生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー46 ステーキ

メニュー46 ステーキ(その2)

 

最初は昼時と言ってもまるで客の来なかった俺の店だが、今では昼時になると若い兵士や、冒険者組合、魔術師組合、それに薬師の見習いなどが多数訪れるようになっていた。

 

「はいはい、私はそういうのじゃないからねーッ!」

 

「あいたたたた!ごめんごめん!」

 

「……次は無いですよ?」

 

「……はい、すみません」

 

クレマンティーヌもシズも美人と美少女なので、告白とか通りすがりに尻に手を伸ばそうとした命知らずも最初は居たが、本人達に迎撃された上に、アインザック組合長やガゼフさんも来ると言うのが知られると、そういう輩はあっと言う間に姿を消した

 

「カワサキ君、今日の日替わりは何かな?」

 

「モックナックさん、いらっしゃい。今日はしょうが焼き定食と特日替わりで牛ステーキ定食になりますよ」

 

特に冒険者との繋がりが広がったと思う。今カウンター席に座ったモックナックもミスリル級で腕のいい冒険者らしい。混雑する時間を避けてやってくるのでこうして話す機会もそこそこ生まれてくる

 

「生姜焼き……それは良いな……しかしだな、カワサキ君。牛はあまり売れんぞ?」

 

「みたいですね」

 

あんまり牛を食べる文化がこの世界には無いらしい、と言うか、農業などで使い潰した牛や、乳を出さなくなった老牛を保存食とかにするくらいらしい

 

「でも家の牛は美味いですよ。どうです?物は試しに」

 

「生姜焼きにするよ、あれは旨かったからな。定食でスープと飯がお代わり自由で食べれるなら、そっちの方が良い」

 

生姜焼きの日替わり定食のオーダーにさいですかと心の中で呟き、生姜焼きの準備を始める。と言っても昨日の内に仕込んでおいたので、冷蔵庫から醤油、酒、みりん、しょうがの摩り下ろしと玉葱の摩り下ろしで漬け込んでおいた薄切りの豚ロース肉。そしてくし切りにした玉葱をサラダ油で中火で炒め、色が変わったら漬け汁ごと豚ロース肉を投入し炒める。豚肉の色が変わり、しっかりとタレと絡んだらキャベツの千切りを盛り付けてあった皿の上に乗せ、白米と大根の漬物、そしてわかめと豆腐の味噌汁をトレーの上に乗せる

 

「はい、お待ちどうさま」

 

良い匂いだと笑ってくれるのは嬉しいが、どうやれば牛肉が売れるのか?それを改めて課題として認識するのだった

 

「ありがとうございましたー」

 

正午から1時間ほどのランチタイムが過ぎ、さっきまでの賑わい様が嘘のように静まり返る

 

「ふー…だんだん繁盛してきたね。カワサキ」

 

「……当然。カワサキ様の料理は美味しい」

 

椅子に腰掛け、長い足を投げ出すように座るクレマンティーヌと行儀良く座るシズの言葉にそうだなと返事を返す。最近では1日平均で銅貨100枚、銀貨20枚は稼いでいる。基準が今一判らないが、クレマンティーヌによれば一般の料理屋とすれば破格の儲けらしい

 

「ロフーレさんも安く食材を卸してくれるしな」

 

「全部ナザリックの食材を使えば丸儲けになるのに?」

 

まぁクレマンティーヌが言う事は判る。採算は正直ギリギリだ。ニグン達やエルフ達が栽培してくれている野菜や、ナザリックで酪農してる物も使ってないわけでは無いが、入手が難しいもの以外はなるべく現地産でやりたい。仮にナザリックの物を使うとしてもランクの低い、それもこの世界の食材とどんぐりの背比べと言う程度の物を使ってる

 

「ナザリックの良い食材ばっか使ってると腕が鈍る」

 

そういうもん?と言うクレマンティーヌにそういうものだと返事を返す。食材の良さだけでやっていてはそれこそ食材だけで繁盛してるのか?となるとやはり俺の料理人の矜持に関わる。この世界の料理人のレベルはさほど高くないのに、そんな相手に高級食材を惜しげもなく使うと言うのは俺の好きでは無い富裕層と同じで気分が悪い

