生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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賄い5 カワサキの完璧なプラン(笑)/フォーサイトカルネ村へ移住する/モモンガとカワサキ、アルベドの報告を聞く

 

 

俺はクックマンの姿をして、夜の帝国を隠れながら進んでいた。しかし、自分で考えておいてなんだが……

 

(やべえ、無理ゲーか!?)

 

ジルクニフに話をした俺が悪いと言えば悪いのだが、騎士が多い。どこを見ても帝国騎士と兵の姿がある

 

『カワサキ様。大丈夫ですか?』

 

「……大丈夫だ。問題ない」

 

シャドウデーモンの心配そうな声に平静を装って返事を返すが、正直やばいと思っている。

 

「周囲の偵察を頼む、騎士か兵士が来たら教えてくれ」

 

判りましたと返事を返すシャドウデーモンに背を向け、素のステータスでは不可能だと判断し料理で自分自身にバフを掛けながら、ヘッケラン達と話し合ったアルシェの妹誘拐作戦の内容を思い返していた。と言っても内容はシンプルかつ大胆、俺がクックマンの姿で奴隷市場周辺などで暴れる。その後、帝国の住民に目撃されながらアルシェの家を目指し、アルシェの妹を攫う。そのタイミングでシャドウデーモンに合図を出させて、ヘッケラン達を突入させ、追われながら帝国から逃げると言う作戦とは言いがたい、実に脳筋なプランだ。クレマンティーヌやエントマに反対されたのは言うまでも無いが、男として口に出した事を違えるようなことはしたくないので多少……いやかなり強引でもやり遂げる。筋力上昇・防御力上昇・瞬発力上昇・反射神経上昇・魔法防御上昇・物理防御上昇・打撃に麻痺付与……

 

「あと空間把握も上げておくか」

 

敵の数が多くなる可能性が極めて高い。エンカウントする確率を下げるために最後に1口サイズのシュークリームを頬張り

 

「うげえ」

 

『どうなさいました?』

 

思わず口から出た呻き声にシャドウデーモンが反応する。俺とシャドウデーモン、エイトエッジアサシンの反応を青とすると、360度囲うように赤い気配を感じる。これは駄目な奴かもしれないと一瞬心が折れかけるが、この世界の住人はレベルが低いから何とかなるかもしれないと自分を鼓舞し、2度とこんな無謀な事はやらないと心に決める。帝国の外でモンスターが暴れているように偽装しているクレマンティーヌとエントマの2人がいる方向に逃走しないといけないとか、やらないといけないことは山ほどある。

 

『シャルティア聞こえるか?』

 

『は、はい!聞こえるでありんす!』

 

すぐに返事を返してくれたシャルティア。結局宿に戻ってこなかったのでメッセージに出てくれるか心配していたが、余計な心配だった様だ

 

『か、カワサキ様。至急お伝えしたい事があるでありんすが』

 

「あーすまん、今時間が無い。後で話を聞くから、とりあえず俺達が滞在していた宿の近くの門から帝国の外に出て、クレマンティーヌとエントマと合流してくれ」

 

『わ、判りました!で、ですが、後でお時間を取って欲しいなんし!』

 

ここまで言うって事はシャルティアの方でも何かあったな。用件が終わったら話を聞くと返事を返し、メッセージをOFFにする

 

「さてと、これはかなりマジで気合を入れていくか」

 

シャルティアにはメッセージを送り、クレマンティーヌとエントマのいる場所を伝え、そこで合流する手筈になっている。そこで救出した面々をカルネ村方面に送り、俺達は用意していた馬車で追っ手に出るであろう帝国騎士と遭遇し、アリバイを作ると言う計画だ。旅人と言う設定を生かしながら、国を襲ったモンスターが近くにいると言って馬車を走らせる。もう細かい計画とかは存在しない、なるようになれという行き当たりばったりに近いが、後は勢いと周囲の被害で演出しよう。バフが全身に行き渡ったのを確認した後、最後に必要になるアイテムを取り出す。それはピンク色の装飾が施された、ややファンシーなデザインのアイテムだった。だがそのファンシーな雰囲気からは信じれないほどに凶悪な性能を持っているアイテムだ

 

(懐かしいなぁ)

 

俺がアインズ・ウール・ゴウンに参加した時に一番最初に発生したイベント「他星からの侵略者」と言うイベント。これは各ギルドに食料と言うアイテムが配布され、イベント終了時にその食料の残数で報酬が決まるというイベントだった。所属しているメンバーやNPCの数によって食料が毎日獲得でき、他のギルドを襲撃することでその食料を獲得する事が出来るのだが、それを強奪しに来る存在がいたのだ

 

『ぽよ~♪』

 

それは小さくて丸っこくてピンク色のエネミー。HPが無限に設定されており撃破することは不可能で、特定量食料を食べる事か、もしくは一定量のダメージでいなくなるのだが、食料を奪われると報酬が減るのでそれを迎撃する為にどのギルドも躍起になっていた。HPが無限と言う設定に加え、攻撃に全て即死判定が入っている言うチートなエネミーだった

 

『ぽよ~ぽよ~♪♪』

 

プレイヤーだろうが、モンスターだろうが、アイテムだろうが問答無用で吸い込み食べるという凶悪すぎる能力。プレイヤーも食料として判定されるのである程度モンスターやプレイヤーを吸い込めば消えるが、吸い込まれるとそれは死亡判定になりレベル低下にアイテムもロストする。遭遇したらさっさと食料を提供する方が安全と判明するまで時間は掛からなかった……食料を与え、召喚出来るモンスターを犠牲にし少しでも被害を少なくする。そして僅かでもイベント後の報酬を良い物にする、モモンガさん達もそれを考えていたのだが

 

『ぽよーぽよよー♪』

 

何故か俺を見るなり、吸い込むのをやめて俺の周りを跳ね始めたのだ。ナイフとフォークを出して俺を見つめるモンスターに料理を作り与えると喜んで食べる、作る、食べる、作る、食べるを何度繰り返したかは忘れたが何回目かでそのモンスターは俺にこの腕輪を渡し、星を呼び出し飛び去って行った。星から落ちた粒子は大量の食料となり、その後は2度とそのモンスターがナザリックに現れることは無く。イベント後にこのイベントは一定のレベル以上のクックマンが在籍していることで特殊イベントを発生させる物だと、公式から発表された。ちなみにこれは完全な余談だが、アインズ・ウール・ゴウンにクックマンがいるとは他のプレイヤー達には信じられなかったようで、他のギルドから食料を強奪したものと思われていたようだ

 

【星の戦士の腕輪】 

 

これを装備しているとあのモンスターが使っていた吸引能力が使用可能になる。皆食材になれと異なり、一応攻撃を受けてもキャンセルされることは無く、一定の範囲に引き込むと素材やアイテムに変換され、アイテムボックスを配置していれば、モンスターなどを捕獲することも出来るようになると言う破格の効果を持つアイテムだ。だがまあ捕獲目的ではなく、時間で消えてしまうレアドロップや乱戦時のアイテム回収に非常に便利そうと言う感想を抱いたが、最後まで使用されることは無かった悲運の品だ。俺は今回このアイテムを用いて、アルシェの妹達を回収してしまおうと考えていた。星の戦士の腕輪を装備し、コックスーツとコック帽を外して黒いローブ姿に着替える

 

「うし、シャドウデーモン行くぞッ!まずは奴隷市場だ。そこで捕まってるエルフとやらを救出する」

 

長生きだから伝説とかに詳しい可能性が極めて高い。あとは奴隷って言うのが気に食わないってのが非常に大きい。俺の言葉に頷いたシャドウデーモンに目配せし、裏路地から飛び出す

 

「モ「黙れ」

 

俺を見てモンスターと叫ぼうとした兵士の額に軽くデコピンを叩き込む。それだけで泡を吹き痙攣する

 

「……まぁ、毒とかじゃないし大丈夫だろ」

 

予想外に効果が出ているが、大丈夫だろうと呟き。俺はシャドウデーモンの先導で裏路地を奴隷市場に向かって駆け出すのだった……

 

