生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー31 あったかおでん

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「モモン君、君のおかげで最悪の状況を免れる事が出来た。ありがとう」

 

エ・ランテルの冒険者組合の会長、プルトン・アインザックが握手を求めてくるので、その手を握り返しながら

 

「そう言って貰えれば嬉しいです。最悪の状況の前に間に合ってよかった」

 

デスナイトとスケリトルドラゴンの頭部、それと死体の中で何人かを首謀者として持ち帰ったのだが、それを見せた途端に俺とナーベラルの扱いが変わり、ここまで丁寧に案内された

 

「いや、君が首謀者を倒してくれたから何とかなったのだ。まさかスケリトルドラゴンや、あのアンデッドの騎士を召喚するほどの相手が潜んでいるなんて思ってもみなかった」

 

俺としてはたいした敵ではないのだが、それでも俺とナーベラルの評価を上げる役に立ってくれたのだ。もっと強いアンデッドの方が良いかと思っていたが、これくらいで丁度良かったようだ

 

「君の友人と言うカワサキという者も良く頑張ってくれたと聞いてる。なんでも円盤を投げると炎を吹き出すとか……もし可能なら、彼にも冒険者として登録して貰いたい所だよ」

 

……カワサキさん。大人しくしてるって言ったじゃないですか。なんでそんなめちゃくちゃ派手な事をしているんですか?

 

「今回の事で君の冒険者ランクについては組合での議題に出させてもらうよ。カワサキ君は冒険者じゃないのが実に残念だ。自分は料理人だから、その分はモモン君に回してくれと言っていたよ」

 

アンデッドの襲撃を退けてまだ数時間と言うのに、カワサキさんは何を考えて動き回っていることやら……

 

(しかし1つ気がかりだな)

 

墓の中にある神殿。その中にアンデッドを呼び出した首謀者らしき一団はいた。と言うか……既に全員死んでいた。アンデッドに食い殺されたのではなく、生命力と魔力を全て吸い取られ死んでいた。魔法陣に縛られ、血涙を流し、泡を吹きながら死んでいたのだ。それはどう見ても変死としか言いようが無い。もしくは儀式の生贄にされたのだろうか……砕けた丸い宝玉の事もかなり気になる

 

「それに君の登録魔獣。森の賢王の事も君とナーベ君の冒険者ランクに十分に査定させてもらうよ」

 

さっきからこんな話ばっかりしているな……そんなに俺とナーベを足止めしたい……

 

(あ、そうか)

 

俺もカワサキさんも黒髪黒目だ。旅をするための身分証明として冒険者に登録したと言う事になっているので、別の土地に行かれては困るとでも思っているのだろうと当りをつける。逆を言えば、今回の戦績によって改めて評価されたと思うべきだな

 

「組合長、カワサキと名乗る南方の男……っ失礼しました」

 

扉が開き、姿を見せた神経質そうな男がヘルムを外した俺を見て深く頭を下げる。黒髪黒目と言う事で南方と言う設定にしたが、そんなに南方の旅人と言うのは忌み嫌われるものなのだろうか

 

(ナーベラル、動くな。命令だ)

 

俺とカワサキさんを明らかに下に見ている男に凄まじい殺気を放つナーベラルに動くなと命令する。まずはカワサキさんの事を聞かなければ

 

「私の友人がどうかしましたか?」

 

「あ、いえ、その……」

 

アインザックを見る男。俺に話して良いか悩んでいると言う感じだ

 

「カワサキ君とモモン君は友人関係だ。それに今回の事件の功労者に話を聞く資格が無いとでも言うのかね?」

 

穏やかな口調だが有無を言わさない迫力を持つアインザック。人の上に立つ人間はやはりオーラと言うか、風格と言う物を持っているのかもしれない

 

「裏路地にバハルス帝国の兵士の遺体を見つけ、彼らが今回の事件の犯人だろうと推測し処理しようとしていたのですが、カワサキ氏と共に居たクレマンティーヌと言う女性がそいつの鎧を剥がすと、そこにはアンデッドの攻撃とは明らかに違う毒殺の痕跡がありました」

