メニュー30 お好み焼き
「あのさ、カワサキ。あの冒険者の1人女の子だよ?ニニャって子」
「マジでか……」
村人全員とモモンガさんと冒険者組みに振舞う料理の準備をしているとクレマンティーヌがそう呟く。男装って奴か……
「うん。服を何枚か着込んで誤魔化してるみたいだけど……線が細いし、後歩き方の癖かな?」
やっぱり戦士って言うのは違うんだなあ。俺はそういうのは全然判らん、目が燻ってる奴とかは判るけど
「ほい、シャルティア、ルプスレギナ」
アイテムボックスからキャベツをどんどん取り出し、ルプスレギナには罰と言う事で料理助手をやってもらう事にした
「シャルティアは休んでいても良いんだぞ?」
「いえ!カワサキ様の護衛はナザリックに戻るまででありんす!だからお手伝いさせてもらうなんし!」
ぱぁっと華の咲くような顔で笑うシャルティアにありがとなと言って頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「カワサキ様、野菜ばっかりですね」
「黙りなんしッ!ルプスレギナ、特にお前は!」
キャベツを運んでいるルプスレギナにシャルティアが黙りなんしと一喝する。失態とか失敗とかそんなのを気にしているのは判るが、ルプスレギナは駄メイドもしくは駄犬だから仕方ない。むしろ、怒ってもやや喜ぶと言う習性があるので、怒る事に関しては何の意味も無い
「うーし、こんなもんだな」
キャベツ・長芋・薄力粉・ベーキングパウダー。あと豚肉、烏賊、鰹節。ケチャップとマヨネーズにソースと青海苔……材料は完璧に揃った。最後に設置した巨大鉄板も見てよしよしと頷く
「ルプスレギナは薪割っててくれ、シャルティアはこれ」
ルプスレギナに料理をさせると、俺の調理指導があっても何かをやらかしそうなので薪割りをさせる。薪の山を指差して、斧を手渡す。手伝いで村人に配る分を激辛とかにされても困るし
「判りました。お任せください」
斧ではなく手刀で薪を割ってるルプスレギナ。なぜそうも予想の斜め上を行くのか?NPCでもっとも謎と言うか理解出来ないのが俺にとってのルプスレギナだな……シャルティアには子供用の包丁を渡し、クレマンティーヌはたまに手伝わせるので自前の包丁を手にしている
「じゃあキャベツを荒めの微塵切りにしてくれ、こんな風に」
シャルティアはあんまり賢くないと言うが、実際はやるべき事を見せてやれば、8割程度模倣してやってのける。クレマンティーヌも同様で考えて料理とかは苦手だが、野菜の切り方とかを見せれば食材を切り分けるとかは難なくこなしてくれる。荒めに切ったキャベツの微塵切りを2人に見せると2人は猫の手ではないので、そこだけ心配にさせるが、手際よくキャベツを切り始める。
「薪を割り終えたら、火を起こして鉄板を温めておいてくれ」
判りましたと元気よく返事を返すルプスレギナ。返事だけは良いんだよな、返事だけは……まぁそれも個性として受け入れるべきなんだろうなと思いながら、俺は長芋の皮を剥き、摩り下ろす準備を始めるのだった……
ゆっくりと目を開き、ばっと飛び起き、腰に手を伸ばしかけた所で思い出した
「そうか、カルネ村か」
カワサキ様に連れられやってきた王国領の外れの村……カルネ。そこの村長だと言うエンリと言う少女に家を与えられた事まで思い出した
「高待遇過ぎるよなあ」
俺とイミーナとロバー、それとアルシェと2人の妹。それで1つの家を与えられると予想していたのだが、予想に反して俺とイミーナが結婚を考えているので2人で1つの家、アルシェは2人の妹の事もあり、少し大きめの家。ロバーもまた新築の家が与えられた
「カルネ村はアインズ様とカワサキ様に救われた村……か」
カワサキ様の友と言う魔法詠唱者に救われたカルネ村。何もかも終わりかけた時にやってきた王国の兵士に良い感情を持っておらず、アインズ様とカワサキ様の2人を神のように扱っているらしい、事実教会には漆黒のローブ姿のエルダーリッチの像とカワサキ様の亜人としての像が飾られていた
