鈍色の盾   作:シラー

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遅くなりました。
すいません。


砲艦外交

砲艦外交と言えば、かつてはまさしく大口径砲を持つ戦艦(バトルシップ)だった。しかし、第二次世界大戦により戦艦は軍事目的にそぐわないと廃され、変わってその地位についたのは航空母艦だった。その背景には水上戦力には水上戦力を、地上戦力には地上戦力を、という二次元的な軍事ドクトリンから、地上戦力には航空戦力と地上戦力を、水上戦力には航空戦力と水上戦力を、という三次元的な軍事ドクトリンの進化がある。航空兵力の地上、海上兵力への圧倒的優越、という点において特筆すべきは第二次世界大戦の開幕を告げた真珠湾攻撃、マレー沖海戦。そしてヨーロッパで真珠湾攻撃の半年前に起こったタラント空襲である。いずれも戦艦は航空攻撃に対して負けないとされていた各国軍事関係者の希望を打ち砕いた。それは航空機という兵器の恐竜的進化の結果であり、なにより大規模かつ無尽蔵の戦力を消耗する、総力戦へ発展していくことになる。

いずれにせよ砲艦は母艦に変わったように、空母もいつかは、()()たる役目を譲るのだろうという緩やかな想定はされていても、それが今すぐにと言うわけではないと言うのが現代のほんの十年前位の軍事関係者の希望的予測だった。しかし、希望的な予測は一夜にして木っ端微塵に砕かれることになる。世に言う『白騎士事件』によって。

一夜によって原子力空母という()()は航空機の旧式化に巻き込まれ、砲艦の地位を失ったのである。変わって()()という地位に選ばれたのはISだったのは必然だったのだろう。戦後第五世代まで開発の進んでいた航空機は、航空機をはるかに上回る機動性、と戦艦以上の攻撃力、装甲ではない桁違いの防御力などにより一躍、主力兵器の地位を手に入れた。国の目に見える力とはISの質。数が委員会の意思(意志)に分けられた以上、各国は性能を求めてしのぎを削る。奇しくも第二次世界大戦により恐竜的進化を迎えた航空機のように。

 

この日、IS学園での学年別トーナメントの前々日。フランスの日本大使館には普段はいるはずのないISが三機、展開していた。第二世代機傑作として知られる『打鉄』が三機。外遊中の外務大臣の護衛という名目で入国。そのまま空港ではなく、日本大使館へ着陸した『打鉄』はまさしく、砲艦外交のためだった。

 

「その判断は如何なる根拠の元の判断なのです? 」

 

フランスの大統領府では怒号とまではいかないが、怒りに満ちた声が上がったいた。

 

「日本が、宣戦を布告すると本気で仰有っているのですか? 大統領(プレジダン)

「そこまではいってない。紛争を仕掛けるのではないかと言っているのだ」

 

そんな馬鹿な話があるか。日本が攻めてくるならイギリスやロシアが攻めてくるほうが余程現実的だ。

 

「我々は二度とアルデンヌの森を越えさせてはいけない」

 

こいつは筋金入りの馬鹿か。外務省の高級官僚は匙を投げ捨てたくなるのを必死でこらえていた。

数年前、当時のフランス与党から政権を奪い、ISの開発を挙国一致で強行した現在の与党はもはや内患でしかなかった。主力ISの開発のため、限られたリソースをフランス最大のIS企業、デュノア社につぎ込んだ結果、傑作機として名高い『ラファール・リヴァイブ』を開発。しかし、第二世代機()()()というおまけ付きだった。世界は第三世代機開発に躍起になっているなか、完全に潮流に乗り遅れたフランスは、所得格差の増大、IS産業への過剰投資と行き過ぎた優遇による中小企業の倒産と相次ぐリストラ、更に就業労働者の減少による税収の悪化とそれにともなうコストカットという手段は行政サービスの著しい低下を招き、国民の不満という目に見えない形で蓄積されていた。三重奏以上の不協和音を奏でるフランスは、遂に一線を越える。

