生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー75 茶会 その1

メニュー75 茶会 その1

 

六階層の花園で茶会をする事に決めた……のは良い。だがいざ茶会となると問題となるのはやはり和菓子にあると思う、いくらかは俺でも作れるがやはり専門的な知識が必要な茶道とかは無理である。と言うか、俺は茶道なんて知らん……と言う訳で必然的に茶道で出す和菓子も知らない。

 

「見た目が綺麗なのは判るんだけどなあ……」

 

大福とか、ヨモギ餅とかそういうのなら全然作れるんだけど……俺は少し考えてから、どうするべきなのか答えを出した。

 

「良し、適当に作ろう」

 

どうせリアルでも廃れた茶会の風習だ。モモンガさんだって知らないだろうし、今から調べた付け焼刃の知識もどこでボロが出るか判らない。とりあえずそれっぽいのをいくつか作って、それに合いそうなお茶を出す。後はこれが普通って感じでごり押しすれば大丈夫

 

「水と寒天」

 

多分この世界には絶対に無いと自信を持って言える羊羹から作り始める。片手鍋に水と粉寒天を入れて丁寧に加熱する、粉寒天が完全に溶けたら、グラニュー糖を加え、こちらも完全に溶けるまで丁寧に混ぜ合わせながら加熱する。

 

「よっと」

 

グラニュー糖も溶けたら今度は粒餡を加え、焦げ付かないように気をつけながら丁寧に煮詰める。目安としては、木ベラを動かした時に鍋の底が見える位になるまで丁寧に煮詰める。

 

「よし、こんな感じか」

 

いい具合に煮詰まったら流し缶の中にラップを敷いてから加熱した餡を入れて、冷蔵庫の中で冷やす。しっかり固まってないと次の作業が出来ないので、4時間ほどしっかりと冷やすのが普通だが、流石にそこまで待てないので高速冷蔵の所に入れる。これなら30分ほどで綺麗に固まるだろう。

 

「みたらしの準備もするか」

 

茶会と言えばやはり団子と言うイメージが俺の中にはある。白玉粉をボウルの中に入れてゴムベラで丁寧に押し潰す、その上に薄力粉と砂糖を加え、水を少しずつ加えながら混ぜ合わせていく……粉っぽくなりすぎず、それでいて水っぽくなりすぎない。絶妙の混ぜ加減で生地を作ったら布巾を被せて休ませておく、後は先ほど作った餡がしっかりと冷えてからの作業なのでそれまではしっかりと生地を休ませておくことにする

 

「白玉粉と団子粉、後は砂糖っと」

 

ボウルの中に白玉粉と団子粉と砂糖を加え、水を適量加えて練り合わせる。白玉粉はアレンジが効きやすい割にはいろんな和菓子に変化させやすい、白玉粉のもちもちした食感はこの世界には無いだろうからきっと受けると思う。なんせ王族だ、色々ものを食べてきているから物珍しい物の方が受けがいい筈。

 

「よし、こんな物だな」

 

白玉粉が耳たぶ位の固さになったら食べやすい1口サイズに丸める。茹でると少し膨らむので、作りたい大きさよりも気持ち小さめにすると丁度いい。ボウル一杯の白玉粉と団子粉を混ぜた物を全て丸めたら沸騰したお湯の中に落としていく、茹でている間に氷水を用意しておいて団子が浮いてきたら穴空きお玉で掬い冷水の中に入れて冷やす

 

「ザラメと出汁しょうゆ、みりん」

 

全部の団子が浮いてきたら片手鍋に水を加えて、ザラメと出汁しょうゆ、みりんを加えて加熱する。ザラメが溶けたら水溶き片栗粉を加えてあんにトロミをつけながら暫く加熱し、丁度良いトロミになったらコンロの上からどかして冷ましておく

 

「最後に竹串」

 

竹串に3個ずつくらいの間隔で刺していく、数にして80本ほど。40本ずつでみたらし団子と餡団子にする、フールーダ翁とガゼフさんが付いてくるだろうが、1人5本食べたとしても10本残る計算だ。そもそも1人5本も食べるとは思っていないが、足りないと不味いのでやや多めに準備しておけば問題ないだろう

 

「みたらし団子のほうは軽く炙ってっと」

 

バーナーでみたらし団子の方には軽く焦げ目をつけて、先ほど作った甘辛いタレを塗って再び軽く炙る。餡団子の方は漉し餡を上から塗って完了っと

 

「ちょっとここでやってみるかな」

 

