メニュー22 寿司屋カワサキ
カワサキの厨房に普段のクックマンの姿をしたカワサキの姿は無く、調理をしていたのは人間の姿をしたカワサキだった
「良し、完璧だ」
我ながら完璧な焼き上がりだ、焦げ1つ無い卵焼きを皿の上に移す。首を左右に振り、手を回し、屈伸をして身体をゆっくりとほぐす
「違和感は無いっと」
クックマンではなく、擬人化している理由は1つ。簡単だ、クックマンの指1つない手(普段どうやって包丁を持ってる?とか言う謎)では寿司を握る事が出来ない。だから人化する事を選んだのだ、魚を切り分ける、寿司飯を作る等は出来た。後は丁寧な仕上げが出来るか?と卵焼きを焼いてみたが、焦げ1つ無い仕上がりを見れば人化しても身体の感覚は変わらないと言う事が判った。だがクックマンほどの体力と腕力は無く、それと料理に対して集中できる時間が短いなど、どっちも一長一短か
「寿司とかを作る時はこっちの方が良いな」
手先が器用に使えるし、シャリを握る時にスナップも利く。一応クックマンの時と作って味を比べてみたが、人化してるほうが味も良かったし、口の中で解ける食感もあり。人化して寿司を握る事を決定したのだ、寿司を作る準備を手伝ってくれたパンドラとデミウルゴスにも声を掛けた事は掛けたんだが
『それは過ぎたる褒美ですから、今回はモモンガ様に食材を献上できた。それだけで十分でございます』
『成果を上げた時にお願いしたいと思います』
シモベの思考回路が予想以上に俺達至上かつ、社畜思考でどうしようかと本気で思ったものだ。良い成果とか関係なしに、強引に褒美とかに持ち込んだほうがいいかもしれないと思ったのは言うまでも無いだろう
「さてと……モモンガさんはアルベドを誘ってこれたのかな」
夕食の時にアルベドを誘ってくるようにと言ったからな。ちゃんと誘えたのかな?まぁ1人で来たら追い返すって言っておいたから一緒に来る筈だが、どうやって誘うだろうなと思いながらモモンガさんがアルベドと共に来るのをのんびりと待つのだった……
アルベドの部屋の扉に手を伸ばし軽くノックをすると、アルベドの返事が返ってくる
(カワサキさん、絶対楽しんでいる)
どうしてそこまで俺とアルベドをくっつけようとするのか理解出来ない。だが1人で来たら食べさせないと言われた上に
『モモンガさんの為に頑張っているアルベドを労おうと思わないのか?』
と言われればぐうの音も出ない。そもそも今ナザリックが回っているのはアルベドが人員を配置し、資産をやり繰りしてくれているからで……デミウルゴスと同じくらい負担を掛けている。労うべきと言われれば反論など出来るわけが無い
「シホかしら?」
シホ?アルベドの口からシホの名前が出たことに少し驚いたが、設定などを考えたのはタブラさんとペロロンチーノの2人だ。もしかすると俺が知らないだけで、友人関係なのかもしれないな
「アルベド、私だ」
「あ、あ、アインズ様!?し、少々お待ちください」
部屋の中からばたばたと言う音が聞こえてくる。暫く待っているとアルベドが顔を出す
「アインズ様。どうかなさいましたか?」
部屋の中を見せまいとして、少しだけ扉を開き、顔を出しているアルベド。一体部屋で何をしていたのやらと苦笑しながら
「カワサキさんの所に夕食を食べに行く、一緒に行かないか」
俺がそう言うとアルベドは華の咲くような笑みを浮かべ
「勿論ご一緒させていただきます」
俺に部屋を見られたくないのか、さっと出て扉を閉めて鍵を閉めるアルベド。この雰囲気は部屋の中には触れないほうが良さそうだな、俺はそんな事を考えながらアルベドを伴ってカワサキさんの指定した部屋。ギルメンの予備部屋を開けて絶句した……何の装飾も無かったその部屋は俺が知らないうちに木で作られた椅子と机。そして調理台などが取り付けられた部屋に改造され、カワサキさんもクックマンではなく人化した姿で待っていた