 

その報告に俺とアインザックの顔色が変わる。俺は今回の事件に陰にいるかもしれない八欲王のシモベのことを考え、アインザックは

 

「それで彼らを拘束でもしたのかね!?今回の功労者だぞ!」

 

ナーベラルも俺の命令があるから動かないが、凄まじい殺気を放っている。ナーベラルの殺気とアインザックの怒声に報告に来た職員は顔を青褪めさせながらも

 

「あ、い、いえ違います!今回の事件の事はエ・ランテルの中で解決出来ない可能性を考え、丁度ガゼフ戦士長がエ・ランテルに居られるので、ご報告したいと思うのですがどうでしょうか」

 

戦士長殿が滞在している?流石に何故と言う疑惑が浮かんだが、もしかしたらカワサキさんが店を構える件についての話し合いに来てくれていたのか?それとも何か動く件があったのだろうか?

 

「モモン君…すまないが、職員と話したい事がある。少し待っていてくれるか?」

 

「かまいませんよ」

 

シャドウデーモンやラビッツイヤーで話を聞けるので場所自体は何の問題も無い。アインザックと職員を見送り、椅子に腰掛ける

 

「アインズ様……あのミドリムシ共を排除しても宜しいのではないでしょうか?」

 

「ナーベ、今の私はモモンだ。それに人間も利用する価値がある。余り決断を急ぐな」

 

俺やカワサキさんの事を考えてくれているのは嬉しいが、もう少し温厚で平和な方向で考えて欲しい

 

「シャドウデーモン、アルベドとデミウルゴスに伝令を頼む。エ・ランテル周辺に警戒網を張れ。怪しい人物がいれば追跡に特化したシモベを放てとな」

 

『畏まりました』

 

今回の一件…どうも単なるアンデッドの大量発生で終わりそうに無い。俺は背もたれに背中を預けながら、話題を変えようと思いナーベラルに話しかける

 

「ナーベ、きっとカワサキさんが何か料理を作ってくれると思うのだが、楽しみではないのか?」

 

ナーベラルは俺の問いかけにきょとんとした表情をした後、おずおずと

 

「そ、その…私も口にして宜しいのでしょうか?」

 

当たり前だろう?と笑いはしたが、カワサキさんの言っていた、シモベとNPCが食事を出す度に謙遜すると言うのを初めて目の当たりにして、カワサキさんが複雑な表情をする理由が判ったような気がしたのだった……

 

 

 

 

エ・ランテルの広場の一部を借りて料理を作っているのだが、材料を切るのを手伝ってくれていたクレマンティーヌが小声でごめんと呟く

 

「なに、大した問題じゃないさ」

 

アンデッドの襲撃を退け、やっと一息ついた頃。裏路地からバハルス帝国の紋章を身に付けた遺体が3体発見された。こいつらが犯人だと言う話になっていたのだが、そこでクレマンティーヌが話に割り込んだのだ。止めようとする冒険者の腕を振り払い、鎧の一部を破壊した。そこには3つに並んだ赤紫色の傷跡があった

 

「毒殺だと思うよ?これ。しかもバハルス帝国の人間じゃない可能性もあるんじゃない?」

 

確かに正論だったが状況が悪かった。俺とクレマンティーヌも容疑者として確保されかけたが、一緒に戦ってくれた冒険者が違うと証言してくれて本当に助かった

 

「ちょっとさ、見慣れすぎた流れだったからさ……」

 

ここまで聞けば判る。恐らく漆黒聖典などのスレイン法国の暗部の仕業なのだろうが、憎しみに満ちた表情を見て、何か因縁があるのだろうと判断し

 

「後で詳しく聞くよ。今は後にしてくれ」

 

うんっと小さく返事を返すクレマンティーヌ。仮に今聞いても、俺もモモンガさんも暫くは動けない。だから俺達以外に動いてもらおう

 

(シャドウデーモン、クレマンティーヌに話を聞いて、周囲の捜索に出てくれ。範囲は周囲3キロ)

 