「はいよ、失礼するぜ」

 

「「「「ひい!?」」」」

 

奴隷市場の警護はそれなりに多かったが、大したことは無い。眠り爆弾を投げればそれで終了だ、耳を切られているエルフがいる牢に拳を叩きつけて破壊し、牢屋の中に入る。俺を見てエルフ達が引き攣った悲鳴を上げる

 

(人間でもモンスターでも怯えられるんだな)

 

もう慣れるしかないかと心の中で呟き、エルフの奴隷に視線を向ける。整った容姿に、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込むと言う感じだが、襤褸切れ同然の服に、顔に浮かんでいる強い恐怖の色。そして切り落とされた耳を見て、思わず可哀想にと呟く

 

「あんたらはどうしたい?ここで奴隷として買われるか、それとも俺と一緒に来るか?」

 

「「「え?」」」

 

俺の言葉に呆然とした表情で返事を返すエルフ達の近くにしゃがみ込む。近づかれた事で更に怯えた色を見せるエルフの手を握り

 

「俺は君達を助けたい、それに嘘は無い。一緒に来るか、ここで奴隷として買われるのを待つか。2つに一つ、悪いがあんまり考えさせている時間は無い、今直ぐ決めてくれ」

 

眠り爆弾の炸裂する音で兵士が近寄ってくる音が聞こえている。まだ距離はあるが、正直時間的な余裕は無い

 

「た、助けてくれるんですか?」

 

「それを望むならな。どうする?」

 

リーダーっぽいエルフが一歩前に出て俺を見つめる、おびえの色こそ見えているが、その目にはまだ強い意思の光が見える

 

「貴方の奴隷になれと?」

 

「いや、そういうのじゃない。単純に奴隷とされている貴女達が不憫だと思った。それと俺達は知りたい事がある。長命なエルフなら俺達の求めている情報を持っていると思っている」

 

人間から得れる情報はもうそろそろ限界が来る。ここからは異形種を重点的に保護して情報を得たいと考えている

 

「もし求めている情報がなければ殺しますか?」

 

「いや?果物とか野菜の栽培とか手伝ってもらおうかと」

 

ピニスンだけでは限界があるだろうし、果樹園と農園の手伝いをしてもらおうかとか考えている。後アウラとマーレにエルフに必要な知識とかを教えてくれればとかは思っている

 

「それでどうする?チャンスは2度は無い、来るか、来ないか。もうこれ以上問答している時間は無いぞ」

 

外から聞こえてくる怒号にもう時間は無いと言うと、エルフの女性達は一緒に来ると返事を返す。俺はその言葉に笑みを零し

 

「じゃあ、少し怖いと思うが我慢してくれ」

 

「え?」

 

リーダーっぽいエルフの胴体を掴んで口を大きく開き、呆然としているエルフの女性を飲み込む。それを見て奴隷のエルフ達が悲鳴を上げるが

 

「どうだ?狭くないか?」

 

「だ、大丈夫です。これは一体」

 

飲み込んだわけではなく、口の中にアイテムボックスの入り口を設定し、アイテムボックスの中に格納したのだ。星の戦士の腕輪の効果で吸い込み攻撃をし、口の中にセットしたアイテムボックスに人間を直接格納すると言う計画だが、その前の実験も兼ねて奴隷市場に来たのだ。心配していたが、どうやら俺が望んでいる通りの効果が発揮されそうだ

 

「大丈夫です、飲み込まれた先は広い空間になっていますが、体内とかではありません。さ、早く」

 

リーダー格のエルフの言葉に怯えながら近寄ってきたエルフ達、だが俺はそれを手で制し

 

「悪い、今から一気に吸い込むから覚悟しててくれ」

 

アイテムボックスに普通に格納しては人食いモンスターにはならない、エルフを飲み込む瞬間を目撃させる必要があるのだ。

 

「大人しくし……も、モンスターだ!?」

 

「ど、どうしてモンスターが!?」

 

