執筆道具のひとつが壊れるなど、色々ありまして。
今後もしばらくはスローペースです。
前回のあらすじ:
海の村は半壊、怪我人多数。ラハール族は緊急で支援活動、アスカも重傷人の治療をした。
その後の宴会で、海の村を襲ったモノについて聞く。
アスカ「ジャバウォック?」
ジャバウォック。
かの有名な『不思議の国のアリス』の続編である『鏡の国のアリス』の、その作中詩『ジャバウォックの詩』に登場する怪物の名前である。ていうか詩の名前がだいたいコイツ。
その容姿は文中にはっきりした描写がなく不明だけど、とりあえず顎と爪と眼はあるらしい(ただし初版時点から挿絵が存在し、その絵によれば不気味で異様な姿をした竜の一種であるように見える)。そんなバケモノを
実はジャバウォックは『意味のない
で、このジャバウォックという名前。おそらく、というかほぼ間違いなく、作者であるルイス・キャロルの造語であろう。彼は19世紀の地球の人間だ。であれば、それ以前、それ以外の場所にこの言葉があるのはおかしい。
「神獣ジャバウォックか!?」
と考えているとヤスールさんが、私の思考をさらに混迷に落としてくれる発言をしてくれた。神獣ってなんなのさ。まるでゲームのノリだ。
これはあれか、この世界を作った "フェバル様" に現代地球の知識があった、ということなんだろうか。そうするとこの世界はまだ作られて数十年から百数十年くらいしか経ってない可能性があるが……はっきりと聞いたり調べたわけではない(【万智】はこの世界の発生がどれくらい昔であるのか、はっきりした答えを返さなかった)けど、この世界の歴史はそんなに浅いわけではない、気がする。
もう一つの可能性としてはフェバルの基礎機能である翻訳能力がおかしいこと。要するに現地の言葉が私の知識に即する形に翻訳されてしまっている……そっちのほうがありえそうだなぁ。ゲーム脳とか言われてもちょっと否定できないくらい、私はゲーム好きの自覚がある。といっても何でも好むわけではなく、オフラインのアクションやらシューティングゲームやらシミュレーション、オンラインではちょっとユルめの協力プレイするようなのは好きだが、音ゲーは嫌いではないけど上達せず、集団対戦アクションも負けて煽られストレスが溜まるのであまり好まず、マギカスゴロクやと○らぶのようなブラウザゲームはさわりだけ遊んでみたものの殆ど興味が持てなかった。
もしホントにそういうことなら、もう笑うしかない。これから異世界に行く予定の皆さん、言語チートをもらってもゲーム脳だと、こういう困ったことを引き起こす可能性があるので気を付けましょう。
「神獣? なんですそれ?」
「うむ、その話の前にじゃ。この世界の空をどう思う?」
「空ですか?」
昼は青空に人工太陽が眩しく輝き、夜は黒い空に人工月光が優しく光る。星々の煌きはなく、かわりに黒っぽい大きな丸い影がいくつも見える。その影は隣の『大地星』であり、空を飛ぶ翼があるなら行き交うことも可能だとか。
この太陽と月だが【万智】によると、地上のどの場所にいても同じ角度に見えるのだという。つまり、日の出、正午、日の入り、など太陽に起因する時刻が地上のどこであろうと同一で、時差がない。たとえば地球なら星の裏側(日本の裏側はブラジルが近い)は昼夜逆転するが、この星だと今いる場所が丑三つ時なら裏側も丑三つ時だ。
自然の恒星と惑星の関係ならばこんなことは起こりえない、その性質は何かの利便性を狙った人工物である証明のように見える。何がどう便利なのかはわからないけど。
……しかし、ここに住む人たちにそんな事を言ってしまっていいのか。おまえらの世界は人工物だ、なんて突きつけてしまってよいものか。いや元々 "フェバル様" が作ったと伝承されてるらしいから大丈夫なのか?
