鈍色の盾   作:シラー

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遅くなってすいません。
戦闘は難しいですね。


初戦

軽やかに奏でる光の嵐は致死量以上の殺意を持って織斑に襲いかかった。咄嗟に身を捻ってかわしたが、体勢を崩してしまっている。暴走したと言うISは、AI制御に切り替えられたらしく、容赦なく織斑を追い込んでいく。

 

「このやろっ!! 」

 

『ブルー・ティアーズ』の比ではない弾幕は織斑の機動を縛り、確実に削り取る。篠ノ之箒が数時間前に手渡された第四世代IS『紅椿』さえ搭乗者の経験不足からか、牽制で動きを封じられていく。

高高度からの奇襲であったはずの第一撃を回避されてからというもの、明らかに重石にしかならない二人を抱えての戦闘は些か以上の無理があった。

高高度から逆落としのように襲撃した織斑、篠ノ之ペアにたいして海面を這うようにステルス機能を最大最大にして目標への第二擊を目論んだ聆藤は織斑の一撃から逃れて見せた『シルバリオ・ゴスペル』に向けて近距離からの射撃を試みたが、突如射線に割り込んできた篠ノ之によってその間合いで仕留めることができなかったのだ。

その後は四機が入り交じる大乱戦にもつれ込んだのは必定だったのだろう。

 

「ぐぇっ!!」

 

突然背中から引き摺られた織斑が情けない声を上げた。聆藤によって強引に後ろへ飛ばされたのだ。背部のスラスター部分に引っかけられたワイヤーアンカーは、『九試甲戦・改』から放たれたものだった。ラウラ・ボーデヴィッヒの『シュヴァルツェア・レーゲン』のワイヤーブレードのように追尾能力などはない、直線にしか飛ばないロケットアンカーだが、聆藤の卓越した射撃能力と高性能な射撃照準装置のお陰で、『銀の福音』の射線上に自ら割り込んだ織斑を砲火が貫くより先に捉えると、そのまま遠心力で放り投げたのだ。その結果、一番前に出てしまった聆藤は『銀の福音』の攻撃目標として捉えられる。しかし無数の砲口が火を吹くより早く、『銀の福音』は背中を見せた機体に狙いを定めていた。

 

「一夏っ!!」

 

聆藤は咄嗟に放り投げられた織斑を追って背中を見せて後ろに下がる篠ノ之と『銀の福音』との射線に強引に割り込んだ。

 

「馬鹿野郎!!」

 

怒鳴っても聞こえたかどうかわからないが、後ろに篠ノ之を庇っているため逃れることが出来ない聆藤はその一撃の直撃を甘んじて受けた。両腕のシールドを前に出して庇ったとはいえ、すべては防ぎきれずその衝撃は聆藤の脳を激震として襲いにきた。

爆発の閃光と爆音が目と耳を覆い尽くし、感覚を麻痺させた。遅れてやってきた衝撃は確実に聆藤の脳を揺らし、平衡感覚を狂わせる。一瞬後に焦げ臭いような臭いが鼻孔を通じて雪崩れ込んできたのを感じ消えかけた意識が戻ってきたのを自覚した。

咄嗟にシールド内の機銃を出鱈目にばらまき、追撃から逃れて体勢を建て直そうとするが聆藤の脳は冷静に状況を見極めていた。

これ以上は不可能であると。

 

「お…む…、……之。撤……しろ!! こ…以上は……能…!!」

 

唐突に通信が通じにくくなったのは果たして偶然か。そんなことも考える余裕を奪うように突貫を仕掛ける二機をみて聆藤は愕然というより呆然としてしまったのはやむを得ないことだったのだろう。

 

左右に展開し相互に攻撃を打ち込み、隙を作る。古典的で普遍的だがだからこそ効果的だった。第四世代機というスペック上は最高の機体の攻撃は『銀の福音』の迎撃能力を飽和させるに至った。聆藤は完全な隙を見せた『銀の福音』は背後から襲いかかった『白式』の攻撃が直撃する瞬間を幻視した。

 

何の前置きもなく、急降下した織斑を見送った聆藤はその視線の先に船舶を見つけた。船尾の所属漁港を示すマークも数字もない船舶にたいして聆藤は『不審船(領海侵犯)』の文字が浮かんだがその余裕はすぐさま消え去った。なにかを話しているらしい織斑と篠ノ之は『銀の福音』の攻撃に気がついてない。戦場であることを忘れた大馬鹿者を守らなければ。お目付け役である以上、その職務を果たさねばならないと割りきり、団子になっているの二機に向かいつつ『銀の福音』に射撃を叩き込んだが砲口であり、スラスターであるそれは所定の性能を発揮して鮮やかに回避する。先に言ってからという余裕はとっくの昔に彼方に去り、聆藤は割り込むのではなく、二人まとめて蹴り飛ばした。無茶だが無謀ではない力業は『白式』と『紅椿』のPIC制御を振りきり海へ叩き落とした。

 

「なに…す…るっ!!」

 

逢瀬を妨害され激昂したのか、それとも蹴られたことに激昂したのか、どちらか定かではないが声を途切れ途切れに荒げる篠ノ之の声をBGMに無言で離脱の援護を開始する。機銃の乱射は回避され、誘導弾は端から打ち落とされる。機体性能の根本的な差は大きく、更には対人戦闘ではないAI制御の敵は最初より明らかに動きが良くなり、不利であるのは目に見えてわかった。簡単な罠に引っ掛かっていたのは最初だけであとは確実に成長していく『銀の福音』に連携のなっていない()()()チームの聆藤達は振り回されてばかりだった。冷徹なAI制御では人間相手で通じた手段が確実に封じられ、ジリ貧になりつつあることを自覚した。それでも任務なら確実にこなす。服従を求められる軍事組織に属し、それ故にいつもと変わらない冷静さはいつでも求められる。

