生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー59 食べ歩きグルメ その3

メニュー59 食べ歩きグルメ その3

 

バジウッドが買ってきたケバブと言うカワサキの料理に齧り付く。生地はもっちりとして歯応えが良く、新鮮な野菜はシャキシャキとしている

 

(なんだろうか、このソースは)

 

甘酸っぱいソース。なんとも言えない味なのだが、その甘みと酸味が実に生地と野菜にあっている

 

「……ん、これは羊か」

 

「そのようですな、しかし柔らかいし、癖が無い」

 

中に挟まれているのは羊の肉だった。柔らかく、癖がない。羊の肉と言うのはもう少し癖のある物だが……いや、臭みの強い牛肉を爺とロクシーにも食べれるように仕上げるカワサキだ。羊くらいわけないと言う事なのだろう

 

「いや、美味かった!」

 

ケバブとやらを食べ終え、ビールと言う南方の酒を飲む。エールよりも鋭い切れ味と、刺激。これほどの酒を所有しているのなら、あのときに出してくれれば良い物を……ふとそんなことを考えながらステーキ串とやらに手を伸ばそうとするとバジウッドが

 

「それで陛下、なんで変装してまでエ・ランテルにいるんですかい?」

 

ジト目のバジウッドに伸ばしかけた手を引っ込め、片手に持っていたビールの入った紙コップも机の上に戻す

 

「祭りの人混みに紛れ、ランポッサ3世と会談を開催する事になっている。場所はカワサキの店だ」

 

向こうからそう声を掛けてきたのだ、故に私と爺の2人だけでこうしてエ・ランテルへと潜入した

 

「他の場所ならば罠を疑うが、カワサキがそんなことをするとは思えないしな」

 

「そ、それはそうですけど、些か危険すぎるのでは?」

 

カワサキと言う男は料理に対してはとことん真摯である。毒を混ぜろとかの命令には絶対従わないだろうし、混ぜようとする相手がいれば激怒するだろう。あれはそういう男だ、自分の仕事に誇りを持つ。だからこそ、私と爺はランポッサ3世からの手紙を受けてここまで来たのだから

 

「ところでレイナース、お前は何を食べている」

 

白い雲と氷菓子を手にしているレイナースにそう訪ねる。レイナースはゆっくりと振り返り

 

「こちら綿飴とかき氷になります。甘い菓子です」

 

カワサキの作る甘い菓子と聞いて黙っているわけには行かない。だが変装しているとは言えやはり大手を振って出歩くことは出来ない

 

「……バジウッド」

 

「へい」

 

なのでバジウッドに買いに行かせることにし、机の上のステーキ串に齧りつく。じっくりと焼かれ、中まで火が通っている肉は硬いのだが

その硬さが逆に美味いと思わせてくれる

 

「爺。大丈夫か?」

 

魔法で若々しく見えているが、高齢の爺に大丈夫か?と尋ねると爺は串から肉を外して、ナイフで小さく切り分け

 

「……うむ、うむ」

 

ゆっくりと噛み締め満足そうに頷いている。食べれているようだから大丈夫そうだなと思いながら、賑わっている祭りの光景を見ながら

 

(さて、どんな会談となることやら)

 

会談は祭りの最終日に行われる。それなのに初日に来たのは、言うまでも無い。カワサキの料理を食べるためだが、それ以上に私は、緩やかに衰退していた王国を今更ながらに変えようと尽力し始めたランポッサ3世に興味が湧いたのだ。レイナースとバジウッドの2人が覇気に満ちていると報告したあの男がどう変わったのか、それを見たいと思ったのだ

 

「いや、しかしこの串カツは美味い」

 

この見覚えの無い黒いソースに漬けられた揚げた肉、肉自体はそう良い物では無いだろう、だが味付けと綺麗な油で揚げている事で風味を良くしている

 

「ただカワサキの料理を食べに来ただけじゃないですよね?」

 