隠密性に特化したシャドウデーモンに周囲の捜索を頼む。発見できる可能性は低いが、それでも見つける事が出来れば、そこからスレイン法国の影にいる八欲王を見つける事が出来るかもしれない。クレマンティーヌが小声でシャドウデーモンと話しているのを横目に見ながら巨大な鍋の中にお玉を入れて味見をする

 

(ん、まずまず)

 

皆消耗しきっているので、温かく、そして具も沢山のおでんを作ることにした。あっさりの鰹と昆布だしではなく、鶏がら出汁のこってりとした味付けだ。火が通りにくい大根を鍋の中に大量に投入し、その上に鶏肉やつくね、牛筋にはんぺんと言った具材をいれ、別の鍋に茹で卵と蒟蒻を入れて、1度蓋をしていると、ンフィーレアとその祖母が肩を落としてやってくる

 

「どうかしたのか?」

 

「あ、カワサキさん……その…ちょっと不味いことになっちゃって……」

 

不味い事?煮込んでいる間はやる事も無いのでどうかしたのか?と尋ねると祖母が口を開いた

 

「今回の事件の事で、バレアレ薬品からポーションを大量に提供したのじゃが……ポーションのレシピを纏めて盗まれてしまってな……」

 

「それ不味いじゃん!大丈夫なの?」

 

シャドウデーモンとの話を終えたクレマンティーヌが話に入ってくる。俺も料理人だからレシピの大事さは判っているつもりだが、ポーションのレシピとなるとやっぱり料理のレシピよりも大事な物なのだろうか?と思ってしまう

 

「バレアレ印のポーションは効果がいいって事で評判だったんですけど、もし貴族とかが後ろ盾にいる薬師がレシピを手にすると……僕達がポーションを販売できなくなるんですよ」

 

あー盗品とか、著作権がどうとかって問題か。と言うか今回の一件で善意でポーションを提供した結果が職を失うなんて、余りにも酷い話じゃないか

 

「薬の効果を知っている薬品ギルドや冒険者ギルドが私達についてくれても、貴族の力の方が上じゃからな……実質もうワシもンフィーレアも職を失ったも同然よ」

 

深い深い溜息を吐くンフィーレアの祖母。昨日はハキハキと活力に満ちていたのに、今は年齢以上に老けているように見える。俺はメッセージでモモンガさんに声を掛けた

 

(どうしました?何かトラブルですか?)

 

(トラブルと言えばトラブルだけど、良い事と言えば良い事だ)

 

メッセージ越しでどう言う事ですか?と苦笑するモモンガさんに、今のンフィーレア達の状況を伝えると、モモンガさんも察したようではそれは良い事ですねと返事を返してきた

 

(赤いポーションを見せて、私の関係者と言う事を証明してください。その後にカルネ村へ移住するように伝えてくれますか?カルネ村ならばやっかみを受けることも無いですしね。それに研究者が近くにいてくれるのはありがたいですから)

 

モモンガさんに了解と返事を返し、コックスーツから赤いポーションを取り出し、2人に見せる

 

「なんで、あ……そう言えば」

 

「そう言う事。静かにな?」

 

俺やモモンガさんにとっては大したアイテムではないマイナーヒーリングポーション。食材になれで生成は出来るが、量も少なく、それほど作れるアイテムでもない。腕の良い薬師を引き入れるのは決して損な事ではない

 

「そうかい、お前さんもモモンの知り合いかい。それでワシとンフィーレアにそれを見せてどうするつもりだい?」

 

「材料は提供する。その代わりにこの赤いポーション……いや、青いポーションよりも良い物を作って欲しいらしい」

 

「らしいってお前さんは?」

 

「俺?俺は料理人だからなぁ……正直、薬品より食材が欲しい」

 

最悪の状況に備えてポーションを備蓄しておきたいと言うモモンガさんの意見には同意するが、下着とか出てくる食材になれは本当に最悪な状況にならない限り使いたくないのだ。蒟蒻と卵を煮ていた鍋のふたを開けて、肉を煮ていた鍋の中身と一緒にして、再び蓋をする

 