 

「夜とかほっぺの筋肉が攣りそうになるよ」

 

元々笑顔良しだが、どうも愛想笑いは苦手と呟くクレマンティーヌに苦笑しているとガラっと音を立てて扉が開く

 

「まだやってるか?」

 

頭を下げて店の中に入ってきたのは、おでんを作った時に何杯もお代わりしにきていたスキンヘッドの大男と、見覚えの無い金のベストと赤髪のやや優男と言う風貌の男だった。見た目は普通の服装だが、俺はすぐに理解した…この2人が表側の人間では無いと……

 

「ええ勿論。どうぞこちらへ」

 

まだ休憩時間に入るつもりではなかったので迎え入れる。クレマンティーヌがシズに頼んで、厨房に引っ込んできた

 

「法国か?」

 

「ううん。違う、八本指の方。王国の犯罪者組織だよ」

 

なるほど、リアルで何度かヤクザと対峙したが、その時に似た雰囲気を感じたのはそれか……俺はシャドウデーモンに結界を張るように告げ、シズに2人をカウンター席へと案内させるのだった。ちーっと気が緩んでいたが、やっと本命の1つが掛かった事でエ・ランテルで店を構えたのも無駄ではなかったなと心の中で呟くのだった。犯罪組織だったとしても客は客、問題になるかもしれないので結界と言うのは俺の配慮であり、そして向こうがアプローチを仕掛けてきた時の事を考えての事だった……

 

 

 

 

ゼロがエ・ランテルに飯を食いにいくと言って着いて来たが、正直ゼロとエドがあそこまで気に入っている理由が判らなかった。2階建ての平凡的な店。立地は冒険者組合に近く、冒険者組合の関係者が良く来るだろうから繁盛をしているだろうが、それだけだろう

 

「……こちら、水とメニューになります」

 

「ああ。すまない、ありがとう」

 

ぬっと現れた少女から差し出された水とメニューに内心ぎょっとしながらも、受け取る。人形のような美貌の少女だ……ヒルマやコッコドールが喜びそうだが、とても紹介する気にはならなかった

 

(一瞬で殺されるな)

 

これでも千殺と言う2つ名を持ち、並みの冒険者より強いという自負はあるが勝てない。あの少女にも、そしてもう1人の金髪の給仕にも勝てないと本能で悟った。特に、金髪の方は俺と同じレイピアもしくは刺突系の武器の使い手だろう。同じ得物を使うからこそ判る、相手が自分よりも格上だと

 

「色々あるな。ところで……あのおでんと言う奴は無いのか?」

 

「あれは炊き出しで作った奴ですので、通常のメニューでは無いんです」

 

そうか……とゼロが残念そうに呟く。俺も少し残念だと思った、あれだけ美味いと言っていたので食べて見たいと思っていたんだが……

 

(しかし凄いな)

 

南方の方のマジックアイテムだろうか?料理の絵がとても鮮やかに描かれている。それに下にある説明書きも丁寧だ……ぱらりぱらりとページを捲り、何を頼むかと考えているとゼロが手にしていたメニューを閉じ

 

「日替わり定食の特と言うのを2つ」

 

俺のまで注文する。日替わり定食の特?ページを捲り、その日替わり定食の特とやらを探す。銀貨3枚で毎日違うメニューを提供とかかれていた

 

「本日の日替わり定食の特は牛ステーキ定食となりますが宜しいでしょうか?」

 

牛肉で銀貨3枚なんてありえない、良い所銅貨だ。止めた方が良いと小声でゼロに言うが

 

「ああ、構わない。それを2つ頼む」

 

なんで牛肉なんか……しかも銀貨6枚なんてと思っていると店主はではと言って

 

「この定食の場合、牛肉はリブロース、ヒレ、サーロインなどの部位からとグラム数を選択することが出来ますがどちらにしますか?」

 