買出しから戻って来たバジウッドの言葉に私と爺は無言でビールを口にすることで誤魔化すのだった……そんな事は無いとは言い切れなかったからだ……

 

 

 

 

祭りの2日目。私は早朝からカワサキ殿の店に向かっていた。昨晩国王から届けられた信じられない手紙の内容をカワサキ殿に伝えるためだ。正直かなり気が重い……無茶な頼みと言う事も理解しているからだ

 

「……おはよう」

 

「シズ殿。おはよう」

 

店先の掃除をしていたシズ殿におはようと頭を下げると、店の裏手の方から

 

「こっちは終ったよー」

 

「き、綺麗にな、なった……」

 

双子と思わしき少年と少女が箒を手に、出てきて私と顔を合わせる

 

「おはようございます?」

 

「……お、おはよう……ございます?」

 

不思議そうに挨拶をしてくる2人に私もおはようと返事を返しながら、誰だろうか?と思いはしたが、今はそれ所では無い

 

「シズ殿。カワサキ殿かゴウン殿はいらっしゃるか?」

 

祭りが始まる前の準備で忙しいと判っているが、どうしても早いうちに話しておきたかったので、尋ねる

 

「……いる。でも忙しいから、会ってくれるかはわからない」

 

「申し訳ないが、呼んで頂けませんか?」

 

シズ殿は少し考えた素振りを見せた後、分かったと返事を返し、店の中に引き返していく。朝靄がある中双子と共に残される、じっと観察してくる2人。警戒しているというのが判ったので

 

「私はガゼフ・ストロノーフと言う。リ・エスティーゼ王国の戦士長を務めている者だ、決して怪しいものではない」

 

恐らく話の中に何度か出ていた。ゴウン殿とカワサキ殿のご友人のご子息だと思い、自己紹介と共に怪しい者では無いという

 

「あ、アウラ・ベラ・フィオーラ……」

 

「マーレ・ベロ・フィオーレです、弟です」

 

おどおどしている少女が妹と思ったのだが、逆だったらしい……これほどの幼子だとどんな話をすれば良いのかと困惑しているとガラっと音を立てて店の扉が開き

 

「ガゼフさん?どうかしたのか?」

 

カワサキ殿が店の外に出てきてくれた事に感謝しながらも、私は酷く緊張しながら

 

「そのカワサキ殿。無茶な頼みと言うのは重々承知しているのですが、1つお願いがあるのです」

 

もし駄目と言われても根気良く頼むつもりで深く、深く頭を下げながら

 

「3日目の夜に国王と帝国の皇帝がカワサキ殿の店で会談を行いたいと言っているのです。無理は承知しているのですが「別に構わないぞ?」……はい、無理と……はい?」

 

余りにあっさり良いぞと言われて一瞬呆けた。カワサキ殿は掃除が終りましたーと言うアウラとマーレの双子の頭を撫でながら

 

「そりゃ祭りがあるからそこまでしっかりしたのは無理だから、それなりになるけど……それで良ければ」

 

「無理なお願いをしているのは承知しておりますので大丈夫です」

 

むしろ断られると思っていたので了承してくれたカワサキ殿には感謝しかない

 

「支度金はこれでお願いします」

 

白金貨5枚。これで何とかとお願いし、私は了承を取れたと報告する為に兵舎で待っている王国では数少ない魔法詠唱者の元へと走るのだった

 

「カワサキ様。なんでそんな無茶なお願いを聞くんですか?」

 

「んーまぁあれだ。店を構えるのを手伝ってくれたし、その礼って所だな。じゃ、そろそろ朝ご飯にするか。今日はアウラとマーレがいるからホットケーキにしたぞー」

 

「い、苺のソースはありますか?」

 

「ぼ、僕はチョコレートソースのほうが好きなんですけど」

 

「勿論ちゃんと用意してるさ」

 

カワサキの言葉に嬉しそうに笑うアウラとマーレを連れ、カワサキは店へと引き返して行くのだった……

 

