ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ   作:グレン×グレン

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そんなこんなで亡命の支援に向かうヒロイたち。

さて、どうなる古都やら……。


第三章 23

 

 そういうわけで、今俺たちは自衛隊の護衛艦に乗って合流ポイントに移動している真っ最中だ。

 

 今頃イッセーとお嬢は儀式の真っ最中か。食事マナーのテストもあるっていうし、きっとうまい飯食ってんだろうな。うらやましい。

 

 ……いや、そんなこと言ったら失礼か。

 

「……ここの飯もうめえしな」

 

「……食事の質は士気に影響しますから」

 

 俺と小猫ちゃんは、もぐもぐと自衛隊から供給された飯をかっ込んでる。

 

 なにせごたごたが起きる可能性だってあるからな。下手したら俺たちの誰かが死ぬ可能性だってある。

 

 割とうまいことで有名な海上自衛隊の糧食。食わずに死んでたまるものか。最後の晩餐はうまい方がいいに決まってるぜ。

 

「それでヒロイ先輩。一つ聞きたいことがあるんですが」

 

「あんだよ。言っとくが俺の分はやらねえぞ」

 

 俺は飯をガードしながら、小猫ちゃんの話を聞く態勢に入る。

 

「……リセスさんとペト先輩、どちらを選ぶんですか」

 

 俺は、かっくらったグラタンを吹き出しそうになった。

 

 耐えろ俺。うまい飯を吹き出すなんてそんなもったいねえことはできねえ。

 

 気合と根性と意地でなんとか抑え、俺は水で流し込む。

 

 よし、抑え込んだ。

 

「何の嫌がらせだ」

 

「いえ、リセスさんのことを慕っているようでしたし、ペト先輩とも最近親し気ですし」

 

 む、確かにそれはその通りだ。

 

 姐さんこそ俺の輝き(英雄)。俺が姐さんのことが大好きなのは当たり前だといってもいい。

 

 そしてペトは、俺が姐さんを慕っている理由を知っている。俺とペトは同じ人に救われてその人を慕っている者同士だ。それをお互いに理解している。

 

 だからか、最近俺はペトと仲が良くなっている。それはエロ仲間であるイッセーたちより上になっている節がある。

 

 まあ、そういう意味じゃあ気になる質問として出てきてもおかしくねえわな。俺と小猫も気心知れたなかだしよ。

 

「俺と姐さん、そしてペトはそういう関係じゃねえよ」

 

「ああ、リセスさんを中心とした二等辺三角形ですか」

 

 小猫ちゃんや。お前、そんなキャラだっけか?

 

 えっちぃのはいけません(物理)なキャラじゃありませんですかぃ?

 

 あ、イッセーに惚れてるからか。イッセーの奴はスケベだもんな。

 

「……染まったな、男に」

 

「部長や朱乃さんを見ていると、そっちに移行した方がいい気がして」

 

「いや、独自色ってのは大事だと思うぞ?」

 

 俺はそう突っ込みを入れる。

 

「つかよ。猫又って発情期あるって聞いたぞ。だったら発情期以外はエロくならねえんじゃねえか?」

 

「いえ、別に発情期じゃなくてもエッチな気分にはなります。少なくともそういう猫又は多いです」

 

 マジか。動物の発情期って、それ以外は性欲ねえとか聞いたんだが。

 

 いや、猫又は人っぽいところもあるからな。そのあたりが融合されて、そんな難儀な体質になったのか。大変だな。

 

 俺が同情の視線を向けると、小猫ちゃんが一味唐辛子をかけてきやがった。

 

 め、目がぁああああ!!

 

「難儀な体質ですいませんね。それに、房中術とかした方がイッセー先輩のためにもなりますし」

 

 ぼ、ぼうちゅうじゅつ?

