「あなたは、間もなく特異な能力に目覚めるわ」
「え?」
急に何を言ってるんだ、本来ならそうとしか印象を抱けなさそうな彼女のこの言葉に、何故か引っかかった。
「そのとき、あなたもまた星々を渡り歩く者になるのよ。私がそうであるようにね……」
ちょっと何言ってるかわかりませんね、本来ならそう斬って棄てるべき彼女の言葉に、私は手が止まってしまった。
理解しがたい犯罪者の妄言、それもそもそも私に向けてはいないのに、私は何がそんなに気になるというのか。自分でも理解できない、けれど……
――和名のアスカはおまえと被るっていうし、本名のウィルはこいつと被るっていうし。どっちも気に入った名前だのに、俺ぁもうどうしたらいいのさ?
――じゃあ適当にコードネームでも名乗ったらいいんじゃないですか?
―― あ な た が ネ申 か 。
――いきなり何ほざいてやがる、そこの魔女コス女。
――彼らの行いはまるで
――いや、どうでしょう、その解釈は何か間違ってる気がします。
――何でもかんでもそいつの思惑通りで、誰も彼もが不幸塗れ。そんなの腹立たしいじゃあないですか。
――あぁ、まぁ、その主張はわからんでもないけど。
――どこが無能だよこの称号詐欺のチート野郎!
――失礼な! 私は女です、野郎じゃありませんよ!
――おい、
――誰が莫迦だっ!
……何、今の?
まるで何かの記憶……でも私にそんな記憶はない。はずだ。覚えのある相手や背景が一つもないのだから。
でも……いや、私はそれらを
「ごきげんよう。エーナ」
「はっ!? ウィル!? あなた、どうしてここに!? 一体ユウに何をしたのっ!?」
「能力の覚醒を少しばかり早めてやっただけだ」
混乱してたら一人増えた。しかも星海君は苦しんでる。
状況的にこいつらが何かしたせい、と考えるのが当然なのだけど……
――僕は心底、おまえが気に食わない。部外者のくせに。何も知らないくせに。
――そうかい。俺はおまえのこと、そんなに嫌いじゃないんだがなぁ。
――なぜ僕がおまえの言うことなど聞いてやらないといけないんだ?
――そういう事にしておいたほうが
――ああ、ようやく目が
――何でお前までその呼び方、ああ能力か。忌々しい。アイツならまだしもお前には似合わない、とにかくやめろ。
また、
これのせいだろうか、何故かウィルと呼ばれた男がそれほど悪い人物に思えない。状況的にそんなわけがないというのに。星海君は未だにピンチだというのに。
そういえば私だって見つかってしまえばピンチのような、といっても今更彼を見捨てて逃げる選択肢は取りづらい。
「んあ、あああっ!」
「おかしい。あなた、さっき男女は瞬時に切り替わるって言ったじゃない! 【干渉】でわざと変化を遅らせているわね!」
「なあに。反応が面白いんで、ちょっと遊んでいるだけさ」
「やめなさい! 苦しんでいるじゃないの!」
「そうか? 僕にはむしろよがっているように見えるがな」
私が自分のことで混乱している間に、状況が随分動いたらしい。
もうあいつらをただの殺人犯(実行中)やら妄想狂いだとは思えない。事実として星海君……星海君だよねアレ? なんかずいぶん可愛いんだけどどういうこと?
彼は男子だったはずだが、だんだん姿が変わって女の子になっているように見える。会話の内容によれば、あの現象は二人のせいというわけではなく、れっきとした星海君の能力によるらしい。といってもウィルという男の力で星海君の意志に関係なく、しかも不自然な形で作動させられているようなのだけど。
「くっくっく。まだ喘いでやがる。そうだな。ぼちぼち変化も終わらせて少しばかり挨拶してやるか」
「ユウに何をする気!?」
そのとき私は、よくわからないけど猛烈な何かの予感に突き動かされて、カバンに突っ込んだままの手に握っていたものを、全力で投げた。痴漢撃退用のスタンガンだった。
そして投げ終えると同時に彼らへ向かって走り出す。そんなことをすれば気付かれてしまうだろうけどもう知ったことか。
「これ以上勝手なことは――」
「お前、うるさいな。ちょっと黙れよ」
ウィルが魔女コス女に手を向けて何かを飛ばし、それが先ほど投げたスタンガンに当たる直前、私は魔女コスの襟を掴んだ。そのまま引っ張りながら全力で逃げようとする。
何かとスタンガンが接触し、何でその程度でこんなにと思うほどの大爆発が巻き起こる。確かにリチウムイオン電池って圧力や衝撃のかけ方次第では爆発するらしいけども。
襟を掴んでから爆発までコンマ一秒もなかったけど、逃げる向きと爆発の方向が揃っているので、流れに乗るように進むことができた。それで爆発のダメージをなくせるわけではないけど、自ら跳ぶことで少しでもダメージを軽減できることを期待する。