具体的には不満を外にそらすという古典的な方法がとられるが、それは国内のナショナリズムの高揚という、一歩誤れば手が付けられなくなる危うい綱渡りであった。

 

「どこまで怯えているのですか。大統領(プレジダン)、いいですか。日本のISの無通告入国はいわば砲艦外交と同じです。無闇に怯える必要はない」

「しかし、ドイツとの国境地帯にも数機のISの展開が確認されている」

「ドイツがフランスを本気で攻めてくると!! 大統領は冗談がお上手ですな。こんな状況で我が国を攻めれば今度こそドイツという国が地上から消し飛びましょうな」

 

世論という大義名分を獲得した政府はまず始めに友好国兼潜在的競合国、イギリスへ喧嘩を吹っ掛けた。即ち英仏海峡トンネル封鎖の示唆である。イギリスはこれに過敏に反応した。大動脈と言える英仏海峡トンネルは『イギリスの国益』を『ヨーロッパの公益』に見事にすり替えたイギリス政府によりイギリスの勢力圏へ落ちた。報復措置は苛烈だった。対仏同盟と言われる実質的な経済制裁はじわじわとフランス経済を痛め付けていた。

 

大統領(プレジダン)、いいですか。例え威圧を伴う砲艦外交であろうと、交渉に臨むのが外交の本分です。我々はこのままでは完全に孤立しますよ」

「我々に味方は……」

(誰のせいだ)

 

恐怖からか言葉の続かない大統領に心の中で毒づく。

隣国(ドイツ)はこの時、東からの巨大な圧力に押し込まれていた。最大の仮想敵、ロシアの動向である。

ロシアは昔から続く伝統的な政策である南下政策をかつてない以上に強めていた。ヨーロッパにおいてこの圧力を直接受けたのは帝政ロシア時代からの因縁であるトルコと、ソ連時代の領域だったウクライナ、同くソ連の支配下にあったバルト三国、そして冬戦争、継続戦争と二度に渡りソ連と砲火を交えたフィンランドだった。ドイツは直接的な圧力を避けるというドイツの国家理性に従い、この諸国を中心に東欧一帯に軍事的、経済的援助を大規模に行うことで安定化と強化を行い、東からの防衛線としていたのである。ドイツにとってフランスの不安定化というのは戦争が勃発した場合、背中を任せる事の出来ないということで二正面作戦を強いられる危険が飛躍的に高まるといえた。

ドイツからしてみれば東西に別れた時代を思い浮かべさせるには十分で、もし戦争が勃発し、もし敗北した場合、今度こそドイツという国は地図から消し飛ぶだろうという恐れがあった。だからこそ、ドイツはフランスとイギリスの間を取り持とうとしたのだ。

 

「我々の不安定化はヨーロッパ全土に火の粉を巻きかねないのです。だから今は日本の要請に従い、協調路線へ舵を切った事を内外に知らしめる必要がある」

「しかし。我々には前科がある」

 

大馬鹿野郎共め。お前たちがドイツの手を振り払ったから。

外務官僚として忸怩たる思いがあり、それはなによりも重いが過去を強引に振り払う。向くべきは現在で過去は反省に使うべきだ。開き直りの出来ない大統領に侮蔑を向けるが、政府の暴走を止められなかった我々も同じ穴の貉だ。くそ野郎。誰か変わってほしいくらいだ。今なら解決すれば昇進間違いなしの外務案件や不満の高まる国民政策まで無料でつけてやるのに。

どうしようもないほどの諦めとそれによる思考の放棄。それが今のフランス政府の実態だった。

 

ナショナリズムの高揚によって良くも悪くも一本化された国民の意思は、及び腰になった政府を追い込んだ。

アメリカは我関せずを貫き、モンロー主義に逆戻りしつつあるため期待はできず、イギリスはほぼ対立状態、スペイン、ポルトガルはイギリス寄りの中立主義でフィンランドなどの北欧諸国は対ロで精一杯。援助を求めてアメリカやイギリス、ドイツへの依存を深めフランスは外交的にほぼ孤立した。二正面作戦を避けるためフランスとイギリスの間を取り持とうとしたドイツの外交政策はフランスによって蹴り飛ばされた。理由はドイツが傲慢に()()()から。そんな理由で差し出した手を蹴り飛ばされたドイツとの関係は一気に冷え込んだ。ドイツはドイツでフランスが頼りにならないと見るや否や、独自に決戦兵器の開発に尽力することになる。勿論、非公開かつ、無関係を装って。これが新しい火種を作ることになるとは当事者(ドイツ)さえ考えていなかった。

ともあれ追い込まれたフランスは窮鼠猫を噛むように一撃に賭ける。IS学園への生徒派遣である。

候補のデュノア社社長令嬢を、反対するデュノア社に、業績悪化と第三世代機の開発遅延を表向きの理由に、IS開発権の没収をちらつかせ強権的に性別を偽装。やむなく断固反対を消極的反対に切り替えさせると大統領の特命で学園へ送り込み、織斑一夏の情報獲得を目論んだのである。

男女という言葉の意味を引き直すべきだという官僚の叫びを無視して行われたそれは、数日で露見した。フランスの醜態として。本当に掴んだのは現時点で日本だけだが、どこもその知らせで溢れるまで時間がない。失態をを隠そうと大統領へあげる情報が遅れる。その遅れは判断の遅れを招き、結果的にフランスという国家そのものを危機にさらしていたのである。

 

 

 

幾日か過ぎたドイツ。連邦情報局の一室では、フランスの数日前と似た話し合いは紛糾していた。しかし、内容は全く異なっていたが。少なくとも保身を第一とするそれは人間の性なのだろう。

 

「だからやめろといったんだ」

「お前たちも賛成したじゃないか」

「我々はロシアに対応するための兵器開発は承認したが、国際条約に触れる物を誰が作れといった」

「ふざけるな!! そんな言い逃れが許されると思っているのか」

 

欧州の一国で行われた子供じみた応酬はそれだけ切羽詰まっているドイツの状況を端的に表していた。

IS学園での学年別トーナメントで発生した、条約に触れる兵器の開発と実機への搭載。露見というより披露してしまったといえる騒動は激震より激動を伴ってドイツという国に襲いかかった。

 

「各国からの情報公開請求は止まることを知らない。もはや知らぬ存ぜぬは通じん」

「だが、研究が事故に遭うことはある」

 

ニヤリと黒い笑みは周りの人間をおののかせるほどには狂気が少なからず入り交じっていた。

 

「しかしこのタイミングは流石に……」

 

躊躇いがちなその声は小さくしぼむ。

 

「証拠がなければいい。残りは責任をフランスへ転嫁だな。あとは任せる」

 

その声で紛糾していた会議は終わり、一目散に駆け出した。一刻も早くこんな場所から抜け出したいという気持ちを代弁するように速やかかつ、可及的に去っていった。

 

「あとは米国がどのように動くかだな」

 

小さな声は一人しかいない部屋に吸い込まれた。

 

 

 

学年別トーナメント初日のIS学園では『VTシステム』の事件は秘匿された。表向き、搭載されていたシステムの暴走という事で責任をすべて押し付けたのである。まぁ事実を見ている者と知る者が少ないからこそ押し通せた訳であるか。さらに、それを見たごく少数の生徒も、繰り返し言われた目の錯覚、疲労、炎天下だから陽炎がでた。などと言われれば、そう信じてしまえる。洗脳に近いその手段は少なくともIS学園では出来ることではなかった。

結局『VTシステム』の責任はドイツにあるわけでIS学園は表沙汰にしない代わりに、莫大な補償金を支援に託つけてぼったくったのである。




学園が一切出てこなかったです。
感想、講評お待ちしてます。
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