「カ、カワサキさん。こ、これは?」
「デミウルゴスが半日でやってくれたよ」
……デミウルゴス、お前そのうち過労で倒れるんじゃないか?俺はそれを心配しつつ、カワサキさんに座るように促された4つの椅子が置かれたカウンター席に腰掛ける。アルベドは迷う事無く、俺の隣に腰掛け
「カワサキ様。これは?」
「寿司ネタを置く場所だよ。アルベド」
椅子に腰掛けると、ガラスか何かで作られたケースの中に色んな食材が置かれているのが見える。その中に俺がリアルで食べた寿司と同じ食材は1つも無い。色が似ているのはいくつかあるようだが……
「俺のお勧めで良いかな?モモンガさん、アルベド?何かリクエストがあるなら聞くが?」
リクエストなんて、今座った段階でリアルで知っている寿司と違うと言う事は嫌でも判った
「勿論です。カワサキさんにお願いしますよ」
俺の言葉に含み笑いをしているのを見て、絶対俺がネタとか判ってないと言う事が判っているなと思うのだった
アインズ……いえ、モモンガ様に直々に誘われ、しかもカワサキ様の料理を一緒に食べることが出来る
(これはもはやデートなのでは!?)
誰がなんと言おうとこれはデートなのだ。きっとカワサキ様が応援してくれると言っていたのはこの事だったのだと思う
「握りに入る前にまずは刺身を楽しんで貰おうか、真鯛と鰈の刺身だ」
私とモモンガ様の前に置かれたのは透き通るようなガラスの皿。そこには白身の魚の刺身が数枚置かれていた
「メインは寿司だからな、まずは軽くだよ」
なるほど、これはオードブルと言う事ですね。カワサキ様が差し出してきた小さな小皿には醤油が注がれ、その隣に緑色の何か
「そっちは山葵だ。少し刺身につけて食べると美味しいが、付けすぎるとびっくりするぞ?まずは少し試してみると良い」
箸に少しだけ山葵をつけて、刺身に乗せ醤油をつけて頬張る
「ほお……これは美味い」
モモンガ様の感嘆の声が聞こえる。歯を立てるとすっと歯が入っていく、脂は乗っているのだがサッパリしていてとても美味しい。それにツンっとした刺激を伴う辛味もまた丁度いい。もう1枚のほうも同じようにして頬張る、するとそっちはもちもちとした弾力が強く。魚でもこんなに味が違うのかと驚いた
「軽く酒を飲むか?」
手際よく次の刺身を用意していたカワサキ様がそう問いかけてくる
「そうですね、私は少しだけ。度数の弱いのが良いですね」
「私はその少し辛めの物を……」
刺身が甘いので、少し辛めの強い物が良いですとカワサキ様に返事を返す。するとしゃがみ込んだカワサキ様は下で何かをすると、私とモモンガ様に小さな徳利と猪口を差し出してきた
「あんまり呑みすぎるなよ?寿司の味が判らなくなるからな」
そう苦笑するカワサキ様に判っていますと返事を返し、モモンガ様の徳利を手にする
「アインズ様、どうぞ」
「お、おお。すまないな」
モモンガ様が手にしている猪口に徳利の中の酒を注ぐ。透明な見たことの無い酒だ……
「ん……ふう……刺身に良く合うな。どれ」
今度はモモンガ様が私の徳利を手にする。その姿にとんでもないと口にしたが
「何もそんなに謙遜する必要は無いだろう。他のシモベの目も無い、2人で食事を楽しもうじゃないか」
「は、はい。では」
猪口を手にすると、モモンガ様はこういうのに馴れてないのか、少し震える手で猪口に酒を注ぐ。少し少なめだが、これくらいで丁度いい
「ん……んー、美味しいです」
かっと口の中が熱くなる、強い酒精だがそれがまたいい。私の中で燃える炎を更に熱くするようで……それが心地いい
「次は蛸だ。パンドラが潜って獲ってきたんだが、これが良い蛸なんだ、流石に生食は不安だから1度茹でて火を通してある」
カワサキ様がデミウルゴスとパンドラと共に食材確保に出たのは知ってましたが、パンドラは何をやっているのでしょうか?