兵士がなだれ込んできて俺を見て驚愕する兵士の声が聞こえると同時に、星の戦士の腕輪の効果を使う。口を大きく開き空気を吸い込む、ゴオオオオオオッ!!と言う音を立ててエルフが俺の口の中のアイテムボックスへ吸い込まれていく

 

「「「「っきゃああああああ!?」」」」

 

まさかこんな方法と思っていなかったのか悲鳴を上げるエルフに悪いと思いながら、片っ端からエルフを吸い込む

 

「も、モンスターがエルフを食べてる!?」

 

「な、なんなんだよ!こいつは!?」

 

「落ち着け!弓兵前に出ろ!重装の騎士は弓兵を掴んで、吸い込まれるのを防げ!」

モンスターがエルフを食べていると言う悲鳴とバジウッドの怒声が聞こえる。エルフを食べる瞬間を見せるつもりだったのだが、ここでバジウッドと遭遇するのは想定外だ、サッサと撤退するとしよう。俺はにやりと笑い、1度兵士の方を向いて、空気を吸い込む。その動作を見て兵士達が後ずさった瞬間に振り返り、牢の壁に拳を叩き込み、砕けた牢の壁から外へと飛び出す

 

「シャドウデーモン」

 

『はっ!』

 

空中に現れたシャドウデーモンの手を掴んで、建物の上に跳ぶ

 

「うっし」

 

屋根の上に重い音を立てて着地し、今度は聞いていたアルシェの屋敷の方へ向かって走っていると

 

「ひい!」

 

「ははは!どうした!怖いのか!喘げと教えただろうがッ!」

 

女性の悲鳴と男の嘲笑う声が聞こえる、何だ?とそっちに視線を向けると奴隷市場で見かけた服装と良く似た服を着たエルフが3人、そのうちの1人が胸を鷲づかみにされ、苦悶の表情で呻いている。その後ではその男を凄まじい目つきで睨んでいるエルフが2人……主人と奴隷と判断し、俺は屋根の上から飛び降り、全体重を乗せた飛び蹴りを男の背中に叩き込んだ

 

「ぎぼああ」

 

奇声を上げて吹っ飛ぶ男、あの蹴りの手応えから確実に骨のいくつかはぶち折れているだろう

 

「勘違いだったら悪いね、お互い合意の上だったか?」

 

ぶんぶんと音が出そうな勢いで首を振るエルフにそりゃ良かったと返事を返す。世の中には色んな性的嗜好があるってペロロンチーノが言ってたからな、お互い合意だったらどうしようかと思ったところだ

 

「も、モンスターなのですか?」

 

「亜人だな、いま奴隷市場のエルフを全員助けてきて帝国兵に追われてる。あんたらも来るか?」

 

俺の言葉に驚いた表情をした後に頷く3人のエルフ。奴隷市場のエルフと同じように口の中に設定したアイテムボックスの中に3人を入れて、俺は再びアルシェの家に向かって走り出すのだった。……なお、カワサキは知る由も無いが、カワサキが蹴り飛ばした男は天武と言うワーカーチームのリーダーであるエルヤー・ウズルスと言う、それなりに高名な剣士だったのだが、カワサキの飛び蹴りで背骨が曲がり、蹴り飛ばされた先が不運にも鉄の柵であり、腕の腱を切った事で2度と剣を握れない身体になり、失意のまま帝国を後にすることになる……

 

「クーデリカちゃんとウレイリカちゃんかな?」

 

アルシェの家の窓をぶち破りダイナミックエントリー、派手に暴れてやれと開き直ったのでもう後先考えるとかは頭の隅に追いやった。一通り暴れた後はアルシェに聞いていた2人の姉妹の部屋に向かった

 

「も、モンスターですか?わ、私とウレイリカになんのようですか?」

 

怯えながらも会話を試みるクーデリカ。アルシェからは双子の妹と聞いていたが、妹の方がしっかりしてるなと呟く

 

「アルシェに頼まれて来たんだ。ちょいと派手で、怖いかもしれんが引越しだよ」

 

引越しすると伝えてあると聞いていたので、引越しと言うと2人の顔がほころぶ

 

