フェバル~全知無能のイモータル~   作:華村天稀

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前回のあらすじ:
アスカの生産チートが炸裂!
アスカは女性下着(上下)を三着手に入れた!
エトナは女性下着(下のみ)を一着手に入れた!
アスカの兎刺しファンが(本人含めて)六人になった!
アスカ「あれ、特訓の話は?」チカバル「ちょっと走っただけじゃん」



0x06.本気で訓練するとこうなる

 訓練一日目。指定場所に行き着く前にばてたため科目がマラソンに変更される。

 次の日、筋肉痛でお休み。エトナちゃんと縫製して過ごす。

 訓練二日目。この日もマラソン。一日目よりは長距離を走った。

 次の日、やっぱり筋肉痛でお休み。料理班の手伝いをして過ごす。私が手がけた料理は絶賛されたけど、調味料の使いすぎで怒られた。調味料って塩しかないじゃん。この集落は調味料と野菜の量を増やすべきだと思う。兎刺し持参してヤスールさんとカトラさんに直訴しておいた。

 訓練三日目。この日もマラソン。いつまで走ってればいいのさ?

 次の日、筋肉痛があんまりしないことをカリムさんに話したら、今日はお休みにしないで訓練やることになった。つまり訓練四日目。←今ココ

 

(きょ)(じゃく)(ひん)(じゃく)の異星人アスカがようやく多少なりとも体力をつけたので」

「いやま事実ですけども、そんなはっきり馬鹿にしないで欲しいですーぶーぶー」

「姉ちゃん、気持ち悪いからその顔やめなよ」

「きもっ、!?」

 

 自称喪女でもそんなこと言われたら傷つくよ!?

 

「進めていいか?」

「あ、どうぞ」

「今日から実際に剣を扱う。まずは素振り千回」

「え、ククリナイフ(これ)を振るんですか?」

「他に何を振るうんだ?」

「訓練用の竹刀(しない)とか」

「姉ちゃん、実際に使うものを振らないと、訓練にならねえよ」

「ぐう正論」

 

 竹刀は安全に稽古するための道具であって、鍛えるのに最適ではないってことか。まあそもそも竹刀は日本のカタナ文化に由来したものなので、この集落にはないはず。ないのに言葉が通じるのも変な話だけど。(ぼく)(とう)と混同してるかもしれない。

 というわけで皆さん黙々と、でもないか。カリムさんは黙って振ってるけど、チカバル君は「イチ! ニ!」という感じに掛け声をかけてる。

 ところで型の指導とかないの? 学校教育で男子は剣道あるかもしれんけど、女子は剣道部にでも入らない限り学校で竹刀を振るうことなどない。女子剣道部が活躍するコミックが()()ったので感化された女子はいたし、私も順当にしてれば入った可能性はあるんだけど、中学上がった直後の頃に男子の悪ふざけで竹刀で叩かれ、髪の毛を巻き込まれて痛い思いして、それでちょっぴりトラウマ化して剣道には近寄りたくなかった。まぁその後そんなのどうでもよくなるほどの強烈な痛み(=生理痛)を毎月味わうようになったわけだけど。

 どうでもいい思い出のせいで話が逸れたけど、そんなわけだから私は剣を振るのなんて初めてで、振り方を知らない。ただ振り回せばいいだけのものでないことだけは知ってる。

 

「カリムさん、型の指導とかないんでしょうか」

「型とは何だ?」

「え? いや剣の振り方とかそういう」

「俺を見て覚えろ」

 

 オイコラそこの脳筋。

 もうちょっと根気よく聞いてみると、○○流だとか剣の型だとかそういう概念が頭にないみたいで、見て覚えて試しに振って体力つければあとは実践あるのみ、という考え方が集落の戦士全員の認識らしい。要するに指導の技術に乏しい。

 あーうん。そういうことなら存分に見て聞いて、ああそうだ【(ばん)()】に頼ろう、それが多分一番早い。ともかくまずはゆっくりやります。

 

 日本人である私が『剣を振る』と言われて思い浮かぶのは、やはり剣道、そして竹刀。両手でしっかり構えて、振り上げて、振り下ろす。ククリ()()()って名前だけど長さはそこそこ、竹刀よりは少し短い程度はあるので同じように握りこむことができる。()(よう)()()()で構えて、振る……しっくりこない。こうかな? こうかな?

