メニュー67 病人食その2/カルネ村開拓計画始動
俺が助けてナザリックに連れて来た元娼婦達だが、やはり回復能力を付与したのが大きかったのか3日ほどで回復した。ペストーニャのセラピーの効果もあったのかやや男性に対する恐怖は残りつつも日常会話が可能なレベルであり、それにも安堵した物だ。となれば俺の残りの心配は1つだけである
「店大丈夫だったか?」
やっと軌道に乗り始めたエ・ランテルの店だが、これほど休んでいて大丈夫か?と思いシャドーデーモンに様子を見てもらって来た。その結果を尋ねてみる
『はい、大丈夫です。エ・ランテルの住人はカワサキ様が王族に呼ばれた事を喜んでいるようです、これでますますカワサキ様の店が大きくなると』
好意的に受け取ってくれているようで安心した。王族の依頼をうけたので店を休むと伝えていたのが良かったのかもしれない
「となれば、こっちもこっちでやる事はやらないとな」
国王を脅す結果になってしまったが、あれは俺の本意ではなかった。ただ流れでそうなってしまっただけで、強いて言うならツアレと言う少女の運が良かったと言う事だろう。足を治すと言う依頼も受けているし、それに助けた娼婦の事もあるし、昨日の地底湖での釣りでモモンガさんも海を楽しみにしているし……
(あれ?俺だけハードスケジュール過ぎない?)
ふとそんなことを思ったが、俺が言い出したことだしちょっと位大変だけど、頑張ろうと思う。そんなことを考えながらモモンガさんの部屋へと向かう
「ああ、カワサキさん。丁度良かった、今呼ぼうと思っていた所なんです」
俺を見てにこりと笑ったモモンガさんに何か問題でもあったか?と尋ねる。するとモモンガさんは違いますと手を振り
「大分回復して来ているようですので、いつまでもナザリックやセカンドナザリックに助けた人間を置いておくわけにも行かないじゃないですか。クレマンティーヌやリリオットとは境遇が違いますし」
クレマンティーヌは俺を助けたって言う功績でナザリックに居るし、リリオットは予知のタレントで、ニグンやブレインはレベリングの実験と言う名目だ。ただ保護しただけの人間ともなれば流石に不満が出る
「セカンドナザリックかナザリックで野菜とかの栽培を手伝わせるのはどうなったんだ?」
「それも考えていますが、今はまだ精神面も肉体面もボロボロなので本人達が望んだとしても、それは酷過ぎますし……暫くはカルネ村の開拓計画やパンやジャムの製作に従事してもらうつもりです」
うん、それは普通に良いアイデアだと思う、パンやジャムを特産物をして復興しているカルネ村だ。だが最大の問題は俺はかなり丁寧に教えたつもりだが、記憶力の問題は生産に参加できる人数がやはり少ないと言う事もある。助けた元娼婦は沢山いるので、彼女達にもパンの作り方を教えるのが最善だろう
「それとツアレなんですけど」
ツアレと言うと俺とセバスの足を掴んで助けを求めた少女だな、彼女がどうかしたのか?と尋ねる
「……出来ればセバス付きのメイドになりたいとセバスに訴えているようで……セバス自身も可能ならばと……」
「……まぁ、男女の色恋は色々あるから……」
年上趣味にしても度が過ぎると思うが、出来る限りは要望に答えると言ったし……セバス本人もそれを認めているならば、俺から言う事は無い。1つだけ問題があるが……
「彼女ってメイドの経験あるのか?」
「ありません。ただの村娘ですから」
そうなると一般メイドやプレアデスとの確執が生まれかねない。ならやはり一時的にカルネ村に預け、ユリやルプスレギナがカルネ村に向かうことは多いので、彼女達からメイドとしての教養を学び。ユリがOKと言ったら、メイドとしてセバスつきにすれば良いだろう
「とりあえずルプスレギナにエンリたちに伝言を頼む予定ですので、お昼からカルネ村に行くと言う事でよろしくお願いします」
「それなら俺が行くよ。お昼なら丁度良いし、カルネ村の人達との交流も兼ねて、カルネ村でお昼作らないか?リゾットとかを作ろうと思ってるんだけど」
