っぽく一礼すると、小犬はオーディンの膝の上に座った。

 

 いや、それマジで大丈夫なのか?

 

 俺たちはかなり気になるが、オーディン神はむしろ嬉しそうだった。孫ができた感覚なんだろうか。

 

 バラキエルさんとロスヴァイセさんも慣れているのか、もう平然と対応している。

 

「気になされないでください。オーディン様が調子に乗って京都に無茶な注文をしまして、それだけクリアーしたからもういいだろ的な人選で選ばれたんです」

 

「精神年齢は低いが、実力は確かだし善良だ。それは付き合いの長い私や、ペトが保証してくれるだろう」

 

 なるほど。二人ともすでにいやというほど思い知ったのか。

 

 なんか、苦労してんな。

 

「ほっほっほ。可愛い女の子になつかれるとは、長生きはするもんじゃわい」

 

「お爺ちゃんの膝の上、座り心地がいいんだもんっ。死んだお父さんみたいであったかいんだ」

 

 ……その返答に、割と全員がほっこりするべきか暗くなるべきか一瞬悩む。

 

 っていうか、妖怪がらみでペトの知り合いってことは……。

 

「あ、ヒロイの予想通りっす」

 

 小声で、ペトはそう言ってから小犬の隣に座る。

 

「小犬も久しぶりっす! 元気だったッスか?」

 

「うんペッちゃん! もう元気になったから大丈夫!!」

 

 そういって、二人は微笑み合った。

 

 それを同じく微笑みながら、姐さんもうれしそうだ。

 

「良かったわね、小犬」

 

「……うん」

 

 あれ? なんかそっけないな。

 

 姐さんはある意味命の恩人みたいなもんなんだし、ペトほどじゃねえがなついてもいい気がするんだが……。

 

「それでオーディン様。そろそろ話を進めてもよろしいでしょうか?」

 

 と、ロスヴァイセさんが話を進めたいのか咳払いをする。

 

「まったく、お堅い奴じゃのう。そんなだから、いい年こいても彼氏の一人もできんのじゃ」

 

「それは関係ないって言ってるじゃないのおおおおおお!!!」

 

 この人、パーティ会場でも褒章会でもこのネタでいじられてたな。

 

 いい加減慣れたら? それとオーディン神もいい加減飽きたら?

 

「……そのヴァルキリー、あの戦闘でもかなり活躍してたはずだがな。なんでそんなできるのが秘書みたいなことやってんだ? もっと武闘派で行けるだろ?」

 

「ヴィクター経済連合が馬鹿なことをやらかすまで、このご時世は英雄や勇者は現れんかったからの。ヴァルキリー部門は最近まで縮小傾向だったんじゃよ。それにこいつ、意外と器量がなくてのぉ」

 

「なるほどなぁ」

 

 泣き崩れるロスヴァイセさんをスルーして、ロスヴァイセさんの話をしてやがるよ、こいつら。

 

 鬼か。いや、堕天使と神だ。

 

 北欧神話の神って、結構ドぎついこともやってたらしいからなぁ。ドワーフを相手に詐欺まがいのことしたり、戦争をあおったり。

 

 オリュンポスも鬼畜が多いっていうが、アースガルズもなかなかだぜ。

 

「そう言うわけで、スマンがおぬしらには護衛を頼むわい。日本からは小犬、堕天使からはバラキエルが来とるが、何が起こるかわからんからの」

 

「よろしく頼む」

 

「よろしくね!」

 

 と、オーディン神の説明に、バラキエルさんと小犬がそう続ける。

 

 なんか知らんが、この三大勢力のバックアップがむちゃくちゃある駒王町が待機するには一番都合がいいらしい。ま、神滅具が三つもあれば防衛戦力としちゃ過剰だがな。

 

「そんで? ごり押ししてきた日本政府からは、護衛はつかねえのかよ?」

 

「無茶言うな。表の軍隊が堂々と護衛したら息が詰まるし、奴相手じゃ勝てんわい」

 

 アザゼル先生の皮肉に、オーディン神はため息交じりにそうこぼす。

 

 ってちょっと待とうか? 今気になること言わんかった?

