鈍色の盾   作:シラー

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遅くなって本当にすいません。しかも少ないです。
次のビーチの話は丸々カットします。
いきなり福音戦に繋がります。ご容赦ください。


亡国、動く

今の時間は午前七時。IS学園は丁度朝食の時間であり、騒がしい会話が響く頃合いだが、食堂は沈黙が満たしていた。

 

『昨日、ドイツ南部にあるIS研究所がテロにより、破壊されました』

 

ニュースの内容は繰り返し流れている爆破の瞬間を捕らえた映像だ。

一度轟音が響き、その後可燃物に引火したのか、次々と爆発音が繰り返している。昨日、日本時間午前二時に発生した爆発事件に対してドイツ当局は、IS研究施設であることを理由に事件直後にテロと断定した。あまりに強引な展開に情報開示請求や監査の受け入れを突きつけていたどこの国の情報機関は眠れぬ夜を過ごしたことは間違いない。特にIS学園に関する安全確保を大義名分に強く出ていた日本は焦った。ドイツの首根っこを押さえつけられる切り札が燃えてしまったのだから。

作為的なタイミングに、どこも現場への侵入と証拠の確保を目論むが、事前に待機していたのであろうドイツ連邦情報局(BND)が素早く封鎖してしまえばどこの国も手を出すことは出来ない。さらに連続テロへの警戒を理由に各国大使館に警備という名前の監視と安全確保を理由とする移動式バリケードまで展開されてはスパイ活動は不可能だ。用意周到に組まれたドイツによる大規模は防諜作戦(カウンター・インテリジェンス)は見事だった。

 

眠れなかったのは聆藤も例外ではなかった。第一報が入ると同時に、非常通信回線を通して夜中に叩き起こされ、ドイツ代表候補生の監視に従事することになった聆藤は全く眠っていなかった。夜中に織識一夏の部屋に入ってきた時は大いに焦り、突入も覚悟したが、結局大したことはなくそのまま朝を迎えたのである。眠い目をこすり、目覚まし代わりに濃いコーヒーをイッキ飲みした。カフェインではなく、その苦さで目を覚ます。そもそも対薬訓練を受けているため、アルコールやカフェインは効きにくいのだ。

ドタバタと少なくとも複数人が食堂に駆け込んでくる。どうやら織識一夏達は昨夜の事件を知らないらしく、騒がしい彼らを放っておいて聆藤は食器を手早く片すと、報告と連絡事項を頭でまとめながら、更識のいる生徒会室へ足を向けた。

 

 

朝のSHL(ショートホームルーム)では遅刻しかけた織斑がISを部分展開させたシャルロット・デュノアと共に教室に滑り込んできたため、出席簿で殴られる事があったことを除けば、おおむね予定通り進んでいった。

 

「来週から始まる校外特別実習について説明する」

 

その一言で騒がしかったクラスは静まり返る。楽しみを今か今かも待つ子供のようにそわそわした空気は分かりやすい。聆藤としては警備のために打ち合わせをしなければならないだろうし、展開する部隊も大騒ぎだと思う。頭の上から足の先まで平和な連中の守備範囲は、けた違いに広くなるだろう。上は上をどう納得させるのかでもめるのはおそらく間違いない。最も揉めるのは上の仕事で、聆藤には直接関係ないことでもある。

IS学園毎年恒例の郊外特別学習とは、要するに臨海学校である。例年太平洋に面した孤島を貸し切り、周辺空域を飛行禁止区域を定め、ISの装備試験を行う。各国が各々でやれば収集が付かないからというのは、提唱した委員会の大義名分で、本音は各国がどんなISを開発しているのか、情報を得るためのものである。理解し賛同した国は、中小国が基本で、大国と呼ばれる、ISを独自開発できる国は嫌がっているのだ。だからこそ臨海学校という便宜上の呼称は、内実が骨抜きにされた郊外特別学習であることを嫌でも理解させる。

だからといって警備を甘くできるわけでもなく、金を出さないのに、声だけは大きく、人を回そうとする委員会は国務総省からあからさまに嫌われていた。

 

 

織斑一夏の護衛という職務上、聆藤彰等にとって休みはない。たまには休みがほしいと思う。これが本当の年中無休のブラックだと思うが、どこの情報機関だって同じことだ。炎天下のなか指定されたスーツを、上着とネクタイこそ着けていないが、暑い服装でまたされていたのもあったのかもしれない。聆藤は不健全で不必要な不快を無意識のうちに貯めつついた。それは冷房の効いたショッピングモールでも同じだった。だからこそ、織斑を後ろから尾行もとい警備するため、単独行動中の聆藤は不意に声をかけてきた同僚に対していささか以上に陰険な声を返してしまった。

