鈍色の盾   作:シラー

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書き直したりしてました。原作二巻はあと一話くらいの予定です。戦闘が長々としてまして、すいません。



S(エス)とVTシステム

暑さは例年通り厳しくなりつつある六月の終わり。

沿岸にあるIS学園は熱狂に包まれようとしている。学年別トーナメント。言葉を飾らずに言えば三年は所属国による監査、一年、二年は現状の把握。騒ぎは大きくなるのも当然だといえる。

勿論、その熱狂の外にいる例外もある。聆藤彰等はその典型だった。表向き広報課といっても、本来公安警備局という所属上、ほとんど着ることのない正装をして来賓席の警備に当たる聆藤は周りから見れば不思議なものに見えたらしい。聆藤は粛々としながらもどこか、熱に浮かされたような空気が蔓延する開会式の挨拶を眺めながらも、先日の()()()()に関して考えていた。

 

S(エス)にせよと? 」

 

以前から決められていた日時に、例によって施設に赴いた聆藤は上司の開口一番の発言に驚いていた。

S(エス)とは一言で言えばスパイのことだ。自分から姿をさらしてくれるという間抜けをやったフランス代表候補生。織斑一夏の情報を求めて同じ部屋になった彼女は二重スパイとして取り込むに最適の存在だといえる。勿論、祖国政府や学園の同級生、おまけの更織にバレてはならないため、慎重を期する必要はあるが。それでもフランス政府とデュノア社の内情を探るためには非常に魅力的な案だといえる。

 

「その通り。上は織斑の懐に入り込みたいらしい」

「やれと言われればいくらでもやりましょう。しかし……正直、あまり気が進みません」

「まぁ、作戦どころか正式に上がったものではない。忌憚のない意見を聞きたい」

「小官は、止めておくべきと考えます」

「理由は? 」

 

まず第一に、という前置きの後、意見を伝える。

 

「彼女は、明らかに織斑一夏に好意を抱いております。というよりアレは依存です」

「下手に負い目を作り、追い込むべきではない、か」

「はい。第二に芸が下手過ぎます。報告書にも記したように、警戒心皆無、注意力散漫、観察力皆無。はっきり言って彼女をS(エス)にするくらいならフランスを釣る餌にするほうが余程マシでしょう」

「わかってはいたが難しいか」

 

はい。と返事は明瞭だ。

 

「それにフランスがおとなしくそれを許容するでしょうか。性別偽装が発覚したのはフランスもわかっているでしょう。彼女を切り捨てると仮定した場合、付け入る隙を与えるのではないかと」

「まぁ、当然の予想だな。それに確実な情報を得られるほど上に食い込めるのかという問題もある。偽の情報に踊らされればそれこそ笑い者だよ」

 

全くその通り。無言で頷く聆藤もそれを首肯していた。

その後、聆藤は定期連絡事項を話し合い、そのまま辞した聆藤にはどうしてもその事が頭に残っていた。

 

考え事をしていたのもつかの間、対戦相手が決まったらしく、メインモニターにトーナメント表に切り替わる。そのトーナメント表は聆藤をして何らかの意志的なものを感じるものだった。

 

 

 

ブザーが鳴り響き閉鎖されていたゲートが解放される。アリーナの両端にあるゲートの片方の奥から真っ黒と白っぽい機体が出てくる。片やドイツの第三世代機、『シュヴァルツェア・レーゲン』とそれを駆るラウラ・ボーデヴィッヒ、片や我が国の傑作第二世代機『打鉄』は篠ノ之箒。反対側のゲートからは白い機体と黄色い機体の登場だ。準日本製の『白式』の織斑一夏とフランス製傑作第二世代機の一つ、『ラファール・リヴァイヴ』ではなく、各所に手を入れた第二.五世代機の『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』の()()()()()()・デュノアだ。

この機体のなかで『打鉄』ははっきり言って現状力不足も甚だしい。勿論第二世代機傑作機だけあって防御能力は高く、実戦において頼りになるだろうが同じ第二世代機である『ラファール・リヴァイヴ』と比べれば火力、即ち武装の搭載量に劣り、速度に劣り、なんとか継戦能力と機動性が同じくらいで唯一防御に勝る、といったところだろうか。これでも贔屓目に見て、である。

機体の条件からしておかしいのだ。さらに織斑一夏の技量の低さは『打鉄』を相手にする場合、全く無視できる。小手先の戦術を力業で無力化する。それだけのスペックの差があるのだ。

はっきり言って相手にさえなるまい。これが聆藤の率直な意見だった。だから、篠ノ之箒の唯一の勝機は、『シュヴァルツェア・レーゲン』のラウラ・ボーデヴィッヒが前衛として相手の攻勢を阻止。『打鉄』で突貫を仕掛ける。もしくはその逆しかない。

聆藤の見立てはおよそ正しかったといえる。

 

