生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー161 階層守護者達の料理チャレンジ(パンドラズ・アクター)

 

メニュー161 階層守護者達の料理チャレンジ(パンドラズ・アクター)

 

宝物殿の隣接するパンドラズ・アクターの私室から凄まじい音が何度も響き渡る。ほかの階層守護者同様、いや、他の階層守護者以上に気合の入っているパンドラズ・アクターの何ともいえない悲鳴が宝物庫に響き渡る。

 

「ああああああ~~!! 駄目、駄目、駄目ッ!! これも駄目ッ!! う、ううう……私には才能がないというのですか」

 

割烹着姿のまま私は膝をつき、机の上の大量のオムレツに視線を向ける。

 

「どれもこれもシズ様の仕上がりにすら届いていないッ! ああ、こんなにも失敗を……」

 

シズ・デルタの作るオムレツ・オムライスにすら届いていない味わいに私は顔を両手で押さえて、机の下に転がった。

 

「こんな駄目な僕をモモンガ様は愛してくれない……あああああッ」

 

モモンガ様に最高の卵料理をと気合を入れていたのに、この体たらく、私は自分の気が済むまで机の下で嘆いていた。

 

~30分後~

 

「ふう、一頻り騒いだので落ち着きましたね。後はアイテムを磨けば完璧ですね」

 

着ていた割烹着を椅子の上に畳んでおいて、私は精神状態を完璧とする為にアイテム磨きへと向かう。

 

「最高のオムレツとしても、それ1品、しかも時間が掛かるのは論外。このパーティには人間も来る訳ですから、モモンガ様だけにお出しする訳には行かないのですよね」

 

味見としてお出しする事はできますが、あくまで今回は人間も食べることを前提にしなければならない。ある程度はナザリックの備蓄の食材を使う事も許可されていますが、豪華な食材を使い作るのは趣旨が異なる。

 

「なるほど、答えは簡単でしたな」

 

最高のオムレツとは何ぞや? と言われてもきっと答えは出ないだろう。カワサキ様ならば思い出の味と言うだろうでしょうし、最高の食材を使うのも確かに味も完璧でしょうが、それが最高かと言われれば首を傾げる事になるだろう。

 

「ここまで来たら答えは1つ! いざ実戦……の前にこれだけ磨いておきますか」

 

最後に磨いていたアイテムの光り方が気に食わないので磨き剤を追加して、柔らかい布で存分に磨いてから私は自室へと戻り、手を綺麗に洗ってから再び割烹着に袖を通した。

 

「さてと……まずは道具の確認から、フライパン良し、卵良し、バター良し、塩・胡椒良し」

 

余分な物になるであろうチーズ等はまずは使わない、基本に忠実、そして丁寧に仕上げればそれは間違いなく最高の味に近いオムレツになる筈だ。

 

「1つに対して卵は3個」

 

1つのオムレツに対して卵は3個、それを綺麗にボウルの中に割り入れ、大きく息を吐いた。

 

「いざ勝負ッ!」

 

菜箸で素早く卵を掻き雑ぜ、全体が混ざったら塩胡椒で味を調えて再び混ぜる。しかし混ぜすぎても駄目なので、自分の勘でここっと思った所で混ぜるのをやめフライパンを手に取る。

 

「火は弱火、バターを落として……溶かすように温める」

 

バターが焦げてしまえば卵は台無しになる。フライパンを動かしてバターを回転させながら丁寧に溶かし、フライパン全体にバターが馴染んだらかき混ぜておいた卵を一気に流し込み火を強火にする。

 

「ここですッ!!」

 

勢いよく卵を混ぜ合わせ半熟になった所で、フライパンの柄を持ち上げて斜めにし卵を菜箸で引っくり返したら火の上から外す。

 

「ほっ、ほっ、ほっ!」

 

柄をたたいて卵を引っくり返し、楕円形になってきたら箸で綺麗に形を整えて皿の上へと乗せる。

 

「ふー……果たして上手く行きましたでしょうか?」

 

焦げ1つない鮮やかな黄色、だがそれだけでは満足してはいけない。ナイフを手にしオムレツに切れ込みをいれる。

 

「JAッ! JAッ!! JAッ!!!」

 

とろりと流れ出てきた半熟卵を見てガッツポーズをして私は気が済むまで叫んでからオムレツを口に運んだ。

 

「うん、うん……卵ッ!」

 

塩胡椒しか使っていないので味わいは卵その物の味を引き立てるシンプルな物ですが、逆にそれがいい。究極を求めたオムレツとは正にこの事と1人でうんうんと頷きながらオムレツをしっかりと堪能し、再び卵に手を伸ばす。

 

「様々なオムレツで私は勝負するとしましょう」

 

基本が出来てこそ、アレンジが光る。この最初の焦げ付いてしまったチーズオムレツなども材料を追加することで上手く仕上げることが出来るかもしれないともう1度チャレンジしてみる事にする。

 

「チーズはやはり溶けやすいチーズの方が……うーむ」

 

最初はブロックチーズを削ったものを使いましたがどうも味が濃いですが、卵の味わいがいまいちに感じられたのでブロックチーズを片付けて、ピザ用チーズを溶いた卵の中に入れる。

 

「チーズを使ってますから、バターではなくオリーブオイルで」

 

チーズとバターでは味は重過ぎるかもしれないのでオリーブオイルを使い……。

 

「箸では形が上手く整えれませんでしたから……ここはヘラですな」

 