 

「なんだ」

 

優しさというものを欠片ほどもない返答に答えに窮したのか、小さくため息をついたのは、河村明日香だった。

学園の外に出ると言う織斑に対して警護がつけられるのは当然だが、それは多分に漏れず厄介な案件だった。

本来警護は対象者が注意をしていなければ、どれ程警戒していても危険だ。だから対象者に危機を喚起し、双方の信頼関係を気づいてから行うのがセオリーだった。だが、織斑や篠ノ之には危機であることを一切伝えず、秘密裏に警護すると言う極めて珍しい、極めて例外的な案件だと言える。

聆藤もそれに漏れず、今日は河村と恋人役を演じろと言われていた。

 

「あれが織斑君(対象者)? 」

「そう。一緒にいるのは例の未遂犯(フランス代表候補生)。ちなみに回りにいる怪しい影は、それぞれドイツ、イギリス、中国の候補生達」

「厭きもせずよくいるね。あれが本当のハーレムってやつ? 」

「さあ知らん」

 

適当な返事をする聆藤に対してほらっ、といって渡されたのはペットボトルに入ったお茶だった。躊躇いは少ないが、一息でふたを開ける。閉まっていた感覚を感じて未開封であることを確認するとそれを喉に流し込んだ。ようやく流し込まれた液体は思いの外喉が乾いていたらしい聆藤の喉を潤す。一息ついていると耳にいれたイヤホンから声が聞こえた。

 

『織斑千冬と山田摩耶の二人の入店を確認。各員は警戒を継続せよ』

 

一斉通達は此方から切れない。無秩序に近い形で流れる声は河村にも聞こえるのは当然だが、聆藤はその後の河村の発言に驚いた。

 

「沸いてきたわ」

 

虫かなにかじゃあるまいし。という聆藤の呟きは聞こえたか定かではない。確実なのは河村明日香という人間は思いの外辛辣な表現をするということだろう。ともかく、警戒を継続させられる警備班の不満は溜まる一方だ。そして、緊張が緩みかけつつある中で事態は動くということはよくあることだと言える。

 

聆藤が別の対象を見つけたのは、ほぼ偶然だった。目を切ること無く、されどもあからさまに見ないように警戒しつつ動きを見る。

「なぁ、河村」という声は同じタイミングで聆藤にかけられた言葉によってよく聞こえなかった。

 

「私、手配を見つけたんだけど」

「奇遇だな。俺も見つけた。奴等がいるな」

「嫌な奇遇だね」

 

袖口に仕込まれたイヤホンマイクを聆藤は口許に当てて、本部への指示を乞う。

 

「スズラン05より本部へ。亡国を二名確認。そちらで確認できるか」

 

『スズラン』谷間の姫百合とも言われるこの花の花言葉には程遠い、陰謀が覆うこの作戦は少なくとも作戦コードには相応しくないとも思う。下らない考えを悟られたのかは分からないが返答はすぐだった。

 

「こちら本部。確認した。手出し無用。監視に徹せよ」

 

無茶を言う。そう思ったが上官には逆らう理由はない。何かあれば躊躇わず撃つ。小さな覚悟は後ろの河村にも伝わったらしい。何事もなかったかのように恋人役を続ける彼女に小さな戦慄を感じた聆藤だった。

 

三十分ほどたって三十分ごとの定時報告の時間を迎える。片手にスマホを握っているのをめざとく見つけた河村は、「中間、私が入れようか? 」と聞いてきた。短く「頼む」とだけ伝え織斑の周りを見る。本人を見ると気が付かれるからというのは、警護でよく言われることで周りで動く人間を見ていた聆藤は思わず、定時報告の最中の河村の肩を叩いていた。

最初は驚きに満ちていた河村もその目と後ろの手配人をみて動いた。

 

恐らくバレていたのだろう。亡国は織斑を狙うのではなく、その警護をみていた。手が出せるかどうかを探っていたのだろう。あとからみればそれは結果論と言うもので、そのときは追いかける方向に力を入れるのは当然だった。

最初に動いたのは河村だった。早足でショッピングモールの外を向かう。駆け出さなかったのは最後の自制心だったのだろうか。聆藤もあとを追いかけ、駐車場へ向かう人影をおう。別班も後を追いかけてきたらしく向かった方向を聞いてくる。残っている班もいるだろうから、ほとんど気にせずにいた。だがすぐさま車を出して追いかけたいが、車は遠い。狙撃手の展開は間に合っていないらしいし、ほぼ無駄足になるのは間違いない。思わず舌打ちするがなにもなかったことをよしとするべき。その程度の理性は残っていた。

 




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