生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー61 会食準備

メニュー61 会食準備

 

夕方の鐘が鳴り、祭りの終了となったが、俺としてはまだ休めないんだよな。夜にジルクニフ皇帝とランポッサ国王が来るとなれば、むしろここから忙しくなる所だ

 

「……皇帝と国王が来るってなにがどうしてそうなっているんですか?」

 

「それは俺が聞きたい」

 

いや別に客が来る事に文句は無い。だけど祭りの後すぐに来られてもと俺も正直思っているが、引き受けた以上はやり遂げるしかない

 

「シホとピッキーも悪いけど手伝って貰えるか?」

 

時間的な余裕はないので、シホとピッキーにも手伝ってくれと頼む

 

「お任せください。アインズ様とカワサキ様の素晴らしさを見せ付けれるような料理を作ります」

 

「勉強と思い、お手伝いさせて頂きます」

 

戦力的には十分なのだが、問題はそこでは無い。ジルクニフ皇帝は20代後半、ランポッサ国王は60代で、甲殻類アレルギー持ちとなると作る料理にも細心の注意を払う必要がある。

 

「メニューのほうは決まっているのでしょうか?」

 

「うんや、まだだ」

 

後数時間しかないのに、メニューさえ決まっていない。せめて祭りの翌日とかにしてくれたら、こっちも余裕があるんだがなあ

 

「所でエンリ達は?」

 

「ああ、話を聞きたいので宿をこちらで取って宿泊してもらってます、何か伝言はありますか?」

 

モモンガさんの言葉にありがとと返事をする。カルネ村の米がどうなっているのか聞きたかったので、すぐにカルネ村に戻られてなくて良かったと安堵した。あーでも話で聞くより自分で見たほうが確実かと思い

 

「いや、別に良いや。いつでもカルネ村にはいけるし、それじゃあアルベド達は?」

 

「それも心配ないです、ナザリックに戻って貰っています」

 

人間相手に俺が料理を作るとかで騒ぎそうだし、それにジルクニフ皇帝とランポッサ国王となると洗脳してしまえば楽とか言いそうなので、先にナザリックに戻してくれていて良かったと安堵していると扉がノックされ、がらりと音を立てて扉が開く

 

「失礼します」

 

「無理を言って申し訳ないな」

 

ガゼフさんとバジウッドの両名が店の中に入ってくる。とりあえず、国賓同士と言うことになるから会食形式が良いのか、それとも普通に美味しい食事を提供すれば良いのか、そこらの打ち合わせもあるから、昼間に来てくれた時に来てくれるように頼んでおいたのだ。シホとピッキーに少し待っててくれと頼み、俺はモモンガさんと共にガゼフさんとバジウッドの元に向かうのだった

 

 

 

 

ランポッサと会食をすると言う陛下。俺達が帝国にいない間にずいぶんと話が進んでいたのだなと思いながらも、今まで戦争をしていた国との和解と言う無理難題を良くやろうと思うなというのが俺の嘘偽りの無い感想だったが、謎のモンスターの強襲で帝国は大打撃を受けている。攻め込まれるわけには行かないので、通常通りの体裁は取っているが実際はかなり不味い状況だ。弱みを見せないように、自分達は和解や同盟を取らなくても大丈夫なんだと思わせる態度が必要だ

 

「良く来てくれました。バジウッド殿とは初見ですね、私はアインズ・ウール・ゴウン。カワサキさんの友です」

 

カワサキの店でカワサキと共に出迎えてくれた男を見て、内心冷や汗を流す。金銀をふんだんに使った豪奢なローブ姿……俺は魔法には疎いが、杖を持っているのをみれば嫌でも相手が魔法詠唱者と判る

 

(フールーダ様に会わせるのは危険すぎるだろ)

 

これでも騎士として修羅場は何度も潜っている。その俺でも戦いたくないと思うほどの威圧感を持っているゴウンの姿に背筋に冷や汗が流れる

 

「バジウッド・ぺシュメルです。よろしく」

 

ええよろしくとにこやかな笑みを浮かべるゴウンだが、その笑みが余裕の表れのような気がする。王気とでも言うのだろうか、雰囲気は全然違うが、陛下にどことなく似た気配をしている。生まれながらの支配者の風格とでも言うべき物を纏っているのが良く判る