山菜の天ぷらには随分と驚いていた様子だが、この世界には野草を食べるという習慣が無いようなので、ちょっとした悪戯心を出してみる。まずはヨモギを水洗いしてから、塩を入れた鍋で1~2分煮て水気を切ってから、包丁で刻んでミキサーに掛ける。ある程度ヨモギの形が無くなったら水を加えて更にミキサーに掛ける。これで大福に混ぜ合わせるヨモギの準備は完了だ

 

「……上手く行っていると良いんだが……」

 

電子レンジの試作品。デミウルゴスに説明して、デミウルゴスが作り上げてくれた電子レンジ……それを初めて使うので、やや緊張するな。耐熱ボウルに白玉粉と餅粉と砂糖を加え全体を良く混ぜ合わせる。そこに、水を加え白玉粉と餅粉がダマにならないようにしっかりと混ぜ合わせたら電子レンジ(試作)の中に入れる

 

「……デミウルゴス。お前俺の説明ちゃんと聞いてたか?」

 

ワット数を調整しようとしたら最大値が3000ワットになってる。誰もそこまで強くしろって言ってねえよ……そう苦笑し、ワット数を700にセットして加熱する。2分ほど温めたら耐熱ボウルを取り出し、木ベラで混ぜ合わせる。俺本人としてはもち米から作りたいのだが、正直時間がないので今回はこれで我慢して貰おう

 

「おお、案外ちゃんとしてる」

 

時短大福と聞いて面白そうと思い覚えていたが、思ったよりもしっかりしてるじゃないか。それに電子レンジもちゃんと稼動しているし、水気がある程度飛び餅状になった白玉粉にヨモギを加え混ぜ合わせ再び加熱する

 

「良い香りだ」

 

ヨモギの良い香りが電子レンジから広がる、これは完璧な仕上がりと言っても良いな。上新粉を引いたバットの上に即席ヨモギ餅を落として棒状に伸ばし、それを一口大に切り分けて伸ばす

 

「ほっと」

 

粒餡をスプーンで掬い、餅の上に乗せてどんどん口を閉じていく。感覚的には大福を作っていると言うよりも、餃子を作ってる感じだな、1口サイズよりもやや大きめにして間違っても1口で食べようとは思えない大きさに整える。餅を食べたことがなさそうなので、喉に詰まらせるなんて事にならないように、俺も気遣いを忘れない

 

「さてと、ここまできたら、最後はこれで決まりだな」

 

薄力粉とベーキングパウダーと砂糖をふるいに掛けて、ボウルの中に入れておく。次は大きめのボウルに黄金の卵を惜しげもなく3個入れて解き解す、大きな泡が立つまで全力で混ぜ合わせたら砂糖を加え再び混ぜる。卵がもったりして来たら、アイテムボックスを開く

 

「しょうゆ、みりん、黄金の蜂蜜、レイジングブルの牛乳」

 

ナザリックの備蓄ではなく、俺個人的な食材アイテムならSSSクラスを使っても問題ないと判断し、惜しげもなくボウルの中に入れてヘラで混ぜ合わせる。全体が交じり合ったらさっきふるいに掛けた粉類を再びふるいに掛けながらボウルの中に入れる

 

「よっと」

 

そして粉っぽさが無くなるまで気合を入れて混ぜ合わせて、少し生地を休ませておく。その間に大きめのフライパンを用意し、サラダ油を敷いてしっかりと加熱し、休ませておいた生地をお玉で掬い7~8cmほどの大きさに丸く流し入れ中火で加熱する。ぷつぷつと気泡が出てきたらひっくり返し、両面をしっかりと焼く

 

「完璧」

 

網を敷いたバットの上に乗せて荒熱を取りながらどんどん焼いていく、黄金の卵と黄金の蜂蜜を使っているからか焼け目が付いてない所は黄金色に輝いていて見た目も綺麗だ。

 

「後は冷ましたら黄金の小豆を挟めば完璧っと……後はっときんつばか」

 

そろそろ餡も冷えているだろうと思い、冷蔵庫から餡を取り出す。しっかり固まっていることに安堵し、流し缶から取り出して餡を長方形に切り分け、フライパンの近くに作っておいた生地の入ったボウルを置いて準備完了だ。再びフライパンにサラダ油を敷いてしっかりと加熱する。フライパンが温まったら、長方形に切り分けた餡の側面に生地をつけてフライパンの上で丁寧に焼く、1つの面が焼けたら、また別の面とこれを4回繰り返せば餡の周りにぱりぱりに焼かれた生地が巻かれたきんつばの出来上がりだ。

