用語解説の誤りを修正。
前回のあらすじ:
戦士カリムに助けられた
カリム「こいつ目が死んでるし話が電波でヤベェ」
夢に見ることもなかったので、もしかしたら特にトラウマにはなっていないのかもしれない。
そう思って私はほっとする。どういう神経してんだろう、と自分を疑う気持ちも少しあるけど。
思ったよりも
さしあたって私は、せめて生き抜く力を得ないといけない。
カリムさんに助けてもらい休ませてもらうまでは捨て鉢というか明らかにSAN値が激減していて、もうどうにでもなれー的な考えになっていたけど、少し眠ったことでSAN値も少し回復して、そう考えられる程度にはポジティブに戻ったということか。
そもそも私は、体力には自信はないが根性はある方だと思っている。それが最悪な方向に発揮された結果が
それはそうとして周りがうるさい。
いや、音量はたいしたことはないのだけど。こう、何て言ってるのかわかるかわからないかくらいの音量でありながら、妙に艶かしいというか熱があるというか、ミもフタもなくすっぱり言ってしまうとエロの喘ぎ声。それが村のあちこちから聞こえてくる。性におおらかな村なんですね。子供の教育に悪そうだわ。
それに起こされたのか、単純に寝るのが夕方頃と早すぎたのか、私が目を覚ましたのは真夜中だ。
眠気が無くなってるからすぐに二度寝するのは難しそうだし、この家ってベッドしかないし、おなかもすいたし。暇なので少し外に出てみることにした。服がボロボロなので貰った布を適当に身体に巻く。ほぼ身体全体が覆えるほど大きい布なので、これでとりあえず服の替わりになるかな。
……服がボロボロすぎて全裸とどっちがマシかわからない上に布一枚だけ羽織って外へ。今更だけど、これって下着にコートだけ羽織って外出する痴女と同じじゃん。おや、喪女の様子が……おめでとう! 喪女は痴女へと進化した! うわぁ……まぁ外行くけど。あと痴女ジャナイデスヨ。
後でカリムさんに服もらえないかしら。
空を見上げると満天の星空……はなかった。
まず目立つのは満月だ。地球で見た月と同じくらいの大きさと明るさで、優しい光を放っているのだけど……何故だろう、どこか嘘くさい印象を受ける。
それ以外は、月の十倍以上の大きさの暗い星(完全な暗黒ではなく、僅かな明るさがある)が無数に重なり、空を覆い隠している。煌く星はこの暗い星々が覆い隠してしまい見えないのだ。
どうなってるのかというと、【
ついでに言うと太陽はない。え、ないの? 昼間なんか光ってたじゃん、ぽかぽかしてたじゃん。え、あれ魔法!? 人工太陽と人工月光の魔法!? うわぁ、凄いスケールの世界ですね……月が嘘くさく感じるわけだよ。
というわけで、此処はそんな巨大小惑星が……ちょっと待って。惑星って太陽(正確には恒星)の周りを廻る天体って意味だから、太陽ないなら今度こそその表現はおかしいでしょうが。え、正式名称は惑星質量天体? あっそう……宇宙の用語って難しいのね。ていうか正式名称あるなら最初から出して欲しい。完全に未知のことに対して反応鈍いのが【万智】の弱点なのかしら。
改めて。此処はそんな惑星質量天体ばかりが集まってできた宙域で、空に見える暗い星というのはお隣の天体だ。しかも宙域全体に大気があるため翼があれば空を飛んで周辺の別の星に行くことも可能らしい。実際、星々を飛んで巡る渡り鳥がいて、神聖視されているとか。
ここはそんな宙域にある天体のひとつで、イゴールという。人が住める星のなかではかなり暖かく、地熱が豊富なので温泉がかなり沸く……え、温泉!? なにそれ凄く入りたい!
なんか、あからさまに地球じゃない世界だねぇ此処……今まで死んでばっかりで異世界っぽさの実感とかする暇なかったけど。あ、孤島の世界で見たマーブルの空は異世界実感したわ。あと溢れんばかりのゾンビの大群もある意味で異世界だけど。そっちは参加もしたけど。二度とイヤです。
とか言ってるとちょっと遠くのほうで破砕音ぽいものが聞こえてきて、そっちのほうがエロ声以外で騒がしくなる。何だろ? 私まだこの村の中で立場が不明だから、あんまり歩き回らないほうがいいよね。ホントは家ってか外から見るとテントだったけど、その外に出るのも控えたほうがよかったかもしれないけど、それは今更ってことで。
「アスカ、起きたのか?」
悩んでるとカリムさんがやってきた。
「ええ」
「ジャッカロープが村のすぐ外で暴れている。戦士たちが対応中だ。村の中にいれば心配は要らないが、あまり出歩くな」
「わかりました」
ジャッカロープというのはよく知らないけど、心配して見に来てくれたらしい。無骨だけどいい人だ。普通なら私みたいな不法入国者は牢に突っ込んで終わりじゃないの? あるいは後腐れないように一刺しして終了。あーそういえばオワタ式の最中にそういう部族がいたね。骸骨柄のネックレスしてたから危険度がわかりやすい人たちでした。やばたにえんの(交渉が)無理茶漬け。もう会いたくないわ。
ぐぅ~
「空腹か?」
「……そのようです」
普段鳴ることなんてほとんどないのに、こんなときばっかり自己主張しないでほしい、私の胃袋。
地球みたいに便利な調理環境が揃っているわけないだろうから、食事時以外で空腹になっても食べ物など
「ジャッカロープのジャーキーでよければあるが」
「あー、あるんですねそういうの。もらえます?」
「おう、これだ」
3枚ほどの肉片が手渡される。見た目は地球でよく見かけるビーフジャーキーとそれほど変わらない。貰っておいてなんだけど、ビーフジャーキーのほうが美味しそうだったように思う。
齧ってみる。あーうん、ビミョーな味。かつて従兄が田舎の工場に勤めていたときに『試作品の味見よろしく』などと言って送りつけられたマグロジャーキーなるものが少々ビミョーな味をしていたけど、このジャーキーはそれに輪をかけてビミョーな味。ビーフジャーキーとコレが並んでたら、こっちを積極的に食べる人は少ないだろうね。
「アルミラージと比べると味は落ちるが我慢してくれ」
「私そもそもアルミラージ食べたことも無いんですが」
「そういえば異星の者だったな。食べる物も異なるわけか」
「肉には違いありませんけどね。私の故郷では肉といえば主に牛、豚、鶏です」
【万智】によればこの村の肉は主にウサギらしい。美味しいのがアルミラージで、味は落ちるが加工すると長持ちするのがジャッカロープ。あとジャッカロープのほうが凶暴らしく、魔法を使って木の柵を攻撃し、砕いて食べてしまうのだとか。
だったら柵は金属で作れよ、と思うんだけど、金属は貴重なので柵を作るほどの量がないようである。
「で、今あっちで暴れてるとかいうのが、このジャーキーになるわけですね」
「狩ったからには利用を考えるさ」
あんまり美味しくないからといって、倒した肉を無駄にするつもりは無いようだ。
日本に根付いている勿体無い精神、どうやらこの村にもあるっぽい。
「さて、起きているならちょうどいい。長がアスカを呼んでいる」
「え、村長さんこんな真夜中に起きてらっしゃるんですか?」
「本来なら風呂を出てすぐお休みになられるのだが、起きてるようであれば連れてこいとのお達しだ。寝ているようなら起こさなくて良いとも言われたが」
「起きてますねぇ」
しかも食べ物をもらってしまったので無碍に断りづらいです。
まぁ断る気はないんだけどね。お偉いさんにも私の話は通しておいて、公認で村に居つくことができればそれが理想だ。
でもねぇ。
「会うのはいいんですが……着の身着のままの上に酷い旅路だったので、お風呂があるのなら入ってさっぱりしてからじゃダメですか?」
「身奇麗にしたいというのはわかるが」
「小汚いまま偉い人にお会いするのは気分的にちょっとねぇ」
「わかった、長に聞いてみよう。だがあまり期待するなよ、長もお疲れだ」
「あと、布をまとったままというのもどうかと思うので、何か着れるものをください」
「……そうだったな。用意する」
ぃよっし服ゲットの
カリムさんが村長さん、もとい族長さんから、面会前に身奇麗にする許可を取ってくれた。族長専用の洗い場を使っていいとのこと。
ただし十分以内に済ませろとも言われた。なので湯船にのんびりつかるのは不可。まぁ族長さんはお疲れで、話をさっさと済ませて寝たいとのことなので、そんなに待たせる気はない。
疲れもあるのでゆっくり入らせてほしい、話の後でもいいから、と言ったら日の出まで使っていいと言われた。話のわかる方のようで非常にありがたい。
そんなわけで洗い場に入り、湯船の湯を桶で汲んで頭から被り、湯シャンと垢すり(素手)でできるだけ身奇麗にする。シャンプーだの石鹸だのタオルだのといった便利なものが無い、正確にはタオルだけはあるんだけど生地が固すぎて使うと肌を痛めそうなので使えない、なので手洗いくらいしかできない。それでも文字通り生きた心地のしない約一月の汚れをすっきりさせることができた。
これで湯船に浸かれば疲れも吹き飛びそうな気がする。ここ汲み取り用と入浴用で湯船が二つあり、入浴用は温泉っぽい。うわー惹かれるわ、入りたい。でも今はダメ。
名残惜しいけどさっさとあがる。身体を拭く用に渡された、バスタオル扱いするには少々固そうな布、これで身体を拭いたら肌が痛そうなので、軽く押し当てて身体の水分を吸わせる。この布あんまり水吸ってくれなくて、けっこうめんどいな。
身体がだいたい乾いたら服を着る。入る前に着ていたものはボロボロで、どれももう着なおすことはできない。廃棄。かわりにもらったのは白と茶色を基調としたワンピース。そういえば白湯を持ってきてくれた女の子がインディアンっぽいデザインのワンピースを着ていたが、それと同じやつっぽい。民族衣装かな。
下着が無いので直接着るしかないという問題があるけど、今はしょうがない。着てみた。サイズは若干大きめだけど大きな問題はなし。よし。
こうしてインディアンコスプレの喪女が出来上がったのでありました。まる。
姿見とか無いんで自分ではどんな姿かイマイチわからないんだけど、似合ってるのかな? たぶん似合ってないんだろうなぁ。
「お待たせしました」
「準備できたか?」
「ええ」
「では――」
「カリム。フェバル様の準備はもうよいか?」
いきなり後ろから野太い声をかけられて(正確にはカリムさんが声をかけられたんだけど)、振り向くと、でっかいウサギと鹿の角を担いだ大男がいた。あ、これ首チョンパになったジャッカロープだわ。
「自ら狩ったのですか?」
「おう。最初は任せるつもりだったんじゃがな、今起きてる者達は少々頼りなくての。おまえさんが出りゃあワシの出番はなかったんじゃろうが」
「無理でしょう、俺はまだジャッカロープ狩りの経験はない若造ですよ」
「最初は誰でも未経験じゃい」
がっはっは、と豪快な感じに笑う初老のマッチョ。
察するにこの人が族長さんか。村一番の戦士でもあるらしいけど、お歳を召されているので普段は前線に出ないのだとか。
で、お爺ちゃん。なんでフェバル知ってるの? 私ここに来てまだ一度も言った覚えないよ?
「まぁ立ち話もなんじゃ。家に戻るぞ。カリム、これ」
「はっ」
ジャッカロープの首と胴体を受け取ったカリムさんは、それを持ってどこかへ行ってしまう。
後には私とこの豪快なお爺ちゃんの二人っきり。
「さて、嬢ちゃんも早よ寝な」
「あれ、族長さんは私に何かお話があるのでは?」
「ありゃ、嬢ちゃんがフェバル様だったか」
知らずに話しかけてたんかい。がっはっはじゃないよ。
◇
通常、フェバルは覚醒時点で能力は別にしても超越的な力(気力and/or魔力)を得、特殊な環境を除いて許容性の影響(≒星ごとの力の制約)を受けないが小さいため、どの星に行っても非常に強力な固体である。
アスカは例外的に、少なくとも現時点においては身体能力が一般の地球人の域を出ない(魔力も皆無)。それでフェバルとして振舞うのは大変であろう。
原作主人公である
◇
アスカが初めて出会ったフェバルの一人。能力が極めて強力で、性格と行動が凶悪な、まさしく危険人物。
彼はアスカのことを現時点では全く注目してないので、一章では出てこない。安心。
◇少し眠ったことでSAN値も少し回復
本来そんな簡単に回復するものではない。
◇惑星質量天体
質量が小惑星より大きくかつ恒星(正確には褐色矮星)未満であり、自重で(核融合を起こして)光ることはないけど、自重により球形を保つ天体のこと。
定義上、太陽系の惑星と準惑星は全てが惑星質量天体であり、それらの衛星の一部(月など)も惑星質量天体である。
◇惑星質量天体ばかりが集まってできた宙域
現在の話の舞台を含む宙域であるが、恒星がないので、ここにある無数の惑星質量天体は惑星でも準惑星でもない。天体は全てが地球型惑星相当で、小さいもので準惑星セレス級、大きいものでも直径が地球の半分くらい。
天体同士が距離を保っており衝突しない、地上から天体間にまで一気圧の大気が充満している、どの星も地球と比べると小さいにも関わらず地表重力が地球の七割程度、など人工太陽&人工月光のほかにも魔法的な仕掛けがあるとしか思えない要素を持つ。
宙域全体において、気力許容性は低く、大規模な魔法が動いているにもかかわらず魔力許容性はやや低いレベル。
◇天体イゴール (気力許容性:低い 魔力許容性:やや低い)
現在の話の舞台となる星。上記宙域内にある天体の一つ。大きさは冥王星と同じくらいで、この宙域の星としては平均レベル。宙域解説にもあるが地表での重力は地球の0.7倍で気圧は地球と同程度。
重力が弱い関係で、地球人の身体能力は相対的に約1.4倍となる(かわりに
宙域内の人が住める星の中では温暖、というより亜熱帯に近い気候で、地殻活動が活発なため地熱が多く温泉が沸く。
ここに暮らす人々はいくつかの部族に分かれており、その全てが狩猟や漁と農耕を基とした生活を営んでいる。また魔法を生活の道具として用いている。