というか戦闘描写が難しいです。
聆藤が第三アリーナに付いたとき、戦況は佳境を過ぎていた。一対二で一方的すぎるほどに叩きのめされている二人がいた。即席の連携はそれほど悪くはないが相手との相性と、何より本格的な対人戦闘の経験が無いというのが大きかったといえる。
爆発音はシールドで保護された観客席にも届き、明らかすぎるほどの技量の差を示す。なぶるに等しい一方的な火力の集中は痛打となって彼女らを襲う。機体は損傷しアーマーも一部失われているが、それでも彼女達の目には少なくとも諦めの色はなかった。
「くらえ!!」
一方的にやられていた鬱憤からか、余計なことを口に出して怒りを込め衝撃砲を狙い打つ。予備動作云々前にくらえなど声に出せばタイミングがばれるのは当然だったのだろう。
「無駄だ。この『シュヴァルツェア・レーゲン』の停止結界の前ではな」
こちらもこちらで、自機の能力を自分から明らかにする馬鹿を聆藤は笑うしかなかった。
停止結界。日本においても基礎研究の段階のそれは実戦投入にはほど遠い完成度だった。ドイツはそれをおおよそ完成させた。その技術力と軍事的脅威は計り知れない。逆に返せば同盟にもってこいとも言える。とにかくその事実は驚嘆に値する。
『シュヴァルツェア・レーゲン』は肩の刃を射出させ迎撃の弾幕をくぐって右足を押さえ、そのまま引きずり倒す。強引な事この上ないが、バランスを失った『甲龍』は戦闘の継続は一時的とはいえ、ほぼ不可能。簡単に無力化した後、すぐさま意識を切り替えて、奇襲を試みる『ブルー・ティアーズ』の迎撃を意図も容易く行う。ビットによる砲火の嵐を恐れず突入、巻き上がった土煙に隠され、セシリア・オルコットは一瞬にせよ見失ったのだ。それでも止めと言わんばかりに撃ち込まれた狙撃をかわすと両腕を前に突き出す。どうやら停止結界に捕まったらしく、動きの止まったビットをセシリア・オルコットはそれに集中して、動けないラウラ・ボーデヴィッヒをさして言う。
「動きが止まりましたわね」
それでも焦りの欠片も見せず、答えを返す。
「貴様もな」
青い一撃は命中すれば痛打と足り得る威力を誇る。勿論当たればの話だが。
轟音が水蒸気と共にシールドの内側を満たす。外側からでは視界が閉ざされたが、それでもおおよその予想は立つ。おそらく相殺されたのだろうと。結果はそれに相違なかった。
あっさりとその一撃さえも、冷静な大口径砲填兵器の一撃で封殺されればどうしても焦りが出る。その焦りからくる判断ミスは明らかに経験不足と考えるものだったが、この場においては何よりも致命的だった。あわてて連射に切り替えようとしているが、連射に切り替えるより、距離をとるべきだった。この時点で勝敗は実質的に決まったと言える。力業で拘束して動けない『甲龍』を『ブルー・ティアーズ』にぶつける。遠心力も加わり十分に加速されたそれは『ブルー・ティアーズ』を弾き飛ばす。ピンボールのように弾けとんだ二人はまとめて姿勢を崩して団子になる。
決まったなという聆藤の呟きはあまりにも小さく、回りには聞こえてはいなかった。
その後の追撃にも迷いはない。まさしく弾丸のように間合いを詰めると近接戦闘に持ち込む。隣で驚愕している織斑一夏がいるが、軍の特殊部隊所属なら当然の技量なのだろう。叩き込まれたプラズマの手刀は音もなく襲いかかる。距離を取ろうと、下がりながら相手の一撃を捌くが、とどめに撃ち込まれた六つのワイヤーブレードを全く別の動きとタイミングは、致命的な判断ミスを招く。強引な展開で一撃のもとに解決しようとした衝撃砲は砲撃より早く、『シュヴァルツェア・レーゲン』の実弾攻撃によって四散する。
あっけなく肩の衝撃砲を木っ端微塵に破壊され、姿勢を崩し、バランスを取ろうとする彼女に追い込みを駆ける。展開させたプラズマ手刀を叩き込む寸前に、青い機体が殴り込んでくる。
無謀を勇敢と履き違えた突入に虚を突かれたのか、必殺の一撃は弾かれる。それに合わせて撃ち込まれたミサイルは至近距離の『シュヴァルツェア・レーゲン』に激突し、信管を作動。当然ながら二人もまとめて爆発に飲み込まれた。
「無茶をするわね、アンタ……」
「苦情はあとで。これならば、確実にダメージが……」
無茶というより無謀な一撃は会心の一撃だったのだろう。セシリア・オルコットの表情にはさすがに安堵の色がある。しかし、本人の技量というのは同世代の機体にあって大きすぎる差だった。
爆炎が晴れればようやく見通しが効くようになるアリーナでは動揺が揺れ動いた。
結局、彼女の技量は学生としては隔絶していたといえる。学園という閉鎖されたこの町では、代表候補生などというラベルは、多少周りからの優越を得られるものでしかなく、実戦やそれに準ずる模擬戦の場合、なんの意味も持たず、そこにあるのは明確なまでの実力の差だった。それを痛感するべきタイミングは彼女たちにとって明らかにする遅すぎたといえる。
「終わりか? ならば今度は私の番だ」
だからこそ彼女は、ラウラ・ボーデヴィッヒは余計なことにまで手を出した。
言うが早いか瞬間加速で地上へ移ると、そのまま『甲龍』を蹴り飛ばす。おまけに一緒にいた『ブルー・ティアーズ』へ砲撃を撃ち込むと、疲労し限界に近い機体をワイヤーブレードで拘束するとそのままなんの躊躇いもなく暴力を振るう。一撃毎に削れていくシールドエネルギーは警告表示を続ける。やかましい警告を無視し続けて振るう彼女の顔に、僅かながらの愉悦が浮かんだ瞬間、隣の織斑一夏が暴発した。
よせ!! という聆藤の制止は頭に入ったかはわからない。だが聆藤の頭には次の瞬間ハッキリと目の前のシールドに向けて『白式』の『零落白夜』を叩き込む姿が浮かんだ。
「あの馬鹿を取り押さえろ!! 」
思わず口をついて出た言葉は少なくとも学園という施設で発されるべき言葉ではなかった。周りの顔色が驚愕から聆藤に対する恐怖へ切り替わり、押さえるものはいない。聆藤の怒鳴り声さえ聞き流したか聞こえないフリをしてなんの躊躇いもなく『零落白夜』を発動させる。
「あの馬鹿、やりやがった」
一撃でアリーナのシールドを叩き斬った織斑一夏はなにも考える様子もなく、ラウラ・ボーデヴィッヒに突撃を仕掛ける。軽率であり、蛮勇で、何よりも自殺志願者にしか見えない織斑一夏を詰っても聆藤は冷静さを失ってはいなかった。
中でラウラ・ボーデヴィッヒと彼女にむやみやたらに斬りかかる織斑一夏の間に入り込む時間的余裕はなかった。シールドの損傷を関知すると自動的に閉鎖される隔壁が降りてきたからだ。
『シールド損傷を確認 全隔壁を緊急閉鎖します 係員は所定の指示にしたがい行動してください』
警告音は、周りに危機を周知させ、脱出を後押しする役目を担っていたが、上級生は数少なく大半が一年で、しかもつい数ヶ月前まで一般人だった彼女達に落ち着いた対応を求めるほうが無理だったのだろう。
聞きなれない警告音は余りにも容易く彼女達の冷静さを奪い混乱を招く。おまけに明かりが非常灯に切り替わり、隔壁が降りて外の様子が把握できなくなると、一層混乱に拍車をかけることになる。
「
「第三アリーナ、状況は? 」
なぜ管制で把握できない。役立たずめ、そう罵ったのは心のなかだけで押さえられたのは自制心の賜物だった。
「アリーナのシールドを叩き割って、私闘を続ける馬鹿がいる。織斑先生を早く」
「了解した、誘導する」
「デュノアは……あいつもかよ」
気が付けばデュノアは織斑一夏の後を追ってステージへ入り込んだと見える。あの馬鹿共め、という声は少なくとも三割程度の呆れと共に外へ吐き出される。やむなく、何をすればいいのか分からず混乱を煽っている現況とも言うべき上級生に命令する。
「上級生は一般生徒の避難を誘導しろ」
本来なら一般生徒を束ね退避させるべき上級生は上位者である教員が不在で右往左往するばかりだ。それでも指示を与えればある程度は対応してくれるのは有り難たい。
ステージではいまだに私闘を繰り広げる馬鹿共を見て聆藤の忍耐も限界に近かった。いい加減にしろ。それこそ口には出さないが思っていることは誰の目にも明らかだ。聆藤もステージへ鎮圧へ向かうためピットへ駆け込むが、そこには既に乱入者がいた。
普段と変わらぬスーツ姿の織斑千冬はIS用のブレードだ。一六〇センチないし一七〇センチ近いそれを軽々持って『シュヴァルツェア・レーゲン』のプラズマブレードを押さえ込んでいた。
「模擬戦を行うのは構わん。だがアリーナのシールドまで破壊されては黙認しかねる」
静かだが明らかな怒りを込めている警告にラウラ・ボーデヴィッヒはISを解いた。
「この戦いは学年別トーナメントで晴らしてもらおう」
「教官がそう仰るならば」
元凶を押さえた織斑千冬は今度はシールドを破壊し、単なる私闘から乱闘へ変更した二人に聞く。
「織斑、デュノア、それでいいな」
ほとんど恫喝に近い内容に二人は、はい以外の答えを持ち合わせていなかった。
「では、学年別トーナメントまで一切の私闘を禁じる」
ステージ外側で固まっていた取り残された生徒たちにも聞こえるようにその声は鋭い刃物のようであった。
「聆藤、管制への連絡と避難誘導。ご苦労だったな」
聆藤の脇を通りながら織斑千冬は労う。なにも言わず頭を下げ、聆藤は展開させた『九試甲戦・改』を解く。
周りはようやく普段の喧騒を取り戻しつつある。
「さて、聆藤。この事件は如何なる原因かな」
「すべて小官の力不足によるものです。申し訳ありませんでした」
シールド破壊事件から二日後。ちょうどセシリア・オルコットと凰鈴音が学園の保健室から出てきた頃。聆藤は国土保安庁庁舎に出頭命令を受けていた。
「なんのために君を三尉に任官させたのか、わかっているだろう。まぁいいさ。状況から見て君に否はない」
形だけということか? 小さな疑問はその後の言葉で中断された。
「それより織斑一夏は想像以上らしいな。先のフランス代表候補生の報告。ご苦労だった。実質的には先日の事件と相殺になるが、内部評価はプラスに振っている。気にするほどの案件でもないさ。
それに、と言葉を続ける。
「ドイツへは既に
「恐れ入ります」
「暫くはドイツもおとなしかろうて」
「ご配慮感謝します」
あぁ、それと。その後に続けられた内容は聆藤にとって、少しは心が晴れるものだった。
「まもなく行われる予定の学年別トーナメント。君は来賓席の警備に当たれ。尚、学年別トーナメントへの参加は不要だ」
「よろしいのですか」
本当にそれでよいのか。各国は、委員会、学園は納得しているのかという二つの意味を込めた質問に答える声は明快だ。
「問題はない。そもそも委員会に学園に関する決定権はない。それに各国もこの件に関しては一致している。要するに貴重な護衛戦力を潰したくない、ということだ」
「つまり、下手に戦力を即応不可能な状況にして、情報の早さと確度に差を作ってしまうより、少なくともある程度は今のように横並びがよい、ということですか」
「飾らずに言えばそういうことだ」
「微力を尽くします」
政治的すぎる決断でも聆藤に拒否権など有るわけがない。手を振って退出を伝えられれば、指示に従い部屋を出る。学年別トーナメントは他に漏れず、策略と謀略が張り巡らされるだろう事に想像は固くない。
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