 

「カワサキ殿、ゴウン殿。今回は無茶な頼みを聞いていただき感謝します」

 

ガゼフの言葉にしまったと思いながら、俺も謝罪の言葉を口にする

 

「いや、気にすることは無いさ。料理人は求められれば料理をする、そういう物だ。それで早速で悪いんだが、料理についてなんだが、一応こっちで考えてみたんだがこんなのはどうだろうか?」

 

カワサキはそう言うと呪文のように料理の事を言い出した

 

「和食と洋食のどっちでも可能だが、洋食なら、前菜、スープ、魚料理、肉料理、ソルベ、ローストした肉料理、生野菜、甘味、果実、コーヒーの10品からなるコースがまぁ見目もいいし、話の合間合間に丁度良いと思うんだ」

 

「カワサキさん、それだと想像がつかないと思いますよ?」

 

ゴウンがそう言うとカワサキは焦りすぎだと笑い

 

「とはいえ、祭りで色々買い食いしていると思うし、あんまり重い料理は辛いと思うんだが、実際どうかな?」

 

その言葉に俺もガゼフもほぼ同時に頷いたと思う、陛下はカワサキの料理を大層お気に召し、何度も俺に買いに行かせていた。準備する時間もあると思うので陽が完全に落ちた後になると思うが、あんまり重い物は口に出来ないと思う

 

「だから俺は和食の方を振舞おうと思うんだ。全体的に野菜や身体に良い物を使ったコース料理、前菜、お造り、汁物、天ぷら、湯豆腐、京漬物寿司、デザートなんて感じでどうだろうか?」

 

どうだろうかと言われても、俺もガゼフもカワサキの言っていることはあんまり理解出来ない。ただ陛下の身体の事を考えてくれているなら、それに任せようと思う

 

「お任せすると聞いているので全てカワサキに任せる」

 

「無理を頼んでいるのはこちらなので全てお任せします」

 

判らないからカワサキに全て任せようと思う。俺の知ってる料理の形式とカワサキの言う料理の形式は違いすぎるので、これが間違いなく正しい選択のはずだ

 

「判った。じゃあ俺の好きなようにするけど、食べに来るのは何人なんだ?」

 

カワサキの問いかけ。それは当たり前の事だった、料理を作る上で何人食べに来るのか、それを知るのは当然の事だ

 

「陛下はフールーダ様とお2人で来店なさると聞いている」

 

「国王は私と共に来店なさるそうです」

 

互いに一番信用出来る部下を護衛として連れて来る形になるようだ。これも陛下にちゃんと報告するべきことだな

 

「では話も決まったようなので、私はこれで。ガゼフ殿、バジウッド殿。カワサキさんの料理を楽しみにしていてくれとお伝えください」

 

頭を下げ店を出て行こうとするゴウン。思わず視線を向けるとゴウンは苦笑しながら

 

「知人が私達が探しているモンスターの情報を集めて近くに来てくれると言っているのでね。それを聞きに行くのですよ、もし時間が合えばご挨拶には参ります」

 

では失礼をと頭を下げ、ゴウンは店の外へと出て行った。自分達の国を滅ぼしたモンスターだ、一瞬だけ見えた漆黒の瞳には思わず背筋が冷えたな

 

「じゃあ今から準備をするよ。料理が仕上がったらシズとクレマンティーヌを迎えに行かせるから泊まっている宿を教えてくれるか?」

 

カワサキの言葉に俺とガゼフはそれぞれ陛下とランポッサが宿泊する宿を順番でカワサキへ伝え、後をつけられない為に、俺は裏口、ガゼフは正面の入り口からカワサキの店を後にするのだった……

 

 

 

 

カワサキ様の手伝いをして、4人前の料理を作る。それ自体は決して難しい物ではない、普段100人前などを作る私とシホさんならば何の問題もない。そう思っていたのですが……厨房に入ってすぐ、それは間違いだと思い知らされた。白いコックスーツ姿はいつものカワサキ様なのだが、その纏う気配は全く異なっていた。触れれば切れる。そんな重々しい気配を放っていた

