生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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番外編 ひな祭り

 

番外編 ひな祭り

 

エ・ランテルを拠点にして活動しているが、やはりナザリックにいる方が落ち着くな。ペストーニャの診断書を見ながらふとそんなことを考える。

 

「デミウルゴスとパンドラズアクターは8割方回復したらしいが……」

 

足が麻痺していたデミウルゴスは杖を使いながらも歩けるようになり、パンドラもそろそろ人型が維持出来るようになって来たそうだ。だがマーレと女性陣が元に戻る気配はなく、コキュートスは何故か炎を扱えるようになったとか……

 

(カワサキさんの料理怖ッ!?)

 

美味しいと言うのは判っているが、辛く作ると皆が大変なことになる料理。その破壊力をこうして文書で見ると改めて実感するなと思っていると

 

「イベントの時間だぁ!!!」

 

執務室の扉が開き、そう叫ぶカワサキさん。そのノリはクリスマスパーティや、餅つきのときの雰囲気と同じで、また何か季節ごとのイベントの時期なのだろうかと思いながら、俺はペストーニャが書いた守護者達の診断書を机の中に戻すのだった

 

「ひな祭りの時期だぜ!」

 

「……はぁ」

 

雛祭りってなんだろうか?と首を傾げる事しか出来ない。俺はリアルのイベントなんて全然知らないからな

 

「女の人のお祭りみたいなもんだな。ナザリックは女性陣多いし」

 

多いというか、6割は女性だと思う。一部中性もいるけど……

 

「だから俺はひな祭りをしたいと思う、まぁ男性陣には悪いけど、ちょっとやることないけど」

 

「仕方ないんじゃないですかね?まぁアルベド達への労いってことで良いと思いますよ?」

 

カワサキさんがやりたいと言うのなら、俺は反対する理由は無い。

 

「他人事に思ってるけど、モモンガさんはやることあるからな?」

 

「そうなんですか?まぁ良いですけど」

 

「じゃあそうやって皆に通達出すからな」

 

出番と言っても、パーティの始まりの挨拶くらいだろうと思い。引き受け、パーティもやっても良いと言ったが、この安請け合いが俺を窮地に追い込むことを今の俺は知る由も無いのだった……

 

 

 

ひな祭りと言えばちらし寿司だ。豪華に海鮮ちらしにすることにしたのだが、ナザリックは女性陣が多いのでその作る量は膨大だし、今回ばかりはシホに手伝って貰ってデザートを作るのは違うので、デザートも全部自分で作る。

 

「まずはっと」

 

とにかく寿司飯がなくては何も始まらないので、寿司桶を10個用意して、その中に炊きたてのご飯をどんどんほりこみ、奥から保存を掛けて、手前手前と移動していく

 

「鮪とサーモンと海老と……後はびんちょうに……」

 

たっぷりと海鮮を使ったちらし寿司が見た目も良いし、豪華感も出てくれると思う。手前の寿司桶から酢、砂糖、塩を加えてしゃもじで切るように混ぜる。この数となると本当に重労働な、生身じゃなくてクックマンで良かったと心の底から思う。寿司飯が出来たら布巾を掛けて、念の為に保存もかけておけば寿司飯は問題ないだろう

 

「海老は二種類」

 

小エビとブラックタイガーの2種類を使う。鍋の中に鰹と昆布で取った出汁に酒、醤油、砂糖、みりんを加えて1度沸騰させる。漬け汁を作っている間にボウルに干ししいたけを入れて水で戻しておく

 

「んーもう少しか」

 

味見をして少し甘みが足りないと思ったのでもう少しだけ砂糖を加えて、混ぜ合わせたら殻を剥き、背綿を取った海老を入れて弱火で加熱する。これも1つの鍋で足りないので3つの鍋での同時作業だ

 

「よしっと」

 