「
「そうじゃの」
「この世界は "フェバル様" が御創りになったと聞いています、つまりは空も?」
「うむ、伝承によるとな。空はフェバル様が特に気にかけてつくられ、そしてこう言い残したそうじゃ。『この空はいずれ狂うかもしれない』とな」
「狂う?」
「原文ママじゃ。狂う、というのが具体的にどんなことになるのかはわからん、伝わっておらんでな」
単純に考えれば、エネルギーを失って光がなくなる、というのが一番ありうる。そうなれば、それがこの世界の寿命というわけだ。
「で、じゃ。空が狂いそうになったときには神獣を遣わし、異変を押し戻す。そうフェバル様は仰られた」
「それが神獣ジャバウォック」
「そうじゃ。特に形は決めていないがリュウの出来損ないみたいな姿になる、と伝えられておっての」
「リュウですか? 私の故郷でリュウと言うと、超巨大な蛇が宙に浮いて神様になったみたいな存在と、超巨大なトカゲが背中に翼生やして二足歩行してるみたいな存在と、波動を自在に操る格闘家がいるんですが」
「二番目じゃの」
つまり竜、ドラゴンか。この星にはドラゴンが実在するらしい。狩ってステーキにしたら美味しいだろうか。
「竜を食べたそうな顔をしとるが、ありゃ人にはそう倒せん化物じゃからな? それに、この村から山三つは向こうに棲んどるから行くだけでも一苦労じゃぞ?」
それは残念。
「なあ族長殿、この娘は本当に竜を喰らおうなどと考えたのか?」
「こやつは色々と変わり者での、それくらい発想してもおかしくないのじゃ。今の表情からして間違いなく考えたであろうよ。まぁ変わっておる分優秀なのだが」
「えー、それ酷くないです? ちょっとは考えるでしょう、ドラゴンステーキ」
「たしかに美味そうな響きではあるがの。そのために何人もの戦士が命を落とすことやら」
「そこは何とかして犠牲を出さずに狩れる手法を開発したいですね」
「最近の娘は血の気が多いどころの話ではないな……私でも竜を喰らおうなどと無茶なことは考えんぞ」
まぁクトゥルフもとい世界的にはゲテモノ扱いの
「な、なんか急に顔色が悪くなったようだが、大丈夫か?」
村長さんに心配されるほど顔色が悪くなるくらい、今ので精神に重篤なダメージを負ってしまったらしい。SAN値ピンチ。
「あー、すいません。ちょっと食べ物関係でイヤなものを思い出しまして」
「そ、そうか……話を戻すが、村を襲ったバケモノを見たっていう若い衆の話だと、そのバケモノの姿が竜みたいだったというのでな。あと腕がやたら長く鍵爪が妙に大きかったそうだ。伝承に聞くジャバウォックの姿と実に噛み合う」
竜の出来損ない。腕が長くて鍵爪が妙に大きい。『鏡の国のアリス』初版でのジョン・テニエルの挿絵で、うろ覚えだけど確かにジャバウォックはそういう感じの姿だった気がする……と思っていたら【万智】が絵の記憶を補完してくれた。鍵爪が妙に大きいのは間違いないが、腕よりも首が長かったようだ。いやでも今それは些細な話。
奇形の竜。まさに『鏡の国のアリス』のジャバウォックである。
名称だけだったら『私の知識が翻訳能力に影響している』というのが最も可能性あるけど、容姿まで挿絵と共通するとなると、この世界を作った "フェバル様" が『鏡の国のアリス』を知っているという可能性が高くなる。この世界の存続がいずれ何らかの形で破綻することを見越して、その対処のための仕組みだか生物だかを作って。その容姿が似ているので、あるいはある程度似せておいて、神獣ジャバウォックと名づけた。そんなところだろうか。
神獣はゲーム脳or中二病が過ぎてどうかと思うけど、ありそうなセンである。時間軸がおかしいことだけが、この仮説のネック。
……とりあえず、考えるのは置いておこう。このことは今どれだけ考察しても、たぶん事態に対して一厘の役にも立たない。
「そのジャバウォックって、ヒトを襲う習性があるんですか?」
「伝承では容姿以外には特に語られておらんのだが、以前に現れたときも襲われた者がおる。村にまで現れたのは初めてだがな」
「ただじゃな、『神獣は空の狂いを正す、これを邪魔してはならない』とのことなんじゃ」
「ってことは、襲われたからといって倒してしまうのは、
「そういうことになるの」
「それは厄介ですね……」
相手は殺す気で襲ってくるだろうに、それを殺さずに退けないといけないとは。彼我の戦力に相当の差があれば何とかなる話ではあるが、村の惨状を見るにジャバウォックは相当手強いと思われる。もっとも、逃げまどうより他ない
「む、倒してはいかんのか? 18年ほど前に何処ぞの村の勇士が倒したという話を聞いたが、別にそのとき空に異変など何も起きなかったはずだ」
「なんじゃと? 初耳なんじゃが」
「情報収集の努力が足らんのではないか? 族長の」
「ぐぬぅ」
……結局、倒していいの? ダメなの? どっち?