新たに差し出された紙には肉の絵が色々と書かれていた。リブロース?ヒレ?サーロイン?何を言われているのか全然理解出来ない

 

「この肉の違いは?」

 

ゼロがやや引き攣った顔で尋ねると店主は肉の絵を指差しながら

 

「こちらリブロースはジューシーで赤身の味わいと脂身の味わいも非常に良い物です。こちらのヒレは赤身肉で脂は少ないですが、肉質が非常に柔らかくお勧めです。そして最後のサーロインですが、赤身と脂身のバランスが非常に良く、ステーキに最も適した部位となります」

 

……なんだろう?牛肉のはずなのに、どれもめちゃくちゃ美味そうに思えてくるのだが

 

「お勧めは何になるかな?」

 

正直何がなんなのか良く理解できないので、お勧めは?と尋ねる

 

「そうですね。ステーキの味を楽しむのならばサーロインをお勧めします、柔らかく食べやすい部位ならばヒレ、リブロースはサーロインほど脂はありませんが、食べ応えは十分にあると思います」

 

……説明を聞くほど美味そうに思えてくるな……

 

「では俺はサーロインで、マルムヴィストお前は?」

 

「えーっとでは俺はヒレを」

 

俺もそこそこの歳なので脂が少ないというヒレを頼むことにする

 

「では次はグラム数ですが、こちらから200、250、300、350、400になります。定食だと400までになりますが、銀貨1枚追加で600まで選択できますが、どう致しますか?」

 

俺の想像してたのと違う。色艶のいい肉が並べられる。グラムと言うのは重さと大きさの事だったのか

 

「俺は600で、銀貨1枚追加だ」

 

「……300」

 

ゼロは迷う事無く、銀貨を追加してもっとも大きな600グラム、俺は少し悩んでから300と注文をした

 

「では最後にこちらライスの方は、ガーリックライスにすることが出来ますがどうされますか?」

 

その問いかけに俺もゼロもガーリックライスと返事を返した。これほど丁寧に肉のことを説明してくれるのだ、きっとどれも美味い。店主に任せた方が良いと、俺もゼロも思ったから……

 

(言っておくが、まだ何も言うんじゃねえぞ)

 

今日はただ飯を食いに来ただけだからなというゼロに判ったと返事を返し、最初に差し出された水を口にし、料理が来るのを楽しみに待つのだった……

 

 

 

ジューっと言う香ばしい音を立てる鉄板皿の上に置かれた肉の塊と、色のついた米、サラダとスープが俺とマルムヴィストの前に置かれる

 

「塩胡椒で下味をつけておりますが。こちらのガーリックバターソース、にんにく醤油もお勧めです、スープとライスはお代わり自由なので気軽にお声掛けください。それではごゆっくり」

 

カウンター席に座ったからか、店主自らが料理を運んでくれた。脂の跳ねる音と肉の焼ける音に思わず口一杯に広がった唾を飲み込み、ナイフとフォークに手を伸ばす

 

「柔らかい……信じられないな」

 

牛肉と言うのは総じて硬いと思っていたが、これは違う。吸い込まれるようにして消えていくナイフ、これは切れ味だけでは無い、肉自身の柔らかさもあるだろう。やや大きめに切り分け、フォークで持ち上げる。中がほんのりと赤く大丈夫か?と一瞬思ったが、あれだけの腕を持つ男だ。中が生と言うのはありえない、こういう料理の仕上げ方なのだと思い肉を頬張る

 

(美味い……ッ!?)

 

歯を跳ね返す程よい弾力、中はしっとりと柔らかく、口一杯に肉の脂が広がる

 

「……美味い。これが本当に牛肉か!?」

 

マルムヴィストも信じられないと言う感じで呟く。俺の知っている牛肉とはまるで違う、柔らかく、味わい深い。塩・胡椒だけと聞いていたが、まさか塩と胡椒だけでこの味とは……やはり肉も最高の品質だからだろう

 

「!」

 

マルムヴィストがにんにく醤油とやらに肉をつけて頬張ると、ガーリックライスとやらを凄い勢いで口に運ぶ。まるで何日も食事をして無いと言わんばかりのがっつき様だ。

 

(そんなに変わるのか?)

 

おでんを食べた時と同じだ。美味いのは間違いない、だがこんなにも慌ててかき込むか?と思いながらにんにく醤油をやらに肉をつけて頬張る

 

「美味い!こんなにも味が変わるのか!」

 

にんにくの強い風味とやや辛い、いや違う……上手く説明出来ないが醤油とやらの味が肉の味をそのまま食べるよりも何倍も良くしている。肉の旨味を引き出しながらも、強い肉の脂を少し抑えているようなそんな感じだ。俺もガーリックライスとやらにフォークを伸ばす

 

(合う、肉とガーリックライスが完全に合う!)

 

独特の食感のガーリックライス。これもにんにくの風味が良く利いている、だがそれだけではない、香ばしく焼き上げられたにんにくのスライスも入っていて、それが肉の味に満たされている口に更に深い味わいを与えている。1枚の肉を食べただけで、ライスが半分以上消えてしまった

 

「……マルムヴィスト、そのヒレ肉とやら少しくれ」

 

「じゃあそっちのサーロインも」

 

同じ肉では無い。相手がどんな肉を食べているのかと興味が沸き、互いにフォークで切り分けて肉を交換する

 

(俺の肉よりも赤味が濃いな)

 

脂は少なく、赤身が多い。そう説明を受けていたがいざ目の前にしてみると全然違うことが良く判る

 

「……美味ッ!あー、こんなに美味いなら、俺ももう少し大きいのを頼んでも平気だったかもしれないな」

 

マルムヴィストが隣で残念そうに呟く、俺とエドの話を信じていなかったから少なめに注文した事を悔いているのだろう。マルムヴィストから交換したヒレ肉を頬張る。サーロインよりも柔らかいのに、噛み応えがある。噛めば噛むほど肉の旨味が口の中に広がっていく……

 

「ガーリックライスのお代わりは?」

 

そう言われて皿を見ると、既にガーリックライスはお互いの皿から消えていた。お代わりは自由と聞いていたので皿を差し出しながら

 

「「お代わりを」」

 

マルムヴィストもお代わりを求める。肉はまだたっぷりと残っている、それなのに食べる米が無いというのは余りに寂しい。店主が厨房に引っ込んでいる間にサラダを顔を顰めながら頬張り、スープで流し込む。そんな俺を見ながらマルムヴィストは

 

「このサラダも美味しいが?」

 

「……うるさい」

 

あまり野菜は好きじゃないんだと言う。マルムヴィストは普通にサラダを肉と交互に食べ、スープを口にする。最初はあんなに渋っていたのに、今は馴染みのレストランに居るような素振りで料理を口にしている。俺はその姿を見ながら、肉を切り分けておく。ゆっくりと食べるのもいいが、ライスと一緒に食べるのならば、切り分けている方が遥かに食べやすいからだ

 

(しかし、この皿も凄いな)

 

鉄で作られた皿。それ自身も加熱されているのか、今もパチパチと音を立て、肉の脂が固まる事無く、温かいままで食べる事が出来る。しかも俺が驚いたのは温かいままで熱くは無い、肉が焦げる事無く温度だけを維持する。この温度の調整はどうやっているのかと本当に思う

 

「お待たせしました」

 

山盛りに盛られたガーリックライスを受け取り、切り分けた肉を頬張る。柔らかくジューシーな味わいに思わず口元が緩む

 

(やはりカワサキの腕は別格だ)

 

貴族相手に料理を出したとしても、カワサキの料理ならば文句を言う貴族など居ないだろう。南方と言うことで文句は言うだろうが、味がいいのに文句を言う馬鹿は居ない。これほどの味ならば本当に銀貨4枚では安すぎる

 

(しかし、スカウトに乗ってくるか)

 

カワサキは恐らく俺達が冒険者では無いと言う事は悟っているだろう。給仕2人が姿を見せないのは、俺達が害を為そうとすれば戦う為にだろう。だが今はそんな事は考えたくない。美味い食事を心から楽しむことだけを考えたいと思うのだった

