生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー12 カレーを食べよう(中辛・激辛) 

 

 

メニュー12 カレーを食べよう(中辛・激辛) 

 

残念な事に私は前半組みに選ばれず、後半となってしまった……しかも執務の前に食事を済ませるとアインズ様が出て行ってしまったのが更に悲しかった。出来れば一緒に……と思ったのだが、それもアインズ様の思いやりなのだと気付いた。

 

(そうか、カワサキ様と一緒に食事をすれば騒ぎに……)

 

カワサキ様は料理の都合後半になるらしい、カワサキ様と一緒に食事をすれば騒ぎになりゆっくり食事が出来ないと考えられたのだろう……そう思うと残念と思う反面仕方ないと諦めの気持ちも湧いてくる。

 

(カワサキ様だから……しょうがないわ)

 

他のメンバーならいざ知らず、カワサキ様は毎日ナザリックを訪れてくれていた。そしてアインズ様と話をし、料理を作りまた出て行く。そんな毎日を繰り返していた。そして今はアインズ様と共にいてくれている、そう思えば、アインズ様を悲しませる他のギルドメンバーとは根底から違う。それに私にとっては料理のお師匠様であり、好感も持てる。だからカワサキ様なら仕方ないのだ……そんな事を考えると札が発光する……私の食事の番だ。羽ペンを机の上に置き立ち上がると、アインズ様が執務室に戻ってこられた。

 

「アインズ様。では食事に行って参ります」

 

「うむ。ゆっくり楽しんで来ると良い」

 

人化をしておられるアインズ様がゆっくりと椅子に腰掛ける。オーバーロードとしての御姿も素敵ですが、人化しておられるその御姿もまたお美しい。オーバーロードの御姿と人化なされた御姿もその両方に言葉に出来ない魅力がある。

 

「アルベドよ」

 

「はい?」

 

背後から声を掛けられ、振り返るとアインズ様は少し悩んだような素振りを見せてから口を開いた。

 

「甘口と中辛は……私がカワサキさんに教わりながら作った。後半組みにそう伝えてくれ」

 

……あ、アインズ様の御手自ら!?それはシモベにとって過ぎたる贅沢と言う物だろう。それほどの美食は恐らくこの世に存在しない……

 

「畏まりました。必ずお伝えします」

 

アインズ様に一礼し、執務室を後にする。その後は早歩きで食堂へ足を向ける、途中でルプスレギナやナーベラルを追い抜いた気がするが、そんなのは全く気にならない。

 

「アル。そんなに急ぐとはしたないわよ?」

 

「……シホ」

 

背後から声を掛けられ、早足だった歩を緩める。シホが仕方ないわねと言わんばかりに肩を竦めていた。

 

「そうね、統括として相応しくない行動だったわ」

 

ナザリックのシモベの全指揮を任されている、私には相応しくない行動だったと反省する。

 

「行きましょう、カワサキ様のお食事を口に出来るのは喜ばしい事だわ」

 

「それだけど、アインズ様も御作りになったそうよ?甘口と中辛」

 

私の言葉で食堂の前で待機していたシモベが一気に騒がしくなる。カワサキ様の料理だけでも贅沢だというのに、更にアインズ様も御作りになられたとなればそれはシモベには過ぎたる贅沢と言う物だ。

 

「オオオオ……ソコマデ……必ズヤコノ褒美二応エテミセマス」

 

コキュートスが興奮した様子で呟く。確かにこれは褒美ともとれる、それも最上級の褒美……それに応えようとするのは当然の事だ。

 

「さてさて、それはどうでしょうかねえ」

 

私達の気持ちを下げるようなその言葉が食堂の前に響く。声の主は言うまでも無い……

 

「パンドラズ・アクター」

 

「統括殿ご機嫌麗しゅう」

 

守護者の中でもっともアインズ様を知り、そして私達に敵対する事も辞さないと宣言した。今最も警戒するべき男の姿があった……しかし解せないのはデミウルゴスと一緒という事だ。間違いなく、最も意見の合わない組み合わせだろうに。

