鈍色の盾   作:シラー

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遅くなってすいません。
なかなか、出来ませんでした。


実力組織

「なにか?」

 

手に掛けていたドアノブから手を外し、目を会わせる。迷いの欠片もない無い返事に目を細めた彼女は思わず咎めていた。

 

「私の任務はご存じのはずです。ご了承は得られると思っておりましたが?」

「貴方は私の部下でしょう」

「だからなんでしょう。対象の身の安全を最優先とすべし、SP(セキュリティ・ポリス)でも学ぶ基本的な事です。また、非常事態が発生した場合、現場は、今出来る最善の行動をせよ。それが私に与えられた任務です。それに。私は国家の実力組織に属するものだ。私兵ではない。そこは、間違えないでいただきたい」

 

彼女は能面のような感情を一切感じさせない表情で紡がれた言葉に、危険を感じたのかISの起動を準備をする。相対する聆藤も腰の拳銃を抜く構えの準備をした。ISの展開速度と銃弾はほぼ等しい。しかし、ISのシールドに銃弾は意味をなさないが、それでも威嚇くらいにはなる。やむ無しといって一線を越える覚悟を決めた聆藤と更織の間に空気が張りつめる。その空気の中で質問を重ねた。

 

「また、同じことをするの?」

「したらなにか?」

「次は実力を持って制止させるわ」

「出来ますか? 実戦経験の無い精鋭で」

 

苦虫を噛み潰した更織の眼差しに迷いが生まれたのをみて、聆藤は目線を切った。腰から手を離して部屋に入る。あれは無理だな、詰めが甘い。警告は出来ても、その先は背中を押すものが必要な人間だ。おそらく暗部の長には向いていない。あそこで撃てなかったのが性格を示している。決裂は意外に近いかもしれない、その結論は考えるまでもなかった。

 

 

アリーナでは、沈黙から冷めたどよめきが広がっていた。情け容赦の無い、無力化を最優先にした実戦は、生徒たちに言いがたい恐怖を植え付けたようだった。アリーナの遮断シールドと隔壁のコントロールが占拠され、出られなくなっていた事を知る間もなくついた決着が、目に見える恐怖としてのし掛かったのだ。一組のクラスメートはあのとき感じた恐怖は間違っていなかったと改めて思いを強くした。

 

―やはり、聆藤は野蛮な男―

 

その思いはアリーナ中に波及していくのに時間は掛からず、解放されたアリーナから足早に去っていく生徒たちの足音を聞き流しながら、内側から無惨に破壊された機体のところから、少し離れたところに腰を下ろし、織斑一夏は項垂れていた。なもできなかったというその後悔は、それ以上にぐちゃぐちゃに破壊された機体の無惨さを見て、押し寄せてきた吐き気に押し流された。

もし。もし、あそこに人が乗っていたら。おそらく聆藤が腰の部分を切った時には絶命していただろう。実際には人は乗っておらず、無人機が撃破されたですんだが、織斑一夏は気が付けば喉の奥から込み上げ来る苦い胃酸を吐き出していた。「大丈夫?」とかけられた声には力が無く、目の前でみた恐怖からか、鈴も明らかに沈んでいた。駆け寄ってくるセシリアと箒は回収作業の指示を下す姉を横目に見ながら不安そうに顔を覗きこむ。渡された水は口の中の胃酸をまとめて流してもまだ足りず、一気に流し込んだせいか、思わず噎せっ返す。それでも強引に飲み干して聆藤と同じ専用機持ちの二人に質問をする。

 

「なぁ、二人はああいう戦いかたを学んだのか?」

 

質問の意図は明白で、二人は顔を見合わせたあとに答えを返す。

 

「ああいう戦いかたは習ってない。でも一度見せられたことがあるわ。一撃で戦闘力を奪い、制圧する。そのときは、こういう戦いかたもあるのねで済んでいたけど、こうやって見せられるとね」

(わたくし)もありますわ。一般武装の特殊部隊で行われた制圧演習ですが。突入してから相手の目と耳を奪い、確実に鎮圧する。野蛮だとそのときは思いましたが、こういった状況でしたら、解決策の一つ、ですね 」

それでも。認められない織斑一夏は声をあげた。

 

「ひ、人が死ぬんだぞ!!」

 

「わかっている」と口にしたのは二人とも同じタイミングだった。

 

「あの機体の操縦者と、私たちアリーナにいた生徒たちの命を比べれば当然のことです」

 

自分の感情を圧し殺したのがよく分かる悲痛な声でセシリアは言葉を続けた。その言葉に返す言葉を失った織斑はゆっくりと立ち上がるとピットに歩いていく。その背中にかける言葉を彼女たちは持たなかった。

 

 

学園地下にあるハイ・セキュリティ・エリアは二人の人影があった。

 

「やはり、未確認の無人機か」

「はい。電子部品は復旧不能なほど徹底的に破壊されています。コアも未登録なものです」

 

訳がわからないといった風の山田真耶は、視界から外し織斑千冬は、形のよい眉を潜め、無人機襲撃の時の映像を見ていた。

 

「それよりも聆藤君です。あの戦技は明らかにおかしいです。一撃で重装甲の無人機を二つに断ち切って、確実な撃破。何処をとっても彼は、兵士です。間違っても広報課なんて所属ではありません」

「山田先生もそう思うか」

 

珍しく強い口調で断じる山田真耶に、驚きの目を見せていたが、目をうつ向かせ迷いを断つようにしてから、伝える。

 

「山田先生、更織の内偵の結果からいうと、聆藤の過去に怪しい出来事はない。むしろ無さすぎて怪しいらしい」

「それは……」

「更織は追加で調べるといっていたが、何処までたどり着けるか……」

 

期待はできないといった風に、首を振るとそのまま画面に注目することに集中した。

 

 

国土保安庁のある浦和国土保安庁舎の地下の一室では会議が行われていた。完全に防音で、外部接触物の一切の持ち込みと接続の禁じられた密室は子供じみた喧騒とため息で溢れていた。

 

「時間の問題だと思ってはいたがここまで速いとは」

「だから反対だったんだ。彼はSIF要員だったんだろう。作戦上やむを得ないとしても性急にすぎた。せめてあと半月ほどでいいから、研修を行わせるべきだったんだ」

「しかし、爆発物や銃火器の扱いで彼以上はいませんよ。それにISの起動という点からみても貴重な存在です。」

「その勇み足がこの結果を招いたのではないか。レポートによると、自罰的に過ぎる。自分を追い込むことでしか精神の安定を保てていない、と有るじゃないか。そんな工作員では、更織に取り込まれた可能性もあるんじゃないか」

「第一公安部長。いいですか、ナノ・テルミット計画が暗礁に乗り上げかけたいま、CC(ダブルシー)彼はISに直接対応できる最大の駒なんですよ。それに、彼をあそこに送ることはあなたが推薦したことではないですか!!」

「何も彼を送れとはいってない!! 監視要員を誰か回す必要があると言ったんだ。もっと優秀な工作員だっているだろう!!」

「そんな優秀な工作員を使い捨てろとおっしゃるか!! そんなことでは工作員がいくらいても足りませんよ!!」

 

子供じみた応酬は終わる様子を見せず、いつの間にか議論は責任の押し付け合いにスライドしつつある。

そんな小園(おぞの)公安警備局内事本部長と高木(たかぎ)公安総局第一公安部長の不毛な言い争いの中で誰も仲裁の声をあげないのは火中の栗を拾いたくないからだ。ここに揃っている面子は国務総省次官の女川(めがわ)を筆頭に三島(みしま)国土保安庁長官、永島(ながしま)公安警備局長、鵜飼(うかい)国家公安委員長、実質的な外交指針を定め、交渉を担う櫻井(さくらい)外交局長、三保を束ねる北野(きたの)国土保安庁統合防衛本部長、理財算定を担う吉澤(よしざわ)大蔵局長、検察特捜部を仕切る清川(きよかわ)法務省検察庁特別高等検察部長で、非公式の国家安全保障会議とよべる面子であり、実質的に国家を運営している彼らだった。彼らが集まった理由はIS学園への来襲してきた無人機に関する情報と担当工作員の経過報告、そして今度来訪するドイツとフランスの代表候補生の対応を話し合うための会議だった。

 

そんな国家を左右する会議で、国家の舵取りを担う彼らが揃ってかかわり合いになりたくないからと誰もが腕を組み、首を捻り隣の人物とああでもないこうでもない、と話し合ったところで過ぎていくのは時間ばかり。自分達の組織のエゴを国益にすり替え、失敗を他人の責任として押し付けようとする行動は、組織が変わっても変わらないということか、と溜め息をついたのは後ろで資料を纏めていた寺坂(てらさか)内事本部次長だった。おそらく誰も仲裁しないで放っておいているのは、『結果』が決まっているからだろう。誰が幕引きを行うのか、どんな幕引きになるのか、彼らのなかで決まっているからだろう、と思う。押し付けられる後処理はPSBと公安総局が総出で行い、トロい国際IS委員会や霞ヶ関(現政権)が動き出したところで、証拠は抹消、残っていた記録も()()によって失われ、気が付けば何もなかったことになるのは明白だ。委員会(やつら)は国家というものをなめ過ぎている。やると決めれば何処までもやるのが国家で、例え惰性であっても進めてしまえるのが国家というものだ。まるで生き物のようなそれは国家理性という自己中心的なもので、その為なら手段を選ばない。寺坂は思わず天を仰いだ。国家の体面のために、性別を偽装してまで織斑一夏に近づく事を目論んでいるだろうフランス政府と、汎用性が高いと予想される第三世代機を引っ提げてやることドイツは、犬猿の仲といっても現在の欧州のイギリス一極体制を押さえたいというところでは一致しており、おそらく性別偽装に一枚噛んでいるのは間違いない。どこの国も、やることなすこと、そっくりで国家というのは何処までも国家理性に忠実らしい、実に迷惑な物であると。




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