 

「ありがとうございましたー」

 

結局ガーリックライスを2杯もお代わりし、俺もマルムヴィストもカワサキの店を後にした。腹ははち切れそうだが、食べたくて仕方なかったのだから仕方ない

 

「ぺシュリアンもサキュロントも絶対気に入ると思う」

 

「ああ。今度はぺシュリアンを連れてこようと思う」

 

サキュロントは性格的に問題があるから、一番最後だなと呟き、俺とマルムヴィストはエ・ランテル周辺のライラの葉の畑の見回りの為の馬車に乗り、エ・ランテルを後にするのだった……

 

 

 

何か仕掛けてくると思っていたが、普通に飯を食って帰っただけの八本指。だがそれに対しては違和感は無い。リアルでも最初は普通に食事を何回か繰り返してからと言うのは結構あったしな

 

「シャドウデーモン、一応追いかけておいてくれ。拠点とかを知りたい」

 

ただ向こうが動いてきたので、相手の拠点とこの周辺で何をやろうとしているのか?それを知る為にシャドウデーモンを追っ手に出しておく位はしておいた

 

「どうする?多分ちょっかいをかけてくると思うけど?」

 

「その時はその時で考えれば良い」

 

相手が何もしていないのに、こちらから何かを仕掛けるつもりは無い。それに普通に飯を食いにきたのなら客だしな

 

「じゃあとりあえず、こっちも休憩するか。クレマンティーヌ、シズ。何食べる?」

 

客も帰ったし、今度は俺達の昼飯だ。何を食べる?と尋ねるとクレマンティーヌははいはい!と手を上げて

 

「ドラゴンのステーキ食べたい!」

 

「……美味しい?」

 

「めちゃくちゃ美味しい」

 

「……カワサキ様。私も」

 

ドラゴンのステーキを希望するシズとクレマンティーヌに了解と返事を返し、アイテムボックスからドラゴンの肉を取り出して

 

「じゃあドラゴンのステーキ丼にするか」

 

ガーリックバターで焼いて、薄切りにして丼にする事にした。それならガッツリ食べれるし、それで良いか?と尋ねるとうれしそうに笑いながらそれで良いと言うクレマンティーヌ達に、笑い返しながらドラゴンの肉の準備を始めるのだった

 

「……カワサキさん、ちょっと良いですか?」

 

「うん?どうした?」

 

日が落ちる前の時間。この時間帯はモモンガさんとガゼフさんが来るので、この時間にやってくる客は居ない。貸切をやっているわけではないが、ガゼフさんが来ると言う事で半ば貸切になる時間と言うのを冒険者は理解しているのだ。だが今日はその時間にモモンガさん達はやってこず、日が落ち、夕食時のピークが終わった時間にモモンガさん達がやって来た

 

「王都より蒼の薔薇が応援に来てくださいまして、是非夕食をこちらでと」

 

あーなるほどねえ。蒼の薔薇かぁ……別に良いけどな

 

「良いですか?」

 

「構わないよ。入ってきてくれ」

 

料理を作る事に文句は無い。だから問題ないと言うとモモンガさん、ナーベラルに続いて、ラキュースさん、ガガーラン、ティナ、ティア、イビルアイと言う面子が店の中に入ってくる

 

「ガゼフさんは?」

 

「……すいません、少々厄介な貴族が来るかもしれないので、詰め所で待機していないと問題が起きそうなので」

 

そっか、じゃあ後で弁当を届けるよと言うとガゼフさんは真剣な顔をして

 

「いえ、そうなるとカワサキ殿に迷惑を掛けることになると思うので、お気持ちだけで十分です。では」

 

ガゼフさんが頭を下げて出て行った所で、俺は厨房から顔を出して

 

「城以来って事でいいかな。いらっしゃい、飯処カワサキに」

 

「ぷれいやーなのに店をやるんですね」

 

やや引き攣った顔のラキュースに俺は笑いながら

 

