生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー73 立食パーティ その3

メニュー73 立食パーティ その3

 

俺に食って掛かってくる男を見て、苦笑というか失笑をする。それを見て男……いかにも神経質で、それでいて自分は優秀だと思い込んでいる感じ……リアルで飽きるほど見て来た、俺を潰そうとするか、それとも弱みを握り、俺を脅そうとした男達にそっくりだ。世界が違うのに、本当にどこにでもこういう輩はいるのだなと感心するのと同時に呆れる。

 

「お前の魚料理で怪我をした、これだから野蛮で無知な南方の人間が料理人なんてと思ったんだ。皆さんもそうは思いませんか?」

 

めっちゃ馬鹿だなこいつ……周りに同意を求めようとしているのに、この場にいる全員から冷めた目で見てられているのに気付かないとか、馬鹿もここまで来ると天晴れだな。

 

(と言うか、こいつ魚の種類判ってないで言ってるんだろうなあ)

 

鉄板で魚のソテーとステーキを焼いていたのだが、魚のソテーを取った男がさっきからこの調子だ。周りで並んで待っている貴族に睨まれているのに、ますます弁舌は勢いを増している。

 

「こんな雑な料理を出す男がこの場にいるのは間違いだったんですよ。魚の骨だってほら、そのままではないですか」

 

鬼の首を取ったような顔で骨を掲げる。小さな小さな骨……それを見て我慢し切れなくて思わず笑ってしまう。

 

「貴様!自分がなにをしでかしたのか判っているのか!」

 

「正直、俺をどうにかするより、自分の心配をしたほうがいいと思うぜ?お待ちしてました、ランポッサ国王陛下、ジルクニフ皇帝陛下」

 

この騒ぎを聞きつけたのか、人だかりを掻き分けて来た2人に頭を下げる。それと同時にメッセージを飛ばす。

 

【クレマンティーヌ、悪いけど、急いで厨房においてある魚を持ってきてくれ】

 

【それでいいの?】

 

俺の心配をしてくれているクレマンティーヌに大丈夫だから頼む。

 

「この男の料理で口の中を怪我をしたのですよ」

 

俺にいちゃもんをつけていた男がランポッサ国王とジルクニフ皇帝に告げる。その言葉を聞いて、2人は眉を顰めてから俺の方を向く。

 

「それは事実なのだろうか?」

 

「まぁ俺も人間ですし、ミスをするときはミスをするでしょう。それは認めます」

 

本当は人間ではなく、異形種だ。それでもミスをするときはミスをすると認めると、男は勝ったという顔をする。

 

「でも、その人が持っているような魚の骨は正直ありえないと思うんですよ」

 

「はーい、お待たせーッ!!」

 

クレマンティーヌがカートを押して魚を運んでくる。魚のソテーは俺のアイテムボックスから取り出したバニシングセイルの切り身だ。

 

「なんと神秘的な魚だ」

 

「燃えているのか?」

 

「信じられん」

 

その名のとおりバニシングセイルは水中系のモンスターでありながら、炎を扱うモンスターだ。そしてその身体は常に燃えている、それは死んでいても変わらない。

 

「この通り、この魚は4M近い大魚であり、そのような小さな骨はありえないんですけどね。いやいや、一体何処から持ち出したことやら」

 

口をパクパクさせている男の後ろから、やや痩せ気味の男が2人血相を変えて走ってくる。

 

「この、愚か者がぁッ!!!」

 

「ぎっ!な、何をするのですか!父上」

 

「ええい黙れ黙れ!おとなしくしていると言うから連れて来てみれば、とんでもない事をしてくれたなフィリップ!」

 

どうもあの男はフィリップと言うらしい。まぁ別に興味もないんだが……周りの王国貴族の反応を見る限りでは、厄介者、もしくは邪魔者扱いされてるって感じだな。

 

「申し訳ありませんが、この愚弟を連れて行ってくださいますか?」

 

目を伏せて悲しそうにするフィリップとよく似た顔つきの青年が、共に来た兵士に頼みフィリップを連れ出す。そして残った2人はその場で跪き、頭を地面にこすり付ける。

 

「申し訳ありませんッ!まさかフィリップがこのような暴挙に出るとは思ってもいなかったのです」

 

「王国と帝国の関係が変わる今。少しは愚弟にも領地のことをと思い、連れて来た父と私のミスです。どうか、どうかお許しください」

 

2人の土下座に周りが静まり返る。あの馬鹿とは違いこの2人はまともに話を考えることが出来るようだ。

 