「巨大蛸で相打ち寸前だったと聞いている」
「なにやってるんですか?カワサキさんとパンドラは」
食料調達とカワサキ様は笑うが、食料調達ってそんなに生死に関わる物だったでしょうか?モモンガ様は溜息を吐きながら、蛸に箸を伸ばす
「美味い。甘くて、歯応えが良いですね」
シモベとして御方よりも先に口にすることが出来ないので、モモンガ様が蛸を口にした後に私も醤油をつけて頬張る
(これは……なんとも言えない……)
柔らかいのだが、サクサクとした独特の食感とコリコリとした歯応え……これは美味しい以外の言葉が出ない
「無人島で綺麗な場所だったから、今度皆でキャンプでも行ってみないか?」
「……パンドラが相打ちになるような蛸がいる場所だと少し考えないといけないですよ」
水棲のシモベを召喚すれば大丈夫だろ?と言うカワサキ様とうーんっと悩んでいるモモンガ様。その話に割り込むわけには行かないが、個人的には海でキャンプと言うのは面白いと思う
「まぁ、考えておいてくれよ。レクリエーションとしてはそう悪い物じゃないからな、次は海老。醤油を少しだけつけて食べるといい、自然な甘さがして美味いぞ。尻尾を持って醤油につけてくれ」
カワサキ様は私とモモンガ様の箸の動きを見て、食べ終わりから少し間を置いて次の刺身を出してくる
(これは……綺麗ですね)
尻尾の部分だけ殻が付いていて、身は白く透き通っている。カワサキ様の言うとおり、尻尾を持って醤油につけて頬張る
「「甘い……」」
私とモモンガ様の声が重なった。なんと表現すれば良いのか判らないが、もったりとしていて噛むと口の中が海老の旨味と、甘さが広がって……口の中一杯に海老を頬張っているようだ
「さてどんどん行くぞ。次は鯵っぽい何かだ、摩り下ろしたしょうがとネギに味噌。薬味を刺身の上に乗せて食べると美味しい」
モモンガ様と2人だけで食事と言うだけでも嬉しくて、胸が一杯になるのに、それに加えてカワサキ様が丁寧に作られた刺身……もう気持ちも何もかも一杯で私は笑みを零しながら、カワサキ様が教えてくれたように刺身の上に薬味を乗せて、味噌をつけて頬張る
(ああ……なんて美味しいのでしょう)
ただ美味しいだけではない、これがきっと幸せの味なのだと私は思うのだった……
食べているのに、食べれば食べるほどに腹が減る。そんな不思議な感覚だ……寿司を食べたいと言ったのは俺だが、まさかこんなに手が込んでいるなんて思っても無かった
「さて、そろそろ握ろうと思うが……良いか?」
カワサキさんの問いかけにお願いしますと返事を返し、机の上に置かれたお絞りで手を拭う。先輩が確か、それが礼儀とか言ってたような……気がするから
(凄い……)
桶に手を入れて何かを掬いとり、寿司ネタをその上に乗せて握る。その動きは無駄がなく、そして実にスムーズだった
「まずはキズスの握りだ」
キズス……リザードマンの集落のある湖で良く取れる魚……だったか。そう言えば食べた事が無かったな……
「良い物は良い、どこで取れようがな。最初の品はこれが良いと思ったんだよ」
昆布〆してある、まずは食べてみてくれと言われたら食べない訳には行かない。寿司は手で食べる物らしいのでシャリを掴んで醤油をつけて頬張る
(お、美味しい……)
甘く酸味のある寿司飯とねっとりとしたキズスが良く合う……今まで色んな美味しい物をカワサキさんに食べさせて貰ったが……これは今までで一番かもしれない
「お、美味しいです……でもこの味は……」
「昆布〆にする事で昆布の旨味が加わるんだよ。少しねっとりとした食感になるが……良い味しているだろう?」
確かに……少しねっとりとした食感がするが、それが酢飯と逆によく合っていると思う
「とても美味しいです。カワサキさん」
「それは良かった。だけど、まだまだこれからだ」