「料理人は飯を作るのが仕事だからな。所でモモン……もうめんどくさいから鎧解けよ」

 

「……はい」

 

蒼の薔薇を連れて来てしまったことを後悔しているのか、鎧を解除していなかったモモンガさんが鎧を解除する。それを見てガガーランが目を見開き

 

「あれ、魔法で作っていたのか?」

 

「そうらしいよ。俺は知らんがな」

 

魔法とかは俺は知らんと言いながら、シズに水とメニューを出すように頼む。クレマンティーヌは八本指の2人を警戒していた疲れからか、夜のピークが終わった今は眠っている。適度な休憩は必要だし、身構えてくれていたのも知ってるのでそれを怒りはしない。それに慣れない接客で、肉体的にも精神的にも疲れているのは知っているので、今は休ませてやろうと思っているし

 

「今日はアインズさんはステーキって言ってたけど、ステーキで良いのか?」

 

「はい、それでお願いします」

 

肉体改造の一環で肉を食べて筋肉を付けようという話だったが、一応確認しておく

 

「私もアインズ様と同じ物で」

 

「りょーかいっと、それじゃあ蒼の薔薇の皆さんも料理が決まったら……「私達もステーキで」

 

決まったら呼んでくれと言おうとしたのにステーキと言われた。これはあれか、同じ物を食べてって所か……俺は先ほどの2人に出した肉の写真をまた出して

 

「リブロース、ヒレ、サーロインってありますけどどうします?」

 

あとグラムもと問いかけるとラキュースさんは一瞬不思議そうな顔をして

 

「肉ってそんなに種類があるんですか?あ、あと敬語はちょっと嫌です」

 

俺達がぷれいやーって知っているから敬語はちょっとと言うので、咳払いしてから

 

「色々あるぜ?女性なら個人的にヒレ肉がお勧めだ、脂が少なめで食べやすい。ガガーランはそうだな、サーロインなんて良いんじゃないかな?」

 

思いっきり肉って感じなのでサーロインの写真を見せる

 

「判ってるな、俺はサーロインで頼む。それでグラムって言うのは何なんだ?」

 

「ガガーラン!」

 

イビルアイの叱責の声が聞こえるが、これくらい気安いとこっちも楽だ

 

「200、250、300、350、400、450、500、600グラム。これくらいの大きさだな」

 

肉の模型を見せるとガガーランはヒュウっと口笛を吹き、ラキュースさん達は若干遠い目をしていた

 

「俺は600グラム!」

 

予想通り過ぎて笑うな、ラキュースさん達は?と問いかける

 

「えーっと私は200で」

 

「私は250」

 

「私も」

 

双子のティナとティアは250と同じグラムで頼んできた、正直見分けがつかないので同じグラムでよかった

 

「カワサキさん、俺は200。「お前は300!ちゃんと食べなさい」……はい」

 

さりげなく量を少なくしようとするモモンガさんを怒る。食べてると思うんだけど、そんでも細い。俺がもし料理しか考えれなくなる前にモモンガさんの肉体改造は急務である

 

「では私も同じ量でお願いします」

 

ナーベラルは絶対モモンガさんと同じ量で、同じ料理だ。前にカツ丼にせずにカツをセパレートにしたら、半分泣きそうな顔をしていたので同じ料理にする事を決めた

 

「私はヒレで600で」

 

「……大丈夫?」

 

イビルアイが600と言う。別に作る事は問題ないが、あの小柄な身体で600グラムも入る?と心配になる

 

「大丈夫だ。それでお願いしたい、あ、後パンを2つとコーンスープとサラダ」

 

……めっちゃ喰うな、大丈夫か?と心配になりながら、了解と返事を返し

 

「他にパンとスープの欲しい人は?ああ、アインズさんは強制だ、喰え」

 

この世の終わりみたいな顔をするモモンガさんを無視して、他にスープとパンの欲しい人は?と尋ねる。ラキュースさんはスープのみ、双子忍者はパンとスープ、そしてガガーランだけは

 

「このライスを大盛りで、後スープ」

 