 

「貴方も後半だったのね?」

 

「いえいえ、私の札はアウラ様にお譲りいたしましましてね。デミウルゴス様と個人的にお話をしたかったのですよ……特に……そう!!!デミウルゴス様がアインズ様に命じられている案件につきましてね」

 

その大袈裟な素振りから告げられた言葉に眉が上がる。

 

「それはデミウルゴスが命じられたことよ。それに口を挟むと?」

 

「まさかまさか、どんな計画かお聞きしたいだけですよ。装備などの準備は私の役割、必要な物の準備は必要でしょう?」

 

埴輪の顔で感情が読み取れない。その目が何を考えているのか判らないのだ……

 

「構いませんよアルベド。私も彼とは個人的に話をしてみたかった」

 

デミウルゴスの言葉にそれならいいのだけどと返事を返すと、食堂の扉が開く。

 

「ずいぶん待たせたな。これから後半組みの食事とする!メニューはカレーライスのみだ!飲み物はラッシー。カレーのトッピングは思いつく限りの物を用意した。そして今回はセルフサービスだ。自分で食べれる分だけご飯をよそい、カレーをかけるように!それとピンクのテーブルに用意されたカレーが甘口、黄色のテーブルが中辛、そして赤いテーブルが辛口だ。辛口はめちゃくちゃ辛いからな!覚悟して食べるように!そうそう、コキュートスは専用の超甘口を用意してある、お前の顔のイラストのある鍋がそれだ。間違えるなよ」

 

「……心遣イ感謝イタシマス」

 

コキュートスが深く頭を下げる。コキュートスは蟲王だ、故に美味いと感じる味覚は甘めが基本になる。だから専用を用意してあると言うカワサキ様、シモベに対するその深い優しさに心から感謝する。

 

「そして最後に俺専用のカレーは決して食べないように、辛いからな。もし食べたい者は俺に相談するように……それとお代わりは自由だが、残すなよ?残したら説教だ!食べ物は粗末にしてはいけない!判ったな。では食事としよう!」

 

カワサキ様が食堂に入ったのを確認してから、逸る気持ちを抑えて食堂に足を踏み入れる。甘口と中辛がアインズ様が御作りになったと聞けば全員が中辛に殺到する。甘口は少ないが、流石に甘口と言うのは余り気が進まないので少し待つことにした。突き飛ばして並ぶのは統括としては相応しくないと我慢したのだ。

 

「どうしたのシホ?」

 

親指を噛んでいるシホにどうしたの?と尋ねるとシホは真剣な表情でとんでもない馬鹿な事を口にした。

 

「食べきれない量を盛り付けてカワサキ様に説教されるべきかどうかと」

 

「止めておきなさい」

 

シホは友人と言えるが、その度を過ぎたM思考は私には理解出来ない。シャルティア辺りなら賛同してくれると思うが、私には賛同出来る訳も無いので止めに入るのは当然の事だ。

 

「説教以前に食べ物を粗末にしたって、料理人として問題外だって激怒されるわよ」

 

「……それもそうですね。ありがとう、アル。おかげで冷静になれました」

 

そんな話をしていると私とシホの番が来た。下品にならない程度にご飯をよそい、目についたビーフカレーのルーを掛ける。何とも言えない良い香りが皿から漂ってくる。空いている席に座りいただきますと口にするが……

 

「どうしたの?」

 

「いえ、このカレーはアインズ様が御作りになられた訳で……つまりこれを食べるという事は、アインズ様の愛を食べると言っても過言ではないと思うとね」

 

それは過言では?とナーベラルやソリュシャンは思ったが、あえて口にはしなかった。アルベドがどれだけアインズに心酔しているか知っているからだ。

 

「おお、確かにそれはその通りかもしれませんね。カワサキ様が仰っておりましたから、料理は愛情と」

 

誰も口を開かずアルベドが冷静になるのを待っていたのに、パンドラズ・アクターが火にガソリンを投げ入れる。

 