しいたけを戻した汁は少しだけ残しておく、しいたけは軸を切り落として、傘は薄切りにして、人参は皮を剥いて千切りにし、絹さやは海老を煮ている隣の鍋で塩茹でにする

 

「ん、海老はこれくらいだな」

 

あんまり煮すぎると辛くなるので、海老全体に程よく味が染みたら鍋から取り出して冷ましておく

 

「ふっふーん♪」

 

サラダ油を引いたフライパンを中火で加熱し、千切りにした人参、薄切りにしたしいたけを入れて焦げ付かせないように、丁寧に炒める。しいたけと人参がしんなりしてきたら、しいたけの戻し汁を加え、そこに酒、醤油、砂糖、みりんを加えたら煮汁がなくなるまでしっかりと煮詰める。その間に絹さやにも火が通ったので氷水で〆て半分に切る

 

「次はっと」

 

卵を大きめのボウルにどんどん割りいれ、切るように混ぜ合わせる。ある程度ほぐれたら、酒と塩、砂糖を加えて味をつけて再び軽く混ぜ合わせる。次にやや大きめのフライパンを手に取り、サラダ油を入れてしっかりと加熱したら、フライパンの大きさに合わせて卵液を流しいれ、すぐにフライパンを傾けてフライパン全体に卵液を広げ、フライパンを動かし続ける。すると熱がとおり、卵が動かなくなるのでそうなったら火の上からどけて、蓋をしたら

 

「よいしょっと!」

 

濡れた布巾の上にフライパンを乗せる。ジュッっという音がしてフライパンが冷やされる。そのまま1~2分待って、余熱で完全に火が通ったら蓋を開けて、フライパンから錦糸卵を素手ではがす。これを何回も繰り返し、必要な分の錦糸卵を用意したら、フライパンの縁で乾いた部分を包丁で取り除き、幅を揃えて重ね合わせたら包丁で細切りにする

 

「これだけあると圧巻だな」

 

山のようになってる錦糸卵とか見た目のインパクトが凄い。ここまで来たら後は鮪などの刺身のネタを食べやすい1口サイズに切り分けるだけだが、考えてみて欲しい。見た目よりも遥かに食べる、アルベド、アウラ、それにルプスレギナにエントマ、種族上満腹が無いソリュシャンに、それらのメンバーと比べれば小食だが結構食べる方のシャルティアに一般メイド。さらにはひな祭りには参加できないがデミウルゴス達にも食堂で振舞うつもりな訳で……

 

「パネエ」

 

目の前に準備された食材の山を見て、思わずそう呟いてしまった俺は多分悪くないと思う

 

「煮詰めたしいたけと人参と小エビっと」

 

寿司飯の中にしいたけと人参、それと小エビを入れてさっくりと混ぜ合わせる。あんまり混ぜすぎると折角の具材が潰れてしまうからだ

 

「よし、こんな物だな」

 

良い具合に混ぜ合わせたら、錦糸卵を全面に敷いてその上に軽く醤油に漬けておいた1口大に切った刺身や味をつけて煮た事で鮮やかな色になった海老、そして絹さやを飾り付ける。イクラはパーテイ開始前に料理を並べた段階で振りかければ良いだろう

 

「後は蛤の吸い物と苺のムースくらいで良いか」

 

さすがの俺も菱餅とかの作り方は知らないので、苺のムースで代用しよう。その代わりといったら何だが

 

「これを使えば文句は無いだろ」

 

黄金の苺を包丁で半分に切る、断面はどうなっているのかは判らないが、苺本来の赤と金色が混じりとても美しい色合いだ

 

「ゼラチンと生クリームと」

 

デザートはさほど得意では無いが、コース料理などで出すくらいのちょっとしたものは作れる。ムースは勿論作る事が出来るので、たっぷりの苺を使って作るとしよう

 

「ゼラチンはやや少なめっと」

 