うん、なんと言うか予想通り過ぎて笑うな。俺は厨房に戻り、フライパンを5つ並べて、背後に控えていたシズに話しかける

 

「良し、じゃあシズも焼いてみような?」

 

「……はい、頑張ります」

 

人化している間は色々と覚える事が出来る、それはモモンガさんでも判っていたし、最近だんだん美味しいが判って来たシズ。そろそろ料理も教えてみようと思ったのだ、シズは言われた事、見たことを完全に真似するので多分大丈夫だろうと思いながら、シズに見せるためにゆっくりとステーキを焼き始めるのだった

 

「美味い!食べる用に育てた肉って言うのはこんなにも美味いのか!」

 

焼きあがった順に鉄板に乗せたステーキを出して行った。厨房で調理している間も美味しいという喜びの声が聞こえる

 

「柔らかくて、脂も少なくて食べやすいわね。それにこの鉄のお皿、これでずっとお肉が温かいわ」

 

普通の鉄板皿を加熱して、それに保存で温度を維持しているので肉が冷める事は無い。ステーキの課題と言うのは、やはり脂が固まってしまうことだが、こう言う所でも保存の魔法は実に便利だ

 

「美味しい、この味は驚き」

 

「牛肉はもっと硬いと思っていたけど、これは美味しい」

 

牛肉を食べる文化が無いと言うのは結構大きく響くな…ステーキと言えばかなりのご馳走と言う印象が俺にはあるんだけどな

 

「……私が焼いた」

 

「そうですか、シズ。良く頑張りました」

 

ナーベラルにはシズの焼いたステーキを出させた。俺から見ても完璧な焼き上がり、もしかするとプレアデスに人化をかけて料理を教えれば全員料理を覚える事が出来そうだし、アルベドも人化させたら料理の習得が早くなるかもしれない、特にシズは俺の動きを全部真似していたので、俺の肉を焼く癖、切り分ける癖も完璧に真似していて、そこは少し驚かされた

 

「ふう……」

 

「無理なら残しても大丈夫だが?」

 

イビルアイは600グラムのうち、150くらいで満腹そうな素振りを見せている。やっぱり600は無理と思った瞬間、イビルアイは俺が与えた腕輪を外す。一瞬だけ気配が変わり、再び腕輪を装備するとまた上機嫌で肉を切り分け、美味しそうに頬張る

 

「1度人化を解除すると、食べた分が全部魔力に変換されるし、お腹も空く」

 

……マジか、モモンガさんも口に手を当てて、マジで!?と言う顔をしている。

 

「そうなんですよね…イビルアイ、食べて食べて、腕輪を外して食べて食べての繰り返しなんです」

 

「食べても太らないとか卑怯すぎる」

 

「その能力、私達も欲しい。あ、パンのお代わりが欲しい」

 

人化の術の可能性の幅。それがイビルアイによって齎された

 

「さてと食事も終わりましたし、ゴウンさん、カワサキさん。いくつか聞きたいことがあるのですが良いですか?」

 

俺達をプレイヤーと知るラキュースさん達との話し合いが食事の後に待っているのだった……

 

 

 

 

シズちゃんの美味しい捜索記その7 ステーキ丼

 

クレマンティーヌのリクエストで今日の賄いはドラゴンのステーキ丼になった。そして目の前に置かれている丼を見て、食べきれるかな?と思わず心配になった

 

「うっわー!おいしそー!めっちゃテンション上がるー♪」

 

クレマンティーヌが物凄く嬉しそうに席に着く。カワサキ様もバンダナを外して、席に着き

 

「普段はもう少し彩とかを考えるんだが、今回はそういうのなし!でっかく、分厚く切ったドラゴンの肉とたっぷりの飯。野菜とかそういうの一切無しだ」

 

カワサキ様にしては珍しい言葉に少し驚く。カワサキ様は料理は彩りとバランスと仰っているので余計にそう思った

 

「「「いただきまーす」」」

 