「そうよね!くふーっ!こんな物を食べていいなんて……アインズ様とカワサキ様の御優しさが怖いわ……」

 

「正にその通りですよ」

 

アルベドが興奮するようにアルベドの言葉に賛同するパンドラズ・アクター。アルベドの頬が朱に染まり、どう見ても冷静さを失った表情になるのを見てパンドラズ・アクターはにっと笑う。それはまさに計算通りと言わんばかりの邪悪な笑みだった。

 

「美味しいわ」

 

アインズ様が御作りになった。それだけでも十分に美味しいと思えるのだが、口にすればなお美味しいと言える。たっぷりの野菜が溶け込んだルーの美味しさは言わずもがな、ご飯もカレーに相応しいようにやや固めだ。

 

(本当に美味しい……)

 

アインズ様が作ってくれただけで私は満足なのだが……それ以上に美味しい。1杯目をあっという間に食べ終えてしまい、少し悩んだが立ち上がり、

 

「シホ。ビーフの次は何がいいと思う?」

 

「……んぐ、シーフードが具材がたくさんで美味しいわよ」

 

じゃあつぎはそれにしましょう、私はそう思い。空の皿を手に、シーフードのルーの大鍋に向かって歩き出すのだった……

 

 

 

 

 

「美味しいわ……いくらでも食べれそう」

 

「元から幾らでも食べられるでしょう?ソリュシャンは」

 

触らぬ神に祟りなしと言わんばかりにアルベドから距離を取ったナーベラルとソリュシャンがそんな会話をしながら、カレーを口に運ぶ。ナーベラルはキーマ、ソリュシャンはシーフードだ。

 

「ふふふ、こういうとき不定形の粘液【ショゴス】は便利ですわ」

 

なんせ満腹と言う物が無いのですからと笑うソリュシャン。それは全てのカレーにトッピングを楽しめるという事だ。

 

「良いですよ。私は自分の食べられる分で美味しく食べる事にします」

 

「ふふふ、怒らないの。ナーベラル」

 

プレアデスの中でお互いに三女と言う設定のソリュシャンとナーベラルは双子のように仲が良く食事も共に取っている。食堂に居るシモベが幸せそうにカレーを食べている中。異様な雰囲気を持つ2人の姿があった……言うまでもなく、パンドラズ・アクターとデミウルゴスだ。

 

「デミウルゴス様。1つゲームをしませんか?」

 

カチャリとスプーンを皿に置いたパンドラズ・アクターがそう声を掛けてくる。私はナプキンで口を拭いながら、

 

「結構です。私にはやるべき事があります、話ならさっさとすまそうではないですか」

 

話をしたい。その要望を私は飲みました、ならばそこから何故まだ余計な事をするのですか?と睨みながら言うとパンドラズ・アクターは肩を竦め、

肩を竦め

 

「ちっち、いけませんね。気持ちに余裕が無い、そんな様ではまた失態を重ねるだけですよ」

 

カワサキ様の時のようにと笑うパンドラズ・アクターに思わず本気で殺気を叩きつけようとしたが、

 

「デミウルゴス様。ここはカワサキ様の城、それなのに不躾に殺気を出すのですか?」

 

「くっ……」

 

放ちかけた殺気を必死に押し込める。パンドラズ・アクターは私の気持ちを逆立ててミスを犯させようとしている……

 

(この男……やはり底が見えない)

 

流石はアインズ様の作られた存在……お調子者の仮面の下には強かな強者の顔が隠れている。

 

「だからゲームをしましょう。デミウルゴス様がお勝ちになれば、私が知りうる情報を全て提供しましょう。そう……モモンガ様が宝物殿で口にしていた極秘の情報の全てを……ね」

 

「不敬ですね。それを貴方が口にする権利は無い」

 

「ありますとも、私はカワサキ様に特命を受けて行動しております。必要とあらば知りうる情報の全ての開示も許可されていますよ」

 

カワサキ様の許可……その言葉に眉を顰める。あの御方は基本指示を出す事が無い、ハッタリか……それとも真実か……

 