 

「さてっと、最後の仕上げと言えばやっぱりこれだ」

 

和菓子で決めたのだから最後に必要なものは決まっている、やや渋いくらいの緑茶。これで決まりだな

 

「俺も準備するかねえ」

 

菓子の準備は出来た。後は俺自身の準備だ、腕を回しながら俺は自分のキッチンを後にするのだった……

 

 

 

 

朝起きると机の上に置かれていた便箋、まさかと思ったがやはりカワサキとアインズの国の紋章が刻まれた便箋だった。中身は前回と同じ魔法陣が刻まれた紙が1枚と、お茶会に招待すると言う旨の手紙が同封されていた。

 

「爺、最後に聞くが私の判断は間違いではないな?」

 

カワサキとアインズを信じ、2人が何をしても協力する事を惜しまない。その決断が間違いではないなと爺に問いかける

 

「ジルよ、大丈夫だ。ワシも同じ決断をする」

 

爺の言葉に笑みを浮かべ、再び魔法陣に自身と爺の名前を書いて燃やす。すると私と爺は森の中のログハウスの前にいた

 

「ジルクニフ皇帝も同じ決断をしたのか?」

 

「勿論だ、ランポッサ三世」

 

私だけではなく、ランポッサとガゼフの姿もある。確かに信じがたい話ではあった、この決断をする前に帝国の資料などを調べた。友好的な国同士の突然の戦争、帝国と王国の分裂。それは歴史の転換期とでも言うべき物だが、その全てが突然起きている。まるで何者かが裏で手を引いているかのように……それがもし、ユグドラシルと言う神樹を喰らう邪竜の手先がいるとすれば辻褄が合う事もある。私は何が起きているのかそれを知る必要がある、そしてカワサキとアインズは味方であると思いたいという気持ちもある。

 

「ようこそ、お待ちしておりました。私はセバス・チャン、アインズ様とカワサキ様にお仕えする家令です」

 

黒いスーツ姿の老人がログハウスから現れて優雅に一礼する。異形種の王国と聞いていたが、案外普通の人間もいるのだなと少し驚いた

 

「アインズ様とカワサキ様より、お茶会の場所まで案内するようにと命じられております。どうぞ、こちらへ」

 

私達を先導して歩き出すセバス。確かにジャングルなのだが、道が整備されているのか実に歩きやすい

 

「ギャーギャーッ!!!」

 

「オオーンッ!!!」

 

聞いた事の無い動物の叫び声があちこちから響く、訂正だ。ここは正真正銘異形種の王国だと改めて理解した

 

「セバス殿、あの鳴き声は一体何の?」

 

「ドラゴンとフェンリルと言う魔獣の物になります。人間の来訪者と言う事で警戒しているのでしょう」

 

なにせ何度も人間に攻め込まれておりますから、そう言うセバスの言葉には若干の棘があるように思える。

 

「失礼だが、セバスは人間ではないのか?」

 

「はい、私は竜人となります。この姿は力をセーブするための物となります」

 

人間だと思っていたが、セバスも人間ではないのか……この国には人間は……いや、クレマンティーヌは法国の訛りがあった。少しだが、ここにも普通の人間がいる筈なのだ。

 

「ストロノーフ様。もう1人出迎えの者がおりますが、その者を見ても決して武器をお抜きにならないように願います。臨戦態勢を取られては私がいても、シモベは貴方に襲い掛かるでしょう」

 

セバスの言葉にガゼフが判りましたと返事を返し、セバスに武器を渡す。しかしそんな注意をするとは……ここにはガゼフと因縁がある男でもいるのだろうか……そんな事を考えると1人の男が姿を見せた。ローブ姿の頬に傷がある、金髪の男だ

 

「貴様は!?スレイン法国の!」

 

スレイン法国の人間……ガゼフのこの口調と責めるような視線を見れば間違いなく、六色聖典と呼ばれる特殊部隊の1人だろう。

 

「カルネ村の事は謝罪する。申し訳ない、出来る事ならばこの命を持って償いたい。だが今の私に死ぬことはまだ許されん……」

 

沈鬱そうな顔で謝罪する男にガゼフが目を白黒させる。

 

「ガゼフ様。ニグンはスレイン法国からの逃亡者なのです、カワサキ様のお力によって洗脳から開放され正気に戻っております」

 