ムースはゼラチンの量で食感が変わるが、今回はやや少なめにして滑らかな食感にしようと思う。水で綺麗に洗った苺……当然これも量が量なので殆ど小山に近い、それを見て苦笑しながら、包丁からぺティナイフに持ち替え、苺のヘタを取り除きザルの中に入れて水をしっかりと切る。ゼラチンは耐熱ボウルに入れた水の中に入れてレンジへ温めて溶かしておく

 

「砂糖とレモンの絞り汁、それにラム酒」

 

フードプロセッサーの中に苺を入れて、砂糖とレモンの絞り汁を加え、隠し味のラム酒を加えて攪拌する。全体が滑らかなピューレ状になれば攪拌を止める

 

「これくらいかな」

 

盛り付け用に使う分の苺ピューレを取り除き、常温に戻しておいた生クリームと溶かしておいたゼラチンを加え攪拌する。全体が均一になれば良いのだが

 

「ほーいい色だな」

 

普通の苺なら淡いピンク色になるのだが、黄金の苺のおかげかうっすらと金色が入り、色合いがとても美しい。その仕上がりに満足し、グラスにムースを注ぎ、冷蔵庫に入れる。これで冷やして固まったら、苺のピューレをムースの上に注いで、ミントと苺を1つ載せれば完成だ

 

「よし、じゃあ行くか」

 

冷蔵庫でムースを冷やしている間はやる事が無い、だからその間にひな祭りで何よりも大事な物を取りに行く

 

「茶釜さんだったかな、いや……やまいこさんだったかな?」

 

何年か前のユグドラシルのイベントでひな祭りイベントがあり、そこで確か御内裏様とお雛様の装備アイテムが合ったはず。

 

「ふふふふ、簡単にOKを出したら駄目と言う事を思い知らせてやろう」

 

ひな祭りでアルベド達を労うのも俺の目的の1つ。だが俺の本来の目的はモモンガさんに御内裏様の服装をさせ、アルベド達にお雛様の服装させて記念写真を1人、1枚ずつ撮る事なのだからッ!!!!!

 

 

 

 

 

普段はエ・ランテルで王国への発言力を高めるための行動をしているアインズ様とカワサキ様がナザリックへとお戻りになられた。それだけでも私は嬉しいのに、更には今日は女性の為の祭りがあると言う事でカワサキ様が料理を振舞ってくれる、これほどの幸福は他に無いと思う。6階層の円形闘技場は普段の姿と異なり、木の床と料理を載せるための机で埋め尽くされていた

 

「女性の為の祭りなんてあるんですね、アルベド」

 

「そうね。私もそんなの知らなかったわ」

 

シャルティアがそう尋ねてくる。リアルでの風習らしいけど、まさかシモベにまでそんなことをしてくれるなんて夢にも思っていなかった。私とシャルティアにアウラ、そしてプレアデスに、一般メイドも全員いる上に、女性のシモベ全員が今円形闘技場に集合している

 

「ま、マーレとかは、なんか食堂で同じ物を食べてるって……」

 

「そうなるわね」

 

今回は女性がメインなので、仲間はずれにするわけでは無いが、男性陣は円形闘技場に入室禁止となっている。場所こそ違うが、それでも料理を振舞ってくれるカワサキ様のお優しさには本当に驚かされる

 

「良いのかなあ」

 

「カワサキが良いって言ってくれてるから良いんじゃないの?」

 

「……クレマンティーヌさん……ああ、いえ、別になんでもないです。はい」

 

クレマンティーヌにリリオット、それにミルファの3人もいる。場違いではとそわそわしているが、ナザリックにいる以上は女性なのでカワサキ様が招待されたのならばシモベとして文句を言う事は無い

 

「ところでシホは何をしているのかしら?」

 

膝をついて机の上のテーブルクロスをまじまじと観察しているシホにそう尋ねる。

 

「……いえ?ちょっと気になる事がありまして」

 

まだパーティの時間では無いとしても何をしているのだろうかと思わずにはいられない

 

「……私は料理が出来るようになったから、エントマが妹」

 

「むきゅう……わ、私だって出来る!」

 

「いやいや、むりっしょ?エントマちゃん出来ても、お肉焼くくらいじゃない?」

 

「そうね。私もそう思うわ。ナーベラルは?」

 

「……私はクレマンティーヌが簡単なのを教えてくれましたから」

 

「「「「え?」」」」

 

反対側ではユリ達がそんな話をしている。シズもソリュシャンも今回はナザリックに戻っているが、パーティが始まるまでの間の話しでとても賑やかな感じとなっている

 

「アル」

 

「……ニグレド姉さん」

 

外出用のマスクを被ったニグレド姉さんが背後から声を掛けてくる。この調子だと姿が見えないだけでオーレオール・オメガもどこかにいるかもしれないと思ったそのとき。机の上のテーブルクロスが光り輝き、料理が机の上に現れる

 

「よく集まってくれた、我がナザリックが誇る華達よ」

 

アインズ様とカワサキ様がお現れになられ、シモベ全員が膝をつき頭を下げる

 

「皆、顔を上げてほしい、今日はひな祭りと言う女性の為の祭りになる。つまり今回は主役はお前達となる事を忘れないで欲しい」

 

カワサキ様の言葉が響き、本当に良いのだろうかと思いながら顔を上げる

 

「カワサキさんの言うとおりだ。今日は存分に食べ、飲み、日頃の疲れを癒して欲しいと思う。では全員グラスを手に」

 

机の上に置かれているグラス。全員バラバラにいるのにも関わらず手の届く範囲にグラスが現れている

 

「特製のモモのワインになる、ちょっと癖はあるかもしれないが美味しいぞ」

 

カワサキ様がご用意された物に不味いものなどある訳が……ッ!

 

(今何か脳裏を過ぎったような……)

 

激しい頭痛と紅い何かの映像が頭を過ぎった。思わず頭に手を当ててしまった、それはシャルティアとアウラも同じだった。だけど紅い料理なんて覚えが無いのできっと何かの勘違いだろう

 

「では乾杯」

 

「「「「乾杯」」」」

 

アインズ様がグラスをお掲げになられたので私達もグラスを掲げ、それがパーティの始まりの合図となるのだった……

 

 

 

 

 

特設会場となっている円形闘技場。先ほどまで料理が乗ってなかった机には、鮮やかな色合いの料理が置かれていた

 

「ほう、これがちらし寿司……」

 

「色合いは結構気をつけてる」

 

アインズ様とカワサキ様も椅子に腰を下ろし、料理を前にしている。今回は立食ではなく、座っての食事会となっている様子だ

 

(本当に綺麗)

 

細切りにされた卵の上に、新鮮な魚のぶつ切りが盛り付けられているのだが、その色合いが本当に美しい。それに小さな椀には大きめの貝が沈められている澄んだスープにデザートであろう、鮮やかなピンク色のムースまで用意されている。

 

「頂きます」

 

手を合わせていただきますと口にして、スープの椀に手を伸ばす

 

 

「美味しい、酸味のあるご飯がとても美味しいですね」

 

「うまあ……刺身も凄く美味しいっす」

 

ソリュシャンとルプスレギナは迷う事無くメインのちらし寿司にスプーンを伸ばしている。何から食べても自由だとは思うけど、もう少し落ち着いて食事をする事は出来ないのかと思わず苦笑する

 

「そんなに渋い顔をしてはいけないです……わん。ユリ」

 

ペストーニャ様の言葉に判ってはいるんですけどねと小さく返事を返す。プレアデスとして、もう少し一般メイド達の見本になるように振舞って欲しいと思うのはいけないことなのだろうか?と思いながらスープを口にする

 

「……美味しい」

 

「とても美味しいですね、ユリ姉さん」

 