ちょっと外で食べるのは厳しい料理かもしれないが、リリオット達に聞いた小さい村とかでのお昼はオートミールとかが主流らしいので問題ないと思うんだけどと提案する。断じて駄犬の存在が不安とかそういうのでは無い
「別に構いませんが、A~Sランク以上の食材は禁止ですよ」
ジト目のモモンガさんに判ってるよと返事を返し、俺はモモンガさんの部屋を後にするのだった……
アインズ様とカワサキ様に助けられたカルネ村。最初は復興だったが、今は開拓にまで来ている
「村長さんよ、塀はこんなもんでどうだい?」
「良いですね。ありがとうございます」
お疲れ様ですと声を掛けると良いって事よと叫ぶリザードマンの皆さん、アインズ様から賜った角笛で呼び出されたゴブリンの皆がカルネ村を守ってくれている。前の村長は私に村長の立場を譲り、今はお米と言う今までやった事も無い野菜の栽培に携わっている。村の皆と話をしながら村はずれのンフィーレアとリィジーさんの家へ向かう
「すいません。ペテルさん、ニニャさん」
「いえいえ。大丈夫ですよ、これも仕事ですから」
「よいしょっと、あ。エンリさん」
私に気付いて手をふるニニャさんに手を振り返す。最初はカルネ村で使うだけのポーションを作っていた2人だけど、やはりエ・ランテルでもバレアレ商店が無くなった事は大きい問題となったらしく、今では冒険者が馬車でポーションを買い付けに来る
「ひっひ、エ・ランテルでいる時よりも良い儲けになっているわ」
楽しそうだけど、その笑い方は魔女みたいと思って思わず苦笑していると、ネムとクーデリカちゃんとウレイリカちゃんがたいへんたいへんと叫びながら走ってくる。その後からアルシェさんが追いかけて来ているが元気な子供には追いつけない様子だ。よく見る光景に微笑みながらその場にしゃがみ込んで走ってきた3人を受け止める態勢に入る
「っと、どうしたの?ネム、クーちゃん、ウーちゃん」
私の胸に飛び込んできた3人を抱き止めて何があったの?と尋ねる。大変と叫んでいるけど、もし本当に何かトラブルがあれば警鐘がなるので大したことは無いと思ったんだけど
「あのね、あのね!カワサキのおじちゃんが来てるの」
「美味しいご飯を作ってくれるって!」
「お姉ちゃんを呼んできてって」
カワサキ様が!?慌てて立ち上がる。ポーションを運んでいたペテルさん達は私達の話を聞いて、あれっと首を傾げている
「カワサキさんって王都に居るんじゃ?」
「そのはずであるが……もう王都の仕事は終わったのであるか?」
不味い流れになっているかもしれない、早くカワサキ様にペテルさん達が居ることを伝える必要があるかもしれない
「あのねー、あのねー、カワサキのおじちゃんのお友達に魔法使いが居るんだよ」
「お空を飛んでくるのー、お姉さまより凄いんだよー」
クーちゃんとウーちゃんの言葉に卒倒しそうになったが、ペテルさん達はなるほどと納得してくれた
「南方から旅をしてきたんですから、魔法詠唱者だって仲間に居て当然ですね」
「モモンさんも凄かったしなぁ、ポーションを運んだら挨拶に行こうぜ」
家の外で運び込むポーションの指示を出していたリィジーさんが目配せするので、それに頷く
「エンリ、ネム達は私が見ているから」
「よろしくお願いします。アルシェさん」
ネム達の面倒を見るのを引き受けてくれたアルシェさんに頭を下げて広場へと走るとカワサキ様が人間の御姿でヘッケランさん達に指示を出しているのを見て安堵した
「カワサキ様。お久しぶりです」
「おう、エンリも元気そうだな。ここで料理を作るけど問題は無いよな?」
「はい、問題はありません。ですが、その……エ・ランテルの冒険者のペテルさん達が今村に来ていまして……」
カワサキ様はあちゃーと笑い、目を覆って困ったように空を見上げる。暫くそうしていると手を退けて穏やかに笑う
「ん、大丈夫。モモンガさんも魔法詠唱者の姿で来るってさ」