洗脳……スレインには黒い噂が多いが、その中で洗脳と言うのは聞き覚えがある。帝国から向かった間者が逆にスレインの間者になっていたこともあり、もしかするとあいつも洗脳されていたのかと言う考えが脳裏を過ぎる

 

「全てが終われば、この命を持って償おう。だがそれまではこの命を取らないで欲しい」

 

「……判った。だがお前の命はいらん、その目を見れば判る」

 

許しを請う男の目ではない、確固たる信念を持つ男の目だ。例え全てが終わったとしても殺すには惜しい男だと思う

 

「ニグンを呼んだのはスレイン法国から逃げてきた者を保護している証でもあります。そして彼らから得た情報が、アインズ様とカワサキ様の求める情報と合致していると言うこともご理解願います」

 

なるほど、スレイン法国の人間を見ても敵対しないようにと言う措置か……そうとなれば私から何も言うことは無い。セバスとニグンに案内され、見たことも無いモンスターや、見事な果樹園などを見ながら奥へ奥へと進むと美しい花を咲かせる大木が姿を見せ、そこにカワサキとアインズが待っていた。私達をここまで案内してくれたセバスとニグンは頭を下げ、引き返していく。ここまでの案内が2人の仕事だったと言う訳か……

 

「ようこそ、我がナザリック地下大墳墓へ。積もる話もあるでしょうがまずは茶会を楽しみましょう」

 

開けた密林の中に置かれた机と椅子、そして赤い奇妙な形の傘。余りに馴染みのない茶会だが、もしかするとこれがアインズ達の心配りなのかと思い、失礼すると声を掛け椅子に腰掛ける。

 

(なんと……実に滑らかな質感だ)

 

美しい赤と身体を包み込むような柔らかさの椅子。これもなじみは無いが、かなり高級な物だと判る。

 

「帝国や王国では余り馴染みが無い茶会かもしれないですが、俺達にとっては花を見ながらすると言うのが一般的でね。茶菓子も腕を振るわせて貰ったから存分に楽しんで欲しい」

 

カワサキの料理なら間違いは無いだろう、ケーキかクッキーかどんな物が出てくるのかと楽しみにしていると、私達の前に出されたのは茶色タレが掛けられた3つの球体が串に刺された物と同じ球体が刺された串だが、今度は黒い何かが塗られている

 

「カワサキ殿……こ、これは一体?」

 

「みたらし団子と餡団子と言う和菓子と言うお菓子ですね。見た目はちょっと馴染みがないと思いますが、美味しいですよ」

 

ただ喉に詰まりやすいのでよく噛んでから飲み込んでくださいと言われ、爺と並んで座り団子を手にする

 

「カワサキさん、いただきます」

 

「どうぞ」

 

アインズは躊躇わず団子を頬張っている。そうだよな、異国ともなれば風習も違う。恐れるのは愚の骨頂だ、覚悟を決めてタレのかけられた団子を咥え、串から1つだけ噛み千切る。甘いものを想像していたのだが、このタレはやや辛くもあり、そして甘くもある。実に変わった味だ

 

(む、これは……)

 

噛み締めると歯を跳ね返す面白い弾力、だが決して噛み切れないわけではなく、何度も噛んでいると口の中で小さくなる。飲み込むとタレと交じり合い、するりとした独特の喉越しもある

 

「む、菓子と聞いていたが、これは余り甘くないのだな……だが実に上品だ」

 

「確かに美味ですな」

 

黒い物が掛けられている団子を食べているガゼフとランポッサを見て、私もそれを手にする

 

「爺、美味いか?」

 

「馴染みのない味だが、実に美味い」

 

2本目に手を伸ばしている爺に味を問いかけてから、私も団子を頬張る。今度はみたらしと違い、一口目から甘みが口の中に広がるのだが、ケーキなどとは違う甘みだ。あまりくどくないと言うか……甘くはあるのだが、そこまで甘いっ!と感じない甘みだ。そして団子のもちもちとした食感と口の中で1つになり、食感は良いが味の無い団子と実に良く合う

 

「その和菓子にはこれが良く合うんだ」

 

差し出されたのはやや濁った緑のお茶。紅茶と違い甘みが無いのだが、その苦い味わいが口の中の甘みを洗い流してくれる。茶を飲み終えると自然に零れるため息、そして顔を上げると目の前に広がる青々とした葉と美しい花。城の中でやる茶会とはまるで違うが、心が洗われるような……そんな不思議な気分になるのだった……

 

 

 

 