「私としては、カワサキ殿にお任せしようと思う」

 

「私もだな、口を挟むのは正直どうかと思う件だ」

 

馬鹿な男が馬鹿な事をした、全てはそれで終わるだろう。俺の采配に任せるというので俺は頭を掻きながら

 

「まぁ俺は大して気にしていないので、正直よく経験してることですしね。それよりも今はパーティですから、どうぞ私の料理を食べてください」

 

全く馬鹿な息子を持った親と兄貴と言うのは可哀想だよな。自分達が何もしてないのに、これだけ人が居る所で頭を下げさせられるんだからな……俺はフィリップに対する怒りよりも、あの馬鹿のせいで頭を下げることになった2人が可哀想だと思い、立ち上がるように促すのだった……

 

 

 

カワサキ殿らしいと言えばカワサキ殿らしいな……普通は自分の面目が潰されたと怒る所なのだが、それでも笑って許すとは本当に人が出来ていると思う。

 

「さてとでは改めまして、よくお待ちしておりました。こちらでは本日のメインをお作りしておりますが、魚のソテーと牛肉のステーキどちらにしますか?ああ、勿論両方でも構いませんが」

 

魚のソテーはあの燃えている巨大魚のソテーなのだろう。見たことは無いが、あのサイズならば間違いなく海の魚だろう。しかしこの場で牛肉料理を出すというカワサキ殿。牛は硬いと思うのだが……いや、カワサキ殿の料理なのだから、その限りではないのだろうが……

 

「では魚のソテーを頼もうか、ガゼフはどうする?」

 

「は、では私も魚のソテーをお願いします」

 

「かしこまりました。では暫くお待ちください」

 

カワサキ殿は私の見ている前で燃えている魚を巨大な包丁で切り、それをさらに食べやすい大きさに切る。それでも元がかなり巨大な魚なので、小さく切り分けているはずなのに、それでもかなり大きく見える。

 

「少しばかり音がしますが、ご容赦ください」

 

鉄板の上にバターを落とし、その上につけ合わせの野菜であるインゲンが乗せられる。こうして目の前で料理を作っている光景というのは初めて見るが、中々に心が踊る光景だと思う。塩コショウを振られ、焼かれたインゲンは皿の上に1度上げられる。

 

「ではそろそろ焼かせて頂きます」

 

塩コショウで下味をつけられ、白い粉を塗した魚の切り身が2つ。ゆっくりと鉄板の上におかれた。

 

「「おお……」」

 

思わず声が出た。燃えている魚を焼くという奇妙な光景だと思ったのだが、鉄板の上に置かれると赤い炎が一瞬で青い炎に変わり、幻想的な明かりが周囲を照らす。その光景は思わず声が出るほどに幻想的で美しい光景だった……

 

「……良し」

 

両面がしっかりと焼かれるとカワサキ殿は魚の切り身の上にバターと黒い液体を注ぎ、少しの間蓋をして蒸し焼きにする。そしてしっかりと火が通った頃合で蓋を持ち上げ、先ほどのインゲンと共に皿の上に盛り付ける。

 

「お待たせしました。バニシングセイルのソテーになります」

 

芳しい香りと共に差し出された魚のソテー。ガゼフがそれを受け取り、鉄板の近くに用意されているテーブルへと運んでくれる。

 

「申し訳ないが、先にいただくよ」

 

「ああ。構わない、どうぞ」

 

ジルクニフにそう声を掛け、ガゼフが場所をとってくれたテーブルに腰掛ける。

 

「燃える魚と言うのは驚いたが、こうしてみるととても美味しそうだな」

 

「はい、私もそう思います」

 

焼き上げられた事で魚を覆っていた炎は消えている。だが炎は見えなくとも、焼かれている間の炎の美しさは目に焼きついている。

 

「どれっと」

 

ナイフとフォークを手に取り、小さく食べやすい大きさに切り分けて口に運ぶ。海の食材という事で僅かな不安はあったが、カワサキ殿が提供してくれたのでこれはアレルギーを起こさないものに違いない。

 

「うむ、美味い。素晴らしい味だ」

 

濃厚な魚の旨みに加え、バターの味わい、そして風味の良いソース……どれをとっても一級品と言えるだろう。むしろこれを食べて、いちゃもんをつけていたフィリップの愚かさが良く判るというものだ。

 

(柔らかいが実に味わい深い)

 

口の中で溶けるような食感…そして味も濃い。だがそれは決してくどくは無く、さっぱりとしているとも言える。

 