私が言いたいのはそう言う事じゃないんだけど……カワサキ様が納得してくれているなら良いんだけど
「カワサキ様。こんな感じでどうですか?」
「OKOK、じゃあそのまま悪いけど、薪の準備をよろしくな。ちょっと俺は席を外すから、シズとエントマは喧嘩せずに仲良く!料理の準備をしていること。良いな?」
「……はい」
「わかりましたぁ」
シズ様とその隣で見覚えの無い紫の髪をしたメイドが頭を下げる。きっと彼女もシズ様と同じく特別なお方なのだと思いながら、手招きするカワサキ様の元へ走る
「エンリには悪いんだが、20人ばかりまたカルネ村で人間を預かって欲しい」
20人……今は開拓中なので簡易の家はあちこちにあるから大丈夫ですと返事を返す
「その20人なんだがな、王国の犯罪組織で娼婦として痛めつけられてた子達でな……ちょっと男性恐怖症の気があるんだが、大丈夫か」
王国、犯罪組織と聞けば私でも判る八本指の被害者なのだと、そしてそれをカワサキ様達がお助けになられたと……
(本当にカワサキ様達はお優しいのですね)
ただ威張るだけの貴族や役人と違う、カワサキ様達がお優しい方なのだと改めて思った
「判りました、服を作ったりしている女性が集まっている所があるので、そっちの方に移住先をご用意します」
「すまんな。精神的に弱っているから暫くは安静にさせてあげて欲しい、回復したら村の開拓やパン作りの手伝いもさせるから、あ、後今日はお昼に俺が料理をするから皆に伝えておいてくれるか?」
カワサキ様の言葉に判りましたと返事を返し、村の皆にお昼はカワサキ様の料理だと伝えに走るのだった……
ユリからシズとエントマがどっちが姉かと言い争っていると聞いて、仲良くさせようと思い今回のカルネ村の料理の付き人に選んだのだが……
「私の方が早いぃ」
「……負けてない」
シズとエントマは下拵えを競い合うように行っていて、ルプスレギナはそんな2人を見てニマニマしている。俺に気付いて止めに入るが、やはり遅い。やっぱりアイツは駄犬だな……俺は頭痛を覚えながら下拵えを競い合っているシズとエントマの静止に入るのだった
「よーし、じゃあここから料理するぞー」
今日の料理はモモンガさんにも話したリゾットなのだが……
(どうするかあ……)
山の様な食材を見てどうするかなぁと悩む。鶏肉とまいたけと玉葱の微塵切りの山……予定では鶏肉とまいたけのリゾットにする予定だったが……多い。多すぎる……ここまであるのなら一種類だけではなく色々作ってみるかと考えを改める
「じゃあ、エントマ。トマトをざく切りで刻んで欲しいんだが判るか?」
普通のトマトを桶で出しながら出来るか?と尋ねるとエントマは薄い胸を張りながら
「刻めば良いんですよね。大丈夫です」
……間違ってはいないが、でもまぁ本人のやる気を尊重しようと思い。エントマに任せてみる、とにかく刻めば良いと言う発言には驚いたが、ちゃんとざく切りに出来ている。よく理解していないが、下拵えは出来ると思って良いのかなと思い、今度はベーコンのブロックを取り出してシズに渡す
「薄切りにしてから短冊切りにして欲しいんだが出来るか?」
「……大丈夫です」
ベーコンのブロックをちゃんと教えた猫の手で押さえて薄切りにし、それを4枚重ねて短冊切りにするシズ。エントマと比べると安定しているし手つきも危なっかしくない
(今の段階ではシズの方が器用かな)
エントマは教えてなくてこのレベルなので、どっちが上かとか言いにくいがちゃんと指導すればエントマも料理を覚えそうだなと思いながら、シズとエントマが張り合わないように2人の間に入って調理を始める
「カワサキ様。薪ここら辺で良いですか?」
「おう、そこで良いぞ。ありがとう、もう休憩してくれて良いぞ」
ヘッケランとロバーデイクが用意してくれた薪を後ろに置いて、改めて料理を始める。まずはシズとエントマが競い合うように下拵えした鶏肉のぶつ切りをオリーブオイルを入れた大鍋の中に放り込む。本当は皮をはぐんだが、それだとシズとエントマが失敗した間違えたと言って落ち込んでしまうので皮のまま入れて、大きな御玉で焦げ付かないようにかき混ぜる
