生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー91 酒宴 その2

メニュー91 酒宴 その2

 

ビーストマンとの和平の話が纏められようとしている中。私達竜王国の兵士は何年かぶりの休暇を与えられていた。今頃、部下達は家族や妻と共に穏やかな一時を過ごしているのだろうと思う。

 

「ガーランド殿もどうぞ」

 

「これはかたじけない」

 

ガゼフ殿に注がれたビールと言う酒を口にする。黄金のような金の酒だ、良く冷えていて口の中に広がる麦の香りと泡が弾けるその刺激的な味は酒飲みである私の心をがっつりと掴んでいた。

 

「失礼します。お待たせしました、カワサキ様」

 

「シホ、悪いな。こんな事で呼んでしまって」

 

「いえ、御気になさらず」

 

カートに大皿を載せて運んできた美女に思わず息を呑んだ。短く整えられた紫の髪と涼やかなその瞳、恐ろしいほどの美の化身がそこにはいた。

 

(あのお方は?)

 

(うむ、カワサキ殿のお弟子さんだ……そうだ)

 

カワサキ殿の弟子なのか……その美しさもさることながら、カワサキ殿の弟子ならばさぞ腕のいい料理人なのだろう。

 

「すまないな、シホ」

 

「大丈夫です。アインズ様、またお料理が足りなければお呼びください。それでは」

 

頭を深く下げて出て行くシホ殿だが、その目はカワサキ殿しか見ておらず、師弟愛ではない、異性としての愛情を向けているのが良く判る――カワサキ殿本人はまるで判っていないようだがな。

 

「ほう、これが焼き鳥か」

 

「おお、いいじゃないか、酒に合いそうだな」

 

8つにも及ぶ大皿には串に刺された色々な肉が山のように盛り付けられている。串に刺されているから食べやすい1口サイズだ。だがその1口サイズが酒を飲む上では丁度いい大きさなのかもしれない。

 

「豚肉と牛串か、これも合うんだよなあ」

 

「焼き鳥なのに豚肉と牛肉って良いんですか?」

 

「美味けりゃいいんだよ。美味けりゃな」

 

カワサキ殿は豚肉の串を手に取り、それを美味そうに頬張りながらビールを口にしている。

 

「もーらいっと!ん、甘い……いや、辛い?んー良く判らんが美味いッ!」

 

「焼き鳥は塩味と甘辛い味がある。同じ肉の部位でも塩とタレでは味がまるで違うのですよ」

 

1度カワサキ殿達と酒を飲んだというガゼフ殿が串を手にしながら簡単に説明してくれる。

 

「ガゼフ、お前が食べているのはなんだ?」

 

「これですか?砂肝と言う鳥の内臓ですよ、ちょっと癖があるんですが、これがまた美味いのですよ」

 

内臓までも焼いているのか……内臓を食べると言うのは些か抵抗があったので、折りたたむようにして串に刺されている何かの肉を手に取り、口へ運んだ。

 

「美味い、これは本当に酒に合うな」

 

「だよなあ、あーうめえッ!ぷはああッ!!!」

 

焼き鳥よりも酒と言うバジウッド殿だが、私は焼き鳥の味を噛み締める様にして味わっていた。ぷりっとした独特の食感とたっぷりと脂の乗っているが、塩でその脂が決してくどくは無く食べやすい味となっている。

 

「美味いが、肉としての食べ応えは今一だな」

 

「いや、これは美味いぞ。酒に良く合う、なぁ?ガーランド」

 

「ああ。これは美味い」

 

肉の歯応えや食べ応えはないが、この柔らかさと柔らかくはあっても噛み応えのあるの独特のこの食感は癖になる。

 

「ガーランドさん、ナザミさん、こいつを試して見ないかい?」

 

カワサキ殿は透明な酒の入った瓶を持ち上げる。この場で持ち出したという言う事は、水ではなく酒だろうが透明な酒と言うのは初めて見た。

 

「それは?」

 

「日本酒って言う一等強い酒だ。アインズさんや、ガゼフさんは苦手なんだが、俺はこれが好きでね。焼き鳥に良く合うんだ」

 

焼き鳥に良く合う強い酒と言われて興味がわき、ビールを一気に飲み干して空のグラスをカワサキ殿に向ける。

 