「私が勝てば……どうかデミウルゴス様の作戦に口を挟むご許可を頂きたい」

 

「……私の策略では物足りないと?」

 

まさかと笑うパンドラズ・アクター。だがその言葉を文字通りに受け取る事など出来る訳も無い……

 

「乗りますか?乗りませんか?それとも私に負けるのが怖いですか?」

 

「……良いでしょう。乗りましょう」

 

安い挑発と判っているが、それでもこの男に負けると言うのは嫌だった……平然とモモンガ様と呼び、独自に動き回っているこの男に負けるのは嫌だった。

 

「それで何で勝負をするのですか?カードですか?それともダーツ?」

 

「それも面白いですが、ここは食堂。食堂で出来る勝負を致しましょう」

 

大食いでもしようと言うのですか?と言うと違いますよと笑い、パンドラズ・アクターは立ち上がり。1人でカレーを食べているカワサキ様のお机に向かう。

 

「ん?どうした?」

 

「いえいえ、カワサキ様。実は私とデミウルゴス様には辛口も少々物足りなくてですね、カワサキ様のカレーを食べてみたいのです」

 

「そいつは構わんが……辛いぞ?」

 

大丈夫なのか?と尋ねてくるカワサキ様に大丈夫ですと返事を返す。カワサキ様は判ったと返事を返し、準備してくると席を立つ。申し訳ないと思いながら椅子に腰掛け、

 

「ルールは簡単。先に食べ終えた方の勝ちです、飲み物は禁止でどうですか?」

 

「良いでしょう。乗りましょう」

 

辛いと言っても食べられない物ではないはず。私はそう思い、パンドラズ・アクターの申し出を受け入れた。

 

「お待ちどうさま。カワサキ特製地獄カレーだ」

 

((なあにこれぇ……))

 

目の前に置かれた皿にデミウルゴスとパンドラズ・アクターの心の声が重なった。若干キャラ崩壊するほどの衝撃を受けた……

 

スパイスとたっぷりの香辛料を100年煮込んだような、さっき食べたカレーとは香りから、色からまるで違う。しかも今にも『オレ様外道カレー、今後ともよろしく』と喋りだしそうな雰囲気を放っている、まず……赤い、ひたすらに赤い……そして匂いだけで判る。命に関わるレベルの辛さだと……

 

「今具の鶏肉を用意してるから、ゆっくり食べて待っててくれ」

 

そう笑って厨房に向かうカワサキをパンドラズ・アクターとデミウルゴスは無言で見送り。カレーに視線を戻す、ひたすら赤いそれを見つめ……意を決したようにスプーンを手にする。

 

「「いただきます」」

 

口にするのが恐ろしく声が震える。パンドラズ・アクターも同様だ……だがこれは勝負!負けるわけにはいかないとカレーを頬張る。

 

「「!?!?!?」」

 

私とパンドラズ・アクターの声にならない悲鳴が重なった。辛いとか、美味いじゃなくて痛い!口の中と喉が痛い……反射的にコップに手を伸ばしかけたが、それを耐える。

 

「くっ……ぐぐぐ……こ、これは中々ですね」

 

「ふ……何を言っているのですか?美味しいではないですか」

 

痛み、辛味、痛み、辛味、痛み、熱さ、辛味、旨味。痛みと辛味を耐えれば至高と言える旨味が待っている……痛いほどに辛いが食べられない事は無い、二口目を口にする。

 

(ぐっふうっ……!!!)