(細心の注意を払ってと)
薪で加熱をしているので火力が強すぎる、魔法で火力を調整し焦げ付かせないように注意をして鶏肉を炒めて行く、鶏肉全体に焼き色がついたらにんにくを潰した物とまいたけと玉葱を加え、魔法で火力を少しだけ下げる
(生クリームと牛乳と香り付けで白ワイン)
片手で鍋をかき回しながらアイテムボックスから追加で出す食材をどんどん取り出す。玉葱がしんなりして、まいたけに脂が回ったタイミングで
「シズ、エントマちょっと手伝ってくれ」
シズとエントマを呼び寄せ生クリームと牛乳を鍋の中に入れるように頼む
「鍋が熱いから火傷しない様に気をつけてな」
「はい。判りました」
「……気をつけます」
シズとエントマが鍋の中にじゃんじゃん牛乳と生クリームを注ぎ込む。鶏肉が浸るくらい入ったところで2人を止め
「無限の水差しを渡すから、これで2人で仲良く冷や飯を洗ってくれ」
しばし無言だったが頷き俺の渡した無限の水差しで冷や飯を洗いに行く。本当はリゾット米を生からやるんだが、芯を残す作り方だと固いといわれる可能性もあるので、やや邪道だが炊いてあるお米を水洗いして使うことにする。料理的に言うと邪道だが、日本人の俺としてはこっちの方が馴染みがあるといえば馴染みがある
「おわりましたぁ」
「……鍋に入れても良いですか?」
洗い終わった大量の米を鍋の中に入れるように頼み、俺はその間に薪をくべて火力を上げる。米が全部入ったら、チーズの塊を投げ入れ、チーズを溶かし米とホワイトソースと練り合わせるように混ぜる
「良しOKっと」
全体にトロみがついたら、塩胡椒で味を調えれば完成だ。鍋つかみを嵌めて鍋を火の上からどかして保存を掛けておく。本当ならこれで配る予定だったが、これだけ材料があるので次のリゾットを作る
「良し、じゃあ今度はシズ作ってみるか」
本人達がやる気があるのでいい機会だから2人の用意した食材で料理を作らせることにする。土台を持ってきてシズにその上に立つように言って隣で鍋に入れる順番の指示を出しながらシズに料理を作らせる
「まずは短冊切りにしたベーコンを全部鍋の中に入れる」
「……はい」
音を立てて鍋の中に入るベーコンの山。こうしてみると凄い量だな……と苦笑しながら、俺が使っていた巨大な御玉を渡し、いためさせる
「……よいしょっと」
両手で御玉を持って一生懸命混ぜている姿は頑張っていると言うよりも愛らしさが強いなと思いながら鍋の中をみる。ベーコンから脂が出てきたところで玉葱の微塵切りを加えるように言う
「……はい」
山の様な微塵切りが鍋の中に入れられ、ベーコンの脂と混ぜ合わされる。シズに玉葱が透明になるまで炒めるように言って、アイテムボックスからコンソメスープを取り出す。保存をかけてアイテムボックスに入れておくと持ち運びに便利だ
「……カワサキ様。玉葱が透明になりましたよ」
「判った、どっこいしょっと」
コンソメスープの寸胴を持ち上げ、シズが炒めている鍋の中に入れる。加熱された鍋に当たり水蒸気が出てシズが顔を顰める
「はは、料理をしているとこんな事はよくあるぞ?」
「……我慢します」
我慢すると言うシズに苦笑する。このちょっと背伸びしている感じがシズとエントマの可愛い所かもしれないなと思う
「後はもう少しで完成だからな」
ベーコンと玉葱を炒め、コンソメスープを加えたら、米を入れてもう完成は近いとシズに声を掛ける。
「……よいしょ、よいしょっと」
スープと米を混ぜ合わせるシズを見ながら火を止めるタイミングを見計らう。
「良し完成だ」
「……頑張りました」
上手に出来たとシズの頭を撫でて、鍋を再び交換する。エントマは既に御玉を持って準備完了と言う様子でその姿に微笑ましさを感じる
「オリーブオイルを入れる」
「はぁい」
エントマの手にオリーブオイルのボトルを握らせて鍋の中に入れさせる。思いっきり入れようとするので手を掴んで
「もっとゆっくり……な?」
「はい」
エントマはちょっと性格的に豪快すぎるなと苦笑し、適量のオリーブオイルが入ったらストップと声を掛ける
「そこににんにくを入れて炒める。匂いが出たら終わりな」
にんにくを潰した物を入れて炒めるように言うとエントマは普通に炒め始める。シズはおっかなびっくりだが、エントマは全然火を怖がる素振りが無い、そういう面ではシズよりも料理に向いてるかな?にんにくの香りが出てきたので
「トマトと玉葱を入れる」
バットに食材を入れて全部鍋の中に入れるように言う、ゆっくり入れるかな?と思ったらバットをえいっと言って引っくり返す。駄目だな、もう少し丁寧に料理をさせることを覚えさせないとエントマが料理を覚えるのは難しいかもしれないな……俺は苦笑しながらコンソメスープを鍋の中に注ぎこむ
「混ぜても良いですかぁ?」
「まだ駄目。今混ぜるとトマトが崩れてへんな食感になるから、もうちょっと見てるだけ」
今混ぜるとトマトが崩れるので、少し待てとエントマに言って煮詰めるのを見るように言う
「……まだですか?」
音を立てる鍋を見てまだですか?と尋ねてくるエントマにまだと言う。また暫くするとそわそわし始めて
「まだですか?」
「まだ」
エントマには材料を入れるときの注意だけじゃなくて、待つ事を覚えさせる必要があるかもしれないな。ただ火を怖がらないので、そこは
料理人として買うが……
「良し、トマトが崩れてきたから、ご飯を入れる」
「はぁい」
ご飯のザルを手渡し2人で鍋の中にご飯を入れる。御玉を持ってそわそわしてるエントマにゆっくり混ぜて良いと言うと笑みを浮かべ、鍋を丁寧に混ぜ合わせる。
(ちゃんと言うと料理は出来るみたいかな)
大雑把に言うと大雑把な作業をするが、ちゃんと言うと出来るようだ。あれ?もしかしてエントマが料理に向いてないと思ったのは、俺の大雑把な指示のせいかな?
「ゆーっくりでいいからな」
「はい、頑張りますぅ」
御玉で揺するように混ぜ合わせるエントマ。リゾットは煮るだけなので後は簡単だ、米も柔らかくなってきたら
「チーズを入れる。これはそのまま入れてもいい」
チーズの塊を渡すとエントマは少し考えてから、リゾットの真ん中に投げ入れる。ちらりと俺をみるエントマに頷くとぱぁっと笑う
「後はチーズを溶かせば終わりだ。焦げ付かないように気をつけて丁寧にな」
「はーい」
チーズが焦げてしまうと台無しになるので気をつけるように言う。後は住人の皆は自分の家からスプーンとかを持ってくるので、助けた少女達とペテル達の分の紙皿とスプーンを用意しておく、住人は俺が炊き出しする時に料理を受け取るのにスプーンとかを持ってくるように伝えてあるので、エンリから聞いたペテル達の分を用意しておけば問題は無い
「チーズが溶けましたぁ、こんな感じで良いですか?」
エントマの俺を呼ぶ声に鍋を覗き込むと、チーズが溶けた最高の仕上がりとなっているので上手に出来たと褒めると嬉しそうに笑うエントマ。とりあえずやる気があるのがよく判るので、今度はもっと丁寧に教えてみることにしよ。俺はそう心に誓い、近くでニヤニヤ笑いながら見ていたルプスレギナにエンリ達に呼びかけるように命じるのだった……
カワサキ様によって娼館から救出された私達はまず精神と肉体面が回復するまでの間、カルネ村と言う村で暮らすようにと命じられた。私はセバス様つきのメイドになりたかったのですが、メイドとしての技能が足りないのでメイドとして認められればセバス様のメイドとなることを許された
「お待ちしておりました。カルネ村の村長のエンリ・エモットです」
にこりと微笑む少女に迎えられた。ここに来る前にゴブリンやリザードマンと言う異形種がいると聞いてはいたけれど、男性恐怖症を発症している私達からすれば、ゴブリンさんやリザードマンさんの方がよほど親しみやすいと思った