「お姉様は?本当にお姉様のお友達?」

 

亜人の姿だから不安そうに尋ねてくる双子の姉妹に、アルシェから預かっていた指輪を見せる

 

「お姉さまの指輪」

 

「じゃあお姉様のお友達」

 

信用してくれた様子のクーデリカとウレイリカちゃんにちょっと怖いけど、我慢してな?と声を掛けて2人を小脇に抱え部屋を出る

 

「も、モンスター!?」

 

使用人達に姿を見せ付けるようにゆっくりと歩き、鞄を持って逃げようとしていた男性と女性に2人を見せ付けるように掲げ、大きく口を開いて2人を口の中に設定したアイテムボックスに格納する。娘の名前も呼ばず逃げようとする2人に腹が立ったので

 

「それ、美味そうだな?」

 

アルシェの両親と思われる男女が持っている装飾品や指輪を指差し、大きく口を開く、空気を吸い込む激しい音が響く、人間の力で吸い込みに耐えれる訳が無く、使用人達が持っていた黄金の像や宝石を纏めて掻っ攫い、吸い込んでアイテムボックスに格納する。これで間違いなく、俺が黄金などに惹かれて来たと思うだろう。慌てて持っていた装飾品を投げ捨てている姿を見れば間違いない。馬鹿親達が逃げるのとアルシェ達が屋敷の中に飛び込んできたのはほぼ同時だった……

 

 

 

カワサキ様の計画で私達は無事と言えるかは判らないけど、帝国領を出て王国領に足を踏み入れていた

 

「カワサキ様。人間なんかの為に無謀なことをするのはおやめになるなんし!」

 

「アインズ様にちゃんと報告しますからぁ」

 

「……はい」

 

シモベという立場らしいが、シャルティア様たちから見ても、今回のカワサキ様の動きは許容出来る物ではなかったらしく、カワサキ様を叱っている。

 

「まぁ今回のはカワサキ様が悪そうだし、シャルティア様達も怒るよねー?」

 

クレマンティーヌさんが笑いながら同意を求めてくるが、返事を返して良い物なのか悩む

 

「俺も懲りたから、もうしない。やっぱり行き当たりばったりでやるもんじゃないな」

 

「判ってくれたならいいでありんす、それとシモベとして過ぎた言葉お許しください」

 

カワサキ様の前に膝を付き謝るシャルティア様とエントマ様にカワサキ様は俺の方こそ悪かったと頭を下げる

 

「それとカワサキ様、至急お耳に入れたい事が」

 

「帝国でも言っていたな、何の話だ」

 

シャルティア様が私達を見て、首を振る。どうも私達に聞かせたい話ではないようだ

 

「少し待っててくれ、すぐに話を済ませる」

 

「い、いえ!大丈夫です!」

 

カワサキ様には返しきれない恩が出来てしまったので、今更少し待つくらいどうって事は無い。カワサキ様はすぐ戻ると言って森の中に消えていく

 

「しかし無事に終わってみると何か拍子抜けするな」

 

「まだ終わってないですよ、ヘッケラン」

 

帝国領は抜けた、王国領に入った、それだけで安心するには早いとロバーが警告する

 

「ロバーの言うとおりよ、すんなり帝国兵が引いたのも気になるし」

 

「うん、流石に少しそこは気になる」

 

正直言ってカワサキ様とクレマンティーヌさんとエントマ様とシャルティア様。怪しすぎる面子なのに、余りに簡単に引き下がったのが気になって仕方ない、どうして兵士達が引き下がったのかと話していると、シャルティア様との話が終わったのかカワサキ様が歩いてくる

 

「カルネ村に着いたら妹達と会わせる。幼い2人に森は危ないからな、もう少し待ってくれ」

 

クーデとウレイの事を考慮してくれるカワサキ様にありがとうございますと言って、私達はカルネ村に向かって歩き出した

 

「しかし、カワサキ様のことは驚いたな」

 

「そうね。あそこまでガラッと変わるなんて」

 

亜人とモンスターの姿を使い分け、帝国兵との話し合いも済ませ、そして更には亡命と言うことで王国の国境も口だけで乗り越えた。

 

(もしかすると魔法を使ったのかな)

 

そうでなければあそこまで簡単に帝国の騎士も王国の兵士との話し合いも済ませる事が出来ないと思う。もし魔法ではなく口だけで認めさせたとならばカワサキ様の知性の高さには驚かされる

 

「正直言うと、これから合流する予定の俺の友はもっと賢いし、凄いぞ?俺は普通に料理人だからな。基本的に勢い任せだ」

 

だから本当に綱渡りだったよと笑うカワサキ様の後を付いて歩いていると、遠くに村が見えた。あれが目的地のカルネ村……クーデとウレイと幸せに暮らせると思うと自然に歩幅が大きくなり、ヘッケラン達も顔に喜色を浮かべカルネ村に足を向けた

 

「おっとすいませんね、旦那方。そこで止って」

 

村の前に来たと同時に無数のゴブリンが私達を囲む。弓矢を向けられ、思わず臨戦態勢に入ろうとしたとき、リーダーらしきゴブリンの身体が大きく吹き飛んだ

 

「申し訳ありません。カワサキ様、シャルティア様。私の到着が遅れ、不愉快な出迎えとなったことをお許しください」

 

褐色の肌のメイドが深く、深く頭を下げる。その肩が震えているのを見て恐怖しているということが判った

 

「おい、ルプスレギナ。お前が任されてるんだよな?なんでこんなことになるんだ?ええっ!!」

 

シャルティア様が怒りで言葉を荒げ、ルプスレギナと呼ばれた女性に詰め寄ろうとするが

 

「到着する前に連絡すべきだったんだ。そう怒るなよ」

 

カワサキ様の言葉でもシャルティア様の怒りは収まらない様子だったが、そこに新しい人影が割り込んだ事で場の空気が変わった

 

「シャルティア、ルプスレギナに関しては後でアインズ様によって処罰を決めてもらいます。今は先にやるべきことが有るでしょう?」

 

白いドレスに身を包んだ、ねじれた角と翼を持った美しい女性。その金色の目が私達に向けられるが、その目に私達の姿が映る事は無い。まるでゴミを見るような冷たい視線に思わず後ずさる

 

「アルベドか。シャルティアに話は聞いてるよ」

 

「独断で話を進めたことは謝罪します、ですがあの場合は……」

 

「いや、構わない。シャルティアもアルベドも最善の選択をしてくれたよ」

 

「そう言っていただければ幸いです。ルプスレギナ、貴女はナザリックへ戻りなさい。シャルティア、今回はお手柄ね。引き続き、カワサキ様の護衛を務めなさい」

 

凛としたその口調と纏う雰囲気から、アルベドと呼ばれた女性がシャルティア様よりも上位の存在なのだと判った

 

「それとゴブリン達。お前達が武器を向けた相手は偉大なる御方カワサキ様よ、今回は許しますが次はありません。目障りよ、消えなさい」

 

「「「は、はいいいいっ!!!」」」

 

悲鳴を上げて消えていくゴブリン達に冷たい視線を向けていたアルベド様がカワサキ様の方に向き直り

 

「アインズ様がお待ちになっております。どうぞこちらへ……ああ、それとクレマンティーヌ、今回は良くやったわね。これからも励みなさい」

 

「あ、ありがとうございます。アルベド様」

 

ついでと言わんばかりに言われただけだが、クレマンティーヌさんが深く頭を下げる。その顔色は悪く、怯えているのが良く判る。だが怯えているというのはカワサキ様も同じで、もう1人の御方と呼ばれる人物が既にカルネ村にいると聞いて顔色を悪くする。しかし、その前に大事な話だと言ってアルベド様を止めた

 

「その前にエンリは?ヘッケラン達は移住者だからそれについての打ち合わせをしたいんだが」

 

「エンリ、こちらへ」

 

「はっはい!」

 

アルベド様に呼ばれ、金髪の少女が駆け寄ってくる。彼女がエンリさんなのだろう

 