「いいねいいね、強い酒って言うのは興味がある」

 

「どれ、俺もいただこう」

 

止めておいた方がいいですよと言うアインズ殿達の言葉を無視して、グラスに注がれた透明な酒。日本酒とやらの香りを嗅いだ。

 

「ほっほーう、これは中々の香りだ」

 

「随分と刺激的だな、だが楽しみだ」

 

「美味いぞぉ。そうだな、日本酒にはこの腿が良く合う」

 

腿肉の串を手に取りカワサキ殿。それと同じ物を探して頬張る、先ほどの柔らかい部位と違って歯を跳ね返す肉らしい食感。そして甘くもあり、辛くもある独特の味わいのタレを楽しみながら、肉を噛めば噛むほど旨みが滲み出てくる腿肉の味わいを楽しみながら日本酒とやらを口に運んだ。

 

「っ!むうっ。これはきついなあ」

 

「かぁーうめえッ!喉をきゅっと焼くような味が良いねえ」

 

「うむ、これは美味い」

 

肉の味わいを押し流すかのような強い酒精。辛いとも言えるその味と、喉を焼くような強い酒精。これは美味い、それに本当に焼き鳥の味に良く合う。

 

「カワサキ殿。もう1杯いただけるかな?」

 

「おー。もう一杯と言わず飲んでくれて構わないぞ」

 

カワサキ殿は豪快に酒瓶を2本ほど渡してくれる。バジウッド殿と受け取り、それぞれのグラスに注ぐ。

 

「ナザミはどうする?」

 

「俺には強い、俺はビールで構わない」

 

美味い酒だが、この刺激的な味は確かに酒好きでも更に好みが分かれるだろう。ナザミ殿には無理強いせずに自分とバジウッド殿のグラスに注ぎ終え、程よく冷えている酒を煽る。

 

「お、おおー今度は甘い」

 

「奇怪な、だが美味い」

 

「日本酒は辛口と甘口があるのさ、青い瓶が甘口、赤い瓶が辛口。甘い日本酒にはこの塩辛い砂肝が良く合う」

 

内臓を食べているカワサキ殿に怖いと思ったが、美味いと聞いて好奇心が沸いてその串を一本手に取る。黒く、やや不気味な塊が串に刺さっていて一瞬怖いと思ったが、意を決して砂肝とやらをほおばる。最初に感じたのは塩辛いと言う味の感想で、噛み締めるととにかく固い。だが何度も噛んでいるとか旨みが染み出してきて、砂肝も噛み切れた。すると今度は塩辛いだけではなく、素晴らしい旨みが口一杯に広がった。

 

「んー確かに美味い」

 

「ああ。これは美味い」

 

そして塩辛い口の中の中にこの甘い日本酒の味は何よりも美味に思えたのだった。

 

 

 

 

 

エントマが運んで来てくれた焼き鳥の大皿の数にゼロ達が歓声を上げる。エントマはその声に煩そうに眉を顰めていたが、思い出したかのように笑みを浮かべ、そそくさと部屋を出て行く

 

(カワサキ様から褒美でも貰えるのか?)

 

エントマだけで作れる量ではないが……カワサキ様も酒をお飲みになられているのでシホが何かを作ってくれると約束でもしたのだろうと思い、大皿に視線を向ける。

 

「おーい、デイバー、良いの来たぞー?」

 

「ひっくひっく、うー……」

 

机に突っ伏しているデイバーノックはどうもアルコールが回りすぎて酔い潰れてしまったようだ。

 

「やれやれ、酒の飲み方がへたくそですなあ」

 

パンドラズ・アクターがからかうように笑いながら酒を口にするが、酔い潰れている原因がパンドラズ・アクターがハイペースでビールを進めたのがきっかけと言う事を忘れてはいけない。

 

「少し残しておいてやるか」

 

「未練になるからな」

 

だがゼロ達は小皿に焼き鳥をそれぞれ3種類ずつ取り分け、デイバーノックの為に残している。焼き鳥がメインと聞いていたのに燻製とチーズで酔い潰れてしまったが、焼き鳥が来るということは聞いていたので目を覚ましたら食べれなかった事を悔いるに違いない。

 

「デイバーノックも喜ぶだろう」

 