なら、いつもと同じだ。冷えきった思考は冴え渡り、聆藤は『銀の福音』という皮肉な名前をした悪魔に対峙した。

 

 

 

 

その日、日本という国家の一部の上澄みだけが大きな揺れに震えていた。その下にいる多くの国民は未だその事態を知らない。

織斑はそんな事実を知らされたのも自分がISを操れるからで暴走したISの行方に自分達がいたという偶然に過ぎないと思っていた。聆藤が突然割り込んできて、掴み合いになるまでは。

 

「お前は出るな。これは決定だ」

 

遠慮の欠片もない口調のそれは発言でも意見でもない。命令だった。

事は少し前に遡る。

 

臨海学校の本来の目的。機体各種の試験装備実用データ採集を目的とした起動実験は突然割り込んできた篠ノ之束博士によって篠ノ之箒の専用機お披露目会に切り替わってしまった。それにさっきまでビーチ近くの駐車場で待機していた聆藤は専用機持ち集合の指示に反してその場にはいなかったが織斑にはその理由がわからなかったしその理由を周りに聞こうともしなかった。周りはわかっているだろうと思い込んで誰もなにも言わなかったのだが、そこまで察することができる者はその場にはいなかったし、いてもなにも言わないのには変わらなかった。

突如としてばら蒔かれたミサイルを苦もなく落とす第四世代機におぉ~と感心していると青い顔をした山田先生が駆けてくるのが織斑には見えた。

 

「たっ、大変です!! 織斑先生!!」

 

これを見てください、といって手渡された小型端末は織斑千冬の表情を著しく曇らせた。

 

「専用機持ちは全員集合。厄介な事案が起きた」

 

小さく吐き出されたその言葉は、厄介で済みそうにないことを暗示させていたのかもしれない。

 

「簡潔に伝える。米軍からの連絡によればアメリカの第三世代試作機が本日、暴走した。既に制止を試みた米軍艦艇二隻沈められ、航空機十三機が落とされたらしい」

 

絶句した織斑や篠ノ之に対して落ち着いて聞いているように見えたのはラウラ・ボーデヴィッヒだけだった。続く言葉に織斑は絶句よりも恐怖を先に感じたのか、目が揺らいでいた。

 

「既に死者も出たとの報告もある」

「米軍から直接の連絡ですか? 」

 

本来、大使館経由が正規ルートであり、また米軍から在日米軍経由で情報が上がってくることはあっても米軍本体から来るのは些か不自然だ。その違和感を感じたラウラ・ボーデヴィッヒはさすがに軍人だった。

 

「そう。現在米国政府は大混乱の最中にある」

「日本、いや国務総省は? 」

 

冷静に状況を見極め、現在の日本を動かしているのが国務総省であることを前提とする質問に織斑千冬はラウラ・ボーデヴィッヒの評価をひとつ改めた。

 

「既に大荒れだそうだ。官邸を放置して出動準備体勢を取っている。動くかもしれない」

「わかりました。ならばあまり余裕はない。具体的な作戦に移りましょう」

 

前提が、視点が違う。織斑はようやく理解した。自分が流れに任せていたのに対して、ラウラ・ボーデヴィッヒはこれが純粋な軍事力の行使ということを理解している。今まで経験した事件とは比ではない。明白な実戦で、なによりひとつ間違えば戦争になりかねないデリケートな事案に関わっているという自覚の差を感じた。

そうして始まった作戦会議は唐突に遮られた。さっきまで居なかった聆藤によって。

 

「国務総省の正式な決定をお知らせします。我が国は本事案に対して実力を以て排除することが決定されました。ついてはIS学園特記事項第5()6()項。『IS学園の対応する必要のある特別の事案が発生した場合、その指揮及び監督権は当該国の管理するものとする。委員会及び学園の決定は当該国の決定を妨ることは出来ない。なお第21項の内容に対して本項は優越するものである』。以上に基づいて我々が以後を管轄いたします。ご理解下さい」

 

感情の欠片もない冷たい声に呆気にとられた面々のなかでもっとも早く戻ってきたのは織斑だった。

 

「なんだよそれ!! 特記事項は55個のはずだろ!! 」

「十五分ほど前に国連安保理が可決、委員会に要請して追加された。手続きは正式だよ。一時的なものなら総会を通さずとも問題ない。特例として事務総長が認めた。それに、委員会はあくまでも国連の諮問機関だ」

 

取って付けたようではない、理論的な反撃に沈黙した織斑にかわって噛みついたのはラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「日本は単独で阻止できるのか? 」

 

簡潔で核心をついた質問に聆藤の口調は、滑らかさを少しも失っていなかった。

 

「少佐。既にドイツ政府よりあなたは一時的に我が国の指揮下に入ってもらいます。よろしいですね」

「なんだと」

 

愕然としたラウラ・ボーデヴィッヒを放置して聆藤は織斑千冬に向き直る。

 

「ですのであなた方は直ちにご避難下さい。直ちに」

 

あえて重ねたのは皮肉か、それとも本心か。それでも言葉を重ねた聆藤の声に重みが混じり、穏便に説得というストッパーが消えたのをシャルロット・デュノアは敏感に感じ取った。それに応じた織斑千冬は最初から喧嘩腰だったといえる。

 

「それは認められない。IS学園は本事案に対して先に対応するよう指示が来た。」

「だからその決定は覆りました。我々の指示に従っていただきたい」

 

それに対して返した言葉は超然としていた。

 

「法の不遡及(ふそきゅう)に基づいて拒否させてもらう」




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