これで満足して貰ったら困るぜ?とカワサキさんは笑い、次のネタを手にする
「次は俺とデミウルゴスで釣ってきたヒラマサだ。これは少し歯応えが強いが、脂が薄く、さっぱりとしているぞ」
今度の寿司には肌色と言う感じの魚の切り身が乗っていた。やや薄い色をしている部分と少し赤みを帯びた部分の色合いが綺麗だ
「ん、これは良いですね……私これ好きですよ」
さっきのキズスの昆布〆も美味しかったが、これはさっきよりも好みかもしれない。コリコリとした食感と適度に脂の乗った身は酢飯と良くあう。山葵の辛味もあって、脂の割りに非常にサッパリと食べる事が出来た
「私は少し……サッパリしすぎかと」
俺は美味しかったが、アルベドにはどうやら不評だったようだ。こればっかりは味覚の違いと言う奴だろう
「ふむ、それなら今度はこれだ」
ヒラマサに似ているが、ヒラマサよりも色が鮮やかな寿司が俺とアルベドの前に置かれる
「めちゃくちゃ巨大でブリかと思ったんだが、味的にはワラサに近いんだ。多分ワラサだと思う、ブリほど身も柔らかくないし」
「カワサキさんでも判らないんですか?」
カワサキさんが判らないということに驚きながら尋ねると、カワサキさんは腕を組んで
「出世魚とかは難しいな、デミウルゴスとパンドラに案内された島って魚とか異様なほどでかかったし、多分ブリならもっとでかいと思う」
味は良いからたいした問題じゃないんだがと笑うカワサキさん。その言葉に苦笑しながらワラサの握りを頬張る。ヒラマサよりも脂が乗っていて、ぷりぷりとした歯応えが良い、ヒラマサと食感は似ているが、ヒラマサよりも柔らかく、脂が濃い気がする
「美味しいですが、俺は少し苦手かもしれないですね」
「私は気に入りました。とても美味しいです」
俺とアルベドの意見がここでも割れた。カワサキさんはそんな俺達を見て笑いながら
「青物は好みが分かれるところなんだよ。でも次のはモモンガさんもアルベドも気に入ると思うぞ」
カワサキさんは刺身を切り分ける前に、俺とアルベドの前に魚の身を置くのだが……それを見て大きく見開く
「お、大きいですね?なんですか?」
「鮪だ。苦手と言う人もいるが、脂が乗っていて、寿司の王様と言える。巻物、握り、炙りと色々と出来るのもまた魅力だ。今回は赤身・中トロ・大トロの順番で食べて貰おうと思う」
鮪と言うのはリアルでも食べたが、それとこれはきっと別物なのだろう。どんな味がするのか今から楽しみだ
「まずは赤身。醤油を塗ってあるからそのままで十分だ」
鮪の切り身に醤油が塗られていて、それがキラキラと光って見える
「ヒラマサよりも脂が乗っていて美味しいですね。それにこの独特な風味が良いです」
鮪は独特な香りがあるが、それもまた鮪を楽しむ上で重要な物だろうとカワサキさんは笑う。今まで食べた寿司よりも格段に味が良いが、口の中に残る味も相当な濃さがあった
「アルベドは少し苦手か?」
「あ、いえ。とても美味しいです、初めて食べる味なのでどう表現すれば良いのか判らなくて」
そう笑うアルベド。見た所本当に初めての味で困惑しているという感じか……
「では次は中トロを握ろう、これは赤身よりも旨味が濃いぞ」
俺とアルベドの前でその塊を切り分けるのだが、その色は赤と言うよりもピンク色でまるで牛肉のようだ
「中トロの握り。こいつは美味いぜ」
カワサキさんがにやりと笑いながら俺とアルベドの前に1貫ずつ置く。これは判る見ただけで美味しい奴だ……
「ん、んー……美味いッ!」
「本当……凄く美味しいです」
柔らかく、口の中で溶けて行く……それなのにしっかりと存在感が合って、酢飯の酸味と非常に良く合う
「モモンガさんの知ってる寿司とは全然違うだろ?」
「う、そうですね……」