「まさかこんなに酒に弱いとは思ってなかったんです。でもこれでデイバーが起きても大丈夫でしょう」

 

仲間の為に残しておくと言う優しさに笑みを浮かべながら、豚肉の串を手に取る。

 

(美味い)

 

牛肉の固い食感も好きなのだが、脂と肉のバランスが丁度良い豚肉の串も紛れも無く絶品だ。

 

「コキュートス様、焼き鳥と聞いているのですが、これは豚肉のように思えるんですが?」

 

「はは、焼き鳥だから鶏肉だけと思うのは早計ですよ。肉を刺して焼けば、それは焼き鳥なのですよ」

 

「それは違うと思うが……美味い事に間違いはないぞ」

 

豚肉の程よく柔らかい食感と脂身のバランスが実に丁度良い、それに塩・胡椒でピリリと仕上げられているので本当に酒に良く合う。

 

「まぁいいじゃないか。美味しいのならばそれに越した事は無い」

 

「ん、美味い。これたぶん鶏皮だが、この甘辛いタレと良く合う」

 

ゼロが焼き鳥の皮を口に運び、酒を口に運ぶ。ゼロもなんだかんだ言ってこの酒宴を楽しんでくれているようで何よりだ。

 

「このままだと食いそびれるな、んじゃあ、俺は豚肉」

 

「俺は牛肉を貰おうか」

 

鶏肉ではなく、豚肉と牛肉に手を伸ばすマルムヴィストとぺシュリアンを見ながら、私は胸肉を手に取りそれを口に運ぶ。

 

「そう言えば、ニグン達は?」

 

「あー宗教上の問題であんまり酒は駄目だそうですねえ」

 

「宗教者と言うのは中々に面倒だな」

 

6階層でのレベリング実験でも宗教上の問題で祈りを捧げる日があるとか言っていた。スレインを抜けても、長年の宗教の癖は抜けないのかと苦笑する。

 

「まぁ、長年の習慣は早々抜ける物じゃないですし、なによりも多分アインズ様達に捧げる祈りなのでしょう」

 

確かにログハウスに見事なアインズ様とカワサキ様の木像を作っていたな。スレインに祈りを捧げているのではなく、アインズ様達に祈りを捧げているのならば、それは許すべきことだろう。

 

「待て、クレマンティーヌは酒を飲んでなかったか?」

 

「彼女は別に宗教に興味があるわけではないですからなぁ。まぁいいではないですか」

 

パンドラズ・アクターにグラスのビールを注がれたので、これ以上追求する事無く、酒を楽しむ事に戻る。

 

「うお、うまッ!塩だけなのに全然美味い」

 

「元の食材がいいのだろうなあ、食材の味を存分に引き出していると言うことなのかもしれない」

 

「塩だけじゃないぞ、このタレつきも美味い」

 

普段デミウルゴスと飲むときの静かな雰囲気ではないが、わいわいと騒がしいのも決して悪くは無いなと思いながら牛串を口に運ぶ。

 

「ん、うむ」

 

「いやあ、塩が多めで固くなっているがこれが酒に合いますなあ」

 

牛串にはたっぷりと塩胡椒が振られていて、肉の水分が抜け落ちているのか非常に固い。だがその固さがまた酒によく合う固さなのだ、ゼロ達も牛肉の串を手にとり齧りつく。

 

「うお、かたッ!」

 

「固いが噛めば噛むほど美味いじゃないか、酒にも良く合う」

 

最初は日本酒を飲んで噎せ返っていたぺシュリアン達だが、今は日本酒の酒精にも慣れたのか、ゆっくりと焼き鳥を口に運びながら日本酒を楽しんでいる。

 

「おお、ネギまですな、私これ好きなのですよ」

 

パンドラズ・アクターがわざと大声を出しながらネギまを口に運ぶ。するとゼロ達はその声に釣られるようにしてネギまを手に取る。

 

「肉の間になんで野菜がって思ったけど、これ美味いな」

 

「ネギに肉の脂がしみこんでいるからな。それに野菜の味で口の中がさっぱりする」

 

「良く考えられているって事なんだろうな、この焦げ付きもきっと計算通りなんだと思うぜ」

 