同じくスープから口にしていたナーベラルが嬉しそうに微笑む。ぱっと見た感じでは色が薄く、ちゃんと味があるのかと失礼ながら思ってしまったが、その澄んだ色合いからは想像も出来ないほどにしっかりとした味が付いていた。豊かな貝の風味にその貝の風味を生かすための業と薄めの味付けなのだが、貝の味が濃いので味が薄いとは不思議に思わない

 

「美味しい、前に食べたお寿司とは全然違うけど美味しいわ」

 

「え?アルベド、お寿司を食べたの?」

 

「ええ、アインズ様に誘われてね」

 

「……い、良いなあ……」

 

アルベド様達はそんな話をしながらちらし寿司を上品な素振りで口に運んでいる。一般メイド達は目にうっすらと涙さえ浮かべ

 

「こ、こんなに幸せで良いんでしょうか……」

 

「本当にね」

 

「美味しいですぅ」

 

美味しいと笑みを浮かべている。カワサキ様の料理を口にする機会なんて滅多に無い一般メイドだ、その感動は凄まじい物があるだろう。私はそんなことを考えながら、ちらし寿司にスプーンを向ける

 

(宝石みたいね)

 

鮮やかな刺身の色合いとその上に散りばめられた赤い球体。それらの色合いが本当に美しくて、宝石箱のように思える。スプーンで丁寧に寿司飯を取る、余り大きく取りすぎるとこの美しさを損ねてしまいそうで細心の注意を払う

 

「あむ」

 

お寿司と言うのは醤油をつける物と思っていたのですが、刺身にうっすらと醤油が塗られているようで味がしっかりとしていた。それに寿司飯は酸味が強く甘みが少ないのですが、中に混ぜ込まれているしいたけと人参、それに小エビがやや甘い味わいなので口の中で丁度良くなる

 

「あむう♪」

 

(シズが笑ってる!?)

 

ふと顔を上げるとシズが物凄く嬉しそうな顔をして海老を頬張っている。普段無表情だから、その変化が実によく判る。一緒にいたソリュシャン達も驚きに目を見開いているのが良く判る

 

「……海老は好き」

 

あむあむあむと海老だけをもむもむと頬張っているシズ、シズの皿を見ると確かに海老がかなり多めに盛り付けられている

 

「美味しいが判ったのぉ?」

 

エントマがそう尋ねるとシズは嬉しそうな顔を一転させてしょぼーんっとした様子になり

 

「美味しい……判らない、好きと嫌いと怖いは判った」

 

好きと嫌いは判るけど、怖いは何?シズの話を聞いていた全員がそう思った

 

「……カワサキ様が辛いは美味しいって言うから食べた、辛いは痛くて怖い」

 

ぽつぽつと言うシズ、その話を聞いて全員が何とも言えない顔をしたのは言うまでもなく、シズが小刻みに震えているのを見て

 

「ほら、シズ。ボクの海老をあげるから」

 

シズの皿に海老を移すとぱぁっと花が咲いたような表情で笑う。それを見てソリュシャンやナーベラルも海老を上げている

 

「私、しいたけしかないっすけどいるっすか?」

 

「私はぁ卵だけぇ……」

 

ルプーとエントマの言葉にシズはいらないと返事を返し、また幸せそうな顔で海老をもむもむと食べ始める。その幸せそうな顔を見ていると、私まで幸せな気持ちになってくるのだった……

 

 

 

 

かちゃりと静かな音を立ててスプーンを机の上に置く。カワサキ様が振舞ってくれたちらし寿司、その味は私が作るものよりも遥かに上だった

 

(全体的なバランスは具材で調整してる)

 

寿司飯は酢を強めにし甘さは控えめ、甘く煮詰めたしいたけと人参、それとよく煮られた海老で補う

 

(刺身は濃い口の醤油)

 

恐らく切り分ける前か後で醤油を塗布して、醤油をかけなくても味があるようにと考えられているのだろう

 

(つまりはまだまだと言うことですね)

 

私も色々と料理を作っているが、まだカワサキ様が求める味には程遠いと再認識し、蛤の吸い物を飲み干す

 

「デザート……」

 

苺のムース。シンプルだが、味わい深く人気のある品。それを手に取り、小さいスプーンで掬い口に運ぶ

 

(違う!)