 

 

 

豊穣祭の期間中は売り上げが広場に張られる。それはその店がそれだけ繁盛し、そして美味しい食事を提供していると言う一種の判断基準になるからだ。3日間同じ料理を出す店もあれば、3日間全部バラバラの料理を出す店もある

 

(えーっとカワサキさんのお店はっと)

 

やはり美味しいものを食べたいと思うのは皆同じだ。だから祭りの開始の鐘が鳴る前に昨日の売り上げを確認に来たのだが

 

「え……嘘!?」

 

カワサキさんの店は売り上げの上位から遠く離れていた、18位。それが初日のカワサキさんの売り上げだった

 

「絶対おかしいと思うんだけど、ぺテルはどう思う?」

 

あれだけ売り上げていたのにと思い、宿に戻りペテル達の意見を求める。するとダインが顎髭を摩りながら

 

「売り上げを誤魔化されて集計しているって可能性であるな」

 

「あーなるほどなあ、カワサキさん、南方の人だしな」

 

要は人種差別である。元々こちらの祭りなのだから飛び入り参加のカワサキさんを優勝させまいとしているのでは?とダインとルクルットが言うが、ペテルは違いますよと私達の意見を真っ向から違うと断言し

 

「カワサキさんの安い値段設定では、値段を高く設定しているほかの店に勝てないと言う事です」

 

確かに他の店の値段は高く設定されていたっけ、基本的に銅貨1~5枚で販売しているカワサキさんだが、他の店は銅貨8枚が最低価格だ。

 

「ですが、今日は違うと思いますよ」

 

ペテルはそう笑い窓の外を見る。何が見えるんだろうか?と思いルクルット達と窓の外を見る

 

「わ。凄い事になってる」

 

「本当であるな」

 

他の料理店の出し物には目もくれず、カワサキさんの店へ向かう行列が見える

 

「これ以上遅れると私達も料理が買えなくなるかもしれないですね。行きましょう」

 

そりゃ不味いと言うルクルットとダインに先に行きますよ?と声を掛けて宿を出る。

 

「凄い行列だ」

 

「本当ですね」

 

昨日の比ではない行列が出来ている。やっぱり昨日の料理の評判が良かったのだろうか?と思いながら長い行列に並ぶ

 

「あれ?揚げてる音がしませんね」

 

「本当だ」

 

昨日は揚げ物を作っていたので、並んでいて小気味良い揚げ物の音がしていた。だけど今日は揚げ物の音がしない、もしかして別の料理を作っているのだろうか?と思っていると駆け足でルクルット達が来て、私達の後ろに並ぶ

 

「やっべーギリギリセーフ」

 

「あ、危なかったのである」

 

ルクルットとダインの後に同じように走ってきた一団の姿があり、2人が危ない危ないと額の汗を拭っていた

 

「遅くまでお酒を飲んでいるからですよ」

 

「いやーあっはは、美味かったからなあ」

 

カワサキさんの店で買った串カツとステーキ串は非常に美味しかった。だが酒飲みの2人はそれを摘まみに大量の酒を飲み、ついさっきまで眠っていた。飲むなとは言わないが、もう少し節度を持って飲んで欲しいと思う

 

「ん?この匂いは……」

 

「味噌汁であるか?」

 

カワサキさんの店の方から漂って来た香りは、定食を頼むと必ず付いてくる味噌汁の香りだった。今日の出し物の料理は味噌汁なのだろうか?と思い並んでいると買い物を終えて列から出てきた人達の手には紙コップが握られていて

 

「うまあ、この独特の味がいいなあ」

 

「うんうん。昨日の串カツとかも美味かったけど、これはまた美味い」

 

串に刺された肉を頬張りながら歩き、紙コップの中身を飲んでいる。やはり煮込み料理なのだろうか?と思いながら列に並び、大分待ってカワサキさんの店の前に来る事が出来た

 

「おう、おはよう」

 

「「「「おはようございます」」」」

 

カワサキさんに笑顔で挨拶を返し、カワサキさんの手元を見ると味噌の中に串に刺された具材がぐつぐつと煮られている

 

「うお、うまそー。カワサキさん、これは何なんだ?」

 

「どて煮。味噌で肉とか卵を丸々煮たものでな、おでんの仲間だ」

 

おでん!あの時の炊き出しのおでんは絶品だった。それの仲間と聞けばどうしても期待は膨らむ

 

「えーっとじゃあ1つください」

 

ペテルの言葉にカワサキさんは苦笑して

 

「悪いがこれは1つって言う単位で販売してないんだよ。これ見てくれ」

 

カワサキさんの指の先には牛肉、豚肉、鶏肉、大根、卵、こんにゃく、じゃがいもなどの食材の名前がかかれていて、その下に銅貨1枚や2枚という値段が書かれていた

 

「1個からでも全然OKだ。どうする?」

 

なるほど、これが行列が出来ていた理由かと納得する。最初に並んでいた私とペテルが先に注文を聞かれたので

 

「えーと鶏肉2本と大根、それと卵を1つ」

 

「じゃあ私は牛と豚と鶏をそれぞれ1本ずつ、それと卵とこんにゃく」

 

私達の注文を聞いて、カワサキさんが紙コップに料理を入れてる間にクレマンティーヌさんとシズさんが問いかけてくる

 

「食べ歩くなら卵とか、蒟蒻は串のもあるけどどうするー?」

 

これから宿に戻る予定なので、少し考えてから串じゃなくても大丈夫ですと返事を返す。

 

「ニニャは銅貨6枚ねー」

 

「……ペテルは銅貨8枚」

 

一品ずつ値段が違うので、私とペテルはそれぞれ銅貨で支払いを済ませ、列からはける

 

「んー良い匂い」

 

「本当だ」

 

味噌の良い香りと紙コップがじんわりと温かい。この香りと温かさでどうしても料理への期待は上がる

 

「買った買った!」

 

「大量である!」

 

大分買い込んだであろうルクルットとダインに苦笑しながら宿に戻る。その途中で葡萄のジュースを買うのも勿論忘れない。宿の机の上に料理を並べ、いただきますと言って串を手に取る

 

「ん!美味しい!味噌の味がいいですね」

 

鶏肉はたっぷり煮られていたので非常に柔らかい、それに味噌の味が染みこんでいて美味しい

 

「はふはつ!あひい……」

 

ルクルットはじゃがいもを頼んでいたからか、紙コップではなく、紙の皿で料理を持って帰っていたんだけど、じゃがいもの熱さに目を白黒させながら、ビールを口にしている

 

「美味いけど、あっつ」

 

「熱いのが苦手なのだからもっとゆっくり食べるのである」

 

ふーふーっと息を吹きかけ、大根を食べるダインだが、やはり熱かった様ではふはふ言いながら食べている

 

「うん、卵も美味しい。中まで味が染みてる」

 

卵の串を食べて美味しいと笑うペテルを見ながら私も卵の串を取る

 

(美味しい)

 

卵がぷるぷるしていて、その食感と甘辛い味噌の味が良く合う。葡萄ジュースを口にして、ふーっと溜息を吐きながら、仲間とこうしてわいわいと食事が出来ること、それがとてつもなく幸運で恵まれていることなのだと私は思った

 

 

 

 

アウラとマーレが楽しそうに歩いているのを見ていると、私まで楽しくなってくる。祭りと言うのはリアルでは無いイベントだったからな。

 

(ゲームと似てるんだなあ)

 

出店で色々な料理を食べ、芸人の芸を見て笑う。確かにこれは面白い催し物だと思う

 

「んー、あんまり美味しくないですね」

 

「……うん」

 

「そうか?」

 

出店で売っていた丸い菓子、そう悪い味ではなかったと思うのだが……いや俺の舌がお子様って可能性もあるか……正直何を食べても美味しいと思うし……

 

(やっぱり俺の味覚かな)

 

リアルでの液体食料に慣れた俺では何を食べても美味しいと思うのかな?と思いながら催し物を見て回っているとフラフラしている2人組みを見て酔っ払いか?と思ったのだが

 

「あ、モモンさん。今回はこのような機会をいただきありがとうございます。おい、ゼンベル。挨拶しろ」

 

「いや、待ってくれ。無理だ、転ぶ、転ぶ!」

 

……ザリュースとゼンベルでした。人化して尻尾がなくなって上手くバランスが取れずフラフラしていた。やはり人外に人化を掛ける事により、ある程度の動きに個体差が出るようだ

 

「楽しんでいるようだな?」

 

「はい、リザードマンにはこのような催し物をやると言う事が無いので、良い勉強になります」

 

頭のいいザリュースは貪欲に知識を学んでいると聞いている。人化での動きにくさもまた勉強であり、そして復興している最中の自分達の集落を更に発展させると言う事を考えているようだ

 

「では失礼します。いい加減に慣れたらどうだ?ゼンベル」

 

無理だと言いながら、ザリュースに手を引かれ歩いているゼンベルを見ていると、黄金の輝き亭の方からラキュースさんとイビルアイが歩いてくる

 

「あ。モモンさん、どうも」

 

「もぐもぐ」

 

ラキュースさんは挨拶を返してくるが、イビルアイは口をもぐもぐさせていて、アウラとマーレの目付きが鋭い物になるが

 

「んぐ、失礼した。モモン」

 

飲み込んだ後に失礼な事をしたと謝罪して来たので、アウラとマーレの目付きも元に戻った

 

「連れているお2人はご友人の子供さんでしょうか?」

 

「ええ。アウラ、マーレ、2人ともご挨拶を」

 

若干観察するような視線をしていたが、私が子供を護らなければならないと言っていたので、2人を見てどこか納得してくれたようだ

 

「あ、アウラ・ベラ・フィオーラ……」

 

「マーレ・ベロ・フィオーレです、弟です」

 

2人がペコリと頭を下げ、すぐに私の後ろに回る。やはり人間に挨拶するのは嫌という感じだが、すぐに私の後ろに隠れたので、人見知りと判断してくれたのか、幸いラキュースさんもイビルアイも不快そうな顔はしなかった。

 

「黄金の輝き亭で菓子を売ってる、それと銀の林檎亭の料理はそこそこ美味しい、有名だがドラゴンの翼は行かないほうがいい、不味いし、高い。食べた中ではカワサキの店が一番美味いが、黄金の輝き亭と銀の林檎亭もカワサキの店には劣るが、それなりに美味しいぞ」

 

と美味しい店の事を教えてくれ、ラキュースさんは苦笑しながら

 

「イビルアイの味覚は結構しっかりしてますから、見に行ってみるといいかもしれないですよ」

 

では、と頭を下げ、すれ違っていく2人を見送る。俺は少し考えてから

 

「折角紹介されたし、黄金の輝き亭に行ってみるか」

 

「「は、はい!」」

 

折角紹介されたし、店も近いので黄金の輝き亭に向かったのだが、俺を見ると一瞬ざわっと言うざわめきが広がる。丁度空いている席があったのでその席に腰掛け

 

「菓子が美味しいと聞いたのでそれを3つ」

 

「は、はい!判りました」

 

給仕が厨房に引っ込み、準備が出来ているのか割りとすぐに料理は運ばれてきた

 

「ほう」

 

「中々綺麗ですね」

 

「……うん」

 

グラタンなどの使う皿にクリームとカットされたフルーツ。見た目はケーキのようだなと思う。頂きますと言ってフォークを手に取る

 

「うん。美味しいじゃないか」

 

「……美味しいです」

 

「意外に美味しいですね」

 

ケーキのようと思ったのは間違いではなく、ちょっと固めのスポンジケーキの上にクリームが塗られていて、その上にフルーツ。クリームは卵の風味が良く、それが固めのスポンジとよく合っていると思う

 

「お口に合いましたか」

 

突如声を掛けられ、驚きながら振り返るとにこにこと笑う男性が机の横に立っていた

 

「ええ、とても美味しいです」

 

少なくともこの街で、カワサキさんの次くらいには美味しいと素直に認めてあげてもいいと思う

 

「それは良かった。もしご満足いただけたのならば1つ、私のお願いを聞いてはいただけないでしょうか?」

 

冒険者に依頼か?と思ったのだが、男性の頼みは俺の予想とは異なる物だった

 

「カワサキさんと1度話をしたいのです」

 

「カワサキさんと?」

 

何か害を成すのでは?と思い、思わず睨むと男性は手を振りながら

 

「昨日と今日のカワサキさんの料理を口にしたのですが、実に美味しい。同じ料理人として、是非一度話をして見たいと思うのです。どうでしょうか?」

 

どうでしょうか?と言われても俺の一存で決めれる内容では無い

 

「1度カワサキさんに聞いては見ましょう」

 

当たり障りの無い社交辞令として返事を返すと男性はにっこりと笑い、よろしくお願いしますと言って厨房に引き返していく。料理長と呼ぶ声が聞こえてくるので、それなりに地位のある人間だと思うが、そんな人間が何故カワサキさんと話をしたいのだろうかと思いながら

 

「何か飲み物を3つ」

 

思ったより味が濃くて胃がもたれたので、飲み物を頼む。黄金の輝き亭の料理長がカワサキさんに何の用事なのだろうかと考えずにはいられないのだった……

 

 

 

 

一方その頃……王都では

 

「バルブロ、ザナック、ラナー。私はエ・ランテルの豊穣祭に参加するが、お前達はどうする」

 

カワサキに出会うまではやつれ、覇気など微塵も無かったランポッサだが、カワサキの食事を口にするようになってからは信じられないほどに身体が厚くなり、そして王気とも言える独特な覇気を纏うようになっていた

 

「私は、そのような祭りに出るつもりはありませんので。用がそれだけならば失礼します」

 

バルブロはくだらないと言わんばかりに鼻を鳴らし、王の執務室を出て行こうとする

 

「バルブロ。王とは民あっての物であるぞ?」

 

「……失礼します」

 

ランポッサがそう声を掛けるが、バルブロは振り返る事無く執務室を出て行き、ランポッサは寂しそうにため息を1つ吐いて

 

「ではザナックお前はどうする?」

 

「私は是非ご一緒させていただきたく思います」

 

ランポッサの問いかけにザナックは共にいくと返事を返し、ラナーもまた共に行きますと返事を返す

 

「うむ。では夕刻、王族専用の馬車にてエ・ランテルへ向かう。1日あれば十分であろう、供を1人連れることを許す、準備を早急にすませるように」

 

判りましたと返事を返し、執務室を出て行く2人を見送ったランポッサは、椅子に背中を預け目を閉じる。その目が開かれた時、その目には覚悟の色が強く映されているのだった……

 

「ふん、民あっての王だと?くだらない、王がいるからこそ民が生きる事が出来るのだ」

 

自室に戻ったバルブロはランポッサへの愚痴を言い続けていたが、にやりと笑いながら

 

「カワサキとアインズだったか、鬱陶しい連中だ。ここら辺で消えてもらうとするか」

 

バルブロは簡易的な変装を済ませ、ランポッサ達が王都を出た所で、闇夜に紛れ王城を後にするのだった……

 

 

メニュー59 食べ歩きグルメ その4へ続く

 

 




次回で食べ歩きグルメは終わりになりますが、あんまり食べ歩きになってないって言うのは許してください書いてみたかったんです、そしたら予想よりも遥かに難しかったんです……これはまだまだ勉強が足りないと実感しましたが、やってみたからこそ判る事でとても勉強になりました。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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