 

「今日は和食のコースにする。前菜2種、刺身三種、魚の焼き物、汁物はつみれ、天ぷら、餡かけ湯豆腐、京野菜の漬物寿司、デザートは餡蜜だ、前提として祭りで重い物を食べているので軽い物やさっぱりとした物をメインとする、なお客の1人は甲殻類アレルギーなので、海老、蟹などは控えるように」

 

メニューとしてはさっぱりとした物をメインとし、肉は殆ど使わないで行くようだ

 

「その中で刺身、湯豆腐、漬物寿司は俺がやる。残りの前菜、焼き物、汁物、天ぷらの3種類はシホとピッキーで2種類ずつ任せる。どちらが何を作るかは話し合ってくれて構わない」

 

祭りで疲れていると思うが、手伝いをよろしく頼むと言ってカワサキ様が包丁を手に取る。刺身、湯豆腐、京野菜の漬物寿司。簡単と思うが、バランスが難しい3種類だ。その三種類と比べれば天ぷらや前菜のなんて簡単なことか

 

「材料は冷蔵庫に入っている物を使ってくれて構わない。祭りが終わってすぐ補充しておいたから、自由に使ってくれ」

 

材料も全て用意されている訳ですね。シホさんと目配せしてから冷蔵庫の中やどんな野菜が用意されているか確認する

 

「ピッキー。私が汁物と天ぷらをやります」

 

「判りました、では私は前菜2種と焼き物をします」

 

手伝いと言う名目ではあるが、これはカワサキ様から私達への試験と見て間違いない。カワサキ様が作る料理に合わせる料理を自分で考えてみろと言う事だろう

 

(何にしますか)

 

餡かけ湯豆腐と漬物寿司がメインに来る。さっぱりとした物を続けると言う事はよほどの高齢、もしくは身体が弱っていると考える

 

「よし」

 

前菜2種類の1つ目は決まった。じゃがいもと茄子を手に取り、じゃがいもは根を取り、皮を剥く。ナスは水洗いし、乱切りにした後えぐみを取る為に水につけておく

 

「カワサキ様、かつお出汁を使っても構いませんか?」

 

「おいてある物はなにを使ってくれても構わない」

 

カワサキ様の了承を得てから、鍋に入っているかつお出汁を御玉で掬い片手鍋の中に入れ、醤油、砂糖、みりんを加える。やや砂糖を多めにして甘めの味付けとする。だがここではまだ火を入れない、別の鍋を用意して、油を少量加え、灰汁抜きし、乱切りにした茄子とじゃがいもを素あげにする。

 

「頃合だ」

 

5分ほど揚げたら鍋から取り出し、油を切って冷ましている間に先ほど用意していた鍋を火に掛け、1度煮立たせたら火を止めてそこに素あげにした茄子とじゃがいもを入れて鍋に蓋をしてコンロの上からどかす。冷やしている間に味が染みこむのでその間に次の前菜の準備をする。筍と蛸を別々の鍋で茹でている間にすり鉢を手に取り、その中に木の芽を入れてすりこぎで磨り潰す

 

「白味噌、砂糖、みりん、酒」

 

そこに白味噌と砂糖を加え、それをみりんと酒で伸ばしながら摩り下ろした木の芽と混ぜ合わせる

 

「よし」

 

木の芽の風味と白味噌の香りが酒とみりんで際立つ、会心の手応えだ。特製タレが仕上がるまでの間に茹で上がった筍と蛸を食べやすい大きさに切り、皿に盛り付け特製の木の芽のタレを掛け仕上げに三つ葉を散らす

 

「たけのこと蛸の木の芽の和え物」

 

たけのこと蛸の木の芽の和え物を作っている間に冷ましておいた、茄子とじゃがいもの煮浸しも皿に盛り付ければ前菜の2種類は完成だ

 

(魚の焼き物はどうするか)

 

鯛やタラと言うのもありだが、そろそろ温かくなる時期だ。ここは春告魚を使うのが最もオーソドックスだろう

 

「鰆だ」

 

メバルやニシンも春告魚とされるが、やや骨が多く食べにくい。鰆は骨こそ硬いが比較的食べやすい部類にはいる。焼き物を鰆にする事に決めた私は冷蔵庫から鰆を取り出すのだった……

 

 

 

 

ピッキーが作った前菜2種はオーソドックスに煮物と和え物、そして魚の焼き物は鰆と暖かくなる時期に合わせたものを選んだようですね

 

(さてと……)

 

カワサキ様がお決めになられたメニューでつみれ汁があったが、何のつみれかは言わなかった。そこに私やピッキーを試していると私は見た。玉葱を微塵切りにし、微塵切りにした青ネギを鶏挽肉の中に入れ、摩り下ろした生姜も加え、塩、胡椒で味を調えたら粘りが出るまで良く練り合わせる

 

(魚、野菜)

 

使うと決めた食材は身体に良い物が基本となっている。だが全体的に料理が冷たい物となっている、身体を温め、味わいも良い物。本来なら鰯のつみれ汁だが、魚と野菜が続く中。汁物までも魚では余りに味気ないはずだ

 

(よし)

 

挽肉に粘りが出て来たら片栗粉を加え、1口大の団子にしてトレーの上に並べ、鍋を手にする。鰹出汁、昆布出汁を混ぜ合わせ火に掛け、薄口醤油と塩で味を調える

 

「うん」

 

鰹と昆布の出汁が良く効いている。薄味だが、これでも十分美味しいそこに、一手間加える。つみれに使った生姜の摩り下ろしの残りを加えて混ぜ合わせる。しょうがは身体を温めるのに適している、生姜が溶けた頃合でつみれを加える。鍋の底に沈むが、火が通れば浮いてくるので、その間に天ぷらの準備をする

 

(たらの芽とこごみとふきのとう)

 

甲殻類アレルギーの人間がいるらしいので山菜の天ぷらを3種類用意する事にする。ふきのとうは外側のガクを取り除き、苦味の強い花蕾の部分に熱が通りやすいようにこちらも皮を剥いておく、たらの芽は下の方のはかまを取り除き、株元に包丁の先で切り込みを入れておく、やや大振りなものが多いので、これで天ぷらにしたとき火が通りやすくなる。こごみはボウルに水を入れてその中に丸まっている葉の部分を入れて左右に振り、葉の中に巻き込まれている汚れを取り除く

 

「卵と小麦粉」

 

ボウルの中に卵を入れ解い溶いたら、冷水を加えながら菜箸で丁寧に混ぜ合わせ、小麦粉を入れて粉っぽさがなくなるまで混ぜ合わせる。勢い良く混ぜ合わせるとグルテンが発生してしまうので、静かに、丁寧に混ぜ合わせる。

 

「茶漉し」

 

粉っぽさがなくなったら茶漉しで小麦粉を漉しながら加え、軽く混ぜ合わせれば天ぷら衣液は完成だ。

 

「やや低めの温度」

 

肉や海鮮と違い、山菜は簡単に火が通るので170℃のやや低めの温度に油を加熱したら、衣液に山菜をサッとつけて鍋の中に丁寧に入れる

 

(見極めが大事)

 

焦げてしまえば山菜の風味が死んでしまうし、味も悪くなる。揚げ時間は1分にも満たない、20秒から30秒ほど。それだけの揚げ時間で山菜は火が通ってしまう、完璧な揚げ具合で鍋から取り出すため私は全神経を耳に傾ける

 

「ここ!」

 

狐色に揚がり、完璧な揚げ具合となった山菜を天ぷら鍋から取り出し、和紙を引いた籠の上に並べていく、客はまだ来てないが保存をかけてしまえば温度は維持される。だから何の心配もなく、私は再び山菜を鍋の中に入れるのだった……

 

 

 

 

「ふー」

 

静かに息を吐く、刺身は切るのではなく引く。この世界は勿論、リアルでも刺身を引くなんて事は無かった。何故ならばリアルで海の幸は稀少品の中でも更に稀少品だ。つまり俺には刺身を引いた経験はゲームの中でしか存在しない

 

(スキル万歳だな)

 

板前のスキルがあってよかったと今心の底から思う。鮪、鯛、ハマチ。赤身、白身、青物の3種の盛り合わせの彩りは間違いなく完璧な仕上がりだ。寿司とも違う、モモンガさんとアルベドに出した物とも違う。これ1品で料理と呼ばせることが出来る輝きがそこにはあった。その仕上がりに満足し、もう1度息を吐く。だが休んでいる時間などは無い。即座に次の料理の支度に入る

 

(漬物っと)

 

俺の生まれは昔で言う京都、そして大阪に近い場所だった。幼い頃に食べた母が作ってくれた漬物の寿司。あれの味こそが俺の料理人を目指した始まりであり、そして終着点である。未だまだその味には遠く及ばない……それでも知恵を絞り、技術を積み重ね作ってきた漬物をアイテムボックスから取り出す

 

(まだまだだよな)

 

モモンガさんにはオムライス。俺には母が作ってくれた漬物寿司、それこそが何よりも勝るご馳走であり、世界で最も旨いと思っている料理に他ならない。だからこそメインに出すことにしたのだ

 

(どこまで俺は近づけた?)

 

ゲームではあるが、和食も、洋食も、中華も覚えた。そしてそれはこの世界で俺の出来る料理の引き出しとなった。ナザリックについてすぐに漬け込み始めた漬物の数々、それは記憶にある物を模しただけで。果たしてこれが正しい味付けなのか、そして正しい漬け時間かさえも判らない。それでも今自分にできる最も旨い料理であると言う事にほんの一欠片の不安すらない。寿司飯は通常の物と異なり、風味を良くするために白胡麻を摩り下ろした物を混ぜてある

 

「まずは千枚漬け」

 

漬け汁を絞り、水気を抜いたそれをラップの上に並べ、卵1個半ほどの太さで寿司飯を棒状にして乗せたら、ラップごと巻いて包丁で1口大に切り分け、ラップを剥く

 

「後は彩りだ」

 

千切りにした柚子の漬物を千枚漬けの寿司の上に並べれば、鮮やかな黄色が彩りを添えてくれる。残りの寿司飯は食べやすい1口サイズに握る。後は俺のセンスの問題になってくる

 

「少し違うか……」

 

漬物と言うのは形を細工しやすいので、海苔を寿司飯の周りに巻いて軍艦のようにしても良いし、漬物を乗せて三つ葉を使って中心を止めても良い、海苔を使って腹巻にするのも良いだろう。自分に持てる技術、飾り付けのセンス。それを全て使ったつもりだが、それでもまだ目標には程遠い

 

(蕪と大根の甘酢漬けにたくあん、それに茄子も行ける)

 

京漬物の寿司は作る人間の感性に大きく左右される。見立寿司にしたり、遊び心を混ぜてみたり、そこらへんは俺の感性で好き勝手にやらせて貰おう。はるか遠い母の味、それを模したこの料理は間違いなく今俺の作れる中で最も美味いと思う味だから……

 

(シホは鳥のつみれ汁と山菜の天ぷら3種、ピッキーは……ほう、前菜に煮浸しと和え物か、オーソドックスだがそこが良い。魚は鰆か)

 

2人に何を作るかは任せると言ったが、俺の作る湯豆腐と京漬物寿司に合わせた品を選んでくれたようだ。

 

「よし、最後だ」

 

本当ならば会食の席で目の前で作るなんて真似は失礼すぎて出来ないが、あえて俺はそれをやってみようと思う。前に皇帝の前でクレープ・シュゼットを作ったときの反応が良かったので、目の前で仕上げて見せると言うのも華があると思う

 

「しいたけ、しめじ、えのき」

 

茸は3種類、肉厚なしいたけと、太目の本しめじとえのきの3種を使う、しめじとえのきは石突を切り落とし、それぞれ手で解し、えのきは食べやすい大きさに切り分ける。しいたけは軸を切り落とし、柔らかい部分だけを手で裂き、傘の部分は薄切りにする

 

「よっと」

 

ごま油を入れた鍋で食べやすい大きさにした茸3種類を加えて炒める。軽く火を通し、えのきがしんなりしたら、鰹出汁をフライパンの中に注ぎ1度煮立たせる。沸騰したら1度火を止め酒、醤油、塩で味を調え全体を混ぜ合わせ味を馴染ませる

 

「水溶き片栗粉」

 