こんがりと焼き跡がついているが、カワサキ様に料理を教えられているシホが焦げ付かせるなんてミスをするわけが無い。つまり、この焦げ付きも計算された手法に違いない。

 

「うむ、美味い」

 

元の姿で巨大な肉に齧り付きながら、酒を飲むのも悪くない。だが、こうして人の姿でゼロ達とわいわい騒ぎながら飲み食いするのも悪くない。私はそう思いながら日本酒をグラスに注ぐのだった……。

 

 

 

 

 

クレマンティーヌとエドに適度に酒を取り上げられつつ、話をかわしながらのんびりとチーズ等の最初に運び込まれたつまみを口に運ぶ。

 

「御方は42人おられたのですよ」

 

「42人も神がいたのですか」

 

「私の創造主も弐式炎雷様と仰って、コキュートス様の創造主の武人建御雷様と仲が大変宜しかったです」

 

あの時は言葉を交わす事は出来なかったが、42人の至高の御方がおられるナザリックほど素晴らしい物はなかったと思う。

 

「じゃあカワサキは?」

 

「カワサキ様は41人の全員と大変仲が良かったです……1度あのお方を怒らせた御方もいましたが……御方達の名誉の為に話しません」

 

えーっとクレマンティーヌとエドががっかりした素振りを見せるが、あまり話しすぎるとユリ姉様たちにも怒られてしまうので、これ以上話してはいけないと思う。

 

「そこを何とか駄目?」

 

「駄目です。私が怒られてしまいますから」

 

ナーベラルの頬にはうっすらと朱が挿しており、本人は冷静かつ酔っていないつもりだった。だがクレマンティーヌとエドからすれば完全にナーベラルは出来上がっていた。

 

「お代わり」

 

「あーはい、どうぞ」

 

予想以上にナーベラルがアルコールに弱いと言う事で、度数の弱い酒を注いでいたクレマンティーヌだが、流石に飲む量が増えれば酔いが回ってくるのは当然の事だった。

 

「あーシホさんとパンドラズ・アクターが羨ましい……御方と一緒なんだもんなぁ……」

 

机に突っ伏して、グラスに溜まった水滴で机に何かを書いているナーベラルは既に完全にただの酔っ払いになっていた。

 

(ちょっと飲ませすぎじゃない?)

 

(ええ。でも10杯くらいだよ?しかも度数の弱い奴)

 

自分達は全然酔っていないのにと驚くクレマンティーヌとエド。だがナーベラルからすれば初めての飲酒に加えて、場酔いと言う物も合わさり完全に酔い潰れていた。

 

「……焼き鳥持ってきた」

 

「私も焼いたよぉ」

 

そんな中シズとエントマがカートを押して部屋の中に入ってくる。するとナーベラルは信じられない早さでシズとエントマを自身の腕の中に抱え込んだ。

 

「シズぅーーーえんとまあ……」

 

「……うっ、お酒臭い」

 

「酔っ払ってるぅ……」

 

何でこんなに飲ませたの?と言う批難の視線が向けられるが、こればっかりはクレマンティーヌとエドが悪い訳ではない。ナーベラルのアルコール耐性の低さが問題だったのだ。

 

「うーむ……にゃむう……」

 

「……酔い潰れてるッ!?」

 

「ご飯ー食べたいのにぃぃ~~~」

 

そしてナーベラルはシズとエントマを抱きかかえたまま寝落ちしてしまい、しかし酔っ払っていてもそこはプレアデス。むしろ酔っ払っているから普段よりもはるかに強い力で2人を抱き締めたまま穏やかな寝息を立てている。

 

「……た、助けてッ!」

 

「ご飯~~」

 

助けを求めるシズと抱きかかえられている事で微妙に焼き鳥の皿に手が届かないエントマの悲痛な声にクレマンティーヌとエドは飲んでいたグラスを机の上に置き、酔っ払い真っ赤な顔で眠りながらも自分の妹に頬ずりしているナーベラルから、シズとエントマを救出する為に立ち上がるのだった。

 

 

 

 

メニュー92 酒宴 その3へ続く

 

 

 




次回も短いですが、まだまだ酒飲みの話を書いていこうと思います。ナーベラルが酔っ払っていますが、種族特典の状態以上無効では酒はガードできなかったというご都合でよろしくお願いします。それでは次回の更新もよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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