(まぁここにいれば安全か)
王国領だが外れなので滅多に王国の人間が来る事も無い。しかもカルネ村自治区と言っていたので既に自分達は王国民ではないと言う事を明言している。怒涛の勢いで話が動いていて正直混乱しているが、自分達にとって悪い方向に動いているのではないので受け入れるしかないと判断し、寝室を出る
「態々ありがとうございます」
「良いのよ、気にしないで。旦那さんと仲良くね」
俺を見てにこりと笑った中年のいかにも農村の女性が笑い、俺達の家を出て行く
「なんだって?」
「カワサキ様が広場で料理してるから、食べに行くと良いって」
……なにやってるんだ?神様なんだよな?俺が思った事はイミーナも感じていたのか、なんとも言えない顔をしている
「とりあえず顔を洗って、着替えて準備してくる」
「あいよ」
既に普段の服装に着替えているイミーナに欠伸をしながら返事を返す。宿暮らしからいきなりの家持ち、それに住人は俺達に親切と来た
(あの遺跡に感謝だな)
イミーナとアルシェには悪いが、あの遺跡で罠にかかった。そこから俺達の運命が良い方向に流れているような気がして、最後に遺跡の調査を依頼してきた商人と最後に発動した罠に俺は密かに感謝するのだった……
「イミーナ、ヘッケラン、おはようございます」
「おはよう」
「「おはよー!」」
身支度を整えて部屋を出るとロバーとアルシェ達の姿があった。俺は少し驚きながらもおはようと返事を返し
「俺を待っていたのか?」
「ええ、流石に新入りですし……ここは全員で動くほうが良いかと思いまして」
俺の質問に答えてくれたロバーの言葉にそれもそうだなと呟く、帝国から逃げてきたと言う事は住人も知っており、大変だったなとか、もう大丈夫とか親身に声を掛けてくれたのは記憶に新しい
「それとカワサキ様にも挨拶をちゃんとするべきだと思うから」
「あいさつするー♪モンスターのおじちゃんにおはよー言うの」
「モンスターおじちゃんふかふかなんだよ」
子供って怖い物知らずで良いなと思わず心の中で呟いた。アルシェは困ったような顔をして
「モンスターじゃなくて、カワサキ様」
モンスターって呼んだら駄目だよと2人の妹に注意している。帝国にいた時の悲壮そうな顔ではなく、穏やかな顔をしているのを見て本当に良かったと思う
「じゃあ行きましょう。村の広場って言ってたわよ」
イミーナの言葉に頷き、広場に向かうのだが広場に近づくほどに良い匂いが漂ってくる
「腹減ったなあ……」
自然とそう呟く、何かが焦げる香ばしい香り。その音と匂いだけで腹が空いて来る
「本当ね。何を作ってるのかしら」
カワサキ様は俺達が見た事も無い料理を作る。今回もきっとそうだろう。一体何を作ってくれるのか、そんな事を考えながら広場に向かう
「よっと」
巨大な鉄板を熱してその上で何かを作っているカワサキ様が視界に飛び込んでくる。綺麗な丸に焼き上げられたそれを紙皿の上に乗せ、ソースを塗って茶色い何かをその上にたっぷり振りかけている。
「上がりだ、配ってやってくれ」
「はーい、カワサキ様のお慈悲の時間っすよー」
来た時にも見た褐色のメイドが両手にお盆を持って、その上に料理を乗せて村人に配っている。そんな様子を見て渋い顔をしているカワサキ様を見ていると、その視線がこっちに向けられ、おはようと気軽く挨拶してくるが、シャルティア様の視線が恐ろしくておはようございますと返事を返す
「飯食うか?食うなら焼くぞ」
「ご飯食べるー♪」
「ご飯ご飯♪」
俺が返事を返すよりも先にアルシェの妹が返事を返してしまい、しまったと思ったのだが
「よしよし、直ぐ用意してやるからな」