水溶き片栗粉を回しいれたら再び火に掛ける。餡にとろみがついたら仕上がりだ

 

「こっちは仕上がった。シホとピッキーはどうだ?」

 

「「私達も出来ました」」

 

シホとピッキーの料理が出来たと言う報告を聞いていると、2階の準備をしていたクレマンティーヌとシズが下りてくる

 

「カワサキー、準備終ったよー」

 

「……こっちも終りました」

 

いいタイミングで重なったなと思い、ガゼフさんとバジウッドに聞いていた皇帝と国王が宿泊している宿の名前を2人に伝える

 

「OK-じゃあ私は皇帝の方に行くね」

 

「……じゃあ私は国王と言うのを呼んできます」

 

シズとクレマンティーヌを送り出し、俺は料理を手伝ってくれていたシホとピッキーに感謝の言葉を口にするのだった。少なくとも今日、もしくはこれが、帝国と王国の関係が変わる切っ掛けになる。俺はそう予感していたから……

 

 

 

シズちゃんのお仕事日記

 

皇帝と国王と言う人間が来るらしいので、2階の内装を交換する。前はレストラン風だったが、今回は別の内装にしたいらしい

 

「……どれか判る?」

 

「……どれでしょうね」

 

マジックアイテムで内装は交換出来るとカワサキ様に聞かされていて、内装交換用のカードで「和」という文字が書かれているカードを使えばいいって言われていたのだけど、和とついているカードが思ったより沢山あった

 

「シズ様が良いと思うのが良いんじゃないですか?」

 

「……クレマンティーヌの意見も聞きたい」

 

2人で考えろと言われたので意見の交換は大事だと思う。私で判ることとクレマンティーヌが判る事があると思うから

 

「んーじゃあこれなんてどうですかね?」

 

「……池が見える」

 

畳と言うカワサキ様の部屋に用意されている物と同じ物が床に敷き詰められ、机と白い紙が張られた扉からは池が見える

 

「……2階なのに池が見える。何で?」

 

「なんででしょうね?」

 

池が見える理由は判らないが、お洒落なのでこれにしようと思い。柱を開けて、そこにカードを入れると一瞬で内装が変わる

 

「……綺麗?」

 

「いや、私も判らないですけど、カワサキの好きなものじゃないでしょうか?」

 

カワサキ様が好きな部屋はこんな感じなのかと思いながら、肩から下げたポシェットから1円シールを取り出し

 

「……しゃがんで」

 

「えーっとその手に持ってるのは?」

 

1円シールをクレマンティーヌの額に張りたいと言うと、クレマンティーヌはそれならと言って、首から下げていたペンダントを外して

 

「これの後ろ側が寂しいので、これに張ってくれますか?」

 

「……うん」

本当は額に張りたいけど、駄目なら仕方ない。クレマンティーヌのペンダントの裏に貼り付ける

 

「……仲良しの印」

 

「ありがとうございます」

 

ぺこりと頭を下げるクレマンティーヌ。一緒に働いているので仲良し

 

「……これで少し安全」

 

クレマンティーヌがシルキー達に良く思われていないのは知ってる。勿論シホの命令じゃないのも判ってる、でもそれでもクレマンティーヌに危害を加えられたら悲しいのでお守り代わりになる

 

「心配してくれたんですね。本当ありがとうございます」

 

「……うん。仲良しだから心配する」

 

ナーベラルとも仲が良いから、ナーベラルからも何か貰えればもっとクレマンティーヌは安全になるかな?と思いながら、布巾を手に取り

 

「……お掃除しよう」

 

「ですね」

 

カワサキ様の料理が出来るまでに部屋を綺麗にしようと声を掛け、私はクレマンティーヌと共に部屋の掃除を始めるのだった

 

 

 

メニュー71 会食その1へ続く

 

 

 




今回は料理フェイズのみとなりました。次回は食事フェイズ、これを2回に分けて書いていこうと思います。クレマンティーヌ1円シールGETし、仲良しとシズが認めました。この調子でプレアデスと仲良くなっていくのか、そこを楽しみにしていて下さい。会食後は、ゲヘナへのルートに舵を切っていこうと思います

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない

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