事ここに及んでは星海君は見捨てるしかなかった。こんなことができる相手は一般人の手には負えないし、彼らの話を信じるならどれほど酷い目に遭わされても殺されることはない。ただトラウマは植えつけられちゃうかもしれない。
ごめんね星海君。今日は心中で君に謝ってばっかりだね。
あれから全速力で逃げた。後ろを気にする余裕はなかった。かなり走って、息が切れて立ち止まって、それでようやく気付いた。
何の因果か犯人を助けてしまったこと。
ウィルという男は追ってこないこと。
魔女コス女もといエーナのことを気にする余裕もなかったため、ここまでずっと引き摺ってしまった結果、彼女がボロボロになってること。あーでもコレが犯人なんだし、別にボロボロになってもいっか。
「助けてくれた手前、文句を言うのは筋違いなのだけど、もうすこし丁寧に助けてほしかったわ」
「申し訳、ないけど、無理です……とっさの、ことだし、必死、でしたし……」
もっとも私もボロボロだ。そもそも最初の爆発が完全に殺しに来ていて、少しくらいダメージ軽減できてもかなりの重傷になるはずだったのだ。よくここまで走れたな私。
「てか、何なん、ですか、あなたたち。ただの、コスプレ、集団って、わけじゃ、ないですよね?」
まだ心臓バクバク言ってるし息も整わないが、これはどうしても聞いておきたい。とはいえ、聞くまでもなく答えが何故か私の中に浮かんだ。
――フェバル。運命の虜囚。
……なぜ私はこれが答えだと思った?
フェバル、という単語はたしかにさっきの会話に出ていた。おそらく何か特殊能力に目覚めてしまった超人のことをフェバルと言い、星海君はその仲間入りをしてしまったのだろう。エーナはフェバルが生まれる前に殺すつもりだったようだが失敗した。
じゃあ、運命の虜囚っていうのは……?
「あなた、さっきの話を聞いていたの?」
「偶然、知り合いが不審者に絡まれてるのを見つけたので、全部聞かせてもらいましたよ」
ホントは通報するつもりだったんだけど、なんだかんだで最後までそれはできなかった。
結果的にそれでよかったかもしれない。あの男に警察をけしかけても、おまわりさんが皆殺しにされる未来が見える。
ただ星海君だけはひたすら
「……そう。
「なぜ私の名前を?」
名乗った覚えは無いのだけど、と疑問を考察する余裕はなかった。
「うぐっ」
熱いような冷たいような何かが胸に触れ、いや
遅れて感じる、今までにない激痛。入院すら必要になる毎月の定番をも越えるほどの。
さらに遅れてようやく理解した。胸を刺されたのだ。
「今ならまだ間に合うわ。あなたが永遠に囚われる前に、手遅れになる前に、私があなたの命を終わらせる」
念には念を入れるつもりか、刺したものを
そうか、私もフェバルになる予定だったのか。
そうすると、さっきから変な記憶だかなんだか、あれは私の能力だったのかもしれない。
エーナは、フェバルになる予定の者を殺すことで、永遠に後悔する運命から救い出そうというわけだ。
冗談じゃない、と怒っていい話だと、普段なら考えるだろう。
でも……
「勝手に、決めるな……私に、
私は自分が、怒っているのか、嘆いているのか、喜んでいるのか、安心しているのか、わからなかった。
ただ……
「そうね、恨んでくれても構わない。でも、どうか安らかに」
「わた、しは……」
私は最後、何を言いたかったのだろう。何が気がかりだったのだろう。もうわからない。身体は、口だけすら、動かない。何も見えない、感じない。
それきり、私の意識は闇に沈んだ。
今回の死因:エーナに心臓をシュッと刺された上に捻られて殺される。
◇エーナ
魔女コス女、もとい魔女姿のフェバル。通称、新人教育係。
この世のあらゆる事物を占い、大まかに知ることができる【星占い】の能力を持つ。
フェバルの運命を知って嘆き、未覚醒の者を殺して呪われた運命から救うことを以後の生き甲斐とするが、成功例はない。
今回の住吉アスカの殺害が初の成功例になると思われたが……
◇ウィル
フェバルの少年。ぶっちゃけやべー奴。
この世のあらゆる事物に干渉し、ある程度は思いのままに操ることができる【干渉】の能力を持つ。。
◇フェスティバルからスティを抜いてフェバル
あるフェバルは『誰が何でフェバルって命名したんだろう』という疑問を持っているらしい。
これはその疑問に対する答えのように思えるが、残念ながらおそらく間違った推測であろう。
なお、アスカが幻思したこのシーンが何なのかは今のところ詳細不明。