 

 試行錯誤して十回も振っていると、なんとなくしっくりくる振り方がわかってくる。あとはこれを身体に覚えこませるべく、ゆっくりしっかり、繰り返す。

 まだ振った回数はそう多くないのに、意外と疲労するし汗もじんわり出てくる。しかしこのやり方が最良だろうという特に根拠のない確信をもって、私はそれを繰り返す。

 が。

 

「二人とも、なんでじろじろ私を見てるんですかね?」

 

 カリムさんとチカバル君が手を止めて私をじっと見ている。なんだっていうの。

 

「見事なものだと思ってな」

「見事って、剣としてこれを振るうのは今日が初めてなんですけど」

 

 包丁の代用やノコギリやノミがわりには散々してきたけどそれはノーカンで。子ウサギの突撃を受け止めようとした(しかも失敗)のは真っ当な武器としての用法だけども、振ってはいないのでこれもノーカンで。

 というかあのときその場にいた二人は私のド素人ぶりをよくわかってると思うのだけど。

 

「ド素人の何にそんな感心するところがあるんですか?」

「本当に素人なのか? 見事なほどに隙がないぞ。アルミラージ幼体(子ウサギ)の突撃に間抜けを晒したのと同一人物とは思えん」

「そうだよ姉ちゃん、なんか振り方が族長様みたいだ」

 

 異常な絶賛に困惑する。族長様ってアレでいて村で一番強い戦士なのだけど、それに例えられるほどの腕前や才能なんて私には絶対にな……あ! もしかしてそれも【万智】のせい!? 調理と木工と縫製がなんか凄いことになったのと同様に、剣も道具だから使い方はカムペキってか!?

 

「……ホントのホントに今日初めてのド素人なんですけどねぇ」

 

 経験(に相当する何か)がないとは言っていない。【万智】のせいで状況がおかしい。まぁ役立つ要素だからいっか。

 

「はいはい、素人の素振りなんて観賞してないで、二人とも自分の素振りに戻ってくださいよ」

 

 その後はちょっとペースアップして、五百を越えたあたりから腕が疲れてくるけど型を崩さずペースを落とさずを意識しながら続行。毎月の痛みと虚脱感に比べれば少し腕が重いくらい問題なし。

 体感一時間を少し割るくらいで千回を終わらせた。でも気を抜いた瞬間に手から剣がすぽっ。

 

「うわぁ危なっ!」

「何をしている!」

 

 危うく足の指を切り落としてしまうところだった。あっちゃー油断した。こんな失敗するあたり、ホラやっぱりド素人だ。

 思ったより手と腕がガクガクしてる。まだまだ気合入れれば動かせるけど、自覚してたよりもはるかにしんどい。考えてみればそりゃそうだよね、重力0.7倍といえど剣なんていう重いものを千回も振ったんだから。

 さて続き。最初の素振りは上から下へ振り下ろす、いわゆる唐竹(からたけ)。次は斜めに振り下ろす袈裟(けさ)だ。終わり際にさっきみたいな失敗をしないよう、改めて気を引き締めて。

 そこの二人。なんで「え、まだやるの?」みたいな顔してるんですか?

 

 唐竹、袈裟下ろし、右薙ぎ、逆袈裟上げ、逆風(さかかぜ)、袈裟上げ、左薙ぎ、逆袈裟下ろし、そして刺突。剣の形状的に活用が難しそうな型もあるけど、とりあえずこの九種類の型を練習してみた。全部同時に繰り出せば()()(りゅう)(せん)。いや無理だけど。たった一本の得物で九種の攻撃を同時になんて、人外の膂力か人外の速度がないと無理です。

 その全ての振り方を各々(おのおの)千回ずつ、合計で九千回。それだけやったらさすがに日が沈みそうになってた。ちゃんと身についたかどうかはわかんない。無意味なことだったとは思わないけど。

 

「まさか素振りだけで一日使うとは……」

「カリム兄ちゃーん、おれもうくたくただよー」

 

 え、あれ? やりすぎたの? たかだか……とは言えないか、九千回は。腕は特にそうだけど全身がなんかガクガクしてるし。

 

「カリムさん、本来の予定はどんなだったんです?」

「素振り千回もすれば剣を振ることにある程度慣れるし、身体もあったまるから、その後は狩りに行くか対人のつもりだった」

「それだと各型百回くらいにしておけばよかったですね」

「まあ、あれをやめさせる気にはなれなかったし、実践訓練は明日でもいいだろう」

 

 そんなふうに言われるほどのものなのか? 私視点では【万智】で得た知識を()(よう)()()()してみただけなんだけども。まぁ回数だけは素直に『頑張りました』って言える。ちょっと立っているのもしんどい。腕は更にしんどくて少しも重力に逆らう気になれない。やりすぎたかなぁ。

 

「では子ウサギを狩って帰るか」

「待って」

「早く狩って帰ろうぜ。姉ちゃん、巣はドコ?」

「ねえ待って」

 

 あの、もう腕が重くて包丁(ククリナイフ)握れそうにないんですけど。

 

「今日は無理です、調理できない」

「なんだと!?」「なんだって!?」

 

 えぇー、そんな驚愕すること? てか二人してプレッシャーが怖いよ?

 

「剣振り過ぎました。腕がもうガクガク。正直もう落とした剣を拾い上げるのも厳しい。調理なんて無理無理無理無理カタツムリですよ」

「なら誰かが代わりに捌けばいいのか?」

「まぁ理屈としてはそうですけど、正直もうクッタクタなんで、指導すんのもだるい、さっさとお風呂入って食べて寝たいですね」

「姉ちゃんダメだよそれは、ちゃんとおれたちと族長様たちに兎刺し作って献上しないと」

「献上て。しかもなんでチカバル君のが先になるんですかねぇ」

 

 ダメだこいつら、兎刺し中毒に陥ってて休止交渉ができそうにない。これ下手すると生理中でまるで身動き取れないときにもねだってきたりしないか? いくらなんでもそのタイミングだけは冗談じゃない、これは一刻も早く自分達で何とかできるよう技術継承が必須なのでは。

 

「えーとじゃあ、集落までお姫様抱っこで連れ帰ってくれたら、調理できる人に捌き方を教えます」

「よしわかった」

 

 半分冗談で言ったのに、カリムさんは何の躊躇(ためら)いもなくひょいっと両腕で私を抱え上げる。落としてた私のククリナイフはチカバル君が回収。実に手際がいい。おまえらそんなに兎刺しが食いたいか。

 それにしても、自分で言っておいてこの体勢、フツーなら恥ずかしかったり色々思うんだろうけど、今回は疲労が前面に出すぎてるせいなのか『実はこれあんまり楽じゃないんだなぁ』くらいしか思わない私。あーこのへんが喪女たる所以(ゆえん)なのかな。わかってたって自覚したって性格なおすのは無理だけど。

 

「で、二人は調理とかできるんですか?」

「適当に肉を切って焚き火で炙るくらいしかできんな」

「それ調理って言うんでしょうかねぇ」

 

 戦士なら野営することもあるのだろうから、そのときの食事なのかな。

 

「チカバル君は?」

「料理はやったことないけど、頑張るから教えてくれよ!」

「こんなに疲れてなかったら教えても良かったんですけど……」

 

 素人に教えるのは最初が一番大変なので、今の体力では勘弁して欲しい。

 

「あ、エトナちゃんならどうでしょう?」

「エトナか。あれなら色々やっているだろうから、頼んでみてもいいかもしれんな」

「決まりですねぇ」

 

 エトナちゃんに捌いてもらいましょう。この前食べさせたときは気に入ってくれたみたいだし、でも二人みたいに図々しくないので、その後も誘わないのに食べに来たことはないけど。調理したら食べれるよ、って言ってやり方教えてあげれば引き受けてくれると嬉しいな。

 

 

 

 子ウサギを狩って集落に戻り、エトナちゃんに「やり方教えるから調理お願い」と頼んでみたところ快く引き受けてくれた。炭酸温泉に入って夕食とった後に、エトナちゃんを調理場に連れて行き(何故か呼んでもないのにチカバル君も同行)指導してみたところ、子供らしからぬ技量と器用さで教えたとおりにさくさく調理。生で出す料理なので衛生面には特に気を使うようにさせる以外は特に苦もなく完成しちゃった。むしろ同行したチカバル君が隙あらばつまみ食いしようとするので作業的にも衛生的にも邪魔で仕方がなかった。

 よし、今度から私がダウンしてたらエトナちゃんが調理してくれるに違いない。あと調理の邪魔する人はククリナイフで斬り捨てていいよ、って許可出しておいた。チカバル君がちょっとビビッてたけど知るもんか。

 ただ、今日エトナちゃんの切った兎刺しを食べたヤスールさんは

 

「正直に言うと、昨日のほうが美味いのう。切る腕の差かのう」

 

 とばっさり言いやがった。ククリナイフ(ほうちょう)捌きの腕前に差があるとでも? 私だって料理の腕前は一般家庭主婦以下、ましてこんなごつい刃物の腕前は素人同然のハズなんだが。思った以上に【万智】の器用さ補正が強力なのかしらねぇ。

 それにしても、エトナちゃんがちょっとしょげちゃったじゃないか。どうしてくれる。

 

「いい。次がんばる」

 

 おろ、エトナちゃんのやる気スイッチに火がつきました。いい傾向かも。

 

 

 

 

 翌日、想像をはるかに超えて強烈な筋肉痛で右腕がまったく使い物にならず、訓練はお休み。手も腕もまともに動かせないとなると普段の休みと違って他に何かやるのは無理なので、朝から晩まで筋肉痛に耐えながら温泉に浸かるという一日を過ごした。のぼせた。ていうか茹で上がった。

 うーん、いきなり金属武器の素振り九千回はやりすぎたかなぁ。

 

 あと、許可の話で料理班の方々に怒られた。曰く、

 

「調理場を血で汚す気ですか! そういうのは立ち入られる前に斬り捨てなさい!」

 

 そっちのほうがこえーよ!

 その話を聞かせたらチカバル君が

 

「おれ、もう調理場には絶対入らない……」

 

 と震え上がっていたのはココだけの話。

 




◇ククリナイフって名前だけど長さはそこそこ
一口にククリナイフと言うが長さはけっこうまちまち。ものによっては刃渡りが一メートルを超すらしい。
アスカが今持っているものは刃渡りが竹刀より若干短い程度あり、柄もギリギリ両手持ち可能な程度の大きさがある。

◇それも【万智】のせい
【万智】の知識というのは単純に文章化できる事項だけではなく、職人や達人の感覚・経験のような文章化やパラメータ化が困難な事項も含まれる。
そして【万智】で得られたそれらのものがアスカの身体向けに最適化されて、それに従った動きを取れるようになると『経験ないハズなのに(部分的に)熟練職人や達人のような腕前を披露できる』ということが起こる。
この『最適化』の特性は【万智】覚醒初期にはなく、経験によって成長する要素。将来的にはアスカ自身により【自動挙動(ワークオートメーション)】と名づけられることになる。
ちなみに、今のところアスカは勘違いしているが、別に道具がなくても徒手の技術(空手、合気道、粘土細工、あやとりなど)もこの特性の対象である。魔法が絡む技術も対象ではあるものの、当人の魔力がゼロのため、自身が魔力を持つことを前提とする技術は扱えない。

()()(りゅう)(せん)
ある剣客コミックに出てきた奥義一歩手前の大技。
八方向の斬撃と中央の突き、計九条の攻撃を同時に行う。よほどの腕が無ければ相手は回避も防御も不可能(らしい)。
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