誤字修正。
前回のあらすじ:
アスカは族長と会談して村の相談役に就任。でも翌日から生理痛で三日休み。
アスカ「大丈夫のたった一言がちゃんと言えないせいでとんだ大事に……」
この星に降り立ってから五日目。
村には客人兼相談役として置いてもらえることになったが、そのあと毎月恒例のアレがよりにもよってこのタイミングで来てしまったためダウン。今朝になってようやく動けるようになった。まだ痛みやだるさは残ってるけど動くに支障なし、明日には痛みも不快感も綺麗さっぱりなくなるだろう。
そんなことよりおなかがすいたよ。この星に漂着してから私まだジャーキー三枚しか食べてない。のたうちまわることさえできないほどの三日間はそもそも食欲も吹き飛んでいたからよかったけど、それがおさまってきたら今度は強烈な空腹感が、ていうかこれもう飢えじゃないかな。
飢えたときの思考というのは本気でおかしい、これは私に限ったことではなく生物全般がそうなのだと思う。飢えは本当に辛い。隣に人間の死体があれば食べてしまう人だっているだろう。私のときは周囲に人間はいなかったので土を食べたり木の皮を食べたりした。あとリチウムイオン電池をかじりそうになったり。そういえば渓谷にカバン置いてきちゃったんだっけ。あれ回収できないかなぁ。無理ですかそうですか。
というわけで朝起きて気がついたらカリムさんの腕をかじってた。いや甘噛みでおさまるよう頑張って自制したので、カリムさんにダメージはないはずだけど。
「……俺の腕は食えんぞ?」
と真顔で言われたので謝った。
「ごめんなさい、空腹すぎてちょっと気が触れてました」
「大丈夫なのか?」
「ええ、もう動けます」
しゃべろうにもまともに声が出ないくらい体調ひどかったけど、薬師さんに病状?を説明して何とか周囲に理解してもらえた。とはいえ私の生理痛は日本人でも他になかなか類を見ない酷さなので、それより規模のはるかに小さいラハール族では『何いってんの? 生理痛がそんなに酷くなるわけないじゃん』と言いたげな雰囲気だった。実際酷いんだからしょうがないんですぅ! わかって。
最終的には種族差ってことで理解してもらった。曰く『フェバル様の月のものはすっごく重い』いやちょっと待って。これフェバルだからってワケじゃないからね? 私以外の女性は多分普通です。
悶々としながらひたすらベッドの上で回復を待つ間に、族長さんの命令でカリムさんが私のお付きだかお目付けだかになったらしい。
「というわけで、ご飯が食べたいのです」
「普通に食べれるようになったのなら、もう少しで朝食の時間だ」
「カリムさんの二の腕、美味しそうですよねぇ」
「俺の腕は食い物じゃないと言っただろ!?」
「でもほら、渓谷の土とか孤島の木の皮よりも質感いいですし」
「そんなものと比べるな! そんなに我慢ならないのかお前は!」
「カリムさんは飢えたことはおありで?」
「わかった、わかったからコレでも食って大人しく待ってろ!」
ジャッカロープのジャーキー再び。空腹は最高の調味料、これはきっと四日前に食べたのより美味しいに違いな……そうでもなかった。ビミョー。これだけ空腹なのに美味しいとまでは思わない味って逆に凄い。その凄さに価値は全く無いけど。改良できないかな?
よく噛んだ上で喉の奥に水で流し込む。とりあえずこれで飢えは解消できた。あーうん、私カリムさんの二の腕食べようとしてたんだっけ。なんでこれが美味しそうに見えていたのか。人肉食べるのはあかん。
「はぁ、こんなのが伝説のフェバル様の同類とはな」
「すいませんねぇ、こんなので」
自覚はあります。というか世界作っちゃうような凄いヒトと同類認定は、ただの日本の一般ピーポーだった私には荷が重いですってば。
外面はまだしも内面的性格がおかしいとか、生理痛がおかしいとか、マイナス面しか思いつかないしね。プラス面? 文明ないとこでSEの技術がなんの役に立つのさ? あ、【
ていうかさ、あんだけ死んで死んで死んで死にまくって、そのときの記憶全部残ってたら、性格おかしくなってもしょうがないよね当然だよね。え? 死んだせいじゃない? 元からおかしい? アッハイそうですね。
さて、現状で私の目的は、生き抜く力を得ること。つまり『サバイバル能力を身につける』『身体能力を鍛える』『魔法に挑戦』ってところ。カリムさんが私のおつきになってくれるそうなので、まずは彼に鍛えてもらうのがいいと思う。魔法はおいおい。
一方で、ラハール族の集落にお世話になる以上は、集落に多少の貢献を返したい。それにはやはり【万智】を活かした技術改善かな。さっそく思い当たるのが食の改善。まず族長の食いつきがよかったアルミラージの極上の食べ方、馬刺しならぬ兎刺しだ。
必要な食材は
朝食の串焼き肉をかじりながらそんなことを考え……
「美味しい。なんですかこれ?」
「アルミラージだな。ジャッカロープより美味いだろ」
「別次元ですね。ジャーキーもこっちを出してくれればよかったのに」
「アルミラージは常食にするからジャーキーはあまり出回らんからな。持ち合わせがない」
適当に血抜きして串に刺して焼いただけの、料理とも言えないほど簡素な料理だけど、例のジャーキーとは屑肉と霜降りくらいの差がある。実に美味しい。味が薄いことだけが難点。塩が欲しい。
もう一品の野菜スープは、地球でも見たようなそうでないような色々な野菜をシンプルに煮込んだもの。素材の味が生きている、つまりちょっと苦い。もうちょっと苦味を抑える工夫をしてほしい、てか出汁とかコンソメとか無いんですかね?