3人で手を合わせていただきますと口にしてからもう1度丼を覗き込む。分厚く切られたドラゴンの肉、中はほんのりと赤く、そして外はしっかりと火が通っている

 

「うまあ……初めて会った時も食べたけどドラゴンの肉って美味しいよねえ」

 

「ジューシーなのにさっぱりしてる。食べやすさに加えて肉の味が牛肉よりも格段に良いしな」

 

美味しそうに丼を食べる2人を見ながら、私もフォークを手に取りドラゴンの肉に突き刺す。その大きさから力がいると思ったけど、おもったよりもすんなりとフォークはドラゴン肉に刺さった

 

(……良い香り)

 

味付けは塩胡椒とバター醤油、たっぷりとスライスされたにんにくが肉の中心に置かれているが、そのにんにくの香りが肉にもしっかりとしみこんでいる

 

「……あむ」

 

大きく切られているのでまずは小さく噛み千切る。ドラゴンの肉は見た目の大きさと比べて非常に柔らかく、簡単に噛み切れた。外側はしっかりと肉という食感なのだが、中は柔らかく、噛み締めると肉の味と脂が口一杯に広がる。少し濃い目の味付けで最初は辛いかもと思ったんだけど、今だとそれが逆に丁度いい

 

「……これは凄く好きです」

 

美味しいがわからないので、好きか嫌いかで考えるようにしている。それで行くとこの料理は凄く好きだ

 

「ドラゴンの肉が好きなのか?」

 

カワサキ様の問いかけに首を傾げる。ドラゴンの肉は美味しいと思う、柔らかいのに噛み応えがあって、とってもジューシーだ。

 

「もしかして味付けが好きなんじゃないですか?」

 

クレマンティーヌの言葉にも首を傾げる。ちょっと辛いと思うけど、これもお肉ととても良く合っていると思う

 

「……ごめんなさい」

 

私のせいでカワサキ様を悩ませていると思い、ごめんなさいと謝るとカワサキ様は違う違うと言いながら首を振る

 

「ああ、いやいや、怒ってるわけじゃないんだ。早く美味しいが判ると良いなと思ってな。もし食べてみたい料理とかがあったら教えてくれな」

 

「……ありがとうございます」

 

本当にカワサキ様もアインズ様もお優しい。シモベにここまで気を使ってくださるなんて……なんと心優しい御方なのだろう

 

「冷めないうちに食べような」

 

「……はい」

 

暖かい内が美味しいからと言われ、ステーキ丼を食べる手を再び動かし始める

 

「これ、前食べたのと違う肉?」

 

「ああ、前はヒレ肉だったけど、今回はリブロースにして見た。どうだ?」

 

前……多分、カワサキ様をクレマンティーヌが見つけた時の話なのだと思う。負傷しているカワサキ様を見つける事が出来なかったのはシモベとしてもっとも許されない事だろう

 

「脂も乗ってて美味しいよ、ヒレ肉はちょっとさっぱりしてるかなって思うし」

 

肉は部位によって味が違うみたい。私は2人の話を聞きながら、ゆっくりとステーキ丼を食べていたんだけど、ふと気付くと丼が空になっていて少し驚いた

 

(あ……食べれた)

 

全部食べれるかなあっと不安に思っていたのに全部食べる事が出来た。美味しい物を食べてる時は夢中で食べてしまうとルプーが言っていた。じゃあステーキ丼は美味しかったのかな……?

 

(ちょっとずつ判ってきたのかも……)

 

まだ少しずつしか判って無いけれど、美味しいが判りかけて来たのかも……

 

「カワサキー、私お代わり欲しい」

 

「……大丈夫?」

 

「全然平気」

 

クレマンティーヌがカワサキ様にステーキ丼のお代わりを強請っているのを聞きながら、私はそう思うのだった……

 

 

メニュー47 お弁当へ続く

 

 




六腕と蒼の薔薇が来ました、次回は前編は今回の話の続き、中編はカワサキの作ってくれたお弁当の話を書いて行こうと思います
そろそろ、ちょっと他のイベントも進めたい所ですね、どこで話を進めるかが悩む所です。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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