ニグンと出会った事は驚いたが、カルネ村で出会った時とは雰囲気が違うのでセバス殿の言っていた洗脳されていたという話は真実だと思えた。それに全てが終わった後に命を持って謝罪するという言葉に偽りは無いと言うのはよく判った、だから私はニグンの謝罪を受け入れることにした。

 

(しかし洗脳……か)

 

あいにく魔法には疎いが、ジルクニフやフールーダの反応を見れば真実だと判る。自国の人間さえも洗脳するとは……元々いい感情を抱いていないスレイン法国だが、今回の事でますます危険な国だと思い知らされた形になった。

 

(しかし、美味い)

 

ニグンの事、スレイン法国の事。ゴウン殿やカワサキ殿のこと、確かに思うことは色々ある。だが、それもカワサキ殿のもてなしを受ければ頭の隅に追いやられてしまう。自分はこんなにも食に貪欲だったかと思わず苦笑してしまうレベルだ、だが実際美味いのも事実。菓子と言えば甘いという印象が強いが、しかしカワサキ殿が出してくれた菓子は確かに甘くはあったが、俺のような男でも食べやすい甘さだった

 

「ふう、しかし、このように茶を楽しむのははじめてかも知れぬ」

 

「確かにな、だが実に新鮮だ」

 

一国の指導者である2人が外で護衛もつけずに茶会を開くなんて事はありえない。それもあるからか王もジルクニフの顔も非常に明るい

 

「次はヨモギ餅って言う和菓子になる。これも焦って飲み込んだりすると危ないから気をつけて欲しい」

 

カワサキ殿の国の菓子は食べにくい物が多いと思わず苦笑する。だがその味は格別なので、文句は言いはしないが

 

「ほう。ワシのは食べやすいように切り分けてくれたのか」

 

フールーダと王のヨモギ餅と言う菓子は食べやすいように切り分けてあった。喉に詰まりやすいらしいので、2人の事を心配しての事だろう

 

「余計なお世話でしたか?」

 

「心遣い感謝する。この菓子も堪能させて貰おう」

 

いやいや、感謝すると笑い。木の棒で餅を突き刺してフールーダと王が口に運ぶ

 

「良い風味だ、前の山菜の天ぷらに良く似ている」

 

「うむ、とても懐かしい味だ」

 

菓子と聞いていたのに山菜の天ぷらに似ていると聞いて、ジルクニフが伸ばしかけた手を止めている。その姿を見て王やフールーダが含み笑いをしているのを見ながら私もヨモギ餅を口に運ぶ。団子よりも柔らかい独特な食感、そしてその独特な食感の中に隠れている野草の豊かな香り、その香りが中に包み込まれている黒い餡子の味を引き立てる

 

「うん、実に美味しいですね。前に食べたきなこ餅とかとはまた違う味です」

 

「餅は色々出来るからな。喉に詰まるのさえ気をつければ、焼いて良し、煮て良しの食材だし、味付けも色々出来る」

 

なるほど、餅と言う食材は応用がかなり利くと言う事なのか……先ほどのみたらし団子とやらも甘いと言うよりかは甘辛いという感じで、実に独特な味だった。だが甘い菓子と言うのが余り得意ではない私にとっては食べやすく、そして妙に馴染み深いような気がする

 

「む、騙したな!余り苦くないではないか!っ!」

 

ヨモギ餅を齧った後苦くないと怒鳴ったジルクニフが口を押さえて呻いている。予想を遥かに越えるお子様舌と言うべきなのか……それとも苦笑いでも浮かべるべきなのか少し悩む

 

「ふっははは、そんなことで怒っているようではまだまだじゃな。じゃが、少し癖のある菓子ばかり、今度は純粋に甘い物がいいのう?」

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと取って置きを用意してますから、それよりもお茶はどうですか?」

 

湯呑みと言う独特な形状のコップの中に視線を向けると確かに茶は既に無い

 

「どうぞ」

 

「いや、かたじけない」

 

湯呑みに注がれたのは先ほどと異なり、やや茶色いお茶だった。しかし香りは先ほどのお茶よりも遥かに良いし、紅茶に見た目が似ている分馴染み深いとも受け取れる

 

「これはほうじ茶と言うお茶で、香りと後味がいい。緑茶よりも、こちらの方が馴染み深いかもしれないと思ったんだがどうだろうか?」

 

カワサキ殿とゴウン殿は緑茶を啜っている。確かに悪い味ではなかったが、余り馴染みの無い味だったのも事実だった。

 

「ほう、これは中々」

 

「甘くない紅茶と言う感じか、悪くない」

 

その苦味と鼻に抜ける香りは私の見立て通り、紅茶に近く緑茶よりも遥かに馴染み深い。それを啜り、ほうっと溜め息を吐いて大木を見上げる。力強いその姿と青々とした葉と鮮やかな花の数々……それは不思議と生まれ故郷を連想させ、とても気持ちが静まるのを感じる

 

(さて次はどんな物が出てくるのだろうか)

 

気持ちが落ち着いてくると今度は、カワサキ殿がどんな菓子を出してくれるのかが気になってくる。特に2人が話しながら茶を飲んでいるので、まだ出てくる気配が無いと判ると余計に気になってしまい、私は苦笑いを浮かべながらほうじ茶と言う茶を口に運ぶのだった……

 

 

 

 

 

アインズ達がジルクニフ達と茶会をしている頃。勿論ゼロ達は6階層で修行を積んでいた、ビーストマンの国に向かう日はそう遠くない。身体能力の強化が済み、装備が整った今。次の段階に移っていた

 

「右、左、左、右」

 

「はッ!はッ!!ぐッ!」

 

「体重移動が甘いです。もっとしっかり、自分の動きを把握してください」

 

「はいッ!シッ!シッ!!!」

 

ゼロはパンチングミットを持つセバスにミット打ちをさせられ、体重移動と体の動きの切れを上げる訓練を……

 

「だからさー、マルムヴィストは飛び込む時に躊躇いがあるのが駄目なんだよ」

 

「む、やはりそうかな?」

 

「そうそう、私みたいに獣の真似をしろとまでは言わないけど、もっと思い切りが無いと駄目だよね」

 

「いや、それだと単発にならないか?」

 

「だからあ、そこは相手を蹴り付けたり、木や壁を蹴って、そこを基点にして加速するの」

 

「……いや、言われてる意味が判らない」

 

「よし、じゃあ模擬戦だ、そっちがいいと思う」

 

「え?ま、げぶうっ!?」

 

クレマンティーヌは努力型ではなく、天才型に近く指導者としては落第点だった。口で教えるのが無理なら、実戦といわんばかりに蹴りが入り、マルムヴィストはボールのように跳ねて動かなくなった

 

「つまりだ、魔法の基本とは」

 

「なるほど……では私に相性がいい魔法とは!」

 

「それを今から調べるのだ。デイバーノック」

 

デイバーノックは魔法の師匠であるエルダーリッチを紹介され、ついに自身の求める魔法を極めるという道に足を踏み入れた。

 

「いい踏み込みだが、力任せだ。もっと身体のキレを意識するがいい」

 

「はいッ!」

 

ぺシュリアンはコキュートス直々に稽古を見てもらっているが、互いに寡黙な性格な為意外と気が合っていた。

 

「技も大事だが、もっとも大事なのは基礎にある」

 

「はい」

 

「心を落ち着けて、じっと見つめるがいい」

 

「はい」

 

修行をする中で一番いい関係を築けているぺシュリアンとコキュートスに対して、エドは地獄だった。

 

「いや、魔法で右手を麻痺させられて、私はどうすれば?」

 

「貴女の力は遠隔操作ですからね、手足は必要ないでしょう?本当なら切り落としても良い所です」

 

「あの、それはやめて欲しいのですが」

 

「大丈夫ですよ、物の例えと言う奴です、では『左腕を動かす事を禁止します』……これで両腕が動かなくなったわけですが、見てください。剣の動きが生き生きしてきたように見えますよ」

 

支配の呪言で手足を麻痺させられ、ひたすら踊るシミターの特訓をさせられているエドの目は死んでいたのだが……

 

「エド、今日はマートフ丼」

 

「やたあああーーーッ!!!」

 

「「馬鹿なッ!?アレを食べれる人間がッ!?」」

 

激辛料理でテンションを爆上げするエドと、自分達のトラウマを美味そうに食べるエドにデミウルゴス達が驚愕する等。騒がしくはあるが、ナザリックは今日も平和であった。

 

 

 

 

メニュー76 茶会 その2へ続く

 

 




1つの話に纏めるには長かったので、2話にする事にしました。帝国と王国の和平を纏めて、レイナースの呪いを解いたら竜王国編に入っていこうと思います。それまではシナリオと料理の両立になりますが、そこまで行ってビーストマンさえ終わればまた料理の話を続けて書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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  • 間違っていない

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