確かにこの味を知れば、俺がリアルで食べた寿司はとても寿司とは言えない、お粗末な物だっただろう。カワサキさんがあれは寿司じゃないって怒るのも納得だ
「では次は大トロだが、これは中トロとは比べられないぞ、まぁ好き嫌いがあるんだがな」
カワサキさんがにやりと笑う。中トロよりも美味しいの言葉にどんな味がするのか、楽しみで仕方ない
「大トロの握りだ、これも醤油は塗ってある。そのまま食べてくれ」
そう言われて差し出された寿司を見て、これは本当に魚か?と思った。白い筋……サシと言うらしい。それが切り身全体に入り、色もピンク色と言う感じで肉の様に見えた。脂が相当乗っているのか、キラキラと光っているように見える
「……ッ!美味しい……」
口の中に入れるとさっと溶け、口の中に鮪の味が広がる……中トロも美味しかったが、カワサキさんの言うとおり中トロとは比べようが無いほどに美味い
「同じ魚なのに、ここまで味が違うのですね」
アルベドが信じられないと言う様子で呟く、確かに同じ魚なのにここまで味が違うとは驚かされる一方だ。カワサキさんの食材を見抜く眼力と作る技術。それがあるから食べれる品だろう……
「喜んでもらえて何よりだ。だがここで1度箸休めだ。特製卵焼きだ、そのまま食べてくれ」
箸休めと言って出されたのは美しい黄色の卵焼き。焦げ1つ無く、綺麗に切り分けられた卵焼きに箸を伸ばす
(うわ、これふわっふわ……)
卵焼きとは思えないくらいふわふわで、ちょっとしょっぱいと思ったら甘くて……
「あーこれ好きだぁ……」
余りに旨すぎて完全に素が出てしまったが、これ美味い……甘くて、俺の凄く好きな卵焼きの味だ。とにかく美味しい……その言葉しかない、次カワサキさんがどんな寿司を出してくれるのか、俺はワクワクしながら1度甘めの酒を口に運ぶ。それで口の中がサッパリして、また食べたいと思えてくる。カワサキさんに寿司を食べたいと言って正解だった……
アルベドもモモンガさんも寿司をずいぶんと楽しんでくれているようだ。卵焼きをアルベドとモモンガさんが食べている間に次のネタに手を向ける。次は貝か……蛸か……海栗はでかくて良い感じだったのだが、鮑と比べると味が大味で残念なことに寿司ネタには適していなかった。焼き海栗とかにすると美味そうだったんだが、今回は寿司と言う事で使う事を見送ったので、何を出すか少しだけ悩む。良い海栗ならこのタイミングで出すんだが……
(煮鮑はもう少し後に回したいな)
となればパンドラがとってきた蛸だ。大きい足なので1度切ってから、更に半分に切ってシャリと共に握る
「蛸の握り。独特な食感と甘みがあって美味しいぞ」
モモンガさんとアルベドの前に蛸の握りを置くのと同時に甘酢で煮た海老の仕込みをする、包丁の穂先で腹から開き、少しだけ残っていた背ワタを水洗いで洗い流し、ペーパーで水気をふき取る
(良いネタばっかりだ)
リアルで手に入った痩せ細った海老とは違う。かなり肥えているその身はきっと食べて貰えれば満足して貰えるだろう。モモンガさん達が寿司を食べ終えたタイミングで海老の握りを下駄の上に置く
「これも美味しいですね、ぷりぷりしてて……歯応えも凄く良いです」
「本当ですね。食感が凄く良いです、それにさっきの刺身と違ってこの赤と白がハッキリしていて、見た目も綺麗です」
海老と言うのはそれほど旨味が有るネタではない、だがどんな物にもあうし、煮ても焼いても、生でも美味い。美味しいと喜んでくれる、それを見ているだけでこっちも嬉しくなる
(良し、これだ)
昨日から煮ていた鮑。丁寧に煮て、そして浸透圧などまでも計算した。これならば厚く切っても柔らかく寿司ネタに良く合う。食感を損ねない限界の厚さに鮑を切り、シャリと共に握る。鮑がかなり厚くシャリが完全に隠れているが……まぁ良いだろう
「煮鮑の握り」
「こ、これ大きくないですか?」
シャリに対して鮑がかなり大きいのでモモンガさんが驚きながら尋ねてくる
「大丈夫だよ。柔らかく煮てあるから、簡単に噛み切れるよ」
かなり厚いが、寿司ネタにしても十分に噛み切れるように計算してある。モモンガさんが煮鮑を頬張ると
「うわぁ……こんなに厚いのに柔らかい、口の中で旨味が広がって……美味しい」
「海の香りがしますね……凄く柔らかくて……凄く美味しいです」
食べるのは一瞬だが、食べる前にめちゃくちゃ時間を掛けて仕込みをしている。その仕込みのおかげで柔らかい上に歯応えがある
(色々試しておいて良かった)
煮鮑を作るのに、4種類ほど作ってみて味見をして、そしてもっとも柔らかく、ジューシーな物を選んだ。パンドラが大変な思いをして、取って来たおかげで色々試す事が出来た。やはり、初めて作るのだから色々試して本当に正解だった……
(さてと……次はこれだ)
リザードマンの集落でとってきたヌル。リザードマンに出した時はリザードマンだったからこそ大丈夫だったが、人化して食べてみたら人間にはそれでも硬かった。だから関東風の処理、つまり1度蒸してから焼いた事でとろりと溶けるような食感で人化しても美味しく食べることが出来た
「鰻の握りだ。ツメが塗ってあるから、そのままで大丈夫だ」
最後の品は巻物だが……きゅうり等の巻物にするか、それとも鮪を叩いて、ネギトロにするか……
(品数は大分出しているが……)
アルベドとモモンガさんを見る。アルベドはもう大分満腹っぽい様子だが、モモンガさんはまだ食べたそうにしているな。そこは男と女の違いだろう
「口をサッパリさせるのにカッパ巻きだ」
1本を4つに切り、アルベドとモモンガさんの前に2つずつ置く。アルベドはそれを食べ終わるとやはりもう満腹だったのか
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
手を合わせてご馳走様でしたと口にするアルベドに対して、少し物足りなさそうにしているモモンガさん
「まだ食べられるなら好きなネタを作ってやるぞ?何が良い?」
俺がそう尋ねるとモモンガさんは少し悩んだ素振りを見せてから
「また中トロをお願い出来ますか?」
ちょっと恥ずかしそうにしているが、男性が食べるには少し少ない量。追加で食べると言ってくれて良かったと俺は思っていた、何でも美味しいと言って食べてくれるが、それでも成人男性が食べるには少し量が少ないから実は心配していたのだ
「了解っと、中トロな」
白身が好きそうだったが、やっぱり日本人だから鮪が口に合ったんだなと思いながら、俺は再び中トロの握りを作りモモンガさんの前に置く
「本当これ美味しいです」
幸せそうに美味しい、美味しいと笑うモモンガさんに良かったなと笑い返しながら、勝手に空き部屋を寿司屋風に改造したがこれで良かったのかもしれないな……俺はそんな事を考えながら、柳刃包丁の刃を手ぬぐいで拭うのだった……なおこの日から何か祝い事がある時、シモベが良い成果を上げた時。ナザリックではそれを祝い、モモンガさんと殊勲をあげたシモベと共に寿司を食べるという習慣が生まれた……
「2人きりだと不公平ってアルベドが?」
「何か祝うのに相応しくて皆で食べられるのってありませんか?」
「……すき焼きでもするか?」
そして後にナザリックで祝い事として、寿司とすき焼きが祝いの品となると言う習慣が生まれる事になる……
メニュー23 ピザ へ続く
次回はナザリックの外の話を書いて行こうと思います。ガゼフにモモンガさんと共に会いに行く予定です、その後は数回王都での話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない