鈍色の盾   作:シラー

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大変遅くなりました。すいません。
連載できるよう頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。


発覚

「『辞令、聆藤 彰等 貴官を本日付で特務を以て士官たる特務士官である三尉に任ず

国務大臣官房長官 島崎(しまざき) 正次(まさつぐ)

国土保安庁長官 三島(みしま) 行夫(ゆきお)

同庁統合防衛本部長 北野(きたの) 孝弘(たかひろ)

同庁官房人事部長 川野辺 (かわのべ) (たける)

おめでとう、士官への任官だ」

「拝命いたします」

 

聆藤はかかとを揃え敬礼を行い、端的に述べる。その完璧な敬礼に答礼を返すのは国土保安庁長官官房の長澤(ながさわ)第三人事課長だ。長澤第三人事課長は無機質なキャスター付のくるくる回る椅子に腰かけてる。

長澤第一人事課長はいわゆる旧警察庁警備局出身の警察キャリア組ではなく、旧防衛省出身でA幹、即ち防衛大学校卒業後、幹部候補生学校出のキャリア組だ。旧海上自衛隊出身で海幕人事畑や総務畑を歩き、1年前に、第三人事課長に就いた。第三人事課は主に警務士官や特務士官などの特別の職域を有する隊員の人事を担当する部署で、第一人事課長への慣らしといわれる地位だ。さらに言えば、第一人事課長は人事部長への最短コースと呼ばれるため、重要な登竜門と見なされている地位だ。

その一方で国土保安庁長官の官房の主要な部署である官房三部は警察庁警備局から出向(亡命)してきた警察キャリアが大勢を占めるのが実情だ。そのため長澤課長は旧防衛省キャリア組の希望の一つといえる。

 

「三尉などとは言ったところで、ドイツが少佐だからな。釣り合いのために三尉へ任官されたに過ぎない。当面は無理をさせられたと思っている永田町(議員共)を黙らせるしかないのが現状だ」

 

「はぁ」としか答えようのない内実の暴露に返す言葉を失っている聆藤を横目に見ながら、次の次辺りの第一人事課長候補は軽い口調で話す。

 

「まぁ三尉だ。特務士官といってもやることは変わらんし、頑張ってくれ」

 

他人事で気が楽なのか軽く言う人事課長は下がってよしと述べると席を立って行ってしまった。

 

国土保安庁において、三尉という士官は特殊な職域、例えば庁内の汚職を探る内務監査や中央情報本部に属して諜報活動を専属で担う要員に対して、士官の地位保証し与えている。それは作戦の指揮、実行には最低限の決断が必要ということに他ならず、現場の責任は現場でとれ、ということでもある。

国家の牙であることを自認している公安警備局のほとんどの職員は一尉から三尉たる地位を与えられ、将、佐階級なのは旧防衛省時代からの防衛キャリア組や旧自衛隊において『三尉』以上の地位にあった幹部自衛官などが殆ど占めている状態だ。

さらに言えば、防衛『省』が国土保安『庁』に格下げされたため、最高ポストは各省庁の事務次官以上、大臣以下に扱われる国土保安庁長官で、大臣、副大臣、大臣の輔弼(ほひつ)を行う政務官などの政治家が任用されるポストは皆無で、幹部ポストは行政官たる官僚が就く。さらには装備品などの関係から取り扱われる予算は警察の()()とはの桁が違う故に、以前の警察庁以上に官僚により統治されているため、周りからは『官僚王国』とも、幹部ポストが警察からの出向組や旧防衛省組などが占めるため『閉鎖区画』とも揶揄されしまっている。

その閉鎖的体質は、不正を生みかねない土壌であるのと同時に、機密保護の観点からは絶好の土壌であると言えた。それを利用して『国家機密を守る』という大義名分を獲得し、直接の監督を行う国務総省をして伏魔殿と言わしめるほどの場所だった。

気が滅入ってくるほど厄介な政治的背景のある任官は本音を言えば受けたくないのが本心だった。

 

 

学園内を飛び交う無線はいくつかの種類がある。第一に合法である校内の夜間警備、第二に更識の使う外部との暗号無線。第三に聆藤の使用する衛星を介した暗号データ通信である。勿論その他にあるべき学園内部と各国政府を結ぶ通信は非公開だが、傍受前提の無線通信が基本で学園との通信は更識は勿論、公安警備局も監視している。だからこそ、聆藤が織斑一夏の部屋の盗聴器が発する無線電波を傍受するは簡単だった。

受信範囲が狭い微弱で、聴かれていることを前提としない、重要事項を躊躇いなく喋り、何より男の声のする部屋というのは一つしかないからだ。

この日も玲藤は日課の、盗聴をしている時だった。決定的すぎる証拠が手に入ったのは。

 

「ただいまー。あれ? シャルルがいないな」

 

間抜けな声で警戒心皆無な入ってきた織斑一夏に頭を抱えたくなるが、それでも職務に忠実たろうとする聆藤はなおも耳を傾ける。

がちゃり、というドアを開ける音はあまり響かず、大したことではない。そう思ったときだった。

 

「ああ、ちょうどよかった。これ―」

「い、い、いち……か……」

 

呆然としたような声に違和感を感じた聆藤は意識を向ける。

 

「へ……? 」

 

躊躇いがちの声は思いの外明瞭に聞こえた。

 

「えっと、えーと……」

 

えーととしかいえなくなったらしい織斑は切羽詰まっているらしい。そのままボディーソープの替えを置いてそのまま去ったようだ。踏み込むつもりはないが、玲藤は笑いがこぼれてきた事を堪えられなかった。率直に言ってアホだろう。自ら証拠を提供してくれたのだ。それを幸いと、録音を開始する。

必要なのは、女子であることではなく、学園や日本に性別を偽り、あまつさえ織斑と同じ部屋に送り込んだということだ。フランスは勿論、()()であろうドイツ、さらには間違いなく学園も追求できる。学園は委員会に擦り付けに走るだろう。ならそれならそれで恩を学園に着せられ、委員会を押さえるカードに使える。暫く委員会を沈めておくには絶好のカードだ。だからこそ確実にその証拠をとらえる。暫く聆藤は珍しく感情を素直に表して暫く笑っていた。

 

何で男のフリなんてしていたのか、今更ながらそんなことを聞く織斑一夏の考えこそ、聆藤の範疇外だった。なぜしていたのか、普通に考えれば織斑一夏に近づくためだろう。そんなこともわからないのか。小さくため息を漏らし、耳を傾ける。

親の命令。彼、彼女の親はデュノア社の社長で自分は愛人の子。フランスがイギリスに喧嘩を売った結果が自国民に降りかかる。まさしくフランスの自業自得としか言えないが、だからこそ付け込む隙がある。それに不満があれ、何であれその生き方を選んだのは彼女なのだ。親に強制されて。それは少なくとも逃げるという手段を選ばなかった自分の意思なのだ。日本のような島国ではなく、EUという連合加盟国は多国への移動の自由が認められている。いざというなら亡命という手段さえとれたはずだ。それを弱味として見せる彼女は玲藤からすれば、場違いとはいえ不愉快な事このゆえない。

 

だからこそ、その直後の織斑の言葉に思わず間抜けな声を出してしまってもそれは仕方ない事だったのだろう。

 

「それでいいのか? 」

 

思わず返されたシャルル、否シャルロット・デュノアの返事は聆藤と同じだった。

織斑一夏はそれでいいはず無いだろうと、声を荒げる。親がいなければ子は生まれない。そりゃそうだろう。だからといって。そういって声を尚も大きくする織斑一夏は怒っていた。

聆藤はどうやらシャルロット・デュノアの親に激怒しているということがなかなかよくわからなかった。まあ、不愉快な感情を向けている相手が違うのだからそれも仕方ないことなのだろう。織斑一夏はシャルロット・デュノアの親に、聆藤はシャルロット・デュノア本人に。感情の矛先が異なれば当然、話が噛み合わないのも当然だった。

 

「学園特記事項。第二一、本学園における生徒は在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属せず、本人の同意の無き場合、原則としてそれらの外的介入を許可しない」

 

行きなり何を言い出したのかと思えば学園特記事項についての条項だった。これは学園を自分達の箱庭にするにちょうどいいとしては委員会が審議の上、特記させ条項だ。この事案は各国政府も歓迎した。厄介な連中を学園に封じ込められるのなら、万歳だと採択された条項だが、勿論抜け道がある。原則はあくまでも原則であり、例外などいくらでもある。あの条項を馬鹿正直に信じるやつはいないと思っていたが、ここに来て聆藤は織斑一夏の頭の悪さを再確認するはめになっていた。

聆藤自体も織斑一夏と篠ノ之箒の護衛を大義名分に学園に送り込まれた工作員にすぎない。

赤信号と同じで皆で渡れば怖くないを実際にやるのが国家という生き物だった。

 

 

 

学園にあるいくつかのアリーナは幾層にも重ねられた装甲版とISのシールドの基礎理論を利用したシールドによって外界と隔離され、観客席はほぼ確実に保護されているといえる。しかし如何に重層的に防御されていても防御能力を上回る負荷を与えればシールドを破ることは基本的に難しくはない。なれどもシールドを破るだけの負荷を与えるのはなかなか困難なことだ。だが。この学園にはシールドなんぞ障子紙のごとく破るだけの兵器を持つ生徒がいた。もちろん教員達は理解していたし、生徒会長で学園最強もわかっていた。つもりだった。

それでも、本当に理解していたのは聆藤だけだったのだろう。

 

その日、聆藤は生徒会室で半月毎の報告の最中だった。この報告は形式を整えるようなものにすぎず、大して重要とは言えないものだった。それでも学園に国土保安庁の職員を配置するという以上、何らかの取引の一つとして行われた交換条件の一つだ。手を抜くことはまずあり得ず、それなりにまともな報告を行うのだ。しかし、現状においては「おおよそ差し迫った危険はなく、突発的な危機に対応出来る戦力を配備、展開可能な状態が続く限り、何ら問題なし」というのが聆藤の報告だった。勿論嘘だが。

聆藤は報告書に改竄を加えてはいない。虚偽の報告をしているだけで。勿論、本来は重罪に問われかねないが、この交換条件自体が秘密裏で非公式で、明かされることの無い不文協定だからこその虚偽の報告だった。

国土保安庁の学園及び更識に対する意向ははっきり言って、不愉快かつ、邪魔でしかない。日本の牙を自認する公安警備局は勿論、警察力を明文化された実力として持つ公安総局はこの事案においては珍しく一枚岩だったといえる。その意向を受けた玲藤がその意思を()()するのは当然の話で、その尊重された結果を見抜けない無能なら情報機関足る資格なし。

自分達がアメリカのCIA(中央情報局)NSA(国家安全保障局)と連携していることは棚にあげ、更識の情報収集能力を嘲笑うのは、まさしく目くそ鼻くそを笑うのだが、それを他国との外交と開き直って、言い張れる傲岸さがそこにはある。

 

「失礼しました」

 

一言だけ事務的述べた後、頭を下げ部屋からでる。遅すぎる昼食を取るために、食堂へ向かっているときだった。

 

「第三アリーナで専用機どうしが模擬戦してるみたい」

 

よしっ、という聆藤の声は回りの廊下を駆ける音に欠き消されたらしく、回りの反応はなかった。

どうしても不足しがちの第三世代機の運用データは貴重だった。今後の外交交渉を優位に進めるべく、聆藤は第三アリーナへ向かうことにした。




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