「カルネ村に移住してくれないか?俺達の拠点もその近くにあるんだ」

 

ンフィーレアは自分はいいですけど…と呟くが、祖母は目を閉じ、何かを考えている様子だった……

 

「ふん、ワシのポーションのレシピを盗んで繁盛するつもりの薬師をどうしてやろうかと思ったが、それよりも良いポーションを作って見返してやるって言うのも面白いね」

 

「交渉成立って事でいいんだな?」

 

どうもかなり勝気な性格だったようで、逆襲を考えていたようだが、俺とモモンガさんに協力した方が良いと判断したようだ

 

「詳しくはまた聞きに来るよ。さっきから役人が五月蝿くてね、さっさと店を畳む手続きを取るさ」

 

「レシピがどうとか、もううんざりですよ」

 

疲れた様子の2人に少し待ってくれと声を掛け、大鍋の蓋を開ける。湯気と共に周囲に匂いが広がっていく……俯いていた人達が顔をあげ、こっちを見るのを確認してからプラスチックの器におでんを装う。牛筋、鶏腿、鳥胸、それにはんぺんやちくわなどは大量に煮てあるので、食べるには十分すぎる

 

「食ってくれ。カワサキ特製おでんだ」

 

身体も温まるし、元気も出るぞと声を掛けながら、俺は2人に盛り付けたおでんと使い捨てのフォークを差し出すのだった……

 

 

 

カワサキという男が差し出したおでんという料理。澄んだスープに、大量の具材が入っている

 

「金でも取るのかい?」

 

「いやあ炊き出しのつもりだよ?食いたいって来れば分けるつもりなんだが……」

 

そこまで言った所で、ははっと笑うカワサキ。黒髪黒目と言うのはエ・ランテルでは目立ちすぎる。料理を無償でと言っても食べに来る相手なんて居ないだろう

 

「カワサキさん、この茶色いのは?」

 

「魚のすり身を揚げたもんだ。スープを吸い込んでいて熱いから気をつけて食べろよ」

 

警戒しているワシを横目にスープに息を吹きかけて冷ましているンフィーレアは、スープを口にしてほうっと小さく溜息を吐く

 

「すっごく美味しいです。暖かくて、身体が中から温まりますね」

 

嬉しそうに言うンフィーレアを見て、ワシもスープを口に運ぶ。口の中に広がるのは沢山の具材の味と濃厚な肉の旨味

 

「ほほう……こりゃ美味いね」

 

これだけの味となると、ワシの長い人生の中でもそう味わったことが無い。それこそ、ワシの効果の良いポーションを初めて王国に認められた時に食べた物でも、これほどのもの物は無かった

 

「はふっはひゅふゅ……あふあふ……ッ!?」

 

ンフィーレアが何かを食べて熱い熱いとジタバタしている。我が孫ながら何をしていると頭を思わず抱えたくなった、おでんを持っているので抱えることは出来なかったが……

 

「熱いって言っただろうが、慌てて食べるなよ。はいよ、クレマンティーヌ」

 

「やりい!いやー、さっきから良い匂いしてたから食べたくて食べたくて」

 

カワサキが差し出した皿を受け取り、息を吹きかけてスープを冷ましている金髪の女。雰囲気からして只者ではないのが判るが、カワサキとの関係が今一判らない

 

「おばあちゃん、食べないの?すっごく美味しいよ?」

 

心配そうなンフィーレアに言葉に食べるよと返事を返し、皿の中を見る。ぶつ切りにされた鶏肉らしい物と、茶色く平ぺったい丸い物、それと長細い白い何かと丸い野菜っぽい物、唯一見慣れた食材は腸詰くらいだ

 

(魚のすり身と言っておったが……)

 

魚は稀少な食品だ。正直ここまで原型が無いと不安になるのだが、幸せそうに食べているンフィーレアを見て、フォークで小さく切って頬張る

 

「はふっ、あふ……」

 

熱いとは聞いていたが、想像以上に熱い。その熱さに目を白黒させると、カワサキが水のコップを差し出してくれる。それを飲み干して一息つく

 

