学園南側はいつもびゅうびゅうと風が吹き込んでいた。臨海に浮かぶ人工島のIS学園は、本土に面する一部分が分厚い外壁によって隔てられている。当然外壁のない、海側は海から吹き込む風によって煽られる場所として有名だった。数千本にものぼる鉄筋コンクリート製の杭を地盤へ深く打ち込み、更に重量の学園構造物埋を支えるために埋め立てを行い、総工費四兆円をかけて建設された学園は、各種の警報装置とイージス艦と同じフェーズドアレイレーダーの陸上設置型であるJ/FRS-7や、既存の火力である格納式の
その最重要防護区画の真上は、だだっ広いグラウンドが広がっている。分厚い、鉄筋コンクリート製の人工地盤の上に厚さ三メートルを越えて積み重ねた土砂は、地表体積層として、人工地盤へのクッションの役割を期待されていた。
集団が一つの目標に向けて前進する場合、最も効率を得られるのは、共通の敵という存在だという。まさしく、現在のIS学園一年一組の状況は、そういう状態であった。簡潔に述べて、聆藤は孤立していた。孤高ではなく、あからさまな孤立だった。彼女たちからすれば、セシリア・オルコットを掌で踊らせ、勝利して見せたあの戦いかたは、スポーツとして教えられてきた彼女には納得しがたいものだったのだ。直前の試合で織斑一夏が
「結局、相手の発言に踊らされ、あまつさえ慢心して挑んだ自分が未熟だったというだけ」
という趣旨のこの発言が致命的だった。自分の非を認めた彼女に対して、聆藤はなにも言わない、それが彼女たちの正義感という琴線に触れたのだ。聆藤からすれば、クラスメイトからの評価はどうでもよいものにすぎず、あの決闘の狙いは、織斑一夏を狙う敵に対する牽制の意味があった。だからこその容赦のなさだったのだが、まさか護衛対象者本人が火を着けるとは思いもしなかったのが本音だった。織斑一夏が聆藤を否定したのも大きかったのだろう。『正面から、立派に戦った、織斑に対して聆藤は、残酷で手段を選ばない卑怯者』というレッテルは大きいものだったらしい。クラスの雰囲気は重々しく、何より刺々しかった。山田真耶が必死にクラスの雰囲気を明るくしようとしても、すぐさま下を向く空気に溜め息しか出てこなくなるまで時間はかからなかった。五月中頃、丁度そのときである。
「では、今日は基本的な飛行訓練を行う」
担任の織斑千冬は相も変わらず刺々しい空気に非常にやりづらさを感じながら、本日も教鞭をとっていた。
本来、襟元についている襟章が待機状態で『八重桜に翼を広げる
飛んで見せろと言われれば九試甲戦・改は加速をしながら空を上っていく。四苦八苦している織斑一夏の白式と、その横で
降下の指示が下れば、真っ先に降りていったセシリア・オルコットは代表候補生に恥じぬ技量を示し、指示の通りに目標の地上十センチで停止した彼女に感心しつつ、
「織斑、武装を展開しろ」
頼りない返事と共に武装を展開した織斑一夏は遅いと叱責され、続いて
「直せ」
織斑千冬は、たった一言で沈黙を余儀なくされた彼女に溜め息を付きながら聆藤に対して武装展開の指示を出す。無言で右手に長銃身の42.8ミリ無反動銃を展開させると銃身を下に向ける。スムーズに展開され、初弾装填まで終えた無反動銃は発砲可能を示していた。
後から展開するタイムラグを嫌い、無反動銃以外の武装は機体の付属品として扱われ、手堅い武装の選択で、機体の
「ここがそうなんだ……」
街灯が照らす人工的な灯りのみで照らされ、堅牢なバリケードで閉鎖されているの正面ゲートの守衛詰所は数人の女性警備員が当直の職員に時間通りの来訪者の到来を直通有線を使って連絡していた。数日前に厳重な警備のなか来日したのは、中国の国家代表候補生の凰 鈴音だった。前日まで大使館で寝泊まりしていた彼女は、守衛に言われたとおりに、本校舎の一階総合受け付けへ向かっていった。本校舎総合受け付けは、当直の職員が二十四時間待機しており、非常時には真っ先に連絡の届く場所になっている。当直の職員は、四人で二交代制で行われており、常に誰かいるように割り振られていた。学園の構造は、複雑になっている。正面ゲートからなかに入っても、校舎が内側に入り込んでおり、なかを見通せない構造になっていた。
昼間は、光の反射などで、威圧感はそれほど無いが夜になれば照らすのは街灯のみで重々しい空気を背負う。バリケードも素早く展開可能なように生け垣や、校舎の内側に隠され、そとに向く校舎の壁は、銃弾は勿論のこと、赤外線、エックス線を透過しない特殊な外壁で構築され、窓ガラスは反射率が高く、ブラインドが常に下ろされているそれは軍事基地と形容するべきもので、そんな構造では案内のいない来校者が迷うのは当然の話だった。うろうろとあちこちを歩き回った末に、見つけたのは正面ゲートの奥の芝に寝転んでいる一人の男子だった。腕を頭の後ろに組み、足を組んでぼんやりと空を見上げている男子は誰も見ていないような真っ黒の瞳をしていた。大使館でも見かけた、駐在武官の部下と名乗った男と同じ目をした男子に、無意識のうちに避けて本校舎総合受け付けを探して歩いていった。
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