もう聞けることはだいたい聞けた気がするので後は【万智】におまかせ…………と思ったんだけど、今回【万智】で得られる情報はどうにも要領を得ない。ただ倒していいのかどうかについては判った。
異常が発生すると、それが目に見えて問題になる前にジャバウォックが自然発生(ゲーム風に言えば『POP』)する。その行動がどう異常に作用するのかは判らないが、異常が解消されるまでは追い払うのはよくても倒してはならない。逆に言えば、
「前回は既に役目を終えた後だった、だから倒しても何事もなかったのでは?」
「ほう」「なるほどな」
「しかし、今回もう倒していいのかどうかは……判らないですね、困ったことに」
空の異常が目に見える前にジャバウォックは仕事するというのだから、空を見たところで異常の有無は判らない。【万智】でもダメ、忘れかかっている記憶が思い出せそうで思い出せない状態みたいになってる。もうちょっと異常について情報が集まればわかるようになりそうなんだけど……。
「ま、できれば倒さずに追っ払うだけにするのが無難じゃの」
「そうさな。今回も追い払うだけなら何とかできたがね。私も含めて、皆最近は少々腑抜けていた。鍛え直す必要があるだろうな」
「その前に療養したり家や柵を修復しませんと」
「ああそうか」
次の日、ラハール族も手伝って、周辺哨戒と村の再建……はいいんだけど、だから何で私が陣頭指揮を取らされてるんですかねぇ!? 族長も村長も飲み過ぎて二日酔いとかふざけんな!
【万智】によればジャバウォック再襲撃の心配はないけど、それでも半壊した村ではくつろげないし、さっさと塩をもらって帰りたいので私は頑張った。おかげで一日で建物と外周だけは完全に元通り(私の補佐についた村人が認定)を達成。誰か褒めて。
なお、塩田と塩倉庫もやられてしまい、当面は塩の生産ができず在庫も心許ないという事情を、復興作業のお礼に特産の塩を大量に貰った後で聞いた。そんなの聞いたら安心して貰って帰れないじゃん!
私はキレて海岸をしばし占有し、紋章魔法《抽出》で海水から食塩の成分を抜いて《形成》で結晶化させるという方法で丸一日かけて食塩の柱を50本ほど生産し、押しつけてやった。そんだけあれば死なないだろうから削って使え。
あと、魚は獲るが即日焼いて食うだけであり、加工して保存や取引といったことをしていないというので、干物の作り方を口伝してみた。手取り足取り教える暇はなかったが、何とか試行錯誤してモノにしてくれるとうれしいな。私も家で魚が食べれるようになるかもしれないし。
◇鏡の国のアリス
作中で紹介のとおり。子供にプレゼントするつもりで適当に書いたらしい前作と比べると、ちゃんと売ることを想定しており話の構成がしっかりしている、らしい。知名度が前作と比べると低めなのが泣き所。
◇詩の名前がだいたいコイツ
原作(英語)では Jabberwocky となる。ほぼバケモノの名前。
◇斬鉄剣
モンキーパンチ作『ルパン三世』に登場するサムライ、石川五ェ門の得物。金属だろうとスパスパ切り裂く、とんでもない切れ味の日本刀。ただ何故かこんにゃくは斬れない。
◇あまり長らく住み続けられないらしい/フェバルの宿命
フェバルとなった者が一つの星に居続けられる時間には限りがある。星と個人ごとに異なるが、通常で半年から数年くらい、長い例だと数十年になることもあるらしい。一度この時間がゼロになって他の星へ行ったフェバルが何らかの方法で同じ星に戻ることは可能だが、長くても数日でまた他の星へ飛ばされる。
なお、死亡した場合はこの残り時間がゼロになり、別の星で蘇生する。言わばこの制限時間は、各星におけるそのフェバルの寿命といったところ。
◇【万智】ははっきりした答えを返さなかった
こういうことが稀によくある。
原因がアスカの未熟にあるのか、能力の限界なのか、世界や話の都合であるのかは今のところ不明。アスカは能力の限界のセンが一番強いと思っている。
◇翻訳能力がおかしい
この能力がフェバルの基礎機能として全フェバルに同等に備わっていると仮定すると、原作および他の二次創作でこういう考察が一切出ない以上、フェバルの基礎機能としての翻訳能力がおかしいというセンは考えづらい。
つまりおかしいのはアスカn(ry
◇波動を自在に操る格闘家
格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズの登場人物リュウのこと。特に解説の必要もないくらい有名。
てかリュウとは何かの選択肢にこんなネタを混ぜるあたりがg(ry
◇静まれ【万智】
ふとしたことで知りたくもなかった知識を知ってしまい精神にダメージを負う現象が稀にある。幸い【万智】には精神を保護する機能もあるため、精神にどれだけダメージを負っても致命傷にはならない(らしい)。