生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー53 マートフ

 

メニュー53 マートフ

 

看板を片付け、店の中に戻る。カウンター席には商人という装いの女が居るが、昼間に来た八本指の人間と同じ気配がする。横を通り過ぎようとすると小さく頭を下げてくる。その姿を見ながら厨房の中に入ると、シズ様がカワサキの腕を掴んでいた

 

「……そ、それは駄目って言われてます」

 

シズ様がその無表情を青くさせている。表情が変わっているのを見て、何事だろ?と思い厨房の中に間然に入る。カワサキの手には赤い骸骨マークの缶が握られていた

 

「麻婆豆腐に必要なんだよ、そんなに使いすぎないから大丈夫だよ」

 

使用禁止とアインズ様に言われている調味料を出そうとしている姿を見て、私も慌てて止めに入るのだった

 

「人間が食べたら死ぬよ!?」

 

アルベド様達は2週間近くたつのに、まだ調子がおかしい、人間が食べたら確実に死ぬと止めるが、カワサキは笑いながら

 

「大丈夫だってそんなに辛くしないから」

 

カワサキは辛党なので、とても信用できないと言うか……疑問に思っていたことを尋ねる

 

「なんでメニューに無い料理を作るの?」

 

口にすると自分でも驚くほどに言葉に棘があった、カワサキは少し驚いた様子だったが気分を害した様子もなく

 

「あのエドって言うの神人って奴じゃないかなって思ってな」

 

神人!?嘘でしょ!?思わず振り返ってカウンター席のエドを見る。水を飲んでそわそわしているが、多分あれは料理を待っているのだろう

 

「本当?」

 

「多分がつくけどな、俺の勘だと多分当たってる」

 

本当?神人は法国が管理しているけど、実際その数は少ないし、廃れた村だと神人が居たりする場合もあるので確実では無いと思うけど

 

「違ったら?」

 

「違ったら違った時。それでいい、あ、これ作ると凄い目とか鼻が痛くなるから、上に行ってた方が良いぞ?」

 

そう言われシズ様と一緒に2階へと逃げる。カワサキが用意してくれていた茶菓子を並べ、紅茶を用意する

 

「シズ様はどう思いますか?」

 

「……カワサキ様の意向に従う」

 

意見交換したかったんだけどなあ……あのエドって言うのがもし仮に神人だったとすればカワサキはどうするつもりなんだろ?なんか胸がもやもやするのを感じていると、シズ様が小さいノートに何かを書き始める

 

「何を書いているんですか?」

 

「……美味しいのを探すノート。見てみる?」

 

差し出されたノートを見ていると、何日に何を食べたとか、どんな料理だったかと言うのが事細かく記録されていた。ありがとうございましたと頭を下げてノートを返す

 

「……でもまだ美味しいって良く判らない」

 

「そのうち判ると思いますよ」

 

酷く気落ちした様子のシズ様にそう返事を返し、先日感じた嫌な予感はこれかなっと思ったのだが

 

(でもなんかまだありそう……)

 

むしろ前よりも嫌な感じは増していて、私は思わず眉を顰めるのだった……

 

 

 

 

マートフとタイサーンと言う言葉。可能性の話だが、あのエドという女性の母親はプレイヤーの可能性が浮上した。緑の無い場所、生きるのが必死と言う言葉もリアルを連想させたし、何よりもマートフと言う料理名と説明を聞けばどう考えても麻婆豆腐としか俺には思えなかった

 

「絹ごし豆腐と豚挽き肉」

 

中に入れる具材は豆腐と挽肉。仕上がりに彩りと香り目的で刻んだネギを入れるが、基本的にはこれ以上の具材を入れるつもりは無い

 

「ラー油、ごま油、鷹の爪、花椒粉、甜麺醤 、赤味噌 、豆板醤」

 

麻婆豆腐は具材よりもたっぷりの香辛料の味わいを楽しむ物といっても過言では無い。しかも口が痺れるように辛く、汗が出ると聞けば間違いなく四川風、いや泰山流とも言える品になるだろう。俺は腕まくりをして包丁に手を伸ばす

 

「まずはっと」

 

鷹の爪の茎に近い部分(5分の1ほど)を切り落とし、箸を突っ込み種を取り除き輪切りし、豆腐を賽の目状に切っておく、そしてネギを微塵切りにしておけばこれで基本的な下拵えは完了だ。次は中華鍋を手にし弱火の上に掛ける

 

「良し、やるか」

 