試合開始直前に何事かしゃべっていた二人は開始の合図まで互いを睨み付けていた。

開始(go)と出るや否や先手をとって突撃を仕掛けたのは織斑一夏だった。瞬間加速(イグニッション・ブースト)は一直線に『シュヴァルツェア・レーゲン』を狙っていた。あの時の私闘からなにも学んでいないのか? ラウラ・ボーデヴィッヒが右手を出して『慣性停止能力(AIC)』の中に自分で突っ込んでいく織斑一夏をみて、聆藤は眉を潜める。セオリー通りに大口径砲が向けられる。止まった至近目標への射撃なんぞ、訓練よりやさしいことは間違いない。そこへ砲撃より射撃の銃声が割り込んだ姿を見て聆藤は納得する。なるほど、ラウラ・ボーデヴィッヒに対する囮ないし固定させるアンカー代わりに使うのか。聆藤や来賓達が納得している間にも互いの火力の応酬は続く。

確かにうまい。

不明確な追撃より確かな味方の安定。織斑一夏を暴発させないよう信頼で縛り、コントロールする。たまに割り込んでくる『打鉄』を片手間で適当な銃火であしらいつつ、織斑一夏に投げる。余計な方に目を向けさせず、目の前の相手だけに意識を向けさせる彼女の戦略は見事だった。

強襲を仕掛ける篠ノ之箒はシャルロット・デュノアの仕掛ける重層的な罠のなかで一貫しない戦闘を続ける。離れようと後退の様子を見せれば銃撃による足止め、力業で抜こうとすれば織斑一夏の一撃が襲い来る。それに対応している彼女はすごいことだが、確実な消耗が目に見える形になれば、焦りは増して、余計に磨り減らされていく。やむにやまれずの強行突破は連携無しで無謀の極みだった。本人とすれば余力のあるうちに突破を計りたかったのだろうが、味方の援護無しでは損害が加速度的に増えていくだけだ。あっさりと一撃を受け止められた篠ノ之は足を止める。その隙を逃さず、後ろのシャルロット・デュノアが連装ショットガンを叩き込む。しかし―

『打鉄』の防御さえ沈黙させるだろうショットガンの銃火は空を切った。それに入れ替わるように『シュヴァルツェア・レーゲン』が突撃を仕掛けてくる。タイミングが外れ、体が踊った織斑一夏にプラズマブレードで斬りかかる。必死で回避を続ける織斑一夏だが、希に出す応戦はむなしく回避か受け止められるかして後退を余儀なくされる。横に出ようとすれば、ワイヤーブレードの牽制でそれさえ不可能だ。

どうやらラウラ・ボーデヴィッヒに放り投げられたらしい篠ノ之箒は、なんとか建て直すより早く、シャルロット・デュノアの追撃を受けているらしい。『シュヴァルツェア・レーゲン』の射線から逃れたシャルロット・デュノアは強襲を仕掛ける。いきなり自分の間合いに踏み込まれ、体勢を崩した篠ノ之箒を追い込む。咄嗟に打ち込まれた力ずくの一撃は右手で受け止められ、左手の銃口に慌てて回避を試みるがそんな事はさせることはない。的確な射撃は見事にとらえ、動きが止まった……。

 

 

「先に片方を潰すか。無駄なことを」

 

小さいが確かに聞こえた嘲りは織斑一夏を暴発させるには至らなかったらしい。二本のプラズマブレードと幾本ものワイヤーブレードの緊密に連携した波状攻撃。近接戦闘の教本じみた見事な攻勢に織斑一夏は完全に捌ききる事を諦めた。多少の損害を許容し、時間を稼ぐ。この辺りの思いきりの良さは評価に値する。近接戦で押し込まれながらも辛うじて食い付いていく。しかし、その努力を粉砕しうる圧倒的な能力が『シュヴァルツェア・レーゲン』にはあった。AICの発動は織斑一夏を確実に拘束する。ワイヤーブレードを一斉射。襲いかかったそれの衝撃は織斑一夏を打ちのめす。ミミズがのたくったように苦悶に悶える織斑一夏が目にしたのは大口径砲が向けられたところだった。

 

「終わりだ」

 

悪役みたいな台詞の後に押し寄せた砲撃の音に織斑一夏はなぜか、動けない。一本だけだが、ワイヤーブレードは確実に拘束していた。あぁまずい、という本能的な感覚は痛覚に変換されることはなかった。

重低音を響かせ射線に割り込んだシャルロット・デュノアは自機の防循が防ぐ。

 

「助かったよ」

 

辛うじて紡がれた言葉は明らかにする疲労の色が濃い。ここから如何に巻き返すか。聆藤も気になるところだった。

 

 

「これで決める!!」

 

格好つけているところ悪いが聆藤は最早、馬鹿じゃないのと思う。こんなタイミングで莫大なエネルギーを消費(浪費)を招くのは酔っているのではないかと思う。聆藤は、アレは不意打ちで一番効果を発揮すると思っている。

 