「カワサキ様。お久しぶりです」

 

「元気そうで良かったよ」

 

言葉短くエンリさんと挨拶をかわしたカワサキ様は、漆黒の穴を作り出し、そこに手を入れる

 

「ほら、クーデリカちゃん、ウレイリカちゃん。お姉ちゃんが待ってるぞ?」

 

クーデとウレイがカワサキ様に抱き上げられ姿を見せる。2人は驚いた様子で周囲を見ていたが、私を見つけると駆け寄ってくる。笑いながら駆け寄ってきたクーデとウレイ……大事な2人の小さな妹をしっかり抱きしめるのだった

 

「じゃあ、エンリ。後は頼む、ヘッケランは軽戦士、イミーナは弓兵、ロバーデイクは神官、アルシェは魔法詠唱者だ。カルネ村を護るのに協力してくれる話になってる。後は頼むよ、じゃあアルベド行こうか?」

 

「はい」

 

アルベド様と共に村の奥の小屋に向かうカワサキ様を見送っているとエンリさんが近づいてきて

 

「ようこそ、カルネ村自治区へ、私達は新しい住民を歓迎します」

 

満面の笑みを浮かべながら両手を広げるエンリさんによろしくお願いしますと私達は深く頭を下げるのだった……

 

 

 

 

冒険者モモンとナーベと言う2人組で外の世界を冒険し、情報を集めるという計画はそれなりに進んでいたし、漆黒の剣と言う4人組とも友好的な出会いが出来、どんな道具でも使いこなせると言うンフィーレアと言う少年とも知り合いになれた。自分で思うよりも良く状況は出来ていると思っていたのに……

 

「……カワサキさん。トラブル起こさないって約束したじゃないですか。何やってるんですか!?」

 

クックマンの姿で帝国に喧嘩を売り、奴隷エルフを纏めて奪取。そして稀少なタレント持ちの魔法詠唱者を含む4人を引き込むとか、俺よりも派手に立ち回ってるじゃないですか!?と怒鳴るとカワサキさんがおずおずと手を上げて

 

「皇帝にスカウトされたが抜けてる」

 

「ああ、そうでしたねってそうじゃないですよ!?本当に何やってるんですか!?」

 

何をどうやれば皇帝にスカウトされるとか訳の判らない状態になるんですか!?と叫ぶ

 

「カワサキ様に無礼を働いた皇帝を消してきますね」

 

「ゴミ虫に相応しい死を」

 

「待て待て!アルベド!ナーベラル!ステイ!ステイッ!!」

 

話を聞いてバハルスを滅ぼすと息巻くアルベドとナーベラルを必死に止める。凄い、この短時間で胃痛がマッハだ。

 

「はー、もうやってしまったことは仕方ないですが、エルフを奪取した理由は?」

 

「長命種だからいろいろ知ってるかな?って。後、ナザリック野菜畑と果樹園の働き手」

 

むう……行き当たりばったりかと思いきや、考えている所は考えている。俺は溜息を吐きながらクレマンティーヌに

 

「今後もしカワサキさんと外に出る場合、カワサキさんが暴走しかけたら力ずくで止めることを許可しよう」

 

今回の事で確信した。カワサキさんは暴走特急だ、ナザリックのシモベではブレーキにならない。それに今回の件ではシャルティアは期待以上の働きをしてくれたので良く頑張ってくれたと褒章を出すべきだろう

 

「アインズ様、それは流石に行き過ぎて「ではアルベド、お前は同じ立場でなら止められるか?」

 

俺の言葉に言葉に詰まるアルベド。これはナザリックのシモベでは無理なので、クレマンティーヌに任せるしかないだろう

 

「そういう訳だ。クレマンティーヌ、頼むぞ」

 

「は、はい」

 

引き攣った顔で返事を返すクレマンティーヌ。だけどリリオットではストッパーになりえないし、クレマンティーヌしか頼めないだろう

 

「それで、フォーサイトって言うのはどうなんですか?」

 

「基本的に善人。カルネ村にも馴染めると思うし、自衛手段の強化になると思う。ゴブリンがいるのは予想外だったけど」

 

それは俺も予想外でしたが、確かに明らかに人外よりも人間がいればいい事も有るだろうと少し不安には思うが、無理に納得することにする

 

「エルフの奴隷は?」

 

「とりあえずアイテムボックスに格納してる。なんかある程度時間が経つと仮死状態になるっぽい」

 

アイテムボックスに人間を入れると仮死状態になる。なんか全然嬉しくない追加情報が増えた……

 

「とりあえずカワサキさんは派手に動くの禁止。ある程度したらエ・ランテルで店を持つ準備をしますから、それで良いですね?」

 

カワサキさんを自由にする危険性は理解したので、もう王国で頼んで店を持たせてしまおう。そのほうがよっぽど安心だ。暫くカワサキさんの得た情報と俺の得た情報の交換をし、俺もカワサキさんも落ち着いた所で、アルベドに言われていた大事な報告を聞こうと、アルベドを促す

 

「シャルティアが13英雄を知るツアーと言う存在に遭遇、交渉の後3日後の深夜にカルネ村にて話し合いの場を設ける事となりました。なお既に1日経過しているので、明後日の深夜になります」

 

なんでカワサキさんだけじゃなくて、シャルティアも問題を起こしているんだよ!?しかしこれは渡りに舟かもしれない。漆黒の剣のぺテル、ルクルット、ダイン、ニニャ、ンフィーレアはカルネ村が心配と言っていたので、計画を変えて貰って薬草集めの出発する日をずらせばいい

 

(いや、そっちのほうが好都合か?)

 

元々モモンの売名をするために森の賢王を探すのと、慈愛に満ちた冒険者と言うことでカルネ村の復興の手伝いというのも考えていた。ここは人情に訴えて、出発する日をずらして貰おう

 

「アルベド、1度ナザリックに戻りパンドラズ・アクターに伝えてくれ、ギルド内に保管されているワールドアイテムを全て使用可能にせよとな」

 

「は……はっ?」

 

「相手の手持ちが判らない。話し合いの場で圧力を掛けようと思ったら、上から下まで全部ワールドアイテムで揃えるくらいで良いだろう。話し合いは相手よりも優位に立つことからだ」

 

こっちがプレイヤーと判っていて話し合いを求める。その段階で向こうはプレイヤーにある程度の対応策があると見て間違い無い。ならば、こっちもフル装備で立ち向かってやろうじゃないか

 

「カワサキさんも当然フル装備をしてくださいね?」

 

「あいよっ、どうもこの世界に来てから最初の大きな山場みたいだな」

 

こりゃ気合を入れないと行かんなあっとぼやくカワサキさん。相手がどう出てくるか判らないが、敵対するにしろ、友好な関係を築くにしろ最初が肝心だ

 

「ナーベ、悪いがぺテル達を呼んできてくれ。計画の変更だ」

 

「判りました、モモンさーん」

 

頭を下げて出て行くナーベラルを見送っているとカワサキさんが苦笑しながら

 

「エントマとシャルティアも同じ風になってた。カワサキさーんって」

 

そう笑うカワサキさんに釣られて笑ってしまったが、俺は咳払いをして

 

「カワサキさんは少し反省してください。明日昼間に森に入るので、戻ってくる時に村人と俺達に振舞う食事をお願いしますよ?」

 

あいよーっと返事を返すカワサキさん。悪い人じゃないんだけど、生粋のトラブルメイカー過ぎる事が判り、俺は深く、深ーく溜息を吐くのだった……

 

「お疲れ様でした」

 

疲れたように言うクレマンティーヌに少しだけ、共感してしまったのはきっと同じ立場だからだろうと思ってしまうのだった……

 

 

メニュー30 お好み焼きへ続く

 

 




駆け足気味でした、後原作キャラのエルヤーが退場なのは嫌いだからです。早過ぎないとか言う突っ込みは聞きませんのであしからず

1日ランテルに帰るのが遅れるのは、クレマンがいないので、少し早めにカジットに動いてもらうつもりだからだったりします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない

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