「ふー、熱いなぁ」

 

「そりゃ出来たてだからなあ。あと、鳥も使ってるからスープも熱いし」

 

だがその熱さが今の心も身体も冷えたワシには丁度良い。今度はよく冷ましてから茶色いのを頬張る

 

(ん、これは美味い)

 

非常に柔らかい、これなら老人でも食べやすい。それに魚と言うのは本当のようで、肉や野菜とは違う旨味が口いっぱいに広がる

 

「うっわあ、うっまあ……カワサキの料理は本当に美味しいよ。身体の中から温まるのが良く判るし」

 

「喜んでくれて何よりだよ」

 

鍋の中に具材を継ぎ足しながら笑うカワサキ。料理に関して本当に真摯で、その姿は料理と薬品とジャンルは違うがワシに通じるものがあると思った

 

「カワサキさん、お疲れ様です」

 

「よーぺテル。そっちもお疲れ」

 

漆黒の剣の4人組がカワサキに手を振りながら駆け寄ってくる。結構顔を見合わせることも多い、エ・ランテルで今少しずつ評判を上げている冒険者だ

 

「おばあちゃん、お肉大丈夫?食べれる?」

 

「んーぐむぐむ……なんとか大丈夫そうじゃ」

 

包丁で小さく切り込みが入っているから噛み切れたが、ちょっと肉を食べるのは難しいなと思っていると、カワサキがワシの皿に丸い球体をいくつか追加で入れてくれる。刻んだ野菜などが入っているのが見えるが、これは……?

 

「つくねだよ。挽肉に野菜を入れて作った団子って言えば良いかな?これなら食べやすいと思うが、どうだ?」

 

「ふーふー…はふはふ……うん、確かに食べやすいね」

 

肉の味にたっぷりの野菜…それは薬味野菜なのか肉の臭みを消していて非常に食べやすい。灰色で三角の奴はぷるぷるしていて、独特の食感があるのだが、その食感も今まで味わった事が無いもので非常に美味しい

 

「カワサキさん、これはいくらなのでしょうか?私達も食べたいのですが?」

 

「こいつはタダだよ。今回の事件で疲れただろ?食べたいって言えば配るつもりなんだが」

 

そこでカワサキは肩を竦めて、自身の髪と目を指差して

 

「どうも南方って事で警戒されてるらしい。だから食べてくれたらありがたいし、タダで食べられるって言ってくれたらなお嬉しい」

 

食べに来てくれないと確実に余るからな、これ。そう言って笑うカワサキの前に並んでいる鍋は2つ、しかもかなり巨大なので、確かに食べに来てくれないと確実に残ることになるだろう

 

「あ、あの…僕、もう一杯欲しいんですけど…」

 

「よし食え。と言うか、ンフィーレア…お前は細すぎる。もっと飯を食え、飯を。なんだその細い腕は…男なら飯を食え」

 

そう言ってンフィーレアの皿に再び料理を盛り付けたカワサキは、そのまま漆黒の剣の4人にも料理を盛り付け手渡す

 

「ありがとうございます」

 

「いやー助かったなあ。料理屋とか殆どやってなくてなあ」

 

「空腹だったのである!また見たことの無い料理であるが、きっと美味しいのである」

 

「カワサキさん、いただきますね」

 

嬉しそうに言う4人にカワサキは食え食え、腹いっぱい食えと笑い、料理を配るから食べにおいでーと広場にいる人間に笑顔で声を掛ける。大人達は警戒している様子だったが、子供達はゆっくり近づいてきて

 

「本当にくれるのー?」

 

「食べて良いのー?」

 

「おうさ。さー盛り付けてやろうな。一杯食えよ」

 

子供の為に料理を盛り付けて笑うカワサキ。外見はやや怖い男だが、その性質は穏やかで優しい男のようだ

 

「おばあちゃん、美味しいね」

 

「そうだね。ンフィーレア」

 

ンフィーレアの言葉に笑顔で返事を返す。大袈裟かもしれないがカワサキの料理は温かく、優しい。きっとカワサキの料理は誰かを救う料理なのだと思った。現にワシはポーションを持ち出しただけではなく、レシピなどを入れた金庫を持ち出した連中にどうやって復讐してやろうか…そればかりを考えていたが、今はカルネ村で商売ではなく、神の血を作る研究をして老後を過ごすのもいいかもしれないと思い始めていた……

 

 

 

陛下からカワサキ殿が戻ったら、与える店の下見と立地を見てくるようにという命令を受け、エ・ランテルに訪れていたのだが、まさかアンデッドの大量襲撃に巻き込まれるなど想像もしていなかった。更に言えば

 

「まさか、ゴウン殿が剣士としての嗜みも有るとは思ってもみませんでしたよ」

 

今回のアンデッドの襲撃の首謀者を捕らえたと言う戦士と面会したのだが、その鎧の下はゴウン殿で驚いた物だ。そして身に付けている剣と鎧が魔法で作り出した物であると聞き、またゴウン殿の底知れぬ力量の一端に触れた事に更に驚愕した物だ。魔法詠唱者としても剣士としても一流とは…と言うと、ゴウン殿は苦笑して

 

「いえいえ、ちょっとした変装って奴ですよ、戦士長殿。それと剣士の方は魔法で身体能力とかを上げて対応しているだけですよ」

 

少々あの格好は目立ちすぎましたからねと苦笑するゴウン殿。あの金銀装飾に彩られたローブに金の杖。その格好では目立つのと、魔法詠唱者として活動するよりも戦士に偽装した方が正体がバレないと考えたのですよと教えてくれた。今の漆黒の鎧姿も目立つが、確かにあのローブよりかは目立たないだろう。別の意味では目立っているが……それは言わない方が良いのだろう

 

「何か調べていることでもあるのですか?」

 

態々変装し、名前まで変えなければ調べる事が出来ない事があるのかと尋ねる

 

「……まぁ、私とカワサキさんが旅をしている理由とでも言いましょうか?少々込み入った話なので、立ち話ではね」

 

ゴウン殿ほどの人物が旅をする理由……只事ではないと判断し、わかりましたと返事を返す

 

「ところで、ゴウン……「今はモモンでお願いしますよ。それと、もっとフランクな感じで構いません」

 

今の私は一介の冒険者に過ぎませんからと言う。周りに人がいる時はモモンと言う新米冒険者として対応して欲しいと言う事か

 

「失礼した。それではモモン、彼女は?どうもユリ殿に似ているように見えるのだが……」

 

ゴウン殿の後をピッタリと着いている黒髪の少女。その鋭い目付きと全身から漂う気配で只者では無いのは判るのだが、何処となくユリ殿に似ている気がするのだが?と尋ねる

 

「ああ、彼女はナーベ、ユリの妹ですよ。彼女は優れた魔法の才能がありましてね。私が指導しているのです」

 

ゴウン殿の指導を受けた魔法詠唱者。間違いなく、冒険者としては最高レベルの素質の持ち主だろう。蒼の薔薇のイビルアイ殿とどっちが上だろうかと一瞬考えてしまった

 

「ガゼフ・ストロノーフです」

 

「……ナーベ」

 

自分の名前だけ名乗り、こっちを見ないナーベ殿。ゴウン殿が慌ててフォローに入ろうとするが

 

「構いませんよ。正直、こういう対応には馴れてますので」

 

元々平民の出と言うことで、あまり良い顔はされて無いので問題ないですよと笑う

 

「ところで、カワサキ殿は?」

 

「ああ、広場で料理を作っているそうなので行きましょうか。何か温かい物を作っているときいてます」

 

それは良い。昨晩から今朝まで戦っていて、身体は冷え切っている。温かい物と言うのは実にありがたい

 

「おう、モモンとナーベ……それにガゼフさん?」

 

俺を見て困惑しているカワサキ殿に頭を下げるとカワサキ殿も頭を下げ返してくれる

 

「ちょっとしか残ってなくて悪いな、大分繁盛したから」

 