「では皆さん、こちらです」
私達の中で唯一の例外はセバス様とカワサキ様、そしてアインズ様の3人である。私達を助けてくれた人と、そして私達に新しい家を与えてくれたアインズ様、カワサキ様、セバス様の3人は特別なお方として全員が認識している
「今日はリゾットだ。こっちのエントマが作ったのがトマトリゾット、シズがベーコンのリゾット、俺がチキンリゾットだ。どれにする?」
「えっとね、えっとね。エントマお姉ちゃんのにする!」
「じゃあネムはおじちゃんのー」
「んーじゃあ私はシズお姉ちゃんの」
少女達がカワサキ様からリゾットと言う料理のお皿を受け取り、にこにこと笑い木の椅子に腰掛けて食べる姿に笑みを浮かべる。いままで暗い場所に閉じ込められていたことを考えると太陽の下で、人の営みの中に入れるのは幸せな事だと思えた
「セバス。ご苦労さん、ツアレさんだったね。どうする?何を食べる?」
「えっと、ではそのチキンリゾットをお願いします」
カワサキ様は穏やかに笑うとチキンリゾットのお皿を差し出してくれる。中身を見ると鶏肉と茸が入っていてオートミールに似た料理が入っていた
「セバス様、私もぉお料理しました」
「……頑張りました」
「そうですか、ではトマトリゾットとベーコンのリゾットをいただきましょう」
セバス様もリゾットを受け取り、用意されていた木の椅子の上に座る。机もあるから丁度いい
「いただきます」
セバス様が手を合わせて、いただきますと呟いてからスプーンを手にするのでそれを真似して、いただきますと言って私もスプーンを手に取る
「美味しい。それに風が気持ち良い」
「今日からここで暮らして良いんだって」
「アインズ様とカワサキ様のおかげね」
ペストーニャ様のセラピーによって回復した皆が嬉しそうに話をしながら料理を口にしているので、私もリゾットを口に運ぶことにする
(凄い)
お肉が塊で入っていて、それだけでもご馳走と思えるのに茸もたっぷりと入っている。なんて贅沢な料理なのだろう
「ふーふー」
息を吹きかけてよく冷ましてからリゾットを口に運ぶ
「美味しい」
凄く濃い牛乳の味。でも全然牛乳臭くなくて、鶏肉の味と茸の風味がスープに溶け出していてとても美味しい。こんな味は食べたことが無い
「ええ、とても美味しいですね。エントマとシズも頑張っているようで何よりです」
セバス様は赤いリゾットを口に運び、料理を配っている2人のメイドを微笑ましそうに見つめている。その優しい表情に顔が赤くなってしまう。セバス様の目が私のほうに向けられたのに気付いてスプーンでお米を掬い口に運ぶ
「このトロリとしたのはなんなのでしょうか」
スープとはまた違う。麦によく似ているお米を煮たというスープにトロみがあるのでセバス様になんでしょうか?と尋ねる
「恐らくチーズでしょう。牛乳から作る保存食ですよ、栄養価がとても高いのです」
栄養価と言うのは良く判らないけど、珍しい料理を作ってくれたというのはよく判る
「ん、この赤いの酸っぱくて、甘くて美味しい」
「こっちのさらさらしてる方はベーコンの味がして美味しいよ」
風に乗って聞こえてくる楽しそうな皆の声。もし出来るなら生まれ故郷の村にいる妹に会いたいと思ったその時
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!!」
「え?」
突如聞こえてきた嗚咽交じりの叫びに驚きながら振り返る。冒険者と一目で判る質素な服装にマント姿の少女が駆け寄ってくるのが見えた。成長しているけど、見間違えるわけが無い。涙で目の前が歪む、私は声にならない声で妹の名を叫び走り出すのだった……
カワサキさんの友人だというアインズさんという魔法詠唱者をカワサキさんに紹介して貰ったんですけど、なんというかどこかで会った事がある様な気がしてならなかった。黒髪でカワサキさんに似ているからそう思ったのだろうか?
「どこかでお会いしませんでしたか?」
「いえ、私は貴方とお会いするのは初めてだと思います」
違いますよと言われたが、やっぱりどこかで会った様な……
「違うって言っているんだから良いだろ!早く飯に行こうぜ!」
「そうである。力仕事をした後の食事は美味いのである!」
ルクルットとダインに言われたこともあり、知らないというのに何時までも尋ねるのは失礼だと思い。アインズさんに頭を下げ私達は広場に足を向けた
「やっべえ、めちゃ焦った」
なおペテル達が広場に向かった後モモンガは額に浮かんだ汗を拭っていたりする。平然としていたが内心バクバクだったモモンガなのであった……
「あれ?ずいぶんと若い女の子が多くないか?」
「そうなのであるな」
広場の一角に若い少女が集まっているのに気付いたルクルットが足を向けようとしたその時
「おっと、こっちは男は立ち入り禁止だ」
「そう言う事、戻ってくれるかしら?」
ヘッケランさんとイミーナさんに呼び止められた。ヘッケランさん達はカルネ村の自警団である、そんな人が警護していると言う事は何か特別な事情があるのではと思いその場に踏み止まる
「立ち入り禁止なんですか……何か事情が?」
ニニャが20人近い女性に視線を向けながらイミーナさんに尋ねる。イミーナさんはヘッケランさんと目配せしてから
「エ・ランテルに戻っても口外しちゃ駄目だからね?カワサキさんが八本指から救いだした被害者の子なのよ。違法娼館でね、これ以上は言えないから早くご飯を貰ってきなさい」
男が立ち入り禁止と言う理由は判った。違法娼館に捕らえられていたと言う事は間違いなく酷い扱いを受けていたに違いない……
「ヘッケラン、イミーナ。リゾットを貰ってきましたよー」
「おー!待ってたぜッ!ロバー!ここまで良い匂いがしてるから腹が減って、腹が減って」
「しゃんとしなさいよ、ヘッケラン」
ロバーデイクさんがトレーで料理を運んでくるのを見て、ルクルットが
「ペテル!俺達も早く行こうぜ、腹減ったよ」
今までポーションを運んでいて確かに力仕事でお腹は空いている。そして更にそこにロバーデイクさんが爆弾を投入する
「トマトリゾットとベーコンのリゾット、それに鶏と茸のリゾットと3種類もありますよ」
3種類もあって、しかも無料と聞いてルクルットとダインが早く行こうと言うので、教えてくれたロバーデイクさんにお礼を言ってその場を後にしようとした時。ニニャがあっ!と呟く。ニニャの視線の先を見るとスーツ姿の老人と共に椅子に座り食事をしている金髪の女性の姿があった。ニニャはその女性を見つめ完全に硬直している
「ニニャ?どうかしたのですか?」
「誰か知り合いでもいたであるか?」
「あ、もしかして姉さんがいるとかか?」
声を掛けるが反応が無い、もう1度声を掛けようとした時ニニャがお姉ちゃんと叫んで駆け出す。ルクルットはまさか大当たりと呆然とし、私達3人が見つめている中。ニニャは殆ど半狂乱でお姉ちゃんと叫ぶ
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!!」
姉と呼ばれた少女が振り返り、ニニャを見つめると涙を流しながら立ち上がり、ニニャの元へと駆け出す
「行くである。今はそっとしておくのである」
「それが良いな、行こうぜ」
「判ってます。行きましょう」
ニニャが冒険者となった理由は姉と再会するため、その姉に再会したのだ。今はそっとしておいてあげようと思い、私達はニニャに背を向けてその場を後にするのだった……そして、私達は3人とも言葉として口にはしなくとも理解していたのだ。ニニャが漆黒の剣を抜けるかもしれない――と。
メニュー68 国王への料理へ続く
大分話も大台に乗ってきましたが、まだこれでゲヘナの前なんですよね……ちょっと話のペース配分を間違えたかなと反省しておりますですがもう少しでゲヘナと竜王国に入っていこうと思いますのでもう少しの間、お待ちください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない