鈍色の盾   作:シラー

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上手く纏まりませんでした。すいません。


来訪する足音は軽やかに

学園南側はいつもびゅうびゅうと風が吹き込んでいた。臨海に浮かぶ人工島のIS学園は、本土に面する一部分が分厚い外壁によって隔てられている。当然外壁のない、海側は海から吹き込む風によって煽られる場所として有名だった。数千本にものぼる鉄筋コンクリート製の杭を地盤へ深く打ち込み、更に重量の学園構造物埋を支えるために埋め立てを行い、総工費四兆円をかけて建設された学園は、各種の警報装置とイージス艦と同じフェーズドアレイレーダーの陸上設置型であるJ/FRS-7や、既存の火力である格納式の近接防空ミサイル(RAM)近接防空火器システム(CISW)による防空網、学園配備のISを主軸に構成されている。情報通信システムとしては学園内に張り巡らされた教職員用の学園内LAN光ケーブルのみで行われ、張り巡らされた光ケーブルは完全に閉鎖されており、外部からの侵入はまず不可能となっている。万が一のウィルス侵入にも対応するため十二時間おきに記憶参照型のIDSのデータは更新され、ケーブルのセキュリティも接触感知型のそれは物理的接触を感知すれば即座に反応を検知してシステムのシャットダウンが行われ、教職員の管理用パスワードも立場によって異なり、企業で言えば重役クラスの教職員は使い捨てのワンタイムパスワードが絶対で、それを束ねる地下の第四層最重要防護区画に置かれている、スタンドアロンのサーバーへバックアップを行う中央制御室は物理的にも、電子的にも、最高強度のセキュリティが敷かれておりまさしく難攻不落の要塞として知られている。

その最重要防護区画の真上は、だだっ広いグラウンドが広がっている。分厚い、鉄筋コンクリート製の人工地盤の上に厚さ三メートルを越えて積み重ねた土砂は、地表体積層として、人工地盤へのクッションの役割を期待されていた。

 

集団が一つの目標に向けて前進する場合、最も効率を得られるのは、共通の敵という存在だという。まさしく、現在のIS学園一年一組の状況は、そういう状態であった。簡潔に述べて、聆藤は孤立していた。孤高ではなく、あからさまな孤立だった。彼女たちからすれば、セシリア・オルコットを掌で踊らせ、勝利して見せたあの戦いかたは、スポーツとして教えられてきた彼女には納得しがたいものだったのだ。直前の試合で織斑一夏が勇戦(無謀な突撃)して見せたのもいけなかったのだろう。織斑一夏に比べて聆藤の戦いかたに、スポーツマンシップなどという崇高なものはなく、ただ相手の無力化を優先し制圧する、その効率重視の行いかたは、許容するほど器ができていなかったのだ。更に追い討ちをかけたのは、自覚のない彼女本人の発言だった。

 

「結局、相手の発言に踊らされ、あまつさえ慢心して挑んだ自分が未熟だったというだけ」

 

という趣旨のこの発言が致命的だった。自分の非を認めた彼女に対して、聆藤はなにも言わない、それが彼女たちの正義感という琴線に触れたのだ。聆藤からすれば、クラスメイトからの評価はどうでもよいものにすぎず、あの決闘の狙いは、織斑一夏を狙う敵に対する牽制の意味があった。だからこその容赦のなさだったのだが、まさか護衛対象者本人が火を着けるとは思いもしなかったのが本音だった。織斑一夏が聆藤を否定したのも大きかったのだろう。『正面から、立派に戦った、織斑に対して聆藤は、残酷で手段を選ばない卑怯者』というレッテルは大きいものだったらしい。クラスの雰囲気は重々しく、何より刺々しかった。山田真耶が必死にクラスの雰囲気を明るくしようとしても、すぐさま下を向く空気に溜め息しか出てこなくなるまで時間はかからなかった。五月中頃、丁度そのときである。

 

 

「では、今日は基本的な飛行訓練を行う」

 

担任の織斑千冬は相も変わらず刺々しい空気に非常にやりづらさを感じながら、本日も教鞭をとっていた。

本来、襟元についている襟章が待機状態で『八重桜に翼を広げる八咫烏(三本足の烏)』という国土保安庁の意匠である襟章の待機状態から展開するまでという基本の()の字の、この授業は聆藤からすれば退屈だった。幾度となく一瞬の判断を強いられる実戦を繰り返せば、体が自然に馴れるというもので、単純な展開だけならコンマ四秒での展開が可能だったからだ。誰よりも早く、展開を終えた聆藤は学園に張り巡らされた不可視の電子の目を調べていた。ISのハイパーセンサーは指定すれば勝手にやってくれるのみならず、アクティブ、パッシブを問わず、高い探索性能でありどこの国も爆発物探索などで利用されるようになって既に久しい。羽田発の悲劇の当時は、IS自体が未知数で、実戦投入は不可能だった。技術革新もここまでくれば着いていくだけで一苦労で、人が技術を使っているのか、技術が人を使っているのかわからなくなってきている現代社会。空虚さと、濃密さという矛盾を気が付かないうちに、同封し私心を圧し殺し、他人に合わせる技術ばかり長けていく自分を俯瞰することさえできるISにいよいよ呆れていった。それでも、このままどこに向かうのかという疑問でさえ、手慣れたままに圧し殺してしまえば疑問はあっさり消えていく。そうやって感慨に更けるのも悪くはない、いいことを知ったと思いに耽っていた。

飛んで見せろと言われれば九試甲戦・改は加速をしながら空を上っていく。四苦八苦している織斑一夏の白式と、その横で高貴なるものの義務(ノブレス・オブリージュ)という形で、手を差しのべるセシリア・オルコットは、とても楽しそうに笑っていた。

降下の指示が下れば、真っ先に降りていったセシリア・オルコットは代表候補生に恥じぬ技量を示し、指示の通りに目標の地上十センチで停止した彼女に感心しつつ、降下(墜落)していった織斑一夏にぎょっとする聆藤に対して、織斑千冬の指示が飛ぶ。いきます、とだけのべるとPICを切る。PIC反応がゼロになったことにポカンと間抜けな顔をさらしている山田真耶を放置して、高さを伝えるデジタル表記の高度計も目隠しして、目測だけで落ちて行く。自由落下に任せて低空におりていけば、校舎の高さを目印にして真下に向けてスラスターをふかす。決闘の時の急降下に比べて非常に楽な地上十センチ停止は、完璧に行って見せた。歓声は上がらず、失笑もなく、沈黙だけが支配する空気に痺れを切らしたのは織斑千冬だった。

 

「織斑、武装を展開しろ」

 

頼りない返事と共に武装を展開した織斑一夏は遅いと叱責され、続いて武装(スターライトmk-Ⅲ)を展開したセシリア・オルコットは銃身を横に向け、トリガー(引金)に手をかけた状態だった。誰に撃つのだ。聆藤の疑問は織斑千冬によって解決の兆しを見せた。

 

「直せ」

 

織斑千冬は、たった一言で沈黙を余儀なくされた彼女に溜め息を付きながら聆藤に対して武装展開の指示を出す。無言で右手に長銃身の42.8ミリ無反動銃を展開させると銃身を下に向ける。スムーズに展開され、初弾装填まで終えた無反動銃は発砲可能を示していた。

後から展開するタイムラグを嫌い、無反動銃以外の武装は機体の付属品として扱われ、手堅い武装の選択で、機体のパッケージ(換装装備)をとられないため、機動力増加に成功した九試甲戦・改は極めて即応的で、実戦的な兵器だった。その機体を自在に操る聆藤に対して、織斑一夏は言い様の無い不愉快さと恐怖を無意識に感じていた。

 

 

「ここがそうなんだ……」

 

街灯が照らす人工的な灯りのみで照らされ、堅牢なバリケードで閉鎖されているの正面ゲートの守衛詰所は数人の女性警備員が当直の職員に時間通りの来訪者の到来を直通有線を使って連絡していた。数日前に厳重な警備のなか来日したのは、中国の国家代表候補生の凰 鈴音だった。前日まで大使館で寝泊まりしていた彼女は、守衛に言われたとおりに、本校舎の一階総合受け付けへ向かっていった。本校舎総合受け付けは、当直の職員が二十四時間待機しており、非常時には真っ先に連絡の届く場所になっている。当直の職員は、四人で二交代制で行われており、常に誰かいるように割り振られていた。学園の構造は、複雑になっている。正面ゲートからなかに入っても、校舎が内側に入り込んでおり、なかを見通せない構造になっていた。

昼間は、光の反射などで、威圧感はそれほど無いが夜になれば照らすのは街灯のみで重々しい空気を背負う。バリケードも素早く展開可能なように生け垣や、校舎の内側に隠され、そとに向く校舎の壁は、銃弾は勿論のこと、赤外線、エックス線を透過しない特殊な外壁で構築され、窓ガラスは反射率が高く、ブラインドが常に下ろされているそれは軍事基地と形容するべきもので、そんな構造では案内のいない来校者が迷うのは当然の話だった。うろうろとあちこちを歩き回った末に、見つけたのは正面ゲートの奥の芝に寝転んでいる一人の男子だった。腕を頭の後ろに組み、足を組んでぼんやりと空を見上げている男子は誰も見ていないような真っ黒の瞳をしていた。大使館でも見かけた、駐在武官の部下と名乗った男と同じ目をした男子に、無意識のうちに避けて本校舎総合受け付けを探して歩いていった。




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