大きな鍋2つに少ししか残っていない料理、それを見ればかなり盛況だったのは一目瞭然だ。差し出された皿には殆どスープで肉が少しと言う感じで少し寂しいが、それでも温かい料理と言うだけで実にありがたい

 

「ふー、ふー、これは良い、実に温かい」

 

「そうですね、とても美味しいです」

 

ナーベと言う女性はゴウン殿とカワサキ殿だけに心を開いている感じだ。あまり込み入った事情は聞きたくは無いが、何か深い理由があるように思える

 

 

(まるまる1個の卵とは……実に豪勢だな)

 

卵と言うのは中々稀少な物だ。それをまるまる1個茹でてスープに入れるとは…フォークで半分に割ると黄身が姿を現す。思わず笑みを浮かべて頬張ると、その熱さに思わずその場で悶えてしまう

 

「はふっはふ……!!」

 

「はは、熱いから気をつけろよ」

 

スープもかなり温かいので具も熱いと思っていたが、予想よりも大分熱く、口の中で具材を転がして熱を取っていると、カワサキ殿が気をつけろと笑う

 

「カワサキー、もうこっちの鍋片付けちゃって良い?」

 

「おう、頼む」

 

オーケーっと笑う金髪の女性。前見た時はいなかったが、その鎧や腰に挿している武器からかなりの腕の戦士だと判る。きっとカワサキ殿の護衛を務めている人物なのだろう

 

「この丸い野菜が美味しいです、カワサキさーーん」

 

「大根だな。出汁が染み込んでいて美味しいだろう?」

 

大根?これの事か?スープの中に沈んでいる野菜を少し切りフォークで持ち上げる。完全に色が変わっていて、スープが良く染みているのが判る

 

「あふっ!あふゅう!!!」

 

「だから熱いって言ってるだろ。気をつけろよ」

 

ゴウン殿が熱いと悶絶していて、その余りに人間らしい仕草に苦笑しながら大根とやらに良く息を吹きかけて、冷ましてから頬張る

 

(おお……美味い)

 

スープが良く染み込んでいて、とても柔らかい。だがそれだけではなく、噛み締めると中からたっぷりのスープが出てきて、それもまた美味い

 

「カワサキさん、このなんかプルプルしてる肉はなんですか?」

 

「牛筋、良く煮えてるから美味いぞ」

 

俺も気になっていた肉に半透明のプルプルがついた謎の肉の事が……ちょっと恐ろしいと思っていたが、美味いと言われフォークで刺して頬張るとそのプルプルした部分は適度な弾力を保っているが、口の中で溶ける様に広がっていく

 

「トロットロで美味しいですね。肉の部分の弾力も凄くいいですし」

 

「本当ですな、これは美味い」

 

プルプルの部分と歯応えのいい肉の部分。これは1回で2度美味しい、ナーベ殿にいたっては無言で食事を続けているから、その仕草だけで美味しいと思っているのが伝わってくる。ぽわっと時折浮かべる笑顔に、見た目相応の表情が姿を見せるのも可愛らしい

 

「喜んでくれているのは嬉しいが、さすがにこのおでんだけじゃあ、あまりに寂しいな……」

 

カワサキ殿はそういうが、味の濃いスープとスープがたっぷりしみこんだ鶏肉は十分にご馳走と言えるのだが

 

「十分美味しいですよ?カワサキさん」

 

「はい、とても美味しいです。カワサキさーーん」

 

「駄目だよ、料理人として手抜きは駄目だ」

 

いや、手抜きではなくあまりに好評すぎただけでカワサキ殿が悪いわけでは無いと思うのだが……カワサキ殿は暫く唸っていると思ったら手を叩き

 

「よし!夜に、俺とモモンとガゼフさんの3人で飲もうぜ!」

 

「「はい?」」

 

俺とゴウン殿の間の抜けた返事が重なったのは言うまでもなく、あれよあれよと言う内に、王国兵士の詰め所で今日の夜に3人で飲む事が決まるのだった

 

メニュー32 飲み会

 

 




寒くなってきたので温かいおでんでした。次回は飲み会で色々料理を出して行こうと思います。ナーベはナーベでちゃんと出番も有るのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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