まぁ今の私は空腹補正が激しいので大概の料理は美味しくいただけます。ご馳走様。
で、食べながら思った疑問をカリムさんに聞いてみた。
「ショーユ? 聞いたことがないな」
「塩は海の村と取引で得るが、一度に取引できる量はそう多くない。使い道が多いから大事にしないとな。串焼きに振り足したい? 贅沢なことを言うのだな」
「ショウガは南方の村にあったな。ニンニクはここでも少し栽培している。だがあれを食うのか? 薬草だぞ?」
「出汁? コンソメ? コショウ? なんだそれは? 美味いのか?」
ま さ か の 調 味 料 全 滅 。
食文化は改善の余地がありそうなのだけど、調味料が不自由すぎて難しいかもしれない。せめて塩をある程度自由に使えないと。
そして醤油がない。日本人としては痛いけど、醤油製造は結構複雑なので今後も普通はないと思ったほうがいいだろう。仕方がない。仕方がないんだけど、醤油なしで兎刺しは美味しく食べれるの?
そういえば、出来立ての新鮮な刺身は塩で食べても美味しかった。家族旅行で行った九州の温泉旅館での経験なんだけど、兎刺しもこれでいけたりしないかな?
物は試しだ。
とりあえずカリムさんに頼った。
鍛えて欲しい旨を話したら快諾され、狩人としてやっていける程度には鍛えてくれることになった。
それとは別に今日は子ウサギを生け捕りにしたいと話したら、怪訝な表情をされた。
「小さいものを狩っても得るものが少ないだろうに」
「美味しいんですよ。ヤスールさんにも催促されてますし、とりあえず試作だけでもね」
「長が何か要求したのか?」
「カリムさんは、私のフェバルとしての能力について、ヤスールさんからどこまで聞いています?」
「聞いていない。本人が話すまで詮索不要と言われた」
ありゃ。族長様は気を使ってくれたのかな?
まぁカリムさんはいいヒトのようだし恩人でもあるので、隠す必要はないんだけど。
「私の能力は簡単に言うと知識を得られるんですけど、その中にアルミラージの極上の食べ方と言うのがありまして」
「それはまた随分とニッチな知識だな」
私もそう思う。
まぁ兎刺しに限らず調べれば色々な料理の知識は出るけども、寿司やケーキの知識を披露しても材料ないから作れないじゃん?