「当たらなければいいだけだな」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒの発言は聆藤の言葉を代弁していた。AICの頻繁なハラスメント(嫌がらせ)に消耗する織斑一夏を放置して周りを動き回るシャルロット・デュノアに矛先を向ける。弾幕を張って動きを押さえたシャルロット・デュノアはすぐさま織斑一夏の離脱を援護。辛うじて離脱した織斑一夏は強引な突撃を仕掛けた。『零落白夜』を受け止めながらも、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』にも意識を配る。だが、『零落白夜』を止めるのに『AIC』の使用は不味かった。集中が向けられるその一瞬で距離を積めた『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』のショットガンの面制圧が襲い来る。

とっさの判断は悪くなかったのだろう、盾に使った大口径砲はひしゃげて使用不能。邪魔でしかない大口径砲を切り捨て(パージ)て次の攻撃を警戒する。しかし次の攻撃は来なかった。

 

情けない音をたてて色を失った『零落白夜』は詰まるところエネルギーを使い尽くしたのだろう。

 

「残念だったな」

 

プラズマブレードの一撃を必死にかわそうと試みる。しかし織斑一夏への銃撃によって阻害された。そのまま突撃に試みたシャルロット・デュノアをワイヤーブレードで妨害。被弾して動きが甘くなった『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を、脅威を失ったと目を切り織斑一夏に攻撃を叩き込む。直撃したそれはあっさりと『白式』のシールドエネルギーを喰いつくす。

 

「私の……私の勝ちだ!!」

 

高らかな宣言は妨害を受け沈黙する。どうやら『瞬間加速(イグニッション・ブースト)』による突撃だったらしい。データにない攻撃に、気をとられて迎撃が遅れた。その遅れはあまりにも致命的だった。

 

「この距離なら、外さないよ」

 

あー、成る程。という聆藤の呟きも当然だった。『盾殺し(シールド・ピアース)』。第二世代最大規模を誇るそれの威力のそれは、消耗していた第三世代機でさえ例外なく削り取る。三度に及ぶ轟音がステージを支配するなかで勝敗は決したのは誰の目にも明らかだっだ。

 

 

 

(こんなところで? いや負けるわけには行かないのだ)

(なぜ? )

(教官にあんな顔をさせた織斑一夏を倒さなければ)

(どうして? )

(教官が私を見てくれたから。でも、あの時の教官は教官ではなかった。だから)

(じゃあ、貴女は誰? )

(私? 私は、私は誰? 私は、私はラウラ・ボーデヴィッヒ)

(なぜ? )

(なぜならあの人がそう呼んだから……)

(じゃあ、何が要る? )

(力を。決して負けることない力を)

 

『―願い、望み、欲するか―』

 

その質問への答えは一つ。

 

Yes(Ja)

 

確固たる意思は時としてろくでもないものを招き寄せる。執念。誰がいったか、人の執念は黒すぎる。まさしくその通りだった。

 

「あ、あああああっ!!!! 」

 

突然こだまする絶叫に聆藤は己の目を疑う。ドイツ自慢の第三世代機、『シュヴァルツェア・レーゲン』は形状を失い、操縦者ごと泥に飲まれていく。

 

「なんだよ、あれ……」

 

織斑一夏からこぼれた小さすぎる声は当然だった。泥人形は瞬く間に姿を変える。この観客席にいる大半の人の見たことのある姿に。

 

「冗談だろう」

 

いや、そうあってほしかった。V()T()()()()()なんて生徒の手に余る。聆藤も見たことはなかった。あるのは資料くらいでしかなく役に立たない。それに今の仕事は来賓の警護だ。さすがにそれを履き違えることはなかった。

 

「非常口を全て解放しろ。全てだ!! 来賓の避難を優先しろ!! 生徒は代わりがいる!! 」

 

残酷だが、明らかな一面を以て、動きの鈍い、外の警備を恫喝する。周りから見れば強権を振るう独裁者にしか見えないが、状況を鑑みれば当然の判断だった。

 

『非常事態につき、トーナメントは全試合直ちに中止!! 状況をレベルDと認定。目標の鎮圧を最優先とせよ。なお、全来賓及び、一般生徒は直ちに退避!! 』

 

ようやく動き出した教師陣にあとを任せるべきと、警備するべき来賓に目を光らせる。

ふと閉まりかけの隔壁から見れば『雪片弐型』を構えた織斑一夏がいる。『VTシステム』は、それを恐れることなくあっさりと踏み込み、切りつける。咄嗟の回避はなんとかと、言える奴でその回避行動でエネルギーが完全に尽きたらしい『白式』は消え去った。

 

「…………がどうした……。それがどうしたああっ!!」

 

いきなり暴発した織斑一夏は飛びかかろうとした。ぐーで。聆藤が馬鹿以下と罵るより早く織斑一夏の体は後ろへ引きずり倒される。このときばかりは一緒に暴発せず、押さえた篠ノ之箒に感謝した。それでも止まらない。

 

「どけよ」

 

そう怒鳴った織斑一夏は頬を思いっきり叩かれている。完全に閉じた隔壁の向こうは、命を懸けた戦場なのに遊んでいるようにしか見えない二人に頭を抱える。

 

「夫婦喧嘩はよそでやれ」

 

咄嗟に近くの非常電話をとって怒鳴りたい衝動にかられるが、押さえ込むだけの理性は残っていた。

 




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