 

 アザゼル先生もそれに気づいたのか、怪訝な表情を浮かべる。

 

「……おい。まさかヴァン神族が突っかかってんのか? 頼むから、日本でラグナロクなんて引き起こすんじゃねえよ」

 

「いや、そっちはどうでもいいんじゃがのぉ。ある意味もっと厄介な奴が和議に文句をつけてての。行動を起こされる前に先手を打ったというわけじゃ」

 

 な、なんか面倒なことが勃発しそうなんだが。

 

 たのむぜ神様。ただでさえ亡命関係でもめてるのに、修学旅行前にこれ以上のもめ事は勘弁してほしいんだけどよ。

 

「……なるほどねぇ。どこもかしこも阿保ってのは上にも出るもんだな」

 

「ああ全くだ。うちもコカビエルやサタナエルがあほなことやらかしたからなぁ」

 

「まあ、そういうことじゃ」

 

 と、オッサンやら爺さんやらがうんうんとうなづいている。

 

 うんうん。教会にも阿保はいたし、その辺は同感だぜ…‥ってちょっとまて。

 

 今、最初にオーディン神に同情したの、だれ?

 

 若手組が一斉に顔を向ければ、そこにはこんなところにいるはずがねえ顔がいた。

 

「よ、赤龍帝に聖槍の。顔を合わせるのは二度目だな」

 

 そういって片手を上げてあいさつするのは、前に駒王学園の前に出てきたオッサン。……いや―

 

「そ、総理ぃ!?」

 

 イッセーが度肝ぬかれて大声を上げる。

 

 そう。このオッサンは今の総理大臣。大尽統(だいじん すべる)総理大臣……ややこしい!!

 

 思わぬ人物の登場に、俺たちは警戒心を上げた。

 

 見れば驚いてないのは小犬と姐さん以降の年長組だけ。ロスヴァイセさんすら驚いてやがる。

 

「ど、どこから入ってきたの?」

 

「おう! 玄関からだぜ? ここの家主さんには挨拶と土産の饅頭とサインをくれてやったが?」

 

 いろいろ渡しすぎだろ。お嬢が驚くのも当然だ。

 

 慌てて俺を含めた何人かが窓から下を見れば、何処にでもあるようなセダンが二台ほど止まっていた。

 

「悪目立ちしねえように、秘密会談専用の車できたぜ? 護衛の車も分散して配置済みだ。その辺の気遣いはちゃんとさせてもらったよ」

 

 こ、心配りがちゃんとしてる……。

 

 げ、現職の総理大臣すげえな。一般人が住んでるこんなところに総理専用車が止まったら、絶対に噂になるしな。気が利いてる。

 

 いや、しかしこれはまたすごいことになってんな。

 

 生きてる間に生で総理大臣見れる輩とか、そうはいねえだろ。日本人でもそうはいないはずだぜ?

 

 と、オーディン神が興味深い目で総理を見据えた。

 

「ほっほっほ。それで? 先に聞いとくが、なんで儂らの和議に一枚かもうとしたんじゃ?」

 

「決まってんだろ? 国益最優先だ」

 

 即答だった。

 

 総理大臣は、不敵な笑みを浮かべると、両手を広げる。

 

「日本は選挙で総理を決める。そして人間の多くは俗物だ。なら、国のトップになりやすいのは俗物の望みを叶える奴だってのは、考えてもみりゃ道理だよなぁ」

 

 み、身も蓋もねえが確かにそうだ。

 

 だからって、いくら放送とかされてねえからってここで言うか?

 

「だから総理大臣()はいついかなる時も国益と民衆の人気取りを考える。堂々と異形の存在を公表したのに、神話の会談に政府がノータッチとか、間違いなく揉めるぜ?」

 

 確かにそうだな。

 

 この国は、他のどの国家よりも早く様々な神話の存在を認めて、交渉を開始している。

 

 もし、アースガルズと日本神話の会談が行われたことが知られるなら、そこに日本政府が関わってないのは問題になるだろう。

 

 しっかし、堂々と言いやがったなこのオッサン。

 

 国益と人気取りを優先って、このご時世でか?

 

「悪く思うなよ? 俺たち政府ってのは国家って会社を運営してんだから儲けはもちろん考える。慈善事業だって赤字になるほどやる馬鹿はいねえよ」

 

 ホントに身も蓋もねぇ。

 

 ま、正論っちゃぁ正論だから反論しづれぇがな。

 

「ほっほっほ。ゆえにアーズガルズの魔法やグリゴリの技術がほしいというわけか。正直じゃのう」

 

「おうよ! 他の国からの輸入も減ってるからな。他国の輸入が必須のこの国は結構大変なんだよ。そちらさんたちの力で領海内のメタンハイドレードを取れるようにしねえと干上がっちまうからな!!」

 

 あ、やっぱり日本は今でも大変なんだな。

 

 たしかに日本って、食い物も資源も輸入に結構頼ってるからな。技術大国ニッポンの悲しい懐事情ってやつか。

 

 ヴィクター経済連合相手にボコボコにされて、どこの国も輸出を渋ってるらしいからな。そりゃ、この国にとっちゃぁ死活問題。どうにかすんのは政治家の義務か。

 

 そういう意味じゃあ、神々の力を手に入れればどうにかなるってなら、そりゃそうするか。

 

「協力してかなきゃならねえって時に、自分とこ最優先かよ」

 

「当然だろう総督さんよ。飢えるとわかってるなら、先ずは自分の食い扶持を確保しなきゃならねえだろ?」

 

 アザゼル先生の文句をさらりと切り返して、総理大臣はにやりと笑う。

 

「安心しな。取引ってのはWINWINが基本だ。そっちがこっちに利益をくれんなら、こっちもそっちに利益を提供するぜ」

 

「ほっほっほ。わかりやすくて簡単じゃのう」

 

 オーディン神は面白そうに笑うけど、すげえ会話だな。

 

 国や勢力や神話のトップが、俺たちの目の前で国家運営クラスの会話してんだもんな。

 

「さて、しかしこのままでも暇じゃのう。ちょっと観光してもいいかの?」

 

「お、そう来るかい? どこに行くんだよ?」

 

「高級料亭でも行くかい? 総理大臣のコネを見せてやるぜ?」

 

 と、アザゼルと総理はのっかった。

 

 こ、この二人が協力すれば確実に日本国内ならどこにでも行けそうだ。

 

 さて、日本神話とかかわるっていうからにゃぁ、伊勢神宮とか……?

 

「―おっぱいパブにいきたいのぉ」

 

 アザゼル先生以外の全員がずっこけた。

 

 あ、アホかぁあああああ!!! 阿保なのかこのジジイはぁあああ!!!

 

 アザゼル先生だけはノリノリで笑い始めるしよぉ!!

 

「見る目が違うな爺さん!! よっしゃ、実はうちのところの若い娘たちがVIP用の店を開いてんだ!!」

 

「うっほっほ~い!! 流石はアザゼル坊じゃ!! そこの総理大臣もどうかの?」

 

「……総理大臣がそんなとこ行ったなんて知られた日にゃ、支持率急降下だ馬鹿野郎」

 

 おお、総理はツッコミポジションだ!! よかった!!

 

 総理はため息をつくと、背を向けた。

 

「俺は会談の準備もあるから帰るわ。……お好きにどーぞ」

 

「そんじゃ、俺たちはこのまま日本の代名詞のお代官様ごっこと行こうじゃねえか!!」

 

「たまらんのー!!」

 

 ふざけんな、このドスケベ馬鹿コンビ!!

 

「あ、いけませんオーディン様! 私も行きます!!」

 

「お前さんは残っとれ。アザゼル坊がいるなら問題あるまいて」

 

「駄目に決まってます!!」

 

 ……廊下であほなやり取りが勃発してるわ。

 

 なんだろう。俗物的なセリフぶちかました総理が、一番まともに見える。

 

 会談、別の意味で無事に済むんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。なんか眠れないので俺は夜食を食べにダイニングに降りていた。

 

 今頃阿保共はおぱーい音頭で戻ってんだろうなぁ。なんかむかつく。

 

 そんな事を思いながらダイニングのドアを開けると、そこにはすでに来客がいた。

 

「あら、ヒロイ」

 

「ふむ、君がヒロイ・カッシウス君か」

 

 あ、姐さんとバラキエルさんが酒飲んでる。

 

 っていうかバラキエルさん、なんか煤けてるな。

 

「どうしたんだよ姐さん。バラキエルさんと一緒に酒飲んでるなんて」

 

 なんか真面目な印象あったから、仕事中は酒飲まないのかと思ってたぜ。

 

 っていうかバラキエルさん、なんというかやけ酒モードに入ってねえか?

 

 俺がそんなことを思ってると、バラキエルさんは言いづらそうにしながらも、しかし俺に顔を向ける。

 

「ちょうどいい。二人にあの乳龍帝について聞きたいのだ」

 

 ……この真面目な顔で乳龍帝とか、引くわぁ。

 

 っていうか、この事実を知ったらドライグ、失神するんじゃねえだろうか?

 

 ま、娘がラブホに連れ込もうとしたのをみたら、親父としては気になんのかね? 俺は親父の顔も知らねえからわかんねえけど。

 

 さて、それじゃあどういったもんか……。

 

「……ドスケベだけどいいやつっすよ?」

 

「そうね。スケベすぎるけど下手な枢機卿より善人ね」

 

 俺と姐さんは同時に言った。

 

 ああ。スケベなのはかけらも否定できねえ。覗きの常習犯だから、万人受けもしねえだろうな。

 

 だが、同時にものすごくいい奴だ。

 

 実戦経験も訓練もそこまで積んでねえのに、仲間のために命を駆けれる奴なんてそうはいねえ。そこに関しちゃぁ誰にだって断言できる。

 

 んでもって、根性もすげえ。スケベ根性もだがよ、普通の根性だってシャレにならねえ。

 

「たしか、日本語で一つのことに誠実とかいて一誠って読むんだったかしら? その名の通りの人物よね」

 

「ったくだ。この英雄がダチ認定するやつですぜ? 信頼していいですわ」

 

 俺たちはそういうが、しかしバラキエルさんは頭を抱えている。

 

「……だが、人の娘をラブホテルに連れこもうとしたんだぞ!?」

 

「あ、それペトが見てたわ。連れこもうとしてたのは朱乃のほうよ」

 

 姐さんの言葉に、バラキエルさんは愕然となった。

 

 む、娘がそんなふしだらになっているだなんて!? だなんて表情だった。

 

「つーかイッセーの奴、なぜかわからねえけどあからさまなアプローチを曲解してるよな」

 

「ラブホに連れ込まれかけたのも、後輩に対する愛情表現とかで勘違いしてそうね。頭どうかしてるんじゃないかしら」

 

「別の意味で心配なのだが!?」

 

 いや、大丈夫だと思います。

 

 だってあいつ、そっち方面ヘタレだしよ。

 

「しかもアザゼル曰く、奴は女の乳を喰らうと言ってたぞ!!!」

 

「「悪ふざけ100%」」

 

 なんでそんなこと信じるの? 馬鹿なの?

 

 ああ、バカか。親バカ。

 

 俺たちにツッコミ入れられて、ようやく冷静になったらしい。顔を赤くしてる。

 

「まあ、誰か騙すような悪知恵働く奴じゃないんで。いつもまっすぐ愚直にしかぶつかれない難儀な奴です」

 

 うん。そのせいでこっちが苦労することもあるんだけどな。

 

 あいつ、からめ手とか謀略とかには才能まったくねえだろ。ある意味子どもたちのヒーロー向きの性格してやがる。

 

 そういうわけだから、ハーレム作るのはともかく男としてはそこそこ信用してもいいと思うぜ。

 

「つか、そんなに心配なら直接ききゃぁよかしませんか?」

 

 俺はそこが気になる。

 

 朱乃さんはバラキエルさんのこと嫌ってみるみたいだけどよ? アザゼル先生が朱乃さんの住んでるここに連れてくる許可だしてんだろ?

 

 この人が質の悪いことしてんなら、許可は出さなええだろ、あの人。

 

 だけど、バラキエルさんは表情を暗くすると、うつむいた。

 

「……私は、朱乃に恨まれてるからな」

 

「酔った勢いで若い子といたして離婚したとか?」

 

 俺はぶしつけに聞くけど、それ位しか思い当たらねえ。

 

 だってこの人、どう考えてもいい人だぜ?