思いついた中で一番出しやすそうだったのが兎刺しなのです。
「それをヤスールさんに話したら、凄く興味を持たれました」
「なるほど……長にとって、この村の食事は少々味気ないようだからな」
「私にとっても味気なかったのですが、ヤスールさんも?」
「長も翼ある者の導きで他の星へ行ったことがあるそうだ」
ここの星域は大気圏がとても広く、空を飛べれば別の星へ行けるのだけど、翼も無いのに行ったことがあるとは凄いね族長様。
しかし近くの星にもグルメな世界が存在するのかな? たしかに私とヤスールさんの共通点は『他の星』くらいしかなさそうだけど。そしてどの程度なんだろうなぁ、日本並にグルメだとすると合格ラインが相当高くなりそう。せめて醤油さえあればなぁ。
「とにかく、そういうわけなので作ってみようと思いまして。調味料が足りてないので不安ですけど」
「それを作るために幼アルミラージが要ると?」
「小さいほうがお肉が柔らかくて美味しいんですよ」
「そういうものか」
というわけで一狩り行こうぜ。人生初です。ゲームでも狩りなんてしたことない。RPGのコマンドバトルとかMMOのクリックゲーでモンスター倒しまくるのはやったことあるけど、あれは狩りとは言わない。作業だ。
準備は念入り、というほどのこともなかった。カリムさんが持ってる剣、ククリナイフという種類の剣らしいけど、それを私にも一本渡された。けっこう重い。そして助っ人?の少年チカバルが同行。で準備完了。さすが狩猟民族、慣れております。
獲物の場所なんだけど、おそらく巣にいるのだろうと思うものの、わざわざ幼体を狙うことは無いので巣の位置なんて知らないし判らないそうな。つまり【万智】の出番。
「なあ姉ちゃん、ちっこいのなんか捕まえてどうすんのさ?」
「綺麗に捌いてヤスールさんに献上するんですよ」
「族長様に? だったらデカイやつのほうがよくない?」
「ヤスールさんはグルメなんでしょう? だったら普段と違った味わいのほうが喜ばれると思いませんか?」
「そうなのか? ふーん。姉ちゃん変わったこと考えるんだな」
そりゃ、ここの人たちはあの味の薄い食事が日常なのだから、それに不満を覚える私は彼らに言わせれば「変わってる」に決まってる。でもそれを言えば彼らの族長様だって変わり者ってことになるんだけども。
そんな雑談しつつさくさく歩いて、集落から最寄のアルミラージの巣へ。成体がいればチカバル君の修行がてらさくっと倒してもらうとして、幼体は角を折って生け捕りにしないといけない。これを私が挑戦することに。カリムさん曰く「生け捕りはやったことないし、アスカの実力も見てみたい」あーうん、動物園のウサギさえ満足に抱きかかえられたためしのない私には生け捕りはけっこうハードなんですが。でも自分で言い出したことなのでやってみるしかないか。
「これがアルミラージの巣か?」
草むらの中で枯れ草のベッドを作り仲良く並んで寝ていた小さな角兎が三匹。さすがに飛び起きて警戒して、うわ飛び掛ってきた!
とっさに剣の腹を盾のようにして縦に構える。その剣をもった私の腕に角がぐさり。痛い。
「あう!」
「ちょ!?」
深く刺さる前にカリムさんが掴んで止めてくれました。なので私の腕の傷は玉のような小さい血が出るだけで済んでる。けど血を見るとくらくらします……そういえば昨日までの三日間で大量に流れ出てるから鉄分が足りてない。誰か鉄分ぷりーづ。ここでどうやって補給すればいいんだろう? アルミラージのレバーでも焼いて食べる?
「防御も満足にできないとは」
「クソ雑魚ナメクジでごめんなさい生まれてきてごめんなさい」
「そこまでは言っていない」
文句を言いながらも傷口におくすり塗ってくれるカリムさん優すぃー。
チカバル君は私の代わりに残りの子ウサギをさくさく捕まえて角を折って生け捕りにしてくれてる。私の半分も年齢なさそうなのに実に頼りになります。
「これおれのほうが強くね?」
とか思ってたらぐさっと言われた。
「チカバル、その通りだとは思うが本人を前にはっきり言うんじゃない」
「カリムさんも本人の目の前ではっきり言ってますからね?」
日本人、想像以上に、狩りできない。
まぁ私は文化系だったんで、小さい頃に家族全員で兎島に行ってみんなは簡単に捕まえてたのに私だけ逃げられまくったくらい運動神経は鈍かったし、体型維持以上の運動は特にしてないし。しかも今回は生け捕りっていう面倒くさい条件がついてる。だからこうなるのも仕方ないと思うんだけど。
「……明日から、相当スパルタで鍛えないといけないようだな。苦労が目に見える」
「たいへんですねぇ。頑張ってください」
「おまえのせいだからな? それとおまえは俺以上に頑張る必要があるからな?」
「カリム兄ちゃん、おれも手伝おうか?」
「そうしてくれると助かるな」
スパルタ訓練が予定に組み込まれました。逃げたい。でも逃げたら死ぬ。何度も死ぬ。実例あり。
諦めて頑張ります、はい。
チカバル君が持ち帰ってくれた子ウサギは、私が【万智】をフル稼働して最適な方法で捌ききった。ククリナイフで。この集落、包丁ないのかよ。