「ふふふ、クライム。楽しいわね」

 

「は、はい、ラナー姫様」

 

背後から聞えてきた楽しそうなラナーの声。よく考えると、これほど楽しそうな声をしているラナーを見たのは随分と久しぶりかもしれない。

 

「……ガゼフよ。クライムはどう見る?」

 

ラナーが自身の付き人にしているクライムと言う若い兵士。鎧も武器も与え、仲睦まじく過ごしている姿を見れば馬鹿でなければラナーがクライムに想いを寄せているのが判る。だが、あくまで一兵士。私にはあまり関係がないのでガゼフにどうだ?と尋ねる。

 

「とても気持ちの良い青年です。努力家であり、剣士としての腕も良いです……が、あくまで彼は私と同じく、平民です」

 

「……そうだな」

 

どれほどラナーがクライムを好いていても、王族と平民との恋愛は成立しない。だがバルブロを失ったからか、残ったザナックとラナーには心から幸せになってほしいと願っている。

 

(帝国の制度を受け入れてみるか……)

 

一代限りとは言え、国にとって優秀な働きをすれば貴族としての地位を与える制度が帝国にはあるという。ラナーの幸せを考えるのならば、多少の反発はあるとは言え、その制度を王国にも採用するべきかと考える。

 

「ランポッサ国王。遅れて申し訳ありません」

 

「おお、ゴウン殿。よく来てくれた」

 

豪奢なローブ姿のゴウン殿にそう声を掛ける。帝国と王国の和平パーティにぜひ参加して欲しいと思っていたので、こうして遅れてでも参加してくれたのは実に喜ばしい。

 

「後でこの手紙を読んでください、そして貴方がどんな決断をしようとも、私もカワサキさんも王国に協力することは決して惜しみません」

 

意味深な言葉と共に渡された手紙……中には何か入っているのか、やけに硬い何かが入っている。それに便箋には見たことも無い紋章が刻まれていた。もしかするとこの紋章がゴウン殿達の国の国旗だったのかもしれない、私達に背を向け、ジルクニフの机に足を向けるゴウン殿の後姿を見つめる。その背中には、上手く言えないが恐怖が滲んでいるように見えた。

 

「ガゼフよ、後で共に来てくれ」

 

「はっ!」

 

今この場で手紙を見るわけにはいかない。ゴウン殿に渡された手紙を服の中へとしまう。帝国と王国との関係が大きく変わるこの日、そしてそれは私達とゴウン殿達との関係が大きく変わるかもしれない日であるということだった……

 

 

 

 

 

肉らしい肉を食べたいと思っていた。爺には少々硬いかもしれないが、前にカワサキが料理を振舞ってくれた時のハンバーグは確かに絶品であったが、もっと肉を食べたいと思っていた。

 

「お待たせしましたフールーダ翁、そしてレイナース様。こちらバニシングセイルのソテーになります」

 

先に爺とレイナースに魚のソテーが差し出される。普通なら不敬と言うが今回ばかりは待つのが正しい。

 

「ではジル。先に食べておるぞ」

 

「お先に失礼します」

 

ソテーを手に歩いていく2人を見送り、バジウッドと共にカワサキの前に立つ。

 

「大変お待たせしました。バニシングセイルのソテーか、レイジングブルのステーキ。どちらにしますか?」

 

カワサキの問いかけに私もバジウッドもステーキと返事を返す。カワサキはかしこまりましたと笑い、肉の塊を私達の目の前で切り分ける。

 

(これが牛か……)

 

帝国でも試験的に食べる目的で牛の飼育を始めたが、カワサキのもち出した牛肉はそれよりも素晴らしい物だった。鮮やかなピンク色で、細かい脂がいくつも入っている、恐らくこれが食べる目的で育てた肉の最上位となるのだろう。

 

「焼き加減はいかがしますか?私のお勧めはレアになりますが?」

 

「レアとは何かな?」

 

焼き加減と言うことはあまり考えておらず、それは何か?と問いかける。

 

「ウェルダンと言うのは完全に火を通した物になり、ミディアムレアは肉の中心が僅かに生である焼き加減で、そしてレアは表面だけをさっと焼いた物になります」

 

肉を生でと聞いて私もバジウッドも驚く、肉に完全に火を通さないなど自殺行為に等しいからだ。

 

「私達の国では一般的な調理法になります。まぁ確かに焼き加減を間違えれば危険ですがね。不安ならばミディアムレアにしますか?」

 