良く加熱された中華鍋にごま油をしき、鷹の爪、花椒を炒める。焦がさないように丁寧にかき混ぜながら香りを出すのだが、加熱によって出た蒸気で目も鼻も痛くなる。花椒を多めに使っているので、その痛みは凄まじい

 

「げほっ」

 

坦々麺を作ったときもそうだが、辛い料理を作る時は作る側も地獄を見るな。まぁ俺はそんなに気にならないので軽く咳き込む程度だが

 

「これくらいか」

 

甜麺醤、赤味噌、豆板醤を加え軽く火を通すのだが、鷹の爪、花椒の時よりも遥かに焦げやすいので、さっきよりも更に集中して火を通す。ある程度火が通ったタイミングで豚挽き肉を投入し炒めていた香辛料と混ぜ合わせる。焦げやすいのは変わらないので、常に混ぜ続けるが、その間に香辛料が挽肉に絡み、熱が加わった事で豚の脂が溶け出す

 

「よしっ、完璧」

 

挽肉の色が変わった瞬間に鶏がら出汁を加える。鶏の出汁がたっぷりの香辛料を伸ばし、豚の脂と交じり合い良いスープになる。ほんの少しだけこの段階で味見をする

 

「うん。よしっ次だ」

 

舌がピリッとする感覚と、喉を焼く辛味、そして痺れるような辛味が口に残る、これでこそ麻婆豆腐だ。鶏がら出汁を加えて5分ほど煮詰めるので、その間に別の鍋を用意し沸騰させる。ボコボコと煮立ってきたら豆腐を加える、豆腐を投入したことでお湯が冷え、再び沸騰してくるまでの間に水溶き片栗粉を準備しておき、お湯が再び沸騰したらザルで豆腐を鍋から取り出し、水分を切ってから中華鍋の中に加え煮詰める。既に豆腐を湯通ししてあるのでそこまで火を通す必要は無い

 

「ここだ」

 

水溶き片栗粉を回しながら中華鍋の中に居れ、豆腐を崩さないように御玉の裏で押すように混ぜ合わせ、全体的にトロミが出てきたら最後の仕上げにラー油をたっぷりと加え、中火にして全体を混ぜ合わせる。

 

「流石にシズとクレマンティーヌにここで待ってろとは言えんよな」

 

厨房全体に辛い空気が満ちている。辛い物に耐性の無い2人には酷な環境なので、やはり2階で待たせておいて正解だったと思う。後は火を切って、底の浅い皿にたっぷりと麻婆豆腐を盛り付け、刻んだネギと花椒粉をたっぷりと振りかけ、蓮華を添えて

 

「はい、お待ちどうさま。カワサキ特製麻婆豆腐だよ」

 

エドの前に置くと、彼女は大きく目を見開き

 

「本当にマートフなのね」

 

麻婆豆腐がマートフか、傾城傾国の事もあるし、どうも俺達の言葉は少しだけ訛って伝わっているように思える

 

「ご飯とかスープも付けれるけどどうする?」

 

「……ううん、今は良いわ。マートフだけで、後でお願いするかもしれないけど」

 

それならと氷水を入れたグラスと、水のピッチャーをエドの近くに置き、ごゆっくりと声を掛け、厨房へと引っ込む。鍋に残っている麻婆豆腐を小皿に取り分け、蓮華で掬い頬張る。強烈な辛味と舌を刺すようなピリピリとした痺れる味わい

 

「美味い」

 

汗がドバっと噴出すこの感覚、これでこそ麻婆豆腐だなと思い。俺は使った調理器具の後片付けを始めるのと同時にご飯とスープの用意も平行してだ。確実にご飯とスープ、それに麻婆豆腐のお代わりがあると確信していたから……

 

 

 

目の前の料理を見て、懐かしい気持ちで一杯になった。紛れもなくマートフだ、この鼻を突き刺すような辛い香りと赤いスープとその中に入っている白い何かと細切れにされた肉。間違いない、母が何度も作ってくれたマートフだ。共に差し出されたスプーンを手に取り、マートフを掬う。途端に広がる湯気に思わず笑みが零れる

 

「ふー……ふー」

 

熱いのがよく判っているので、息を吹きかけマートフを冷ます。息を吹きかけると湯気が動くのだが、その湯気にさえ刺激的な辛味が満ちている。良く息を吹きかけてからマートフを頬張る

 

「あふっあふ……ああ……美味しい……」

 

出来たて特有の熱さが口一杯に広がる。次に口に広がるのは舌を刺すような刺激を伴った辛味……これだ。これなのよ

 

(うん、間違いない。マートフ……)

 

子供の時に食べたマートフ。子供だったから辛いと泣いてしまうことが多かったが、母さんと同じ料理を食べたくて頑張って食べた。次の日に熱を出したり、お腹を下したりしたが、母さんと一緒に食べれるマートフは何よりも好きな料理だった

 

「ふーふー」

 

息を吹きかけて冷ます。口がピリピリとして痛むのだが、この痛みがあってこそのマートフだ。

 

(辛くて、熱くて、痛くて……でも美味しいッ!)

 

辛いスープの中に入っている細かい肉の歯応えと、白い何かの口の中で溶ける様な食感、白い奴は味こそないのだが栄養価が高いと言って、母さんが作っていたのを良く見た。村の人は誰も作れない、母さんだけが作れる物だった

 

「んっ……ふー」

 

流石に我慢し切れなくて、氷のたっぷり入った水を口にする。その冷たさが辛味を一瞬洗い流してくれるが、すぐに辛味が口の中に戻ってくる。

 

「ふーふーあむっ!」

 

肉がたっぷりと使われ、具材は肉と白い物のみと言うシンプルすぎる品。ほんの少しだけマートフの上に乗せられていた刻まれた野菜、それがシャキシャキと口の中で音を立てるのだが、その野菜の香りと辛味が口の中に一瞬だけ広がり、すぐにマートフの辛味で消えていく……

 

(汗が……止まらない)

 

顔だけでは止らず、身体にまで汗が浮かんでくる。懐かしさに加えて、この痛みを伴った辛味は食欲をそそり、マートフを掬う手が止まる事は一切無い。昼間の何時襲われるかと言う恐怖で滲んでくる汗とは違い、爽快感すら感じる汗だ

 

「んむう……ふう……」

 

流石に身体にまで汗が浮かんで来ると気持ち悪いので、ボタンを2つ外す。胸元が出るが、普段の服装からすれば大人しいものなので全く気にならない

 

「店主さん、マートフのお代わりとご飯くれる?」

 

マートフが無くなってしまったのでお代わりを注文するのと、ゼロとぺシュリアンが食べるという米を一緒に追加で注文するとカワサキは厨房から顔を出して

 

「それなら麻婆丼にしようか?」

 

良く判らないけど、こうして進めてくれるなら間違いのないメニューだろう

 

「じゃあ麻婆丼でお願いするわ」

 

了解と笑い、私が食べ終わったマートフの皿を厨房に片付けるカワサキ。額に浮かんでいる汗を布巾で拭い、冷たい水をグラスに移して待っていると

 

「はい、麻婆丼お待ちどうさま」

 

私の前に置かれたのは大き目の皿に盛り付けられたたっぷりのマートフ。その下には米なのだろう、白い粒が見える。スプーンを皿の中に入れ中身を掬い取る。米にマートフの赤い汁がたっぷりと掛けられている

 

「ふーふーあふっ、うんうん」

 

ちょっと食べた事が無い感触だけど、マートフと一緒に食べると辛味が強くなる様な気がする。食欲がどんどん湧いて来るのを感じ、食べる、水を飲む、汗を拭くを何回か繰り返しているうちにあれほど沢山入っていたマートフと米はすっかり姿を消していた

 

「美味しかった……」

 

ちょっと食べすぎとも思えるが、昼も食べておらず、太陽が落ちる時間までパンを1個か2個食べた程度だ。だから空腹だった腹が満たされ、気持ちが落ち着く

 

「美味しかったか?」

 

「うん、母さんのマートフとは違うけど凄く美味しかった」

 

母さんのマートフはもう少し辛かった様な気がするけど、これはこれで最高に美味しかった……そう告げるとカワサキはほうっと笑い

 

「では今度来る時はもっと辛い物を用意しよう。辛すぎて困るかなと思ってたが、まだ平気と言うならばな」

 

もっと上があると聞いて、今度こそ母さんのマートフが食べれるかもしれないと言う期待が生まれる。その後は軽く世間話をし、カワサキの性格などの分析をしていたんだけど、突如カワサキが話題を切り替えてきた

 

「所で1つ聞きたいんだが、ここら辺で腕っ節の強い奴か、強くなる事を求めている奴を知らないか?口が堅ければなお良い」

 

カワサキが世間話と言う感じで切り出してきたが、私はその一言で懐かしい料理を食べて緩んでいた気持ちが引き締まるのを感じた

 

「……なんでそんなのを探してるんだい?」

 

「んー俺とモモン、それとナーベなんだが、こっちに出て来たのは俺達の国を滅ぼしたモンスターを探しての事でね」

 

それは知っている。かなり有名な話で、私達の方にも南方から出てきた理由として聞いているから

 

「そのモンスターと戦う人間を集めようとしてるの?」

 

「まぁそんな所だな、もし良い人が居たら紹介してくれると嬉しい」

 

「まぁ、いたら声くらいはかけてもいいけどね」

 

カワサキは強い人間を探している……っと、国墜としと戦うなんて洒落にならないけど、カワサキを引き込むならそこを基点にするといいかもしれないわね……いや、逆にカワサキに取り入るのならそこを基点にするほうが良さそうだ

 

「またのお越しをー」

 

マートフとマートフドンで銀貨1枚と銅貨5枚。思ったよりやすかったわね、またのお越しをーと愛想よく笑うカワサキに背を向けて店を後にする

 

「とりあえずゼロに話しておくかな」

 

カワサキを引き込む切っ掛けは手に出来たと判断し、私は上機嫌でエ・ランテルを後にした。だが、エドは最後まで気付くことは無かった、カワサキの店の影が不自然に伸び、自身の影に潜り込んだことを……

 

 

 

 

 

エドが店を出た後。八本指とやらの拠点を知る為にシャドウデーモンを1体追跡に出した、これで向こうが何か仕掛けてくる時にも事前に対応できると思う。

 

「さてと、おーい!シズー、クレマンティーヌ!ちょっと手伝ってくれー!」

 

1階から声を掛けると、2人はすぐに降りてきてくれた

 

「……お掃除のお手伝いですか?」

 

「店の終わりの手伝い?」

 

俺にそう尋ねてくる2人に違うと返事を返し、アイテムボックスから道具を4つ取り出す

 

「……なにこれ?」

 

「……カワサキ様これはカメラですか?」

 

クレマンティーヌは首をかしげ、シズが思い当たる道具の名前を口にする。何度かカメラは見せてるしな、それも当然か

 

「これは監視用のアイテムだな。セットしておくと、自動的に撮影範囲を記録してくれるアイテムだ。これを店の出入り口と裏口、それと厨房と店にセットする」

 

ダンジョンや罠の通路に設置するアイテムで、効果はビデオカメラと同じ。ただ魔法で代用が利くし、そもそも課金アイテムだ。ちなみに俺が所有している理由はグリーンシークレットハウスを改造する時に課金して、残っていた物だ。なんの課金アイテムだったか忘れたが、カメラとかとセットだったから……

 

(あれ何のアイテムだ?)

 

……なんかの課金アイテムだったよな?あれ?でもこれなんのアイテムセットだ?……多分、多分だけど……

 

「……なんでしょうか?」

 

ヴァルキュリアの失墜の後だったと思うけど……もしかして間違えて購入した奴かもしれない

 

(結構やったしなぁ)

 

基本料理以外興味が無いので、料理に関するアイテムが出るガチャとか、アイテムセットを購入したけど、間違えて購入した物も多いからこれもそれかもしれないと納得する事にする。もしくは僅かな食材アイテムがセットになっていて購入した何かだろう

 

「セットするのはいいけど、急になんで?」

 

今までやらなかったのに急にどうしたの?と尋ねてくるクレマンティーヌ。理由はちゃんとある

 

「そろそろ俺が邪魔になってくる時期だろうからな。念のための備えだ」

 

余所者と言う事で様子見をしていた奴らがそろそろ俺の事を邪魔に思ってくる時期だろう、最初は南方の男の店だから潰れると思っていた者が多数いただろうが、ガゼフさんや有名になったモモンガさんに、冒険者組合、魔法詠唱者組合の人間が足繁く通う店となってきた今。そろそろ何らかのアプローチを仕掛けてくる頃合だろう

 

「嵌められて犯罪者にされても詰まらん。自分の身は自分で守る」

 

1回ヤクザ共に麻薬を厨房に置かれかけたことがあったが、その時はたっちさんが偶然来店していて、そのヤクザ共は麻薬の常習犯として即座に逮捕された。たっちさんが言うには麻薬で中毒者を作ってるって事にして、俺を逮捕させて店を乗っ取るか、俺を脅して金を巻き上げるつもりだったと供述していたらしい

 

「ライラの粉末とか言う麻薬が出回ってんだろ?気をつけるに越したことは無い」

 

「あーそう言えば言ったね、八本指が主流になってるやつ」

 

粉末タイプの麻薬ほど恐ろしいものは無い。料理に混ぜられたり、調味料に混ぜられたら俺でもそう簡単には気付けない

 