怒らずに笑顔で調理を始めるカワサキ様に良かったと呟く。穏やかな人で本当に良かった……カワサキ様は野菜が混ぜ込まれている生地を鉄板の上に広げ、その上に白い何かを並べる
「カワサキさまー、カワサキさまー、何作ってるのー?」
「おいしーのー?」
「お好み焼きって言うんだ。これは美味いぞー」
アルシェの妹の自由すぎる行動に俺達は心臓がバクバクしている…いつ「不敬!」と言ってシャルティア様達が怒るか判らないから。だけどカワサキ様は上機嫌で
「子供はこれくらい明るくないと駄目だな。やっぱり」
カワサキ様が子供好きで本当に良かった。もしそうでなければ首が飛んでいたかもしれないと冷や汗を流す
「カワサキー、もう少しキャベツ切る?」
「もう直ぐモモン達が戻るかもしれないからなー準備しておいてくれ」
クレマンティーヌと話をしながらも手早く調理を進めるカワサキ様。生地がある程度焼けたら隣で炒めていた肉を生地の上に乗せ、その上に卵を落とし
「ほっと!」
「「おおー♪」」
小さな短剣みたいので生地を鮮やかに引っくり返し蓋をする。暫くして蓋を開けたカワサキ様はピンク色のソースを生地の上に塗り、その上に先ほども見た茶色い紙みたいのを振りかけ
「ヘッケラン、ロバー、出来たぞ。取りに来い」
俺とロバーを呼ぶので慌ててカワサキ様の近くに駆け寄り、俺とロバーで全員分のお好み焼きと言う料理を受け取るのだが、熱で揺らめく茶色い何かと鉄板の上で焼ける匂いと音にもうかなり空腹がやばい段階になっていたので早足で戻っていると
「熱いから良く冷まして食べるんだぞ?やけどするからな」
食べる時の注意をしてくれたカワサキ様にありがとうございますと返事を返し、広場に設置されていた椅子と机で座っているイミーナ達の元に戻る。さっきまでカワサキ様の近くで騒いでいた姉妹はアルシェの右隣と左隣に座り満面の笑みを浮かべている。食べる相手の体の大きさまで考慮してくれているので本当に優しい人だと判る
「「「「いただきます」」」」
広場の机と椅子でそのままお好み焼きとやらを食べる事にする。机の上にフォークとナイフが置かれていたので、それを借りて切り分けると、湯気が立ち込める。カワサキ様の言う通りかなり熱そうだ、良く息を吹きかけて冷ましてから頬張ったのだが
「はふ!?あふっ!?」
全然冷めてなくてあふいっと声を出すと、イミーナ達は小さく切り分けて、息を吹いて冷ましてから頬張る
「ほお、中に刻んだ野菜が入っているのですね。食感がとても面白いです」
「上に塗ってあるソースも美味しいわね。ちょっと酸っぱくて癖があるけど」
俺が熱いと悶えているのに冷静に味の感想を口にしているロバーとイミーナ。俺は熱くて味どころじゃない。殆ど味も判らないまま飲み込み、今度はさっきと同じ失敗をしないようにと小さく切り分け、冷ましてから頬張る
「おお、美味いな」
ロバーの言うとおり生地に練りこまれている野菜が良い、ざく切りなので焼いてあるのに食感が損なわれていない。生地もふっくらとして柔らかく、上質なパンを食べているような感じだ
(卵まで使ってるしなあ)
卵はかなり稀少品なのだが、それが1つに付き1個使われている。完全に火が通ってなくて、少し半熟で生地にトロリとした黄身が掛かるのが良い
(肉もうめー)
カリッカリに焼かれた肉は薄切りだが、それが歯応えをよくさせているし、生地の上に並べられていた白い何かはコリコリとした歯応えが実に良い。これだけ美味いとエールが欲しくなるが、昼間から飲んでいたらイミーナに叱られるから我慢だな
「見た目はこんなのでお腹一杯になるのかなって思ったけど、思ったよりお腹に溜まるわね」
「そうですね。野菜と小麦粉ですかね?それで作れるのだから貧しい農村でも作れる料理。これは良い物ですね」
味と材料の手軽さから、この料理を広めればどれだけの農村を救えるかと言う事を呟いているロバー。確かに肉や卵の入手は難しくても、それ以外の材料は手に入る。そう考えればこれは農村などに適した料理なのかもしれない