「狩人より料理人になったほうがいいのではないか」
「そんなこと言わないで鍛えてくださいお願いしますなんでもしませんから」
「しないのかよ……」
チカバル君が呆れてるけど、ここで『なんでもします』などと言うとろくでもない要求を出される国の出身である私は
で、運のいいことにごま油に似た感じの食用油を見つけた。貴重品らしかったけど族長様に出すからと強引に少しいただいて、これに塩を混ぜればタレができる。でもいい皿がないので木材を貰ってきてククリナイフで大小皿を削り出し。箸もなかったので端材から切り出して適当に削って成形。
「姉ちゃんすげー器用だな……剣でこんな細かく切れるやつなんて村にいないぜ?」
チカバル君にはじめて褒められた。しかし私はこんな無骨な剣で木工や彫刻ができるほど器用だったかな? 人物画を描くと『妖怪ですか?』って言われちゃう程度には不器用だった覚えがあるんだけど。もしかしてフェバルになった影響だろうか。
それはさておいて、削り出した皿に兎刺しを盛り付けて、ごま油モドキのたれを小皿に。何本かつくった箸の一つを使って味見……おお、美味しい! これなら族長様もご満悦に違いない、ってあのさぁ。
「カリムさん、チカバル君。食べたいんですか?」
「長に出すなら毒見が要るだろう」
カリムさん、顔に「食べたい」って書いてあります。言い訳イクナイ。
「おれ食べたい」
チカバル君は素直でよろしい。
味見させるのはいいんだけど、素手で触ってほしくはない。でも二人が箸を扱うのは厳しいと思うので、次の箸を取り出して、
「はい、あーん」
「あぐっ。モグモグ……うめぇ!! なんだこれ!」
チカバル君にはちょっと贅沢だったかもしれませんねぇ。
「おい、何故チカバルが先なんだ」
「毒見なら彼が食べれば充分じゃないですか?」
「うぐっ」
「素直に食べたいと言わないなら、このままヤスールさんに持って行きますよ」
「……俺が悪かった。一口食べさせてくれ」
「了解。はい、あーん」
「……これは……長の気持ちが少しわかるな。もうひとくt」
「これ以上食べたらヤスールさんに出す分がなくなっちゃいますよ?」
「まだこんなにあるじゃないか」
「いやいやいやいや」
これは基本的に献上物ですよ、集落で一番偉い人に差し出すんです。また機会があれば作りますから、横取りすんじゃねーですよ。
これ以上を取られないように防衛しつつ、ヤスールさんのもとへ持って行って「あーん」で食べさせた兎刺しはたいへん好評だったので、ひとまずほっとした。ただカリムさんとチカバル君が族長様の目の前にも関わらずもう一口をねだるのには、ビックリするやら呆れるやら。それでいいのかこの集落? と思ってたら「ああもうわかった、残りはお前たちで食べろ」というのでヤスール族長お優しいです。どうも威厳を振りかざすのは苦手なようで。
あと即興で切り出して作った木皿にも感心された。これについては「必要だなー」と思ってたらいつの間にか作ってたって感じで、自分でもこんなことができるとは知らなかった。
毎日作ってほしいと言われた。兎刺しを? それとも皿を? え、両方?
これで集落における私の価値が確立できたと思う。心置きなくカリムさんを私の鍛錬用に占有できます。ふふふ。
翌日から大変なスパルタだったことを此処に明記しておく。
あと気に入った誰かさん(三名)の強い要望により兎刺しを毎日作る破目になった。毎日は無理って言ったじゃんよー。
解せぬ。
◇生理痛がそんなに酷くなるわけないじゃん
人口が少なければ症例のサンプル数が減るので、異常症例に対する許容性も変わってくるというもの。あとラハール族のような小規模共同体だと文化的に
◇馬刺しならぬ兎刺し
地球の兎の肉は生食に向かないので真似をしてはいけない。
馬刺しは危険性が少ない種類の動物である上に厳密な品質管理をしているために生食が可能だが、兎の生食は野兎菌がヒトにも感染するため危険らしい。
作中のアルミラージには野兎菌などなく、幼体ならば食あたりの危険が衛生管理された馬刺し並みに少ないという設定。なお適切な調理をすると馬刺しのようにとろける美味さ。
◇醤油、塩、生姜、ニンニク、出汁、コンソメ、胡椒
出汁とコンソメは『食材のうまみ成分だけ使う』という行為への理解が無いため存在しない。
それ以外は実は全てこの星にあるが、ラハール族はあまり持ち合わせていない。
◇チカバル
ラハール族の少年。狩人見習い。
今まで狩りに出たことは無く、今回が初の実践訓練なのでかなり浮かれている。
現時点で戦力としてアスカより遥かに上。
◇兎が三匹
フェバルの言語翻訳能力の問題なのか作者の知識不足や怠慢が理由か、兎であってもアルミラージは『羽』ではなく『匹』で数えている。おそらくジャッカロープも。
こいつらが
◇兎島
広島県の大久野島のこと。島のほぼ全域が国有地であり管理職員約20名以外の人口はゼロ、野生アナウサギの兎口が約700羽。
逃げ足と警戒心の強い兎を捕まえるには結構な運動神経と体力がいる。その点では
◇ククリナイフで調理
狩りのときに使ったやつをそのまま使用、ただし消毒はした。
消毒は実は魔法技術による。後日登場予定。