 

「いわゆる男女が一つになることで行う術です。それをした方がイッセー先輩の寿命を回復させるのには効果的なんです」

 

「そういう方面から攻めれるのかよ。アドバンテージがでかいな」

 

 まず既成事実からか。お前すごいアドバンテージあるな。

 

 そしてできちゃった結婚とかいけるわけだな。なるほど、ハーレム作るならそういう方向の責任の取り方がメインになる。そう言う意味じゃあ、かなり有効な立ち位置だな。

 

 しっかしエロいことして生命力を増大か。イッセーはインキュバスか。いや、奪い取るんじゃなくて押し込まれるんだけどよ。

 

「しっかし、イッセーは趣味があれだしなぁ……ぶるうぉっ!?」

 

「どうせ、胸も体も小さいですよ」

 

 わ、悪かった小猫ちゃん。だからボディはやめて。

 

 周りの人も飯食ってるし! げろ吐いたらいろんな意味で失礼だし!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな漫才をヒロイと小猫がしてる中、ペトは教会三人娘に捕まっていた。

 

「それでだ、ペト。イッセーと子作りしたいのだが、男を誘惑する方法を教えてほしい」

 

「はいはい。いつか来ると思ったッスけど、イリナは良いんすか?」

 

 ペトが半目でイリナに視線を向ける中、イリナは翼を白黒させていた。

 

 明らかに堕天の兆候である。

 

 積極的にエロ話に関与したうえで堕天使となったミカエル直属の転生天使。醜聞以外の何物でもないことぐらいは、ペトだってわかる。元凶になるのは避けたい。

 

 だが、イリナは真剣な表情でずずいと攻め込んだ。

 

「実はイッセーくんが欲しがってたエロゲを買いに行ったことがあるのよ。それでちょっと気になるのよねぇ」

 

「天使が何してんすか?」

 

 ツッコミどころしか存在しない。突っ込まないところが存在しない。

 

 なぜ天使がエロゲーを買っているのか。しかもイッセー(悪魔)の欲しがっているエロゲーをわざわざ買いに行くとかなおさらすることではない。そしてなぜ興味を持つ。

 

 しかしそんなものを三人組はまったく気にしていない。むしろ疑問にも思っている素振りすら見せない。

 

 あれ? もしかして自分が一番常識人っすか?

 

 ふと、ペトはそう思って自分を振り返る。

 

 精神面でぶっ壊れている(ショック療法でだいぶ治った)狙撃手適正抜群の冷血な行動のできるスナイパー。好色家のお姉さまを敬愛する妹分堕天使。さらには変態たちと堂々とエロ会話を行い、母校で童貞食いをするのが趣味と化している。

 

 ……そこまで自分を客観視して、どう考えてもおかしいと結論付けた。

 

 目の前の三人は、三人そろって敬虔な信者のはずである。エッチなのはいけないだろう。

 

 ゼノヴィアとアーシアは確かに悪魔だ。悪魔は欲房に素直な生き物だ。しかし神の代行たる熾天使ミカエルから直接神に祈りを捧げることを許されたすごい信者でもある。

 

 イリナについてももう一度言うが、そのミカエル直属の転生天使。その前も生粋の信徒である。

 

 一言言おう。なんでエロ話を持ち掛けられるんだ。

 

「私としてはイッセーと速やかに子作りをしたい。いや、ヒロイから「在学中はまずい」といわれたが、その練習位はしたいんだ」

 

「……別に、練習ならイッセー以外でもいいんじゃないっすか?」

 

「いや、練習も含めてイッセーがいい。むしろイッセー以外は嫌だ!」

 

 すごくイッセー推しだ。

 

 ここまで好かれているとは、イッセーは男冥利に尽きるだろうなぁ。そんな感想をペトはした。

 

「でもなんでそんなに? 血統的なのなら、もっとすごいのも探せば確保できそうっすけど」

 

「いや、そういうことじゃない」

 

 ゼノヴィアはそういって首を横に振る。

 

 そして、素晴らしい思い出を思い出しているもの特有の輝いた眼をした。

 

 自分も最近よく見る。具体的にはヒロイがリセスのことを思い出して語っているときそれだ。

 

 あ、これぞっこんだ。ペトはそう確信した。

 

「祈りをついつい捧げては、システムによる裁きを受けてしまう私とアーシアのために、イッセーはあのミカエル様に直談判してくれた」

 

「はい。あの時は本当にうれしかったです」

 

 そういえばそんなことを聞いたこともある。

 

 敬虔な信徒なので祈りを捧げるのも当然だと思ってスルーしてたが、冷静に考えると悪魔は祈りを捧げるとあれなのだ。

 

 それを可能としたのが、イッセーの直談判だと聞いている。

 

「それ以来決めたんだ。私はイッセーの子供を作りたいとな。それにあいつは悪魔らしくスケベだがまっすぐだ。よくよく見ているといい男だとおもうぞ」

 

「そうです! イッセーさんはとてもやさしい人です!! 私の時も、レイナーレ様やたくさんの元悪魔祓いの方々がいるところに乗り込んでくれました!!」

 

 と、アーシアもまたそれに乗っかって赤い顔で熱弁する。

 

 たしか、グリゴリの潜入暗殺犯が独断で神器を確保しようとした事件だったはずだ。

 

 そのおこぼれに預ろうとかなりの人数が関わっていたが、リアスたちによって殲滅されたと聞いている。アザゼルが会談前の情報として教えてくれた。

 

 不必要な神器保有者の殺害を好まない、アザゼルの意向に反している暴走だ。おそらくその堕天使は、成功していても何らかの処罰を受けていただろう。

 

 憧れは理解から最も遠い感情だとこの国の漫画で呼んだが、まさにその通り。

 

 自分達の理想を求めるあまり、その手の想像がダメになるのはよくあることだ。自分やヒロイも気を付けないといけない。よくリセスを見よう。

 

 自分は二年の付き合いでそこそこリセスを理解しているが、ヒロイは付き合いそのものは短いのでちょっと不安だ。今度からリセスの日常生活について語って聞かせるとしよう。

 

 できれば、それで幻滅してくれないことを心から願いながら、話をさらに聞くことにする。

 

「でだ。イッセーが私達のような美少女が周りにいるのにえろげに熱心なので、いっそのことやってみたことがあるんだ」

 

「ふむふむ」

 

「でもまあ、私達ってえろげについてはよくわからないのよね」

 

「まあ、そっすね」

 

「なので、リアスお姉さまたちと一緒にイッセーさんに説明してもらったんです」

 

「はいアウトっす」

 

 ゼノヴィアとイリナまではよかったが、アーシアでアウトだ。

 

 イッセーは突き抜けているが方向性そのものはノーマル側である。おっぱい大好きなのは性癖としてはノーマル側である。

 

 そんな退廃的なものはきっと求めていない。やるとしても、自分のようなネタで済むようなタイプが限度だろう。

 

 どう考えてもこれはアウトだ。イッセーは引いてるにきまってる。

 

「とりあえず、年頃の男のノーマルな性癖という物から説明するッス。座るッス」

 

 と、とりあえず正座させて講座を始めようとして、その手に肩が置かれた。

 

 振り向くと、そこには顔を真っ赤にした自衛隊員一同がいた。

 

「わるい、お嬢さんたち。護衛艦の中の生活って女っ気がねえから」

 

「いろいろ溜まるから、こういう職業のこういう部署って」

 

「御免。ボルテージがやばいからマジでやめて」

 

 涙すら浮かべての懇願に、ペトは素直に納得して―

 

「じゃあ、あとでまとめて抜いてやるから一般人からの視点でこのお馬鹿トリオに指導お願いするッス!!」

 

 ……いろいろ説教されそうになったことを、追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてリセスは、甲板で割と警戒していた。

 

 戦闘経験が多い身としては、何かあると考えて動く方が必要だと思っている。こと海上での戦いは慣れてないので、それなりの警戒心は必要だ。

 

 ゆえに、今回の駒王学園組最年長としてそれなりの責任感をもって行動していた。

 

 そして、どうやら責任感を持っている年長者は他にもいたようだ。

 

「あらあら。姿を見ないと思ったら、こんなところにいましたのね」

 

「あら、朱乃」

 

 朱乃に声を掛けられながらもリセスは合流ポイントの方向から目を離さない。

 

 それに苦笑しながら、朱乃もまた隣に立つ。

 

「旧魔王派からの亡命者……ですか。どんな方なのでしょうね」

 

「罠の可能性もあるけど、別段おかしな話でもないのが何なのよね」

 

 旧魔王派と聞くと、状況認識能力に欠ける上に気位の高い問題児のイメージが強い。

 

 出くわした旧魔王派三人はたいていそれに該当しているので仕方がない。カテレアはサーゼクスのことを評価していたので比較的マシだが、セラフォルーに対する嫉妬心が強いので和解は難しいだろう。

 

 だが、けっして旧魔王末裔が亡命してくる可能性がないかといえばそんなことはないだろう。

 

 そもそも、現政権から旧魔王派に亡命しようとしたものはゴロゴロいる。ゴロゴロ出た。

 

 旧魔王派と現魔王派の大きな差異は、三大勢力の戦争をそのまま継続するか否かが大きなポイントだ。けっして血統主義の否定ではない。

 

 ゆえに、現四大魔王側の中にも多くの傲慢な者たちがいる。血統主義が多いのも、わかりきっている。

 

 さらに当時では種の存続の危機すらあった三大勢力の戦いも、天界側が大きな打撃を受けたことで希望の光が見えてきた。

 

 そういう意味では現魔王派から多くの者たちが亡命しようとしたのも当然だ。内乱の時とは状況が大きく違う。

 

 そして、状況が大きく違うのは旧魔王派も同じだろう。

 

 オーフィスの蛇という切り札を得た。ヴィクター経済連合という後ろ盾を得た。さらに、天界と教会は聖書の神の死を知らしめられたことで大打撃を受けている。状況は、大きく悪魔側に傾いたといってもいい。

 

 だが、内乱からすでに数百年もた経っているのである。

 

 その数百年の間に生まれた者たちは、そもそも戦争を経験していないのだ。

 

 中には戦争なんてもうどうでもいいと思う者もいるだろう。ヴァーリも、旧四大魔王の末裔であることに誇りを抱いていはいても、覇権とかそういう者には興味を示していなかった。

 

 旧魔王派の中にも、種の存続の方を優先して戦争を避ける存在がいてもおかしくない。

 

 そして、其れがいることは都合がいい。

 

「その末裔が現政権側に迎え入れられる時がくれば、旧魔王派をこちらに引き入れることもできるかもしれないわ」

 

 少なくとも、現四大魔王はそう言った方向で動くはずだ。

 

 彼らは戦争を避けたがっている。其れさえできれば、旧魔王の末裔をそこそこの地位につけることもやぶさかではないだろう。現にサーゼクスは、クルゼレイ相手にかなり下出に出たと聞いている。

 

 その旧魔王末裔の考え方にもよるだろう。大王派もまた妨害をしてくる可能性だってある。

 

 だが、それでも―

 

「そういう形で平和を築けるのなら、それに越したことはないわね」

 

「ええ。平和が一番ですわ」

 

 旧魔王の末裔が復権すれば、旧魔王派の中にも矛を収める者が増えるかもしれない。

 

 そうなれば、悪魔の問題のいくつかは解決するかもしれない。

 

 リセスは英雄になりたいし、英雄とは戦いの中で生まれるものだ。だが、平和を作るための戦いで英雄になる者だっているだろう。

 

 だから、そのきっかけを作るのに貢献したという形で英雄になるのもそれはそれでいいはずだ。

 

 問題は―

 

「―まぁ、私が英雄にふさわしいかどうかで言うと別問題なんだけれどね」

 

 自分が英雄にふさわしいかどうかだ。

 

「リセスさん?」

 

「朱乃。私はね、自分が弱いのがいやなのよ」

 

 ふと、そんなことを朱乃に漏らしたのはどうしてだろうか?

 

 なんとなくわかっている。それは、朱乃が自分の弱さを克服したからだ。

 

 堕天使であることを嫌悪してた朱乃が、堕天使の力をあえて使う決意を決めた。そして、それどころか堕天使であることの嫌悪そのものを乗り越えた。

 

 それはまさに強者(英雄)だ。己の醜さを受け入れて乗り越えるなど、すごいことだろう。

 

 だが、リセスの場合はそれができない。

 

 彼女の感じる醜さは一種の誤解というか思い込みだ。

 

 だが、自分の醜さは百人中百人が問題視するようなものだ。そう言う常識的なものだ。

 

 概要を説明しただけで、多くの者たちがバッシングをするだろう。少なくとも業界で生きていくことは難しくなる。そう言う、致命的な問題だ。

 

 そして、その醜さを開き直ろうとしたのが自分だった。そういう弱者(畜生)と化していたのが自分だった。

 

 そしてそれを自覚して拒絶しても、その後始末をすることすらできなかった。

 

 弱いのだ。心も、体も。

 

「私にとって英雄とは強いものなの。心も体も強い。少なくとも、心の弱さをどうにかできるぐらいには強い何かがある」

 

 その弱音を、リセスはつい漏らしてしまった。

 

 弱さを克服した朱乃にだからこそ、言えたことだろう。

 

 ずっと、強さがほしかった。英雄みたいな強さがほしかった。

 

 だから、全財産を払ってでも、命の危険があると確信できる人体実験を受けることができた。

 

 同じ醜さをあえて武器にしながらでも、強くなるための努力ができた。

 

 そして、かつてと違い倒せた悪がいくつもある。救えた()がいくつもある。

 

 だが、それでも結局ソウメンスクナを倒すことはできなかった。

 

 ペトの傷を乗り越えさせたのは、自分の危機という情けないものだった。

 

 そういう意味では、ペトは自分で乗り越えたのだ。

 

「私は、ペトやヒロイが慕ってくれるような、立派な英雄になれてる自信がないのよ」

 

「なるほど。確かに、そう思ってしまうと大変ですわ」

 

 朱乃はそれに理解を示した。

 

 そして、リセスの肩にそっと手を置く。

 

「そういう時は、心の支えになる人がいるといいですわ」

 

「イッセーみたいな?」

 

 リセスの返答に、朱乃はにっこりと笑顔を浮かべる。

 

「誰かがどんな時でも支えてくれる。そんな事実が、人を強くしてくれますの。私がこの黒い翼を乗り越えれたのも、それが理由ですわ」

 

 正論だ。まごうことなく正論だ。

 

 人は一人じゃ生きていけない。どこかに支えが必要なのだ。

 

 人と人とが支え合うことで、人は強く生きることができる。

 

 だが、それをリセスは呑み込むことができない。

 

 飲み込もうとした瞬間に映る光景がある。それを認められない傷がある。その事実がその手段を取らせてくれない。

 

 それに何より―

 

「朱乃。一つ聞くけど―」

 

 リセスは、顔を向けて朱乃に尋ねる。

 

 そう、支えになるものがいると人は強くなれる。それが縋れるものだとしても同じことだ。

 

 縋る方向だと人は畜生になるが、それでも普通では行けない距離を進めることができるという意味ではそれなりの価値があるだろう。

 

 だが、それには一つの欠点がある。

 

 縋れる、支えてくれる、そんな人物がもし―

 

「―イッセーが死んだら、貴女前に進める?」

 

「……………え?」

 

 その言葉に、朱乃は虚を突かれた。

 

 考えたこともないと言うより、考えたくもないことを突かれた顔だ。

 

 だが、リセスは続けて聞くことを止められない。

 

 だって自分は失ったから。なくしてしまったから。

 

 支えてくれる存在も。縋ることができる悪党も。

 

 そんな存在がなくなって、リセスは強者(英雄)になろうと前に進む。そう言う強者になろうと、支えになれる側になろうと努力することを選んだ。

 

 だが―

 

「彼を失った時、貴女は前を見ることができるの……?」

 

 どうしても聞かずにはいられない。

 

 リセス・イドアルは、その苦しみを知っているから。

 

 その絶望を知っているから。

 

 そこから強者(英雄)になろうとしたから。

 

 だから、それを乗り越えてもいないものにそんなことを言われても納得できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その二人の前方で、爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




と、日常回みたいな和気あいあいとした会話の裏で、リセス姐さんによる鋭い指摘。

実際まさにもろに喰らいましたからね。直撃でしたからね。

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