「クーデ、ウレイ、熱いから良く冷ましてね?」
「「はーい」」
アルシェが2人の妹の分を小さく切り分け、良く冷まして食べてねと声を掛ける。それを穏やかな気持ちで見つめていると重い足音が周囲に響き、森から巨大な魔獣に跨った漆黒の全身甲冑の戦士が姿を見せ、思わず絶句しているとカワサキ様が
「おかえりモモンさん。それどうしたんだ?」
「いえ、なんか私に従うというので連れて来たんです」
「拙者ハムスケでござる」
喋る魔獣に驚く、それは知性の高さを示していたからだ。しかもあの巨体、俺達4人でも苦戦する相手だと判る
「カワサキさん、これ何に見えますか?」
「凄くジャンガリアンだな」
馬鹿でかい獣を前にのほほんと話をしている漆黒の戦士とカワサキ様を見て、もうあんまり物事を深く考えるのは止めようと俺は決めるのだった……
森の賢王というモンスターを倒し、モモンという冒険者に箔をつける計画だったのだが、その森の賢王はでっかいハムスターだった
「殿ー、このお方は?」
「黙れ下等生物、このお方はモモンさーんの朋友である」
「なんと、それは失礼したでござる。拙者ハムスケと申します」
「これはご丁寧にどうも、カワサキだ」
ハムスケと握手を交わしているカワサキさんにどんな反応をすれば良いのか、そしてどんな顔をすればいいのか判らなかった
「モモンさんの友人だけあって、豪胆な方ですね」
「全くであるな」
はははっと苦笑する漆黒の剣のぺテルさん達。実際カワサキさんは滅多な事では動揺しないと思うので、豪胆と言うのは間違いではないと思うけど……実際少し天然が入っているような気がしなくも無い
「お疲れ、ぺテルとニニャと……ダインと……金髪」
「なんで俺だけ名前を覚えてないの!?」
カワサキさんは冗談だよと笑い、ルクルットと名前を呼びなおし、その後で薬草の確認をしているンフィーレアさんにも声を掛ける
「ンフィーレアもお疲れ様だな。大丈夫だったか?」
「っは、はい。モモンさんやぺテルさんたちのおかげで無事です」
そっかそっかとカワサキさんは笑うが、今回の事で怪我や負傷する可能性は正直0だった。俺とナーベラルがいれば、どれほどのモンスターの大群でもなんら問題は無い
「まぁ、まずは昼飯だ。今用意するから待っててくれよ」
広場にある椅子と机、これはルプスレギナが用意した物だ。一応それなりにはカルネ村の住人の事を考えてくれているようだ。ハムスケは森の中で食事にするので側を離れると言って、森の中に消えて行き、俺達は広場に設置された木の机と椅子に腰掛けてカワサキさんの料理が完成するまで雑談をすることになった
「しかしモモンさんもカワサキ「さんをつけろ、ミドリムシ」カワサキ……さんもモモンさんの友人と言う事は実力者なのでしょうか」
ナーベの言葉にさん付けをするぺテル…ナーベラルの視線に完全に怯えている
「カワサキさんは料理人ですから、実際そこまで戦闘力がある訳ではないですよ?彼は料理に魔法を付与できる職業なんです」
「料理に魔法ですか?それは一体どんな効力が?」
魔法詠唱者であるニニャが興味深そうに尋ねてくる。秘密にするような物でもないので教える事にする
「筋力強化とか瞬発力強化という感じの強化魔法と同じ効果を料理に付与できるんです」
「食事をするだけでそれだけの強化を……凄いですね」
「南方には凄い技術があるんであるな」
ユグドラシルでも非常に貴重で珍しいスキルだ。恐らくこの世界にはきっと似た様な物が無いのだろう、ぺテルさん達の反応を見れば判る
「まぁ、かなり稀少なスキルです。恐らく実用レベルまで鍛えたのはカワサキさんだけですよ」
実際クックマンをあそこまで育てたのはカワサキさん位だろうし
「なるほど、モモンさんは剣の道、カワサキさんは料理の道で切磋琢磨していたのですね」
「まぁ、そうなりますね。後とても仲の良い友人でもありますよ」
俺1人ではここまで余裕を持って対応できた自信が無い。本当にカワサキさんがいてくれて良かったと思っている
「なぁなぁ、モモンさん。カワサキさんの近くにいる2人は?どういう関係?」
クレマンティーヌとシャルティアの事を聞いてくるルクルットさんに俺は笑いながら
「カワサキさんの護衛ですよ。クレマンティーヌはこっちに来てからスカウトした軽戦士でプラチナ相当、隣のシャルティアは私の友人の娘で信仰系魔法詠唱者です。ただ……槍使いのクレリックなので、通常の信仰系は少し苦手としてますね。実力を言えば、ナーベよりも遥かに上ですよ。いや、もしかすると近接では私よりも上かもしれないですね」
ナーベや俺よりも強いと言うとぺテルさん達の顔色がさっと変わり、ナーベラルの追撃で
「あと、非常に気性が荒い方です。特にモモンさーん、とカワサキさーんに失礼をすると烈火の如く怒るので失礼の無いように」
ナーベラルが敬語で対応するのを聞いて脅しなどではなく本当の事だと言うのに信憑性が増した
「わ、判った。お、教えてくれてありがとう。ナーベちゃん」
ルクルットに返事を返さず、カワサキさんの助手をしているルプスレギナに視線を向けている。その姿を見てナーベラルではなく、ナーベとして振舞っているのがストレスになっているのだろうか?とか思ってしまった。俺もNPCに尊敬されるアインズでいようと思った時に感じたものをナーベラルも感じているのだろうか?そんなことを考えているとカワサキさんが器用に7人分の皿を両手で運んで来た
「はいよ、お待たせ。お好み焼きだ、熱いから気をつけて食べてくれよ」
俺達の前に並べられたのは30Cmほどの円形に焼かれた何か、ピンク色のソースとその上で踊っている茶色の紙見たいのに目を惹かれる
「えっと、カワサキさん…この茶色なのはなんなのでしょうか?」
「鰹節、魚を干して作るもんだよ。毒とかは無いから安心してくれ。絶対美味いって言うからさ」
にかっと人の良い顔で笑うカワサキさんにぺテルさんはそうですかと小さく呟く。見たことの無い料理だから警戒心があるのだろうか?それならばと俺はへルムを脱いで机の上に置く。人化していてもステータスはそのままで、しかもオーバーロードの時は装備出来なかった剣も装備出来た。人化のメリットは食事が出来るだけではなく、戦闘に関しても明確なメリットがあることが判ったが、今は必要なのはそれではなくて、食事が出来ると言う事だ
「「いただきます」」
ナーベラルと手を合わせいただきますと言って、俺にだけ差し出された箸でお好み焼きを切る。すると切った場所から湯気が出てきて、先ほど聞こえていたソースの焦げる香ばしい香りと目の前で揺れる鰹節の動きに、ごくりと喉がなる。息を吹きかけて冷ましてから頬張る
「あふ……あちち……うん。美味しいですよ、カワサキさん」
大分息を吹きかけたつもりだったが、それでも熱い。だがその熱さの後に口一杯に甘酸っぱいと言えば良いのだろうか?独特な風味を持つソースの味が広がる
「はい、あふいでひゅが……凄く美味しいです」
ふっくらとした生地の中には荒くざく切りにされた野菜……多分キャベツがたっぷりと練り込まれていて、ふんわりとした食感に加え、歯応えのある食感が混じってくる。生地とソースだけでもかなり美味いのに、更に生地の上に乗せられた豚肉や卵の味も加わってくる
「お好み焼きって言うのは好きな具を載せて焼くからお好み焼きって言うんだぜ。今日はまあ準備が出来てないから豚玉だけど、そんでも美味いだろ?」
こっちを見てそう笑うカワサキさんに美味いですと返事を返したいのだが、熱いのと食事を進めたい気持ちで声にならない
(う、美味い……本当にカワサキさんは凄い)