「……シャドウデーモンがいても不安なんですか?」

 

シズの言葉に影がざわめく。それは紛れもなく、シャドウデーモン達の動揺なのは明白だ

 

「別にシャドウデーモンを信用して無いわけじゃない、ただな?殺されたり、行方不明にされると、俺の所で何かあったって思われるだろ?」

 

別にシャドウデーモンを信用していないわけでは無い、ただ俺やモモンガさんに対する反応を見れば、最悪の結果を想定しなければならないだけで、これで殺されでもしたら、それこそ俺の店が何か後ろめたいことをしているという証拠になりかねない。ナザリックのシモベは過激思考だから、そこが不安要素なのだ。俺達の事を心配してくれているのは嬉しいけど

 

「だからこれで記録しておくという訳だ」

 

証拠があればなんとでもなる。特に映像と声付きの記録なんてこれ以上に無い証拠だ

 

「そしてシャドウデーモンには俺達がいない時に、店に誰か侵入してきたら、これを起動させるという役目を与えたいと思う」

 

ずっと録画していたら、流石に容量が一杯になるだろうしな。俺はビデオカメラを掲げ、操作方法をシャドウデーモン達に伝えてから

 

「じゃあクレマンティーヌはシズと一緒に店の入り口と店の中を頼む、俺は裏口と厨房にセットしてくるから」

 

「りょーかい、行きましょう。シズ様」

 

「……うん」

 

なんかずいぶん仲良くなったな。椅子を手に店の入り口が見える場所にカメラをセットしようとして、こっちの方がいいと思う。そうですか?と言う2人の声を聞きながら、俺も椅子を持って行きカメラを設置しながら

 

(これを使わないで済めばいいんだけどなあ)

 

モモンガさんには言って無いが、俺はリアルではヤクザとかそういう関係の相手と散々遣り合ってきた。何処の世界にもそういうやつらは居る、特に今俺は目立ってきているからなおの事目障りだろう。下手に俺が捕らえられたりしてみろ

 

「異世界終了のお知らせだな」

 

モモンガさんとナザリックの戦力が俺の奪還で暴れだしたらと想像するだけでも怖い。これは言うならば、保険であり、そして異世界が滅ばないための備えと言えるからな、ツアーとかと事を構えることになっても困るしと思いながら、麻婆豆腐の残りを頬張る

 

「うーん、やっぱりもうちょい上でも大丈夫か」

 

この世界の人間は辛味に弱いと思っていたので少し辛さを薄くしたが、俺には少し物足りなくてラー油と一味をたっぷりと振りかけ、山椒もたっぷりと入れる

 

「うんうん、これこれ……ふいー」

 

食べる毎に汗が吹き出る。喉を焼く辛さと熱さ……これこそが麻婆豆腐。1人で納得して頷きながら麻婆豆腐を頬張っているとクレマンティーヌが厨房に来て

 

「カワサキ、お客さんなんだけど……」

 

クレマンティーヌが俺が手にしている蓮華と汗をかきながら唸っている俺を交互に見る。俺は少し考えてから

 

「食うか?」

 

「食べないッ!!!」

 

腕で×を作って叫ぶクレマンティーヌ。美味しいんだけどなあ……そこまで拒絶するか?と最後の1口を頬張り氷水を飲み干す

 

「なんかトラブルでもあったか?」

 

酔っ払いとか、貴族とかそういうのか?と尋ねる。クレマンティーヌはジト目で俺を見つめる、賄いまだ出してないからなあ……1人だけ食べてたらそれは睨まれるか……悪いと謝るとクレマンティーヌは小さく溜息を吐いてから

 

「お客さんなんだけど、カワサキも来てくれる?」

 

もう営業終了の看板は出してあるんだがと思い、酔っている客でも来たかな?と思い厨房を出る

 

「おや、これはまさかのお客さんだ」

 

そこにいたのはローブ姿の老婆……こちらから連絡しようと思っていたリグリットの姿だった

 

「インベルンの嬢ちゃんがずいぶんと面白いことになってるようでね。気になってきたんだよ、何か珍しい物をくれるかな?」

 

どうも今日の賄いはもう少し後になりそうだ。俺は肩を竦め、カウンター席へどうぞとリグリットに声を掛けるのだった

 

 

メニュー54 炊き込みご飯

 

 




今回はシズちゃんの美味しい日記はお休みです。理由はまぁ、劇物なので下手なトラウマを与えないという目的です。次回は「霧崎蒼華」さまからのリクエストの炊き込みご飯で書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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