 

 そう言うことじゃなけりゃぁ、恨まれるほど嫌うことなんてねえと思うんだが……。

 

「いや。……そうだな、君たちは朱乃と親しいのだし、知っておいた方が話が早いか」

 

 そういって、バラキエルさんは話し始めた。

 

 ……グリゴリの幹部であるバラキエルさんが、姫島朱離という五代宗家の娘と出会ったのは、今から何十年も前。

 

 敵の襲撃を受けたバラキエルさんは、そのまま負傷してとある神社のテリトリーに迷い込んだ。

 

 そこを出くわして治療したのが、その朱璃さんだ。

 

 そんなラブドラマでも始まりそうな王道パターンの通り、二人は恋に落ちた。そんでもって熱烈なラブの末、朱乃さんを授かった。

 

 近年はだいぶ緩くなったが、当時の五大宗家はむちゃくちゃほかに対して排他的。そんな中でも二人は仲睦まじく暮らした。

 

 バラキエルさんはグリゴリの最高幹部の一人だが、それでも子供と妻のために、できる限り一緒に住んでいた。

 

 だが、五代宗家はそれを許そうとはしなかったそうだ。

 

 ある日、五代宗家は刺客を放ち、抹殺を図ったという。

 

 そこはグリゴリでも最強戦力であるバラキエルさん。ものの見事に返り討ちにしたそうだ。

 

 が、その刺客は憂さ晴らしに、堕天使を嫌っている勢力に朱乃さんたちのことをリーク。

 

 更に悪い出来事は重なる。ちょうどそのタイミングで、バラキエルさんしか対応できない任務が発生したのだ。その隙を見事に敵はつくことに成功した。

 

 その凶手の襲撃に気づき、バラキエルさんが戻ってきたときには、半分手遅れだった。

 

 朱乃さんは無事だった。……朱璃さんがその身を犠牲にしたことで。

 

 そしてその刺客は、堕天使のことを悪し様に罵ったらしい。

 

 おまえの父親が堕天使だから、母親は死んだと。

 

 ………下衆野郎が。とんだ責任転嫁もあったもんだ。

 

「朱乃は、襲撃者の言うことを鵜呑みにすることでしか精神を保てなかった。そして、そんなことになったのは私の不注意が原因だ」

 

「バラキエル。それはちょっと責任を負いすぎじゃ……」

 

 姐さんはそういうが、バラキエルさんは首を振る。

 

「いや。私の権力なら護衛をつけることはできた。無理にでも朱璃をグリゴリの勢力圏内に連れていくこともできた。……恨まれて当然だ」

 

 そういって、バラキエルさんは酒を口に運ぶ。

 

 俺たちは何も言えない。

 

 いや、朱乃さんもいい年なんだから、ちょっとは冷静に考えるべきだとは思う。

 

 だって父親なんだぜ? それも、娘をしっかり愛してくれているいい親父さんだ。

 

 浮浪児あがりの俺からすりゃ、ちょっとうらやましいぐらいだってのに。

 

 ……姐さんは、窓から外を見るとため息をついた。

 

「世の中、本当に悲劇が転がっているものよね」

 

 姐さんもそんな経験をいくつもしてきたんだろう。なんか実感がこもってた。

 

「そして、心が弱いとそれを素直に受け止められない。……英雄(強さ)が必要なのよ、人にはね」

 

 姐さんは、そういうと酒の飲みほして息をつく。

 

 その表情にはいろんなものが混じっていたが、其の中には確かに期待があった。

 

「だけど、それも強者(英雄)が心の支えになれば乗り越えられるわ。……赤龍帝、兵藤一誠がいればどうにかなるかもしれないわね」

 

 俺は、その言葉に納得する。

 

 木場の問題を解決しようと尽力し、ギャスパーに体当たりでぶつかって心を開かせ、そして小猫ちゃんと朱乃さんが自分の苦難を乗り越える支えとなった。

 

 確かに、イッセーがいれば、朱乃さんは立ち上がれそうだよな。

 

 あれもまた、一つの輝き(英雄)だ。スケベ根性以外はリスペクトする余地があるぜ。

 

 ぞっこんの男がフォローすれば、朱乃さんも少しは向き合えるはずだ。もしかしたら、問題解決がこの期間で何とかなるかもしれねえ。

 

 イッセー。お前の出番はすぐそこだぜ?

 

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