 

口の中で魔法が炸裂したような強烈な痛みが襲ってくる。食べ物ではないと体が拒否反応を示す……だが飲み込む辺りでは旨味が待っているので、あっ、やっぱり食べ物と言う認識になる。

 

「かかかかかかかか!?!?」

 

奇声を発し痙攣しているパンドラズ・アクター。軍服のボタンを外し、帽子を机の上に置いて唸っている。

 

「ギブアップですか?それならば」

 

「NO!絶対にNOッ!!私は負けませんとも!」

 

スプーンでカレーを掬い食べる。それだけなのに汗が流れ落ちる。

 

「デ、デミウルゴス。大丈夫カ?」

 

「大丈夫ですとも」

 

私とパンドラズ・アクターが何か異様な雰囲気で食事をしていると気付いたコキュートスがそう尋ねてくる。大丈夫に決まっている、何故そんな事を尋ねるのか?と考えているとコキュートスは、

 

「尻尾ガ……凄イ事二」

 

「尻尾?」

 

どうなってと思い自身の尻尾を見ると、私の意思に反しのた打ち回り、痙攣している……な、なるほど我慢している分が尻尾に……自分の身体だが初めて知った事実に思わず笑っていると、

 

「はいよ。具の鶏腿肉のスパイス煮。カレーの上に乗せるな?」

 

((倍プッシュだとぉぉッ!?!?))

 

赤黒いカレーに煮込まれた骨付きの鶏肉が追加される。勿論刺激臭を放つルーもだ……私とパンドラズ・アクターの額から辛さによる汗ではなく、恐怖による冷や汗が流れたのは言うまでも無い……

 

 

 

 

私の気のせいでなければ目の前のカレーからは「ゴゴゴゴ」ッ!!と言う異常な威圧感が放たれている。ただでさえ辛かったのに……いやいや!まだ希望はある!スプーンで骨付きの鶏腿に触れると、相当煮込まれているのか簡単に骨から外れる。これで中身が白ければ……

 

(真っ赤かぁ!!!)

 

鶏肉の中まで赤黒いルーが染みこんでいる。これは……思わずごくりと唾を飲み込む。勿論空腹から来る物ではなく、恐怖でだ。

 

「ダ、大丈夫カ?デミウルゴス、パンドラズ・アクター」

 

心配そうなコキュートス様に大丈夫ですとも!と返事を返し、鶏肉を頬張る。カレーの比ではない辛味が口の中で爆発する。

 

「「ッ!?!?!?」」

 

食べ物ではなく、劇物。それも超危険な代物だ……デミウルゴス様と喉を押さえ、声にならない悲鳴を上げる……

 

(こ、これほどまでとは!?)

 

カワサキ様の料理なので食べられない筈は無いと思い、激辛カレーでデミウルゴス様に勝負を申し込みましたが……飲み物禁止は危険すぎた。だが自分から口にしたルール、とてもではないが自分から覆せる訳が無い。ライスだ、ライスの白い部分で辛味を……

 

(ノォッ!!!)

 

さっきまで赤の中に僅かに存在していた白い部分。それが鶏肉の追加によってもたらされたルウの追加で完全に消滅している。

 

「……馬鹿な……ッ!」

 

デミウルゴス様も同じ考えだったのか、絶望に満ちた声でそう呟く……どうする、ライスで辛味を抑える事が出来ないとなれば……長期戦は不利!しかし、しかーし!!

 

(これをかきこむのか……?)

 

赤黒いカレー……流石にこれをかき込み飲み込む勇気は私には無かった……大きく深呼吸し、赤いルーから赤黒いルーにランクアップしたカレーを頬張る。

 

「「…………はっ!?」」

 

い、意識が飛んでいた……!!!完全に意識が飛んでいた!!意識が覚醒すると同時に襲ってきた舌を突き刺すような辛味と、喉を焼く痛みに机に突っ伏し悶える……あちこちからデミウルゴスとパンドラズ・アクターは何をしているんだろう?と言う視線が向けられるが、男の意地の対決であり、そして!!

 

(デミウルゴス様にもう1度思案を!)

 

人間を侮っている。それは確かに最上位悪魔(アーチデヴィル)としては仕方ない事かもしれません。ですが、ユグドラシルの装備を持つ、現地人との戦いに慢心をされては困るのです。最悪の結末、出撃した守護者が洗脳されるという結末を回避するには人間は脅威だと思っていただかなければ……ッ!!