レアと言うのは不安だったのでミディアムレアで頼む、カワサキの腕は信用している。だが、それでも恐ろしい物は恐ろしいのだ。

 

(しかし流石と言うべきか)

 

2枚の肉に塩コショウを振り、包丁の先で筋切り。その動きに迷いは無く、恐ろしいほどに早い。鉄板の上にバターの塊を三つ落として、その上に塩コショウを振られた牛肉が置かれる。バターが溶け出してきたら、スライスされたにんにくがたっぷりと肉の上に落とされる。

 

(これは相当パンチが効いていそうだ)

 

肉の厚さもそうだが、何よりも味付けも相当に濃いだろう。これは今まで味わった事の無い肉となるだろう……溶けたバターを肉の上に何度も何度も掛ける。その度に食欲をそそる香りが広がっていく。牛肉なんてと遠くに見えていた王国の貴族がこちらを見ているのが良く判る。

 

「……」

 

カワサキは無言で手にしていた包丁を振り、ステーキを食べやすいサイズに切り分け皿の上に盛り付ける。中はほんのりと赤く、しかし表面はしっかりと焼かれている。良くは判らないが、これが完璧な焼き加減と言うものなのだろう。鉄板の上に出来たソースに黒いソースが加えられ、少し加熱されてからたっぷりと掛けられ、私達の前に差し出される。

 

「お待たせしました。レイジングブルのステーキになります」

 

バジウッドが皿を持ち、テーブルへと向かう。そこにはナプキンやナイフとフォークが用意されているが、カワサキが切り分けてくれたサイズならばナイフは必要ないかと思い、ナプキンを首に巻きフォークを手に取る。

 

(しかし、これはまた凄い)

 

肉の厚さは帝国でも見たことがないほどに厚い。先にソテーを食べていた爺が中が赤い肉を見て

 

「大丈夫ですかな?」

 

「カワサキの料理だ、心配あるまい」

 

肉にフォークを突き立て口に運ぶ。肉の厚さから相当硬いと考えていたのだが、唇で触れるだけで簡単に噛み切れたことに驚く。それなのに噛み締めると歯を跳ね返す素晴らしい弾力。

 

「美味い…いや、これはマジで美味い」

 

「うむ、絶品だ」

 

にんにくとバター、そして最後に加えられた黒いソースのこげた香り。そのどれもが互いを引き立て、肉の味を良くしている。私の想像通り凄まじくインパクトのある味わいだ。

 

「赤ワインを頼む」

 

「畏まりました」

 

ボトルを手に歩いている給仕に声を掛け、赤ワインをグラスに注がせる。

 

(ほう、これもいいワインだ)

 

香りだけで判る、帝国に流通しているワインよりもグレードの高い品だ。恐らくこれもカワサキの所持品と言うところだろう……葡萄の甘みと香り、そして濃厚なアルコールの味わい……それは私の考え通り、ステーキと非常に良く合う。

 

「この柔らかさならば爺も食べれると思うぞ?」

 

「む、そうですか……では頼んでみるとしましょうか」

 

興味深そうに私を見つめていた爺に告げる。すると爺はそそくさと再び鉄板の前に並んでいる貴族の列に加わる。いい歳なのにと思うのと同時に、魔法以外にも興味を持っていることに安堵する。なんせ爺は魔法に関わると異常になるからな。

 

「噛み締めれば噛み締めるほどに肉汁が溢れ出す……しかも中が生なのが丁度いいなんて思うなんて初めてだ」

 

バジウッドの言う通りだな、私の知る肉というのはよく焼かれているので硬い。そして肉汁も焼きすぎて飛んでいるのが普通だ。だが中が生であると言うこともあり、噛み締めるとたっぷりの肉汁が溢れ出す。僅かに血の味もするが、それも良いアクセントになっていると思う。

 

「ジルクニフ皇帝陛下。挨拶が遅れて申し訳ありません」

 

「ゴウンか。なに、気にする事はない。私もお前とは話をしたいと思っていた」

 

あの何もかも吸い込むモンスターと戦う時に軽く話をしただけだが、カワサキの友と言うのでゆっくり話をしたいとは思っていた。

 

「私も話をしたいと思っております。ですが、場所も場所なので、こちらを」

 

ゴウンは私に便箋を差し出すと、背を向けて去っていく。

 

「どうするんですか?陛下」

 

「無論この誘いには乗るさ」

 

