「おはようございます」
IS学園の入学式と始業式を三日後に控えた朝、着なれたスーツに身を包み、黒塗りの車の後部座席から姿を現した青い髪をした女性に礼を失する事のない程度で社交辞令を行う。
「おはよう、そこまで堅苦しくしなくても大丈夫よ」
白の制服に身を包みネクタイを締めた彼女はそう述べる。
「そうですか。ではお言葉に甘えて学園ではそうさせて頂きます」
相も変わらず礼を失する事のない程度で返事を返す自分。可愛いげがないと自分でも思うのだが訓練で習わなかったからだろう、と思い直せば不必要として頭から排除される。余計な詮索は入れず、さぁ乗ってと言われるがままに黒塗りの車の助手席に乗ろうとしたら。
「あぁ、今日はお客様だから後部座席に乗って」
と苦笑しつつ言われ随分と警護役に慣れたと、ぼんやりとそう思った。
車に乗って数分、窓の外を眺めて重苦しい車内から逃げているとその重苦しさを打ち消すように青い髪の女性が口を開く。
「では、改めて私は更織楯無と言います。ご存知のとおりカウンターテロの更織の現当主です。学園での直属の上司となります。基本的に私の指示に従ってもらう、いいかしら」
何か言わねばと口を開く。
「国務総省国土保安庁広報課、
「織斑一夏、及び篠ノ之箒の両名で、特に織斑一夏の方をお願いするわ。二人は最初、部屋は同じになると思うけど気を抜かずによろしく。それからこれから織斑千冬に顔を会わせにいくわ、何かあったら私か、織斑先生に伝えて」
異論はない。もとよりそうして送り込まれたのだ。むしろ本分といえよう。
「わかりました。それと専用機についてですが先日、国務総省より専用機がデータ採取を目的に与えられると伺いましたが」
「ええ、そのとおりよ。因みに私は強いわよ」
だろうね。ロシア代表なら強くて当たり前だろうに。そう思っても余計なことは口には出さず当たり障りの無いことを述べる。
「一度手合わせ願いたいものです。出来ればの話ですが」
フッ、と肩の力を抜いて此方を見てにっこりと笑みを浮かべた。その笑顔は美しいと思ったが、どこかで見慣れた笑顔だった。そのまま喋り出す。
「それにしても面白い機体を要請したのね」
「面白い、ですか?」
疑問に思ったこともない、そう見せながら疑問を呈する。
「ええ、ここまで機動性重視の機体は見たことががないわ。操縦技術も大変じゃない?」
顔にでないよう訓練通りの表情を張り付け、事実に虚実を混ぜ、ごまかす。
「シミュレーションは何度も行っています。それに私の機体は戦術に通用しうるかの実戦データ採取を目的にしていますから。武装も旧世代現代兵器の延長線上に過ぎません。扱いやすさは一級品ですよ」
彼女は少し考えるふうを見せると真剣な顔をして聞いてきた。
「ねぇ、アラスカ条約って知ってる?」
当然、知ってる。正式名称はIS運用規定。ここは嘘を混ぜる必要は無い。攻勢目的の軍事兵器への転用を
「勿論ですよ。お題目に過ぎませんよ、あんなもの。抜け穴だらけでしょうに。あれは抑止力としては核以下です」
「そんな意見もあるのも知ってる。でもそれはルールよ。ルールを守れないなら信用もないわ」
自分はどうにも、此のままでは話が終わらないと感じて打ち切ることにした。
「信用とは相手が対等であって初めて成り立つものです。もうよしましょう。車内で述べる議論でもないし、これ以上は口が過ぎませんか?」
これには同意したらしくそれもそうね、と述べるとそれっきり喋りを止め車内では出発時以上の重苦しい空気に包まれた。
幾つもの交差点を右折し、左折し、直進し、二十分くらいだろうか、車は大きな揺れを関知させることなく停止した。どうやら目的地に着いたらしい。隣の更織楯無側のドアが開く。今まで沈黙を守っていた運転席の男性が口開けた。
「御当主、到着しました」
「ありがと。またよろしく」
はい、と返事をするときびすを返して行ってしまった。
車から降りて周りを見渡すと新築されたばかりと一目見てわかる大きな駅舎が見えた。鉄筋コンクリート製で頑固な作り、そして何より最近は珍しくなくなりつつある空間投影ディスプレイで表示される運行情報。確かにターミナル駅として立派だろう。学園直通の専属列車の発車も行われるこの駅では当然の処置と言える。丁度警笛をならしつつ、ホームへ滑り込んできた学園直通列車に乗り込み学園へ向かうのだ。エアーの入る音ともにドアがしまると少し内側に入り込み気密される。列車は静かにホームを離れつつあった。