 

「ぐっふう……ううううう……ギブアップですかなぁ!」

 

「ご冗談を……この辛味にも慣れて来たところですよ……」

 

嘘だと即座に理解した、この辛味に慣れる訳が無い。もし慣れているのなら、あんな滝のような汗を流し、尻尾がのた打ち回るような無様な光景になるはずが無い!戦況はやや私が有利……だがこの赤黒い鶏肉……これが駄目だ。辛すぎるのと、ボリュームが……

 

「……このような刺激的な味わい……決して忘れる事など出来そうにありません」

 

それはトラウマとして心に焼きつくと言う意味ですか?と尋ねる事は私には出来なかった。何故なら私にもトラウマとして心に刻まれそうだったからだ……

 

(……鶏肉の皮……は辛くない!)

 

……か、辛くない!(違います、味覚が麻痺してるだけ)そうか、鳥皮の油で辛味が弱くなっているのですね(違います、味覚が麻痺してるだけ)この皮を如何にして護るか、それが勝敗を分ける!鶏皮は決して量が多いわけではない、考え無しに食べれば即座に消滅する……限界を超えかけたら口にする。それがベストだ。

 

「ふっぐううううう……喉が……喉がぁ……」

 

「げふう……焼ける!喉が!喉が焼けるぅぅ……」

 

1口毎に呻く料理が存在するとは……カワサキ様のレパートリー恐るべし……ふと顔を上げると、セバス様とカワサキ様が赤いカレーを前にして楽しそうに話をしている。

 

「ほほう……これがカワサキ様の……この刺激的な味わい、堪りませんね。先ほどの辛口、些か物足りなさを感じた物ですが、いやいや、これは素晴らしい」

 

「そうだろうそうだろう。自信作だ」

 

……馬鹿なぁッ!?!?何故そんな平然と食べられる!!!!これは劇物ですよ!?何故そんなに楽しそうにおしゃべりして食べる事が出来るのですか!?

 

「パンドラとデミウルゴスも食べたいと言っていてな」

 

「ほう……しかしその割には食が進んでいないように思えますね。辛味が足りないのですか?」

 

「そうかもな。俺達のは更にスパイス振ってるし、いるか?」

 

違います……違いますから、お願いします。これ以上辛くしないでくださいッ!!と言うかこれより辛いの食べているんですか!?正気なのですか!?

 

「……」

 

カタカタカタ……デミウルゴス様が手を異常に震わせて眼鏡を外す。カットされた宝石の瞳が露になる、机の上に置くまでに異常にカタカタと手を震わせている姿が妙に滑稽なのだが、それは覚悟を決めているように思えた。

 

(まさか!?)

 

セバス様に対抗してかき込むつもりなのですか!?ネクタイを外し、Yシャツのボタンを外す……本気だ、本気でかき込むつもりだ!!!

 

「しゃっ!オラアッ!!!」

 

らしくない叫び声を上げ激辛カレーをかき込むデミウルゴス様。本体と尻尾の痙攣が凄い事に!!!だがこのままでは負けてしまう、私も覚悟を決めた。

 

「Alle von unserem Schopfer(全ては我が創造主の為に!)」

 

皿を持ち上げ、スプーンでカレーを口の中に強引に流し込む。1口ごとに身体が震える、意識が遠くなるがそれを意思で捻じ伏せ、死ぬ気と言うか死ぬつもりでかき込む……永遠とも思える数分……

 

カチャン……

 

「貴方の敗因は……たったひとつです……デミウルゴス様……たったひとつの単純な答え……己の為か、モモンガ様の為か、それだけですよ」

 

セバス様に対抗しかきこんだデミウルゴス様と、モモンガ様の為にかきこんだ私。その差がたった1口の差と言う結果をもたらしたのだ。

 

「ごふっ……」

 

デミウルゴス様が口から赤い何かを吐き出す(きっとカレー、カレーを吐き出したに違いない)そして皿には僅かなカレーが残されていた。私は滝のような汗を流しながら帽子を被りなおし

 

「勝負は私の勝ちですね。約束は護ってもらいますよ」

 

「……(返事が無い、ただの屍のようだ)」

 

「デ、デミウルゴスゥゥウウ!!!」

 

観戦していたコキュートス様がデミウルゴス様に駆け寄るのを見ながら、私は勝利のラッシーに酔いしれるのだった……そしてそんな死闘の背後では

 

「カワサキ様、もう1杯おかわりをいただけますか?」

 

「ああ。今用意する」

 

マイペースにセバスが3皿目の激辛カレーのお代わりをしているのだった……

 

 

 

 

パンドラズ・アクターとデミウルゴスがカレー対決をしている頃。6階層のニグン達のログハウスにはルプスレギナが訪れていた……

 

「御方様からのお恵みを運んで来たっすよ~」

 

「おおお、使徒様。お恵みに感謝します」

 

真の神の使徒となるべく、訓練に励んでいる私達の元に使徒様が料理の入った鍋を運んできてくれた。その事に感謝し、膝を突き両手を組む。

 

「とは言え、あたし達に振舞われた料理の残りっすからね。そこの所勘違いしないように」

 

「心得ております」

 

私達の前に置かれた3つの鍋を見て深く頭を下げる。

 

「この赤い蓋が辛いカレー、黄色が普通、ピンクが甘口っす。ただ量は本当にそんなに無いっすからね、良く考えて食べるっす。残したりしたら、カワサキ様のお怒りを買うっすよ」

 

そう口にしてログハウスを出るルプスレギナの口は愉悦で吊りあがっていた。量が少ないというのは嘘である、意図的にルプスレギナは激辛を多めにし、中辛、甘口を少なく運んできたのだ。

 

(ひひひっ!苦しみ悶えるっす)

 

御方の料理を口に出来るだけでも光栄だと思うっすと呟き、歪んだ笑みを浮かべ9階層へ引き返していくルプスレギナであった……

 

「さて……鍋を見た結果だが、明らかに甘口と中辛の量が少なく、激辛が多い。この中で辛い物が得意な者は?」

 

私含め誰も挙手しない。そもそも香辛料の類は貴重品だ、生活魔法でも生成できない物はそれだけで金や銀に匹敵する。

 

「ではまず全員で激辛を味見しよう。異論は無いな?」

 

部下が全員頷いたのを確認してから、お恵みに感謝しますと祈りを捧げ鍋にスプーンを入れる。そしてそれを口に運ぶ。

 

「「「「!?!?!?」」」」

 

痛い!口の中が痛いッ!!!!全員で口を押さえのた打ち回る……

 

「ごふっ!げふっ……さすが神の国の食べ物……なんと刺激的な味だ」

 

「ですが、美味いです」

 

「ああ。美味い……だが辛い」

 

辛く、痛いと言う事を除けば美味い。だがとてもではないが、これを食うのは……抵抗が……

 

「隊長!混ぜてみましょう」

 

「……しかし神の食べ物に」

 

残すより良い筈です!と言う隊員の提案により、皿に少しずつルーを出し、混ぜ合わせ食べる事が可能な辛さまで調合を重ねるニグン達の姿がログハウスにあるのだった……そして鍋の回収に来たルプスレギナがその言葉を聞き、

 

(これが……人間の考え!?半端無いっす……)

 

自分達では考え付くなど訳も無い、カレー同士を混ぜ合わせ食べれる辛さまで調整すると言う方法を繰り出したニグン達に驚愕したのは言うまでも無い……

 

 

メニュー13 石釜でパンを焼こう(カルネ村)

 

 




次回は久しぶりにナザリック外の話になります。トブの大森林で食材になれの実験の前にカルネ村を訪れるカワサキさんとモモンガさん。そこで2人はあるものを見ることになります。それがなんなのかを楽しみにしていてください、後デミウルゴスさんが眼鏡を置く動きは閣下の震えながら眼鏡を置く動きを想像してください。パンドラとデミウルゴスの話し合いはパンをやこうの次、大森林での食材の実験をする「賄い」にて書くので、それまで楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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