 

私の作るムースとは何かが違う、食材が違うとかそう言うレベルではない。何か、なにか決定的な何かが違う。風味が良くて、香りの良い何かが入っているのだけど、その何かが判らない。デザートは苦手と仰られていたが、そんな事は無い。パティシエでもある私が判らない何か……それが気になって仕方ない

 

「上の苺のソースはほんのりと酸っぱいね」

 

「うん、そうだね。でもそれが美味しいね」

 

リリオットとクレマンティーヌは普通にムースを食べながら談笑し、その隣ではミルファがひどく緊張した面持ちでムースを口にしている。リリオットとクレマンティーヌはカワサキ様、そしてアインズ様に重宝されている存在だ。守護者の皆様と同じとまでは言わないが、間違いなくプレアデスと同じくらいの立ち位置にいると私は思う。特にあの2人はログハウスではなく、カワサキ様の居室で寝泊りしていると言う事が羨ましくて仕方ない

 

「さて、皆食事も終わったところで、今日のメインイベントをやりたいと思う」

 

イベント?食事会ではないのでしょうか?と全員が首を傾げる中。円形闘技場の扉が開き

 

「コキュートス、ゆっくり、ゆっくりですよ」

 

「判ッテイル」

 

デミウルゴス様とコキュートス様の声が響き、何かが運ばれて来た

 

「じゃあモモンガさん、出番だ」

 

「はい?」

 

カワサキ様に肩を掴まれたアインズ様が驚いた顔をすると、カワサキ様はにっこりと微笑み

 

「これ、御内裏様のコスプレ装備。そしてここにお雛様のコスプレ装備があります」

 

「……?……!?!?」

 

アインズ様が激しくうろたえ始めるなか、デミウルゴス様とコキュートス様が運んで来た物が円形闘技場に配置された

 

「カワサキ様、配置完了しました!」

 

「お疲れ様。デミウルゴス、コキュートス」

 

カワサキ様の言葉にデミウルゴス様とコキュートス様は深く頭を下げ、円形闘技場から早足で退出し、残されたのは雛壇が1つ

 

「これから御内裏様の服装をしたモモンガさんと記念写真を取るぞー、女性陣は全員順番でこれを装備して2ショットな」

 

「は、図ったな!?カワサキさん!また私を騙したな!?」

 

「手伝うって言ったじゃん」

 

アインズ様が叫ぶ中、もう円形闘技場の中は大騒ぎである。アインズ様と2ショット写真を取れるとなるともうアルが全力疾走である。大人しくなっていても、根本的なところは変わらないようだ

 

「あ、あの!カワサキ様!」

 

「ん?シホか?なんだ?」

 

アインズ様と2ショットと言うのも大変魅力的なのですが、私としては

 

「か、カワサキ様とも是非写真を……」

 

「俺?俺で良いのか?」

 

「いやいや、カワサキさんも写真を撮りましょう、ね!?」

 

騙されたと言っていたアインズ様がカワサキ様に詰め寄り、カワサキ様は苦笑しながら

 

「じゃあ俺とも写真撮るか」

 

その言葉で再び円形闘技場が騒がしくなる。そして翌日からナザリックの女性陣の部屋にはモモンガ、カワサキと御内裏様、お雛様の姿をしたその部屋の住人の写真が飾られることになるのだった……

 

 

 

 

番外編 ひな祭 終わり

 

 

 




時間軸とはいちおう食堂編と考えてください。ひな祭りと言う事に今朝気付き、急いで執筆したので少しボリューム不足かもしれないですが恵方巻きもバレンタインもやらなかったので、ひな祭りくらいはやっておきたいと思いましたので。次回からはまた本編を進めたいと思いますので、どうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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