南方の生まれと聞いていたが、それらしい情報も無い。だが何もかも吸い込むモンスターは実在していた。ではカワサキ達の国はどこにある?それを問いかける為にも、この誘いに乗る必要がある。私はランポッサのように、カワサキ達の話を全て信じているわけではない……真実の中に嘘を混ぜていると考えている。正体不明の2人組みから差し出された招待状を手に、私は笑みを浮かべるのだった……

 

 

 

 

 

「今日はそろそろこれを試してみましょうか?」

 

「……うん。そうしよう」

 

醤油、味噌のラーメンスープは殆ど完成したと言っても良い、ニグンやゼロ達といった法国と王国の人間の舌で何度も何度も味を調整したから、後はこの結果をカワサキ様にお伝えして、それをさらにカワサキ様がいい物にするのか、それともこのまま使われるのかを緊張しながら待つだけだ。

 

「坦々麺を作るのはいいですが、誰に味見をして貰うんですか?」

 

「「それは作ってから考える」」

 

ピッキーの言葉にシホと一緒に返事を返すと、ピッキーは深い溜め息を吐いた。失礼な……守護者の皆様は嫌がると思うけど、多分……うん。少しは……食べてくれる人がいると思う。

 

「ではまずは肉味噌を作ってみましょう!」

 

「……うん、味の基本」

 

坦々麺は肉味噌と辛いスープで作るのだが、肉味噌はどちらかというと甘い部類になるらしいのでまずはそれを作ってみる事にする。

 

「……3つ作ろう」

 

「甜麺醤だけと甜麺醤と豆板醤、それと甜麺醤と豆板醤と粉山椒ですね」

 

シホの言葉に頷く。カワサキ様のノートに書かれていた調味料三種。甜麺醤は甘い味噌、豆板醤は辛い味噌、山椒はピリリと辛く、刺激がある。この三つが坦々麺の味の決め手とあったので、これを使った三種類の肉味噌を作ってみようと思う。

 

「では私はスープを作っていますね」

 

ピッキーがスープ作りを引き受けてくれたので、私とシホは肉味噌作りに集中したいと思う。

 

「……フライパンにごま油と豚挽き肉……それとネギ」

 

シホと2人で並んで材料を炒める。シホは持ち上げて鍋を振るってるけど……私は出来ないから、お玉で丁寧に混ぜ合わせる。豚肉に火が通ったら、1度火の上から退かして、3等分にする。これで3種類の肉味噌が作れるから、味比べが出来る。

 

「……私は甜麺醤で作る」

 

「では私は甜麺醤と豆板醤からやってみます」

 

分量は書いてないので目分量で入れて再び挽肉を炒め始める。今度は味噌が入っているため焦げやすいので、焦がさないように丁寧に炒めていく。

 

「……けほっ」

 

「ちょ、ちょっと量が多すぎましたね」

 

シホの鍋から刺激臭がしてきたので思わず咳き込む。どうも目分量を間違えてしまったようだ。でも食べてみると案外美味しいかもしれない……うん。多分……きっと大丈夫だと思う。そんな事を考えながら、オイスターソースと醤油、それと砂糖等の調味料を加えて味噌の水分が飛ぶまで丁寧にじっくりと炒める。

 

「……出来た」

 

「こっちも出来ました」

 

まずは肉味噌の第1号の完成だ。小さいスプーンで私が作った肉味噌を頬張ってみる。

 

「……甘い」

 

「でも、香りはいいですね。これは甘口で良いのではないでしょうか?」

 

「……うん、そうしよう」

 

坦々麺も辛いスープ、甘いスープがあるから甘いスープに入れてもいいし、もしかしたら辛いスープに加えてみてもいいかもしれない。

 

「では……今度は」

 

「……この辛いの……」

 

食べないと味は判らない……震える手で辛い肉味噌をスプーンで少しだけ掬い口に運ぶ。

 

「ぴゃーッ!!!」

 

「にゃーッ!!!」

 

「……何をしているんですか……全く、もう……」

 

奇声を発して気絶したシズとシホを見て、ピッキーは疲れたように溜め息を吐いて自分が作ったスープの鍋に蓋をする。

 

「すみません、シズ様とシホさんが気絶したので回収をお願いします」

 

「は、はい!今行きます」

 

茸頭でも男性は男性。気絶している女性に触れるわけにはいかないと食堂の営業準備をしたシルキーにそう声を掛け、坦々麺作りを1度中断して夕食の仕込を始めるのだった……

 

 

下拵え 密会へ続く

 

 

 




今回で帝国、王国の話は終了になります。次回はオリジナルの話を入れて、ゼロ達の今後を決めて竜王国の話でも考えてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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