カリカリに焼かれた豚肉と、烏賊のコリコリとした食感も実にいい。それに卵、俺の奴だけは黄金の鶏の卵なのだが、濃厚な黄身がトロリと生地に混ざり、口の中で豚肉の脂と混じって言葉にならない深い味わいを俺に味わわせてくれた
「本当だ。凄く美味しいです」
「こんなの食べたこと無いな~南方の料理なんですか?カワサキさん」
「野菜を生地に使うとは、面白いアイデアであるな!これなら簡単に作れるのである」
「あふあふう……ふっふ……お、美味しいです」
俺とナーベラルが食べたことでぺテルさん達も食べ始め、美味しい、美味しいという声が周囲に響く。笑顔に満ちている幸せな光景なのに、俺は心の中で少し暗い気持ちになっていた。料理が不味いとか、ぺテルさん達が悪いという訳ではない…明日の深夜、カルネ村に訪れると言うプレイヤーを知る何者かとの会談……それがもし敵対する相手だったら?13英雄ではなく八欲王の系譜だったら?もしカワサキさんに危害を加えられたら?……そうなったら俺はきっと冷静ではいられなくなるだろう。激情に囚われてしまうかもしれない
「モモンさん。どうかしたか?」
「あ、いえ、なんでもないんです。それより、もう1枚お願いできますか?」
やっぱりまだ食事を味わうと言う事に馴れてなくて、いつの間にか食べ終わってしまっていたお好み焼き。もっと味わって食べたかったのに……考え事をしている間に全部食べてしまったようだ。
「ふーふー」
ナーベラルはかなり猫舌なのか、何度も息を吹きかけて、良く冷ましてから食べているのでまだ半分も減ってない。ンフィーレアさんとニニャも同様だ。ルクルットさんは食べ終え休んでいる
「はいよ。他にお代わりしたい人は?」
「あ、あのお願いします」
「我輩もである!これほどの美食初めてである」
カワサキさんの問いかけにぺテルさんとダインさんが手を上げる。カワサキさんはそんな2人を見て、穏やかに笑いながら調理場に戻っていく……この平和な時間を壊そうとする相手が来ない事を、俺は心から祈るのだった……この世界だから出来た事がある。この世界だからこんなにも幸せなのだ。だから俺に、俺達にこの世界を憎ませないで欲しい……俺は心からそう思うのだった……
「急に呼び出してどうしたんだい?ツアー」
「すまないね、リグリット。緊急事態なんだ」
巨大なドラゴンに親しげに話しかける老婆「リグリット」その老婆に返事を返したツアーと呼ばれた白銀の竜は、壊れた天上から覗かせる満月を見て
「長い月日が経った……僕は先日バハルス帝国付近で従属神に会ったよ」
ツアーの言葉にリグリットの眉が吊り上がる。その一言で何が起きているのか理解したのだ
「100年の揺り返しか……今度のぷれいやーは?」
この老婆もまた13英雄として戦った凄腕の魔法詠唱者。八欲王に属するぷれいやーなのか?とツアーに問いかける
「判らない。ただ八欲王と自分が仕えるぷれいやーを一緒にするなと、吸血鬼の少女に激怒されたよ」
「それで呼んだのかい?確かに私は死霊使いだけど、出来る事と出来ない事があるよ」
「違う、違うんだリグリット。明日の深夜、カルネ村でぷれいやーと話し合う機会を作った。その席に同席してはくれないか?」
「やれやれ……老い先短い老婆の道を更に縮める事になるね」
「すまない、だが友好的なぷれいやーの可能性もあるから」
「そうだと良いねえ……」
モモンガが不安に思うのと同じくツアーもまた強い不安を抱いていた。お互いに友好的な相手だと良いなと願いながら、会談の日である3日後の深夜を迎えるのだった……
下拵え 会談へ続く
ここら辺から原作の流れを変えていく予定です。次回は久しぶりにリリオットを出していく予定です、劇場版でシャルティアとツアーのバトルがあったらしいので、そこから変えてみようかなっと、原作のカジットの辺りも流れは大きく変わる予定です。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない