なかなか、出来ませんでした。
「なにか?」
手に掛けていたドアノブから手を外し、目を会わせる。迷いの欠片もない無い返事に目を細めた彼女は思わず咎めていた。
「私の任務はご存じのはずです。ご了承は得られると思っておりましたが?」
「貴方は私の部下でしょう」
「だからなんでしょう。対象の身の安全を最優先とすべし、
彼女は能面のような感情を一切感じさせない表情で紡がれた言葉に、危険を感じたのかISの起動を準備をする。相対する聆藤も腰の拳銃を抜く構えの準備をした。ISの展開速度と銃弾はほぼ等しい。しかし、ISのシールドに銃弾は意味をなさないが、それでも威嚇くらいにはなる。やむ無しといって一線を越える覚悟を決めた聆藤と更織の間に空気が張りつめる。その空気の中で質問を重ねた。
「また、同じことをするの?」
「したらなにか?」
「次は実力を持って制止させるわ」
「出来ますか? 実戦経験の無い精鋭で」
苦虫を噛み潰した更織の眼差しに迷いが生まれたのをみて、聆藤は目線を切った。腰から手を離して部屋に入る。あれは無理だな、詰めが甘い。警告は出来ても、その先は背中を押すものが必要な人間だ。おそらく暗部の長には向いていない。あそこで撃てなかったのが性格を示している。決裂は意外に近いかもしれない、その結論は考えるまでもなかった。
アリーナでは、沈黙から冷めたどよめきが広がっていた。情け容赦の無い、無力化を最優先にした実戦は、生徒たちに言いがたい恐怖を植え付けたようだった。アリーナの遮断シールドと隔壁のコントロールが占拠され、出られなくなっていた事を知る間もなくついた決着が、目に見える恐怖としてのし掛かったのだ。一組のクラスメートはあのとき感じた恐怖は間違っていなかったと改めて思いを強くした。
―やはり、聆藤は野蛮な男―
その思いはアリーナ中に波及していくのに時間は掛からず、解放されたアリーナから足早に去っていく生徒たちの足音を聞き流しながら、内側から無惨に破壊された機体のところから、少し離れたところに腰を下ろし、織斑一夏は項垂れていた。なもできなかったというその後悔は、それ以上にぐちゃぐちゃに破壊された機体の無惨さを見て、押し寄せてきた吐き気に押し流された。
もし。もし、あそこに人が乗っていたら。おそらく聆藤が腰の部分を切った時には絶命していただろう。実際には人は乗っておらず、無人機が撃破されたですんだが、織斑一夏は気が付けば喉の奥から込み上げ来る苦い胃酸を吐き出していた。「大丈夫?」とかけられた声には力が無く、目の前でみた恐怖からか、鈴も明らかに沈んでいた。駆け寄ってくるセシリアと箒は回収作業の指示を下す姉を横目に見ながら不安そうに顔を覗きこむ。渡された水は口の中の胃酸をまとめて流してもまだ足りず、一気に流し込んだせいか、思わず噎せっ返す。それでも強引に飲み干して聆藤と同じ専用機持ちの二人に質問をする。
「なぁ、二人はああいう戦いかたを学んだのか?」
質問の意図は明白で、二人は顔を見合わせたあとに答えを返す。
「ああいう戦いかたは習ってない。でも一度見せられたことがあるわ。一撃で戦闘力を奪い、制圧する。そのときは、こういう戦いかたもあるのねで済んでいたけど、こうやって見せられるとね」
「
それでも。認められない織斑一夏は声をあげた。
「ひ、人が死ぬんだぞ!!」
「わかっている」と口にしたのは二人とも同じタイミングだった。
「あの機体の操縦者と、私たちアリーナにいた生徒たちの命を比べれば当然のことです」
自分の感情を圧し殺したのがよく分かる悲痛な声でセシリアは言葉を続けた。その言葉に返す言葉を失った織斑はゆっくりと立ち上がるとピットに歩いていく。その背中にかける言葉を彼女たちは持たなかった。
学園地下にあるハイ・セキュリティ・エリアは二人の人影があった。
「やはり、未確認の無人機か」
「はい。電子部品は復旧不能なほど徹底的に破壊されています。コアも未登録なものです」
訳がわからないといった風の山田真耶は、視界から外し織斑千冬は、形のよい眉を潜め、無人機襲撃の時の映像を見ていた。
「それよりも聆藤君です。あの戦技は明らかにおかしいです。一撃で重装甲の無人機を二つに断ち切って、確実な撃破。何処をとっても彼は、兵士です。間違っても広報課なんて所属ではありません」
「山田先生もそう思うか」
珍しく強い口調で断じる山田真耶に、驚きの目を見せていたが、目をうつ向かせ迷いを断つようにしてから、伝える。
「山田先生、更織の内偵の結果からいうと、聆藤の過去に怪しい出来事はない。むしろ無さすぎて怪しいらしい」
「それは……」
「更織は追加で調べるといっていたが、何処までたどり着けるか……」
期待はできないといった風に、首を振るとそのまま画面に注目することに集中した。
国土保安庁のある浦和国土保安庁舎の地下の一室では会議が行われていた。完全に防音で、外部接触物の一切の持ち込みと接続の禁じられた密室は子供じみた喧騒とため息で溢れていた。
「時間の問題だと思ってはいたがここまで速いとは」
「だから反対だったんだ。彼はSIF要員だったんだろう。作戦上やむを得ないとしても性急にすぎた。せめてあと半月ほどでいいから、研修を行わせるべきだったんだ」
「しかし、爆発物や銃火器の扱いで彼以上はいませんよ。それにISの起動という点からみても貴重な存在です。」
「その勇み足がこの結果を招いたのではないか。レポートによると、自罰的に過ぎる。自分を追い込むことでしか精神の安定を保てていない、と有るじゃないか。そんな工作員では、更織に取り込まれた可能性もあるんじゃないか」
「第一公安部長。いいですか、ナノ・テルミット計画が暗礁に乗り上げかけたいま、
「何も彼を送れとはいってない!! 監視要員を誰か回す必要があると言ったんだ。もっと優秀な工作員だっているだろう!!」
「そんな優秀な工作員を使い捨てろとおっしゃるか!! そんなことでは工作員がいくらいても足りませんよ!!」
子供じみた応酬は終わる様子を見せず、いつの間にか議論は責任の押し付け合いにスライドしつつある。
そんな
そんな国家を左右する会議で、国家の舵取りを担う彼らが揃ってかかわり合いになりたくないからと誰もが腕を組み、首を捻り隣の人物とああでもないこうでもない、と話し合ったところで過ぎていくのは時間ばかり。自分達の組織のエゴを国益にすり替え、失敗を他人の責任として押し付けようとする行動は、組織が変わっても変わらないということか、と溜め息をついたのは後ろで資料を纏めていた
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