ヘラを使えば上手く形を整えれるかもしれないと思いゴムベラを準備し、良く加熱したフライパンの中にチーズ入りの卵液を流し込む。

 

「外から中へ、外から中へ」

 

外から固まってくるので外から中へを混ぜ込む事をイメージし、ついでに口でも呟きながら良く混ざる。卵単品よりもチーズが入っている分長く加熱し、チーズが溶けてきたらゴムベラに持ち変えて……。

 

「丁寧に、丁寧に」

 

チーズが溶けてきたらヘラを使って綺麗に形を整えて、楕円形に整形したら皿の上へと移し、先ほどと同じようにナイフで切れ込みを入れて開いてみる。

 

「おおッ! 良いではないですか」

 

卵も半熟でチーズも上手く溶けてトロリとしている。念の為に味見をしてみるとチーズの塩味に濃厚な味わいが卵に追加されていて実に味わい深い1品に仕上がっておりました。

 

「うんうん、いいですねッ! そうだ」

 

1度コツを掴めばトントンっと上手く進んでいく物で、保存食のハム等も持って来てそれを細かく刻んでみる。

 

「んんー何か違いますな。えっと……」

 

食堂から持ち込んできた調味料を見つめ、これでもない、あれでもないと考えていると紅い缶に視線がとまった。

 

「確かこれはウェイパーでしたな」

 

中華料理の万能調味料らしいそれを見て、これだっと閃きネギを持って来てネギを小口切りにし、フライパンの中にごま油を入れ、ごま油でネギを炒める。

 

「いい香りですね。おっと、これなら……」

 

これならハムではなく焼き豚の方がいいと思い、ネギが焦げないように弱火にし、その間に焼き豚を細かくサイコロ状に切って豪快に投入。

 

「うんうん……炒飯? いえいえ、まだ修正は効きますとも、うん」

 

これだと炒飯になってしまうと気付き、鍋の中に水で溶いたウェイパー、砂糖を加えて焦げ付かせないように丁寧に混ぜる。

 

「……うむ、美味しいですが……うーむ」

 

ウェイパーが思ったよりも味が濃かったので、それで更に思いつきで水で溶いた片栗粉を投入し、火が通ってくると当然ながら固まってくるがそれでいい。

るがそれでいい。

 

「うん、これなら」

 

中華餡のようになったチャーシューとネギを炒めた物をコンロから外して、先ほどと同じ様にオムレツを作る。半熟になった所で中華餡を半熟卵の上に乗せて、餡を包むように形を整える。

 

「どれどれ?」

 

ナイフで切ると温まった事で溶けてきた中華餡と半熟卵が皿の上に溢れ出てくる。それをスプーンで作って口へと運ぶ。

 

「うん、これは美味ッ!」

 

コッテリと濃い味わいはご飯が欲しくなる完璧な仕上がりである。ただしこれがパーティに合うかどうかは不明ですが、美味しいので良しとしましょう。それに新しい閃きも沸いて来た。

 

「ソース、そう、ソースですねッ! シホ殿達にビーフシチューを貰いましょうか、いやいや、クリームソースなんかも乙な物かもしれませんね」

 

オムレツの中に包むだけではなく、上にシチューなんかを掛けてみるのも味わいをグッと良くしてくれるはずだ。

 

(オムライスでは勝てませんが、オムレツならばッ!)

 

オムライスはモモンガ様の父君と母君がモモンガ様に贈った料理。そんな至高の料理を私が作ったとしても美味しいと言ってくれても本当に美味しいオムライスはモモンガ様の中にあり、そしてその味はカワサキ様を持ってしても作れない至高の1品もっと言えば……。

 

「お爺様とお婆様の料理に勝てるわけがございません」

 

私はモモンガ様の息子、なれば私に取ってはお爺様とお婆様、そんな御方に挑むこと自体おこがましい。思い出は思い出であるからこそ美しいのであって、それを塗り替えようなどと許されるものではない。ですがモモンガ様にも喜んでいただきたい……となれば私の作る料理は最初から決まっていたと言っても過言ではない。

 

「最高のオムレツをモモンガ様へッ!」

 

オムライスに似ているがオムライスではないオムレツ。作りやすいがそれ故に奥の深いオムレツを磨き上げ、モモンガ様に喜んでいただく為に私は再び卵へと手を伸ばすのだった……。

 

 

「いや、俺ら卵好きですけど、限度ありますよ?」

 

「うん、うん。いや、美味いけどな」

 

「ほんっと申し訳ありません。ですが私1人では食べきれないのですよ……」

 

「うーん、許可を貰って村に差し入れるか?」

 

「そりゃいいんじゃないか? 子供たちに食わせてやれば喜ぶぜ」

 

「いや、本当に申し訳ない……」

 

なお自分では食べ切れないほどのオムレツを作ってしまい、私はザリュース殿達に食べるのを手伝ってくれと頭を下げることになり、アルベド様に何馬鹿やってるんだと言う顔で見られましたがリザードマンの村に差し入れする許可もいただき、リザードマンの村に幾多名何度も転移をする羽目にはなりましたが、満足の良くオムレツを十分に作れるようになっているのでした……。

 

 

メニュー161 プレアデスとセバスのお仕事へ続く

 

 




パンドラズアクターはオムレツに色々と挑戦してもらいました。結構暴走してますが、これでこそパンドラズ・アクターって感じになってるかなと思っております。あと焼き豚ネギ入りのオムレツは分かっていると思いますが、元ネタは1日外出ハンチョウより抜粋してみました。次回はプレアデスと言う事でシズとエントマをメインに書いてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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